凍てつく大地と精霊の息吹⑤
登場人物
カケル
種族:人間
主人公。異世界に召喚された青年。
リリア
種族:サキュバス
魔王アビスの側近。カケルの監視役でもあり案内役。
セレナ
種族:メデューサ
アインベルグ魔法学院を主席で卒業し、主に攻撃魔法を得意とする。
ヴァネッサ
種族:ヴァンパイア
とある古城に独り住んでいた。幻術・護身術を得意とする。
ライア
種族:リザードマン
流浪の剣士。エルザとは幼馴染。
エルザ
種族:サイクロプス
鍛冶職人。ライアとは幼馴染。
エリシア
種族:エルフ
精霊と心を通わせたり、精霊の力を行使できる。
トーラ
種族:ミノタウロス
ヴァルハールの町の自警団に所属。肉弾戦が得意。
もう危険はない――そう判断した俺達は、再び広間の奥へと視線を向ける。
そこに立ちはだかるのは、氷と雪の紋章が刻まれた重厚な扉。
「この先に…氷雪の精霊が」
エリシアが小さく呟き、女王から託されたハープをそっと取り出す。
その指先は、寒さではなく、これから対面する存在への緊張でわずかに震えていた。
「……行くぞ」
短く声をかけ、全員で頷き合う。
俺は両手を扉にかけ、ゆっくりと押し開いた。
この先に、氷雪の精霊がいるはずだ。
中は息を呑むような静けさに包まれ、空気が薄く、呼吸のたびに肺の奥まで冷たさが染み込んでくる。
中央には、巨大な氷の結晶がまるで心臓のように、ゆっくりと脈動していた。
透き通るはずの結晶はどこか濁り、表面には蜘蛛の巣のような亀裂が走っている。
そこからはゆらゆらと煙のように冷気が漏れ出していた。
吐き出される度に空気が重く、冷たく、鋭くなる。
「…これが、氷雪の精霊の核」
エリシアがそっと女王から託されたハープを抱き、柔らかに弦へ指を滑らせた。
張りつめた空気の中、最初の一音が広間に溶け、氷の壁を伝って澄んだ響きが波紋のように広がっていく。
すると精霊核が白煌を発し、凍てつく空気がゆるやかな潮のように押し寄せる。
思わず身構える俺の視線の先で、エリシアは微動だにせず、ただ音色を紡ぎ続けていた。
その瞳は、どこか遠くを見つめている。
光に照らされた頬が、驚きと戸惑い、そして深い悲しみに揺れるのが分かった。
何が見えているんだ……?
俺には、ただ冷たく美しい旋律と、核の光の脈動しか感じ取れない。
けれど、この瞬間、彼女だけが精霊の奥底に触れているのは確かだった。
音が途切れることはない。
エリシアはまるで誰かと言葉を交わしているかのように、指先で弦を撫で続けていた。
やがて最後の音が消え、広間に沈黙が訪れた。
エリシアはしばし目を閉じたまま立ち尽くし、深く息を吸ってからゆっくりと瞼を開く。
「…わかりました」
その声はかすかに震えていたが、どこか決意を帯びていた。
俺達の視線が一斉に集まる。
エリシアはハープを胸元に抱き直し、小さく頷いてから言葉を紡ぎ始めた。
「精霊様は…長き年月、この地を寒さから守り続けてきました。でも、その代償に“核”が摩耗してしまったそうです」
彼女の瞳には、さっき見たであろう記憶の痛みが宿っていた。
「核が削られ続け、力の流れが乱れ…精霊様はもう、自分の力を完全には制御できない。だから…あの吹雪や寒波が絶えず起きているのです」
俺は唇を噛む。予想はしていたが、やはり精霊自身が原因だったのか。
だが、エリシアはさらに言葉を続ける。
「精霊様は、このままだと…この地がすべて氷に覆われてしまうと仰っていました」
エリシアの声は、氷の壁に吸い込まれるように小さく響いた。
「そんな!どうすればいいんだ?」
「それは…」
思わず問い詰める俺にエリシアは、言葉を探しながらも視線を伏せ、声を小さく濁した。
その指先がわずかに震えているのを見て、俺は胸の奥に不穏な重みを覚える。
次の瞬間――精霊核が、鈍く脈動するように輝きを放った。
床や壁の氷がきしみ、ひび割れの音が広間全体に響き渡る。
氷が砕け、無数の光の粒がふわりと舞い上がった。
その光の中から現れたのは――人の形をした存在だった。
長い髪は雪のように白く、透明な体表には無数の亀裂が走っている。
その凍気に溶ける呼吸は痛みと狂気を孕み、その瞳は俺達を見据えながらも、どこか虚ろで焦点が定まっていなかった。
「……あァ……すべて……凍りつけ……」
掠れた声は、氷の刃のように鋭く、底知れぬ寒気を伴っていた。
「これが…氷雪の精霊!?」
思わず息を呑み、俺は闇の剣を強く握り直した。
「――アァァアアアァァァァッ!!」
精霊は天を裂くような絶叫をあげ、広間全体に氷嵐が巻き起こる。
凄まじい寒気が肌を刺し、視界を白く染め上げた。
その中で、精霊の周囲に無数のつらら状の氷が形成されていく。
鋭く尖ったそれらは、まるで意志を持つかのように俺達へ狙いを定め、一斉に射出された。
「くっ――!」
俺は剣で氷を弾き飛ばし、リリアは魔力を帯びた蹴りで氷片を粉砕し、トーラが拳で砕き散らす。
そうして俺達は背後にいるエリシアを守る壁となり、迫りくる氷雨を必死に凌いだ。
「精霊様っ!どうか、我らの声を――!」
エリシアの叫びが、嵐を切り裂くように轟いた。
すぐさま彼女は再びハープを抱え、その弦を震わせ始めた。
澄んだ音色が、氷壁に反射して幾重にも重なっていく。
俺達は防御を崩さず、エリシアの奏でる旋律に賭けて耐え続ける。
精霊はなおも氷の刃を生み出して暴れたが、その動きの中に、ほんの一瞬のためらいの影が差した。
チャンスか…?そう思ったが、俺は踏み込めない。
今はただ、背後で奏でられる旋律に賭けるしかなかった。
エリシアは精霊の声を聴いているのだろう。
その瞳が揺れ、口元がわずかに揺らいだ。
「…そんな、そんなこと…」
弦を弾く指が止まり、音色が途切れる。
「エリシア、なんとかならないか!?」
俺が叫ぶと、彼女は苦悩に顔を歪め、ほんの一瞬、迷いの色を浮かべた。
だが、やがて瞳に決意を宿し、背から光の弓を取り出す。
「…精霊の核を――解き放ちます!」
彼女は震える手で弦を引き絞り、白く輝く矢を精霊核めがけて放った。
光の軌跡が氷嵐を裂き、一直線にその中心へと突き進んでいく。
そして、精霊の胸元にみえる核の中心へと吸い込まれるように突き刺さった。
轟音とともに白煌が広間全体を包み込み、吹き荒れていた氷嵐が一気に押し流される。
耳を打っていた風の咆哮が途切れ、氷の刃が力なく床へと落ちて砕け散った。
精霊の体を覆っていた狂気の色が、ゆっくりと薄れていく。
ひび割れだらけの透き通る体表が輝きを帯び、
その掠れた吐息からは、もはや痛みではなく、安堵のような温もりが感じられた。
虚ろだった瞳がわずかに揺れ、そこに宿ったのは穏やかな光だった。
俺達は息を詰めたまま、その場から一歩も動けなかった。
戦いの余韻と、何か大きなものが終わったという静けさが、胸の奥に広がっていく。
「…どうして核を?」
問いかける声は、無意識に抑えていたのか、自分でも驚くほど低く響いた。
「…精霊様は、もう長くは持たないと……。だから…ご自身の意思で、解放を望まれたのです」
エリシアの声は震えていたが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
「最後まで、この地を想っておられました…私達の手で、安らぎを与えてほしいと」
その言葉に、胸の奥が重く締めつけられる。
「でも、そんなことしたら…加護が得られなくなるんじゃないの?」
リリアの問いに、エリシアははっきりと首を横に振った。
「その心配は…ありません」
「なんでそう言い切れるんだ?」
トーラが訝しむように片眉を上げる。
エリシアは答えず、ゆっくりと精霊核へと歩み寄った。
氷の結晶にそっと手を添えると、微かな灯火が彼女の指先から核へと流れ込む。
まるで長年の友に別れを告げるような、慈しみに満ちた仕草だった。
「……眠ってください。あなたが守ってきたこの地は、必ず私達が引き継ぎます」
彼女の祈りのような声に呼応するかのように、核はかすかに脈動を返す。
やがて、核の内部からきらきらと輝く氷片がほろほろと舞い上がる。
冷たいはずのその光景が、不思議と温もりを感じさせた。
最後の瞬間、核は儚く砕け、その中心に手のひらほどの小さな結晶の蕾が残った。
その蕾は、かすかに生命の鼓動のような震えを見せている。
「…これは?」
俺が呟くと、エリシアは小さく頷いた。
「精霊様が残してくださった、新しい命の種子です。いつの日か、この地を守る新たな守護者が芽吹くでしょう」
俺達は誰も言葉を足さず、その小さな蕾を見つめた。
戦いも、別れも、そして未来も、すべてがこの空間に凝縮されているように思えた。
やがて、誰ともなく歩き出す。
広間を後にし、氷の聖域の入り口へ戻ると、外の空気は驚くほど澄んでいた。
先程まで耳を打ち続けていた嵐の唸りはなく、視界には穏やかな雪景色が広がっている。
「…精霊様の最後の加護です。この力が残っている間、もう寒波や吹雪に怯える必要はないでしょう」
エリシアの声は、張り詰めた空気に溶け込むように柔らかく響いた。
雪原を渡る風は、今や優しい囁きに変わり、頬を撫でるだけの穏やかさを帯びている。
俺達はその景色を胸に刻み込み、ゆっくりと歩き出した。
◇ ◇ ◇
雪原を越え、穏やかさの中を歩くうちに、王都シェリザーンの城門が見えてきた。
体は疲弊していたが、その光景を目にした瞬間、全員の足取りは少し軽くなった。
城門の兵達は驚きと安堵の入り混じった表情で俺達を迎え入れ、すぐに女王のもとへと案内した。
玉座の間の扉が開かれると、そこには玉座に腰掛けた女王イゼリアが、まるで待ち望んでいたかのように姿勢を正していた。
「お戻りになりましたね…氷の聖域では、何があったのですか?」
慎ましくも奥底に緊張を孕んだ声。
俺は一歩進み出て全てを語った。
氷雪の精霊が長年の加護の代償として核を摩耗させ、暴走の末、自ら解放を望んだこと。
そして俺達がその願いを叶えたことを。
話を聞き終えた女王の表情に、わずかな哀しみが宿る。
そんな中、エリシアが前に出て、両手に大切そうに抱えていた氷の蕾をそっと掲げた。
淡く輝く蕾を見つめ、イゼリアは小さく息をのむ。
その表情は、喜びとも、安堵とも、そして哀しみともつかない複雑な色を帯びていた。
「これが…未来を繋ぐものなのですね」
長きにわたりこの地を守り続けた存在が消え、新たな命が芽吹いた瞬間。
女王としての責務と、一人の人間としての感情が胸の内で交錯しているのが、見て取れた。
「はい。この種子が育てば、いつの日か、新たな守護者が生まれるはずです」
エリシアの声色は静謐でありながら、願いを託すように響いた。
しばし考え込んだのち、女王はゆっくりと頷く。
「この種子は、王宮の守護のもと、厳重に管理していきましょう。決して人の手で乱されぬよう、我らが責任を持って守ります」
俺達はその言葉に頷き、氷の蕾は王宮の奥深く、守護の結界が張られた聖域へと安置されることになった。
それは、この地に芽生えた未来への灯火であった。
◇ ◇ ◇
シェリザーンの空は、久しぶりに穏やかな煌めきに包まれていた。
吹雪も寒波もやみ、街には白銀の雪解け水がきらめきながら流れている。
人々は外に出て互いに笑顔を交わし、かつての平穏を取り戻した喜びに胸を震わせていた。
王宮の大広間は、その日のために特別な装飾が施されていた。
天井や壁は氷の結晶を模した透明な飾りで輝いており、厳かでありながらも祝福の熱気に満ちていた。
民や兵士達が集められる中、やがて女王イゼリアが姿を現し、澄んだ声で告げた。
「皆の者。今日、我らが都は再び加護を受けた。これは旅の者達と、そして“白銀の巫女”の勇気と祈りによるものです」
その呼びかけと共に、白衣を纏ったエリシアが人々の前へと進み出た。
彼女の肩には薄布がかかり、胸元には女王から授けられた雪花の紋章が光っている。
両手には女王より託されたハープが抱かれ、その姿はまさに純白の巫女のようであった。
「…綺麗」
エルザがその大きい一つ目を大きく見開き、わずかに吐息を漏らす。
その声は抑えきれない感情が滲み出たもので、普段は冷静な彼女が心を揺さぶられていることを隠せていなかった。
「…見事なものだ」
ヴァネッサは腕を組んだまま視線を逸らさず、低く呟く。
彼女にしては珍しく感嘆がはっきりと込められており、誇らしげに口元がわずかに緩んでいた。
「本当にね…まるで天使みたい」
リリアは柔らかに口元を綻ばせる。
その眼差しは、神聖な存在を見ているかのようだった。
仲間達が口々に感嘆を漏らす中、俺は今一度エリシアを見つめる。
そこに立つ彼女は、白銀の光に包まれた幻想そのものだった。
彼女の纏う空気は、日頃の穏やかな笑顔を知る自分にとってさえ、遠く神秘的な存在に見えた。
――その時、ふと彼女の瞳が射抜くようにこちらを見据えた。
思わず息を呑んだ俺に、エリシアはほんのりと優しい微笑みを浮かべてみせた。
その一瞬で、祭壇の冷たい空気さえも、心の奥まで温もりを流し込むように感じられた。
そしてエリシアは深く息を吸い込み、ハープの弦を撫でた。
柔らかな旋律が広間に広がり、やがて一人、また一人と民が目を閉じ、祈りの姿勢を取った。
鳴り渡る旋律は氷嵐に覆われた日々を思い出させながらも、今ここにある希望を強く刻み込む。
まるで大地そのものが再び精霊に寄り添い、未来へと願いを託す儀式のようだった。
女王イゼリアもゆっくりと瞳を閉じて祈りを合わせ口を開く。
「この都は、再び歩み出します。未来を繋ぐ“種子”と共に」
広間全体が、祈りと音楽に満ち溢れ、シェリザーンに新たな祝福が芽生えたかのように感じられた。
◇ ◇ ◇
祭事を終えた俺達は王宮でもてなしを受け、ようやく束の間の安らぎを得ていた。
豪奢な大広間での饗応も、正直なところ少し息が詰まってきて…気分転換に庭園へ足を運んだ。
雪に縁取られた王宮の庭園は、日光を受けて眩しいくらいだった。
凍りついた噴水からは細い氷柱が垂れ、静謐な空気が辺りを包んでいた。
そんな景色に目を向けていると背後から、澄んだ声が響いた。
「カケルさん?」
振り返ると、そこに立っていたのはエリシアだった。
祭事で身にまとっていた白衣装のままで、胸元の雪花の紋章が光を受けて微かに揺れている。
近くで見ると、現実とは思えないほど神々しく、思わず息を呑んでしまう。
「やぁ、お姫様」
半ば照れ隠しのように軽口を叩くと、エリシアは小さく肩を震わせ、慌てて首を振った。
「も、もう…カケルさんったら。からかわないでください」
彼女は俺の隣に並ぶと、白い庭園へ視線を向ける。
雪面を照らす陽光は一層強さを増し、視界いっぱいに反射が広がった。
「……眩しいくらい輝いてますね」
横顔に映るその感嘆の色に、俺は自然と口を開いていた。
「エリシアが頑張ったからだよ」
一瞬、彼女の表情が揺れた。
やがて、少し照れたように視線を伏せ、両手を胸の前で重ねる。
「そんな…私一人の力じゃありません。カケルさん達がいたからこそです」
「俺は、俺のできる事をしたまでだよ」
「それは私も同じです」
そう言った時、彼女は再び俺の方を見上げた。
その瞳には、冬の空を思わせる澄んだ光が宿っていた。
「私は、カケルさんのその勇敢さに…ずっと憧れていたんです。どんな困難にも立ち向かう姿を見て、私も誰かの力になりたいと思ったんですから」
その言葉は飾り気がなく、ただ真実だけを映している。
胸の奥を強く打ち、しばし返す言葉を忘れてしまう。
「…なら俺達、似た者同士なのかもな」
少し間を置いてそう返すと、エリシアの表情に柔らかな笑みが広がった。
「ふふっ、そうかもしれませんね」
その笑みは雪明かりよりも温かく、まるで春の訪れを告げるように優しかった。
俺はただ、その姿に見とれることしかできなかった。
「…これからも、一緒に歩んでいこうな」
俺は視線を雪明かりに染まる庭園から彼女へと移し、自然に口をついて出た言葉だった。
「はい、不束者ですがよろしくお願いします」
エリシアは少し肩をすくめながら、けれどその瞳は揺るぎなく俺を見返してきた。
照れ隠しの笑みの奥に、確かな決意が垣間見える。
彼女は胸元に手を添え、ふとそこから小さなハープを取り出した。祭事で奏でていたのと同じ楽器だ。
「そのハープ、返さなくていいのか?」
俺が問いかけると、彼女は首を横に振る。
「これは模造品だそうです。特別に私に差し上げると、女王様が」
声は柔らかだが、その口ぶりには感謝と誇りがにじんでいた。
「そりゃよかったな。今度聴かせてくれよ」
俺は軽く笑いながら口にしたが、本心ではまた彼女の音色を聴きたいと思っていた。
「ふふっ、今度と言わず、今奏でてさしあげますよ」
エリシアの唇に浮かんだ微笑みは、庭園に咲く雪花のように清らかだった。
そうして彼女は雪の舞う庭園で、そっと弦に指を置いた。
ひとつの音が広がると、空気が震え、透明な旋律が雪の輝きと混じり合う。
彼女の奏でる旋律は、氷のような大地を溶かすように優しく、
透き通った音の粒は雪明かりに散り、庭園を銀色の夢で満たしていく。
風に舞い上がる雪片が音に呼応するようにきらめき、
まるで世界そのものが彼女の演奏を祝福しているかのようだった。
その中で俺はただ一人、観客として彼女を見つめていた。
――いや、観客ではない。
その視線の先にあるのは、音を紡ぐ彼女と、彼女が捧げてくれる「想い」そのものだった。
雪と光と旋律に包まれ、時は緩やかに溶けていく。
やがて最後の一音が静寂に吸い込まれると、
庭園には深い余韻だけが残り、胸の奥にじんわりと灯る温もりが広がっていった。
彼女と共に歩む未来は、どこまでも輝いている――そう、心から願わずにはいられなかった。




