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青き潮風の中で③

登場人物

カケル

種族:人間

主人公。異世界に召喚された青年


リリア

種族:サキュバス

魔王アビスの側近。カケルの監視役でもあり案内役。


セレナ

種族:メデューサ

アインベルグ魔法学院を主席で卒業し、主に攻撃魔法を得意とする。


ヴァネッサ

種族:ヴァンパイア

とある古城に独り住んでいた。幻術・護身術を得意とする。


ライア

種族:リザードマン

流浪の剣士。エルザとは幼馴染。


エルザ

種族:サイクロプス

鍛冶職人。ライアとは幼馴染。


エリシア

種族:エルフ

精霊と心を通わせたり、精霊の力を行使できる。


トーラ

種族:ミノタウロス

ヴァルハールの町の自警団に所属。肉弾戦が得意。

白くきらめく砂浜がどこまでも続き、心地よい波音が岸辺を優しく撫でている。

俺は一人、木陰に設置した簡易のテントや敷物を整えながら、ちらりと背後を振り返った。

誰もまだ来ていない。


「……まさか異世界でも水着があるとはな」


ひと言漏らし、自分でもおかしくなって小さく笑った。

今朝、皆で街の商店街を訪れたときのことを思い出す。

海辺のリゾート地だけあって、当然の如く水着専門の店が存在していた。

自分はさほど迷わず、無難な膝丈の紺色の水着を選んだが、問題は女性陣だ。

あの後、皆はキャッキャとはしゃぎながら店の奥へと消えていった。

鏡の前で試着を繰り返す彼女達の姿を思い浮かべると、自然と顔が熱くなる。


「……いや、余計なことを考えるな」


首を振って意識を切り替える。

持参したカゴから、果物や軽食、飲み物を並べる。

涼しげな風が潮の匂いを運び、波音とともに耳をくすぐった。

心地よい静けさの中、どこか浮ついた胸の高鳴りを覚える。

皆が水着姿で現れる…その光景を想像するだけで、どうしても落ち着かない。


「遅いな…ま、女性陣は仕度に時間がかかるってやつか」

空を見上げれば、高く登った太陽がきらめいていた。

照り返す砂の白さに目を細めつつ、俺は波打ち際へと歩み寄った。

足元を濡らす海水は意外と冷たく、すっと肌を撫でていく。

透明度の高い水の向こうには、色とりどりの小さな魚達が泳いでいるのが見えた。

ふと、背後からにぎやかな笑い声が聞こえてきた。


「お待たせしました~!」

エリシアの明るい声を皮切りに、皆が一斉に浜辺へと姿を現した。

俺は思わずは目を見開た。


エリシアは花柄をあしらったフリルたっぷりのお嬢様水着。

淡い薄緑の色合いが、海辺の陽射しによく映えていた。

軽くまとめたエメラルドグリーンの髪がふわりと揺れ、その優雅さにほんのり柔らかさが添えられている。


隣にはセレナ。薄い紅を基調としたパレオ付きの水着が、上品さと可愛らしさを絶妙に兼ね備えていた。

胸元のリボンが少女っぽさを引き立てている。

視線が合うと、セレナは途端にぷいっと顔をそらした。


「な、なによ……そんなに見ないでよ……」


ヴァネッサは大胆不敵な微笑を浮かべていた。

黒地に赤のラインが入ったグラマラスなハイレグの水着が、

彼女の抜群のプロポーションをさらに際立たせている。

まるで舞台の主役のように、ゆったりと歩いてくる姿には圧倒的な色気が漂っていた。


「ふふ、目の保養くらいにはなっているかな?」


ライアはスポーティーな水色のセパレート水着姿。

動きやすそうなデザインが彼女らしい。

緑色の鱗に水色の生地がよく映えて、浜辺の陽射しの下で爽やかなコントラストを作り出している。

砂浜を駆け寄ってくる笑顔は、まるで子供のように無邪気だった。


「おーいカケル!いい天気だな!」


エルザは控えめながら可憐なピンクの花柄模様のワンピース水着。

大きな胸元が自然と強調されているが、彼女は無表情のまま、少しだけ恥ずかしそうに視線を泳がせている。


「…………似合ってる?」


トーラはオレンジを基調としたタンクトップ風ビキニ姿。

ほどよく日焼けした引き締まった肌に、しなやかな筋肉のラインが映えている。

腰に手を当て、満足げに笑うその姿は、まるで浜辺の女王のようだ。


「へへっ、こういうのもいいもんだろ?」


そして最後に、リリアがゆっくりと歩み出てきた。

落ち着いた紺のビキニに、薄手の羽衣のような透け感のある布を羽織り、上品さと妖艶さを兼ね備えている。

その視線がカケルを射抜くように向けられるたび、自然と心臓が跳ねた。


「ふふっ、どう? カケル……」


一斉に現れた彼女達の水着姿に、俺ははしばし言葉を失った。

――これは、昼間から試練が大きすぎるだろ。


砂浜に広がる青空と海のきらめきが、夏の訪れを告げているようだった。

潮の香りを乗せた風が心地よく吹き抜け、波打ち際では小さな白波が静かに砕けている。

足元に打ち寄せる波の冷たさが心地よく、俺は思わず深呼吸した。


──まさか異世界で、こんな海水浴をする日が来るなんてな。

感慨に浸る間もなく、突如元気いっぱいの声が弾けた。


「さーて、思いっきり遊ぶぞー!」

ライアだった。

普段は剣を振るう戦士としての凛々しさが目立つ彼女だが、

今はまるで無邪気な子供のように無防備な笑顔を浮かべている。

長い尻尾を弾ませながら、獲物を追うように勢いよく海へと駆け出していく。


「おー、待てよライア! 勝負だ!」

トーラもすかさず後を追った。

その鍛え抜かれた筋肉が躍動するたびにしなやかな光を反射している。

両手を大きく振り上げ、浜辺を駆け抜けていくその姿は実に爽快だった。


二人は波打ち際にそのまま飛び込み、ザバァッと高く水飛沫が上がる。

冷たい水がかかっても気にする様子もなく、元気いっぱいに泳ぎ出した。


「ひゃっ、冷たっ!」

「このくらいがちょうどいいって!先に沖まで行った方が勝ちな!」

「負けないからな!」

笑い声と水音が浜辺に響き渡る。


一方、静かな場所を選んだエルザは、早速砂のお城作りに取りかかっていた。

しゃがみこんだまま、無言で黙々と指先を動かしている。

湿った砂を丹念に積み上げ、整え、まるで職人のように細部を彫り上げていくその集中力は、

周囲の賑やかさとはまるで別世界のようだ。

彼女の小さな指先が動くたびに、どんな城が完成するのかと想像が膨らみ、自然と笑みが浮かんでいた。


エリシアはというと浮き輪を抱え、波打ち際に立っていた。

淡い薄緑の花柄の水着が風に揺れている。

普段はどこか余裕のあるお嬢様の彼女だが、今は少し緊張しているようだった。


初めての海に戸惑っているのか、目の前で揺れる波に小さく肩をすくめる。

足元に寄せてきた小さな波が、彼女のつま先を軽く濡らしていた。

エリシアはそっと指先で水を触り、すぐに引っ込める。


「海って、思っていたより迫力がありますね…」

小さく呟く声が、どこか不安げに揺れている。

見れば、浮き輪をしっかりと抱えてはいるが、なかなか海へ入ろうとはしない。

その様子に、思わず俺は声をかけた。


「……大丈夫か? 手、貸そうか?」

エリシアはぱっと顔を上げ、わずかに緊張のほどけた笑みを浮かべた。


「ええ、もしよろしければ……その、お手を……」

そっと差し出された手を握る。エリシアの手は驚くほど柔らかく、ほんの少し汗ばんでいた。

緊張が伝わってくる。


俺達はゆっくりと海へと足を進めていく。

足元に打ち寄せる波が、時折ひやりと肌を撫でた。

浮き輪に体を預けたエリシアは、揺れる波に合わせてバランスを取りながら、何度も俺の手を握り直している。


「あ…浮かびました!」

浮き輪がぷかりと水に乗った。エリシアは少し驚いたように目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ…なんだか、不思議な気分ですね…」

波に揺られる彼女の姿は、陽射しを受けてきらきらと輝いていた。

水面に映る髪が光をまとい、まるで水の妖精のようだった。


──本当に、この世界は不思議だらけだな。

そんなことを思いながら、俺は少しだけ握る手に力を込めた。


しばらくの間、俺はエリシアの泳ぎを手伝っていた。

最初は緊張していた彼女も、次第に波の感覚に慣れてきたようで、浮き輪の上でほっとするような笑みを浮かべている。


「もう大丈夫です。少しだけ、一人で浮かんでみますね」

「そうか。でも、あまり深いところには行くなよ。もし溺れたら大変だからな」

「はい。お気遣い、感謝いたします」

そっと手を離すと、エリシアは小さく手を振りながらぷかりと波に身を任せていった。


◇ ◇ ◇


俺は浅瀬を歩いて浜辺へ戻る。水に濡れた足を砂に踏みしめながら、ふと視線を前へ向ける。

ライアとトーラの姿が目に入った。

さっきまで海で泳いでいた二人は、今度は砂浜に移動し、何やら真剣な顔で向かい合っている。

どうやらビーチフラッグの真剣勝負を始めたらしい。

二人の間に立てられた小さな棒が、キラリと日差しを受けて光っている。


「よーし、今度は反射神経勝負だライア!」

「望むところだ、トーラ!」

二人とも負けず嫌いの性格が全開だ。海でも砂浜でも、結局こうして張り合わずにはいられないらしい。

なんだかんだで楽しそうだな──

思わず笑みがこぼれた。


俺はしばらく、二人のビーチフラッグ勝負を眺めていた。

スタートの合図もないのに、目と目で合図を送り合い、ライアとトーラは同時に砂浜を蹴り出す。

小さな砂煙が舞い上がり、尻尾と腕を巧みに使いながら、低い姿勢で一気に駆け抜けていく。


「はやっ……」

思わず感心する。あのスピードと反射神経は、さすがに日頃鍛えてるだけはある。

だが、俺がその勝負に見入っていると、視界の端でふと動く影が目に入った。


浜辺のパラソルの下、優雅に手を振る人影──ヴァネッサだ。

白い椅子にゆったりと腰かけ、日傘を軽く差し出しながら微笑んでいる。

その手には瓶に入った日焼け止めらしきものが握られていた。


──なんとなく、嫌な予感がする。

ため息をつきながら、俺はゆっくりとヴァネッサの元へ向かっていった。


「どうしたんだ?」

ヴァネッサは相変わらず優雅に微笑みながら、手に持った瓶を軽く振ってみせた。


「悪いけど、日焼け止めを塗ってくれるかな?

 こういうのは人の手を借りた方が楽でね──ふふっ、君なら断らないだろう?」


まったく、予想通りの展開だった。

彼女のこの手の誘いには、いつもペースを乱される。


「ま、まぁ……わかったよ」

俺がそう返すと、ヴァネッサは満足げに微笑み、すっと体勢を変えてうつ伏せになった。

陽の光を受けた肌は白磁のように滑らかで、見るだけで緊張が増してくる。


瓶からクリームを手に取り、恐る恐る指先で伸ばしていく。

ヴァネッサの背中は思った以上に柔らかく、そして温かかった。

ゆっくりと肌に馴染ませながら塗り広げていくたびに、鼓動が早まっていくのを自分でも感じる。


「ふふっ、緊張しているのかな?」

 ヴァネッサの挑発するような声が背中越しに届く。


「べ、別に……」

どうにか平静を装おうとするが、内心はドキドキだった。

背中を塗り終えたところで、ヴァネッサがゆっくりと上体を起こし、こちらを振り返る。

挑発的な笑みが唇に浮かんでいた。


「全身、お願いできるかな?」

「ぜ、ぜんしん……?」

思わず聞き返してしまう。頭の中に嫌な予感が渦巻き始めた。


「そう。前面や──下半身も、ね?」

ヴァネッサは意味深に目を細めて微笑む。

その瞬間、完全に思考が停止しかけた。


──やばい、これはさすがに色々とまずい……!

そんな俺の動揺をよそに、突然、横からスッと手が伸びてきた。


「そこまで。後は私がやるわ」

セレナだった。やや不機嫌そうな表情でヴァネッサの前に立ち、俺の手から日焼け止めを奪い取る。


「おや、残念だね。ここからがいいところだというのに…」

ヴァネッサはわざとらしく肩をすくめると、名残惜しそうに微笑んだ。


日焼け止めをセレナに奪い取られた俺は、思わず小さく息を吐いた。


「……助かったよ」

セレナは顔を少し赤くしながらも、そっぽを向いた。


「べ、別に……アンタの為にやったわけじゃないんだからっ」

あいかわらず素直じゃない。でも、そこがセレナらしくて可愛いと思ってしまう自分がいる。

そんな中、セレナは日焼け止めを持ったまま、ヴァネッサへ視線を向けた。


「それで…終わったら私にもお願いね」

ヴァネッサは少し驚いたように目を瞬かせ、そして唇に微笑を浮かべる。


「おや、君との濃密な触れ合いも捨てがたいな」

「……はいはい、そういうのはいいから」

セレナは溜息まじりに視線を逸らしたが、その頬はほんのりと赤みを帯びていた。

このやり取りを見届けたところで、俺はそっとその場を後にした。

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