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ロベルト視点

 

 オルセニア王国騎士団本部の団長執務室。団長の留守を預かる俺のもとに、血相を変えた部下が飛び込んできた。


「ロ……レナート様、申し訳ありません! セレイア様の行方がわからなくなりました!」


 その報告に、俺の心臓が一瞬止まったかのように感じた。全身が凍りつき、次の瞬間には怒りがこみ上げてきた。


「詳細を話せ!!」


 部下は慌てながらも、冷静に状況を説明した。


「同室のメイドと街へ出掛けていたのですが、途中でセレイア様の行方がわからなくなりました。何者かに拉致された可能性が高いです……!」



 俺は拳を握りしめ、冷静に努めた。セレイアに危険が迫っているかもしれない。自分を責めたい気持ちを押し殺し、今は行動を起こすことが最優先だ。


「ワルターに近衛を借りよう。捜索隊を編成し、あらゆる手段を使って彼女を見つけ出すんだ!」

「はっ!」


 部下は急いで部屋を出て行った。俺は深呼吸をし、心を落ち着けた。



(セレイア、必ず助け出してみせる!)



 俺は王城の迎賓室に急ぎ、自国の第三王子であるワルターへ面会を求めた。


 迎賓室の扉に近づくと、警備の近衛騎士が即座に反応した。


「こちらにはエレンデール王国第三王子、ワルター殿下が滞在しております。どなたであられますか? ご用件は?」

「緊急事態だ。そこをどけケネス」

「えっ……!? お前……」


 俺はかつての同僚であった騎士を押し退け、扉を開け急ぎ足で中に入った。


「ワルター!」


 俺が彼の名を呼ぶと、部屋の中にいた近衛騎士たちは一斉に俺に剣を向けた。

 ワルターは奥に置かれた重厚な机に就いて、目を見開いて俺を凝視していた。


「……お前、ロベルトか……!? ここで何をしているんだ!? 怪我を負って静養中のはずだろ……。その仮面と髪は何だ……!?」


 ワルターがそう言うと、近衛騎士たちの間に動揺が走った。


「ロベルト……?」

「え? イメチェン……?」

「デビューってやつなんじゃ……」

「トニーがセレイア夫人を見たって言っていたのは本当だったのか……。てっきり酔っ払いの戯言だと……」


 ワルターの合図で剣を降ろした騎士たちは、口々に囁き始めた。


「ワルター、すまないが近衛を貸してくれ! 半分でいい。詳しい事情はあとで説明するが、セレイアの行方が分からなくなったんだ……!」


 俺がそう言うと、ワルターはさらに驚いた表情を浮かべた。


「セレ……夫人もここにいるのか……?」

「ああ……」


 ワルターの表情は険しいものへと変わり、決然とした声で言った。


「わかった。ケネス、対応してくれ」

「はっ!」

「ワルター、恩に着る」


 ワルターは俺に真剣な顔を向け、頷いた。






 執務室を出て、すぐに部下と近衛騎士たちに指示を出した。


「目撃情報を集めろ! 不審な人物や動きを見逃すな! セレイアの捜索に全力を尽くせ!」


 捜索隊を組織し、街の隅々まで捜索を開始した。


 彼女の無事を祈りつつ、馬を駆け情報を集めた。こうしている間にも彼女が恐怖に震えているかもしれない。そう思うと、時間は永遠のように感じられ、心は焦燥と不安でいっぱいだった。


 緊張で手綱を握る手は汗ばんでいた。


 自国の騎士たちに見つかるリスクなど気にせず、セレイアを護衛するべきだった……! 俺の判断の甘さがこの事態を招いてしまったのだ……!






 日が落ち、辺りが暗くなり始めた頃、部下が怯えた様子の女性を連れてきた。


「レナート様、こちらの方がセレイア様らしい女性を見かけたと言っております」


 俺は馬を降り、女性に近づき、彼女を怖がらせないように注意しながら尋ねた。


「知っていることをすべて教えてください。どんな些細なことでも構いません」


 女性は震える声で話し始めた。


「裏通りでそういった女性を見かけました……。数人の男たちに馬車に乗せられ連れられていきました。怖くて近づくことができませんでしたが、馬車は北の方向へ向かいました……」


 その情報を聞いて、俺の心はさらに緊張した。


「ありがとう。あなたの勇気に感謝します」


 俺はすぐに部下に指示を出した。


「捜索隊を分ける。半数は街中の捜索を続けろ! 残りは俺と共に来い!」


 俺は部下たちを連れて北へと向かった。彼女を探し出すため、夜の闇が深まる中、先を急ぎ馬を駆けた。






 しばらく進むと、前方から商人の馬車が近づいてきた。俺はその馬車を止め、女性から聞いた馬車の特徴を伝え、御者に心当たりがないか尋ねた。


「ああ、そんな特徴の馬車なら見ましたよ。この先の森を抜けると、今は誰も住んでいない古い建物があるんです。その建物の前に、そんな特徴の馬車が停まっていましたよ」


 彼の言葉にわずかな希望が灯った。セレイアはそこにいるはずだ!


「感謝する」


 彼に礼を述べ、俺は速度を上げ先へ進んだ。手綱を強く握りしめ、馬に鞭を入れる。馬は風のように全速力で駆け出す。部下たちはその速度についてくることができず、次第に距離が広がっていった。


 単騎で駆ける中、頭に浮かぶのはセレイアの笑顔。何処か遠慮がちなその笑顔を思い浮かべると、胸の奥が切なくなる。



(頼む、セレイア! 俺はセレイアのいない世界を生きていくことはできない……!)



 空はほんのりと明るくなり始め、視界に映るものの輪郭が徐々にはっきりと見えてきた。遠くの風景は次第に鮮明になっていき、やがて前方に高い木の先端が現れた。



(もうすぐだ! もうすぐセレイアをこの手に……!)



 俺がそう思ったとき、森の手前の草原に、倒れこんでいる女性を見つけた。



(セレイアだ!!)



 彼女の背後には、彼女を捕らえようとする追手の姿が見える。


 俺は無我夢中で駆け寄り、馬から降りて剣を抜いた。



「レナート様……」



 セレイアのかすれた声は、彼女がここまで命懸けで逃げてきたことを、彼女が極限状態であることを示している。


 全身が熱くなり、剣を握る手に力が入る。



「彼女に触れることは許さない!! これ以上近づけば、容赦しない!!」



 俺は対峙する追手たちに叫んだが、彼らは一瞬ひるむも、すぐに剣を振り上げ襲いかかった。


 剣を振るい、攻撃を防ぎつつ反撃に転じる。剣が交差し、金属音が響く。彼らの攻撃が激しさを増すが、一人また一人と敵を倒していく。汗が額を伝い、息が荒くなるが、集中を切らさない。セレイアの命がかかっている以上、ここで倒れるわけにはいかない。


 そのとき、セレイアの背後に回った敵が、剣を振り上げ彼女に向かって斬りかかろうとした。



「セレイア!!!!」



 その瞬間、彼女の名を叫び、彼女の前に立ちふさがった。



 相手の剣を受け止めたが、その剣先が仮面に当たった。仮面は鋭い音を立てて割れ地面に落ちた。


 俺は素早く敵を倒し、周囲を見回した。全ての敵が倒れていることを確認し、セレイアの無事を確かめるために振り向くと、彼女は目を見開いて愕然としていた。


 そして、小さな声でつぶやいた。



「ロベルト様…………?」



 しまった……! 



「セレイア……これは、その……」


 戸惑いながら次の言葉を探していると、彼女の体は力なくその場に倒れこんだ。


「セレイア!!」







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