花苗と深紅のお仕事
10月5日。18時。花苗と深紅はドロシーの事務所にいた。まず2人は白のセーラーと黒のブルマーに着替えた。オーバーニーソックスもいる。向こうはもう秋だからだ。花苗はブルー。深紅はボルドーを身にまとった。3人は[時の間]で呪文を唱えた。呪文は行きたい場所と基本形からなり、3回唱えるとその場所に行ける。「ヨワルナカダハルマ、ヨワルナカダハルマ、ヨワルナカダハルマ」すると目の前のゲートが開き、花苗たちはナミキリ公国にいた。こちらはまだ14時。異世界の方が時差の関係で4時間遅いが、この程度なら時差ボケになりはしない。日差しは弱いし名古屋より遥かに涼しい。今日のお仕事は対戦場所の整備。2人はエマたちに温かく迎えられた。「はじめまして花苗。歓迎するわ。私はエマ。今日からよろしく」「よろしくねエマ」「はじめまして深紅。歓迎するわ。私はセリ。今日からよろしく」「よ、よろしくお願いします」マーキュリーは半袖の体操服に黒のブルマー。オーバーニーソックスはエマがパープル。セリが黒。似たようなコスチュームなのに。からだからして全然違うっ。いきなり女としての格差を感じた。声からして違う。何というか透き通った美しい声。エマたちは金髪碧眼でプロポーションも抜群だが絶世の美女ではない。ドロシーはすぐに帰った。また迎えに来るという。4人はエマのクルマに便乗し、対戦場所へと向かった。助手席に花苗。後ろの左の席に深紅。右にセリが座った。「対戦場所は近いの?」「そうね。あと30分くらいで着くわ」これから肌寒くなる。できればあんまり寒くない場所がいいな。着いた先は廃校の体育館。しかもさほど老朽化していない。奥にステージがあり、あそこで対面を行う。「対面?」「魔法戦士は飛べるからね。上からキックを繰り出して着地してからの戦いを対面と呼ぶの」ステージを囲むようにコの字型の上の通路がある。「じゃああの高い通路からステージに向かってキックするのね?」「そうなるわね」4人はステージを中心に整備を行った。長い脚立を使い、切れかけた蛍光管を取り替える。花苗たちはつくづくマルスのコスチュームでよかったと思う。魔法戦士のコスチュームのチアなら下着が丸見えだからだ。でも女の子同士だし。つ、次からはチアでもいいかな。ついでにチューリップ型の照明の傘の掃除。かなりホコリが溜まってるわね。ステージはフローリングだしあまり汚れていない。次はコの字型の通路。両脇の通路の真ん中に組んでもらった足場がある。これなら私たちがここを発射台に見立ててステージに向かって攻撃できる。しかも工事現場で使うような頑丈な足場。大人が5人くらい乗っても大丈夫そう。「足場はずっと前から要望があったのよ」「ちゃんと改善してもらえるのね」「現場の声を無視してたら今の日本と同じになっちゃうわ」「異世界は違うのね」舞台装置を敵味方関係なく作っていけるのが異世界の魅力。「確かに足場がないとやりにくそうね」「柵の上に乗ってステージに向かってキックを繰り出すんだからね」「角度はともかく勢いがつくの?」「難しいわ。でも足場があるといったん上にジャンプしてから急降下できるの」「な、なんか零戦の特攻みたいね」「そうね。原理は似てるわ。天井が近いから角度はいまいちだけど勢いはつくわ」「な、なんかすっごく楽しみ」花苗たちはムリを言って少しだけ練習させてもらうことにした。本来ならば対戦場所での訓練は許されていないが異世界はゆるい。世界線を超えたら私たちは精神体だから魔法が使えるはず。まずはステージで柔軟体操。花苗はエマ。深紅はセリと組んで柔軟体操を始めた。リアルとは勝手が違うがマーキュリーはピッタリ呼吸を合わせてくれた。サンドバッグはないが、体操に使う大きな正方形のマットレスがある。あれを立ててエマたちに後ろで支えてもらう。花苗たちは二手に分かれ、両脇の足場に立ってみた。やはり足場は頑丈。動いてもびくともしない。でもいきなりは怖いので少しずつジャンプすることに。するとすぐ天井についてしまう。でもすぐには落ちないし空中で静止できる。その都度足場に戻りながら飛び方に慣れた2人はステージに向かうことにした。花苗たちはまず上にジャンプし、頭を後ろに下げて足からステージに向かっていく。ドスン。それなりに手応えはあった。もちろん狙ったあたりとは開きがあるが、何となく上からのキックの概要はつかめた。美人母娘は上からのキックにハマった。角度はいまいちだが勢いはつく。上にジャンプしてからの頭の下げ方次第でもうちょい角度をつけられそうだ。下げすぎると角度がつかない。逆に上げすぎるとステージの真下に突っ込み足を挫いてしまう。要は頭が舵の役目を果たしているのだ。帰宅した花苗たちは頭の下げ方について話し合いを重ねた。よかった時の天井の見え方を覚えておくと上達が早まりそうね。