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花苗と沙恵の日常

9月27日。柏木花苗と宮内沙恵は花苗の部屋でリモートワークに励んでいた。でも単価は安い。2人は異世界のエージェントをしていたがお盆明けに事務所が閉鎖。花苗たちはファルカン公国のエージェントだった。活動は名古屋のみだがムッチョンのせいで事務員が次々に倒れた。この夏だけで3人目が不眠で入院。ファルカン公国は事務所を閉鎖したのだ。給与は支払われたが、時給2000円の仕事を失ったのが痛い。しかもひとり娘の深紅と那美もエージェントの職を失った。娘たちも時給2000円だったから痛い。すぐに生活に困りはしないが、エージェントは冬の時代を迎えた。名古屋での活動は原則禁止。ムッチョンが去りゆくまでさらなる死傷者が出る恐れがあるからだ。名古屋の女の子はまずエージェントになり、それから折を見て異世界へ参戦するのが通常の流れ。だがそれが難しい時代になった。2人は同じマンションの違う階に住んでいた。1階の集合ポストに見慣れないチラシを発見した花苗たちは部屋でそれを広げてみた。「珍しいわね。DVDが付いてないわ」「まだ営業してる国があるのかしら?」ナミキリ公国はまだ公式のホームページもなく魔法戦士のニュース映画すら制作していないようだ。というのもチラシに添付されるDVDは自国のニュース映画と相場が決まっているからだ。でも2人はむしろナミキリ公国に好感した。これまで男社会の抜けきらない国々からの勧誘に辟易していたからだ。女装化を推し進めるカルーン公国にも惹かれなかった。美人母娘は女装男子に無関心。何より男の子の女装化を異世界の庶民が認めるとも思えなかった。このあたり花苗たちは現実的。ではナミキリ公国は?チラシだけではいまいち伝わらないが、どうやらマルスの女装化はしないようだ。[他国の後追いはしません]とまで魔王さまが言い切るのだから間違いない。異世界は日本なんぞの後追いをしなかったからこそ根強い支持を集めてきた。[日本と同じ]は最大級の侮辱であり、このセリフを吐かれた相手から決闘を申し込まれた事例さえある。しかもそれは何百年も前ではない。わずか数年前の話なのだから笑えない。それだけ彼らは真剣なのだ。まず日本との違い。日本人との違いをハッキリと示せなければリアルの女の子に話を聞いてもらえない。愚かにも日本に追随した国はただのひとりも集まらなった。魔法戦士を取り込むどころかイベントに誰ひとり来なかった。その国は滅亡した。残念ながら情報が乏しいが、花苗たちはナミキリ公国なら悪くないと感じた。さっそくラインで問い合わせたが留守だった。メールを送るも返信がない。「まだエージェントが赴任して間もないのよ」「きっとバタバタしてるのね」2人は異世界のエージェントがデジタルに疎いのを熟知していた。彼らは名古屋に赴任するとアマゾネスに遭遇する。アマゾネスとはカン違い女のこと。実はアマゾネスがエージェントのリテラシーを低く保つのに寄与していた。彼らは盗撮を疑われたくないがゆえに端末やデジカメを持ち歩かない。そのため名古屋に赴任したエージェントはデジタルに対応できずリテラシーが低いまま捨て置かれてしまう。変質者だと一方的に決めつけられインポテンツにされたエージェントも少なくない。アマゾネスは通常国会で審議されるほど名古屋で猛威を振るっていた。花苗たちはあせらない。異世界のエージェントが壊滅したのを熟知していたし営業中の国がほとんどないのもわかる。営業を確認できるのはナミキリ公国くらいのもの。最近まで営業していたカルーン公国も18日にフランソワが熱中症で倒れて閉鎖を余儀なくされた。ムッチョンの恐ろしさを名古屋民で知らぬ者はいない。かと言って2人の参戦意欲が強いわけでもなかった。リアルの女の子はまず参戦しようとする国の制度を見極める。異世界の国の制度は魔法戦士と対戦する兵士の通称が冠せられる。シードマン制度ならシードマン。マルス制度ならマルスと対戦を重ねることになる。次に訓練相手との兼ね合い。私たちがどんな人たちにしつけてもらえるのかを見定める。最後にタイミング。クッソ暑い名古屋の真夏に参戦したがる子はいない。去年の夏に書かれたとある小説が参考になる。2ヶ月で中退した女の子が6月の気温が高い。60年前と比べて倍になった。だから暑い暑いとわめくだけ。タイトルに冠せられたエルニーニョと全く無関係な話だが、6月に恋物語を始めるのにそもそもムリがある。異世界の季節のめぐりは日本と全く同じだが梅雨がない。湿度がなくカラッとしている。夏が32度以上になる日はまずない。それでもこの時期には参戦しない。あの小説の作者が女性だからこそ絶望的に救いがない。いったい誰が真夏のクッソ暑い時期に参戦したがるか。いったい誰が汗臭あいからだを最愛の彼氏の前にさらけ出したいか。そんな女の子はまずいない。絶対いない。

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