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ドロシーの赴任

9月26日。名古屋に新たな事務所が開設された。ナミキリ公国はリアルで全く知られていない。1月1日に誕生したばかりの新国家で2人の魔王さまが仕切る。32歳のピエタと30歳のモッカは絶好のチャンスと捉えた。名古屋に展開するエージェントは10人を切り、営業中の国が1つもないからだ。魔法戦士振興会事務所の業務内容は多岐にわたるが、いわば異世界へ参戦する窓口。異世界の玄関口としての役割を担ってきた。事務員のドロシーはナミキリ公国生まれで20歳。日本語が話せる以外に突出したスペックはない。でもあえて平凡な人を起用する。一介の庶民を配置するのが異世界流。なぜならみんな安心するから。もし事務員がバリバリ切れる人ならどうなるか?誰もビビって参戦しないだろう。異世界は日本と違い切れる人を窓口に配置しない。窓口は平凡な人で充分なのだ。彼女はアナログ社会で生まれ育ち名古屋は生まれて初めて。前任者はおらず上司もいない。気楽ではあるが不慣れなデジタル社会は確かに便利だけれどもイラつきまくり。もちろん問い合わせの電話などかかってこない。何しろこれから販促チラシを配布しないといけないのだ。異世界はいまだに販促チラシの時代。本来ならば販促チラシの配布はエージェントの仕事なのだが、ムッチョンのせいで全てが変わった。彼らは呪詛を込めて名古屋の夏に名前を付けるようになった。今年の夏がムッチョンなのだ。由来は不明だが深い意味はない。他の国は名古屋からの撤退を始める始末。今年だけで事務員が3人か4人犠牲になった国も珍しくない。事務員はエージェントが務めるが、エージェントの大半は事務員ではない。どの国も製造派遣の営業所みたいに3人も4人も配置する余裕がない。基本的に1人だけ。事務員はなぜか自炊派が多くローソン100をこよなく愛する。やはり異世界の駄菓子屋を想起させるのだろう。ドロシーも例外ではない。事務所は質素だが寝泊まりできる。ネットも自由に使えるが、使いこなせる事務員はあまりいない。彼女もあまり使わない。異世界はアナログ社会であり端末もネットも普及しない。なのでリアルに適応するのにやや時間がかかる。ローソン100やスギドラッグのポイントを使う人はいない。ドロシーは微妙な店員をこよなく愛するが、さすがにドン引きする店員を見つけると2度と行かない。ついさっき自分のレジミスを棚に上げ客のせいにして開き直るオバタリアン店員に出くわした。幸いにもそのオバタリアンは自分の前の客を会計していた。いきなり幸先悪いわね。外国人の女性店員の質は悪くないのに。彼女は国内でずっと活動していたが外国人の女性店員の質の劣化をぼやくエージェントが実に多い。でもドロシーの印象は全然悪くなかった。オバタリアンはもちろん日本人だが他の店員はマトモだった。店員の質は数年も経てばガラッと変わるものだ。彼女は販促チラシの配布を始めた。配る枚数は少なくて名古屋に常駐するエージェントが厳選した世帯だけ。外見より内面の美しさを重視した上で厳選した世帯ばかり。わずか100世帯だからすぐに配り終えた。エージェントが新聞配達みたいに配る順序までまとめてくれた虎の巻が役に立った。でもチラシは数年前にカラーになったばかり。ナミキリ公国は魔法戦士の受け入れ実績がなく自国でニュース映画を制作していない国。なので添付されるべきDVDがなくてチラシのみ。このあたりは早急に改善しないといけない。確かにパチンコのチラシみたいに紙質にこだわらない姿勢は評価できる。あれは経費のムダでしかない。でもコレじゃあ私たちの国のコンセプトが伝わらない。それでなくてもナミキリ公国のマルス改革は地味過ぎて伝わりにくいのに。何しろ歳上の女性兵士マーキュリーに訓練してもらい女性化を推し進めるのだから。女性化に頓挫したカルーン公国より現実的かもしれない。でもナミキリ公国のマルス改革は前代未聞な割に注目度が低い。本当は彼らを女子校にぶっ込むつもりが通常国会で否決されたばかり。なので同国のマルス改革が軌道に乗るかどうかは誰にもわからない。ドロシーが名古屋行きを決めた動機は特にない。エージェントは名古屋行きを免れるため犬を飼うのが常識だが、彼女にはペットを飼う習慣がない。彼らはみんなシベリアンハスキーを飼って家を壊され天を仰ぐ。「なんじゃあこりゃあ」なぜジーパンのセリフなのかは謎だがドロシーはそこまでおバカではない。もちろんこのクソッタレのロクデナシを好きになれるかはなはだ疑問。単純にシベリアンハスキーを飼う人たちに共鳴しなかっただけ。名古屋行きを免れて家を壊されたくない。シベリアンハスキーを溺愛しおバカになりたくない。ただそれだけの理由で名古屋に来たが、思ったほどクソ暑くない。秋の到来を騙る胡散臭い風は吹かない。でもムッチョンがぶり返すかもしれないので油断は禁物。

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