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粛清ファンタズム  作者: 誰何
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妹のために


 私の名は、クレイン=ミルフォーゼス。

ティアステラ王国、輝夜騎士団の魔剣術指南役を務めている。


 私は幼い時に、目の前で家族を失った。

私も家族も無力だったが故に、盗賊如きに殺されてしまった。


 偶然通りかかった何者かに助けられたものの、父と母を失った。残されたのは、私と妹だけだった。


 だから私は、力を欲した。


 ――もう、奪われないように。兄として、妹だけは私が守らなければ。

 

 それから私は剣術と魔術の双方を極めるべく、ひたすら修行を続けた。危険が蔓延るこの世界から妹を守るには、絶対的な強さを持たねばならない。

 

 数年後には傭兵として憎き盗賊たちを殺してまわり、ティアステラの兵士として国家間の戦争にも参加した。


 そして、私はそこで"魔王"に出会った。


 彼の剣は、圧倒的だった。ただ力の差で叩き潰すだけの、一方的な暴力だった。だが、それこそが私が求めていた力だと思った。


 だから私は、彼のような絶対の強者になるため輝夜騎士団に入った。


 武功をあげて騎士団長にまで上り詰めれば、彼に直接仕えることができる。"魔王"の元で研鑽すれば、私も彼のような力を手に入れられるかもしれない。妹を守るための力が手に入るかもしれない。そう思ったからだ。


 しかし私の希望は、一人の女によって打ち砕かれた。


 アウラ=デア=セオーレ。あの"魔王"の長女であり、「星律剣」と呼ばれる天才魔剣士。私は彼女との一騎打ちで、惨敗した。そして彼女が騎士団長に選ばれた。父親ほどではないとはいえ、彼女の力もまた圧倒的だった。


 その時私は悟ってしまった。血は、争えないのだと。


 人間というのは、結局血筋が全てなのだ。蛙の子は蛙、努力したところで血筋には勝てない。強者から生まれた子は強者に育ち、弱者から生まれた子は弱者に育つ。ただそれだけだったのだ。


 彼女は、あの"魔王"の娘。対して私は、盗賊に殺されてしまう程度のか弱き者の息子。初めから、彼女に勝てるわけなどなかったのだ。


 それから私は、努力をやめた。魔剣術指南役に選ばれたものの、まるで生きる目標を失ったかのように、そして現実から目を背けるように、妹とも距離をとるようになっていた。


 愚かだという自覚はあった。だが、超えられない壁という絶望に負け現実を受け入れることができなかった。


 そんな時に、私は見てしまったのだ。あの、"例の少年"を。


 ある日、悪魔の落とし子らしき少年を捕らえろとの命を受け、我々輝夜騎士団はとある森中の村へ向かった。しかし村をくまなく調べてもその少年が見つからず、我々は捜索を中止し撤退を始めた。


 撤退を始めて少し経った時、私は一人見当たらないことに気づいた。王女のお墨付きの天才、エリュ=グランディア。彼女は若くして騎士になったがために人一倍努力家で、王女の期待に応えようと必死だ。きっと、未だに村で少年を探しているのだろう。


 全く、これだから天才は...。私はそう思いながら、村へ戻った。


 だが、村に戻った私が見たのは、あのエリュが成す術もなく腹を貫かれ、倒れるところだった。


 あの少年が悪魔の落とし子だというのか?あんな恐ろしい力を持っているなんて聞いていない...!


 私は恐怖で動けなかった。その場に情けなく立ち尽くし、少年の燃えるような緋眼から目を逸らすことができなくなっていた。


 しばらくして少年がどこかへ消えた後、私は膝から崩れ落ちた。未だに全身が震えている。離れたところから見ていただけだというのに、生きた心地がしなかった。あの少年は、私のことをいつでも殺せた。そう思えてならなかった。


 だが私は、いつの間にか笑っていた。なぜだろう。


 あぁ...そうか。少年のあの力、悪魔の落とし子のあの力、あれこそが私が求めていた"絶対的な力"なのだ。


 あの"魔王"すらも凌駕しかねない未知の力を、ただの辺境の村の少年が持っていた。その事実が、クレインにとっては地獄に差した一筋の光のように感じられた。


 あの力さえあれば、私は妹を...ユノアを守ることができる。


 「待っていてくれ...ユノア。お前だけは私が絶対に守ってやるからな...」



 その後ティアステラ王国は、エリュが致命傷を受け倒れていたこと、指南役のクレインが突然行方不明になったことで大騒ぎとなっていた。



○登場人物


・クレイン=ミルフォーゼス

ティアステラの輝夜騎士団魔剣術指南役の青年。長めの金髪で高身長、16歳。

幼いころに家族を殺され、残された妹を守ることだけを生きがいとしている。

少年の力を悪魔の落とし子の力だと勘違いしている。

現在行方不明。


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