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粛清ファンタズム  作者: 誰何
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復讐の緋眼

 

 空気の冷たい、ある夜。少年は、目の前で燃え盛っている炎をただじっと見ていた。

 

 森に囲まれ、動物に囲まれ、人々に囲まれた、美しい村。

少年が今まで生きてきた、小さくて大切な場所。それはもう、形として残っていなかった。


 何故こうなったのだろう。一体誰が。何の為に?

少年の心の中で、激しい憎悪が渦巻いていた。


 無力に立ち尽くしていた少年の後ろに、一つの影が忍び寄る。


 「お前がやったのか?」


 少年が声をかけると、その影は少し驚いた表情をした。


 「...そうだ。お前もこの村の者だな」


 少年はその言葉に振り返り、その影を見つめた。

その影は、長い銀髪をした少女だった。


 「安心しろ。お前もすぐ村の者と同じ所に送って――」


 少女が、そう言い終わる前。少年の手から伸びた何かが、少女の腹を貫いていた。


 「...え゛っ?...ぁあ゛っ...がっ」


 少女が、自分の身に何が起きたかを認識する暇などなかった。

血を吐き、声にならない声をあげ、力なく後ろに倒れた。


 「っ...あなたは...?一体何なの...」


 少年は、動けなくなった少女の前に立った。

少女は、ただ恐怖の眼差しを少年に向けていた。


 少年は、少女の問いに何も答えなかった。

その代わりに、その手に握った剣のようなものを振り上げ、少女の首めがけて振り下ろした。


 死を悟った少女は、目を閉じ運命を受け入れていた。

突然起こった出来事に、後悔している暇すらなかった。


 ...しかし、それは少女の首に触れた瞬間に止まった。少女は驚き、目を開けた。


 「お前たちが、何者かは知らない。何者でもいい」


 少年は、少女をまっすぐ見つめながら話し始めた。


 「だがお前らは、僕の大切なものを奪った。この村は、僕にとって安らぎだった。過去や感情に負けずに人のままでいられる救いだった」


 何を言っているか理解はできない。が、少女はその言葉を、しっかりと聞いていた。


 「だから、僕はお前たちを許さない。この世界を許さない。絶対に」


 話す少年の語気がだんだんと強くなっていく。


 「僕がこの腐った世界を変える。端から端まで、全て粛正してやる」


 少女は、恐怖に震えていた。少年のその燃えるような緋眼は、狂っていた。


 「だから怯えて待っていろ。お前たち悪が罰される、審判の時を」


 そう言い終えると、少年は暗い森の中へと消えた。


 少女は、朦朧とする意識の中でただ少年の放った言葉の意味を考えていた。


 ――彼は何者?どうやってあの強さを手に入れた?


 ――彼の過去に何が?粛正?審判の時?


 「ダメね...考えてもわからない」


 少女はため息をつき、火のあがる空を見上げていた。



―――――――――――――――――――――――――



 ...その後、同日の真夜中。

とある国のとある屋敷で、二人の女が話していた。


 「リオム。エリュの容態はどう?」


 リオムと呼ばれたその女は、ため息をついた。


 「...一命は取り留めたわよ。意識もあるし、5日もあれば復帰できるでしょうね」


 「そう...ありがとう」


 もう一人の女は、壁にもたれかかったまま虚ろな目でうつむいていた。


 「まさか貴女のお気に入りのエリュが、何もできずにやられるなんてね。さぞ悔しいでしょう?」


 女は、唇を嚙み締めた。


 「...えぇ。あの村にはやはり悪魔の落とし子がいたのだわ。そうでなければ、エリュがやられるはずがないもの」


 悪魔の落とし子。それは、彼女たちが捕らえる対象としている、危険な存在である。


 「それなんだけどね。エリュの傷跡から魔痕が見つからなかったの。見つかったのは、純粋な魔力の痕跡だけよ」


 それまでうつむいていた女が、驚いてその顔をあげた。

悪魔の落とし子と呼ばれる人ならざる者から受けた傷なら、魔痕と呼ばれる特殊な魔力の痕跡が残るはずなのである。


 「それなら...彼は何者なの?エリュすら相手にならないほどの力を持ちながら、あんな辺境の村で静かに暮らしていたなんて」


 「そんなの知らないわよ。でも今回の件で相当憎まれているようね。いつ襲われるか分からないし、貴女も気をつけた方がいいんじゃない?」


 女は再びうつむいた。


 「私はどうなってもいいわ。でもエリュたちだけは絶対に守ってあげたいの」


 リオムも再びため息をついた。


 「貴女にはもっと自分が王族であるという自覚をもってほしいわね。アウラ」


 女の名前は、アウラ=デア=セオーレ。ここティアステラ王国の第一王女にして、輝夜騎士団の副団長を務めている。


 「貴女の身に危険が迫っていると知ったら、サウラス様がなんて言うかしら?」


 「...とにかく、私は彼のことについて調べなければならないの。リオム、貴女もこの国が誇る優秀な魔術師として、協力してもらうわ」


 そう言い、アウラは部屋を後にした。


 リオムはしばらく、窓の外の夜空を眺めていた。


 「こんな日でも、この国の星は綺麗ね」


 強気に振るまっていたリオムだが、不測の事態に不安にならないわけがなかった。


 「粛正...彼は、自分が神か何かのつもりなのかしら」


 リオムはただ、この国の行く末を案じていた。



○登場人物


・少年

燃えた村に住んでいた黒髪青目の少年。11歳。何やら過去に何かあったらしい。

どうやら普通の人間ではなさそう...?

興奮すると灰髪緋眼になる。


・エリュ=グランディア

少年の村を襲った、輝夜騎士団の少女。長い銀髪をした11歳。瀕死のところを仲間に助けられ、一命を取り留めた。

若くして騎士となったエリートのため人一倍騎士道精神に厚く、普段から国の騎士として気丈に振舞っている。


・アウラ=デア=セオーレ

ティアステラ王国の第一王女にして、輝夜騎士団の副団長。長い黒髪の16歳。

自分が村に向かわせたエリュが瀕死で帰ってきたことに自責の念を感じている。

村を襲ったのには訳がありそうだが..。


・リオム=フェルノートゥス

ティアステラ王国が誇る、最強の魔術師。緑と紫の入り交じった髪をしている。

年齢非公開(多分20代半ばくらい)。

魔術の研究者でもあり、瀕死のエリュを治療した。



○用語


・魔力

生物が持って生まれる生命力のようなもの。

魔力の強さや質は、個人差とセンスと幼い時からどれだけ鍛錬するかで決まる。


・魔剣騎士(魔剣士)

魔力を剣や体に纏わせて戦う者のこと。

魔力を上手く扱えないものは、全くもって非力である。


・魔術

魔力を源として、自然の理を模倣したり、非現実的な現象を起こす術のこと。戦闘や日常生活はもちろん、怪我や病気の治療にも役立つ貴重な術である。


・魔術師

魔術を主として戦う者のこと。

武器を使うこともあるが、基本的には魔術の為の触媒を持つか、何も持たずに戦う。

魔術師は魔術による治療も行えるが、魔力を流し込めば勝手に治る訳では無く、人体の構造について理解している者が、傷口や症状を見て状態を正確に分析したうえで魔力を流し込み、的確な操作をすることで初めて治療できる。それはとても簡単なことではなく、魔術師とは同時に一流の医者でもあるのだ。


・悪魔の落とし子

人でありながら、人ならざる力を持って生まれた者のこと。

なんの由来もなく、家系や環境に関係なく突然生まれるが、そのほとんどが自我を失ったり、強大な力を制御できずに周りに危険を及ぼすため、子供のうちに捨てられてしまう運命にある。ある時を境に突然各地で現れ始めた。


・魔痕

悪魔の落とし子たちが残す特殊な魔力の痕跡。

普通の生物とは魔力の性質が違うため、傷跡や痕跡を調べればすぐ魔痕かどうかが分かる。


・ティアステラ王国

輝夜の国と呼ばれる、美しい星々が象徴の魔剣騎士国家。

王族のセオーレ家が治めている。


・輝夜騎士団

ティアステラ王国の正統魔剣騎士団。王女アウラを副団長としている。

突然現れた悪魔の落とし子たちが野放しにされていることを危険視し、捕獲を行っている。


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