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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

田所翔 ~血の鎖 父への報復~

作者: こさか とが

「田所翔君の精神病院の移送は私が断りました。」副所長の長谷川は強く言い放った。






『緊急速報』

「小学校に男が侵入 暴行。小学生 重軽傷者複数人1人が意識不明の重体か。」


━━━━数時間前


目覚めた父親の声が聞こえて怯えた少年は慌てて家を飛び出した。


スマホを片手に朝から酒を飲む少年の父親。暫くして酒を飲み干した。


「おーい酒がないぞーぃ」

「お酒もお金も、もうないのよ。」


「金あるだろ?保護費が出てるだろ!!」

生活保護給付金から酒を出せと語気を強めていく夫。


テーブルに置かれた封筒を目に留めるとすかさず手を伸ばす。妻はそれをさほど止める事なく言う。


「それは翔の学校の・・・。」


「学校がおまんま食わせてくれるわけねぇだろ!!翔の野郎おとなしいくせして親の金に手付けんだな・・・。」と封筒を握りしめたまま外に出て行った。


すると母は戸棚に置いてある酒を取り出しグラスに注いだ。テレビを付ける。二日酔いの迎え酒に彼女はテレビをつけたまま眠りに入った。

突如、繰り返されるテレビからの速報アラーム。彼女は酒の入ったグラスを持つと一口で呑み干し速報の内容をぼんやり見ている。昼下がりの突然の速報だった。

《田所京一と美香の供述より》


母は父が・・・いや


彼女はあの人が

お酒を買いに行っていると思ったんだと思う・・・。


せめて、そう思いたい・・・。


だけど違う。


彼はぼくの学校へ向かいぼくに恐ろしい事をしていたんだ━━━━━


[小学校に男が侵入して暴行 複数の小学生が重軽傷か]


再び緊急速報の音が鳴りそのニュースが更新される。


[一人の小学生 意識不明の重体]


その情報が流れるとほぼ同時に臨時ニュースへと番組が変わった。現行犯逮捕の文字と共に映る映像は血のついた夫が警察官に連行されている映像だった。


[一人の小学生 男の子 男の暴行に意識不明の重体]


という文字が何度も繰り返し流されていた。


====================================

『後悔』


怯え冷めきった

クラスメートの無数の目

それが意識のなくなる自分に向けられ

恐れと 哀れみ

それだけ


しかし記憶はない


ぜんぶ━━砂の城・・・


生きてしまっていた

いくあてもなく


死ねなかった黒い闇の中に

一人で

居る


あの人たちの恐怖と

ボクは共存し

もうどうすることもできない


消えなかっただけ


だから

知りたい


ボクが何を

してしまったのか


死ねなかった後悔は

今でも感じる。


時は闇雲に経ち、何事もないように彼の少年の心はただ置き去りになった。


そして、高校生の夏━━━


春、可憐に咲き溢れていた桜も散り今夏には濃く青々とした葉っぱが成長している。遠くに見えるその樹木に網をかけた男の子、遥か遠く澄んだ空へと消えていった蝉の鳴く声。男の子のそばでは若い夫婦が笑っている。

「ようし、パパがまた新しいの見つけて・・・」


人はなぜ笑うのだろう・・・


楽しげな家族を嫌悪に満ちた闇で塗り潰す。


あの子供を殺したい

あの時あいつに殺されていれば

こんなこと思わなかった


膝カックン。

そんな下世話な事をしてくる女子がいる━━美咲みさき

しょう!何ボーッとしてるのかなぁ?ねぇねぇ。」

「ねぇねぇが余計ウザイ。」

「冷たいなぁ、ルックスはいいのに性格が残念なんだよねぇ、翔クンは。」

「お誉めに預り光栄ですが・・・今時、膝カックンしてくる奴に言われたくない。」

「なんか素っ気なくない!?また妹にしか思えないとか言って自分の恋心から目を背けてるんじゃないでしょうね。言っとくけど、翔みたいな過去にこだわりイジケてるガキじゃないし。むしろお姉さんタイプだし。」

「過去にこだわるって何?」

ムカついた。だが感情を誤魔化すように茶化す。

「俺はこう見えてもお前の事ず~っと見てるんだからな。」

「なにそれキモ。はい!!発表します!!翔くんを美咲ちゃん狙いのストーカー第1号に認定しまーすっ!!」

「はいはい。そんな強がるな。どこにいても、ずっと見ててやるからな。」

「おっまわりさーん(笑)」

翔との会話、憎悪や憤怒に憑かれた美咲の心を温かく優しくほぐしてくれている事を美咲は胸の内に閉まっていた。

先に歩き始めて少し離れた翔を見つめている美咲。

「つか、一人にしないでよー。」

声が大きかったのか美咲を見つめる少女がいた。美咲は翔に走り寄って行った。


====================================


『あおば園』


翔のいる施設、毎日行われている申し送りの時のある日、新人研修員からの発言が注目を集めた。

「はい、聞き間違えてしまいました。」

「翔君がそう言ったの?ごめん、その話もう一回最初から聞かせて。」

翔が職員に言葉で返す事は珍しく彼女の話をみんな静かに聞いていた。

「声は小さくて乞音もあるので語尾までは聞き取れなかったんですけど、聞き間違えたような節を翔君が確かに言ってました。」

副施設長の長谷川は壮絶な翔の生い立ちを思い感慨した。


====================================

『蒼と翔』


「蒼!!」

「お兄ちゃん!!」振り返る蒼。

翔の言葉に淋しさを振り切るように走り寄る蒼。聞き間違えをきっかけに翔と蒼の距離は縮まっていった。


「蒼!!」

「お兄ちゃん!!」


「また待ってるのか?」

「今日は翔兄ちゃん待ってた。」


「ただいま、蒼。」

「お帰りなさい翔兄ちゃん。」


「嘘でも嬉しいぞ。オレを待ってたなんてさ。」

「嘘じゃないもん。」


翔はふと蒼が羨ましく思った。ただいま、おかえりなさい、そんな言葉、蒼はとうちゃんとかあちゃんに言ってたんだろうな、と。

オレは一言でも交わすのが怖かったから。


でも今は蒼がここにいる。

そう思うと救われた。


====================================


『長谷川』

蒼と翔、二人を園庭の遠くから眺めている長谷川と鰻屋を営んでいる吉田が立っていた。


「ところで蒼君は里親さんが決まってるって言ってましたよね?」

「そうなんですよ。蒼君はもうすぐこの園を卒業です。」


「あの子はもう決まってるのか。」

少し残念そうな表情を浮かべる吉田。吉田は里親制度について考えていた。


長谷川は続けた。

「翔君が少しでも元気になってくれれば私は嬉しい。特別、翔君に肩入れしているわけではないのですがね。」

吉田は長谷川に相槌のように返すと、長谷川の言葉を待っている。しかし、長谷川は言いにくい事情でもあるのか、二人を見つめたまま険しく口を閉じている。

「何かあったんですか?」

「いえ、翔君のご両親なんですがね、お酒が、」と重い口を開き語り始めた。


苦悶の表情を浮かべたまま、長谷川の話を聞いていた吉田。仲睦まじく蒼といる時には笑顔の滲む翔、逞しく育つ翔の姿に吉田は目が熱くなるのを感じていた。


====================================


『門出』

蒼が里親に引き取られこの施設から出ていく前日、いつもと変わらず蒼と翔が話している。


半ばいたずらに蒼をからかい笑う翔。

つられて笑う蒼がふと見つめた先、壁の上に空き缶が置かれていた。放置された空き缶。蒼はめいっぱい手を伸ばすが蒼の身長ではまだ届かなかった。


「もう・・・少し、なんだけどなぁ」

「どした?何すんだ?」

「う・・・缶・・・取りたい。」


どうしても届かないがあきらめずに力いっぱい全身を伸ばしている。そんな蒼の後ろに腰を下ろした翔。


「よし、肩車しよう。」

「え!?ホントに?ホントにいいの?やったー。」


喜ぶ蒼がますます可愛らしく翔はクールに気取る。

「おお、早く乗れ。」


肩車の思い出は蒼にはなかった。壁の外の風景が視線の下にある。そんな初めての視野に蒼は喜んでいたはずだったが、急に困った声をあげる。


「翔兄ちゃん高い。」


肩車だと逆に蒼の手は缶が下過ぎて届かない。これ以上蒼が手を伸ばすとバランスを崩し落としかねないと思った翔は言う。


「もう~危ねぇからオレが取るよ。」


翔は空き缶をそっと手に取り蒼に渡す。


「ところで缶なんか何すんだ?」

「え!?捨てるの。」


正論を叩きつけられた。


「蒼、お前スゲェな!!」


咄嗟に出た言葉。そっと蒼を下ろすと改めて顔を見る。


「空き缶なんて見てもなんとも思わなかった。ダメなヤツだなオレってヤツは。」

「捨てる人が悪いんだよぅ。でも翔兄ちゃんがいなかったら取れなかった。だからあげる。」

と空き缶を差し出して笑っている。


「かしこまりました。この翔が責任を持って捨てさせて戴きます。」

と翔も笑う。


これは、翔の中にはない世界だった。蒼に比べて自分の未熟な部分が垣間見れた。だが蒼は明日いなくなる。不安を覚えた。


蒼は空き缶のあった場所をそっと見上げて呟いた。

「ママは終わったらすぐ片付けなさい、って言う。空き缶があったら来てくれないかも知れないから。」

もし取れたら両親に会えそうな気がしてた。今はまだ届かなかった。翔の肩車から見た時、遠慮がちな印象の里親の面影がぼんやり胸に浮かんでいた。それでも取りたいって蒼は思った。翔兄ちゃんが取ってくれた。蒼はふとどちらでも頑張れると思った。


====================================


『門出』

おもむろに蒼はリュックのチャックを開き翔に見せた一枚の写真。それはここの施設の子たちで撮った集合写真。


「どれどれ、蒼くんはどこにいるのかな?」

「僕これだよ。」

「うわっマジかよ。少しは笑顔にしろよ。」

「それは翔兄ちゃんの方だよ?」

「え!?これ年少クラスだよね?オレ写ってないはず・・・」

「これだよ?これ絶対翔兄ちゃんだよ。」


園庭で施設の建物をバックに撮った集合写真。蒼が指をさしたのが建物の三階の窓から外を眺めてる人だった。


「オレかぁ?なんか欠席した人みたいになってんじゃん。」

ちょうど集合写真の右隅辺り御丁寧に白い窓枠になっているところは欠席者の写真とよく似ている。

「でも絶対翔兄ちゃんだよ。だからこの写真だけは大事にとってあるんだ。」

「だから持っていくのか?他の写真は?」

「ないよ。この写真だけもらったの。」

「ふーん、そっか。」


翔は嬉しさが込み上げてくるのを感じ抑えられなくなっていた。肩車は、はしゃぎにくい。蒼の背中から脇に手を回して肩をしっかり掴んで蒼をグルグル回す。はしゃぐ笑顔が混ざり合い友愛の色が点る。笑いながら、蒼をそっと地面に下ろす翔。


「目回った。」と笑う翔。

「僕も」と蒼も笑っている。


視界がグルグルして視点が定まらないが蒼に近寄り蒼の顔を見る。蒼の首にそっと手を回しゆっくりと近寄り引き寄せる。頭がクラクラしている。落ち着かせるため、翔は蒼とおでこを合わせた。

「卒業だもんな。楽しかったぞ、蒼。ありがとな。でもこれだけは言っておく、二度と帰ってくんな。」哀しまぎれの強がった言葉、でも里親に込めた言葉。翔は複雑な気持ちになり咄嗟に顔を地面に向ける。幸せになれよ、がこぼれおちた。遠くで蒼を呼ぶ声が聞こえる。胸が苦しくなった。全身に痺れるような感覚が走る。そっと蒼の頭を撫で、蒼のズボンの汚れを払う翔。

「はいっ、悪いなこんな事しか出来なくて・・・って早く行けよ、呼んでるぞ。じゃな。」

「翔兄ちゃん・・・。」降り始めそうな雨に里親さんが傘を開く音がした。そっと蒼は振り返り里親を見る。そして、翔を見つめ頷いた。

「うん・・・行く。」

大きな傘を射した夫婦が園庭の真ん中まで歩いて来てた。蒼がその傘に入るとポツポツと雨が降り始めた。だんだん白んでいく中で小さな青い傘がポツンと開いた。

いい里親さんで良かった━━━。

蒼が傘に入った時、翔に向かってお辞儀した。

翔は立ち上がり頭を下げた。

三人が門を出ていった。見届けた翔は、施設の中庭にその身を隠し翔はそのまま地面に塞ぎこんだ。止めどなく頬を伝い落ちる物も地面を濡らす。雨は強くなっていく。一人でただ体が冷たくなっていくのを感じた。雨が傘にあたる音。人の気配に慌てて涙を拭う翔。わずかな期待を抱き目を開きそっと立ち上がる。ゆっくり目を向けると翔の頭上に傘を差しているのは吉田だった。翔は蒼の去った門の方を見つめる。


蒼が幸せになれる。

それでいい。


黙ったままずぶ濡れの翔に吉田は声をかける。

「よかったらウチに来るかい?」

そう言うとタオルを翔に被せ雨に濡れた頭を黙って拭っている。吉田は翔の幼少期を思うと、いたたまれなく無意識に点頭を繰り返していた。

タオルにより翔の視界は遮られその隙間から吉田の手が見える。その大人の手が自分に向かっている。

幼少の記憶が翔を襲う━━━━

翔は髪を鷲掴みにされ咄嗟にその手を振り払う。それは敵意のない吉田の手。その判断をする能力は翔にはない。大人の手は凶器にしか見えない。崩れ落ちながら走り去る翔の姿。そんな突然の翔の行動に吉田は驚いている。強い雨音が傘の落ちた音を打ち消す。翔の血相を変えた脅えた顔は暗い中に引き立ち強雨の中でも消える事はなく吉田はただその場で立ち尽くす事しか出来なかった。

====================================

『自室』


翔は自室に立ち尽くしていた。恐怖に戦いた動悸はいまだおさまらない。息苦しさを感じ胸を押さえる。ところ構わず片手を付くと棚に置かれた空き缶に触れた。蒼と取った空き缶。ふと窓から見える外を見た。空き缶の置かれてた壁は翔の部屋の窓からは見えなかった。窓から見えるのは少し静かになった雨模様、そして園庭に佇む吉田の姿だった。ひどく落ち込んでいる姿を見て翔は後悔した。だが翔自身、吉田に話かける勇気もなく為すすべがなかった。


ぐっしょり濡れた衣類に寒気を感じ着替えを始める。濡れた衣類をカゴに投げるとそのまま洗濯場へと向かった。

翔は洗濯機の蓋を閉めると洗剤を戻しながら、何気なく見た視野の中に洗濯場清掃当番表が見えた。


「・・・やばい、忘れてた。」


昨日が翔の当番であった。みかんネットに入れられた石鹸で手を洗う。各洗濯機の清掃を始める翔。糸屑ネットには卓球のピンポン程の固まりがたまっていた。

一通り終わると、窓ガラス用と書かれたファイバークロスを手に取った。埃まみれなのを見てため息まじりに水道で洗う。固く絞ると外に回る。雨露で濡れた窓のガラスを拭いていく。

長身な翔だが、上の方は届かない。拭ける所をまず拭いて、後は台を持ってきて拭こう、そんな事を思いながら淡々と進めていく。外側の窓は一通り終わった。手の届く範囲の内側の窓も拭き終わった。翔はぐったりと窓の枠に両手をついた。干場の側にある低木、そこに先程の吉田のタオルが引っ掛かっていた。清掃中、吉田の事を考えていた。翔が振り払ったまま放置されているタオル。


濡れた頭を拭ってくれた・・・


吉田の優しさに自身の臆病さに後悔してやりきれない気持ちでうずくまる。

たくさんの雨を抱えたタオルからまだ滴が落ちていく。

先程の洗濯はもう終わっていた。静かな洗濯機がすました顔で翔を見透かしているようだ。翔はため息まじりにこぼす。

「手洗いするか。」


====================================


『吉田の後悔と美子(よしこ)の検証』

家の事を済ませた妻が店の様子を見に入って来た。濡れた上着をカウンターに置いたまま座っている吉田に声をかける。ボーッとしてても仕方ないと吉田はカウンターの中に入り仕事に取りかかる。だが、頭の中は翔を驚かせてしまった後悔にさいなまれ落ち込んでいるのが一目で分かる。そんな夫に妻は思う。


「そんなんじゃ仕事、はかどらないでしょうに。なんかあったのね。それよりもあなたびしょ濡れじゃない。先に着替えなさいな。」

濡れたポロシャツを脱ぎながら吉田は重い口を開き先程の事を話した。


「ところでなんで翔君は特別児童養護施設に入ってるの?」

「・・・お父さんから虐待を受けてたらしい。他所(よそ)で言うなよ。」

「あら、かわいそうに。それはそうと翔君とあなたはいつ頃知り合ったの?」

当然の質問だった。

だがそんな美子の質問に吉田は凍りついた。ギョロッと飛び出てきそうな程、目を丸くし再び青ざめている。

そして、手を頭にやり震える口を開く。

「まだ・・・だった・・・。」

「はい?」

腰が抜けてとたんに座る吉田は言葉が棒読みになっている。

「とおくからーはせがわくんとー、しょう君とそう君のーはなししてたーだけだったー。」

「え!?じゃ翔君はあなたの事を知らないって事?」

目が点になったまま頷く吉田。

「雨で視界が悪いなか、知らないおじさんが急にやって来てタオルで視界遮ってきて頭掴んで襲って来たって思ってるかも知れないわね。そのまま殴られるとこだったって思ってるわ、きっと。そりゃ逃げるわ。」

早とちりの失敗が全て走馬灯の様に頭に流れる吉田。

「ちょっと・・・横になるよ。」


====================================


『夢』

蒼が施設から出ていってから幾日が過ぎたのだろう。

翔はよく父や母の悪夢に襲われていた。だが今はよく蒼の夢を見るようになった。里親の両親と共に幸せそうに木に網をかけている夢。あの家族の子供や蒼の笑顔が眩しく見える。そして、目が覚める。


蒼はもういない


子供が死んでも笑っていられるのか?


翔は自分の矛盾に寝返りをうち背を向けた


夜は翔の心を落ち着かせてくれる。蒼という者は翔の孤独を破壊した存在、蒼がいなくなり今、翔の精神の中で翔の孤立が恐怖の産声をあげ(こだま)している。


蒼がいた頃は大人はみんな蒼に向かっている。蒼を見る大人はみんな優しい目をしていた。だが俺にはそうではない。想像するだけで恐怖と痛みが甦り内臓が突き上がって喉を塞ぐ。パニックになり俺は自分をコントロール出来なくなる。蒼にあんなに優しかった大人たちもオレは過剰に怯えて苛立たせてしまう。だけどほんとに怖い。


窓に干してある洗濯物、その中の一つは吉田のタオル。そのせいか、うちに来るかいと言った吉田の真意を考えた。ちゃんと話したこともない高校生を普通の大人がタオルで視界を塞いで暴力奮ってくるだろうか?あいつら(両親)じゃあるまいし、あれはただびしょ濡れのオレを拭ってくれてただけだろう。だけどオレは怖かった。きちんと話したいと思う。あの後ろ姿を見せられて放ってはおけない。タオルを返す時に謝ろうと翔は誓った。


====================================


『誓い』

長谷川に声をかけようとするが喉で言葉を呑んでしまう。父親の暴力により命の危険にさらされた翔の記憶はそれが例え全くの別人でも大人に対応する能力が極めて低く対話した経験も少ない。だから長谷川と話す事でさえ躊躇して後退りしてしまう。けれどある時、長谷川が洗濯場の窓を見ているときにそれは起こった。じっくりと外から窓のガラスを見つめている長谷川。その時、咄嗟に後回しにしていた窓の上の方を結局拭き忘れていた事を翔は思い出した。

「あ!す・すみません。と・当番の時、窓の上の方は拭くの忘れてました。い・今、や・やります。」そして、その勢いで翔は誓いを果たす。

「あ・あの、い・一緒によくいた人、あの、ひ・人と話がし・したいです!!」

振り絞って出た言葉、その言葉は僅ながらではあるが暴力の傷痕に抗い始めている事に翔自身気づいてはいなかった。翔がタオルを振り払った件を一生懸命、長谷川に説明した。長谷川はその説明を聞きながら、翔が綺麗に拭いてくれた窓を眺めて良かった、と思った。長谷川自身きっかけを模索していた。洗濯場のノートを見ると翔が窓を拭いた事などが記されており、窓を見ていると翔が話かけてくるのではないかと考えていた。だが、そこに拭き忘れがあり謝罪してきたことに翔の持っている責任感に心打たれる物を感じていた。実際の所、長谷川は拭き忘れには気付く事なく、どうきっかけを作ろうかドギマギしていたというのが本音だった。


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『長谷川メモ』


部活帰り、駐輪場の明かりで長谷川にもらったメモを確認、吉田の家は自転車で通った事がある程度で土地勘は弱い、だけど、幸いその時通った商店街の中にあるらしい。長谷川に書いてもらった地図がそれを示していた。そのままメモは一旦ズボンのポケットに押し込んで自転車を走らせた。

夜遅くに訪問する焦りもあり翔の脳裏にふと吉田が怒っているのではないかと疑念が浮かんだ。そして次第にペダルを踏む足は弱まっていく。


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『月夜の公園』

翔は自転車に跨がったまま不安そうに立ち止まった。月が出ている。


父の暴力から逃げ出す日々の中、月明かりの公園はあらゆるものを幼き翔に見せていた。だが翔は恐怖が紛れる訳もなく疼く傷を押さえながら呆然と居る。しゃがむとお菓子の袋や吸殻が無造作に地面に捨てられ、ペットボトルが風に転がる。

夜も白む頃になると酔いつぶれた父はおとなしくなり、それを待って家へ帰る。通学の時の朝、幼き翔は気付いた。ゴミを捨てられていた公園が綺麗になる。挫けそうな目の先に地域の大人たち。綺麗に保っていることに目の前で初めて知った。翔はそんな地域の人達の姿に父からの痛みと恐怖がほぐされ目に涙を溜める。


━━━━大人たちのもつ矛盾

「おはよう」


じっと見ている翔に声をかけて翔を見ている。慌てて翔も、おはよう、ございます。と返す。


「いってらっしゃい、気を付けてね。」


その言葉にゆっくり頷いた。


━━━━矛盾と違和感に耐えきれず


涙がこぼれた。

「はい、いってきます。」

と言うと笑顔にもなれた。

そんな思い出に蒼の事を思い返す。


蒼は空き缶拾えるタイプのヤツ

蒼みたいなヤツにオレはなりたいな。

まだ、間に合うのかな


「うちにくるかい?」


吉田の言葉。タオルの傍らには冊子がある。翔は再び自転車に跨がりペダルをしっかり踏んで商店街へと向かった。


====================================


『盗撮』

自転車に跨がったまま、夜遅い商店街で佇む少年。少し離れた物陰に身を潜め彼を見つめる男。狙いを定めた鋭利な眼球。手に下げたビジネスバッグをゆっくり置くと中から蛍光色の黄色い帯を取り出して腕に巻く。小さく納まっている三脚スタンドを組み立てセットした。そのスタンドにスマホを取り付け自転車に跨がった少年、翔へと向ける。腕に巻いている帯には測量士と書かれていた。

翔を測量士に扮して盗撮しようとしている男は興奮して不敵な笑みを浮かべている。そしてバッグからレンズを装着した改造された黄色いスマホケースを取り出すとスマホに装着する。ケースについたレンズで離れた場所でもより鮮明に翔を撮る事が出来た。レンズを調整しスマホをズームしていく。画面には吉田宅への夜遅い訪問に焦っている翔の表情が手に取るように分かる。そんな翔の顔の接写が連写されていく。間近で見られる翔の顔に興奮を隠せない男、息が荒く額から汗の滴が浮かんでいる。スマホのモードを動画録画に切り替えると紛れもない翔のリアルな動き、姿が自分の物になっていく。その快感を抑えきれずその欲望を溜め頑なに固くなっていく自分のものに触れた。数粒の汗の滴が落ちていく。そんな時、翔の突然の行動に男は息を呑む。急に電気の消えた店内、驚いた翔は勢いよく店内の入り口へと歩み寄った。店の中から男性の姿が現れ翔の姿に驚いている。盗撮男は咄嗟に思った、父親?男は慌ててスマホを外し三脚を畳んでバッグへとしまった。


====================================


『吉田』

暖簾を片付けようと表に出て来た吉田は翔の姿に驚く。長谷川から話は聞いていたが、今日だとは思っていなかった。だが、翔が来れば必ずやっておこうと思っていた事があった。妻に言われ初めて気付いた事。翔は吉田の事を知らなかった。だからちゃんと自己紹介をしようと心に決めていた。

「わたくし吉田と申します。先日は本当に申し訳ないことをした。鰻を焼かせれば腕はピカイチなんだけど、人の世話焼きとなるとカラッキシで。いつもお節介になっちゃうんだよ、あの時は本当に悪かったね。」


びっくりしたのは翔も同じ。改まって直立し自己紹介を始める。

自己紹介まではなんとか安心して出来た翔だが、謝罪となると急に緊張と恐怖に襲われ吃音が出始める。けれど、吉田の親切な真心は偽りではないと信じ必死にその気持ちに応えた。


幼少の辛い記憶にも向かい自分に礼儀正しく接している翔の姿に吉田は心を打たれている。

「た大変、も申し訳ご・ご・ございませんでした。」

深く頭を下げる翔に目頭が熱くなるのを吉田は感じていた。


「いやいや、ご丁寧にありがとうございます。それよりも言ってくれたら私から行ったのに、こんな夜遅くに悪いね。」

「や夜分遅くなり、も申し訳ございません。たタオルありがとうございます。」

急いでタオルを渡す。


「いやぁ私はいいんだよ。そうだ、翔くんご飯は食べた?ご飯だけは売る程あるから。」

吉田に促され空腹に勝てず翔は吉田のお招きを受ける事となった。


====================================


『自転車三台と街路灯』


店の角を曲がるとそこは袋小路の中にある自宅前。一本の古びた街路灯が灯る。それがいつもの風景、のはずだった。

今は翔が玄関前で自転車を停めている。息子が生きていれば丁度、翔の年頃だろう。なんの変哲もない袋小路のいつもの街灯、翔の姿が息子と重なって後光の差す光の如く見えていた。そして、亡くした当時の事が蘇る。すると後光は一筋の光になり息子一人に向けられる。美子は思っていた。辛かろう、寂しかろう、痛かろう、くやしかろう、自分はどうなってもいいから、そばに行って代わりたい。それが何かの意に反していたとしても育てられなかった悔いの中、美子はそう願っていた・・・。翔が家の前にただ自転車を停めている姿が懸命にいる息子の姿に見えた。

ただもう一度だけ、いやもう少しだけ息子と向き合いたいと思う美子だったが気丈に振る舞い声をかける。

「・・・ショウくん?突然ごめんなさいね。名前は主人から聞いているわ、こんばんは。ささ、あがってごはん食べていきなさいな。」


家の中から翔を呼ぶ吉田の声に中へと入る翔。遠慮がちに美子の後にと美子を促すが、先へどうぞと笑って答える美子。

美子は玄関に入る前、自転車に目をやった。息子の余韻さえ感じられる綺麗に並べられた三台の自転車。特別な思いに美子は目が熱くなるのを感じた。


古びた街路灯、明かりは人々の心の拠り所である。そして人の思いも照らす。美子の心をその明かりは息子の姿に映し出したのかもしれない。けれど、明かりには必ず陰ができ闇が潜んでいる。男のいる死角からも袋小路の明かりはこぼれている。男は心の闇に翻弄されていた。街路灯の映す2つのぼやけた影の一つが翔のものであることに興奮していた。


男にとってあの子に嫌われるのは悲しい。そして顔を知られると、会う事はかなわないだろう。街灯の元で、おやすみなさい、なんて言えたらいいのに、それは出来ない。それでも後ろめたさよりも近づきたい方が勝った。少し離れた場所からスマホのネットマップを開いて翔が入って行った道を探る。ビューの景色から日中に撮影されたものらしい。どうやら鰻屋の店の裏に住居とつながっていて、その玄関らしい引き戸がある。


あの子の自宅?


男の脳裏にそんな期待が込み上げ笑みがこぼれる。そのビューの画像には三輪車に跨いだ男の子が映っていた。


弟?やっぱかわいい。


興奮冷めやまない男はその画像を保存した。


====================================


『夢』

暗室の中で男はデスクのライトだけをつけて写真をみている。翔の画像をカラープリントした写真。緑溢れるソメイヨシノの並木道、その中に翔が写っている。


━━━━ソウ?ショウ?くん


この距離だと聞き取れなかった。


でも


この桜が咲く頃


この桜の下で


そんなふうに


呼べたら


いいな


数十枚ある翔だけが写っている写真を一枚一枚眺めている。


━━━やっとこの子の名前を聞けたんだから。


暗い部屋で一人、翔を眺めていた。


====================================


『屋上』

この場所にも後どれくらい来られるのだろう。高校卒業というハレの日は翔にとっては少々酷であった。住み慣れた施設を出なければいけなくなるからだ。中退しようかとも思う。施設を出るのであれば卒業しても意味はない。今更ながら虚しさが込み上げる。

そんななげやりな気分に陥るのは翔が手に持っていた紙に理由がある。こんな虚しいお節介なお知らせは紙ヒコーキにして飛ばす事にしよう。その紙でヒコーキを折りはじめた。その紙には、田所翔は施設の子と書かれていた。そして、学校の近くの公園で猫の体の一部が見つかったらしい。その犯人がなんたらかんたら・・・。それが学校の至るところにばらまかれている。ため息まじりにこぼす。

「そんなの知るかよ。でも猫はかわいそうだな。」


紙ヒコーキを飛ばした。フラフラと飛んでいく。薄い曇り空の下、生徒たちが手にとって見ている。それを遠くから眺めている翔。目の奥から悔しさも込み上げる。その瞬間フラッシュバックに襲われた。小学生の翔、意識を失っていくあの時のクラスメートたちの目。脳裏によぎるのは怯えて引いてる、冷めた視線。荒ぶりはじめる動悸を抑える翔。


ばらまかれた紙、どうするの?って俺が聞く。

え!?捨てるの。って蒼が嫌味たっぷりな目で俺をからかってくる。

分かってるよ蒼。

今回は俺が正論をブッ叩く番なんだよなww!!


====================================


『旧友』

放たれた紙ヒコーキは曇り空の下、優雅に舞ってグラウンドに落ちた。


本当にお節介なお知らせを一枚一枚拾っていく翔。だが数が多くすでに手に余っている。そんな翔に声をかけてきたのは意外な人物だった。

「お困りのようですね。紙ゴミはこの袋に入れて下さーい。」振り返る翔の顔を見て目を輝かせるその人物は大声で呼んだ。

「翔!!久し振り!!」

その声にその顔に断続的に記憶が繋がる。その声の主はクラスメートの刻斗(トキト)君だった。あの日、アイツ(父親)が教室に入ってくる前、覚悟を決め俺の宿題を手伝ってくれた人。


翔の記憶はまた断続的な記憶と繋がる。


あの時、意識が飛ぶあの瞬間の記憶。たしか号泣したまま、刻斗君は、俺に馬乗りのアイツの前に入り俺の体を庇ってくれた。


ごめん・・・今更だけどごめん。


ふと、こぼれた言葉。そんな翔に何か気づいた刻斗。一気に和らぎ目を輝かせて笑った。

「大丈夫。」

すると翔は刻斗の手を止めた。


「また頼ってしまうからいいよ。」

「それも大丈夫。オレ、探してたんだよ?」


「助けてもらったのに礼も言わずに顔も見せないなんて・・・ごめん、本当にありがとう。だから、もうやめて・・・」


刻斗は翔の言葉を遮って言う。その言葉は苛立って聞こえた。

「オレにだけに言うなよ!!拾ってるのオレだけじゃねぇだろ!!ちゃんと周りを見ろよ。」


刻斗の言葉に翔はうろたえ辺りを見回す。

生徒たちが紙を拾い集めている。


学校の外も生徒たちが拾っていると、行き交う人たちも拾って持ってきてくれる。中には校内で拾ってくれている人も。そんな中、小学生位の少女が翔に声をかける。

「これもお願いします。」

「あありがとうございます。」

翔が振り返った瞬間その明るい言葉は断末魔の叫びに変わる。

屈んだまま振り返った翔。その顔に少女は瓶に入れられた液体の薬品をかけていた。突然翔の顔面を襲う激痛。咄嗟にあてた手にも激痛が広がる。翔は悲痛な叫び声を上げ地面に倒れた。

少女にかけられた薬品により翔は深刻な化学熱傷を被った。それにより胸元辺りから首、顔、頭に全て包帯が巻かれている。

今の翔に眠りは絶望でしかなかった。翔は夢の中でも何度もあの少女に薬をかけられた。その度にのたうち回る自分の姿。何度も何度もかけられて動かなくなった翔の顔は真っ黒に変色して溶けて落ちた。


目覚めてからも激痛は続いていた。定期的なのか、処方される麻酔が僅かな救いではあった。


痛みの度合いや麻酔の関係もあり事件の聴取は翔の回復を待って病室で行われた。肉体的なのか精神的なのか分からないが今の翔は言葉を失っていた。警察官の聴取は[はい]か[いいえ]で答えられる質問に変えられた。言葉が必要な場合は文字で書く。


あの少女は田所 翔子。翔の実の妹だと警察官から聞いた。翔が小学校で父から暴力を受けたのは、翔が学校で暴れてそれを止めるためだった。と彼女は父親から聞かされたらしい。家族がバラバラになったのは翔のせいだと思ったから犯行に臨んだ。父親もつい言ってしまった。と自供したらしい。ただ警察側が調べても父親が妹に発言をした記録は残されていなかった。


警察官は真摯にあたってくれて聴取は無理なく終われた。何人もの方がお見舞いに来てくれて翔はうれしかった。


病院で思う事ではないけれどふと思う。


━━━その思う、が確かなものになるのを

翔は感じた。


家族の思い出はいつも絶望。

絶望が持っている力は凄まじく。

翔の精神を崩壊させていく。


もう楽になろうと。確信した。


翔の通っている高校で事件があったとニュースで見た蒼の里親が長谷川に連絡をとった。蒼が不安がっているそうでお見舞いに行きたい。が、翔の容態を鑑みて後日という大人の事情を取る。

その電話により病院の住所を一旦メモ帳に書き留める里親。少しでも早く翔に会いたい蒼はそれを見て一人で病院へ向かう。

蒼の自宅の最寄りの駅で住所のメモを窓口の駅員さんに見せる。

「ちょっと貸してね。」と駅員さんはスマホを取り出し住所を入力する。そして検索のかかった病院は神原総合病院と出ている。ホームページを見ると住所も合っているのが確認出来た。

神原台駅という駅で降りる事を教えてくれた。


一人で乗る初めての電車に不安になった。けれどそれ以上に不安だったのが翔の事だった。翔が壊れてしまうと思っていた。自分が行ってどうこう出来るわけではない。それでも、あの時の翔が言った言葉。蒼スゲェなって言ってくれた兄を失うのが怖かった。そんな不安を感じていた。


白くぼやけた視界は光があるから。

夜になると消える

闇━━


闇が好き。慣れたからではない。身を逝れる覚悟が整ってくるから。


蒼にもう一度会いたい。涙があふれた。


蒼とは最後会えないか。

間に合わない方がいい。


蒼は幸せになれ


って


言われなくても

なってく・・・

蒼は幸せに


蝉とれた?

父さんと母さんと

蒼もいっぱい

わらった?

よかった


って


思うよ


もう絶ちきれない

手も足も(いしき)も目もこの体に田所の呪われた血が鎖となりがんじがらめに俺を支配しているんだ



目の前にいたらオレが逝く前に殺したい


病院についた蒼。大きな病院で子供が右往左往する中、警備員の人が近寄って来た。

「どうしたの?迷子かな?」

蒼は少し考えて頷く。

「今日は誰と来たのかな?」

蒼は目を輝かせた。その目は明らかに何かを企んでいた。

「お兄ちゃん。」

迷子アナウンスで翔との接触を試みた。

「お兄ちゃんとはぐれちゃったんだね。」

「はい、大きな綺麗な病院だったからビックリして、よそ見しちゃってた、テヘペロ。」

「お兄ちゃんのお名前は言えるかな?」

蒼はそっと頷くと

「田所翔」と答えた。


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『最後の再会』

院内放送が流れた。

「迷子のご案内です。田所翔様、田所翔様、弟さんの田所蒼ちゃんが総合案内カウンターで待っております。」


来てしまったんだ?

蒼━━にわかに手の震えを感じる翔。


遠くから蒼に手をふる翔。

包帯姿の翔が現れ蒼は号泣した。そして翔に駆け寄る。

「ごめんな、心配かけて。つか田所蒼ってww」

「ごめんなさい、ぐすん。勝手に来てしまった。」

涙が止まらなくなる蒼。


「蒼ってそんな泣き虫だったっけ?」

「包帯痛そうで大変そうだからビックリしてるんだ。」

「そっかそっか。ごめんな驚かせて。痛みは薬で止めてるから大丈夫。だからもう泣くな。」

「うん。翔兄が元気で良かった。」

と翔の思っている雰囲気に努めた蒼。

「元気そうで良かった。グルグルする?」

「グルグル?したい!!あ!肩車も!!」

「じゃ屋上でやるか。肩車もいっぱいしてやるよ。」

「やったー。でもケガしてるのに大丈夫?」

「大丈夫。あんま無茶は出来ないけどな。」

蒼が幸せそうで良かったと思いたい。もはや蒼とは生きる世界が違う。ただ蒼が大人になっていくにつれ俺の事なんて忘れて見えなくなっていくんだろうな。何故、俺なのだろう。そんな虚しい存在になってしまうのが何故、俺でなくてはならないのだろう。


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『病院の屋上』

日陰のベンチに座ってノートパソコンで仕事をしている男。二人が来るやいなやイヤフォンを外した。

二人は男に考慮して離れた場所で遊ぶ。けれど大喜びの蒼の声は彼のところまで届いている。男は遊んでいる二人を見ていた。


肩車で屋上から見える景色に感動している蒼。


「次はグルグルな。」


屋上から見える景色に蒼はまるで遊園地に来ているように興奮している。しかし、翔は違った。病院のすぐ近く小さな森の中の赤い鳥居が何度も目に入る。

目の回った翔はフラフラと柵へと寄りかかる。


「疲れた、少しはしゃぎ過ぎた。」

「翔兄大丈夫?」

「うん。」


夜の森で首を吊ろう。そこで絶ち切る。

蒼、お前何故来てしまったんだ?

呪われた本能はお前を殺す、今。


翔は蒼の首に手を伸ばす。喉仏もまだない柔らかい子供の首に徐々に力を込める。

「翔兄ちゃん・・・。」

蒼はグッと目を閉じた。震える翔の手。滾る血が手繰り翔の指は首を締めていく。それに反して蒼の強い鼓動を感じた。その時、突然翔の腕は何者かに強く掴まれた。


「翔君!!」


翔は見た。ベンチに座ってノートパソコンを使っていた男。包帯越しに冷めきった翔の眼球が動く。翔は腕を振り払うとゆっくり立ち上がり蒼に静かに言う。


「蒼ここにいるの伝えておくから長谷川さんに送ってもらえよ。じゃあな。」と立ち去る翔。

「翔兄ちゃん。」


「蒼君だよね?大丈夫?」

「翔兄ちゃん何もしてないです。それより翔兄ちゃん壊れちゃう。お兄さん助けて下さい。」

「どういう事?」

「翔兄ちゃん独り言言ってた。よるのもりで、たち・・・きる・・とか声が小さくて聞こえなかったです。」

翔に触れられた事に興奮さめやまない男はまじまじと自分の手を見つめていた。


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『夜 鳥居のある森にて』


包帯を外している翔。その包帯でロープを作っていた。曇っていた空から月の光がさした。月光により手頃な高さの太い枝を見つける。そこにロープをかけた。上空を厚い雲が通過している。翔はその身をゆっくりと闇に隠しロープに首を掛けた。


もう終わる

父親から受けた暴力

母の無関心

妹の凄惨な事件

この血を絶ち切れる


首をかけながら腕の力でぶら下がっている翔の体。

みんなの目が冷たく感じた記憶。けどそこに刻斗がいた。消えかけていた記憶。みんなあの紙を拾ってくれた。公園を綺麗にしている人達もいる。だけど、蒼の首に手をかけた。家族に殺される俺が大事な蒼に手をかけた。


絶ち切ろう


「ありがとう」翔はそう呟いた。


「いいえー、どういたしましてー。なんて悠長な事言ってる場合じゃない!!力だけは自信ないですから!!」


後ろから怒鳴る声が聞こえた。その瞬間に翔の体は強い力で掴まれた。


「今から舌を甘噛みします!!」


「な・何!?」


理解出来ないまま翔は掴まれている体をむやみやたらと動かす。


「暴れないで。聞いてなかったんですか?舌噛み切って、死にますよ。オレはまだ死にたくない!!」


そう言うと男は渾身の力で翔の体を後方へと引っ張る。翔の手はロープを掴んだままだが首からは離れた。


「お願いだから!!翔君も!!生きて下さい!!」


バランスを崩し二人とも地面へと倒れる。


「邪魔すんじゃねぇよ!!」


翔は男に殴りかかるがその手を止める。そのまま拳を地面に叩きつける。拳の痛みと鈍い音が走る。


「翔君ごめん。」


「生きろとか勝手な事言うなよな!!」


木の間から月明かりが落ちる。男の顔が月に照らされた。


「病院の屋上にいた人?が、なんで?」

「蒼君が心配してた。翔兄ちゃん何もしてないって何度も言ってた。」


翔が顔をしかめるのが男からも見えた。


「何もしてないわけ・・・ないだろ。」

涙ぐんで聞こえた。


「じゃなんでそんな事したの?」

反応のない翔に男は質問を変える。


「なんで翔君は死ななきゃいけないの?」

「全部、血がそうさせる。呪われた血なんだよ。絶ち切るために死ぬ。」

「蒼君の時も血がそうさせたんだね。絶ち切る・・かぁ・・・。」

「あんたと話しててもしょうがない。」

そう言うと立ち上がりロープに手を伸ばす。

「ワンチャン欲しい。」

「ん?」

「絶ち切る方法って他にもあるはず!!必ず!!だから方法見つかるまで待って欲しい。駄目とは言わせない。」

「フッ、チャンスの事か・・・。」

「今笑った。」

「笑ってない、勘違いしただけ。」

「勘違い?つかオレが翔君にとっての最善の方法見つけるから翔君は治療に専念して欲しい。これも駄目とは言わせない。」

「さっきから駄目とは言わせないってなんで上から目線なんだよ?年上だから?そんなに偉いんか?何も知らないアンタに関係ないだろ!!」

「好きだからだよ。年なんか関係ないよ。逆に年の事は言うな。つか好きな人のより良い生き方を考えるのって人としての常識でしょ。だから駄目ではないはず。」

「最初になんか凄い事言ったけど、いっぱい言うから分からなくなった。要するに今は俺、駄目って言っちゃ駄目なんだ?」

翔の言葉に男が何かを言いかけた瞬間、翔が理解を示したように分かったと呟いた。翔の分かったの言葉に男は正直なところ驚いて言葉にならない中途半端な音を発してしまう。

「ぬおぉん」

「ところで、あなたをなんて呼んだらいいですか?」

「名前は根緒輝久(ねおてるひさ)です。根緒でいいです。」

「ネオ?さん」

「はい。ところでさっき勘違いって言ってたけど何?」

「ワンチャンって犬かと思った。」

翔の言葉に時間が凍りついた。


帰り道、根緒が本名であり純血な日本人であることを翔は聞いた。翔は最初海外の人だと思った事を告げるとワンチャンが犬だと思った事も掘り返され腹を抱えて笑う根緒。

今、夜中ですよ、と翔に怒られるのも嬉しくて堪らない根緒だった。


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『根緒の見舞い』


根緒はよく翔の見舞いに訪れていた。5つ離れた根緒はよき兄の様に思え翔は根緒と色々な話をした。だけど2つ気になってる疑問については聞けないでいた。何故、根緒は翔の名前を知っていたのか。あと、1つはどうでもいいのだが、根緒が翔に言った好きという言葉、どういう意味なのだろうか?それを考えると、胸がむず痒くなるので、今は聞かなくてヨシとしよう。そう自分の中で決めると翔はそっと頷いた。

「何考えてたの?」と根緒は尋ねた。

「今は大丈夫な事。それより治療に専念って言ってたよね?俺の火傷ももう痛くないし、もう退院するよ?て事で一個約束守ったよね?」

「火傷跡も治して、綺麗にしていかないと。」

根緒の言葉に翔の顔が曇る。

「いいよ。今の治療費もどうなってるか分からないし。」

「そんな事心配しないで翔は1日も早く治す事だけ考えてなよ。あ、そうだ。治療費も関係あるけど、高校卒業と共に施設出るんだよね?吉田さんが色々調べてるみたいだから、今度話してみるって言ってたよ。相談してみたら?」

「吉田さん?吉田さんと会ってるんですか?」

「うん、

長谷川さんとも話したよ。」


長谷川と吉田と根緒。


翔が昏睡状態の間、病院のラウンジで翔の今後の事を話した。

長谷川は翔の児童施設の副施設長、保護責任者として吉田は翔が頼みに来たバイトを快諾するつもりで雇用主として。根緒は自称ではあるが、翔の知人として語った。

「翔君が今後どのような夢を抱いても顔の火傷跡がコンプレックスになるのだけは避けたい。医療費なら私が負担します。翔君の成長に悪影響になるのであれば働きだしたらお互いに決めた金額を、例えば毎月なら毎月返済してもらうようにする。そうさせて下さい。お願いします。」とソファーから下りて土下座する勢いだったため、長谷川と吉田は重く頷いていた。そして出た長谷川と吉田の結論が、根緒が翔君にどのような好意を抱いているのかは分からない。がそれはそれとして、翔は一応高校も卒業して施設も出て自立しようとしている1人の男だ。その判断は翔自身に委ねたい。との結論だった。ただ、その金銭を理由に翔君に何かを強制したりする様な事は個人的には許せません。という所で着地した。だから今としては根緒は医療費の事は翔には伏せる事にした。


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『吉田屋での翔』


「翔君ごめんね。」

「いえ、麦茶めっちゃおいしかったです。ありがとうございます。」美子に居間に通され注いでもらった麦茶を飲んでいた翔。

「え?そう。そうか、それは良かった。いくらでも飲んでね。ちょっと持ってくるよ。」

「いえ、大丈夫です。そういう意味じゃなくて、なんかいい麦茶かなぁと思って。」

「さぁ遠慮しないで、もうウチの従業員なんだから。」

軽快な音と共に麦茶が翔のグラスに注がれた。

「頂きます。」

「飲んで飲んで。飲みながらで、悪いんだけど、分かる所でいいからこの書類に書いていこうと思うんだけど。」

「はい。」

翔は吉田を頼りに雇用契約書なる物を書いた。分からない事が多かった。自立とは簡単に言うけれどなかなか大変だな、と翔は思っていた。そんな翔に吉田は尋ねる。

「しつこいようだけど、ウチの子になってもウチは全然構わないんだよ。家内とも相談したし。」吉田の言葉に胸が熱くなるのを感じた翔。

「ありがとうございます。でも僕の父親は刑務所にいます。生きています。自分にとって家族や父親って避けるもの逃げるものにしたくないんです。住み込みで働かせて頂いて自分の都合、ばかりを押し付けて申し訳ないのですが、この今の形でお願いしたいです。」目が熱くなり言葉に詰まった。翔の言葉を廊下で聞いた美子が居間に戻ってきた。

「気に入った。じゃ翔君?主人の事これからなんて呼ぶのかしら?主人の元で働く訳でしょ?私はそれに合わせる感じでいくわ。」

「え?(突然の事で考える翔)吉田の兄貴ってどうでしょうか?すみません。」考えて言った割りにすぐに謝る。

「翔君にアニキって言われるのは、悪くないなぁ。」吉田に笑みがこぼれた。

「翔君やってみて。」

と美子が言う。

「吉田の兄貴!」

「オイ、テメェら集合だ。」

「おぉ姉御ー!!」吉田も翔も感嘆している。

「でも、お前それで店まわんのかい?翔君なんか言ってみてよ?」

「えぇ!?う、鰻屋ですよね。え~っと、いきます。兄貴!うな丼入りやした。」

すると、すかさず美子が入る。

「丼はやめな。重にしな!特重に!!。」

すると吉田も続ける。

「へい特重一丁!!ってそれ訴えられるぞ。」

と吉田もノリだした。そして吉田は真面目に考えて言った。

「普通は大将くらいじゃないのかなぁ。」

そんな吉田の言葉に待ってましたと言わんばかりにツンとする美子。

「なぁ、アンタそこに夢や希望それ以外はあるんか?」

「なんだよ?それ。」

すると、翔が考えながら

「愛。女将さん?」

「いろんな人に怒られてろ。」

そんな事を考えていて居間にいなかった妻の美子であった。


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『根緒の部屋 根緒の暴露』


黒を基調とされたキッチンやリビング。その他にも4部屋あり根緒は単身でそこに身を置いていた。


「根尾さん凄い所住んでますね。」

「そこら辺、適当に座ってて。何飲む?お酒?」


四角い角張った長方形の黒いソファーに翔は言われた通り適当に座った。すると、先ず触れたお尻それから腰と柔らかく包み込んでいき丁度楽に座れる姿勢でしっかりと安定するソファー。座った瞬間はまるで空気椅子に座ってしまったみたいに後ろに倒れそうになった。実際びっくりして声をあげてしまった翔。

「なるよね。」と根緒が満足気に笑う。そして

かわいい、とつぶやきながら氷の入ったアイスペールを置く。

ソファーに興味津々の翔に座り心地いいでしょ?それ。と言う。

「で、何飲みますか?」と続ける根緒。

「お構い無く。」と翔。

「素っ気ないなぁ、怒っちゃった?」

「素っ気ない?え?じゃ麦茶。」

「じゃ麦茶。フフフ、いいね。じゃ麦茶。」敬語じゃなかった翔の言葉が嬉しくて独り言で真似る根緒。

「昨日吉田さんの所に行ったんだけど、そこで飲んだ麦茶がおいしくて。鰻屋さんだからこだわってるのかな?それ聞くの忘れた。」

「だから麦茶?ウチにあるのは普通に売ってるやつしかないけど、それでいい?」

「あ!なんでもいいです。」

「まだまだ遠いかぁ。」敬語に戻った翔にそんな風にぼやく根緒。

鰻屋で吉田さんに雇ってもらう事を根緒に話す翔。

「翔君が働いてるとこ食べに行ってみたいな。」

「仕事に慣れたらね。」


翔はそっと根緒を見て言った。

「ちょっとトイレ行っていいですか?」

「いいよ、トイレはここだよ。」

トイレまで案内してドアを開ける根緒。ドアを閉めると翔の独り言が聞こえた。

「ウワーなんだこのトイレ。異次元の世界だな・・・・・。」翔のトイレの独り言に笑いながら、円柱タイプのグラスにアイスペールの中の氷をトングで取り2つのグラスに入れていく。そして麦茶を注ごうとした時、翔の独り言で笑ってこぼしそうになる。たまらず根緒が声を張って言う。

「もう笑っちゃって麦茶こぼしちゃうからー。」

「え!?まだおしっこしてないですよ。こぼしてないですよ。」そんな翔の言葉に根緒はたまらず床に転がって腹を抱えて笑う。

翔が用を済ませてトイレから出てくると余計笑いが止まらなくなった根緒。

「なんでそんなに笑ってるんですか?でも根尾さんって凄いですね。家、豪華です。」

「翔君って面白いね。」と言った時、自分も翔に距離がある言葉を言ってることが気になった。そして根緒は続けた。

「これからは翔って呼んでいい?」

「全然いいですよ。年上だし。」

「翔も敬語やめない?なんか窮屈でさ。」

「思ったんですけど根緒って言いにくいんですよ。」

「なんで?」

「なんか偉そうに言ってるように聞こえる。呼び捨て感が強いと言うか。」

「子供の頃はネ・オ↑ってオを上げる感じで呼ばれてたかなぁ」と敢えてアクセント強めで言った。

「ネ・オ↑」翔の素直な仕草や声がピュア過ぎて根緒は再び笑い地獄に陥りそうになり鼻をクスクスさせて笑う。そんな笑い地獄も軽く吹き飛んでしまう物を根緒は抱えている。本当の地獄に叩き落とされる事を覚悟していた。


根緒は好きな翔を前に罪の意識に耐えられなくなっていた。


「翔、麦茶入れたよ・・・、はい。」

「ありがとう、ネ・オ↑」

笑いながらも目が潤んでいる根緒。

「ちょっと飲んでて。」

体が小刻みに震える根緒。根緒はリビングの隣の部屋から奥の部屋へと入っていった。リビングの隣は家で仕事するときの所謂仕事部屋。そしてその隣は翔を盗撮した画像をプリントしていた暗室。数枚の翔の写真は棚や壁に飾られていた。動悸と共に慟哭が止まらなくなる。声を張り翔を呼ぶ。過呼吸に陥る根緒。でももう嘘はつけない、盗撮、ストーカーの自白を決めていた根緒。

「ごめ・・・、翔。」根緒の呼吸は痙攣して苦しそうだ。

「大丈夫ですか?どうしたんですか?」

心当たりのない自分が写っている写真がいくつも目に入ってきた。翔は気になったがそれより急にうずくまって震えている根緒が心配だった。

「大丈夫ですか?どこか痛みますか?」

咽び泣いて言葉にならないが絞り出す根緒。

「・・・盗撮・・してました。」

ハァ・・・。翔がため息を吐いた。翔はショックで、呆れて、言葉もない。根緒はそう思っている。

卑怯だと思った、自分があまりにも卑怯な人間だと今気付いた。惚れた人の弱みにつけこみ親しくなり自分の罪の意識から現実を相手に押し付ける。全てが卑劣極まりないと思った。


そっと翔は根緒の背中をさする。

「分かりました。それで体調は大丈夫なんですか?」過呼吸や嗚咽が止まらないまま根緒は繰り返す。

「ヒッごめヒッんなさい、ヒッ盗撮してましたヒッ。」

「体調壊したのはそれなんですか?」

「ヒッ・・・盗撮・・つきま・・とい、ヒックすみません・・。」

根緒の返事にその場を後にする翔。

翔の去っていくのを感じ大事な人を失った現実に耐えられなく咽び泣くことしかできなかった。根緒が過呼吸に陥る中、翔の声が聞こえる。根緒の横隔膜の痙攣は激しくなり翔の言葉を捉えられない。だが、翔の根緒を呼ぶ声は次第に大きくなり根緒の痙攣を抑えていく。翔は諦めたのか戻ってきて根緒の背中に手を置き優しくさする。そして落ち着いていく根緒にネオの部分以外は優しく囁いた。

「ネ・オ↑。ティッシュとかそういうのないの?根緒の部屋何もない。」何故かネオだけは声がデカイ翔。

「ヒッごめんヒック・・・。」

フラフラする体で何かにもたれながら立ち上がると翔が体を支えた。

「ヒッヒッ涙や鼻水ヒック翔についちゃう。」

「ティッシュとかタオルとか置いてないの?とりあえず麦茶飲んで落ち着いて。」

ポケットからハンカチを取り出すと一旦それで顔を拭いた。翔が持ってきてくれた麦茶を受け取るとゴクゴクと一気に飲んだ。

「まだ飲む?」と麦茶のボトルを持ってきて根緒のグラスに注ぐ翔。

「ありがとう。」と根緒はまた一気に飲んだ。

「まだいる?」

「大丈夫、ヒッありがとう。ヒックちょっとトイレ。」

泣きすぎて頭がボーッとする中フラフラとトイレへ向かう根緒、横で翔が支える。

「ヒック恐くてもう言いたくないけど、その時のヒッ翔たちの会話でヒッヒッ、名前ヒッヒッヒックなま・・え知った。」また溢れる根緒の涙。

「もうその話するのやめよ?トイレ行くんでしょ?」

根緒はトイレに入るとトイレットペーパーで鼻をかむ。ぼんやりする中、もう一度鼻をかむ。トイレを流すと翔が不安そうに待っていた。

「大丈夫?」

「大丈夫。だいぶ落ち着いた。」

麦茶の置かれたテーブルを挟んで向かい合って座る二人。切り出したのは根緒。

「ごめん、泣いて・・誤魔化すつもりとかじゃ・・・」言葉にすると涙が止まらなくなる。どうしたら意思が伝わるのか分からずパニックになりそうな根緒。

「その話はもういいよ。」

「え?オレ・・・翔を盗撮してたんだよ?」

「じゃこの話は今日はもうおしまい。またネ・オ↑のタイミングのいい時にしよう。」と言う翔だが何か思い出したように付け足す。

「でも俺以外の人は駄目だからね・・・。」嫉妬しちゃうからと、つい言いそうになって焦る翔。

「他の人・・・?盗撮自体もうしないよ。こんな醜態さらしたの初めて。自業自得だけど。それくらいやっちゃいけない事なんだなぁって思った。ごめんなさい。」と改めて謝る根緒。

「うん。」

「え?今まで通りでいいの?」

「うん。」

安心したのか根緒の目からまた涙があふれていた。さっきの涙とはまた違う涙を流れた。


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『遠き日の人 (カケルくん)』


最近の翔は何かを1人で抱えている。まぁ元々家族の事で果てもなく悩み続けてる。それはそれで、いつもならネ・オ↑と声をかけ聞いて来るんだが最近は一緒にいても元気がない。と、そんな思いに更けながら黙々と会社で仕事をする根緒。

「今日会って聞いてみるか。」と呟く。

そんな時、公衆電話と表示された着信が鳴る。出るとそれは翔だった。

「どしたの?」

「ネ・オ↑今日会えないかな?会ってお願いしたいことあって。」


会話のトーンは、ま、フツーだな。

取り越し苦労か、良かった、良かった。

でも翔が会いたいとかヤバいな。

それに翔にお願いされると

なぁんか

ワクワクするんだよなぁ


「え、お願いってなに?」

「スマフォを使わせて欲しいんだけど、スマフォのカメラを使わせて欲しいです。」

「へぇ翔が何撮るの?」

「前に話したことあると思うけど、蒼と一緒に拾った空き缶。撮りたいんだけども・・・ダメかな?」

「えぇどうしよっかな?」

「今日なんか予定あるの?」

「ないよ。」

「じゃ少しだけ貸して、撮ってコンビニでプリントしたらすぐ帰るから。」

「ウチのプリンター使えばいいじゃん?でもすぐ帰るとか言うんならスマホも貸さない。」

「えぇ~ネ・オ↑~?

だってネ・オ↑忙しそうだから。」

「忙しいよ、翔と会う時間をいっぱい作りたいから忙しいww」


子供か俺は。


1人で照れ笑いの根緒が続ける。

「18時にはウチにいるけど、外で待ち合わせる?」

「18時だね。その頃に行くよ。」

その時電話の硬貨の落ちる音がした。

「アァァアァッーもう切れちゃう。プツッツーツーツー。」

「(一旦スルーして)じゃまた後でね。」

「(スルーされて)あ!うん。スマフォ貸してね。」

「はいはい。気をつけてな。」

電話を切った。


夕方

根緒のマンションのエントランスで根緒の部屋を入力している翔。暫くして根緒の声がした。

「待ってましたぁプツッツーツーツー。」

「ネ・オ↑~?切るなよ、開けて~。」

というと扉が開いた。根緒の笑い声が響いてる中でインターフォンが切れた。翔もつられて笑った。


部屋に入ると根緒はすでに空き缶を撮る背景を幾つか部屋にセットして用意していた。

「えっと~前に聞いたかな?重複してたらゴメン。撮る目的は?」

「目的?・・・遠き日のあの人に手紙を書く。それに同封しようと思って。」翔の言葉に一瞬ドキッとする根緒。

「仕事でイメージ画像とかで撮る事あってその物とか目的に合うように設定とか考えちゃうから聞いた。もっとラフでいいならどこでも自由に使っていいよ?はいスマホ。じゃなくてスマフォ()

「ありがとうございます。」大事に受け取る翔。

「スマフォなんだか緊張するな。」

「スマホ持てばいいのに。じゃなくてスマフォかww。翔の買おうか?」

「いえまだ大丈夫です。なんかあったらネ・オ↑に借りるから。」

「俺は嬉しいけど、翔不便じゃない?」

「吉田さんでお給料頂いたら買います。ネ・オ↑も一緒に来て下さい。」

「やったー。」

「何がですか?」

「デートみたいじゃない?翔といっぱい話せるし。ところで翔、吃音治ったんじゃない?触れていいのか分からんから触れなかったんだけど。」

「はい、特に大人の人と話す時、差し支えないように何事もないようにって考えていたのでだんだん吃りが出てひどくなっていった。色んな人と話ていると、そんなに怖い人ばかりではないんだぁって落ち着いて話せるようになって。ネ・オ↑と会ったとき位からです。ネ・オ↑のおかげですね。」

「嬉しくて涙出そう。」

「ちょっと潤んでるじゃないですか?ネ・オ↑も涙もろいですね。」

「翔といるとね。ところで遠き日のあの人って誰?蒼君?」

「いえ父です。」

「へぇそうなんだー。ってえ?お父さんに空き缶の写真送ってどうする気?」

翔は根緒の言葉にうつむき答えていた。


「じゃ俺は翔を見守るって事で。あ!そうだ。見て欲しい画像があるんだけど、今いい?」

「うん大丈夫。」

根緒はネットマップのビューの保存していた画像を翔に見せる。

「この子、吉田さん家のカケル君だと思う。居間に飾ってある写真に似てる。」

「吉田さんこんな小さいお子さんいるんだ?」

「幼い頃に亡くしたって聞いた。」

根緒はパソコンを操作して言った。

「画質が荒いから少し修正して確認しやすくした。一応カラープリントしておいたよ。吉田さんに見てもらう?」

翔は頷くと一枚の写真を受け取った。


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『翔くん』


根緒が言うにはカケル君が写っていたのは住宅だけの袋小路。時代の変化があまりなく更新されなかったのが幸いしてこの当時のまま使われているんだと思う。そこに幼くして亡くなってしまった子がこんなに元気に写っているのは奇跡としか言いようがない。

翔は根緒から聞いた話をそのまま吉田夫婦に話した。

「これはカケルだね。この三輪車はこれだよね。」しまってある三輪車を吉田が出してきた。そして、着ていた服やズボン、サンダルを美子は用意してきた。手入れされていて綺麗ままのカケル君の思い出たち。写っているカケル君がより一層笑っている。

「この写真もらってもいいかな?」遠慮がちに吉田が尋ね、慌てる翔。

「もちろんです。そのために持ってきました。」

「もちのろんですってあなた。ところで翔君。もう1つ、もちのろんを頂きたいんだけど、いいかしら?」

「・・・もち・・の・ろん!!です。」

「あら!ここじゃないのよ。ごめんなさいね。直接言えば良かったわ。翔君のショウの字はこの字じゃない?」と美子は翔の文字が書かれた紙を見せた。

「あ!はい。そうです。」

「あら!ヤだ。ここよ。」

翔は再び紙を見て

「もちのろんです。」

「やっぱり、良かったわ。」

「もしかして、カケル君も同じ字ですか?」

「もちの?」

と美子が言うと三人、声が揃って

「ろんよ!!」

三人でどっと笑う。そして翔は目を輝かせて言う。

「僕、(カケル)君のお墓参りに行きたいです。」自分の言葉にハッとする。

(カケル)も喜ぶわ。」

美子の言葉にうつむく(ショウ)

「すみません。」

その言葉に静まる中で(ショウ)は続ける。

「僕は」

うつむき目を閉じる。

「自殺未遂しました。」


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「墓参り」


見晴らしのいい小高い丘に幾つもの墓石が立っている。(ショウ)は振り返り景色を眺めた。時が巡り巡ってこの街並みがある。この街で生まれて育って少しでも多くの楽しい思い出を作って生きた(カケル)君、亡くなってもこの街の人達といる。そしてここにいる。


俺は━━━

過去の暴力にさいなまれ

死を選んだ

そしてネオに助けられて

気付いた

人に助けてもらう事の

必然を


吉田は(ショウ)の自殺の自白を受け入れた。(ショウ)は命を軽んじた事で墓参に後ろめたさを感じた。だが吉田夫婦は言った。

「それでも、だからこそ、来て欲しい。」


その言葉に深く頭を下げる(ショウ)

「ありがとうございます。」


色んな人からもらった救われる気持ちは今ここにある。

ショウはカケル君の墓前にカケル君の生きて残したその存在意義と思い出たちに感謝し敬意を示した。


ショウはゆっくり目を閉じ手を合わせた。


学ラン姿で手を合わせる(ショウ)を静かに見守る吉田夫婦。そしてその隣でそっと息子の墓前に手を合わせた。

暫くして最近、明るくなった妻に何かあったのかと吉田は尋ねた。

「わたし?」と言うと美子は頷いた。そしてゆっくりと話始めた。

「悔いても仕方ないんだけどね。後悔しかなかった。(カケル)の亡くなったあと。育ててあげられなかったから。私が生きてても意味がない。」

「そんな事思ってたのか。」

「でもウチの前で初めて(ショウ)君見た時、(カケル)ももうこの年頃かなって思ったら元気が湧いたのよ。ありがとうカケル、ショウ君。」

美子の言葉に吉田は深く頷いた。

「ありがとうカケル、ショウ君」と美子の言葉をたどり謝意を示した。そんな二人に(ショウ)は敬意はらう。


雲がゆっくりと流れる空は次第に赤らみ始めて夕焼けが綺麗に映えていた。


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(あの人)への手紙』

過去を振り返っても不思議と恐怖は感じなかった。


━━━━だが


(ショウ)の中に

何かが込み上げているのを

感じていた━━━


翔の手紙を雑に受け取ると京一は、一度床に放った。

その夜

同封してある空き缶の写真にも文章が綴られていて、それも静かに読んでいた。


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『面会』


長めに伸びた前髪が(ショウ)の鋭い視線に垂れた。父の顔を見た翔は恐怖ではなく怒りに満ちていた。


「面会受けてくれて、ありがとう。」

呟く翔に頷く京一。


誇張のない親父。昔より小さく見えた。

そんな親父を見つめて翔話し始めた。

「オレは小学生にも満たない子供からモラルを教わりました。だから!!」そこまで言うとゆっくりと立ち上がりアクリル板を叩き、声をあげる。

「親父!!」

翔の大声に刑務所の職員が振り返り注意を促す。

「すみません。」うつむいたまま職員に振り返り謝る京一。

続けて謝る翔。


そして翔は立ったまま続ける。

「親父が!!俺にあの空き缶どうしたらいいのか教えてくれよ。躾してくれよ!!」涙を拭う翔を見つめて、じっと聞いている京一。

「みんな色々教えてくれた支えてくれた。だけど親父しか、親父だから出来る事がある。何も知らない俺に教えてくれよ。息子だから。家族だから・・・」

立ったまま静かにすすり泣く翔。

「座ってくれ翔。気持ち分かった。ありがとうな。父さんって言っていいのかな。」垂れた前髪をかきあげることなく静かに聞く翔。

「父さん、モラルとか躾とかちょっと苦手でな。」少し翔の顔が上がり髪の隙間から見えた目は鋭く父親を睨んでいた。

「いや聞いてくれ。今、何をしたらいいのか正直なところ分からないんだ。でもな、しておかなくてはいけないのが一個あるんだ。」と言うと振り返り職員に頭を下げる。

「これから言う事ちゃんと書き込んでおいて下さい。」京一は翔の目を見て話した。

「翔子の事だけど俺は嘘をついた。翔が学校で暴力を奮って俺が止めに行ってあんな事件を起こしたって翔子に言ってしまったと言ったが、あれは嘘だった。娘を庇いたかった。それ位しか父親として出来なかった。でも今日、翔の話を聞いて分かった。娘にちゃんと嘘偽りのない償いをさせていつでも戻って来られるように待ってやらなきゃいけないな。それがウチの家族なんだな、と。ヨソに比べたら情けないのかも知れないが。」

その言葉に翔の怒りがほぐれていくのを感じた。


京一が面会室から出ていく時振り返り言った。

「あの・・・顔のケガも良くなってよかった。」

翔は長い前髪をかきあげることなく疲れた目を京一に向けていた。

「ありがとう。」

その言葉で口をつぐむ翔。京一の出ていくドアが閉じる寸前に京一を止めた。

「オレ鰻屋で住み込みで働かせてもらうことになったから。」

「そっか、よかったな。そっか、ちゃんと頑張れよ。」噛み締める様に繰り返す親父の気持ちは嬉しかった。

「親父も、な。」


今の父親に湧いていた怒りがそういう怒りだった事に翔は初めて気付いた。家族バラバラだと更正も難しいと思う。少しでも前に向いて欲しいから湧いた感情が翔の怒り。


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『子猫についたちっちゃなハート』


根緒にとって待ちに待った日、(ショウ)がスマホ、じゃなかったスマフォを買う日がやって来た。楽しみにしてて夜も眠れなかった。だが、ふと思う事だが、翔との事は俺の片思いで納まりそうだ。翔は未来あるし女の子にもモテるからな。なんとなく笑っている翔を近くで見られるだけでいい。そう思うと矛盾して涙が出る。


人の多い駅前、ふと思ったが連絡の取れない人と外で待ち合わせるのは何年ぶりだろうか?かなり不安だ。

そんな根緒の心配をよそに、この人混みの中、呑気に大きな声で根緒を呼ぶ翔が現れた。

「ニャーオ☆ッ」(根緒にはもうこんな感じに聞こえる。)手を振りながら走り寄ってくる翔。

「今日はいつもに増して元気だな。よかった。念願の初スマフォ()日和だな。」

「ニャオ☆はいつもスマフォ()ってからかうけど、スマートフォンでしょ。間違ってないよね?」翔が気付いてた事に笑いを隠せない根緒。

「アハハハ、ごめんごめん。じゃオレらの中ではスマフォな。ところで書類とか大丈夫?」

根緒に書類確認してもらい安心した翔は呟く。

「ニャオ☆の宿題はどうなってるんだろうなぁ。」

「え?宿題?・・・宿題って、と盗・・撮・・の件?」途端に不安に陥る根緒。

「違うよ。オレが命を絶ち切るよりも他の最善の方法の話。」翔の言葉にそっと胸を撫で下ろす根緒。

正直、根緒は父との面会がその方法の一つで宿題解決と思っていた。だから宿題考えていなかった。が全て翔が自ら出した答え。沈黙の根緒を見つめて翔が言う。

「あのね?これ見て?」

と頬を指差す翔。

「え?あ!なんだ。まだ傷跡白く残ってるじゃん、小さいけど。これもちゃんと治してもらわないと。」

「これ、このままがいい。オレとニャオ☆だよ。」

「頬の傷跡が?なんで?どういう意味?」

「白いハートになってるんだ。」

と自慢気に言う翔。

「あぁほんとだ。」

「新しい宿業。オレとニャオ☆の。」

と言うと翔は、そのハートの傷跡を指差すと笑みを浮かべる。ちょうどエクボのところにある小さなハート。そして翔は唇を尖らせる。

「うん?なにやってんだ?」真意が読めず戸惑う根緒。

「チューだよ。」

「チュ、チュー?翔!お前何言ってんだよ。こんなところででそんな事〇■#%※▼◇だろ。」パニックになっている根緒。

「えぇーオレたち付き合ってるんだよね?」と言うと、ふてくさって頬がふくれている。小さな白いハートのほっぺでふてくさると10,000%超可愛いい。そして、オレたち付き合ってるんだよね、その翔の言葉に根緒の心の中は、あらゆる花で満開となった。完全に恍惚してしまった根緒。頭の中までお花畑になっている。


桜大満開の並木道の下

「翔。」と大声で呼ぶ根緒


夢が叶った━━━


目の前にいる翔はびっくりしていた。

「うるさ。ニャオ☆ーッ目の前で大声出さないでよ。どしたの?急に。」

「ゴメン。ボーッとしてる。」まだ放心状態から抜けられない根緒に電話が鳴った。

「長谷川さんからだよ~~。」

「今日、ニャオ☆といるって言ったからかな。」

お花畑から戻れない根緒はスマホを翔に渡す。


「長谷川さん?翔です。え?父が・・・前向きな態度で・・・警務作業も・・・いえ、ずっと連絡とってくれた長谷川さんのおかげです。僕や父は長谷川さんやみんなに支えられて、ありがとうございます・・・・」

人が更正して変わるという事がどれほど大変な事か長谷川はあおば園を卒業していった子供から身を持って学んでいた。翔の父親が更正するのに翔という息子の存在は大きく、面会はいいきっかけになった。それを長谷川は翔に伝えたかった。

そして、長谷川の話が母の話に変わるとその空気が一変する。

「母にも近々会えるんですね・・・はい、分かりました。え!?母が自傷行為を・・・繰り返しているんですか?はい・・・。翔子の里親さんからの手紙?はい、分かりました・・・母の自傷行為と関係が、・・・」

一方お花畑の中の根緒は輝き溢れる桜の木の下、翔の声にすっかり聞き惚れて淡い未来を思い描いている。

今の幸せがずっと続くことを淡く夢見ている根緒でした。


《完》

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