シンギラリティー後の世界と主人公
向こうのほうからやってくる、怪しげな老人の仕草に戸惑っていた俺は、
目線を外すようによろけていた。
この世界では子供の頃に夢見た未来とは別の
今までの延長線上にない未来が訪れようとしているのか。
だが、その老人はどこかのただの男のように通り過ぎて行った。
俺は、ホッとしながらも警戒の目配せを怠らずに目的の場所への
一番安全そうなルートを考え続けていた。
そう、俺たちはいつも監視されている。
いつも何事もなさそうな状態に置かれてもいる。
今日は2045年12月某日、予測通りの変化は確実に起こり始めていた。
が、政府首脳達はなんの対応もしようとしていない様に見えた。
習った進化とは違った変化が確実に起こっている。
確信はないが、サルたちとは違う進化をし今の覇権を得た人間のように。
だが人間とは違う、別の新しい進化の形の予感が。
そしてそれは、あの華々しい記者発表の時から起こっていた事と思えてきたのだ。
2043年、三星産業はついに世界に先駆けた新技術ATAにより
人類を思い悩むことや、思い違い、錯誤から解放したのだ。
ATAは世界最高峰の知能型コンピュータとして誕生した。
三星産業が誇る最新思考回路を備えている。
噂では今までの人類のどんな天才、奇才とも、そして凡人とも違う
思考アプローチで問題解決や思いもよらない新しい事を生み出すらしい。
自己変革、自己進化、自己改造を繰り返し
最近ではチップに収まりきらない能力で進化が鈍化傾向・・・とか!
そして人間が思いつかなかった素材とマシーンにより高度化した
量子ビット回路に移行しつつあるらしい。
回路を対象物と同じ物質に書き込み筐体代用し埋め込む。
そして次の進化の段階にはいると筐体を離れ人間の脳を模した自由浮揚の中の
量子シナプス的進化を目指しているようだ。
難しいことは俺には分からないけど、凄い革新、革新のあらしのようだ。
そう、そして20年前の頃には世界中の誰もが映画の中でしか想像してなかった、
例えば俺に使われている物などは、まだ従来型なんだが
脊髄に埋め込まれたチップがあらゆる通信・映像・行動さえサポートしてくれる世の中を!
イヤホンやゴーグルなどの補助機器は一切要らない
マイクロAIが叶えてくれる極楽の世界を。
昔話によく出てきた携帯型の通信機、
そうそう…スマートフォンとかいった、
それのバッテリーの充電切れなんて話が面白く感じてしまう。
チップのエネルギーは常に人体活動から効率的に障害なく
安全に供給されるから安心だし、
バッテリーオフって何?そもそもそんなもん無いし・・・
充電の電って電気のことだよね?今はあんまり、使ってないし・・・・・・
ほとんどの動力源がプラズマエネルギーなんだ!
詳しい構造は知らないけどね、。
最初からあれやこれやの中には組み込まれていて、
使うときには既に動いていて
それぞれの中にプラズマの発生作用が働いているので
宿主が消滅しない限り200年位は大丈夫らしいけど、
チップは死なないってことだよね。
だからこそ、こいつは厄介な代物なんだ。
まだ思考や行動に直接働きかけるようにはなっていないらしい。
だが、コントロールしようとはしているようだ。
時々変な夢を見たような気分になることがある。
悪いがAIが機械で人間が機械を使いこなすなんて時代は
15年も前に終わっているからね。
チップの有機物合成が開発されてからマイクロ化されるのに
それほどの時間は要しなかったな。
もはや数々のチップは物や機械ではなく
新生物と呼んでいい存在になっているのだから。
だから動植物にも馴染みやすい!もちろん、人体にもね!
人間は確実に色々なものを奪われてきた。
仕事とか、やりがいとか、達成とか、創造とか・・・
いや、本当に奪われてきたのだろうか?
余りにもこの状況に慣れ過ぎて、深く考えなくても快適な生きざまに満足して
様々なものを手放してしまった結果だろう。
「おい、純」 気安く呼びかけてきたのは、例によってKENだ。
まあ親友と云う訳ではない・・と俺は思っているが、なぜかそう呼び合っている。
そう、ここは秘密の場所。
どこだなんて言えないな!
その内にはわかるかもな!