良い子達とは限らない
宿での睡眠を取り、今回のログイン二日目を迎えた。
くみみとの約束の時間にはまだ随分と余裕があるから、作業館に移動して朝飯を作る。
ただ、いつも通り無料の作業場を選ぼうとしたらセイリュウに全力で止められ、お金は自分が出すからと個室の利用を勧められた。
やたら熱心に勧められたから個室にしたけど、なんで普通の作業場じゃ駄目なんだ。
「トーマ君は良くも悪くもマイペースだから、何の拍子に何を作るか分からないからね。一緒にいるなら、私がしっかりしないと」
なんかブツブツ言ってる。大丈夫か?
少し不安だけど、とりあえず朝飯を作ろう。
使うのは昨日のシカのバラ肉同様、ミヤギの所で買ってアイテムボックスへ入れっぱなしだったイノシシのロース肉。
それとキャベツとジンジャーとストックのパン、そして昨日作ったマヨネーズ。
まずはジンジャーをすりおろし、イノシシのロース肉を薄切りにして漬けておく。
この間に飲み物の仕込みをするためボウルへ牛乳を注ぎ、昨日作ったドライシュトウとドライブルットとドライシュウショウを浸し、牛乳を吸って戻るまでおいておく。
乾物は戻ったら膨らむから、入れる量はそれを考慮するのが注意点だ。でないと戻った乾物が溢れてしまう。
飲み物の準備をしたら生鮮なる包丁でキャベツを千切りにして、バットへ移しておく。
次はフライパンを温めて油を敷いたら、ジンジャーに漬けておいたイノシシのロース肉を焼く。
「ジャジャジャッ、ジャージャー♪」
おっと、隣で踏み台に乗って調理を見学しているイクトから、調理音での微妙な音程の歌が始まったぞ。
「どうしてイクトの歌は、毎回微妙なんだよ」
「えぇっ!?」
ははっ。このやり取りはすっかり定着しているな。
隣でなんでどうしてと困惑するイクトに微笑みつつ、焼けた肉へ塩と胡椒で味付けをして皿へ移し、冷めないうちにアイテムボックスへ入れる。
そうして肉を全部焼き終えたらアイテムボックスから焼いた肉を出し、ストックのパンに切れ目を入れる。
そこへスプーンでマヨネーズを塗り、千切りのキャベツと焼いた肉を挟めば、コッペパンサンドの完成だ。
焼肉とキャベツのコッペパンサンド 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:7 完成度:88
効果:満腹度回復12%
HP最大量+20【2時間】 器用+2【2時間】
コッペパンでキャベツと焼いた肉を挟んだサンドイッチ
作るのはそれほど難しくないのに美味しさ抜群
切った断面に塗ったマヨネーズが隠れた味の立役者
これを包丁で三つに切って、一つを味見する。
ジンジャーの風味とピリッとした辛みが利いた肉、その肉の脂が千切りのキャベツとパンで中和されて、マヨネーズが全てを一つにまとめて美味い。
説明にもあるけど、さほど手間をかけた訳じゃないのにどうしてこんなに美味いんだろう。
料理は手間を掛ければいいってわけじゃないのは分かっている。
でも本当、なんで簡単なのに美味いんだろう。
さてと……。俺の味見は済んだから、触覚とレッサーパンダ耳をパタパタ動かしながら味見させてと目と訴えてくるイクトと、無言かつ無表情で味見したいという圧を向けるミコトにも味見させてやろう。
三等分したうちの残り二つをそれぞれに渡し、コッペパンサンドを作っていく。
「おーいしーっ!」
「柔らかいお肉から溢れる美味しい脂と肉汁を、ふわふわのパンが吸って余すことなく堪能できるし、シャキシャキ食感のキャベツがしつこさを中和しているんだよ。そしてマヨネーズが全体を一つにまとめて、お肉が纏うピリッとした辛みのジンジャーが味を引き締めていると見たんだよ」
ミコトよ、無表情でもコメントがしっかりしているのはともかく、コッペパンサンドを口にくわえたまま喋るのは行儀が悪いからやめろ。
そのことを注意してコッペパンサンドを大量に作り終えたら、牛乳に浸しておいた乾物を確認する。
戻っているのを確認したら、牛乳と一緒に魔力ミキサーへ入れてかき混ぜる。
十分に混ぜたらコップへ注ぎ、最後に冷却スキルで冷やせばフルーツ牛乳の完成だ。
ドライフルーツ牛乳 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:6 完成度:93
効果:満腹度回復4% 給水度回復15%
魔力+3【1時間】 知力+3【1時間】
乾燥させた果物と木の実を牛乳に浸して戻してミキサーにかけた
果物と木の実の味が濃く砂糖無しでも甘い
それが牛乳によってまろやかに味わえる、至福の一杯となった
試飲すると説明にある通り、果物と木の実の味が濃いだけでなく、砂糖を入れてなくともしっかりした甘さがある。
それでいて牛乳でまろやかになっているから、とても飲みやすい。
「じー」
いやイクト、口でジーッて言わなくとも目がジーッと見ているから。
それとミコトも、無言で無表情のまま目を見開いてガン見するのは怖いからやめろ。
二人からの圧に試飲の手を止め、ミキサーに残っている分を二つのコップへ注いで渡す。
「あまーい! おいしー!」
「三種類の違った甘さが牛乳のお陰で喧嘩せず、まろやかにまとめられているんだよ。しかも細かく砕いた果物と木の実の喉越しと噛んだ時の味わいもあるから、味と食感と喉越しの三種類を堪能できるんだよ」
気に入ってもらえたようでなによりだ。
二人の反応を確認しながら、追加で出来上がったドライフルーツ牛乳を再度コップへ注ぎ、パパっと後片付けを済ませたら一人お預け状態だったセイリュウも交えて朝飯にする。
「んー。お肉が美味しいし、キャベツもシャキシャキ。なによりマヨネーズ味なのが良いね」
「うちは生姜焼きにマヨネーズ添えるだろ? あれの感じ」
「言われてみればそうだね。タレとタマネギの無い、トーマ君ちのお店の生姜焼きみたい」
一口に生姜焼きと言っても、幅広の薄切り肉数枚を焼いたり色々な野菜と炒めたりと色々な形がある。
中華桐谷の場合は、下味を付けた薄切り肉をタマネギと一緒にタレを絡めて炒め、刻みキャベツとマヨネーズを添えるスタイルだ。
飯が進むからと、定食で頼む客の大半は飯を大盛にする。
「これもタレがあれば、もっと美味いだろうな。タレとマヨネーズが混ざるし、キャベツはその両方をまとうし、パンにはタレがしみ込むんだ」
「言わないでよ。それを食べたくなっちゃうから」
「あっ、悪い」
頬を膨らませるセイリュウに謝罪し、最後の一口を食べて次のコッペパンサンドを手に取る。
ふと横を見れば、両手でコッペパンサンドを持って食べるイクトが笑顔で美味しいを連呼し、表情には出ていないものの早めのペースでコッペパンサンドを食べてドライフルーツ牛乳を飲むミコトがいる。
毎回思うけど、味見で食べたはずなのに反応が新鮮で面白い。
というかミコトもその類だったのか。
「それでトーマ君、何時ぐらいにファーストタウンに転移する?」
「牧場に行くのは初めてだし、九時ぐらいを考えてる」
「だったらそれまでどうする?」
現在の時間は七時半。移動を含めても一時間は余裕がある。
でもギルドで依頼を受けているほどの余裕は無いし、必要な食材や調味料は昨日のうちに買っておいた。
そうなると……よし。
「お近づきの印に、何か差し入れでも作るかな」
今からだと簡単な物しか用意できないけど、せっかくの顔合わせなんだから手土産があってもいいだろう。
「……そう言うと思ったよ。何作るか分からないから、個室にしておいて良かったよ」
なんかセイリュウが小声でブツブツ言ってる。
別に変なこと言ってないよな?
「ますたぁ、なにかつくるの?」
「何を作るのか教えてほしいんだよ」
「簡単な物」
ひとまず朝飯を食い終わって後片付けをしたら、手土産にする差し入れ作りを開始。
昨日入手した落花生を乾燥スキルで乾かし、殻を割って中からピーナッツを取り出す。
次いで残っているクルミを割って可食部を取り出す。
テイムモンスターを含めたら十人以上になるから、ありったけのピーナッツとクルミを準備する。
準備ができたらコンロにフライパンを二つ置いて熱し、一方にはバターを落として溶かす。
そしてバターを溶かした方にはピーナッツを入れ、何も入れてない方にはクルミを入れ、両手でそれぞれフライパンを持って炒る。
「りょ、両手で同時調理……」
「こういったの限定だけどな」
それぞれの食材を炒るだけだから、両手で同時調理ができるんだ。
やがてバターとクルミの香りが立ち昇ってくると、隣にいるイクトと正面にいるミコトが身を乗り出し、フライパンの中の様子を眺めている。
「いいにおい!」
「リュウの集落で炒った豆を食べたことはあるけど、バター風味は初めてなんだよ」
ただのバタピーと炒ったクルミだから、過剰に期待されても困るぞ。
さて、焦げないように炒ったら最後に塩を振って全体に味をつけ、皿へ乗せたら完成だ。
バターピーナッツ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:1 品質:8 完成度:87
効果:満腹度回復4%
俊敏+1【2時間】 運+1【2時間】
ピーナッツをバターで炒った、おやつやつまみの定番
香ばしい匂いとポリポリ食感に手が止まらない
一つ一つ食べようが、複数を一気に食べようがお好きにどうぞ
炒りクルミ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:1 品質:7 完成度:92
効果:満腹度回復5%
器用+1【2時間】 MP消費軽減【微・2時間】
クルミを炒って塩を振っただけの一品
なのに香ばしくて美味しく、おやつにもつまみにもなる
クッキーやパンに加えてもいいかもしれない
情報としてはこんなものか。
味は……うん、苦みは無くて食感が良くて美味い。
食べようと思えば、いくらでも食べられそうだ。
でもこれは大事な差し入れだから、味見を求めて手を差し出してるイクトとミコトにはバタピーとクルミを一つずつ渡し、皿をアイテムボックスへ入れたら残りの分も炒っていく。
「おいしい!」
「バターの風味とピーナッツが合うし、クルミの香りが良いんだよ。味はそれほど凄いわけじゃないけど手が止まらなくて、この食感も妙に癖になるんだよ」
二人からも良い反応を貰えたか。
ならテイムモンスター達も食べてくれるだろう。
「一緒に炒れば、ミックスナッツだったね」
「ミックスナッツにするなら、もっと種類が欲しいな」
二つでもミックスにはなるだろうけど、さすがに二種類だけなのは寂しいんじゃないかな。
そう思いつつバタピーと炒りクルミを作れるだけ作ったら後片付けをして、時間も良い頃合いだから移動開始。
椅子と踏み台を元の場所に戻して受付へ札を返却したら、イクトとミコトに手を繋がれて転移屋へ向かう。
あっ、セイリュウもミコトに手を繋がれた。
「なんで私も手を繋ぐの?」
「セイリュウお姉ちゃんだけ仲間外れにはしないんだよ」
「みんないっしょー!」
無表情でも心配りのできるミコトと、楽しそうに触覚とレッサーパンダ耳をピコピコ動かすイクト。
そんな二人の返事にセイリュウが照れる姿が可愛くて、ドキリとした。
落ち着け、直接手を繋いでいるわけじゃないんだ、平常心、平常心。
「おいあれ」
「どう見ても家族だな」
「あんなに可愛い子なら、NPCでも子供が欲しい」
「その前に相手だろ」
「ていうか、このゲームに結婚システム無いだろうが」
いつもの微妙な歌を口にするイクトと、それにツッコミを入れているミコトを連れているせいか、周囲から注目されている。
この二人を連れているとよく注目されるから、こうした視線にもすっかり慣れたもんだ。
そう思いつつ、到着した転移屋でファーストタウンへ移動し、くみみの牧場を目指して歩く。
久しぶりのファーストタウンはあっちこっちにプレイヤーの露店があり、中にはプレイヤーが店頭で呼び込みをやっている店もある。
セイリュウによると、店構えは小さくともプレイヤーが開いた店がいくつかできたらしい。
「掲示板にあった書き込みだと、商人ギルドへの貢献度を上げて、露店での総売り上げが一定以上に達すればお店が持てるようになるんだって」
ただし、持てるのはあくまで店だけだから住むことはできず、規模や立地によって値段や賃料もピンキリとのこと。
住居兼店舗はまだ誰も入手できておらず、情報も無いそうだ。
「たぶん、貢献度を上げてお店での総売り上げが一定に達すればいいんだと思うけどね」
「俺もそう思うけど、確証が無いんだな」
「そういうこと」
料理ギルドも似たような形で飲食店を出せるのかな。
だけど現状店を出すつもりは無いから、別に調べるつもりは無い。
変化した周囲の様子を眺め、初めてファーストタウンに来たミコトにあれこれ聞かれながら移動を続け、約束の二十分前にくみみの牧場へ到着した。
木の柵に囲まれた中には厩舎と草原があり、くみみや他のプレイヤー達が厩舎の傍で喋り、テイムモンスターと思わしきモンスター達が草原で追いかけっこをしている姿が見える。
昨日フレンド登録を交わしたついでに入場の承諾は得ているから、そのまま出入り口から入って声を掛ける。
「おーい、お待たせ」
「うん? あー、トーマさんー。本日はようこそー」
気づいたくみみが手を振ってきて、一緒にいたプレイヤー達もこっちを向いた。
「彼が噂の赤の料理長か」
「初めて見た」
「あれがイクト君ね」
「ミコトちゃんもいるわ。可愛い」
人数はくみみ含めて五人いるから、俺が最後のようだ。
遅刻したわけじゃないけど、なんかちょっと申し訳ない気持ちになるのは何故だろう。
「待たせちゃったか?」
「いいえー。トーマさんが来ると知った皆さんがー、早く来ちゃっただけですよー」
聞けば一番早い人は二時間前に来たそうだ。
どれだけ楽しみにしているんだよ。
「いくととおなじこは?」
「あっちの厩舎で遊んでるわよー」
「わかった! ますたぁ、いってくる!」
「ああ、行ってこい」
手を放したら一直線に厩舎へ向かうイクトを見送り、くみみの紹介で他のプレイヤー達と自己紹介を交わす。
それが済んだらくみみが用意していたシートに座ると、俺やイクトやミコトについての評判をあれこれ喋りだし、その勢いに押されつつ対応する。
中には尾ひれがついた評判もあったけど、そこは訂正しておいた。
なんだよ、料理で女性プレイヤーの胃袋を掴んでハーレムを作ろうとしているとか、可愛い人型モンスターだけの楽園を作ろうとしているって。
「胃袋を掴まれているのは否定できない……」
なあセイリュウよ、小声で言ったつもりだろうけど聞こえているぞ。
いつの間に俺はお前の胃袋を掴んでいたんだ?
そうは思ったものの聞くことはせず、集まってきたくみみのテイムモンスター達の紹介を聞き、許可を得て触れながら交流する。
その際に差し入れのバタピーと炒りクルミを出すと、なんかやたら騒がれた。
次々と手に取って食べる様子に、イクト達の分を残しておくよう伝えたら、普通のリスより大きくて赤い毛をした紅リスのちろろが寄って来た。
ふおぉっ! 首を傾げておねだりする、あざといポーズだと!
それにつられて炒りクルミを手渡すと、猛烈な勢いでクルミをかじりだした。
おぉっ!? こっちの灰色の毛をした子猫、グレーキャットのもふふは無防備に腹を見せてだらーんと大の字に寝ている。
うおぉぉっ! 長時間潜水できて水魔法が使えるカワウソ、ダイビングカワウソのにききが膝の上に乗ってくれた!
触れてみると毛がフサフサだし、気持ちよさそうに鳴く声がいい!
「びゃー!」
な、なんだ? 厩舎の方から悲鳴が聞こえたぞ。
何事かと振り向いた直後、厩舎から泣き顔のイクトが飛び出してきた。
その後にはイクトと同じ子が三人出てきて、遅れてさらに一人出てきた。
あれ? イクトの頭に、塾長からもらったコスプレッサーパンダカチューシャが無いぞ?
「ますたぁ!」
立ち上がって迎えると、勢いそのままに抱きついてきたイクトは触覚が萎れ、ボロボロ涙を流している。
誰だ、うちの子を泣かせたのは。
「じゃぎーと、らいどらと、ますたんぐ、わるいこ! じゅくちょーさんにもらったおみみとろうとして、こわした!」
……ほう?
つまりイクトが名前を挙げた三人が、コスプレッサーパンダカチューシャを取ろうとした上に壊したと。
確か装備品の耐久値がゼロになると壊れて、数秒後には消えて無くなるんだよな。
ということは、もうコスプレッサーパンダカチューシャは無いのか。
「てめー! いうなっていっただろ!」
「なくしたっていえよ!」
「おれ、わるくねぇからな!」
「いくとなかせといて、なにいってんだよ!」
イクトに続いて厩舎から出てきた三人が文句を言って、遅れて出てきた一人が三人を非難している。
すると彼らの主が顔を真っ青にして、土下座しだした。
「ご、ごめんなさい、トーマさん! うちのジャギーがご迷惑を!」
「マスタングが申し訳ありません!」
「謝りなさい、ライドラ!」
「なんでだよ! くれっていったのにくれない、そいつがわるいんだ!」
それで言い訳のつもりか?
自分でも分かるほど睨んでいるのに三人は悪びれる様子も無く、主だけが必死に土下座して謝罪する。
「ねえポルポリア、何があったの?」
「それがさぁ」
「「「いうんじゃねー!」」」
三人がそう叫んで止めようとするも、彼らの主が押さえつけて説明を促す。
そうして語られる、麦わら帽子をかぶったツンデレな性格の子、ポルポリアによる説明。
それを簡潔にまとめると、厩舎の中で起きた出来事はこうだ。
まずイクトが厩舎に現れて全員集合。
名前を教えあった後、問題の三人がコスプレッサーパンダカチューシャを欲しがった。
髪がツンツン跳ねてスカーフを巻いた生意気な性格の子、ジャギー。
強風に吹かれたように髪がバサバサになっているわがままな性格の子、ライドラ。
雨に降られたように髪がペタンとしているやさぐれな性格の子、マスタング。
この三人がイクトが嫌がっているのにやめず、ポルポリアと今になってのっそり歩いてきたころろが止めても止まらず、コスプレッサーパンダカチューシャを奪おうとして壊してしまったということだ。
「てめー、ちくりやがって!」
「おまえたちがわるいんだろ! べ、べつにいくとがかわいそうだからみかたしているんじゃねーからな!」
味方してくれてありがとう、ツンデレなポルポリア。
さてと、未だに抱きついて泣き続けているイクトの主として、黙っているわけにはいかない。
慰めるようにイクトの頭を撫でているセイリュウも怒っているし、無言で無表情なミコトも怒っているようで、三人をじっと見ているからな。
「君達さ、悪い事した自覚あるか?」
「なんでだよ! わるいのはあれくれなかった、そいつだろ!」
「おれたちわるくねーよ!」
「あんなものひとつ、どうでもいいじゃん!」
「「「やめなさい!」」」
三人の態度に主の方が頭を下げっぱなしだ。
今なら俺、小学生の頃に大怪我をした時、祖父ちゃんが激怒していた気持ちがよく分かる。
俺自身は気にしなくていいって言っていたけど、怒り続けていた祖父ちゃんはこういう気持ちだったのか。
「ますたぁ……」
「大丈夫だぞイクト。きっちりけじめはつけさせるから」
さあて、どうしてくれようか。
いくら謝罪されても壊れたコスプレッサーパンダカチューシャは直らない。
いっそ主と共に、転移できるようになったけど公式イベント以来行っていないあの場所へ行ってもらい、同じ物を取って来てもらおうか。
主に止められてもぎゃんぎゃん文句を言い続ける三人を見てそう思っていると、くみみのテイムモンスターのハードハリネズミがやって来た。
大きさは俺の腰辺りまであり、愛くるしい顔つきと背中にある硬い針が特徴的なモンスターで、名前はおじじというそうだ。
そのおじじが三人の前で止まって後足で立ち上がる。
お前、立てるのか。しかも立ったら俺の胸くらいまである。
「な、なんだよ」
「もんくあんのかよ」
「なんとかいえよ」
やたら迫力が漂うその雰囲気に三人も怯む中、おじじは右前足を振り上げた。
そしてジャギーの脳天へ拳骨を落とし、間髪入れずライドラの頬に平手打ちをして、マスタングには何年経っても五歳児な国民的アニメの主人公へ母親がやっているグリグリ攻撃をする。
「ハリ! ハリリ、ハリ!」
そして崩れ落ちて頭や頬を押さえる三人へ、腕を組んで説教みたいなことを始めた。
三人が文句を言おうとしても鳴き声一喝で黙らせ、説教を続ける。
「ねえくみみ。何これ?」
「あははー。おじじはねー、昭和のお父さん的な子なんですよー。だから名前もおじじにしたんですー」
確かにこの雰囲気、祖父ちゃんに通ずるものがある。
見た目は愛くるしいのに中身がこれとはな。
でもちょうどいいから、このまま説教を続けてもらおう。
「おじじ、ありがとうな。イクトのためにも、思いっきり説教してやってくれ」
「ハリ」
こっちを向いて腕を組んだまま、任せろとサムズアップする姿がとても頼もしい。
さてと、こっちはおじじに任せてイクトを慰めよう。
あっ、三人の主の人達。後でこの件の補償について話し合おうか。




