ひたすら試作
トーストのおかわりを数回繰り返した飯が終わり、いよいよ試作に取り掛かる。
でもまずは、時間が掛かる水出しポーションの仕込みから。
ポッコロとゆーららんから購入した薬草を乾燥させてすり潰し、HP用とMP用に調合して水を張ったボールに入れて放置。
このまましばらくすれば、水出しポーション二種類ができる。
次はレギオンマッドザリガニの殻で出汁を取ろう。
自前の鍋に水を張って火に掛けたら、殻の下処理をする。
前回は水洗いしてそのまま煮込んだけど、今回はフライパンで炒ってから出汁を取ってみる。
乾煎りだから油は敷かず、洗って水を切ったレギオンマッドザリガニの殻や脚やハサミを熱したフライパンで炒る。
脚やハサミをそのまま炒めるのはちょっと勿体ない気はするけど、身肉が入っていないから気にしない。
持ってきた踏み台に乗り、隣で触覚とレッサーパンダ耳を動かしながらワクワクした様子で見物しているイクトと、無表情ながら興味深そうな目で真正面から見物しているミコトも気にしない。
ていうかミコト、届くのか? あっ、浮いているのか。
「トーマ君、それってそのまま食べられないかな?」
唯一大人しく座っているセイリュウの提案に、言われてみればそうだなと思う。
使った海老の殻やなんかを炒って塩を振ったのは、営業後の飯で父さんと祖父ちゃんがよく酒のつまみにしていた。
海老じゃなくてザリガニだけど、そこまで分厚い殻じゃないから食べられそうだ。
「食べられないことはないと思う」
そう返して乾煎りを続けていると、海老のような匂いが漂ってきた。
湿地帯に住んでいたから泥臭くないか不安だったけど、泥臭いどころか香ばしい海老の匂いが食欲を誘ってくる。
「いいにおい!」
「嗅いだことの無い匂いだけど、美味しそうなんだよ」
香ばしい匂いにつられたのか、イクトとミコトが身を乗り出す。
そんな二人に危ないぞと注意を促し、十分に炒った殻と脚とハサミを沸騰してきた鍋の中へ入れて火加減を調整。
炒った後にミキサーやすり鉢で細かくしてから煮込む方法もあるけど、今回は炒っただけで出汁を取る。
ただし殻の一部はフライパンに残して、味付けに軽く塩を振って皿へ乗せた。
レギオンマッドザリガニの殻の乾煎り 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:1 品質:5 完成度:83
効果:満腹度回復2%
器用+1【1時間】
レギオンマッドザリガニの殻を炒って塩を振った一品
炒った殻の香ばしい匂いとパリパリ食感が特徴
おやつとおつまみ、どっちでもいけます
脚とハサミは食べにくそうだから殻だけにしたけど、味はどうだろう。
一つ取ってかじると、薄焼き煎餅のようなバリバリ食感がして香ばしい風味がする。
殻だから口の中に刺さらないかが不安だけど、少しずつよく噛んで食べれば大丈夫かな。
これを細かくすり潰して、料理に振りかけてもいいかも。
「ますたぁ」
隣のイクトが、キラキラした目で期待の眼差しを向けている。
「ほら、よく噛んで食べろよ」
「はーい!」
殻の一つを渡してやり、皿はセイリュウとミコトの手が届くところに置く。
「はいよ、さっきセイリュウに言われたのを作ってみたぞ。口の中に刺さらないよう、少しずつよく噛んで食べてくれ」
「ありがとう、トーマ君」
「いただくんだよ」
「あー、いくともたべりゅー!」
いや、イクトは今食べているだろ?
別に食べちゃ駄目とは言わないけどさ。
まあ気をつけて食べてくれよ。
「くそっ、良い香りさせやがる」
「見守りがいないと確信できれば、一か八かでねだりてえな。って、待ってくれ冗談だ冗談、処すのは――」
「イクト君のたべりゅー、いただきました!」
さてと、煮込んでいる間に他の試作を進めよう。
アイテムボックスからサンの実を出して、半分は果汁を鍋へ絞り出して火に掛け、残った皮は香りづけに使えるよう刻んでアイテムボックスへ。
もう半分は薄めの輪切りにし、さらに四分の一にしたらボウルで塩としっかり混ぜたら、熟成瓶へ入れてしっかり封をする。
これでしばらく放置して熟成させれば、塩サンの実になるはず。
「あーん」
「あー」
レギオンマッドザリガニの殻の乾煎りを食べ終え、ニコニコ笑顔のイクトが触覚とレッサーパンダ耳をピクピク動かしながら大きく口を開け、無表情のミコトが口を半開きにしている。
君達、親鳥に餌をねだるひな鳥じゃないんだからやめなさい。
しかも新加入のミコトまで。
「あっ……と」
こっちへ口を開こうとしたしたセイリュウが、真っ赤になって顔を逸らした。
ひょっとして今、二人につられて口を開けそうになったのか?
恥ずかしそうだし、本人の名誉のためにも気にしないでおいてやろう。
「これはしばらく熟成させないと食べられないぞ」
「えー」
「がっかりなんだよ」
申し訳ないけど、これはそういうものなんだ。
続いては唐辛子の出番だ。
まずはジンジャーを千切りにして、使う唐辛子の量に合わせて塩を用意して、瓶に入れた水へ溶かす。
ここにヘタを取って洗い、しっかりと水を切った唐辛子とジンジャーの千切りを入れて蓋をする。
泡辣椒はこれで良し。
次は同じく唐辛子を使って、昨日ログアウトした後で父さんから聞いた物を作る。
アイテムボックスから魔力ミキサーを取り出し、ヘタを取って洗った唐辛子を入れて細かく刻む。
包丁で切ってもいいけど、せっかくミキサーを入手したんだから使わないとな。
刻み終わったらこれにも塩を入れ、再度魔力ミキサーを回して混ぜ合わせたら、これも瓶に入れて蓋をする。
一旦鍋の方を確認して、サンの実の果汁の火加減を調整し、レギオンマッドザリガニの出汁は浮いてきた灰汁を取る。
それが済んだらジンジャーと一緒に塩水へ漬け込んだ唐辛子と、刻んで塩を混ぜた唐辛子の両方に発酵スキルを使う。
瓶の中で発酵が進み、頃合いを見計らって情報を確認しつつ発酵させて、目的の物を作り上げた。
泡辣椒 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:4 完成度:88
効果:満腹度回復5%
体力+2【2時間】 火耐性付与【小・2時間】
唐辛子を塩水に漬けて作った発酵食品
丸くなった辛さと酸味で食べやすくなったけど、辛いことは辛い
一緒に入れた香辛料で風味が変化するので、好みの調合を探すのも楽しいです
発酵唐辛子ペースト 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:5 完成度:84
効果:満腹度回復1%
火耐性付与【中・2時間】
刻んだ唐辛子と塩を混ぜて作った発酵食品
料理に加えても薬味のように使っても良し
辛みはいくらから柔らかくなりましたが、それでも辛いので注意してください
よし、どちらも成功。
父さんから教わった発酵唐辛子ペーストは、いわゆるかんずりや柚子胡椒みたいなもの。
ペースト状なら泡辣椒とは違った使い方ができるから、使い勝手は良さそうだ。
「ますたぁ、それはたべられるの?」
隣からキラキラした眼差しを向けるイクトと、正面から無言で同じ眼差しを向けてくるミコト。
期待しているようで悪いけど、これを味見させるのは気が引ける。
「食べられるけど、辛いぞ」
「そうだよ。どっちも唐辛子を使ってるから辛いよ」
「そうなの? ならいいや」
「私も辛いのは苦手なんだよ」
俺とセイリュウから辛いと言われ、二人は興味を失った。
とはいえ味見は必要だから、まずは泡辣椒を一本取ってかじる。
使っている香辛料の種類と量の違いなのか、前に現実で食べたことがあるのより風味は弱いけど、丸くなった辛みと発酵によって生じた酸味はしっかり感じられる。
とはいえ、このまま何本も食べるのは無理だな。
そのまま提供するのは辛い物好きのメェナだけにして、他には炒め物に加えるとかして出そう。
でもってもう一方の瓶の中身、発酵唐辛子ペーストもスプーンで手の甲にちょっとだけ取って食べてみる。
当たり前だけどこっちも辛い。だけど塩しか使わず水にも浸けていないから、同じ丸みのある辛さと酸味がある泡辣椒とは感じ方が違う。
細切りした野菜をこれで和えるだけで、キムチっぽいものができそうだ。
「出来はどう?」
「どっちも改良の余地はあるけど、味も風味も悪くない。きっとメェナが喜ぶだろうな」
「すっごい楽しみにしていたもんね」
そうそう。昼休みに何度も念押ししてきたもんな。
期待しているから、ちゃんと泡辣椒を作っておいてって。
そのことを思い出しながら瓶に蓋をしてアイテムボックスへ入れ、鍋を確認して沸騰しそうなサンの実の果汁を火から下ろし、茶色っぽくなってきたレギオンマッドザリガニの出汁に浮いた灰汁を取る。
灰汁を取り終わったら、熱したサンの実の果汁が入っている鍋を対象に選び、右手を向けて冷却スキルを使って冷ます。
今までは自然に冷めるのを待っていたけど、せっかく冷却スキルが手に入ったんだから使わない手はない。
立ち上っていた湯気は瞬く間に消え、鍋に触れてみるとしっかり冷めている。
さじで掬って小皿に取って指先に付けても熱くなく、舐めてみると味も今までに作ったものと遜色ない。
「ますたぁ、それなに?」
「酸っぱい汁だ。舐めるか?」
「ちょーだい!」
「私も」
興味を持ったイクトとミコトに小皿を差し出し、酸っぱいからちょっとだけにしろよと改めて伝える。
だけど二人はベチャッと思いっきり指に付け、待てと言う暇も無く口にした。
「ぷああぁぁぁっ!?」
「ぶふっ!?」
酸味が舌を直撃したのかイクトが奇声を上げ、いつも無表情のミコトが一瞬だけど目を見開いて両手で口を塞いだ。
イクトの奇声のせいか、周囲の注目が集まる。
「ますたぁっ! おくち、おくちのなかまがりそう!」
「分かった分かった。ちょっと待ってろ」
涙目で縋りついてきたイクトを宥め、無限水瓶から汲んだ水をコップへ注いで渡す。
「マスター、私にもお水を……」
「はいよ」
控えめに手を挙げたミコトにも水を渡し、注意したのに気を付けなかったからだと軽く説教。
しゅんとする二人には悪いけど、これも躾だ。
「二人とも分かった? ちゃんとトーマ君の言うことを守らなかったから、こうなったんだよ」
「「はぁい」」
「じゃあ、どうすればいいか分かるね?」
「「ごめんなさい」」
しっかり謝ったのなら良し。それとセイリュウ、フォローに感謝する。
目が合って会釈したら、向こうも会釈で返してきた。
「なにあれ家族?」
「両親による子供の躾みたいだな」
「というか今、料理長とエルフの子ってば目で会話した?」
さてと、調理に戻ろう。
サンの実の果汁は少量を残して瓶に注いでアイテムボックスへ入れ、手持ちで最後の卵をボウルに割り入れる。
これを魔力ハンドミキサーでかき混ぜ、途中で残しておいたサンの実の果汁と油と塩を数回に分けて加え、混ぜ続けることでマヨネーズが完成。
味見も問題無し。やっぱりこういう道具があると便利でいいよ。
「うぅ……」
「むっ……」
さっきのこともあってか、味見を言い出せないでいるイクトとミコト。
十分反省しているようだから、スプーンに取って二人へ差し出す。
「二人で味見を頼む。少しだけ酸っぱいけど辛くないから、安心しろ」
「いいのっ!?」
「いいぞ」
真っ先に反応したイクトにそう返すと、二人は指ですくってマヨネーズを口にした。
「おいしいっ!」
「まろやかで不思議な美味しさなんだよ」
そうかそうか、美味いか。
「ふふっ。良かったね、二人とも」
「うん!」
笑みを浮かべたセイリュウの一言に、イクトが元気な返事をしてミコトが無言で頷いたのを確認しながらマヨネーズを瓶へ移し、レギオンマッドザリガニの出汁から灰汁を取ると濃いめの茶色になっている。
これはどうなのかと思い、小皿に取って味見をする。
おぉっ!? 泥臭さの欠片も無い香ばしい匂いが突き抜けて、それに負けない強い旨味がじんわりと染み込むようだ。
情報の方はどうだろう。
炒りレギオンマッドザリガニの出汁 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:5 完成度:81
効果:満腹度回復1% 給水度回復10%
土耐性付与【中・2時間】
レギオンマッドザリガニの殻と脚とハサミを炒ったもので取った出汁
泥臭さは一切無く、一度炒ったのでただ煮込んだものより香りが良い
その香りに引けを取らない、強い味わいもご堪能あれ
情報を見ても問題無いみたいだし、これで完成だな。
一回頷いて火を止めてから再度小皿に取り、イクトとミコトへ差し出す。
「ほら、こっちも味見してくれ」
「はーい!」
「分かったんだよ」
満面の笑みで応えたイクトはひとすすりしておいしーと叫び、それを受け取って味見したミコトはほうと息を吐いて美味しいと言った。
そんな様子を見ながら鍋ごとアイテムボックスへ入れ、予定している試作のラスト、ドライフルーツ作りに取り掛かる。
でもその前に、せっかくだからこれを試そう。
装備を鉄の包丁から生鮮なる包丁へ変更し、完熟したシュトウとシュウショウを一つずつ取り出す。
「トーマ君、それはまさかっ!」
おっ、セイリュウは気づいたか。
「そうだ。これで切れば調理していなくとも味がする、生鮮なる包丁だ。試しにシュトウを切るから、本当かどうか味見してくれ」
「任せて!」
「いくとも! いくともあじみするの!」
「私も協力するんだよ」
はいはい、分かってるよ。二人も味見してくれ。
「おい、聞いたか」
「ああ、バッチリだ」
「知り合いから聞いていたけど、本当に存在するのね」
「切るだけで味がするなら欲しいけど、入手するまでが大変だって話だぞ」
「いいか。話が本当なら、一斉に襲い掛かってあれを――もがっ、がががっ、んんー!?」
「やべっ、見守り隊――んぐうぅっ!」
周りが騒がしいのは気にせずシュトウを切り、大きな種のような果肉部分を皿へ取り出す。
そしてまずは毒見も兼ねて、自分で一つ食べてみる。
中の種に気を付けながらおそるおそる噛むと、甘い果汁が溢れてきた。
桃みたいだから柔らかいと思ったら、シャリとした食感をしていてサラリとした甘さをしている。
これならあまり甘いものを食べない俺でも、たくさん食べられそうだ。
「ど、どう?」
疑うように尋ねてくるセイリュウと、どうなのと表情や目で訴えてくるイクトとミコトへサムズアップで応える。
「ちゃんと美味いから、皆も食べてみてくれ。中にある種だけは気をつけてくれよ」
「はーい」
「いただきます」
「いただくんだよ」
俺が先に食ったからか、三人とも躊躇無く口にするとセイリュウとイクトが目を見開いた。
「本当だ。切っただけなのに美味しい!」
「あまくておいしー!」
そうだろそうだろ。声を上げていないミコトも無表情のまま夢中で食べてるし、気に入ってくれたようだ。
生鮮なる包丁の効果は分かったけど、ついでだからシュウショウも味わってもらおう。
バナナのように皮を剥いたら、生鮮なる包丁で切り分けて一つを口にする。
食感は芋みたいにホクッとして甘さは控えめ。
このままでも悪くはない。でも何か一味足りない気がする。
試食してもらったセイリュウ達も同意見で、口を揃えて何か足りないと首を傾げた。
単体で食べるよりも、調理向けの食材なのかな。
ともかく生鮮なる包丁での試食はここまでにして、ドライフルーツ作りを開始。
シュトウとシュウショウとブルットの皮を剥き、種があるシュトウとブルットは種を取り除く。
そして乾燥スキルで乾かして、ドライフルーツの完成。
ドライシュトウ
レア度:1 品質:2 鮮度:75
効果:満腹度回復2%
乾燥させて水分が抜けたことで甘みが増したシュトウ
表面に粉が吹いてますが、それは糖分なので落とさない方が甘い
そのまま食べて良し、何か加えても良しです
ドライシュウショウ
レア度:1 品質:2 鮮度:78
効果:満腹度回復2%
乾燥させて水分が抜けたことで甘みが増したシュウショウ
表面に粉が吹いてますが、それは糖分なので落とさない方が甘い
そのまま食べて良し、何か加えても良しです
ドライブルット
レア度:2 品質:3 鮮度:73
効果:満腹度回復2%
乾燥させて水分が抜けたことで甘みが増したブルット
表面に粉が吹いてますが、それは糖分なので落とさない方が甘い
そのまま食べて良し、何か加えても良しです
さて、肝心の味はどうだろうか。
干し芋みたいになっているドライシュウショウは、さっきより甘さが増してるし固さが出て心地よい食感になっている。
干し葡萄みたいなドライブルットは、グミのような食感で微かに渋みのある大人向けの甘さだ。
そしてプルーンみたいになったドライシュトウは、クニッとした独特の食感は好みが分かれそうだけど、濃縮された濃い甘みがなんともいえない。
「「じーっ」」
はいはい、凝視の擬音を口にするぐらい期待しているイクトとミコトにも、ちゃんとやるよ。
勿論、興味深そうに見てるセイリュウにもな。
「おいしー! くにってしてすごくあまい!」
「乾かしたシュウショウ、生のより美味しいんだよ」
「ドライブルットはちょっと渋みがあるね。でも美味しい」
好評のようでなによりだ。
美味そうに食べる三人を横目に、もう少しだけドライフルーツを作ってアイテムボックスへ入れる。
これで予定していた試作は全部済んだ。
水出しポーションの方は……よし、できてるな。
濾して瓶詰してHP用とMP用の水出しポーションの完成。
これは自分用の数本を残してセイリュウに渡し、後片付けをする。
さあ、ここからは新たに入手した調理器具と冷凍スキルを試してみよう。
ボウルを二つ出して一方に塩水を用意したら、もう一方に小麦粉を出して塩水を少しずつ加えながらよくこねて塊にしていく。
艶と適度な弾力が出たら寝かせ、水を張った鍋を二つ火に掛けたらコンの実を一つ取り出して、下処理のため皮に切れ込みを入れる。
「まだ作るのかよ」
「もう無理だ。ログアウトして、飯食ってくる」
「私も」
爆発しないよう処置したコンの実を一方の鍋に入れたら、もう一方には前に作ってそのままアイテムボックスに入れてある、下処理だけした魚の頭と中骨を入れて煮込む。
さてと、ここらで一息入れよう。
「ますたぁ、こんどはなにつくるの?」
「ストック用の麺と出汁、それと冷たくて美味しいものだ」
「つめたくておいしいもの? なにそれ!」
「気になるんだよ」
隣と正面からずいっと身を乗り出す二人に落ち着くよう言い聞かせ、鍋の様子を見ながら体を伸ばす。
「お疲れ様だね」
「なぁに、これも美味い飯のためだ。なんともないさ」
セイリュウに返事をして肩を軽く回す。
「良い修業になるから?」
「それもあるし、セイリュウ達に美味いって言ってもらうためでもあるからな」
自分の修業だけでなく、美味い飯を作ってほしいっていう期待を裏切りたくない。
たまに一言言いたい時はあるけど、食べたら必ず美味いって言ってくれるのはいつも嬉しい。
「えへへ。ありがとう」
照れるなよ、こっちだって何言ってんだろって照れるだろ。
落ち着け、深くは気にするな。
今は目の前の鍋に集中だ。
浮いてきた灰汁を取って出汁を作って、茹でたコンの実でシャーベットを作るんだ。
それと生地を寝かし終えたら、イベント引換券で入手したパスタマシンで麺を作らないと。




