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緊急クエスト達成、じゃない?


 タウンクエストを成功させるため、緊急クエストでリュウって死霊魔法使いのいる集落へ向かう。

 モンスターは多いけど距離はずっと短いショートカットルートに入って、奏の祈祷スキルとにゃーミーの職業スキルで戦闘を可能な限り回避しながら進む。

 とはいえ、全ての戦闘を回避できるわけでもなく、現在戦闘中だ。


「こんのくそワニがあっ! どうだ、ワニってのは嚙む力は強くとも開く力は弱いんだろ!」


 戦闘になったのは脚が八本ある巨大なワニのモンスター、エイトレッグアリゲーター。

 そいつの背に乗った彫りゴンが顎に両腕を回し、近くにあった木すらも嚙み砕いた口を封じている。

 なんとか外そうとエイトレッグアリゲーターはもがくけど、にゃーミーのデバフで弱体化している上に、彫りゴンは奏のバフで強化されてるから外れない。

 ていうか、ゲーム内でも開く力が弱い設定なんだな。


「てぇいっ!」

「ふぅん!」


 最大の武器を封じてる隙に、にゃーミーの投げナイフと赤巻布青巻布黄巻布の棍棒による殴打でHPを削る。

 二人も奏のバフを受けてるからHPは順調に削れていく。

 そしてバフを受けている最後の一人、イクトも攻撃に参加する。


「よっ、ほっ! にーどるも~ど!」


 尻にハチの尾と毒針を生やし、暴れるエイトレッグアリゲーターの尻尾を避けて跳躍すると、尻から落ちてエイトレッグアリゲーターの背に毒針を刺す。

 結構堅そうな皮をすらも貫いた毒針が深々と刺さり、エイトレッグアリゲーターが毒状態になって動きが鈍る。


「今だ、一斉攻撃!」


 機を見計らった赤巻布青巻布黄巻布の指示で、俺以外が攻勢に出る。

 奏は魔法で攻撃し、エイトレッグアリゲーターの背から離れた彫りゴンも斧で攻撃する。

 そうしてもう少しで倒せるというところで、最後の悪足掻きとばかりにエイトレッグアリゲーターが勢いよく尻尾を振るった。

 軌道上には右手を鎌に変えて攻撃しているイクトがいる。


「イクト!」


 思わず声を掛けたけど、今からじゃ避けられそうにない。


「てい! がーども~ど!」


 避けられずに尻尾が直撃してイクトの小さな体が吹っ飛び、ぬかるんだ地面を転がる。

 慌てて駆け寄ると、胴体部分がカブトムシの外殻に覆われていて、HPもそれほど大きくは減っていない。

 そうか、避けられなくとも防御が間に合ったのか。


「大丈夫か、イクト」

「へーきだよ!」


 二カッと笑うイクトの状態をステータス画面から確認。

 うん、確かにHPは減った以外に変わった様子は無い。

 おっと、まだ戦闘中だった……な……。


「私達のイクト君に、何してくれてるのよコラァッ!」

「ギルティ、ギルティ、ギルティ!」


 まだ戦闘中だったと顔を向けると、残りHPの少ないエイトレッグアリゲーターが、にゃーミーと奏からフルボッコにされていた。

 にゃーミーは両手の指に挟んだ複数本のナイフを次から次へと投げてるし、奏は風魔法をガンガン浴びせてる。

 あまりの勢いに赤巻布青巻布黄巻布と彫りゴンは呆気に取られ、その場に立ち尽くして呆然としてる。

 うん、あの様子なら大丈夫そうだから、イクトには今のうちにがーどもーどを解除させて水出しポーションを飲ませておこう。

 やがて二人によってエイトレッグアリゲーターが倒され、イクトが戦闘に参加したから経験値と金、それと入手した素材が表示された。


「「デストローイ!」」


 物騒なことを叫んでハイタッチを交わすにゃーミーと奏。

 さっきの様子には触れないでおけば、吹っ飛ばされたイクトのために怒ってくれたんだな、ありがとう。


「ますたぁ、あのおねえちゃんたち、すごいね!」


 水出しポーションでHPが回復したイクトも興奮気味にこう言ってるし、やっぱりさっきの様子は触れないでおこう。


「怖いやら頼もしいやら」

「ファンとしては当然の反応だな」


 赤巻布青巻布黄巻布と彫りゴンも、二人を見ながら小声でヒソヒソ話してる。

 何を言ってるのかまでは聞こえないけど、あんな様子を見たからって失礼なことを言ってないよな?

 今の時代、発言には気をつけないと大変だぞ。


「イクト君、大丈夫だった?」

「だいじょーぶ! おねえちゃんたち、つよいね!」

「ふっふーん。イクト君をいじめる奴は許せないからね」

「ほんと? ありがと!」

「「はふぅん!」」


 ニパーッと笑うイクトに、変な声を出した二人が身悶えしてる。

 ナチュラルにファンを増やすイクトの弟可愛さの被害者は、こうして増えていくんだろうな。


「おい、そろそろ出発しようぜ。のんびりしてたら、向こうが負けちまうかもしれないぞ」


 それもそうだな。今は急ぎのクエストの最中だ。

 彫りゴンの指摘でにゃーミーと奏も正気に戻り、集落へ向けて再び駆け出す。


「で、続報は入ったか?」

「あれ以降の追加情報は無い」


 天海からの情報によると、向こうの戦いはだいぶ厳しいようだ。

 死に戻ったプレイヤー達から得た情報によると、相手は死霊魔法使いが召喚したアンデッド軍団で、スケルトンだけでなくゾンビやゴーストまでいるらしい。

 しかも厄介なことに、どんな倒し方をしても無限に復活するとか。

 バラバラにして遠くへ飛ばしたり、魔法で拘束したり、徹底的に細かく砕いたり切り刻んだりと、色々とやってるけど復活を遅らせるのが精々とのこと。

 アンデッド系には効果が抜群の光魔法、ターンアンデッドでも復活を遅らせるだけに終わってるそうだ。

 唯一の救いは、参加者は前のタウンクエスト同様に死に戻ってもペナルティが無いことだ。


「このタウンクエスト、どんだけ鬼設定なのよ」

「現状、アンデッド軍団の復活を遅らせてその隙に死霊魔法使いへ接近して、直接そいつを叩くしかないってことになってるらしい」


 ただ、上手く統率が取れてないのと、動物やモンスターを模した少し強めのアンデッドまで召喚されて、その作戦も実行できずにいるそうだ。


「こうなるとなおさら、この緊急クエストをクリアできるかが鍵になりそうね」

「なんでそんな重要な役割が、飯を作ってばかりで一切戦闘をしてない俺に回ってくるんだ」

「いまさら愚痴っても仕方あるまい。それよりにゃーミー、そろそろミスディレクションが切れそうだぞ」

「分かってるわよ。ミスディレクション、発動!」


 消えかかっていた上空で旋回するトランプが、ハッキリと見えるようになった。

 これでもうしばらくは大丈夫だな。


「それでトーマ君、集落まではあとどれくらいなの?」

「残りは全体の距離の1割くらいだ」


 移動開始から1時間と20分ほど。

 奏とにゃーミーのお陰で戦闘は少ないものの、数少ない戦闘に思ったより時間を取られた。

 集落までもう少しとはいえ、辺りが暗くなってきて視界が悪くなってきている。

 この調子で間に合うか?


「ん? おっ、おい、あれ!」


 先頭を走る赤巻布青巻布黄巻布が声を上げて前方を指差すと、そこに暗い中で灯る明かりのようなものが見えた。

 マップデータの進行方向とも一致するし、おそらくはあそこが集落なんだろう。


「あれが集落か?」

「マップデータとは一致するから、きっとそうだ」

「よし! 間に合った!」

「まだ着いてもいないのに、気が早いわよ」


 奏の言う通り、気が早い。

 この緊急クエストを達成するまでは気を抜かない方がいい。

 でないと思わぬ落とし穴に――。


「ぬおぉぉぉっ!?」


 落ちたよ、先頭の赤巻布青巻布黄巻布が落とし穴に。

 ていうか俺達も危ない!


「うわっ!?」

「アァァァァァァッ!」


 咄嗟の方向転換に成功、どうにか穴を避けられた。

 でも、今の女の子の悲鳴はなんだ?


「てぇい!!」

「ふらいも~ど!」


 にゃーミーはジャンプで落とし穴を跳び越えて、イクトは飛行で空中へ回避した。


「くっ!」

「あっぶね!」


 最後尾にいた奏と彫りゴンは、どうにか落とし穴の手前で止まれた。

 だけど赤巻布青巻布黄巻布は落とし穴の中だ。


「おい、大丈夫か!」


 慌てて彫りゴンが落とし穴の中を覗き、俺も中を覗き込む。

 ところが、結構深めの落とし穴に赤巻布青巻布黄巻布の姿は無く、先端が尖っている木の杭が穴の底に数本埋め込まれているだけ。


「あれ? なんで?」


 赤巻布青巻布黄巻布はどこ行ったんだ?


「あちゃあ、こりゃ死に戻ったな。おおよそ、落ちてあの杭に体を貫かれて即死ってところだろ」


 そういうことか。そりゃあ、あんな杭に体を貫かれたら、死んでもおかしくない。

 ということは、赤巻布青巻布黄巻布はサードタウンジュピターへ戻ったのか。


「集落の近くにこんなのがあるなんて。トーマがこれに落ちなくて良かったよ」

「そうね。ここまで来てトーマが死に戻ったら、話にならないものね」


 赤巻布青巻布黄巻布には悪いけど、にゃーミーと奏の言う通りかもしれない。

 ここまで来て最初からやり直しだなんて、やる気が萎えるってもんだ。


「ねぇ、ますたぁ。さっきのひめいだれの?」


 悲鳴? そういえば、俺が落とし穴を回避した時に聞こえたな。

 女の子の声だったけど、にゃーミーとも奏とも違う声だった。

 一応二人の方を向くと、尋ねる前にどちらも首を横に振る。


「さっきのは私の悲鳴だよ」


 急に聞こえた声に振り向くと、茂みの傍に緑の服に灰色のマントを羽織った黒髪の女の子がいた。

 頭上のマーカーはモンスターや敵性のあるNPCを示す赤じゃなくて、イクトと同じ橙色。

 確かあの色は、ノンアクティブモンスターやテイムモンスター、敵性の無いモンスターを示す色だってダルク達から教わったっけ。

 外見年齢はイクトより一つか二つ上くらいの幼さで、癖毛の目立つ髪は肩くらいまであり、緑の服はファーストタウンの孤児院でシスター達が着ていたような形だ。

 ただ、表情が無表情なのはともかく、外見年齢の幼さに見合わないほど胸が存在感を主張しているのはいかがなものか。

 ローエンといい、ここ最近会ったキャラクターの製作者は趣味に走ってないか?

 そして彫りゴン、あまり胸元を凝視してるからにゃーミーと奏から冷たい視線が向けられてるぞ。


「きみ、だぁれ?」

「名前は無いよ。私はバンシーっていう妖精の一種」


 イクトに名前を聞かれて返ってきたのは、名前じゃなくて種族名。

 敵性は無いとはいえモンスターだから名前が無いのは当然だけど、バンシーってなんだ?


「バンシーってあれ? 死が近い人の傍に現れるっていう、死を告げる妖精?」

「お姉さんの言う通りだよ。そこの落とし穴に落ちた人が死んじゃうから、それを察知して死を告げに来たんだよ」


 奏の説明をバンシーが肯定した。

 つまり、さっきの悲鳴は赤巻布青巻布黄巻布の死を告げたってことか。


「で、お兄さん達とお姉さん達はここで何してるの? この辺りは狩猟用の罠がたくさんあるから、下手に動くと死んじゃうんだよ」


 怖っ⁉ この辺りってそんな場所だったのか⁉


「いくとたち、りゅうってひとにあいにきたの」


 彫りゴンとにゃーミーと奏が周囲を見渡すのに対し、怖いもの知らずなイクトがバンシーの質問に答えた。

 すると無表情だった顔に警戒が浮かんだ。


「……なんで?」


 声も不機嫌になった。なんで? 何か悪いこと言ったか?


「あのね、きつねのちょーちょーさんのまちがしりょーまほうをつかうひとにおそわれてるの。だから、りゅうってひとにたすけてもらいたいの」


 おぉイクト。相手の不機嫌な様子に怯むことなく説明するなんて、やるじゃないか。

 するとそれを聞いたバンシーから警戒が消え、元の無表情に戻った。


「狐の町長。それって、ローエンって人?」

「そう!」

「死霊魔法使いに襲われてるの?」

「そう!」


 バンシーの問い掛けに、イクトが大きく頷いて肯定する姿が弟可愛い。

 それと、ちゃんと返事できて偉いぞ。


「リュウを虐めに来たんじゃないの?」

「ちがうよ! どぅーむさんにたのまれて、りゅうってひとにたすけてもらいにきたの!」


 プンプン怒る姿もまた弟可愛い。

 緊急時だというのに、イクトとバンシーのやり取りに見とれてしまう。

 にゃーミーと奏も同じなのか、今にも身悶えしそうなのを堪えている。

 彫りゴンは……だから胸元の凝視はやめろって。


「……分かったんだよ。罠に掛からない道を案内するから、付いて来るんだよ?」

「はーい!」


 なんとか分かってもらえたみたいだな。

 案内するバンシーの後に続き、狩猟用の罠を回避しながら集落へ近づくと、先端が尖った木の柵とかがり火がたかれている木製の門が見えてきた。

 そこには茶髪で気の強そうなNPCの少女が槍を手に立っていて、俺達が近づくと槍の先を向けてきた。


「止まれ! なんだお前ら、俺達の集落に何の用だ!」

「おぉっ、俺っ子だ」

「カナ、緊急事態だよ。ジュピターが死霊魔法使いに襲われてるんだよ。この人達、ドゥームって人に頼まれて助けを求めに来たんだよ」


 槍を向けるNPCの少女カナに対する彫りゴンの言葉には反応せず、バンシーが少女に事情を伝える。

 するとカナは目を驚いて少し悩んだ後、自分はこいつらを見張るからリュウを連れてこいとバンシーに言った。


「分かったんだよ。ちょっと待っていてほしいんだよ」

「ああ、分かった」


 警戒したい気持ちは分からなくもないし、向こうにどれだけ猶予があるか分からないから、ここは流れに任せるべきだろう。


「すぐに呼んでくるんだよ」


 そう言って集落の中へ向かうバンシーを見送り、槍を向け続けるカナの監視を受けること約5分。

 集落の中からバンシーと共に、黒いローブを羽織った黒髪の青年、腰に剣を差した狼人族の女性、杖を手にしたダークエルフの女性の三人が現れた。

 三人が三人とも、揃ってNPCだ。


「お前達か、ジュピターから来た奴らっていうのは」

「あ、あぁ……」


 目つきが鋭く、威圧感のある雰囲気をまとう青年の問い掛けに頷いて応える。


「俺がリュウだ。話はバンシーから聞いたが、ジュピターの町が死霊魔法使いに襲われてるのか?」


 この人がリュウか。思ったよりも怖そうな人だな。


「そうなんだ。それでドゥームさんから、同じ死霊魔法使いのあなたの力が必要になるはずだから、連れてきてほしいって頼まれたんだ」

「そうか。ドゥームさんが……」


 懐かしむように物思いに耽るリュウだけど、一緒に来た女性達は敵意をむき出しにしてきた。


「勝手なことを言って! 町の人の大半がリュウに酷いことをしたのに、助けるはずがないでしょ!」

「そうよ! あの時のリュウが、どれだけ苦しくて辛い思いをしたことか!」

「そ、そうだぜ! リュウ、こんな奴らさっさと追い返そうぜ!」


 おいおいマジかよ、ここまで来て険悪ムードかよ。

 町を出た経緯からすれば仕方ないんだろうけど、ここからどうすればいいんだ。


「よせ、俺は気にしてない」


 おっ? 当人は気にしてないのか。


「だけどリュウ!」

「習得できる魔法が死霊魔法だけだと分かっても、周囲から嫌われるのを覚悟で習得しようと決めたのは俺だし、死霊魔法の悪い評価を覆そうと思っていたのにそれができなかったのも俺だ。自分で決めた目的を実行することができなかった俺に責任はあっても、町の皆に責任は無い」


 なんか重い話が始まる雰囲気だ。

 こういうのはあまり得意じゃないし、時間もあるから手短に済ませてくれないかな。


「リュウは頑張ってたじゃない!」

「俺の場合、頑張るだけじゃなくて結果を出さなきゃならなかった。死霊魔法の悪い評価を覆せなかったら、どれだけ頑張っても意味が無い。その結果を出せなかったから、俺は町を出たんだ」


 口を挟める展開じゃないから、黙って話を聞く。

 彫りゴン達も黙って様子を見守ってるし、イクトは俺の手を握ってリュウの様子をジッと見ている。


「でも後悔はしていないさ。俺なりにやれるだけやったし、この集落にいる皆のように俺に付いて来てくれた仲間達がいるし、ドゥームさんも行商人のバリーさんを寄こしてくれたし、町長っていう立場上は擁護に限界があるローエンさんも、町を出て行く時に集落の跡地だったここなら住めるはずだって教えてくれたしな」


 つまりこの集落は、元は集落の跡地だったのを仲間達と協力して再興させたのか。


「なにより、エリスが家を出てでも俺の嫁になるって言って付いて来てくれたしな」


 ここで惚気を挟むな。シリアスムード壊れるぞ。


「皆がどう思ってるかは分かってるけど、俺はジュピターに住む皆を憎んでも恨んでもいない。だからジュピターの町を、故郷を見捨てることはできない」


 おっ? これは?


「今の俺なら、七年前には出来なかったことが出来る。この力で、ジュピターの町を守ってみせる」


 リュウがそう宣言したら、俺達の目の前に何かが表示された。



 ************************


 ≪緊急クエスト・死霊魔法使いリュウの下へ向かえ を達成しました≫


 死霊魔法使いリュウの協力が得られました

 プレイヤー・トーマには報酬として、タウンクエストの貢献度が大きく加算されます

 パーティーメンバー全員にもタウンクエストの貢献度が大きく加算されます

 死に戻ったメンバーにも、協力したので貢献度を加算します


 ************************



「おぉっ、やった!」

「クエスト達成よ!」

「貢献度ゲット! これで報酬も期待できるわね」


 喜ぶ彫りゴン達にも同じ表示がされたんだろう。

 ということは、死に戻った赤巻布青巻布黄巻布にも同じ表示がされているのかな。


「うふふっ、旦那様らしいですね」


 また誰かの声がしたと思ったら、集落の方から十数人ぐらいの男女がぞろぞろとやって来た。

 この人達が、リュウに付いてきた仲間達か。

 先頭を歩くのはイクトより小さい男の子を抱き抱え、穏やかな笑みを浮かべる狐人族の女性NPCだ。


「エリス、皆も」


 エリスっていうと、ドゥームが言っていたリュウの嫁になったローエンの末娘か。


「旦那様がそうおっしゃるなら、私も皆さんも止めません。その代わり、必ず生きて帰ってくださいね。この子のためにも」

「分かってる。エリス一人に息子の、ゼグルの世話を押しつける真似はしないさ」


 でもって抱えてるのは息子か。そんな気はしてた。


「どうかご武運を」

「ぱぁぱ、いってらったい」


 エリスとゼグルがそう告げると、後から来た仲間達からも頑張れよと声が掛けられ、俺達を追い返そうとしていた三人も仕方ないなって表情になって、留守は任せてと言った。


「ああ、行ってくる。サモン・トゥルーアンデッド!」


 リュウが魔法らしき言葉を唱えると魔法陣が展開されて、胸元に赤い結晶体がある大きな双頭の骨の狼が姿を現すと、空へ向かって大きく吠えた。

 マーカーが橙色で召喚されたみたいに現れたから、これもテイムモンスターの一種か?

 しかしなんというか、強そうなモンスターだな。


「おーっ! ますたぁ、すごくすごいよ!」


 興奮気味に双頭の骨の狼を指差すイクトが弟可愛い。


「オ、オルトロスのスケルトン⁉」

「違う。双子の狼の魂と骨をベースに誕生した、スカルウルトロスだ」


 彫りゴンの間違いを訂正したリュウはローブのフードをかぶり、喉を鳴らすスカルウルトロスの背に飛び乗る。

 なるほど、こいつで移動するってことか。


「そうだ。君達に一つ頼みたいことがある」


 スカルウルトロスの背に乗ったリュウから、なんか星座チェーンをしていた頃に何度も聞いた感じのセリフが出た。

 ちょっと待って、これで終わりだったろ? まだ何かあんの?


「相手次第では俺じゃ敵わないかもしれない。だから念のため、この先にいる俺の死霊魔法の師匠にも今の話を伝えてほしい。場所はバンシーが知っている」


 やっぱりそうくるよな。またなんか緊急クエスト2とかいうのが表示されたし!



 ************************


 ≪緊急クエスト2・リュウの師匠の下へ向かえ が発動されました≫


 バンシーの案内で、集落からリュウの死霊魔法の師匠の下へ向かえ


 クエスト成功条件:死に戻らず師匠と接触

 クエスト失敗条件:死に戻り


 *プレイヤー・トーマは必ず参加となります

 *テイムモンスター、他プレイヤーとパーティーを組むのは可

 *町を離れてもパーティーメンバー含め、タウンクエストには参加状態です

 *成功時、パーティーメンバー含めタウンクエストの貢献度が加算されます

 *クエスト中にプレイヤー・トーマが死に戻るとメンバー全員も町へ戻ります

 *なお、死に戻ったメンバーはパーティーを外れます


 ************************



 しかも死に戻ったら即駄目ときた!

 もういい加減にしてくれ、俺は料理だけしていたいのに!

 頼むからこういう役目は、やりたい人に振ってくれ!

 とりあえず嘆いていても仕方ないから彫りゴン達へ説明すると、全員がやる気を見せた。


「安心しろトーマ、俺達が守ってやる」

「これはウラヌスのタウンクエストでいうところの、ゴーレム使いのお婆さんから、迷宮内をよく知る元トレジャーハンターのお爺さんを教わったやつね」

「うふふ。また貢献度を稼いで、報酬増額ね」

「がんばろ、ますたぁ!」


 イクトまで乗り気だよ。


「行くよ。案内するんだよ」


 分かったよ、やるよ! もうどうとでもなれ!


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― 新着の感想 ―
>俺は料理だけしていたいのに! >頼むからこういう役目は、やりたい人に振ってくれ! 異世界型MMOでその嘆きは無駄だよw 特化したプレイヤーは確実にキーになるんだ。 お前が料理をし続ける限りそれは逃…
ゲームによってはタイマーが止まったりするけど、これはどっちのパターンなんだろう…?(会話イベント中に[クエストに失敗しました]とか出たら…;)
[一言] リュウさんNPCなのにまるで主人公みたい。 かっこよい
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