タウンクエスト開始前
合流したダルク達へ、ついさっき教えてもらった情報を共有する。
死霊使いは男ということ以外はローブとフードで外見が分からず、タウンクエストを発生させたプレイヤー達を召喚したスケルトンと闇魔法で倒したと。
「スケルトンを召喚して、闇魔法を使う死霊使いか」
「詳細には死霊使いを倒せってあるから、たぶんスケルトンは全滅させなくとも大丈夫ね」
「おそらくは死霊使いに紐づいてるタイプ。死霊使いを倒せば、勝手に消える」
「問題は、率いるアンデッドがどれだけいるかね」
今回は最初から参加できるとあって、やや興奮気味になってる。やる気があるのはいいことだけど、空回りはするなよ。
それと、これだけの情報でよくそこまで分析できるな。
俺が無関心なだけか?
「皆の者、聞いてほしいのじゃ!」
広場に聞き覚えのある声が響いたと思ったら、フリフリした黒の服の上にマントを羽織って杖を持ったローエンの姿があった。
傍らには弓矢を背負って胸当てを付けたリコラと、サラマンダーやリザードマンと似た尻尾と鱗の他に角が生えてる、大柄の中年男性がいる。
何事かとプレイヤー達が注目する中、払うようにマントを広げたローエンが声を上げる。
「我はサードタウンジュピターの町長、ローエン! 事態は聞いたのじゃ。これより死霊使いから町を守るべく、迎撃態勢を整える! 戦う気概の有る者、及び戦えずとも防衛に協力してくれる者は西門の外へ集まるのじゃ!」
ローエンの宣言に周囲のプレイヤーはやる気を見せたり、のじゃロリっ子だと言ったりしてる。
のじゃロリって言った奴、ローエンに聞かれなくて良かったな。
「あれが町長さんなの? 随分可愛いわね」
「だろ? 俺も最初は信じられなかったぞ」
カグラの言葉に賛同しながら頷く。
なにせ最初は、町長の娘か孫娘かと思ったぐらいだからな。
「今のはどういうこと? まるで町長のことを知ってるような口ぶりね」
「うん。ちょーちょーさん、しってるよ」
「料理ギルドの依頼で町長宅へ行ってな。その時に会ったんだよ」
メェナの疑問にイクトが答え、その理由を俺が説明する。
ついでにその時にされた注意を小声で伝える。
「分かった、気をつける」
コクコク頷くセイリュウだけど、この中では誰も町長をのじゃロリババア、又はそれに準ずる呼び方なんてしないと思う。
「さっ、人波も落ち着いたしそろそろ行くよ。トーマも、参加するでしょ?」
ニッコリ笑って尋ねてきたけど、表情からは行こうよという圧力が放たれてる。
こうなったらダルクはしつこいから、下手に逆らわずに大人しく参加しよう。
別に参加したくないってわけじゃないし。
「ああ、参加するよ」
「だよねだよね! 戦えなくても協力できるみたいだし、参加してればさほど貢献できなくともお金が手に入るんだから、損は無いもんね!」
そう言って俺の腕を引き、意気揚々と西門へ向かうダルク。
カグラ達から気の毒そうな目を向けられてるけど、ダルクのこういうところには昔から慣れてるし、次の食事で激辛料理を作って仕返しするから気にするな。
それにしても、戦わなくても協力できることって何だ?
「戦わなくともできることって、何をさせられるのやら」
「だいじょーぶ! なにかあっても、いくとがますたぁまもるから!」
頼もしいことを言ってくれるイクトだけど、空いてる方の手を握って笑みを浮かべてこっちを見上げてるから、頼もしいというよりも弟可愛いくて微笑ましい。
ダルク達だけでなく周囲にいるプレイヤー達も和やか視線をイクトに向けていて、まるで公園で遊ぶ子供を温かく見守る保育士みたいだ。
結構大きなクエスト前にも関わらず、そんな和やかな空気に包まれながら指定された西門から外へ出ると、参加するプレイヤー達だけでなく二種類の武装したNPCが多くいる。
表示にはしっかりした灰色の武装をしてる方が兵士で、やや貧相な茶色の武装をしてる方が自警団とある。
兵士や自警団と一緒に町を防衛するって設定だから、そういったNPCなんだろう。
それを見てると目の前に、タウンクエスト参加受付と表示された。
どうやらここへ来れば開始前でも参加受付ができるようで、ダルクに促されるまま参加を押した。
「防衛に協力してくれる皆さんは、こちらへ集まってください。戦える方は向こうの町長の方へ、戦えなくとも協力してくれる方々はこちらへ来てください」
さっきローエンの傍にいた中年男性が手を上げ、プレイヤー達へ向けて指示を出してる。
それに従って戦闘に参加するダルク達はローエンの方へ向かい、俺はイクトを連れて中年男性の方へ向かう。
「おう、トーマじゃねぇか。さっきぶりだな」
「ちっす!」
「あっ、おねえちゃんたちだ」
集合場所へ行ったらセツナとミュウリンがいて、こっちへ近づいて声を掛けてきた。
一緒にここへ来たからいるんだろうとは思ったけど、やっぱりいたか。
「セツナにミュウリンじゃないか。二人も参加するのか」
「まあな。ここで会ってた知り合いに頼み込まれて、半ば仕方なくって感じでな。別にこういうのに参加するのは嫌じゃねぇんだけど、その知り合いが断ったらしつけぇ野郎なんだよ。あー、前のしつけぇこと思い出してイライラしてきた」
楽しそうにタッチを交わすイクトとミュウリンを横目に、参加の経緯を話したセツナは怒りの表情を浮かべた。
一見すると怖くて近寄りがたいけど、これくらいなら祖父ちゃんに比べればなんてことない。
本気で怒った祖父ちゃんを一度でも見れば、この程度の怖さなら余裕で耐えられるし、そもそも恐怖を感じない。
それとその怒りには同意する。俺も参加する気が無いのにダルクに引っ張られてたら、激辛料理に加えて揚げ物禁止令を出すところだったぞ。
「おい、あれ見ろよ」
「嘘だろ、吸血鬼の姐さんと赤の料理長が揃い踏みしてるなんて」
「料理のバフ効果が勝負の分かれ目かもしれないクエストで、あの二人が揃うなんて」
「というかあの二人が協力したら、どれだけ美味しい料理が作れるのかしら」
なんか周りが騒がしいなと思いながら周囲を見渡してると、他の知り合い達も声を掛けに来てくれた。
料理プレイヤーだと天海とエクステリオ。料理プレイヤーじゃないけど、料理に手を出してるファーマーでエクステリオの知り合いの雷小僧。
他には公式イベントでポッコロとゆーららんから紹介された薬師のルフフン、一時護衛に付いてくれた木工職人の赤巻布青巻布黄巻布がいた。
さらに赤巻布青巻布黄巻布から、ギョギョ丸と薬吉とは別の仲間だっていう三人のプレイヤーを紹介された。
「初めまして、にゃーミーです」
タキシードのような服を着た愛嬌のある中学生くらいの少女プレイヤーで、猫の耳と尻尾が特徴的な猫人族。
職業は奇術師っていう、ナイフ投げでの攻撃や相手へのデバフを掛ける後衛寄りの戦闘職。こっちへ来たのは、タウンクエストには参加したいけどアンデッド系が苦手だからとのこと。
「奏よ、よろしくね」
旅人みたいな恰好をした大人の女性って雰囲気の女性プレイヤーで、職業は吟遊詩人で種族は人族。
歌や演奏で前衛を支援する、にゃーミーと同じ後衛寄りの戦闘職だそうだけど、こちらも同様に参加したいけどアンデッド系が苦手ということでこっちへ来たそうだ。
「彫りゴンだ、よろしく」
工事現場で働いてそうな服装をしたドワーフの男性プレイヤーで、職業は木や石を彫って像なんかを作る彫刻家。
自分で石や木を調達するため、伐採や切り出しなんてスキルを持ってるそうだ。
「こちらこそ、よろしく」
「よろしくね!」
「「はうっ⁉」」
イクトが挨拶をするとにゃーミーと奏が、変な声を出しながらも嬉しそうな反応を見せた。
「ま、間近で見ただけでなく、挨拶されちゃった。か、可愛い」
両手を頬に当てて感激してるにゃーミーが、なんか小声でブツブツ言ってる。
どうしたんだろうか、イクトの弟可愛さにやられたか?
「あの、トーマさん。どうか一枚、一枚だけでいいのでイクト君のスクショを撮らせてくれませんか?」
「私も一枚だけ、お願いします!」
態度には出してないけど目を爛々とさせて喜ぶ奏がスクショを求めると、にゃーミーもそれに便乗してきた。
やっぱり、今のイクトの弟可愛さにやられたようだ。だったら一枚ぐらい構わないかな。
一応イクトに説明して確認を取ると、いいよと承知してもらえた。とはいえあまり迷惑になると困るから、制限は付けさせてもらおう。
「撮り直し無しの一枚だけなら許可する」
「「ありがとうございます!」」
腰を直角に曲げるほど頭を下げてお礼を言う二人は、満面の笑みを浮かべたイクトが両手でピースする姿を撮影したら、狂喜乱舞といった様子で喜びだした。
そこまで喜ぶものかね。
「二人とも、気持ちは分かるが落ち着け」
「仲間が悪いな」
赤巻布青巻布黄巻布が宥める二人に苦笑しながら、彫りゴンが謝罪してきた。
「いいって、約束通りに撮り直し無しの一枚で済ませてくれたし」
イクトに迷惑を掛けなかったし、本人も気にした様子は無いから俺も気にしない。
「ありがとうございます、お陰で間近で見れただけでなくスクショも撮れちゃいました」
「我々『YESイクト君! NOタッチ!』は今後も、『赤の料理長見守り隊』への協力を惜しみません」
「そう言ってもらえると、公式イベントで料理長と知り合った甲斐があるってもんだ」
なんか赤巻布青巻布黄巻布とにゃーミーと奏が肩を組んでコソコソ話し合ってるけど、なにしてるんだ?
「それにしても感激です! トーマさんだけでなく、セツナさんともご一緒できるなんて!」
「ハッハッハッ。褒めてもシュトウのシロップ漬けしか出せねぇぞ」
興奮気味の天海の勢いが凄い。それと何も出ないんじゃなくて、出せるんかい。
「いただきます!」
でもって貰うんかい。
そう思ってたら、ついでだからと俺達もおすそ分けしてもらった。
一応金を払おうとしたけど、試作品だから気にすんなと言って受け取ってもらえなかった。
「おらっ、イクトも食うか?」
「たべりゅ~」
おまけにイクトの分までくれて、ありがとう。
シュトウのシロップ漬け 調理者:セツナ
レア度:2 品質:8 完成度:93
効果:満腹度回復8%
魔力+2【2時間】 知力+2【2時間】
シュトウを輪切りにして砂糖と加熱して冷ましたサンの実の果汁と水を混ぜた液に漬け込んだもの
甘い物をシロップに漬けたからって、甘すぎるってことはない
砂糖の量と漬け込み時間を調整すれば、双方の甘さが絶妙のハーモニーを奏でる
僅かに加えたサンの実の果汁の酸味が隠れた引き立て役
表示された説明文にある通り、シュトウと砂糖の甘さが絶妙に噛み合って美味い。
カグラなら絶対に、土下座して頼み込んででも欲しがるだろうな。
それにしても、この前のクッキーといいこれといい、セツナって見た目と言動の割に甘い物をストックしてるんだな。
しかもこれ美味いし、現実ではパティシエかなにかか?
「あまくておいしーっ!」
「おー、そうかそうか。ありがとな、イクト」
満面の笑みを浮かべ、触覚とレッサーパンダ耳を激しく動かして喜ぶイクトの反応に、セツナはやや乱暴にイクトの頭を撫でる。
だけど前と同じくイクトに嫌がる様子は無く、楽しそうにしてるから良し。
「ところでトーマ、例の塩レモンならぬ塩サンの実とドライシュトウはもう作ったか?」
「作ろうとしてたらこれが始まって、作り損ねた」
「んだよ、そっちもかよ。こっちも知り合いとの用事を済ませた時にタウンクエストになって、その知り合いに引っ張ってこられたんだ。ちなみにそいつ戦闘職だから、あっち行った」
なんだ、そっちもか。
「俺も仲間から一方的に広場で合流って言われて、作る前に来ることになった」
「それがなきゃ、来なかったか?」
「来たさ。作ってからな」
タウンクエストは途中参加できるから、作ってからでも遅くはない。
そもそも、クエスト開始時間にはまだまだ余裕があるし。
「だよなー。作ってから来たかったぜ。レギオンマッドザリガニの殻で出汁が取れるかも試したかったしよ」
セツナもそう思うか。移動中の料理談義もそうだったけど、セツナとは話が合うな。
「同感だ。俺はそれに加えて泡辣椒を作りたかったし」
「なんだそりゃ、どういう料理だ?」
「簡単に言えば、唐辛子を塩水に漬け込んだ発酵食品」
「唐辛子の発酵食品か。つうことは辛みがちったぁ緩和されて、酸味も加わった味わいになるってことだな」
察しが良いと説明の手間が省けて助かる。
「それをどう使うんだ?」
「俺としては――」
「なあ、とても美味そうな料理談義中に申し訳ないが、説明が始まりそうだぞ」
話に割って入った雷小僧の言う通り、集合を掛けた中年男性がこっちへ注目してほしいと呼びかけてる。
残念だけど料理談義は中断し、そっちを向いて説明に耳を傾ける。
それから始まった説明によると、あの人はローエンの夫であり秘書でもある竜人族のリーガ。ここにいるプレイヤー達の指揮は彼が取るようだ。
というかローエン、あの見た目で人妻って設定だったのか。あのキャラを作った人は、どれだけの要素をローエンに盛り込んだんだ。
同じような感想を抱いてるであろう、俺達の主な役割は後方支援。
ポーション類や予備の武器といった必要な物資の運搬、住民達の避難誘導、戦闘職側や町の重役との連絡役といったことが主な仕事らしい。
ただ、料理ができる人は長期戦に備えて簡単な炊き出しの準備をしてほしいそうだ。
プレイヤーは満腹度や給水度が減ったら戦えないから、そのための措置かな。
「料理ができる者は、あそこにいるドゥームの下へ集まってくれ」
おっ、ドゥームも来てるのか。さっきはいなかったから気づかなかった。
「こっちだ! 料理ができる者は、こっちへ来てくれ!」
少し離れた場所で手を振るドゥームの下へ、イクトを連れて向かう。
同じ料理プレイヤーのセツナと天海とエクステリオもそっちへ移動して、総勢23人の料理プレイヤーが集まった。勿論、イクトは除いて。
「おや、君は」
「どうも、さっきぶりです」
「こんにちはー!」
俺とイクトに気づいたドゥームに挨拶すると、周囲から知ってるのかって視線が集めってきた。
「君が協力してくれるとは心強い。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしく」
挨拶を交わしたらドゥームによる説明が始まった。
俺達の役割はさっきリーガが言ったように、長期戦に備えて炊き出しの用意をすること。
そのために必要な食材や道具なんかの手配は既にしてあるようで、これから三班に分かれて行動することになった。
「一班は私と共に、ここで炊き出しの場所を確保しつつ簡易的な陣と調理場を準備する。残り二班は商人ギルドと料理ギルドへ行って、食材と調理道具を運んできてほしい。その後で全員で炊き出し開始だ」
要するに必要な場所を準備するか必要な物を運んできて、その後は飯を作ればいいんだな。だったら文句は無い。
だけど班分けを決める際、何故か残り二班のリーダーが俺とセツナになった。
食材と調理道具を取りに行くだけだから構わないけど、わざわざリーダーを決める必要があるのか?
そんな疑問を抱きつつ、七人の班員とイクトを連れて料理ギルドへ向けて走る。
「まさか姐さんと料理長と一緒に料理できるなんてな」
「俺、公式イベントの時は坊ちゃんと同じサーバーだったから今回はラッキーだぜ」
「イクト君、脚が蜘蛛でも可愛い」
一部ムービングモードで脚を蜘蛛に変えて並走するイクトへ注目してるけど、班員達の話題は俺とセツナがいることのようだ。
「人気者だな、料理長」
「こんな時に茶化すなよ」
同じ班になったエクステリオに反論して、避難準備をするNPCの住人達の中を走る。
その住人達の口からは、一様にある名前が挙がってる。
「リュウだ。死霊使いっていうからには、きっとリュウに違いない」
「あいつが俺達に、復讐をしようとしてるんだ」
「私達があの子を迫害したからよ」
「優しい奴だったし、謝れば許してくれるかな?」
「そんなわけないでしょ! 私達が彼を、どんな目に遭わせたか覚えてるでしょ!」
「やべぇよ。俺、あいつに石ぶつけたことあるよ……」
「んなこと言ったら、俺なんて掌返しして罵声浴びせてたぜ……」
住人達の話を聞く限り、どうやら死霊使いっていうのはリュウって奴のようだ。復讐の原因は町の住人による迫害行為。
何があった設定なのかは分からないけど、迫害されたのなら復讐心を抱いても不思議じゃない。
「復讐の死霊使いってこういうことか」
「迫害に対する復讐。ありがちだけど、だからこそって感じだな」
同行してる班員達も同意見のようだ。
「だとすると、ウラヌスのタウンクエストでのゴーレム使いの婆さんや元トレジャーハンターの爺さんのような、お助けキャラは誰だ?」
お助けキャラ? そんなのがいるのか?
「ますたぁ、おたすけきゃらってなに?」
イクト、俺に聞かれても分からないって。ダルクからもその辺りは聞いてないし。
そこでエクステリオに尋ねると、サードタウンウラヌスでのタウンクエストではゴーレム使いの婆さんと元トレジャーハンターの爺さん。この二人のお陰でクエストを攻略できたのだと教えてもらった。
エクステリオ自身は参加してなかったそうだけど、掲示板でそのことを知ったとか。
「つまりこのタウンクエストにも?」
「ああ、いるはずだ。クエストを攻略するための、お助けキャラがな」
ただ、それが誰なのか分からない。そもそもサードタウンウラヌスでのお助けキャラも、本人ではなくその関係者が教えてくれたらしい。
しかもお助けキャラのことを教えてくれたのは、関係者の依頼を受けていたプレイヤーだけ。
つまり現時点でお助けキャラの関係者の依頼を受けてなかったら、お助けキャラ無しでタウンクエストに挑まなきゃならないってことか。
「でも、その関係者が誰か分からないんだろ?」
「そういうことだ」
エクステリオの返事にマジかと思いつつ、到着した料理ギルドへ駆け込み事情を説明。
用意されていた大量の物資を分担してアイテムボックスへ入れたら、再び西門へ向けて走る。
その間に耳にする住人達の話は、変わらずリュウのことばかり。
後悔してる住人達も多いけど、それこそ自業自得だ。ゲーム上の設定だけどな。
「ますたぁ、りゅうってひとがわるいひとなの?」
「そうみたいだな」
住人達に復讐される心当たりがあって、こうも話題になってるのなら間違いない。
班員達もそんな空気になってるから、疑いの余地は無いだろう。
半ば確信はしたものの、だからと言って攻略の糸口が見つかったわけじゃない。とにかく今は早く戻って、飯を作る準備をしよう。
ところがそんな考えは、炊き出しのため作られた簡易的な陣でドゥーム達や商人ギルドへ行っていたセツナ達と合流し、炊き出しのための準備中に一変した。
「彼がそんなことをするはずがない!」
住人達の話をセツナ達へ伝え、向こうも住人達がそういう話をしていたと言ってる最中、話を聞いていたドゥームが叫んだ。
何事かと料理プレイヤー全員とイクトはそっちを向き、その場で動きを止める。
「彼はこの町の住人達を恨んでなんかいない。町を出たのも、迫害によるものじゃなくて彼自身で決めたことだ!」
えっ、どういうこと?
「……なあドゥームさんよぅ、あんた何か知ってんのかい?」
ただならぬ様子にセツナが尋ねると、俯き気味になったドゥームはポツリと呟いた。
「彼は私にとって、弟子のような存在だった」
あっ! そういえば依頼の最中に言ってた、半ば弟子みたいにしてた若い子がいたって!
名前までは聞いてなかったけど、何年か前に辞めて町も出たって言ってた。
思わぬ展開に周囲の料理プレイヤー達も動揺してる。
「だから彼のことはよく知ってる。彼は、リュウはそんなことはしない!」
「つってもよう、町を出てる間に心変わりしたかもしれねぇだろ」
「それこそ無い。そんなことをしたら、彼女達が傷つくからな」
セツナの問いかけは一蹴されたけど、彼女達って誰だ?
「誰だ、その彼女達ってのは」
さらにセツナが追及すると、決意を固めた表情になったドゥームは顔を上げた。
「彼が死霊魔法を得ようとも、傍に居続けて共に町を出た仲間達だ。特に彼の妻になったエリス様は、町長の末娘なんだ」
『えぇっ⁉』
本当にどうなってんだ、これ。
ていうかローエンって、あの見た目で娘いたのか! しかも末娘ってことは、何人も!




