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新しいのは自慢したい


 晩飯を食い終わって借りた部屋へ移動し、六つあるベッドの中から思い思いのベッドへ寝転んだり座ったりする。

 当たり前のように全員同じ部屋だけど、もう気にしないことにした。


「ところで、それが新しい装備か?」


 晩飯後、早々におねむモードで船を漕いでたイクトは寝かせて装備について尋ねる。


「うん、そうだよ! 前のよりずっと性能が良いんだ!」


 そりゃそうだろうな。

 でないと強くなったモンスターに対処できないからな。


「頑張ってお金を貯めた甲斐があったわね」

「非表示にしてる装備も新調済み」

「今、見せてあげるわね」


 そう言ってダルク達は非表示にしてた装備を表示させた。

 ダルクは剣と盾が前のより大きくなって、頭の装備が額当てから鉄製のヘッドギアみたいなのに変わった。

 カグラは両手に持つ扇が鈍い銀色になり、冠の飾りが太陽から三日月になってる。

 セイリュウは今まで木製だった杖が、素材は何か分からないけど少なくとも木製じゃない水色の杖に変わってる。

 そしてメェナは額当てがハチマキになって、ガントレットは見た目が前より厳つくなっただけでなく、殴る部分に横並びの小さな棘が生えてる。


「ふっふっふっ、どうかな?」


 自慢気に構えてるけど、正直どこがどう凄いのかはよく分からない。


「ついでに言うと、私達全員レベル30になって二次職に転職したのよ」


 へえ、そうなのか。

 ていうか二次職?

 ということは三次とか四次もあるのか?


「種族進化はレベル50だからまだ先だけどね」

「スキル進化もスキルレベル50だからまだ先の話ね」


 ということは、俺がイベントで入手した二種類のチケットが使えるのはもう少し先か。

 イクトのお陰で戦闘でもレベルが上がるようになったとはいえ、まだレベル19だからな。

 そんなことを考えてると、ダルク達が新しい装備をこっちへ向けて見せながらチラチラと視線を送ってくるのに気づいた。

 これはあれか、新しい装備を自慢したいから聞いてほしいのか。

 まるで新しい玩具を友達に自慢したくて、わざとアピールしてる子供じゃないか。

 ダルクとセイリュウはともかく、カグラとメェナまで変なところで子供っぽいんだから。

 仕方ない、スルーするのも悪いし付き合ってやろう。


「ところでそれ、どういう装備なんだ?」


 期待に応えて尋ねると、全員の表情がパァッと輝いた。

 そんなに自慢したかったのか。


「ふっふっふっ、気になるなら教えてあげようじゃないか!」


 実はそんなに気になってない。


「どうせならステータスも見せてあげる」


 そこまで見せたいのか⁉


「転職した職業についても教えるね」


 あっ、それは知りたいかも。


「その前にパーティーを組み直しましょう。でないとステータスを見せられないから」


 比較的落ち着いてるメェナの指摘に従い、別行動のために解除してたパーティーを組み直したら、ノリノリなダルク達から順番にステータスを見せられることになった。

 さて、どんな装備で何に転職したのかな。


「はいはーい! まずは僕から!」


 機嫌良く手を上げるダルクが一番手は譲らないとばかりに進み出て、ステータスを見せてきた。




 *****



 名前:ダルク

 種族:熊人族

 職業:重剣士


 レベル:31

 HP:89/89

 MP:25/25

 体力:78

 魔力:30

 腕力:71

 俊敏:28

 器用:39

 知力:21

 運:25


 職業スキル

 反撃

 スキル

 剣術LV33 盾術LV34 挑発LV28

 夜目LV16 釣りLV11 鈍耐LV10


 装備品

 頭:鋼鉄のヘッドギア

 上:クッションロングインナー

 下:パワードロングパンツ

 足:バトルシューズ

 他:硬銀こうぎんの鎧

 武器:フルメタルブレード 重耐じゅうたいの盾



 *****




 新しい職業は重剣士か。

 自慢気に説明するダルクによると、俊敏が上がりにくくなる代わりにHPと体力と筋力が上がりやすくなる職業とのこと。

 うん? 職業スキルが剣閃から反撃っていうのに変わってるな。


「なあ、職業スキルが変わってるぞ」

「転職して別の職業になったんだから、当然だよ。勿論、転職しても変わらない職業もあるよ。僕の場合は攻撃重視の職業を選んでたら、スキルは変わらなかっただろうね」


 ということは、俺の食材目利きも転職した職業によっては別のに変わるのか。


「それは事前に分かるのか?」

「転職時に表示される転職先の情報に載ってるから、安心していいよ」


 ならばよし。

 食材目利きが使えないと、部位の判断や熟成肉のトリミングといったことで困るからな。

 転職時にはその点に注意しておこう。

 ちなみにダルクの新しい職業スキルの反撃は、攻撃を受けてから三十秒間だけ相手に与えるダメージが大きくなるスキルで、受けたダメージが大きいほど与えるダメージも大きくなるそうだ。

 さらに新しいスキルの鈍耐は、発動すると俊敏が下がる代わりにダメージが軽減されるスキルらしい。

 そして話は装備に移り、ダメージを軽減するインナーとか俊敏が下がる代わりに状態異常への耐性が高くなる盾とか、そういったことをやたら長々と聞かされた。

 ようやく話が終わると、次はじゃんけんに勝ったセイリュウが自分の番だと名乗り出た。




 *****



 名前:セイリュウ

 種族:エルフ

 職業:魔法師


 レベル:30

 HP:46/46

 MP:88/88

 体力:21

 魔力:79

 腕力:23

 俊敏:22

 器用:30

 知力:74

 運:31


 職業スキル

 魔力加乗まりょくかじょう

 スキル

 水魔法LV35  採取LV19 応急処置LV18

 精神統一LV15 演奏LV10 雷魔法LV9


 装備品

 頭:マジックサークレット

 上:レジストシャツ

 下:魔布まふのスカート

 足:跳栗鼠はねりす革の靴

 他:清浄せいじょうのローブ

 武器:リキッドロッド



 *****




 セイリュウ曰く、魔法師は魔法使い以上に魔法特化な職業でMPと魔力と知力が上がりやすい反面、HPと体力と腕力と俊敏の伸びが悪くなるとのこと。


「それでいいのか?」

「私は固定砲台的な後衛だから大丈夫」


 固定砲台って。

 要するに火力重視の後衛だから、魔法による攻撃に特化しても大丈夫ってことか。

 でもって職業スキルに変化は無くて、新しく雷魔法を習得したのか。


「雷魔法を選んだ理由は?」

「威力は低いけど水魔法との相性が良いし、確率で麻痺の効果もあるから」


 要するに水で濡らしで雷で感電、それで麻痺して動きが鈍るか止まるかすれば儲けものってことか。

 そして装備の説明に移ると、緊急回避で使うバックステップの距離が伸びる靴だの、デバフや状態異常を防ぐシャツやローブだの、魔法の威力を上げるサークレットだの、ダルク同様にやたら長々と語ってくれた。

 この次はどうやらカグラのようで、ブイサインをして進み出てきた。


「ぬぐぐぐ……」


 いや、ただのブイサインじゃない。

 メェナがパーの状態の右手を恨めしそうに見てるから、じゃんけんをしてチョキで勝っただけだ。




 *****



 名前:カグラ

 種族:人族

 職業:戦巫女いくさみこ


 レベル:30

 HP:53/53

 MP:70/70

 体力:29

 魔力:64

 腕力:34

 俊敏:26

 器用:55

 知力:58

 運:25


 職業スキル

 戦舞せんぶ

 スキル

 光魔法LV33 祝詞LV14 扇術せんじゅつLV29

 祈祷LV23  歌唱LV11 植物魔法LV8


 装備品

 頭:三日月の冠

 上:洗礼の巫女服

 下:鮮紅の袴

 足:ウィップトレントの草履

 他:羽布はねぬのの足袋

 武器:鈍銀どんぎんの扇×2



 *****




 カグラはなんか戦闘向きっぽい職業に転職したな。

 そんな印象通り、戦巫女は攻撃寄りの職業で腕力と魔力と知力が上がりやすいそうだ。

 その代わり、HPと体力と俊敏は上がりにくい。


「私の役目は後方支援と後衛の護衛だから、この職業だとちょうどいいのよ」


 魔法で味方の強化や回復や敵への魔法攻撃をしつつ、前衛を抜いた相手からセイリュウと自身を守る。

 それがカグラの役割だから、魔法と物理の両方に対処できる職業を選んだのか。

 さらに新しい職業スキルの戦舞せんぶは、ステータスだけでなく戦闘向けのスキルの効果も強化するらしい。

 ただし前の職業スキルの舞踏よりも強化時間が短いから、そこは注意したいそうだ。


「この植物魔法って?」

「デバフとか状態異常とか、相手の妨害向けの魔法よ。後方支援は前衛の強化だけじゃないからね」


 なるほどね。

 スキルの説明に頷いた後は、植物魔法と相性の良い草履だとか状態異常から回復しやすくなる巫女服だという、装備に関する話をまたも長々と聞かされた。

 ダルクといいセイリュウといいカグラといい、どうしてそこまで長々と説明したがるんだ。

 そしてトリを飾るのはメェナだ。




 *****



 名前:メェナ

 種族:狼人族

 職業:俊闘士しゅんとうし


 レベル:32

 HP:71/71

 MP:36/36

 体力:44

 魔力:27

 腕力:86

 俊敏:84

 器用:75

 知力:36

 運:27


 職業スキル

 ラッシュタイム

 スキル

 拳術LV35   蹴術LV34 回避LV24

 気配察知LV21 連撃LV30 チャージLV10


 装備品

 頭:ファイティングハチマキ

 上:テクニカルノースリーブシャツ

 下:アクセルホットパンツ

 足:蹴撃しゅうげきのグリーブ

 他:軽鉄けいてつの胸当て

 武器:刺撃しげきのガントレット



 *****




 メェナが転職したのは俊闘士か。

 特徴は俊敏と腕力と器用が上がりやすくなり、HPと魔力と体力が上がりにくくなるそうだ。

 同じ拳闘士から転職した塾長の剛拳士が耐久力と一撃一撃の強さで戦うのに対し、俊闘士は速さと手数で戦うスピードタイプとのこと。


「この職業だと防御と耐久力に不安があるけど、攻撃が当たるよりも速く動いて避けて、攻撃を当てられる前に倒せば問題無いわ!」


 それって問題無いって言えるんだろうか。

 えっ? 新しく習得したチャージスキルを使えば攻撃力が上がるから、相手を倒しやすくなる?

 だから、そういう問題じゃないと思うぞ。

 はっ? いざとなれば新しい職業スキルのラッシュタイムがある?

 効果は発動から一分間、俊敏と相手に与えるダメージ量が強化されるのか。

 でも終了後は三十秒間動きが鈍くなって、それが終わってから三分間のインターバルを挟まないと再使用はできないと。


「それで解決できるのか?」

「……冷静になって考えると、それほど解決になってないわね。使いどころは慎重に考えないと」


 どうしてメェナは戦闘のことになると、普段の冷静さが失われて闘争心が熱く燃え上がるんだろうか。

 そういう性分なのか、はたまたそっちが素なのか。

 まあそれはどうでもいいとして、メェナは比較的落ち着いて装備のことを説明してくれた。

 先の三人と違い長々と喋らず、回避用の速さとクリティカル狙いの器用と攻撃力を重視した装備だってことはよく分かった。


「そういえば、トーマは初期装備のままだよね」

「戦う気はこれっぽっちも無いし、料理に影響は出てないからな」


 現状で欲しい装備は、サードタウンジュピターでの用事が済めば貰える生鮮なる包丁ぐらい。

 それ以外は特に無い。

 今使ってる鉄の包丁だって、戦闘に使ってないからか耐久値があまり減ってなくて急ぎ鍛冶屋に行く必要も無いくらいなんだぞ。

 しかもダルク達と違って、レベルアップ時に得られるポイントをステータスへほとんど振ってない。

 だから同じレベルで装備の強化が無いとしても、ステータスの数値には差があるだろう。


「さすがにそろそろ更新した方がいいんじゃない?」

「そう言われても、必要性を感じないんだよな」


 現実と違って洗濯をする必要が無くて、戦闘はしてないしする気すら無いから包丁以外の耐久値は全く減ってないし、見た目がおかしいってわけでもない。

 なら、このままでもいいじゃないか。


「そうは言っても、ねえ?」

「うん。サードタウンまで来てるのに初期装備のままっていうのも、どうかと思う」

「料理に影響が無いのは分かってるけど、もうちょっと気を遣ってもいいんじゃない?」


 いいんじゃない? って言われてもな。

 困ってないのにそう言われる方が困る。


「皆、駄目だよ」


 おおダルク。さすがは幼馴染だけあって、止めに入ってくれるか。


「トーマはそこんところ疎いから、お礼とかの名目で勝手に用意して押し付けて強引に使わせるぐらいじゃないと駄目なのさ」

「「「なるほど」」」


 違った。止めに入るどころか向こうの背中を押してきた。

 だけど言ってることは決して間違ってない。

 壊れたわけでもないのに新しく買い替えるのがどうしても嫌で、いつの間にか貧乏性みたいになってるところがあるからな。

 でも、本人を前に言うことはないんじゃないか?


「というわけでトーマ! 生鮮の包丁を入手したら、皆でトーマの装備をコーディネートするよ! いつもご飯を作ってくれてるお礼に!」


 ビシッと指を指されて言われてしまった。

 はいはい、これはもう逆らえない流れだろ。


「分かったよ。その代わり、着せ替え人形的なことをしたりわざと変なのを装備させたりしたら、しばらくの間は塩を振った茹でもやしだけが飯になると思え」


 この罰がまた効果抜群。

 数秒だけ表情を固まらせた後、揃って絶対に良いのを選ぶとか真面目にやるとか言いだした。

 晩飯の時に言った、明日の朝飯をパンと水にするのも効いてたし、今後似たような場面になったらこれを有効活用させてもらおう。

 そう決意してダルク達が武器を非表示にしたのを見届けたら、明日の予定の確認をして就寝した。

 就寝といっても体感的には一瞬の出来事。

 すぐに起きて皆で宿を出たら、その足で作業館へ向かう。

 目的は勿論、これから食べる朝飯と道中で昼飯が必要になった時に備えて飯を作るためだ。

 今日は何故か肩車を求めてきたイクトを肩に乗せ、作業館への道を行く。


「イクト君、眺めはどう?」

「たかくてよくみえる!」


 そりゃな、イクトの目線に比べれば高くて当然だって。

 隣を歩くセイリュウによると、楽しそうに周囲をキョロキョロ見渡して触覚とレッサーパンダ耳がせわしなく動いてるらしい。

 いつもとは違う景色に興奮気味なのかな。


「あらあら。普段は少し歳の離れた兄弟って感じだけど、そうしてると完全に親子ね」


 楽しそうな表情のカグラが言ってることは俺も自覚してる。

 基本的にイクトからは弟っぽさを感じるけど、たまに息子っぽさを感じるから。

 ああそれと、ポッコロとゆーららんと一緒にいる時は末っ子感も感じる。


「実際にそういうスレが立ってるわよ」

「兄弟派と親子派が熱く激しい議論を展開してる」


 どうしてそんなことで議論ができるんだ。

 実害が無いから別に気にしないけど、議論してるプレイヤー達は俺とイクトをどうしたいんだ。

 不思議に思いつつも作業館に到着したからイクトを降ろし、作業台を借りて作業場へ。

 相変わらず謎の注目を浴びつつ借りた作業台の前に立ち、ダルク達とイクトが椅子やら踏み台やらを準備してる間にバンダナと前掛けを表示させ、調理開始前に昨日の晩飯で使った食器類とロールキャベツを入れてた圧力鍋を洗っておく。

 それが済んだら必要な道具と食材を準備して、ダルク達が椅子に座ってイクトが隣で踏み台に乗ったのを確認したら調理開始。

 まずはボウルに小麦粉を入れて水と塩と少しだけ砂糖を加えてよくこねる。


「あれ? パンか麺を使わないの?」

「まあな」


 よくこねて塊にしたら発酵スキルで発酵させ、ガス抜きをしたらそのまま寝かせる。

 同じくボウルで小麦粉に水と塩を加えてこねたら、こちらは発酵させずに寝かせる。

 次はタマネギとキャベツとシイタケをみじん切りにする。

 シイタケは石突を取ってから傘も茎も両方をみじん切りにして、キャベツは芯もみじん切りに。

 そしてハーブも出して乾燥スキルで乾燥させる。

 野菜とハーブの下ごしらえが済んだらボウルを二つ用意して、一方にはタマネギとシイタケを、もう一方にはタマネギとシイタケとキャベツを入れ、乾燥ハーブを解しながら加える。

 ボウルを一旦脇へどかしたら鍋に水を張って火に掛け、お湯を沸かしてる間にそら豆を出して火が通りやすいよう、黒い部分に切れ目を入れておく。


「ますたぁ、おゆがぶくぶくしてる」


 イクトの言う通りお湯が沸いたから、火加減を調整して塩とそら豆を入れて茹でる。

 次はアイテムボックスにある最後のオーク肉、オークの肩ロース肉を出して小さく切り分けていく。

 それが済んだら茹でてるそら豆の固さを箸で確認。

 ちょっと固めだけど、この後で煮込むからこれで良し。

 すぐに流しでザルに上げて、お湯を切ったらそのまま置いて冷ます。

 その間に切り分けた肉を魔力ミキサーでミンチにしては、刻み野菜を入れた二つのボウルへ入れるのを繰り返す。

 割合としては、タマネギとシイタケだけの方が肉多めだ。

 そうして全部の肉を処理し終えたら、タマネギとシイタケと肉が入ったボウルへ塩と胡椒と少量の油を加えてよく混ぜる。


「ぐっちゃにっちゃぐちゃにっちゃん♪」


 イクト、その微妙な歌は食欲が失せそうだからやめてくれ。


「イクト君、もっと別なお歌にしてちょうだい」

「? はーい」


 ナイスフォローだカグラ。


「ぺったんぺったたんぺったったっ♪」


 微妙さは変わらないけどさっきよりマシになった歌をBGMに混ぜ終わったら、一度手を洗って冷めた茹でそら豆の皮を剥く。

 剥いた皮は細かく刻み、タマネギとシイタケとキャベツとハーブとひき肉が入ってるボウルへ入れ、こちらにも塩と少量の油を加えてボウルの中身をよく混ぜる。

 そうして二種類の餡が完成したら、昨日ロールキャベツを作る時に作った出汁が入ってる鍋を出し、固ゆでのそら豆を加えて弱火に掛ける。


「そら豆入りのスープだね」

「いや、違う」


 ダルクの言葉を否定しながら鍋をもう一つ用意して、水を張って火に掛けたら寝かせてある二種類の生地の出番だ。

 まずは発酵させてない方の生地をまな板へ移し、麺棒代わりの棒で平たく伸ばす。

 少し厚みがある程度に伸ばしたら包丁で縦横に切れ目を入れ、正方形に切り分けてバットへ移しておく。

 次は発酵させた側の生地を厚めに伸ばし、これまた包丁で大きめの正方形に切り分ける。

 そしてこの厚い皮にタマネギとシイタケのみの方の餡をスプーンでたっぷり乗せ、球体っぽい感じに包んでバットへ並べていく。


「おっ、肉まんだね」

「にくまん?」


 ダルクの言う通り、こいつは肉まんだ。

 前に公式イベントで作った時は土地神が全部食べちゃったから、皆に食べてもらえなかったもんな。

 しかもこれは、イクトと出会うきっかけになった料理とも言える。


「そういえば公式イベントの時は食べられなかったわね」

「しかも今回はオークのお肉」

「うふふ、どんな味か楽しみね」


 俺も楽しみだよ、オーク肉の肉まんは。

 さて、お湯が沸いたから鍋の上に蒸籠をセットして肉まんを蒸そう。

 肉まんを並べて蓋をして火加減を調節したら、次はバットへ移しておいた小さい方の皮ともう一つの餡を手元に寄せる。

 正方形の生地を取ってスプーンで餡を乗せ、三角形に閉じたら辺の部分をひだにする。


「ますたぁ、それなぁに?」


 そういえば、イクトは肉まんだけじゃなくてこれも見たことが無かったな。


「イクト君、それは餃子だよ」

「ぎょうざ?」

「そう。その皮でお肉と野菜を包む料理よ」

「へー」


 セイリュウとカグラの説明に頷いたイクトは俺の手元を凝視する。

 前にファーストタウンで餃子を作った時同様、今の俺には均一の厚さと大きさで丸形の皮を作り続ける技術が無いから、生地を伸ばして正方形に切り分けて皮にしてる。

 その辺りをイクトへ説明しながらも包む作業を続け、バットに餃子を並べていく。


「料理長でもできないことが――」

「でも皮作りって、簡単そうに見えて案外――」

「前に現実で作ってみたけど、厚さと大きさがなかなか――」


 こうして準備した餃子はフライパンで、じゃなくて温めてるスープへ入れる。


「あれ? そっち?」

「ということはスープ餃子ね!」


 メェナ正解。

 乾燥野菜の出汁で餃子を煮込むスープ餃子だ。

 しかも煮込んだことで乾燥状態から戻った野菜と、追加で加えたそら豆も具材として入ってるぞ。


「朝飯がスープ餃子で、肉まんは昼飯用な」


 外で飯を食うことになったら肉まんの方が食べやすいし、後で洗い物をするのも楽だからな。

 餃子を煮込み過ぎないよう、鍋の前に立って様子を見つつ塩を加えてスープの味を調整する。


「どっちがどっちでもいいよ!」

「どっちも楽しみ」

「うふふ、待ちきれないわね」

「落ち着きなさいよ、ご飯は逃げないんだから」


 とか言ってるメェナも、待ちきれない様子でソワソワしてるぞ。


「ますたぁ、まだ?」


 もうちょっとだから待っててくれ、イクト。

 味見もさせてやるから、その口から溢れ出そうな涎を拭き取って引っ込めてくれ。


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― 新着の感想 ―
>本人を前に言うことはないんじゃないか? 本人に言わないと改善しないだろ?
[一言] リアルでもあとひと月もすれば肉まんがコンビニの店頭に並ぶ時期でしょうか。 まだお店になさそうなのに食べたくなってしまいました。
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