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『まーたーなーのー!』
ログイン中だったミミミへフィシーの所での出来事や購入できる物、さらに料理ギルド認定証の件まで余すことなくフレンドコールで伝えたら叫びだした。
どこにいるか分からないけど、今頃現地ではオーバーリアクションをしてることだろう。
見られないのが本当に残念だ。
「うさぎのおねえちゃん、またこれしてるかな?」
ミミミの行動を予想したイクトが、先日と同じくカチューシャを押さえて激しくヘドバンしだした。
うん、そうだな。きっとそうしてるだろうな。
でもひょっとしたら、もっと凄いオーバーリアクションかもしれない。
『今回は安く済むと思ったのに、結局高くついちゃったじゃない! どうしてくれるの!』
そんなこと言われても困る。
だってここまでの出来事はゲームのシステム的なものであって、俺は悪くないんだから。
「で、支払いはどうする? まーふぃん達へ伝える分、安くしてもいいぞ」
『だとしても最新情報なんだから、相応の情報料を出さないと情報屋の名折れよ!』
「なら情報屋としての信条を信じて、支払い額はそっちに任せる」
『だったらこっちはその信用に応えてみるわ。頑張って用意するから、期待しててね!』
そう言い切ってコールは切れた。
期待してろと言ってた以上、期待させてもらおう。
「ますたぁ、おはなしおわった?」
「あぁ、終わったぞ。そっちはどうだ?」
少し離れた所ではダルク達が玄十郎へ、冷凍蜜柑達がまーふぃんへそれぞれ連絡をして情報を伝えてる。
「玄十郎への連絡は済んだわよ」
「こっちもまーふぃんへ連絡したら、後は向こうが報せてくれるってさ」
ならサードタウンマーズでの用事は終了だな。
次の目的地はアスクがいるサードタウンジュピター。
位置関係で言えば隣だけど、それなりに距離があるから今回のログイン中での移動はしないことになった。
「当面はここを拠点に活動かな」
「この辺りで通じるようにレベルを上げておきたいものね」
「装備もそろそろ更新したい」
「そのためにお金も稼がなくちゃね」
頑張れ、戦闘に関しては全て任せる。
その代わり飯はちゃんと作るから。
心の中でそう呟いた後、認定証のランクを上げるべく料理ギルドの貢献度を上げるために動く冷凍蜜柑達と別れ、俺達も活動を開始。
ダルク達はこの町の装備品を売ってる店を見て回ると言うから、俺はイクトを連れて食材や調味料を売ってる店を見て回る。
「るんたらったらんら~、はんふんほっほ~♪」
手を繋いで上機嫌に歩くイクトだけど、なにその変な歌。
擦れ違うプレイヤー達もそれを耳にしてクスクス笑ったり、可愛いとか兄弟みたいとか親子みたいって言ったりしてる。
中には若干興奮気味な女性プレイヤーがスクショの許可を求めてきたり、テイムモンスターを連れたプレイヤーからイクトはどういう子なのかと尋ねられたりした。
……なんだろう、この休日に息子を連れて外出中な感じは。
しかも肝心の食材や調味料は目新しい物が無く、足りなくなっていた調味料や食材を買い足すくらいしかできなかった。
そこでもう一度フィシーの下を訪ね、鉄の認定証で買える物を確認する。
新たに買えるようになった調理器具は麺を茹でる時に使うてぼと皮剥きに使うピーラー、魔道具は割と大きめの魔力ホットプレート。
所持金の関係上、魔力ホットプレートは買えないけど六人で使えるぐらいの大きさはあるから、買えたら焼肉パーティーやお好み焼きパーティーみたいなのをしてもいいかもしれない。
だけど今は買えないから、麺茹で用にてぼを数個だけ購入しておいた。
皮剥きは包丁があればできるから、ピーラーは買わなくても問題無い。
「さて、そろそろ昼飯作りに行くか」
「うん! なにつくるの?」
「そうだな……」
せっかく熟成オーク肉を作ったんだし、昼飯はそれで作ろうと考えながら作業館へ向けて歩いてると後ろで騒ぎ声が聞こえた。
振り返ると二組のプレイヤーの集団が言い争ってて、一方は武器を持って騒いでるのに対し、もう一方は前方に立ち塞がって止めようとしてるようだ。
やがて誰かが通報したのか保安官が現れ、武器を持って騒いでる方へ発砲して強制的にログアウトさせた。
「何の騒ぎだ?」
「違反プレイヤーが出たみたいだ」
「町の中で武器を抜いて、怖いわね」
何があったのかは知らないけど、ゲームなんだからルールを守って楽しくやってもらいたい。
殺伐としたのはごめんだ。
「ますたぁ、なんであのひとたちきえちゃったの」
「悪いことをしたからだ」
「わるいことするときえちゃうの? イクトも?」
テイムモンスターはどうなるんだろ。
だけどそもそも、違反行為をできるんだろうか。
いや、自分からはしなくともプレイヤーの指示でってことはあるかも。
なんにしても、悪いことはさせないのが一番だ。
「かもしれないな。だから、悪いことは絶対にするなよ」
「わかった!」
繋いでない方の手をビシッと上げて返事をするイクトに、女性プレイヤー達が可愛いと言ってる。
同時に俺には躾してるとか、お父さんだとか言ってるけど聞き流そう。
特にお父さんって言われてることは。
「さっ、行くぞ。早く昼飯作らないと、ダルク達が怒る」
「はーい」
というわけで作業館へ向かい、作業台を借りたら昼飯に向けての調理を開始。
まずは水を張った鍋を二つ用意して火に掛け、一方の上に購入したての蒸篭をセットしてジャガイモを蒸す。
茹でても良いけど、入手した蒸篭を使ってみたいから今回は蒸させてもらう。
その間にニンジンを薄いいちょう切りにして、お湯が沸いたもう一方の鍋で茹でる。
次はキュウリを薄切りにしてボウルへ入れ、塩を振って塩揉みにする。
「ぎゅっ、ぎゅっぎゅぎゅ~♪」
いつも通り踏み台に乗って隣から見てるイクトが、また微妙な歌を歌ってる。
思い返してみれば、調理中に歌うのは調理の擬音っぽいのばかりだな。
まあそれはさておき、ニンジンが茹で上がったらザルに上げてお湯を切ったらそのまま置いて冷まし、鍋にもう一度水を張って火に掛けたら塩揉みしたキュウリを強く握ってしっかり水気を切る。
この間に蒸し上がったジャガイモを蒸籠ごと火から下ろし、少し冷ましてる間に沸いたお湯へホウレンソウと塩を入れて茹でる。
先に茹でておいたニンジンが冷めたらキュウリと一緒にしておき、今度は茹で上がったホウレンソウをザルへ上げて少し冷めるのを待つ。
ちょうどジャガイモも触れるくらいには冷めたから、手早く皮を剥いてボウルへ入れて両手に持ったスプーンで崩したら粗く潰す。
これに茹でたニンジンと塩揉みしたキュウリ、そしてマヨネーズと塩胡椒を加えてよく混ぜる。
「おいあれ――」
「そっか、マヨがあれば――」
「うちのにはリンゴとハムが――」
周囲で見てるプレイヤー達が気づいた通り、これはポテトサラダだ。
ジャガイモをしっかり潰して滑らかに仕上げるのも良いけど、個人的にはジャガイモの食感が残ってる方が好みだから粗く潰して作った。
ポテトサラダ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:90
効果:満腹度回復18%
体力+2【2時間】 運+2【2時間】
熱して潰したジャガイモをマヨネーズで和えたお惣菜の定番
ジャガイモの潰し具合や何の野菜や果物を加えるかは作り手次第
好みで調味料を振っても美味し
さあ、お待ちかねの味見タイム。
スプーンを二本用意して、イクトと一本ずつ手に持って一口味見する。
「うん、いいな」
「ますたぁ、これおいしい!」
そう言ってもう一口食べようとするのを止め、この後の飯で出すからと言いつけてスプーンを回収する。
「はーい」
返事はしてくれたものの、なんだか名残惜しそうだ。
気に入ったのならちょっと多めに出してやるから、機嫌直せって。
完成したポテトサラダは全員分の皿へ取り分けたらアイテムボックスへ入れて保管。
次はザルへ上げて冷ましてた塩茹でのホウレンソウを切り、強く握って水分を出したらバットへ置いておく。
さて、いよいよメインの熟成オーク肉だな。
既にトリミング済みの熟成オーク肉をまな板の上に置くと、やや不機嫌だったイクトが目を見開いて肉を凝視する。
「それ、どうするの!」
「余計なことはせずシンプルにいく」
フライパンを強火に掛け、熱してる間に味見用に端っこの方をやや厚めに切る。
十分にフライパンが熱されたら油を敷き、肉には下味をつけるため塩を振っておく。
油が温まったら肉をフライパンへ入れ、焼き具合に注意しながら両面を焼き、焼き色が付いたら弱火にして蓋をして蒸し焼きに。
十分に火を通したら胡椒を振って皿に乗せ、塩茹でしたホウレンソウを付け合わせに添えて完成だ。
熟成オーク肉のステーキ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:7 完成度:84
効果:満腹度回復42%
HP最大量+30【2時間】 HP自然回復量+3%【2時間】
厚切りの肉を焼くシンプルかつ豪快な一品
しかしシンプルだからこそ、素材の良さと焼きの腕を問われる
思いっきりかぶりついて、溢れる肉汁を堪能してください
添えられた付け合わせの塩茹でホウレンソウは口直しにどうぞ
「ああいうの、現実ならいくらぐらい――」
「かぶりついて――」
「肉汁が――」
まさしくシンプルイズベスト。
質が良くて美味い肉なら余計なことはせず、ステーキに仕上げるに限る。
「ますたぁ! はやく、あじみ! あじみ!」
分かったから落ち着け、危ないから踏み台の上で跳ねるな。
急かすイクトを宥めながらナイフとフォークで切り分けると、断面から肉汁が溢れ出てくる。
しかも中にまでしっかり火が通ってるのに固くなく、ナイフですんなり切れる。
「ほらっ、熱いから気をつけてな」
「うん!」
返事をしたイクトは待ちきれない様子でフォークを受け取ると、すぐさま肉へ刺して数回息を吹きかけて豪快にかぶりつく。
「ほああぁぁぁっ! あのねあのね、おいしいおしる、じゅわって、じゅわってでてきてね、それでね!」
口の端から溢れる肉汁を垂らしながら大暴走。
美味さを表現したいようだけど言葉が見つからず、身振り手振りでもどうすればいいのか分からず、ワタワタしながら一生懸命に美味さを伝えようとしてる。
「分かった分かった。美味いのは分かったから、落ち着け」
「うん!」
返事はしたもののそう簡単に落ち着けるわけがなく、イクトは興奮しっぱなしだ。
両手を掲げて踏み台の上でピョンピョン飛び跳ねてるし、触覚とレッサーパンダ耳は興奮して今までで一番激しく動いてる。
うん、これは落ち着かせるの難しい。
だけど気持ちは分かる。
噛んだ瞬間に溢れ出る脂と肉汁が美味くて、本当に余計な味付けはいらない。
塩茹でしたホウレンソウも、脂と肉汁でまみれた口を良い感じに落ち着かせてくれる。
「ひとまず、ダルク達の分を焼くか。イクト、それは食べていいぞ」
「ありがと!」
味見用の残りはイクトにあげ、食事用のステーキ作りへ取り掛かる。
二つのコンロにフライパンを置き、時間差をつけて熟成オーク肉を焼く。
「うぉぉぉっ、香りテローー」
「ステーキなんて、チェーン店でもないと――」
「んな金あるわけ――」
二つのフライパンで並行して肉を焼いて塩茹でホウレンソウを添え、おかわりも含めて作り終えたらアイテムボックスへ入れる。
おっ、いつの間にかダルクからメッセージが入ってる。
受信時間は十分前で、あと三十分くらいで戻るとある。
ということは、もうニ十分は余裕があるのか。
ひとまず作業館にいることと了解の旨を書いたメッセージを送ったら、昨日作ったラーメンのスープの残りが入った鍋をアイテムボックスから出す。
アイテムボックスに入れておいたからまだ温かいこれを弱火にかけ、タマネギをスライスして入れて煮込んで即席のオニオンスープを作る。
「ステーキにスープにポテサラーー」
「あれに米かパンがあればセット――」
えっとストックのパンか麺か刻み麵は……。
んー、だいぶ減ったから次回のログインで作っておかないとな。
とりあえず今回の分のパンはあるから、これを主食として出せばいいか。
鍋を混ぜつつパンを出し、皿へ乗せておく。
「パンあるのか――」
「抜かりは無い――」
「さすが料理長――」
即席オニオンスープをイクトと味見して、少し胡椒を加えて調整したら完成。
鶏出汁オニオンスープ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:7 完成度:86
効果:満腹度回復1% 給水度回復12%
MP自然回復量+2%【2時間】 魔力+2【2時間】
鶏の骨で取った出汁にスライスしたタマネギを浮かせたスープ
出汁の味を吸っただけでなく、甘味を引き出したタマネギを味わってください
改めての味見で問題無いのを確認したら冷めないようアイテムボックスへ入れ、後片付けをしながらダルク達が来るのを待つ。
「たっだいまー!」
「戻ったわよ」
「今回のご飯、何!」
「うふふ、楽しみね」
おっ、戻ってきたな。
では椅子を用意してる間に並べようじゃないか。
ジャガイモ粗めの手作りポテトサラダ、付け合わせに塩茹でホウレンソウを添えた熟成オーク肉のステーキ、そしてオニオンスープとパンを数個。
あとナイフとフォーク、スープ用にスプーンも忘れちゃいけないな。
「なにこのステーキセット⁉」
飯を目の当たりにしたダルクが驚いてる。
「ひょっとしてこれ、熟成させたオークのお肉?」
「そうだ」
「ふおぉぉっ。あのお肉のステーキ……」
カグラの質問を肯定するとセイリュウが感動の眼差しを肉へ向ける。
「あじみね、とてもとてもおいしかったよ!」
味を思い出して興奮しかけてるイクトも、いそいそと椅子に座ってる。
「ポテトサラダとスープまで添えてるのが憎いわね」
皆がメインの肉へ目を向ける中、そっちへの目配りを忘れないとはさすがメェナ。
どんなに美味い肉でもそれだけを食べ続ければ飽きるからな。
付け合わせの塩茹でホウレンソウを含め、こういう存在は割と重要だ。
「ステーキとスープはおかわりがあるぞ。パンも少しだけならおかわり可能だ」
「トーマ最高! もう神だよ神!」
「熟成オーク肉のステーキがおかわりできるなんて、トーマ君は神様なの?」
「ただの料理人志望の学生だよ」
おかわりできるだけで神呼ばわりするダルクとセイリュウにそう返して席へ着き、いただきますをしたら食事開始。
うん、味見をしたとはいえやっぱり美味い。
ダルク達もイクトも物凄い勢いで肉にかぶりついて、合間に塩茹でホウレンソウやポテトサラダやパンを食べたり、オニオンスープを飲んだりしてる。
「羨ま――」
「食わせてくれるなら、いくらでも――」
「いいな――」
美味いの一言も出ない無言の食事だけど、ああも夢中でバクバク食ってくれてるのもいいな。
あっという間に食器が空になって、出せるだけのおかわりが消費されていく。
現実だったらとても食べられないような量かもしれないけど、ゲーム内なら食べられるしそれで体重云々の問題は出ないから、思う存分食べるといいさ。
そうして続いた食事はステーキとパンどころか、スープのおかわりすら無くなるまで続いた。
「ぷはーっ! 食べた食べた、大満足の美味しさだったよ!」
腹を撫でるダルクが背もたれに寄りかかって満面の笑みを浮かべてる。
「これで三日は寝ずに戦える」
セイリュウ、何と戦うつもりなんだ?
というか三日も寝なかったら、それはそれで駄目だろ。
「うふふっ、つい夢中で食べちゃったわ」
「ステーキのおかわりなんて、現実じゃ無理な話ね」
落ち着いてるように見えるカグラとメェナだけど、口の周りはステーキの脂だらけだし若干興奮冷めやらぬって感じだ。
「ますたぁっ! すごくすごくおいしかったよ!」
満面の笑みで感想を口にしたイクトの触覚とレッサーパンダ耳は、これまで以上に激しく動いてる。
そうかそうか、そんなに美味かったか。
「おそまつさま」
さて、後片付けするか。
といっても水でサッと流せば皿もカップも綺麗になるから、本当に楽で助かるよ。
どんな脂も一瞬で落ちるんだもんな。
綺麗になった食器をアイテムボックスへ入れて後片付けは終了。
これで今回のログインは終わりだから、作業館から出てログアウトするために広場へ向かう。
そして広場でいざログアウトしようとしたら、町内放送をする前に流れるような音が響いた。
『全てのプレイヤーへお報せします』
なんだ、放送が始まったぞ。
「これってワールドアナウンス⁉ トーマ、これ大事な連絡だからしっかり聞いて!」
「分かった」
ダルクがそう言うんだからよほど重要なんだろう。
『サードタウンウラヌスにてタウンクエストの条件が満たされました。ただいまよりゲーム内で6時間後、タウンクエスト【怒りのゴーレム軍団】がサードタウンウラヌスにて行われます。詳細は全てのプレイヤーへメッセージにてお送りしますので、参加希望者はご確認の上でご参加ください』
この放送にダルク達や周囲のプレイヤー達が一斉に騒ぎ出した。
「タウンクエストってなに?」
「β版じゃ聞いたことがないから、新しく実装されたクエストかな」
「あっ、詳細が届いたわよ」
目の前に画面が広がって、タウンクエストとやらの詳細が表示された。
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≪タウンクエスト・怒りのゴーレム軍団についての詳細≫
サードタウンウラヌス付近の遺跡迷宮が攻略された。
しかしその際に持ち出された秘宝を取り戻すべく、ゴーレム軍団が町へ迫る。
プレイヤーは自警団や兵士達と協力してゴーレム軍団を撃退し、町を守れ。
開始時刻:ゲーム内時間で5時間58分後
場所:サードタウンウラヌス
クエスト成功時:隠しスキル【ゴーレム作成】と隠し職業【ゴーレム職人】解放
参加時間とクエストへの貢献度に応じた賞金を授与
クエスト失敗時:サードタウンウラヌス崩壊
ゲーム内で三年間、ギルドや商店といった町の機能が低下
ゴーレム軍団は付近のサードタウンかセカンドタウンへ進軍
*途中参加可能
*タウンクエストは一つの町につき一度きりです
*町の崩壊による影響は全てのプレイヤーへ適応されます
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『おぉぉぉっ!』
周囲どころか町全体から上がったように歓声が響いてイクトが驚き、脚にしがみついてくる。
要するに町を守れれば賞金だけでなく、新しいスキルと職業が解放。
守れなかったら町が崩壊して機能不全になるだけでなく、別の町にも被害が及んで同じことになる可能性があるってことか。
「これは参加するしかないよね! ねっ!」
やる気満々のダルクはそう言うけど、今回は無理だ。
「いや、そろそろ店に出ないと」
「えーっ⁉」
えーっ、じゃない。こっちにはこっちの都合があるんだ。
「残念だけど今回はパスね」
「なんでっ⁉」
「だって私達、家に帰らないと」
「あまり遅くなると危ない」
実家にいる俺とダルクはともかく、カグラとセイリュウとメェナはダルクの家から帰らないといけない。
しかも明日は月曜日で学校だから、なおさら帰りが遅くなるわけにはいかない。
「そもそもサードタウンウラヌスって、サードタウンマーズのほぼ真反対じゃない」
「セカンドタウンウエストにも行ってないから、ファーストタウンから移動する必要があるわね」
「途中参加可能とはいえ、時間的に無理。帰ってからじゃもう遅そう」
「うぐぅ……」
悔しがっても無理なものは無理だ。
俺は店の手伝いをするし、カグラ達はダルクの家から帰宅しなくちゃならない。
いくら楽しくても、現実を疎かにするわけにはいかない。
「じゃあそういうわけで、お先に」
「残念だけど仕方ないわね」
「トーマ君、また明日ね」
カグラ、メェナ、セイリュウの順でログアウトしていく。
「あぁっ、ちょっ!」
ポツンと残された感のあるダルクが縋る目をこっちへ向けるけど駄目だ。
最後にイクトの頭を一撫でしたら、容赦なくログアウトボタンを押す。
「じゃあな、また明日」
「うわーっん、そんなーっ!」
こればかりはタイミングが悪かったとしか言いようがないな。




