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肉を巻き巻き


 開始された農作業を見学中、イクトは自分もやりたいと何度もねだってきた。

 だけど現実ならともかく、システムで制御されてるゲームの中では簡単にいいよと言えない。

 というのも農業スキルがないと農作業はできないし、採取スキルがないと収穫さえできないからだ。

 農業スキルが無い状態で畑仕事をすると上手く耕せなかったり、種や苗を上手く植えられなかったりする。

 同様に採取スキルが無い状態で収穫をすると、上手く収穫できないそうだ。

 そのためイクトのおねだりは毎回却下し、その度に頬を膨らませてむくれる。

 心配になって友好度を確認したら、数値は減ってないから一安心。

 だけど、やれることが全く無いわけじゃない。


「イクト君、ちょっといいかな」

「これを運ぶのを手伝って」


 ポッコロとゆーららんに呼ばれたイクトがこっちを見る。


「いってこい」


 許可を出すとパァッと笑顔の花を咲かせたイクトは駆け出す。


「はーい!」


 収穫した作物を運ぶくらいならイクトでも手伝える。

 木箱に詰められたカブをポッコロとゆーららんと協力して、三人で楽しそうに運ぶ姿は微笑ましい。

 それを横目にダルクから届いたメッセージを開くと、ランダムキノコの群生地を発見したけど採取しておくかとあった。

 いや、いらない。

 なんでここにきて、そんなギャンブル的な食材を使わなくちゃならないんだ。

 最終日のノリがあるとしても、それを使った料理を食べるのは数人だと思う。

 一応、他の料理プレイヤー達にも連絡を取って確認したけど不要って返事が次々に届いたから、ダルクにも不要と返しておいた。


「トーマさん、時間は大丈夫ですか?」


 シャロルに問われて時間を確認すると、そろそろ昼飯の準備をする時間だった。

 声を掛けてくれてありがとう。


「イクト、そろそろ行くぞ」

「はーい!」


 カブを運び終えたイクトが駆け足で戻ってきた。

 行かないでとか言ってる女性プレイヤーさん、この子は俺のテイムモンスターだから連れて行かないとならないんだ。


「じゃあ、世話になったな」

「またねー」


 農業プレイヤー達へ向けてイクトが手をブンブン振ると、農業プレイヤー達もそれに応える。

 保育園から息子を連れ帰るみたいな感覚に浸りつつ調理場へ戻ると、俺以外の料理プレイヤーが全員集まっていた。

 既にかまどには火が入れられていて、鉄板の上では石が焼かれていて、作業台の上には必要な物がおおかた揃ってる。


「あっ、トーマさん。準備は万端です」


 俺に気づいたまーふぃんが声を掛けてきて、それを耳にした皆もこっちを向いた。


「そうか。遅れて悪いな」

「いえいえ、まだ時間に余裕はありますよ。早めに集まっちゃっただけです」


 早すぎるのは問題だけど、遅れるよりは少し早い方が良い。

 というわけで、ちょっと早いけど昼飯の調理開始だ。

 既に踏み台用の木箱を用意して隣で見る気満々のイクトをよそに、皆で水と塩を加えた小麦粉をボウルでこねて生地作りに取り掛かる。


「ぐにぐに~、ぐににん、ぐにん♪」


 また微妙な歌を歌うな、イクトは。

 生地をこねてる様子を歌ってるんだろうけど、思わず何人かが噴いてるぞ。

 現実だったら、生地に唾が入るだろって怒るところだ。

 でもゲーム内ならその心配が無いから大目にみよう。


「生地ができたら、こっちへ持って来てくれ」

『はい!』


 こねあがった生地が入ったボウルが次々に並べられていく。

 それを寝かしてる間に肉と野菜を切る。

 肉は一番量が多い猪肉を薄切りに、野菜はタマネギとニンジンとナスとトマトと食用キノコをみじん切りにして、スキルで乾燥させたハーブを手で解す。


「よし、ここからは手分けするぞ」

『分かりました!』


 ここからはスープとメインの班に分かれる。

 スープの班は食用のキノコ類を傘も茎もスライスしたら、続けてジャガイモとタマネギをくし切り、ニンジンを半月切り、ホウレンソウは一口大に切る。

 その間、メインの班は寝かした生地を俺が麺棒として使ってる棒で伸ばし、折り畳んだものを切って麺にしたらそれを刻んで米代わりの刻み麺にする。

 さらに刻み麺作りに参加してない一人が、空いたボウルを洗ったらその中で刻んだトマトをスプーンで潰す。


「スープにかかるぞ。鍋の準備しておけ」

「「分かった!」」


 スープ担当の班が水を入れた寸胴鍋へ残ってる干し肉をたっぷり入れ、続けて半月切りのニンジンとくし切りのジャガイモとタマネギ、そしてスライスした食用キノコ類と一口大に切ったホウレンソウを入れたら鉄板の上で焼いてた石をトングで投入。

 前にも作った石焼き鍋風スープを作る。


「うわっ!」


 焼けた石を入れたことで発する音にイクトが驚いてそっちを向き、沸き上がる蒸気を凝視してる。


「ますたぁ! あれ、あれすごい!」


 鍋を指差すイクトが触覚を上下に動かしながら興奮気味にピョンピョン跳ね、乗ってる木箱がギシギシ軋む。

 大丈夫だよな、木箱壊れないよな?


「ああ、凄いな」

「あれもおいしい?」

「そうだな。きっと美味いぞ」


 干し肉から良い出汁が出て、それを吸った野菜はイクトも気に入るはずだ。


「ますたぁのつくってる、それは?」

「こいつも美味いはずだ」


 全ての生地を刻み麺にできたら、かまどで熱してる鉄板のうち五枚に油を敷いて刻んだタマネギとニンジンを炒める。

 残り一枚は石焼鍋風のスープに使う石を熱するのに使ってるから、それが終わってからだ。


「イクト、熱いから近づきすぎるなよ」

「はーい」


 手を挙げて返事をしたイクトは隣から後ろへ移動して、俺の背後から覗き込むようにして鉄板を見てる。

 じーっと見つめる視線を背後から浴びながらタマネギとニンジンを炒め、火が通ってきたら刻んだナスと食用キノコ類を追加。

 さらに少し炒めたら刻み麺も追加する。


「料理長、トマトどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 潰したトマトが入ってるボウルを受け取り、必要な分を刻み麺と野菜へかける。


「わっ!?」


 トマトの水分で音が響いて蒸気が上がるとイクトの驚いた声が聞こえた。

 だけど構ってる暇はない。

 手早く炒めながら野菜と刻み麺にトマトを纏わせ、全体が赤くなったら解したハーブを加えて軽く塩を振ってケチャップライスもどきの完成。

 味は……よし、いい塩加減だ。

 これを皿に盛ろうとしたら、イクトがグイッと後ろから身を乗り出してきた。


「ますたぁずるい、いくともたべる」

「いや、これは味見っていってな」


 ケチャップライスもどきを皿へ盛りつつ、決して一人だけ食べてる訳じゃないと説明したけど、それならそれで自分も味見がしたいと言うから盛り終わった分からスプーンで一口味見させる。


「ん~♪」


 満面の笑みで両手を頬に添えてクネクネする反応を見れば、もう言葉はいらない。


「おいしい!」


 でもやっぱり、美味いと言われたら嬉しい。

 そうかと返してモフモフな髪の毛をした頭を撫でてやり、ケチャップライスを盛った皿を作業台に置く。

 代わって残ってる材料を手に取って鉄板へ戻り、同じケチャップライスもどきを作っていく。

 作業台に置いたケチャップライスもどきは、少し冷ましたら手の空いてる料理プレイヤー達が俵型のおにぎりにする。


「ちょっと、それ少し小さくない?」

「そうか? そっちが大きいんじゃないか?」

「握る力加減の問題じゃないのか?」


 同じ量でも、握る力が強いと潰れて少し小さくなるからな。


「大きな差がなければ、あまり気にしなくていいぞ」

『はい!』


 なんだからこうしてると、現実で早紀達とおにぎり作りをした記憶を思い出す。

 小学生の頃だったか、残り物の白米で俺と早紀と健と晋太郎で作ったんだっけ。

 そういえば俵型に作る時、晋太郎はどうしても球体になって健は角ばって立方体にしてたな。

 でもそれ以上に不思議だったのは、早紀が握ったのは三角錐になってたことだ。

 形状が近い球体と立方体はともかく、どうして三角じゃなくて俵型なのに三角錐になったんだろうか。

 改めて不思議に思いつつケチャップライスもどきを作ってると、いつの間にかイクトが背後からいなくなって、作業台の方で様々な形状のケチャップライスもどきのおにぎりを見て「おー」とか「わー」とか言ってる。

 いなくなったんじゃないならいいけど、せめて一声掛けてくれ。

 一瞬、どこに行ったのかと思ったぞ。

 ホッとしながら次のケチャップライスもどきを皿へ盛り、これもおにぎりにしてもらうため作業台へ運ぶ。

 そうしてケチャップライスもどきのおにぎりが出来上がったら、薄切りの猪肉を数枚巻いて全体が隠れるようにしていく。

 途中で肉が解けないよう、しっかり巻くのがポイントだ。


「ますたぁ、おにくまくの?」

「そうだ。肉巻きおにぎりって言うんだぞ」


 これが今日メイン。

 ケチャップライスもどきと薄切り猪肉の肉巻きおにぎりだ。

 肉を巻いたら表面に小麦粉を薄く纏わせて鉄板で焼いて、肉に焼き色が付いたら完成だ。




 トマト風味刻み麺炒めの肉巻きおにぎり風 調理者:多数〈選択で全員表示〉

 レア度:3 品質:5 完成度:77

 効果:満腹度回復22%

    HP最大量+30【1時間】

 刻み麺を米に見立てた肉巻きおにぎり

 野菜と一緒に炒めた刻み麺は、トマトで味付けしたケチャップライス風

 相性が良い肉とトマトによって旨味が増強され、米じゃなくても美味!




 本当なら白米のおにぎりに肉を巻いて焼き、濃いめのタレを掛けて照りを出しながら味付けするんだけど、今回は中身の刻み麺のおにぎりに味をつけさせてもらった。

 だってタレを作るための材料が無いから。


「遂に米っぽいのが食えるのか」

「これを掲示板で知った仲間に拝み倒されて、見様見真似で作ったのを思い出すぜ。これに比べれば粒がデカかったけどよ」

「トマトベースの味付けで肉巻きおにぎりって、これ絶対美味いやつだろ」

「匂いでもう美味しいわ」

「行儀が悪いと分かってるけど、両手に一個ずつ持ってかぶりつきたいわ」


 分かる。

 普段から行儀がどうこう言ってる俺が言えることじゃないけど、行儀が悪いと分かっててもそうした方が美味い食べ方は存在する。

 たった今、肉巻きおにぎりを作ってる女性プレイヤーが言ったような食べ方とか、タレやソースを更に白米を乗せてそれを絡めて食べるとか。


「ますたぁ! いっこ、いっこちょうだい!」


 隣で見てるイクトからおねだりが入った。

 キラキラ輝く目を出来上がった肉巻きおにぎりから離すことなく指差し、口からは今にも涎が溢れて洪水になりそうだ。

 ちょうどいいから、味見がてら試食してもらうかな。

 無論、俺達もな。


「はいよ。味見よろしくな」

「あじみする! いただきます!」


 両手で肉巻きおにぎりを持ち、ちゃんと挨拶をしてかぶりついた。


「ん~!」


 口と目を強く閉じたまま嬉しそうな声を漏らし、足はバタバタして触覚はギュンギュン動く。

 続けて俺達も味見する。

 うん、肉にも味付けをしようか迷ったけどいい塩梅だ。


「味付け飯に巻くのもいいな」

「普通、肉巻きおにぎりって白ご飯だものね」

「これはお米じゃないけどね」

「肉がベーコンだったら、もっと合いそうじゃないか?」

『それな』


 ベーコン巻きおにぎりか。

 それならケチャップライスとも合いそうだけど、そうするなら中身に味付けは不要だな。

 ベーコンって割と塩気があるから、その塩気だけで十分だと思う。


「ますたぁ! これすごく、すごい! すごくすごいおいしい!」


 脂で両手と口周りをベトベトにしながらも、満面の笑みでの理屈抜きの美味しい表現がとても嬉しく感じる。

 褒めてくれたことにありがとなと伝えて頭を撫でてやり、両手と口周りの脂を布巾で拭ってやる。


「さっ、味見が済んだら皆の分を作るぞ」

『はい!』


 それから総動員で肉巻きおにぎりを作り続け、昼飯の時間になるとプレイヤー達やNPC達が集まってきた。

 並んでもらってスープと肉巻きおにぎりを配ると、プレイヤー達からは雄叫びが上がる。


「握り飯だ! 米じゃないけど、握り飯だ!」

「これが噂に聞いた、麺を刻んだ米の代用品か」

「ちねり米より作りやすいのもいいな」

「本当のお米じゃないけど、これはこれで美味しいわね」


 誰もがスープそっちのけで肉巻きおにぎりにかぶりついて、歓声を上げたり無言でがっついたりしてる。

 そしてそれは両手に肉巻きおにぎりを一個ずつ持ってかぶりついてる目の前にいるダルクと、味見の時と同じで両手で一つの肉巻きおにぎりを持って夢中で食べてるイクトも同じだ。


「にくまきおにぎり、おいしいよ、ますたぁ!」


 味見で食べたのに、まるで初めて食べたかのような反応が嬉しい。


「そうか、よかったな」


 興奮して触覚を動かしながら満面の笑みで言われると、両手と口周りを肉の脂でベトベトにしてようが気にならない。

 どうせまだまだ汚すだろうし、食べ終わってから布巾で拭えば一発で綺麗になる。

 本当、こればかりは現実でもそうであってほしいよ。掃除とか洗い物とかが楽になるから。


「トーマ! 美味しいけど、どうせなら肉をもっと分厚くしてよ!」


 両手で一個ずつ肉巻きおにぎりを持ちながら食べて、口元に刻み麺を付けながら何を言ってるんだこの幼馴染。


「何言ってるの、これで十分よ」

「あまりお肉が厚いと、嚙み切るのが大変よね」

「中のおにぎりとのバランスもある」


 肉が厚いとカグラとセイリュウが指摘した通り、食べにくくなって中身とのバランスが崩れる。

 食べにくさに関しては、ゲーム内とはいえ手が汚れるのが嫌なプレイヤー達のためにフォークを添えたぐらいなんだぞ。

 実際、俺達の中で素手で食べてるのはダルクとイクトだけで、カグラ達と俺はフォークで刺して食べてる。

 それに前に作った肉まみれ焼きうどんのように、一緒に食べたり別々に食べたりできる好きにできる料理ならともかく、肉巻きおにぎりは一つの形にまとめてるんだからバランスは大事な要素だ。


「えー、そうかな」

「そうなんだよ」


 肉がデカくて厚ければいいってもんじゃないんだ、それぐらい分かっておけ。

 とは思うものの、「えー」とか言いながら不満そうにしつつもがっつく様子を見るに分かってない。


「おねーちゃんたち、おそとはどう?」

「まあまあかな。それなりの数のモンスターを狩れたし、ドロップ品も悪くないし」

「途中で見かけた塾長達は、八メートルぐらいの大きなダチョウ相手に大立ち回りしてたわね」


 いやいやデカすぎ。

 しかも狼とか猪じゃなくてダチョウって。

 そいつを倒して入手できるのが大きなダチョウ肉なら、何人分になることやら。


「ぬおぉぉぉっ! 美味いのである!」


 噂をすればなんとやら、少し離れた席でカグラと同じように両手で肉巻きおにぎりを一個ずつ持ってがっついてる塾長を発見。

 試練の後の大唱声だいしょうせいってのはともかく、男っぷりや戦いっぷりやあの食いっぷりは好感が持てる。

 なんだかんだであの人、このサーバーの精神的支柱だな。


「それにしてもこの野営地、来た当初より随分と変わったわね」


 そうだな。

 テントが増えて野営地周辺は堀と木の柵によって囲まれ、畑もできたんだから。

 他にも見えないところで色々変わってるだろうし、プレイヤー達がこの野営地のために働いてるのが分かる。

 その理由がイベントを楽しむためか、景品目当てなのかは気にしない。


「ちゃんとご飯作ってるから、トーマ君も試練以外でそこそこ貢献度稼いでるんじゃないかな?」


 セイリュウはそう言うけど、実際のところはどうなんだろうか。


「どうだろうな」

「稼いでるわよ。どんなに私達が開拓地のために頑張っても、お腹が空いたら動けないもの。毎回食事を提供するのも、立派な貢献よ」


 そういうものか。

 まあ確かに、どんなに凄いアスリートや芸能人でもしっかり食事を摂らないとやっていけないから、その理屈は分かる。

 だけどそれでどれだけの貢献度を稼げてるかは別だ。

 目に見えないし表示もされてないから、調べようがない。


「そうだ。イベントが終わった後はどうするんだ?」

「ダルクの課題も片付けなくちゃならないし、景品とかの確認をしたらログアウトするつもりよ。それがどうかした?」

「ん……ちょっと確認したかっただけだ」


 課題の二文字にダルクが渋い表情をしたのは流して、尋ねた理由を言おうとしてやめた。

 本当はイベントのお疲れさま会兼イクトの歓迎会をやろうと思ってた。

 できれば一緒に料理してきたまーふぃんやバーベキューといった料理プレイヤー達、一時期護衛に付いてくれてた薬吉達、知り合いのポッコロとゆーららんと二人と一緒に参加してるルフフン達、それとダルク達が世話になった塾長達も誘って。

 料理は俺だけでなく、料理プレイヤー達がそれぞれで用意すればこれくらいの人数もいけるはず。

 でもこれを提案したら、間違いなくダルクは食いつく。

 お疲れさま会兼イクトの歓迎会が楽しみって気持ちもあるだろうけど、それ以上に課題の開始時間を少しでも先延ばしにするために。

 長年の付き合いからそれを察したから、言うのをやめたんだ。

 これについては後でダルクに気づかれないよう、メェナにでもメッセージを送って相談しよう。


「ますたぁ、ごちそうさま」

「ん、おそまつさまでした。ほら、これで手と口を拭け」


 綺麗に完食してニパーと笑うイクトに布巾を渡し、脂だらけの手と口周りを拭くように言う。


「はーい」


 返事をして布巾を受け取り、んしょんしょと口と手を拭うイクトに周囲の表情が緩んでる。

 そんな昼飯の時間を過ごし、晩飯の打ち合わせをするために料理プレイヤー達と調理場に集まって、午前中に外で入手したという食材をチェックしに食材置き場のテントへ入る。

 中にはNPCの兵士達が運んでくれた食材があり、肉類、キノコ類、ハーブ類、そして大きな卵が大量に転がってる。

 今まで卵なんて無かったけど、これは何の卵なんだ?




 プロリフィックオストリッチの卵

 レア度:3 品質:7 鮮度:81

 効果:満腹度回復4%

 プロリフィックオストリッチを倒すと超低確率で大量にドロップする

 殻は固い上に火にも強いので、そのまま火の中へ放り込んでも大丈夫

 濃厚な黄身も美味しいですが、白身にも豊富な旨味が含まれてます

 *鮮度が50以下になると効果に病気状態付与が追加されます




 えっ、これ一度に大量にドロップする卵なのか?

 しかもこの大きさと量なら、皆へ厚焼き玉子を三本ずつ振る舞うのも余裕でできる。

 三切れじゃないぞ、焼き上げて切ってない状態のを三本だぞ。

 さすがは超低確率、半端じゃないぜ。

 それにしても最終日の最後の飯を前に、一体誰がこんなのを入手したんだ。


「えっと、どうやらプロリフィックは多産、オストリッチはダチョウのことを指すみたいですね」


 ステータス画面を開いてネット検索したまーふぃんが、名称の意味を教えてくれた。

 へぇ、つまり多産ダチョウの卵ってことか。

 多産だから一度の大量の卵をドロップする……ダチョウ?

 それってひょっとして、カグラが言ってた塾長達が大立ち回りしてたっていう八メートルくらいのダチョウのことか?

 だとしたらこの卵って、そのダチョウの卵なのか?

 というか入手したのは塾長かい!

 さすがと言うべきか、期待を裏切らないことをしてくれる。


「この卵、どうします料理長」

「どうするも何も、何の卵であれ食べられるなら使うの一択だ」


 しかし濃厚な黄身はともかく、白身にも豊富な旨味がある卵か。

 これは期待できるし、何を作ろうか迷うな。

 でもまずは卵自体の味見かな。


「おっきいたまご、いっぱい」


 付いてきたイクトが卵をペシペシ叩いてる。

 こら、固いから簡単には割れないだろうけど叩くのはやめろ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 牛乳と氷があったら氷に塩を混ぜて冷やすアイスが作れそう 氷魔法とかだめか
2023/08/16 10:06 ポンポンマム
[一言] おにぎりならやっぱりご飯がいいけど 鍋や釜でご飯炊くのすごく難しそうなイメージがあるな
[一言] 卵といえば目玉焼きだけど何をかけるかで かなり分かれますね それで口論が起きたりして
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