試練の結末
献上する理由を伝えると、土地神の視線が肉まんから俺へ移る。
『ほう、これが荒神の怒りを鎮めただと?』
「そういう言い伝えがあります」
『興味深い。言い伝えとやらを聞かせよ』
「はい」
説明を求める土地神へ、祖父ちゃんから聞かされた話を聞かせる。
遠い昔、ある軍勢が遠征のために川を渡ろうとした。
ところが川が荒れ狂っており、足止めを余儀なくされた。
地元住民の話では、これは川に住む神が怒っているのだという。
荒ぶる神の怒りを治める方法は川へ生贄を捧げること。
しかし軍勢の知恵者は、そのような悪習を許さなかった。
そこで人の頭に似せた物を作り、生贄の代わりに川へ入れて祈祷した。
すると荒れていた川は静まり、軍勢は無事に川を渡ることができた。
説明を終え、以上ですと告げる。
一部名前とか国名を端折ったけど、それくらいは大丈夫だろう。
大事なのは正当な理由であって、内容がしっかりしてればそれくらいは問題無いはずだ。
『なるほど。その人の頭に似せた物というのが、この料理か』
よしっ、名前や国名を端折っても大丈夫だった。
「はい。神に対して捧げられた言い伝えのあるこの料理ならば、土地神様へ捧げるのに相応しく思います」
さあどうだ?
若干の不安を抱きつつ、土地神からの反応を待つ。
『うむ。確かに』
いいぞ、どうやら納得してもらえそうだ。
『だが今の話を聞くにそれだけではなく、貴様らに対する我の怒りを鎮めるために作ったのではないか?』
「……その通りです。御見それしました」
頷いてニヤリと笑う土地神につい肯定したものの、実はそこまで考えてなかった。
なので今の返事は取ってつけた嘘です、ごめんなさい。
『若き火蜥蜴よ、もう一つ問う』
火蜥蜴? ああ、サラマンダーのことか。
一瞬何のことか分からなかった。
『そもそも、こうした物を選んだのは何故だ?』
「土地神様は献上品に対し、理由を追及してました。なので求めてるのは高品質の物や好物ではなく、神である自分へ捧げる正当な理由がある品だと思ったんです」
外見は虫とはいえ神は神。
だったら求めてるのは虫としてじゃなくて、当然神としての物になる。
それに気づかなかったら、虫だからって考えの料理を作ってたかもしれない。
『……如何にも。よくぞ気づいた、若き火蜥蜴よ』
良かった、正解だった。
後ろからはプレイヤー達やNPC達による、歓声とどよめきが聞こえる。
『我はこのような姿かつこの地のみといえど、神は神。ゆえに我へ捧げる品にも、神たる我へ捧げるに相応しい正当な理由があってしかるべきだ。それさえしっかりしてれば、不細工だろうが不格好だろうが不味かろうが下手くそだろうが構わなかった』
相手が神だからといって華美や質や珍しさを求めず、内容を求めてほしかったってことか。
『眷属よ、その品を我の下へ運べ』
土地神が魔法陣から眷属のハチを呼び出す。
そのハチは祭壇へ向かって肉まんを乗せた皿を持って土地神の顔の前まで運ぶと、大きく開けた土地神の口の中へ肉まんを流し入れた。
さすがは大きさが違うだけあって、食べ方も豪快だ。
って、ハチがこっち来た!?
あっ、皿を返しに来てくれたのか。ご丁寧にありがとう。
『うむ、味も良しときたか。ならば、なおさら文句はあるまい。若き長よ、前へ出ろ』
「は、はい!」
呼ばれたフルクスがブライアンを伴って進み出た。
『若き長よ、この若き火蜥蜴は献上の試練を乗り越えてみせた。よって、この地に住処を築くことを認める』
おぉっ! つまり試練はクリアってことか!
「本当ですかっ⁉ ありがとうございます!」
『だが二度目は無いぞ。此度のこと、しっかり伝えてゆくのだぞ』
「はい! 必ずや父にも伝え、愚かな過去を繰り返さないよう徹底します!」
真剣な表情でフルクスがそう宣言すると、土地神の試練をクリアしましたとアナウンスが流れた。
それを聞いて後方にいるプレイヤー達が沸いて、一斉に駆け寄ってくる。
「やったねトーマ! 大手柄だよ!」
真っ先に来たダルクに背中をバンバン叩かれ、その後はカグラやメェナやセイリュウやポッコロやゆーららんやまーふぃんと、知った顔や知らない顔から次々祝福される。
だけどあまりの大人数に囲まれてるから、全く身動きが取れない。
おい誰だ、今足を踏んだのは。
「皆さん、今回は本当にありがとうございます!」
ギョギョ丸と薬吉と赤巻布青巻布黄巻布からも祝福されてると、フルクスの声が響き渡った。
「約束通り皆様へお礼を差し上げます! 受け取ってください!」
そう言ってフルクスが両手を掲げると光の玉が現れ、空へ飛んで行ったかと思ったら花火のように弾けてプレイヤー全員へ降り注いだ。
密集してたから避けられずに受けたけど何の衝撃も無い。
ただ、いつの間にか手に木の板が握られていた。
何だこれ?
フォクスター領通行手形 製作者:NPC・フルクス・フォクスター
転移屋でフォクスター領へ行く際の代金が無料になる。
なお、フォクスター領から他所へ行く際の料金は発生するのでご注意を。
*アイテムボックスにあれば有効
転移の料金が無料になるアイテムか。
ということは、イベント後はここに転移できるようになるのかな。
「皆さんはこの地の恩人です。これを使って、いつでも来てください」
転移の料金が無料なら何度でも来よう。
あっ、でも帰る時の料金は必要になるのか。
それでも片道の料金が無料になるからか、周りのプレイヤー達は喜んでる。
『土地神スタッグガードナーの試練を乗り越えました。このサーバーにいるプレイヤー全員へ、【守護クワガタの祝福】の称号が与えられます』
続けてアナウンスが流れると喜びはより大きく爆発して、プレイヤー達は一気に湧き上がった。
「マジかよ! 称号だ!」
「称号なんて貰ったの初めてよ!」
「試練に挑戦してなかったのに、貰っていいのかな?」
「いいじゃんいいじゃん、貰えるなら貰っとけって」
「早く効果を確認するんだ!」
やっぱり称号って嬉しいものなんだな。
これで【クッキング・パイオニア】と合わせて二つ目だけど、今度のはどんな効果なんだ?
称号【守護クワガタの祝福】
解放条件
土地神スタッグガードナーの試練をクリアし、開拓を認められる
報酬:試練に未挑戦の方・賞金無し
ポイント1点取得
試練に挑戦した方・賞金2000G獲得
ポイント2点取得
試練をクリアした方・賞金8000G獲得
ポイント4点取得
効果:他の土地神と出会った際に役立つ
報酬額は試練次第で変化するのか。
俺は試練をクリアした方に該当するから、賞金8000Gが振り込まれてポイントが4点入ってる。
そして効果を見るに、後々別の土地神が出現する可能性が出てきた。
「やった! 試練はクリアできなかったけど報酬ゲットだ!」
「えっ、他にも土地神がいるの!?」
「挑戦してないから賞金が貰えないのは残念だけど、称号貰ってポイントもゲットできたなら十分だぜ!」
「お兄さん、クリアしてくれてありがとうございます!」
喜ぶ周囲に乗じたのか、満面の笑みでポッコロが飛びついてきたから咄嗟に受け止める。
はいはい、ハラスメント警告はノーしておくよ。
それと危ないから急に飛びつくのはやめなさい。
「別の意味でありがとうございます」
「尊い光景、ありがとうございます」
「攻守はどうなってるの? どっちでも推せるから迷うわ!」
向こうでこっちを拝んでる女性陣と、ざわついてる女性陣は何を言ってるんだろう。
「お兄さん、称号のお礼にギューってしていいですか?」
「トーマ! 僕もしてあげる!」
「あらあら、じゃあ私も」
ゆーららんもダルクもカグラも何を言ってるんだ。
いいってそういうのは。ハラスメント警告連発案件だって。
「じゃ、じゃあ私とメェナちゃんも」
「私を巻き込まないでよ! 恥ずかしいからやらないわよ!」
セイリュウ、お前もか。
そしてメェナの反応には本当に救われるよ。
もっと言ってやれと心の中で応援しつつ、勝手にくっ付いてきたダルクとカグラとゆーららんのハラスメント警告にノーを押した。
というかカグラは密着しすぎだって。
色々押し付けられて男性プレイヤーから怨嗟の目が向けられてるし、女性プレイヤーからは黄色い声が上がってるから!
『では我からも、試練を乗り越えた若き火蜥蜴へ褒美をやろう』
なんとか離れてもらってる間に、土地神がそんなことを言いだした。
何かご褒美くれるみたいだけど何だろう。
期待と不安が入り混じる中、土地神が右手を高く掲げると光が集まっていって小さな三つの塊になった。
『三つ用意した。好きなのを一つ選べ』
さっき皿を返してくれたハチと同じ個体を追加で二体呼び出すと、それぞれが光を手にこっちへ飛んでくる。
周りは邪魔にならないように下がってくれて、三体の巨大なハチは俺の前に降りてきて光を差し出す。
少しして光が収まって現れたのは、なんか変な模様がある出刃包丁と昆虫食上等って書かれた茶色の前掛け、そしてなんとも言えない色合いのデカい卵。
「この三つから選べと?」
『うむ。どれも良い物だぞ』
良い物と言われてもね。
調理道具たる包丁に変な模様があって、制服的要素のある前掛けには変な事が書いてあって、食材っぽい卵は殻がなんとも言えない色合いをしてる。
なんとも選びにくいから、情報をチェックしてマシなのを選ぼう。
土地神の恩恵を受けし包丁 製作者:NPC・土地神スタッグガードナー
レア度:8 品質:8 耐久値:400
腕力+20 器用+40 斬撃耐性無効化 物理無効無効化
土地神から恩恵を授かった包丁
硬い食材どころか、ゴーレムやゴーストすらずんばらりんと切り裂く
土地神の魂を受けし前掛け 製作者:NPC・土地神スタッグガードナー
レア度:8 品質:8 耐久値:400
HP最大量+20% 体力+30 物理ダメージ20%減 火耐性【中】
土地神の魂の叫びが刻まれた前掛け
布だけどとても丈夫で燃えにくい
土地神の優しさを受けし卵 製作者:NPC・土地神スタッグガードナー
土地神によって眷族達の力が込められた卵
テイムすればすぐに生まれてあなたを守るために戦います
何が生まれるかな?
*食べられません
*受け取った方しかテイムできません
包丁は調理道具であって戦闘に使う物じゃないし、そもそも戦う気が無いからパス。
前掛けは書いてる文字がふざけてるっぽいから遠慮したい。
そして卵は食材じゃないんかい!
殻がなんとも言えない色合いなのはともかくダチョウの卵すら越える大きさだから、プレイヤー全員へ配れるくらいの食材になると思ったのに!
「トーマ君、どれを貰うの?」
「包丁に前掛けに卵ね。プレイヤーの職業で変化するのかしら」
「性能はどんな感じなの?」
「教えて」
ここでダルク達が登場か。
ちょうどいい、意見を聞こう。
「こういったものなんだけど」
三つについてそれぞれ説明すると、それを聞いてた周囲のプレイヤー達はざわめきだし、ダルク達は集まってヒソヒソと話しだした。
戦わないんだし包丁や前掛けはとか、ちょうどいい護衛にって声が聞こえるけど途切れ途切れでよく聞き取れない。
周りのプレイヤー達もどれを選ぶんだと注目する中、話し合いを終えたダルク達が勧めてきたのは卵だった。
「これが生まれれば、トーマの護衛になってくれるよ!」
「一緒に移動する時の戦闘も楽になるしね」
護衛であり、一緒に移動する時の戦闘要員か。
他の二つは装備してる俺が戦闘しないから、変化しないもんな。
「テイムスキルを取る必要はあるけど、トーマ君はまだポイント残してるでしょ?」
勿論、何かの時に備えて残してる。
ちなみにカグラ曰く、テイムスキルはモンスターを仲間するために使うスキルとのこと。
たまにネズミとかウサギとか鳥を連れてるプレイヤーを見かけたけど、そういうことだったのか。
「虫かもしれないけど、トーマ君の安全のためなら我慢する」
無理しなくていいんだぞ、セイリュウ。
まるで生まれたての小鹿みたいにプルプル震えてるじゃないか。
でも本人はいいからと譲らないし、ダルク達も本人がこう言ってるから大丈夫と譲らない。
『決まったか?』
「ええっと、卵を貰います」
本当に虫が生まれたら、後でセイリュウのフォローをしよう。
『よろしい。受け取れ』
ハチから卵を受け取ったらダルク達の指示に従い、まずはポイントを消費してテイムスキルを習得。
周囲からの注目を浴びる中、卵に向けてテイムと言ってスキルを使う。
【土地神の優しさを受けし卵のテイムに成功しました】
成功の表示を確認したら卵が浮かび上がって輝き出し、プレイヤー達は騒ぎだす。
「何が生まれるんだ?」
「どんな虫なんだ?」
「目が、目があぁぁぁっ!」
一部の目を押さえて騒いでるプレイヤーは気にせず、ゆっくり地面に降りた卵に注目する。
やがて卵が割れて光の粒子が飛び散ると、横向きに寝転がる人の形をした光が残った。
その光が収まって姿を現したのは、蟻のような触覚が額から生えてる点以外は変わったところは無い、人間だと五歳ぐらいの子供。
短めの黒い髪はピョンピョン跳ねてて、茶色の半袖シャツと紺のハーフパンツからは白い肌の手足が伸び、足には赤いサンダルを履いてる。
「えっ、人?」
「違うだろ、触覚生えてるじゃん」
「蟻人族ってことか?」
「か、かわいい」
見た目は蟻の触覚が生えてること以外、完全に人間だ。
というか、こんなに幼い子が生まれるなんて予想外にもほどがある。
「トーマ、この子の情報出して」
「ステータス画面を開いて、テイムモンスターの欄から選択すれば見れるわよ」
はいはい。ステータス画面を開いて、テイムモンスターの欄から選択ね。
えっと、この〈???〉って表示されてるのでいいのかな。
試しに押してみると正解だったようで、情報が表示された。
*****
名前:???【未設定】
種族:インセクトヒューマン
職業:土地神スタッグガードナーの使徒
性別:男
レベル:1
HP:23/23
MP:7/7
体力:14
魔力:9
腕力:15
俊敏:12
器用:14
知力:5
運:7
種族スキル
部分変態
スキル
斬撃LV1 毒攻撃LV1 立体機動LV1
飛翔LV1 硬質化LV1 切断LV1
装備品
頭:なし
上:土地神の眷属達の想いが詰まったハーフシャツ
下:土地神の眷属達の想いが詰まったハーフパンツ
足:土地神の眷属達の想いが詰まったサンダル
他:なし
武器:装備不可
*テイムモンスター
主:プレイヤー・トーマ
友好度:8
満腹度:50% 給水度:50%
*****
これはどこからツッコミを入れればいいんだ?
能力の数値は高いのかよく分からないからスルーしていいとして、種族とか職業とか種族スキルとか装備品の上下と足とか。
「ん……」
小さな声がして名無しの子供使徒が動きだす。
上半身を起こしながら眠そうに目を擦り、その目がパッチリ開くとこっちを見た。
咄嗟にステータス画面を閉じると目が合い、不思議そうな表情で首をこてんと傾げられた。
「ますたぁ?」
舌足らずな感じの喋り方に女性プレイヤー達から黄色い悲鳴が上がる。
『そうだ、我が使徒よ。その若き火蜥蜴がお前の主となる男だ』
「あっ、かみさま」
振り返って土地神を見た名無しの子供使徒は、よっこらしょといった感じで立ち上がり、ちょっとふらついた後でしっかり立つとペコリと頭を下げた。
その姿に女性プレイヤー達から再び黄色い悲鳴が上がる。
『若き火蜥蜴よ、その幼き使徒を頼むぞ』
「わ、分かりました」
こうなった以上は了承するしか選択肢がない。
『うむ。では、我はこれで失礼する』
そう言い残して土地神は飛んで去り、舞台と祭壇は光になって消滅。
それを見届けると、名無しの子供使徒がフラフラと覚束ない足取りで寄ってきて脚にしがみついた。
ハラスメント警告……って、モンスターだから出ないのか。
「ますたぁ、おなまえちょーだい?」
こっちを顔を見上げて名前を強請られた。
そういばまだ未設定だったな。
名前、名前か。
「じゃあイクトで」
種族がインセクトヒューマンだから、そこから名前っぽく文字ってイクト。
安直だけど難しく考えて変なのになるより良いだろう。
「いくと、いくとはいくと!」
嬉しそうに笑いながらピョンピョン跳ねるイクトが弟可愛い。
一人っ子で弟どころか妹もいないけど、俺の貧相な語彙じゃ弟可愛いとしか表現できない。
触覚に気をつけながら頭をクシャクシャに撫でると、きゃーとか言いながら喜ばれた。
確認のために情報を調べると、ちゃんと名前がイクトに設定されてる。
しかも友好度が10に上がってる。
これは名前を付けてやったからか?
「おぉぉっ、なんか戦わせるのが申し訳なく思えるよ」
「うふふ。そうね、戦えるんでしょうけど戦わせたくないわ」
同感だ。できることならイクトを戦わせたくない。
「これはまたファンが出来そうな子ね」
出来そうじゃなくて、もう出来てると思うぞ。
あっちでヒソヒソ喋ってる女性プレイヤー達とか。
「セイリュウは大丈夫か?」
「完全な虫じゃないから平気。余裕で撫でられるし、手も繋げる」
グッとサムズアップする様子からは嫌悪感は見られないから、本当に大丈夫なんだろう。
試しに撫でてみるかと提案すると、平然と頭を撫でてる。
「おおう、ふさふさな髪の毛の感触がクセになりそう」
「おねえちゃん、くすぐったいー」
とか言ってるけどイクトに嫌がる様子は無く、相変わらず楽しそうにしてる。
「実に見事であったぞ!」
あっ、塾長。
「試練を乗り越えたお主の男っぷり、この江乃島平太郎も感服したのである。よって、これより野郎塾名物が一つ大唱声でその栄誉を称えるのである!」
なんだって? 大唱声?
「ま、まさか、あの伝説の大唱声をやるというのか!?」
「知ってるのか、赤巻布青巻布黄巻布」
「おう。戦国時代、遠方で苦戦する味方の兵士を励ますために千の兵士に声を張り上げさせて激を飛ばし、百キロ先の味方へ届けて無限の勇気と元気と男気を溢れさせて勝利へ導いたとされる伝説の応援だ。本来の目的とは違うが、まさか実際に目の当たりにすることができるなんて」
なんかギョギョ丸と赤巻布青巻布黄巻布が真剣な顔でありえない話をしてる。
もしかして、それも塾長が登場してるっていう漫画のネタなのか?
「塾生達よ、腹の奥底から声を出すのである! それ!」
『料理長! 料理長! 料理長!』
うおぉぉぉぉっ!
塾長とその仲間達が料理長の大合唱だ!?
うるせえぇぇぇっ! なんだこの頭にキンキンに響く蛮声はっ!
『料理長! 料理長! 料理長!』
しかも他のプレイヤー達も混ざっての大合唱に発展した!?
やめろおぉぉぉっ!
うるさい! そして恥ずかしい!
『料理長! 料理長! 料理長!』
ダルク達も混ざってるんじゃねぇっ!
「ほら、イクトも」
「料理長! 料理長!」
「りょーりちょー、りょーりちょー」
ポッコロとゆーららんに促され、舌足らずで楽しそうに連呼するイクトは弟可愛いから許す。
耳を押さえて悶えてるのに続く大唱声は、五分後に塾長によって終了が宣言されるまで続いた。
さて、試練はクリアしたから今度は調味料不足っていう目下の問題を片付けないとな。
興奮冷めやらぬ雰囲気の中、一緒に行くと強請るイクトと手を繋ぎ、晩飯はどうしようかと悩みながら料理プレイヤー達と調理場へ向かうと何故か保安官がいる。
「お待ちしてました。此度の悪質なプレイヤーによって食材と調味料が使用不能になった件に関し、対応に参りました」
丁寧に頭を下げた保安官によると、あいつらはイベントから強制退場以外にも罰を受けたらしい。
現実時間で十日間のアカウント凍結、ブラックリスト入り、所属ギルドの貢献度がゼロへ低下などなど。
さらに強制退場のためイベント中に稼いだ貢献度もゼロとなり、弁償という名目で所持金を全て取り上げて、それを使って駄目にした食材と調味料を用意してくれたらしい。
「それらは既にテントへ運び入れてるので、ご確認ください。それでは失礼します」
説明を終えたらすぐに保安官は消え、顔を見合わせた俺達はすぐにテントへ入ると木箱や袋があった。
中には駄目にされた食材や調味料がしっかり入っており、料理プレイヤー達が大喜びする。
俺も思わず、近くにいたまーふぃんとハイタッチを交わし、それを真似したがるイクトとも小さくハイタッチした。
よし! これで晩飯の目途が立ったぞ!




