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最悪にやってくれた


 朝飯の後片付けを済ませ、料理プレイヤー達と昼飯についての打ち合わせしたらテント内にある食材を前に腕を組み、献上の試練に出す料理を考える。

 傍らには護衛のセイリュウと赤巻布青巻布黄巻布がいて、周囲には数人の料理プレイヤーが同じく献上の試練に出す料理を相談してる。

 ちなみに薬吉は薬作りの作業をしに行っていて、午後になったら赤巻布青巻布黄巻布と交代することになってる。

 というのも、フルクスの指示で開拓よりも土地神への対応が優先されたことで作業内容が減り、午前と午後で人を分ける余裕ができたらしい。

 その空いた時間を献上の試練に出す品作りに当ててるため、割と時間に余裕があるそうだ。

 赤巻布青巻布黄巻布も、ただ単に護衛に付いてるだけでなくて自分が出す品を考えてるとのこと。


「土地神とはいえ虫なんだから、やっぱり果物を使った料理じゃないか?」

「でも、この辺りには食べられる果物が無いって話だぞ」

「木の実って何があったっけ?」


 周囲にいる料理プレイヤー達が作る料理について、あーでもないこーでもないと意見を交わしてる。

 土地神とはいえ外見が虫だからか、野菜か果物か木の実をふんだんに使った料理がいいんじゃないかという意見が多い。

 実際、俺もそう考えてる。

 だけど何か引っかかるんだよな。


「トーマ君、何を作るか決まった?」

「全然」


 虫だからって理由で虫が好みそうな料理を作って、それでいいのか?

 土地神は自分に相応しいものを、って言ってた。

 それイコール、虫が好みそうな食材を使った料理を指すんだろうか。

 チェーンクエストのように、実はその裏に別の何かがあるってことはないのか?

 そうやって考えれば考えるほど深みにはまっていく。


「あー、駄目だ。考えがまとまらない!」

「難しく考えすぎじゃない?」


 隣で首を傾げるセイリュウの言う通り、実はシンプルな答えだったってオチかもしれない。

 考えすぎた頭を冷やすため、ここらで少し落ち着こう。

 食材を置いてるテントを出て無限水瓶から汲んだ水をコップへ注ぎ、一気飲みして大きく息を吐く。


「ふぅ……」

「大丈夫だよトーマ君。こういうのは絶対にクリアできない条件じゃないから」

 

 だよな。でないとゲームとして成立しないし、生産職が圧倒的に不利だ。

 少なくともこのイベント会場である、サーバー内でなんとかなるはず。


「だったら聞き込みに行くか? こういうことのヒントは、大抵NPCが持ってるものだぞ」


 そういえば、この場にいない料理プレイヤー達は聞き込みに行こうとか言ってたな。

 頭を冷ます時間が欲しいし、赤巻布青巻布黄巻布の提案に乗ってみるか。

 というわけで二人を伴って野営地の中を歩き回り、遭遇した兵士や文官に声を掛けて話を聞いてみた。


「俺もブライアン隊長と特訓して、屈服の試練に参加したい」

「持ってきた資料では、どちらの試練にも役に立てそうにない」

「神に献上する物ってどんなのだ? なんか謂れのある品とか?」

「生贄を捧げろって言われるよりはマシだよな」

「困った時の神頼みって言うけど、その神が相手なのよね」


 返ってきたのは主にこんな感じで、これといってヒントになりそうな発言は無い。

 同行してる二人も考えてるようだけど、これといって攻略に繋がりそうな要素は思いつかないようだ。


「唯一役に立ちそうな情報は、謂れのある品か」

「この場で作ったら、謂れもなにもないぞ」


 赤巻布青巻布黄巻布の言う通りだ。

 謂れっていうのは由緒とか事情とか正当な理由とか、そういうのを指す。

 だけど献上する物はこの場で作るから、由緒もへったくれもない。


「やっぱりシンプルに、虫が好きそうな物を作るんじゃない?」


 今の状況だとそれしかないかな。


「ひょっとすると、品質とかレア度とか完成度とかが関係するんじゃないか?」

「それだと公平性に欠けるじゃないですか」


 もしも赤巻布青巻布黄巻布の指摘が正しかったら、上手く作れる人が有利で平等性が無い。

 だからそれは違うと思う。


「だけど屈服の試練が強ければ有利な分、献上の試練も同じく上手く作れれば有利だとも考えられるぞ」


 言われてみればそうかも。

 ううん、推測が推測を呼んで連鎖反応が止まらないぞ。


「こうなったら何でもいいからとにかく作ってみて、土地神様の反応を確認してみたらどうかな?」


 何度でも挑戦できるから、そうするのも一つの手か。

 無論、様子見とはいえ今できる全力で料理する。

 それに対する土地神の反応から、内容を考え直せばいい。

 なんだったら、他のプレイヤーが献上した物への反応を見て様子を窺うのも一つの手だ。


「ひとまず調理場へ戻ろう。もうすぐ昼飯の仕込み開始の時間だ」

「お昼は何!?」

「何を作るんだ!?」


 真剣な表情から一転、とてもいい笑顔で目を輝かせる二人から尋ねられた。

 セイリュウからはともかく、おっさんからそんな顔と目を向けられても嬉しくない。


「石焼鍋風の干し野菜のスープと肉まみれ焼きうどんだ」

「「おぉー!」」


 調理場の方へ戻りながらメニューを伝えたら、二人から歓声が上がった。

 前回はそのままだったスープの野菜を、今回は乾燥スキルで干し野菜にして出汁を取りつつ具材にする。

 でもって小麦粉は麺にして、残りの量が中途半端な肉を種類や部位を問わずたっぷり入れた焼きうどんを鉄板で作る。

 これが朝飯後の打ち合わせで決まった今日の昼飯。

 麺棒に使える棒を持ってるのは俺だけだから、頑張って生地を伸ばさないとな。


「やっきっうどん。やっきっうどん」


 麺類好きのセイリュウが喜びながらスキップで移動してる姿は、低い背丈もあって子供みたいだ。

 そうやって楽しみにしてくれてると作り甲斐がある。

 つい同い年のクラスメイトだっていうのを忘れそうになりつつ調理場へ向かっていると、ポッコロやゆーららんといった農業プレイヤー達と出くわした。

 その手には野菜が盛られた籠がある。


「あっ、お兄さん。いいところに」

「畑で育った野菜が収穫できたので持ってきました。食事に使ってください」


 彼らが持ってきた野菜は前にチラッと聞いた、どんな作物でも一晩で育つ特別な肥料で育ったもの。

 どんな野菜があるか見せてもらうと、籠に積まれてるのはカブとホウレンソウとトマトとナスの四種類。

 それらはそのまま調理場へ運んでもらい、昼飯を作る準備をしてる料理プレイヤー達と野菜を確認する。

 収穫したてだから鮮度は高いけどレア度と品質は低く、よく見ると大きさは大小バラバラで形は不恰好なのが結構ある。


「どうも早く育つ分、レア度や品質は低くなって大きさや形にも影響が出るみたいなの」


 ホウレンソウを積んだ籠を運んできてくれたシャロルが、一見すると生育不足に見えるけど実はちゃんと育ちきってる小さいホウレンソウを手に、溜め息交じりに説明してくれた。

 別に味がしっかりしてればレア度や品質が多少低くても気にしないし、大きさの違いや形の不恰好さも切って使えば気にならない。


「作った野菜はこれだけなのか?」

「はい。他に育てたのは全部小麦なんです」

「畑の大半は小麦作りに使ってました。今、フルクスさん達が持ち込んだ石臼やふるいで小麦粉にしてるところです」


 ああ、そういうことか。

 運んできた小麦粉が尽きた時に備えて、主食になる小麦の生産を重視したのか。


「それで料理長、この野菜はどうします?」


 この短期間で他の料理プレイヤー達から料理長って呼ばれるのが浸透してる。


「ひとまず他の食材と一緒にして、全種類の一部をスープの具材に追加するか」


 今から品数を追加すると調理予定が崩れるし、スープに加えるだけなら元々使う予定だった野菜の量を減らせば調整が利く。

 せっかく収穫して持ってきてくれたんだ、すぐに使って美味く調理するのが礼儀ってもんだろ。


「お昼ご飯、楽しみにしてますね」

「よろしくお願いします、お兄さん」

「ああ、任せておけ」


 笑顔で寄って来たポッコロとゆーららんの頭をわしわしと撫でてやる。

 ポッコロは耳と尻尾を嬉しそうにパタパタ動かし、ゆーららんは髪がクラゲの触手のようにゆらゆらと……それ動くのか?


「あっ、この髪ですか? 戦闘や作業には使えませんが、多少なら動かせますよ。クラゲの触手みたいで可愛いですよね」


 髪を凝視してるのに気づいたゆーららんが説明してくれた。

 海月人族だから、触手っぽい髪を動かせても不思議じゃないか。

 特に動かす理由が無いから動かしたことが無いけど、俺も尻尾を動かせるし。


「ねえ。あの、おにロリショタな光景をどう思う?」

「微笑ましくて尊くて推せる」

「妄想が滾って夏に向けての新作が捗りそう」


 若い女性プレイヤー三人が集まってヒソヒソ話しあい、がっしりと力強く握手してる。

 小声だから内容は聞こえないけど、三人の近くにいるまーふぃんやシャロルの表情は苦笑いだからさほど変な話じゃないんだろう。

 三人でこっちを見て笑ってるし、微笑ましいとかそんな話かな。

 さて、昼飯の仕込みもあるし弟妹的な二人とじゃれるのはここまでにして調理へ移ろう。

 小麦粉作りを手伝いに行く農業プレイヤー達を見送り、スープに使う野菜の種類が増えたからそれぞれの量を調整し、持って来てくれた野菜で使わない分は食材置場のテントの中へ運んで空いてる木箱に詰め、その他諸々の準備を整えて料理プレイヤーが全員集まったら調理開始。

 なお、護衛のセイリュウと赤巻布青巻布黄巻布は端の方に控えてもらう。


「じゃ、手筈通りに」

『はい!』


 返事をしたらそれぞれが担当に分かれる。

 俺はまずニンジンやキノコやトマトといった野菜を切り分けたらスキルで乾燥させ、干し野菜を作っていく。

 それが終わったら他の野菜を切り分けてる料理プレイヤー達へ渡し、生地担当が作った生地を麺棒で伸ばす。

 麺棒とは言ってるけど、実際は武器として扱える木の棒だから自由に出し入れできる。

 これを買っておいて良かったと思いつつ、生地を伸ばして折り畳むのを繰り返す。

 折り畳まれた生地は生地担当によって切られ、焼きうどん用の麺が量産される。

 太さに多少の差異があっても、それはご愛敬ってことで。


「料理長、肉の準備できました!」

「石の加熱も十分です!」


 報告ありがとう。

 でもどうして敬礼してるんだ。

 かまどの一つに設置された鉄板の上で加熱されてる大量の石と、種類や部位を問わず一口大に切り分けられた大量の肉を確認。

 野菜の準備も終わったのを確認したら、水を張った寸胴鍋に干し肉と干し野菜と干してない野菜を投入。

 そこへ焼いた石を入れてスープを作ってもらいつつ、いくつかの寸胴鍋には具材を入れずに石だけを入れてお湯を沸かす。

 そのお湯へ麺を入れて下茹でをしたら、数人がかりで持った鉄網の上で寸胴鍋を傾けて中身を流す。

 茹でられた麺は目が小さい網に引っ掛かり、お湯は網をすり抜けて地面に落ちる。


「よし、頼む」

『はい! せーの!』


 鉄網を持った人達がタイミングを合わせ、鉄網を上下に振ったり左右に揺すったりして麺に絡んだお湯を切る。


「鉄板、いけるか?」

「いつでもこい!」


 既に残り五つのかまどで熱した鉄板では油を敷いて肉が炒められており、そこへ鉄網から麺が投入された。

 湯切りをしたとはいえ、まだ残っていた水分で鉄板から蒸気が上がる。

 だけど鉄板の前に立つ料理プレイヤー達はそれにひるまず、両手に持ったフライ返しで肉と麺を炒めていく。


「うおぉぉぉっ! 今俺は、縁日の屋台で焼きそばを炒める親父だあぁぁぁっ!」

「なら俺は、海の家で焼きそばを炒める親父だあぁぁぁぁっ!」


 気合いが入ってるのはともかく、そのイメージはなんだ。それと焼きそばじゃなくて、焼きうどんだぞ。

 こんな調子でスープと肉まみれ焼きうどんを作り上げたら、昼飯時になってやってきたプレイヤー達やNPC達へ皿やお椀に盛った料理を手渡す。

 無論、味見はしっかりしてバッチリなのは確認済みだ。




 干し肉と干し野菜の石焼鍋風スープ 調理者:多数〈選択で全員表示〉

 レア度:2 品質:5 完成度:76

 効果:満腹度回復21% 給水度回復12%

    魔力+2【1時間】

 熱した石で豪快に煮込んだスープ

 調理法は豪快でもシンプルで優しい味わい

 野菜の種類が豊富なので色々な味が楽しめます

 石はちゃんと洗ってあるので、土や砂利は入ってません




 肉まみれ焼きうどん 調理者:多数〈選択で全員表示〉

 レア度:2 品質:6 完成度:75

 効果:満腹度回復28%

    腕力+2【1時間】

 肉好きにとっては夢の焼きうどんがここに爆誕

 麺以外は肉肉肉肉と、まさしく肉祭り

 しかも種類も部位もバラバラなので、一口ごとに様々な肉を楽しめる




 配るやいなや、肉好きと思われる男性プレイヤー達が雄たけびを上げ、フォーク片手に焼きうどんをむさぼり食べてる。

 半分ほど食べたらスープを挟んで一息入れ、また雄たけびを上げながら焼きうどんをむさぼり食べる。

 そして当然、我先にとおかわりを求めて駆け込んでくる。


「くっはー! 肉汁が五臓六腑に染み渡るー!」


 揚げ物狂いのダルクでさえ、この調子だ。


「やはり肉は美味いであるな! おかわり!」


 皿を傾けて豪快に食べる塾長もこの通り。

 問題は非協力的な側のプレイヤー達が黙って食べてるかどうかだな。

 そう思いつつ周囲を見渡すと、その手のプレイヤー達は隅の方で一塊になって喋りながら飯を食ってる。


「あの人達、大人しくしてくれてるのは幸いですけど逆に不気味ですね」


 隣で配膳をしてるまーふぃんの言う通り、あれだけ強気に一方的な要求をしてきたくせに大人しくしてるのが不気味だ。

 ふと目が合うとニヤニヤ笑いだすし、何を考えてるんだ?


「お互いに気をつけような」

「大丈夫です。できる限り知り合いと一緒にいますので」


 うん、その方がいいかもしれない。

 俺も土地神が現れる時間まで、護衛のセイリュウ達から離れないようにしよう。

 そう改めて決意しつつ、またおかわりを取りにきた塾長へ焼きうどんを手渡す。

 ところで塾長、それ何皿目?



 *****



 昼飯が終わって後片付けをしてるとダルク達がやってきて、洗い物をしてる俺の傍で愚痴りだした。

 なんでも午前の活動中、塾長達との連携を練習するためにモンスターと戦闘をしようとしたら、悉く非協力的なプレイヤー達に横取りされて碌に練習ができなかったらしい。


「有名なタンクのフドーと共闘して指導してもらえる、またとないチャンスだったのに! あんちくしょー!」


 よほど悔しかったのか、大声で吠えると激しく地団駄を踏む。


「もう。あんなセコイマナー違反をするなんて思わなかったわ」

「私達にレベルを上げさせず自分達だけレベルを上げて、ついでに素材もこっちに渡さない気よ。まったく、やることが小っちゃいんだから」


 カグラとメェナも不機嫌な表情を浮かべ、文句を口にしてる。

 確かにセコくてやることが小っちゃいし、こういうゲームについてよく知らない俺でも分かるマナー違反だ。

 早い者勝ちと言えばそこまでだけど、だとしても礼儀ってものがあるだろう。


「僕達の後ろをコソコソ付いてくるし、塾長が一喝しても行き先が同じだから、偶然だなんて言い訳を並べるしさ」

「塾長さんも言ってたけど、男らしくないわね」

「ホントよ。そこまでして良い報酬を欲しいのかしら」


 ゲームを楽しむことが優先の俺達には、そうした考えはよく分からないな。


「うあーっ、ムカつく! この苛立ちは午後の訓練と屈服の試練で晴らしてやる!」

「そうね。また妨害されるでしょうけど、その分は屈服の試練にぶつけましょう」

「邪魔されたからって向こうへ八つ当たりしたら、同じ穴の狢だものね」


 頑張れ、俺は戦わないけど応援してるぞ。


「トーマも気をつけてね!」

「セイリュウ達がいてくれるから大丈夫だって。なっ?」

「任せて!」

「戦うのは苦手だけど、助けを呼ぶくらいはできるから任せろって」


 胸を張って返事をするセイリュウに対し、木工作業に向かった赤巻布青巻布黄巻布に代わって護衛に付いてくれた薬吉の返事は少し頼りない。

 念のため、午後は人の多い所に行こう。

 そう決めて洗い物を終えたら、塾長達と野営地の外へ向かうダルク達を見送って畑の方を見に行ってみる。

 既に畑仕事は終わっていたものの、農業プレイヤー達が小麦粉作りの続きをしてるからその様子を見学。

 石臼が重くて動かせないポッコロとゆーららんを手伝ったり、小麦粉を入れた袋の口を閉じる前にシャロルが手を滑らせて地面へぶちまけてしまったり、途中で追加の袋を持ってきたミーカが協力して石臼を回す俺とポッコロを見て悶死させる気なのって変なことを言ってきたり、色々あって案外楽しい時間を過ごせた。

 お陰で土地神に出す料理のことで悩むことなく、スッキリした気分で料理を作れそうだ。

 ところが土地神へ出す料理を作るため、畑を離れて調理場へ向かっているとまーふぃんが大慌てで駆けてきた。


「あっ、トーマさん! 大変です!」

「どうした?」

「……やられました。調理場に誰もいない隙に、食材が」


 それを聞いただけで、何があったのか察することができた。

 急ぎ調理場へ向かって食材置場のテントへ入ると呆然と立ち尽くす料理プレイヤー達がいて、彼らの目の前には食材が無残な姿で地面に転がっていた。

 野菜は踏みつぶされ、小麦粉と塩と砂糖と油は地面にばらまかれ、午前中に入手できたものだとブライアンの部下達に渡された肉は残骸と化してる。


「酷い……」

「持ち去るならまだしも、こうするなんて」

「こんなことするのは、絶対にあいつらに決まってる!」


 犯人はおおよそ目星がついてるけど証拠が無い。

 足跡は色々なのが重なって特定できないし、指紋だの防犯カメラ映像なんてのも当然無い。

 だからこそ実行したともいえるけど、これなら持ち去られた方がずっとマシだった。

 でも食材を持ち去ったらそれがそのまま証拠になるから、証拠不十分になるように食材を駄目にしたんだろう。


「まさか食材に手を出すなんて……」

「誰がそんなの考えるんだよ」


 その通りだ。

 嫌がらせや妨害をしてくるかもしれないとは言われたけど、まさか食材を潰すとは思わなかった。

 だってそんなことをしたら、自分達の食事に影響が出るんだから。

 なのに食材を駄目にするなんて、それすらも分からないのか。

 考えてるようで考え無しの行動に怒りを覚えるし、なによりもゲーム内とはいえ食材にこんなことをした暴挙に強い憤りを覚える。

 あいつらは俺達料理プレイヤーだけじゃなくて、ここにあった野菜を育てた農業プレイヤー達も蔑ろにした。

 この報いは何倍にもして味わわせてやりたい。

 でも証拠がない以上は糾弾なんてできない。

 自分達じゃない、証拠が無いと言われればそこまでだ。


「くそっ。こんなことなら調理場を空けなければよかった」

「落ち着けよ。誰も食材に手を出すなんて考えてなかったんだからさ」


 強く悔しがる男性プレイヤーを見てると、彼が最後に調理場を離れたのだとまーふぃんが教えてくれた。

 彼もまた、食事に影響が出る食材や調理器具や調理設備には手を出さないだろうと思ったようで、仲間の鍛冶師の下へ包丁の修理をしに行ったらしい。

 そう考えるのも無理はないとはいえ、こんなことになってるから自分を責めてるようだ。

 食材に手を出すことを考えてなかったのは同じだから、こんなことする方がおかしいからと皆で慰め、どうにか立ち直ってもらったものの目の前の光景は変わらない。


「トーマさん、どうしますか?」


 どうすればいいのか分からない表情のまーふぃんからの一言に、怒りを抑えてやるべきことを考える。


「とにかく食材を確認だ。手分けして、まだ使えそうなのを集めるんだ」

『はい!』


 料理プレイヤー達に加えてセイリュウと薬吉と一緒に無事な食材を探す。

 頼む、全滅だけはしてないでくれ。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここ、運営に行動ログを確認して貰えば良かったのでは……
[一言] 運営が他者の食材に触れるようにしてるってことはこれも運営から許可された行動なんだろうな。
[良い点] スキップしてるセイリュウ可愛い 周りから温かい目で見られてそう [気になる点] ふじょしが仲間内で完結してるなら良し でも同人誌出すのってこの場合ゲームの二次創作になるのかとかプレイヤーの…
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