報告と後片付け
晩飯に乾燥野菜と干し肉のスープと中華丼もどきと酢兎を食べながら、ダルク達と別行動中の出来事を報告し合う。
どうやらダルク達は食材確保と並行して、冒険者ギルドでモンスター討伐の依頼を受けてレベルとギルドへの貢献度を上げていたようだ。
一通り聞き終えたら俺も入手してきた食材や作った料理を報告。
シュトウジャムパンとスムージーが気になるカグラは、明日が待ちきれないのかソワソワしながらこっちをチラチラ見てる。
メェナには四味唐辛子を味見してもらい、もっと辛くしていいという助言を貰った。
これを基準に、辛さを強化したメェナ用と逆に弱くしたダルク用を作ろう。
そして話題はインプの坊ちゃんこと、ブレイザーに絡まれた件へ移る。
「あらあら、そんなことがあったの」
「迷惑な話ね」
本当にいい迷惑だったよ。
絡んできたこと以上に、無関係なのに無断で料理を食べようとしたことが一番ムカついた。
「困るよね、そういう人。トーマの作るご飯は僕達のものだっていうのに」
「同感。トーマ君のご飯は私達のもの」
別にダルク達だけのものじゃないぞ。
でなかったら、ミミミとかポッコロとかゆーららんとか天海にご馳走してない。
んでもってブレイザーに取った対応を伝えたら、昔の俺が同じことをされたのを知ってるダルク達は揃って苦笑いを浮かべた。
「ああ、それやったんだ。トーマが中一の時におじさんとお祖父さんにやらされて、思い知らされたってやつ」
「まあな。あの時の俺と似たような年頃だったから、ちょうどいいと思って」
結果は説明した通り、三皿目から味が低下して五皿目は酷い出来だった。
「トーマ君は三皿目までは頑張ったのよね」
「そうそう。当時の俺だと、集中力を持続するのは三皿が限界だったっけ」
四皿目は集中力が低下して気が緩んで味が落ちて、五皿目はそれがさらに悪くなった。
自分で味見して理由を説明されたら心当たりしかなくて、滅茶苦茶悔しかったよ。
今となっては、増長する前に叩き潰してくれたことに感謝しかない。
「うふふ。調子に乗ってたその子には、良い薬だったんじゃない?」
「伸びた鼻っ柱はへし折るに限る」
「周りから見ればそうかもしれないけど、やられた側は結構効くんだぞ」
これ、経験談だから間違いない。
「で、そのブレイザーって子はどうなるかしらね?」
「こればかりは本人次第だ」
今回の件を乗り越えて成長するか挫折して諦めるか、他の可能性も含めて全ては本人の気持ち一つで決まる。
さすがにそこまでは面倒見きれない。
「もう済んだことはいいじゃん。それよりトーマ、豚肉をたくさん仕入れたから、これで酢豚作ってよ」
「それもいいけど、ジンジャーが手に入ったから塩ジンジャー焼きもできるぞ」
「あー、それもいいな。よし、迷った時は両方だ。どっちもお願い!」
そうくると思ったよ。
カグラ達も異論は無いようだし、酢豚と塩ジンジャー焼きの豚セットでも作るか。
他には卵と鶏肉を入手してもらったから、刻み麺での親子丼もどきを作るのもいいかも。
あっ、そうだ。サンの実の果汁も用意したし、卵と混ぜてマヨネーズを作っておこう。
ハーブや木の実はこれまでに入手してもらったのと同じだけど、これもこれで使いようがある。
あと、何気にオーク肉もあったからこれは熟成瓶に……駄目だ、手元にある二つの熟成瓶は豆板醤とピクルス作りに使ってるから空いてない。
仕方ない、オーク肉の熟成はピクルスが完成してからにしよう。
「構わないけど、作るのは今度の公式イベントの後でな」
「えー」
「えー、じゃないわよ。この後で睡眠と朝食を摂ったら、イベントに備えてファーストタウンへ移動してログアウトするんだし、明日のログインはイベントが始まる少し前の12時50分頃。食事を作ってもらう時間は無いわよ」
イベント中は装備品以外を使うことができなくなる。
当然、食材も調味料も予め作っておいた料理もアイテムボックスから出せない。
だから現状の予定だと、次に料理をするのは公式イベントの後ってことだ。
「土曜日なんだし、午前中から」
「あらダルクちゃん。明日の午前中は一緒に課題をやる予定でしょ」
「うぐぅ……」
カグラの言う通り、ダルク達は明日の午前中はダルクの家で一緒に課題をすることになってる。
前回の課題の件を踏まえて学校で話し合い、協力した方がいいという結論に至ったからだ。
ちなみに俺は不参加で、ログインするまでは店の手伝いをする。
いやだって、幼馴染とはいえ同年代の女子の部屋で女子四人に対して男が一人ってのは辛い。
それに俺はダルクと違ってちゃんと課題をやるから、協力してもらわなくても大丈夫だ。
というかダルクの場合、協力というより監視の意味合いが強いけどな。
「頑張れよ。あんまり勉強サボってると、おじさんとおばさんにゲーム禁止されるぞ」
「勉強は嫌だけど、そっちはもっと嫌だぁぁぁぁっ!」
なら頑張れ、死ぬ気で頑張れ。
頭を抱えて騒ぐダルクへ心の中でエールを送りつつ、中華丼もどきを食べる。
試しに四味唐辛子を軽くかけてみたけど、ピリッとした辛みが味を引き締めて意外と合う。
「言っておくけど、私達のを写そうなんて考えないでね」
「ギクッ」
考えてたなこいつ。
「ちゃんと自力で解かなきゃ駄目よ」
「教えてあげるから、頑張って」
「うぅぅぅぅ……」
残念だったな。ダルクの考えてることなんて、この場にいる全員がお見通しだよ。
「トーマァ……」
「自分でやらなきゃ意味が無いから、カグラ達が正しい」
「うわ~ん!」
泣いたふりしても駄目なものは駄目だ。
お前のためを思って言ってるんだから、楽してその場しのぎするのを諦めて苦労して勉強しろ。
愛の鞭とばかりにダルクを突き放してからも食事と話を続け、食事が終わったら会話も終了。
後片付けを済ませたら暗くなった町中を歩き、時折屋台や露店を冷やかしながら部屋が空いてる宿屋を探し、発見したらその場で確保。
借りた部屋で公式イベントに向けた準備の確認をしたら、それぞれベッドへ入って就寝。
体感的には一瞬の睡眠を済ませ、朝飯を食べるために食堂へ向かう。
「トーマ君、早く早く!」
ジャムパンとスムージーを待ちきれないカグラに腕を掴まれ、早く出せと急かされる。
すぐに出すから落ち着いてくれ。
急いでステータス画面を開き、アイテムボックスから朝飯を取り出す。
「はいよ、シュトウジャムパン。それとシュトウとシュウショウとコンの実を使った、牛乳割りスムージーな」
「きったあぁぁぁっ!」
歓喜の声を上げるカグラが大はしゃぎしてピョンピョン跳ねる。
大人しいカグラがここまではしゃぐなんて珍しい。
ただ、そんなに大きく跳ねるから連動して胸も激しく揺れてる。
喜んでもらえるのは嬉しいけど目のやり場に困るし、セイリュウからジト目を向けられてしまう。
「いいのよね、これ食べていいのよね!」
「当たり前だろ。皆のために作ったんだから」
「だったら遠慮なく、いただきます!」
普段ならダルクが率先してする、いただきますの号令をカグラが真っ先にやってジャムパンを口にしたら、ちょいエロな蕩けた笑みを浮かべた。
「美味しい。天海さんに貰ったカボチャのジャムパンも美味しかったけど、やっぱり果物のジャムが一番ね」
そう言ってもらえると作った甲斐がある。
どうやらカグラは野菜のジャムよりも、果物のジャムの方が好みのようだ。
やっぱりジャムというと、果物の印象が強いからかな。
「スムージー美味しい。自然な甘さで飲みやすい」
ジャムパンを食べるより先にスムージーを飲んだセイリュウが感想を口にした。
そうそう、作った俺が言うのもなんだけど飲みやすいよな、それ。
出来次第では組み合わせや分量を変えたり砂糖を加えたりしようと考えてたけど、正直ここまで合うとは思わなかった。
「パンにスムージーなんて、いかにも朝食って感じね」
「揚げ物が無いから僕には物足りないかな」
前に揚げパンを朝飯として作っておいてなんだけど、朝から揚げ物を欲する方が変わってるぞ。
「だったら食わなくていい」
「いやいや食べるよ、食べるって」
まったくこの揚げ物狂いの幼馴染が。
「トーマ君! ジャムは、ジャムはまだ余ってる!?」
おおう、早くも二つめのジャムパンを手にしたカグラが、グイグイと迫ってきてる。
ストップストップ。それ以上近づかれたら触れそうで触れないでいる胸が押しつけられて、またハラスメント警告が出るから。
「余ってるぞ。瓶に二つ分ほど」
「出して!」
「えっ?」
「出・し・て! スプーンも一緒に今すぐ!」
ああもう、さらにグイっと身を乗り出したから胸が押しつけられて、ハラスメント警告が出ちゃったじゃないか。
ついでにセイリュウからまたジト目を向けられてるし。
「出すから落ち着け。離れろ」
とりあえず体を離して椅子に座らせたらハラスメント警告はノーを押し、アイテムボックスからジャムが入った瓶を一つとスプーンを出して渡す。
「ほら。でもどうするんだ? パンはそのジャムパンしかないぞ」
「決まってるじゃない。追いジャムよ」
そう言ってスプーンで取ったジャムを、たっぷりジャムパンの上に塗っていく。
いや追いジャムって……。
菓子パンに対してそんなことしてる人を見るのは初めてだ。
これがクリームパンなら追いクリーム、あんぱんだったら追いあんこか?
「う~ん。幸せ~」
まあ美味そうに食べてるから良しとしよう。
「ねえ、このスムージーにハチミツって合わないかな」
「絶対に合う」
俺も合うと思う。
そういえば、こっちに来てからハチミツを見てないな。
「確かハチミツは……セカンドタウンのサウスとウエストの間にある森に生息してる、フレッシュビーから貰えるみたいね」
ステータス画面を開いたメェナがハチミツについて調べてくれた。
どうやらフレッシュビーっていう、大きくて人語を喋る蜂のモンスターへ野菜や木の実を渡せば、そのお礼にハチミツを分けてもらえるそうだ。
しかも渡した野菜や果物の品質や鮮度によって、ハチミツの品質や鮮度も決まるらしい。
「イベントが終わったら、そっちにも行ってみようか」
「でも、トーマ君がやってるチェーンクエストとどっちを優先する?」
「いっそ二手に分かれるのは?」
「それだと移動中の戦闘が辛くなるわよ」
なんか急に本格的な話になったから、ここは口を挟まないでおこう。
「トーマはどっちを優先したい?」
いやここで俺に振るんかい。
まあどっちも俺に無関係じゃないし、話を振られるのも当然か。
「だったらチェーンクエストを優先しよう。先に道具を確保しておいた方が、入手後の調理に幅が出るからな」
「ん、分かった。じゃあチェーンクエストの進行が優先に決定!」
結局俺の判断で結論が出たよ。
別にダルク達がそれでいいなら、俺もいいんだけどさ。
こうして方針も決まり、朝飯を終えたらイベントに備えてファーストタウンへ転移するため転移屋へ向かう。
ちなみにジャムパンはカグラが半分以上食べて、追いジャムとやらで瓶一つを空にした。
随分気に入ったようだから、シュトウを手に入れたらまたジャムを作るとするか。
同じようなことを考えてるプレイヤー達の列に並び、順番が来たらファーストタウンに転移して広場へ移動してからログアウトした。
*****
現実に戻ってきた。
ベッドに寝転がってた体を伸ばし、ヘッドディスプレイを外して片付けたら店の方へ向かう。
もうすぐ閉店時間とあって客は一人しか残っておらず、そのお客も酒と料理の残り具合からしてもうすぐ引き上げるかな。
「おう斗真。来たんなら、そっちの片づけを頼む」
「分かった」
祖父ちゃんからの指示で片づけを手伝う。
洗い物は汚れも洗剤もしっかり落としておかないと、味に影響が出るから特に念入りに。
隣では祖父ちゃんが真剣な表情で包丁研ぎをしてる。
包丁は前日に研いでおくこと。
特に研いですぐの包丁には細かい金属の粒が付着してるから、それで調理をすると完成した料理が金物臭くなってしまう。
これが包丁の扱いについての教えだ。
尤も、研ぎ方にもコツがあるから店で使う包丁は祖父ちゃんか父さんが研いでる。
俺は時間がある時に祖父ちゃんか父さんに教わりながら、安物の包丁で研ぎを練習してる身だ。
「明日は昼から長めのゲームなんだろ。早紀ちゃんから聞いてるぞ」
どうして早紀は、こういう根回しだけはちゃっかりこなせるんだろう。
「ああ。その間はいないけど大丈夫か?」
「舐めるんじゃねぇよ。お前がここに入るまでは、俺とあいつの二人で厨房を回してたんだ。問題ねぇよ」
研ぎ終えた包丁をじっくり確認して水に浸けた祖父ちゃんが、タレやなんかを片付けてる父さんの方を見る。
そりゃそうだけどさ、年齢を考えてくれよ。
俺が厨房に入る前と違ってもう若くないんだし、無理はしないでほしい。
まだまだ教わりたいことが山のようにあるんだから。
「腰とかやっても知らないぞ」
「見くびるんじゃねぇ。こんなことでいわすような、ヤワな腰してねぇよ」
言ってることと見た感じは頼もしいけど、年齢を考えればいつ腰や膝を壊してもおかしくないから気をつけてほしい。
「んなことより、さっさと片付けろ。最後の客が帰るぞ」
おっと、そうだった。
最後の客が会計を済ませたら瑞穂さんが食器を回収し、それを俺が受け取って洗う。
「ねえねえ斗真君、お姉さん今日も超頑張ったよ」
期待の眼差しを向ける瑞穂さんが、カウンター越しに厨房側へ身を乗り出す。
そんなことするから、酔っ払いを中心とした一部の客に大好評な胸が大きく揺れてる。
さっきのカグラといい、なんかこんなのばっかりだな。
「お疲れさまです」
「えぇ~、それだけ? お姉さん、斗真君に癒してもらいたいなぁ」
何をどう癒せと?
「具体的には昔のように、お姉ちゃんお疲れさまって言いながら優しくハグしてもらいたいの」
自分の体を抱いた瑞穂さんはだらしない笑みを浮かべ、全く記憶に無い捏造された過去のやり取りを口にしながらクネクネしてる。
連動して胸がユサユサなのはもういいとして、そんなことすると本気で思ってるのかね。
「やりませんよ」
「やらないだけで、出来ないわけじゃないんでしょ。さあカモン!」
そんな両腕を広げて待ち構えられても、やらないって言ったじゃないか。
「だからやりませんって」
「ぶーぶー、ノリが悪いよ。色々押しつけて力いっぱいギューってしてあげるから、遠慮なくお姉さんの胸に飛び込んできなさいよ」
それが恥ずかしいんだって。
健なら喜んで飛び込みそうだけど、俺にはできない。
「お断りします」
「じゃあ、お姉さんからハグしに行ってあげるわ」
「結構です!」
洗い物をしながら反論するけど瑞穂さんは全く聞いてくれない。
厨房に入ってくると、ニヤニヤ笑顔で手をワキワキさせながらジリジリと俺に近づいてくる。
くそっ、まだ洗い物が終わってないから逃げられないのをいいことに遊んでるな。
だからといって洗い物を放って逃げるなんて、そんな職場放棄みたいな真似はできない。
それに大丈夫。厨房でこんなことしてたら、厨房どころかこの店の守護神が大魔神と化して降臨するから。
「くらぁっ、瑞穂! 厨房で遊ぶなんざどういう了見だ!」
出ました。お玉を片手に大魔神と化した、中華桐谷の守護神こと祖父ちゃんの登場だ。
これにはさすがの瑞穂さんも怯んでガタガタ震え出した。
「ひいぃぃぃっ! ごめんなさい、大将!」
「謝る暇があったらさっさと厨房から出て、向こうの掃除してやがれ!」
「はいぃぃぃぃっ!」
怒鳴られた瑞穂さんは胸を揺らしながら厨房を出て、のれんを下げた母さんと一緒にテーブルや床の掃除を始めた。
さすがは祖父ちゃん。料理人としてだけでなく一家の大黒柱でこの店の主だけあって、俺とは格が大違いだ。
さっきは年齢とか腰の心配とかしてごめんなさい。
「ったく、何考えてやがんだ。斗真も斗真だぞ。もっとしっかりしろ、しっかり!」
「はい」
こっちにも大魔神の小言が飛んできた。
不甲斐なくて申し訳ない。
「親父、そろそろ落ち着け。血圧上がるぞ」
「この程度なんざ大したこたぁねぇよ。ちょうどいい気つけだ、気つけ」
祖父ちゃんぐらいの年齢なら、血圧の上昇は危ないって。
頼れるけど頼りすぎると体を壊されかねない。
うん、やっぱり俺がもっとしっかりしないとな。
まずは瑞穂さんをもっと強気に突っぱねられるようになろう、そうしよう。
心の中でそう決意しながら後片付けをしたら、晩飯を食って風呂に入って課題を半分ほど片付けたら就寝。
課題の残り半分は土日にやればいい。
今日はもうさっさと寝て、明日の午前の営業と午後の公式イベントに備えよう。
それじゃ、おやすみなさい。




