作って食べる
無事にミヤギの頼みをこなして次のフィシーへ繋いだことで、今回のログインの最大の目的は果たした。
そして現在、減少した満腹度を回復させる料理を作るために今日も今日とて作業館を訪れ、水出しポーションの仕込みが終わったら調理開始。
料理を楽しみに待ってるダルク達のため、作業の手を止めてこっちを見てるプレイヤー達の視線は気にせずサンの実の果汁を鍋に溜めて火に掛けたら、まずはカイザーサーモンの切り身をバットへ並べて臭み抜きのため塩を振っておく。
続いてフォレストスネークの肉を漬け込むため、たっぷりのタマネギを刻む。
「何度見ても大したものね」
「よく、ああも手早くみじん切りにできるよね」
素早くリズムよくタマネギを切ってると、メェナとセイリュウが感想を口にした。
これぐらい早く刻めるようになるまで、かなり苦労したけどな。
ともかくタマネギを刻み終えたら二つのバットへ分けて敷き、次は肉のメインであるフォレストスネークの肉を切り分ける。
油淋鶏風だから唐揚げのように小分けにせず、カツを作るぐらいの気持ちで切っていく。
包丁を入れる時点で結構固いから、食べやすいように厚さは薄めにして切り身を包丁の背で叩いておく。
「トーマ君、それは何をしてるの?」
「固い肉を食べやすくするため、繊維を潰してるんだ。同時に厚さをほぼ均一にして、ムラなく火を通すこともできる」
説明に周囲から感心の声が漏れた。
下処理した肉は刻みタマネギを敷いた二つのバットへ尾と腹を別々に分けて乗せ、周りに刻みタマネギをまぶして全体を漬け込んでおく。
鍋を確認するとサンの実の果汁が熱されたから火を止め、鍋をコンロから下ろして冷ます。
ここまでの調理の間にカイザーサーモンの切り身に臭みの原因の水分が浮いたから、流しで無限水瓶の水を柄杓でかけて塩と浮いた水分を洗い流し、乾燥スキルで洗った時に付着した水分を乾かしたら塩を振って小麦粉を纏わせる。
フライパンを火にかけてバターを入れて熱し、溶けてきたら切り身を一枚入れて焼く。
確か検索して調べた時、皮の方から焼くといいってあったな。
「バターか」
「甘い香りが……」
周りが立ち上るバターの甘い香りにざわついてる。
今回のカイザーサーモンは、どうせバター焼きにするのならムニエルがいいというダルク達のリクエストでムニエルになった。
切り身をフライ返しで押さえてしっかり焼き、時折溶けたバターをスプーンですくって掛ける。
こうして両面を焼いたら皿へ移して試食。
うわっ、これまでに食べた鮭やサーモンより美味い。
カイザーサーモンの脂とバターが喧嘩せず、むしろ口の中で上手く調和して美味さを膨らませてる。
おまけにバターの甘い香りとカイザーサーモンの香ばしさがマッチしてて、香りだけでも満足感がある。
なるほど、高級魚なだけはあるな。
「どうトーマ、美味しい?」
「美味い。でも、まだ試すことがある」
それは塩とバター以外の味付けが必要かどうかだ。
三つほど試して、合わなければ他の味付けは無しにすればいい。
というわけで一口だけ食べた切り身を箸で三つに切り分け、それぞれに乾燥して細かく解したハーブ、胡椒、冷ましたサンの実の果汁数滴を加えて一切れずつ味見する。
ハーブは微かな苦みが味わいのアクセントになるけど、カイザーサーモンの香ばしさとハーブの香りが喧嘩するから無し。
冷ましたサンの実の果汁はレモンの代わりになるかと思いきや、カイザーサーモンの脂と合わないから無し。
そして胡椒は……うん、合ってる。
掛ける量を少なくすれば、ピリッとした味わいと香りがカイザーサーモンのバター焼きと実に合ってる。
ダルク達のバター焼きには少量の胡椒も追加だな。
「味付けは決まったから、すぐに作る」
「「「「早くね!」」」」
はいはい、分かりましたよ。
手早くダルク達の分を調理していき、全員分が完成したらナイフとフォークを添えて出す。
「はいよ、お待たせ」
カイザーサーモンのムニエル 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:7 完成度:86
効果:満腹度回復12%
器用+3【2時間】 知力+3【2時間】
カイザーサーモンをムニエルにした一品
甘いバターの香りとカイザーサーモンの香ばしさが食欲をそそる
一口食べれば口の中で双方が混じり合い、互いの旨味を膨らませる
少量の胡椒が味を引き締め、飽きさせない味わいを演出してる
「「「「いただきます!」」」」
目の前に置かれた瞬間にダルク達は手を合わせ、揃っていただきますしたら食べだした。
でもその手は一口食べたら止まり、声に出さずとも美味いと伝わる表情と反応をする。
その様子に見物してるプレイヤー達から羨ましそうな視線がダルク達へ、自分も欲しいなって言いたげな視線が俺へ向けられてるけど、振る舞う理由が無いからどんなに見つめても出さない。
そもそも、カイザーサーモンはもう無いし。
「んー! カイザーサーモン、凄く美味しいじゃん!」
大ぶりの一切れを口にしたダルクは、今にも飛び跳ねそうな勢いで両手を小さく上下させる。
こら、ナイフとフォークを持ったままだから危ないぞ。
「カイザーサーモンとバターって合うのね。こっちを選んで正解だったかも」
妖艶って言葉が合いそうな笑みを浮かべたカグラが、ナイフを置いて頬に手を添えてる。
それはあれか、ほっぺが落ちそうだから押さえてるのか?
「バターと合うなら、ホイル焼きにしてもおいしそう」
身を乗り出して満面の笑みを浮かべるセイリュウの意見に心の中で賛成する。
アルミホイルみたいなのがあれば、ホイル焼きにしてもいいかもしれない。
一緒に野菜も包んでおけば、その野菜も美味くなりそうだ。
ただ、さすがにアルミホイルは無いんじゃないかな。
「くぅ。これがバター醤油だったら、もっと美味しいんじゃないかしら」
言うなメェナ! できることなら俺だって、醤油を加えてバター醤油味にしたかったよ!
この香りに醤油の香りまで加わったら、料理漫画風の表現をするなら香りの三重奏とかになってたはず!
だけど無いんだよ、醤油が!
というか原料になる大豆が!
塩はある、醸造樽は手に入れた、でも肝心の大豆はどこにあるんだ!
前段階の枝豆でもいいから、早く誰か見つけろ!
この際、大豆もやしでもいい!
現状手に入るもやしは、大豆もやしじゃなくて緑豆もやしなんだよ!
緑豆じゃ、大豆どころか枝豆にもならないのに!
えぇい落ち着け、無い物ねだりせずに切り替えろ。今は料理に集中だ!
「次、肉やるぞ」
「「「「「お願い!」」」」」
頬を叩いて気合いを入れなおし、肉を刻みタマネギの中から取り出す。
刻みタマネギに漬け込みすぎると逆に不味くなるから、漬け込む時間はそれほど長くなくていい。
持った感じは尾も腹も漬け込む前より柔らかくなってるけど、揚げたらどうなるかな。
取り出した肉は一旦別のバットへ移し、尾の肉か腹の肉か判別できるよう左右に分けておく。
そして油を敷いて熱したフライパンで、漬け込むのに使ったタマネギを炒める。
「えっ、あれを使うのか」
「そういう使い方をするって、このサイトに――」
「なるほど、肉のソースに――」
野次馬のプレイヤー達も気づいた通り、これは今からソースというかタレの材料になる。
ゲーム内とはいえ生肉に触れさせてたからよく炒めてボウルに移し、冷ましてる間に塩ダレを作っておこう。
ネギを刻んでハーブを乾燥させ、スコーピの所で入手したジンジャーをすりおろす。
いつもならニンニクを使うところだけど、せっかく入手したんだから今回はジンジャーを使う。
鍋へ油を注いで火に掛けて肉を揚げる準備を整えたら、いくぶんか冷めた炒めタマネギに刻んだネギとすりおろしたジンジャー、そして塩と油と冷ましたサンの実の果汁を加えてよくかき混ぜる。
これで炒めタマネギ入りのピリ辛塩ダレが完成。
味見も良し。さあ、いよいよ肉だ。
まずは味見用のために尾と腹の肉と一つずつ、塩と胡椒を少量振って小麦粉を纏わせて熱した油で揚げる。
「唐揚げにあのタレをかけるのか」
「いや、あの大きさはカツじゃないか?」
「揚げる音と香りで腹が減るな。満腹度はまだまだ余裕なのに」
「というか何の肉だ、アレ」
さすがに蛇の肉とまでは気づかないか。
まあ知らぬが仏、言わぬが花って言うし、わざわざ教える必要は無いだろう。
さて、そろそろ良い頃合いだから肉を油から上げて軽く振って油を落とし、洗ったまな板の上で切り分け皿に乗せる。
上の段が腹の肉、下の段が幾分か柔らかいって表示してた尾の肉だ。
「トーマ! 早く早く!」
「落ち着け。先に味見だ、味見」
ったく、揚げ物狂いの幼馴染め。
最初はタレをかけずにそのまま……おっ、どっちも良い歯応えになってる。
腹の肉の方が気持ち歯応えが強く感じるものの、噛み応えがある範囲に収まってるんじゃないかな。
肝心の味の方は、鶏で言うところの親鳥って感じがする。
歯応えがあって旨味が強いのなんかそっくりだし、それでいて若鳥のようなジューシーさもある。
薄めにしたのにこの味とは、フォレストスネーク恐るべし。
子供や老人なら、食べやすいようにもう一工夫必要だろうけど、俺達なら問題無いだろう。
「次はタレを掛けて……」
まだかまだかと表情で訴えるダルク達と野次馬を気にせず、タレを掛けて順番に試食。
うん、尾の肉にも腹の肉にも合っていいじゃないか。
刻んだ生のネギがシャキッとした食感とピリッとした辛みを、炒めたタマネギが柔らかい食感と甘みをそれぞれ加え、おろしジンジャーとサンの実の果汁が肉汁と油でしつこくなりそうな後口をさっぱりさせてくれる。
これならダルク達も満足するだろう。
「どうなの? ねえ、どうなの!」
「肉もタレも問題無いから、すぐに作る」
「「「「ハリーアップ!」」」」
そう急かすんじゃない、この腹ペコガールズめ。
要求に応えるべく手早く調理を進め、しっかり揚がった肉は尾と腹を別々の皿へ盛って塩ダレをかける。
「はいよ、お待たせ。こっちが尾の肉でこっちが腹の肉な」
フォレストスネークの尾肉カツ・塩ダレ掛け 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:8 完成度:88
効果:満腹度回復26%
体力+3【2時間】 器用+3【2時間】
フォレストスネークの尾肉をカラッと揚げ、塩ダレを掛けた
旨味と歯応えが強い肉に、ネギとタマネギ入りのさっぱり塩ダレがマッチ
歯の弱い人は小さく切り分けて食べましょう
フォレストスネークの腹肉カツ・塩ダレ掛け 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:7 完成度:89
効果:満腹度回復26%
体力+3【2時間】 腕力+3【2時間】
フォレストスネークの腹肉をカラッと揚げ、塩ダレを掛けた
旨味と歯応えが強い肉に、ネギとタマネギ入りのさっぱり塩ダレがマッチ
歯の弱い人は小さく切り分け、よく噛んで食べましょう
鳥じゃないから油淋鶏じゃなくて塩ダレを掛けたカツと判定されたか。
それと腹の肉の方が歯応えがあるからか、説明文の注意事項によく噛むことが加えられてる。
だけどゲームの世界にこういう注意事項って必要なのか?
子供でも老人でも平気で固い肉を食えそうな気がする。
まあ、そんな細かい事はどうでもいいや。大事なのは……。
「やっぱ揚げ物サイコー! そしてサイキョー!」
「まあ、良い歯応えのお肉ね」
「タレもいい。ネギやタマネギのお陰で、何切れでも食べられる」
「もうちょっと唐辛子を増やしてもいいわね」
揚げ物に興奮するダルクと味わってるカグラとセイリュウはともかく、あまり辛くしすぎるとせっかくの肉やタレの味を損ねるぞメェナ。
辛くても美味い料理は辛くすることを前提に考案されたのであって、なんでもかんでも辛くすればいいってもんじゃない。
さて、そろそろ主食を作ろう。
作るのは長崎出身の母さん直伝、店の日替わりでも出してる皿うどんだ。
「今から皿うどん作るけど、細麺か太麺か希望を言ってくれ」
「「「細麺!」」」
「太麺をお願い」
カグラだけが太麺を希望か。
俺も太麺派だから、アイテムボックスにストックしてある太麺を二玉と細麺を三玉取り出す。
他には硬麺か軟麺かがあるけど、そこは自分達で餡を染み込ませて調整してもらおう。
麺を肉を揚げた油で一玉ずつ揚げたら熱々の状態を保つため、アイテムボックスへ入れておく。
油を熱してる火を消したら、今度は麺にかける餡の準備だ。
ニンジンを短冊切り、タマネギを細切り、ニラとキャベツとタックルラビットのモモ肉は一口大に切り、さらにもやしを洗って水切りする。
次に餡に必要なとろみをつけるため、ネンの実の皮を剥いてすりおろしておき、ジンジャーも同様にすりおろす。
そして味付け用に熟成瓶で熟成させておいた豆板醤を水で溶く。
油を敷いたフライパンにおろしジンジャーを加えて香りを立たせたら野菜を炒め、途中で熟成させた豆板醤を水で溶いたものを加えて煮込む。
本当ならスープにしたいけど、今回はこれで勘弁。
ちゃんとメェナ以外は豆板醤を控えめにするから許してほしい。
ここへすりおろしたネンの実を全体へ回しかけ、とろみがついたら味見のために俺用の太麺をアイテムボックスから出して餡を掛けたら完成。
「硬焼きそば、じゃないよな?」
「さっき皿うどんっていっただろ」
「ちゃんと聞いとけよ」
「俺は細麺の軟麺がいいな」
皿うどんは軟麺じゃなくて硬麺の方が好みだから、餡が染み込まないうちに一口。
おぉっ、美味い。
太麺のバリバリした食感にとろみのある餡が合わさって、これぞまさに皿うどん。
香ばしく揚がった麺、熟成させたことで柔らかくなった豆板醤の辛みと野菜の甘みが合わさった餡、これに酢のようになったサンの実の果汁を数滴加えても美味い。
長崎では店によって違いがあって、麺を揚げずに焼き固めたりあんかけにしなかったりするそうだけど、皿うどんと言えばこれのイメージが強いから中華桐谷ではこうした形で提供してる。
「オッケーだ、すぐに皆の分も作るな」
「「「「早くね!」」」」
了解。食べかけの自分の分をアイテムボックスへ入れて調理再開。
辛いのが苦手なダルクのは豆板醤少なめ、辛いの好きのメェナのは豆板醤多めだけでなく熟成させてない辛みが強い豆板醤も加えた餡を作る。
これらをそれぞれが指定した太さの揚げ麺へ掛けて完成。
辛味皿うどん【細麺】 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:83
効果:満腹度回復29%
HP最大量+20【2時間】
豆板醤を溶かして餡に仕立てて揚げ麺にかけた皿うどん
とろとろのピリ辛餡がパリパリ食感の細麺に絡まって美味
染み込ませて揚げ麺を柔らかくしても美味しいでしょう
辛味皿うどん【太麺】 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:82
効果:満腹度回復29%
HP最大量+20【2時間】
豆板醤を溶かして餡に仕立てて揚げ麺にかけた皿うどん
とろとろのピリ辛餡がバリバリ食感の太麺に絡まって美味
染み込ませて揚げ麺を柔らかくしても美味しいでしょう
それぞれの前に皿うどんを置き、一度熱して冷ましたサンの実の果汁を椀のような器へ入れてスプーンを添える。
「好みで酢を掛ける感覚で、これを掛けても美味いぞ」
「わかった。んじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
全員、まずはそのままいったか。
「うん、豆板醤使ってたけどこれくらいなら僕でも大丈夫だ」
辛いのが苦手なダルクのは豆板醤の量を減らしたから、味が薄まらないよう塩を少し加えたんだけど大丈夫そうだ。
「あーっ! 分かってるじゃないトーマ、やっぱり辛くするならこれくらい辛くしないとね!」
辛さに歓喜するメェナだけど、実はちょっと入れすぎたかなって思ってた。
それなのにこの反応とは、メェナの辛さの基準を見誤っていたのかもしれない。
「餡が染み込んで麺が柔らかくなってきたのもいい」
そうそう、徐々に染み込んで柔らかくなっていくのを味わえるのは硬麺だからこそだよな。
どうやらセイリュウは少し染み込ませて、硬いのと軟らかいのを一緒に味わうのが好みのようだ。
その辺りもいいけど、個人的には柔らかくなりかけたぐらいも良いと思う。
「うふふ。餡が辛口だから、お酢を入れると酸辣みたいになるわね」
カグラはそういう食べ方を発見したか。
辛い餡を掛けた麺だし、酸味を加えて酸辣っぽくするのは有りだな。
試しにさっきより多めに掛けて食べてみる。
「有りだな」
「でしょ」
名付けるなら酸辣皿うどんってところかな。
酸辣っていうとラーメンが真っ先に浮かぶけど、こういうのも良いだな。
機会があれば酸辣あんかけ焼きそばも作ってみよう。
周りの野次馬達が食ってみたいって顔してるけど、これは俺達の飯だから一口たりとて譲らん。
こうして思わぬ食べ方を発見した食事は終わり、ダルク達が食後の一休みをしてる間に後片付けをしてたら、ミミミとイフードードーがやってきた。
「お待たせ」
「待たせたな。んで、今度はどんな情報手に入れたんだ?」
緊張してるのかやや表情が強張ってるミミミに対し、両手をポケットに入れてるイフードードーはワクワクしてる。
そんな二人へボイチャを使い、スコーピとミヤギからの頼みと次へ繋がる条件の推測を伝え、ついでに森の中で会ったアスクのことも伝えた。
さらにスコーピのところで購入できる香辛料と、ミヤギのところで貰える肉の情報も伝えておく。
「こんなところだな。どうだ?」
スコーピの頼み事で別行動をしてた時のことも伝えたから、漏れは無いはずだ。
「くはっはっはっはっはっ! いいねぇ、いいねぇ、新情報はやっぱゾクゾクするじゃねぇか!」
脚と腕を組んでるイフードードーが怖い笑顔で笑ってる。
どうやらお気に召したようだ。
さて、ミミミはどうだ?
「う、うぅ……」
なんか俯いてプルプル震えてる。
どうした、腹でも痛いのか。
いや、ゲーム内だからそれは無いか。
「あぁぁぁぁぁぁっ! また大きな出費がー! お金がー! あーかーじー!」
急に立ち上がって叫びながらヘドバンしだしたよ。
やっぱりミミミのリアクションはオーバーだな。
別に現実で金が無くなったわけじゃないんだから、もう少し落ち着けよ。
「んだよミミミ、せっかくの新情報なんだからケチくせぇこと言うなよ」
「だって、だって! せっかく稼いだお金がこんなにあっさり消えちゃうのよ! ギャンブルしたわけでもないのにー!」
兎の耳がピコピコ動く頭を抱え、上下左右に体を振り回すほどのオーバーリアクション。
どれだけ稼いでるのか知らないけど、溜めるだけじゃなくて使うのも大事だぞ。
だけど赤字が怖いのは分かる。実家が店だから、とてもよく分かる。
尤も、ありがたいことに中華桐谷はお客さん達のお陰で毎年黒字だけど。
「おまけにまた検証が増えたー!」
それについては頑張れとしか言いようがない。
金のことも含めて、頑張れミミミ。




