イベント情報公開
金曜日の夜。
店の手伝いに夢中になって、うっかり時間の確認を忘れてたら祖父ちゃんと父さんから、もうすぐ約束の時間だろと指摘された。
慌てて厨房から抜け、約束の時間ギリギリでUPOへログインする。
危なかった、祖父ちゃんと父さんには感謝だな。
「あっ、来た」
セカンドタウンサウスの広場に出ると、既にセイリュウとメェナがいた。
「やっほー!」
「お待たせ」
直後にダルクとカグラもログインしてきた。
全員が集まったら邪魔にならないよう端へ寄って、今回のログイン中の予定を確認する。
メインはスコーピから紹介してもらった、ミヤギっていう山羊人族の狩人の下へ行って珍しい肉を入手するのと、さらに先にあると思われる魔道具屋への紹介に繋げること。
それが済めばダルク達は食材を仕入れるため狩りへ向かい、俺は食材の補充のため転移屋を利用していくつかの町を回る。
「後は時間に余裕があれば、ギルドで依頼を受けるくらいかな」
「まっ、そんなところだね。他には何も無いよね?」
「あるわよ。ミヤギさんのところでの用事が済んだら、スコーピさんのところでの出来事と合わせてミミミ達の誰かへ伝えないと」
あぁ、それがあったか。
せっかく仕入れた情報なら、ちゃんと売っておかないとな。
うん? なんかメッセージが届いた。
ちょっと確認……へぇ。
「そうだった、そうだった。すっかり忘れてたや」
「もう、しっかりしてよ」
「ちょっといいか」
セイリュウの発言の直後に皆へ声をかけ、こっちを向いたら要件を伝える。
「俺個人の予定を追加する。ポッコロとゆーららんがそら豆とシイタケとナスの栽培と安定生産に成功したらしいから、ファーストタウンへ転移したらそっちにも寄ってくる」
届いたメッセージはポッコロからのもので、そうした旨が書いてあった。
「あら、育てるのに成功したのね」
「そうみたいだ。シイタケは胞子付きの原木から育てるのが大変だったって、メッセージに書いてある」
畑で栽培できるそら豆とナスはともかく、キノコ類は原木が必要だからな。
苦労させた以上は、何かしらお礼をしよう。
「そら豆が栽培できたってことは、豆板醤作り放題ね!」
さすがは辛いもの好きのメェナ。
注目する点がそことは、ぶれない奴だ。
前回作った豆板醤がまだ残ってるし、一部は熟成瓶で熟成させてるっていうのに。
「苦労させたみたいだし、お礼に何かご馳走していいか?」
「それはいいね。僕達のご飯の食材になるんだし、渡してる食費使っていいよ」
「食材も使っていいから」
自前の金で材料を買ってお礼をしようと思ってたら、ダルクとセイリュウから食費と食事の使用許可が出た。
ふとカグラとメェナの方を見ると、二人も了承するように頷いた。
そういうことなら遠慮なく使わせてもらうかな。
「分かった、ありがとな」
「気にしなくていいよ。こうやって恩を売っておけば、今後も美味しい食材を提供してもらえるからね」
ニシシと笑うこの幼馴染は、子供相手に何を考えてるんだ。まあいまさらか。
自分の中で納得したら、後で訪ねる旨を書いたメッセージをポッコロへ送って狩人のミヤギが住んでる場所へ向けて出発。
スコーピによると、ミヤギがいる場所は町から少し離れた所にある森の近くに建つ小屋。
そこで暮らしながら森へ狩りに行き、肉を処理したら町へ売りに来るらしい。
というわけで、門から町の外へ出て森へ向かう。
道中で出現するモンスターは護衛のダルク達が次から次へと倒していき、順調に進んでいく。
「それにしても、今度の土曜日の公式イベントが開拓地での活動とはね」
「開拓村の予定地で三日間、臨時の開拓員として活動するんだっけ」
前を歩くダルクとメェナが話題に挙げたのは、今日の午前中に公表された土曜日の公式イベントのことだ。
それを聞いて、休み時間中に健と晋太郎と喋ってる最中にスマホで見せられたイベントの情報を思い出す。
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≪アンノウン・パイオニア・オンライン 第一回公式イベントのお報せ≫
【日時】
・〇月×日 土曜日 13時よりイベントを開始します。
・参加希望者は当日、ファーストタウンへお越しください。
・現実時間の12時55分より参加受付を開始します。
・受付は13時までなので、参加希望者はご注意ください。
【内容】
未知なる世界の開拓者である皆様には、ある開拓地へ赴いていただきます。
その開拓は領主肝入りの計画でしたが、手違いにより人員不足が発生しました。
どうにか手配はしたものの、どうしても三日間だけ人手が足りません。
そこで領主は各ギルドへ依頼を出します。
皆様はその依頼を受け、開拓地で三日間活動することになりました。
現地で皆様ができる活動をして、開拓に貢献してください。
【注意点】
・参加希望者は、時間に遅れないようご注意ください。
・当イベントはゲーム内で三日、現実で三時間かけて行われます。
・イベント中もログアウトは可能です。
・イベント中にログアウトして再度ログインした場合でも参加継続となります。
・イベント開始時、参加者は開拓地へ直接転送されます。
・開拓地があるサーバーは複数あり、人数を均等に分けて転送します。
・どのサーバーへ転送されるかはランダムです。
・転送はプレイヤー個人、又はパーティーで行われます。
・パーティーで参加する場合、参加決定する前にパーティーを組んでください。
・装備品以外の物はイベント参加中は使用できません。
・開拓地にある物資、周辺で得られる素材又は食材をご利用ください。
・物資、開拓地周辺の地理、出現するモンスター等はどのサーバーも同じです。
・イベント中に入手、製作した物は金銭や装備品等を除き終了時に破棄されます。
【報酬】
・開拓地への貢献度の順位によって報酬は変化します。
・各サーバー内における貢献度上位三名には別途副賞をお贈りします。
・最も開拓が進んだサーバーのプレイヤー全員には特別賞をお贈りします。
*ご質問等がありましたら、こちらの〈お問い合わせ〉からお尋ねください。
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こうしたこともあってダルク達の教室での会話は、公式イベントに関するものばかりだった。
装備品以外を持ち込めないからそれなりに物資があるんじゃないか、周辺に素材や食材になるモンスターがいるんじゃないかと話してて、イベントに参加する俺も会話に巻き込まれた。
いや、参加するから別にいいんだけどさ。
「開拓には生活基盤を作るための生産能力と、周囲に生息するモンスターに対する戦闘能力も必要になるから、どっちでも貢献はできるわね」
今は納得してるメェナだけど、学校ではガンガン戦闘できるか気にしてた。
きっと戦えるさ、未知の開拓地だからモンスターもたくさんいるって。
「考えてみれば、このゲームのタイトルはアンノウン・パイオニア・オンライン。未知の開拓者っていう意味があるから、イベントが開拓関連でも不思議じゃないわ」
そういえばチュートリアルが済んだ後に、新たな開拓者よっていうアナウンスが流れたっけ。
だから公式イベントでは、開拓に関わらせようとってことか。
「ひょっとすると、ゲームを進めて活動範囲を広げたら町も村も無くなっていって、自分達で村や町を開拓しろって展開が待ってたりして」
「あはは、まさかぁ」
セイリュウの発言を冗談っぽく受け取るダルクだけど、未知の領域を開拓するって意味では間違ってない気がする。
……今のがフラグ、ってことはないよな?
「あっ、モンスターの気配よ。戦闘準備」
気配察知スキルで周囲を警戒してたメェナの呼びかけにダルク達が表情を引き締めると、土の中から巨大なカエルのモンスターが飛び出してきた。
気持ち悪い色合いで体表がブツブツしてるこいつの名前はアースフロッグか。
というか、カエルってことは……。
「カエルやだあぁぁぁぁぁっ!」
カエルが大嫌いなダルクがアースフロッグを見た瞬間、回れ右して全速力で逃げだした。
おーい、どこまで逃げるんだ。あまり離れすぎると、パーティーが自動解消されるぞ。
「最前線に立つべきタンクが真っ先に逃げるなんて、どういうつもりよ」
「まあ、カエルじゃ仕方ないんじゃない?」
「同感。というわけでメェナちゃん、今回は回避盾でよろしく」
「オッケー。ちょくちょく突いてヘイトを稼ぐから、支援と魔法攻撃よろしく」
一人抜けても落ち着いてるカグラ達が頼もしい。
頑張れ。戦わない俺は、後方で見守りながら心の中で応援してるから。
あっ、離れすぎたダルクがパーティーから自動解除された。
*****
「なんでカエルが出てくるのさ!」
戦闘終了後に戻って来て、パーティーへ加入し直したダルクがアースフロッグに対する文句を言ってる。
「しかもあんなに大きくて、色が気持ち悪くて体表がブツブツしてるなんて! あぁぁぁぁっ、思い出しただけで鳥肌立ってくるぅぅぅっ!」
「ゲーム内だから鳥肌なんて立たないだろ」
結論から言うと、アースフロッグはカグラ達が三人で倒した。
途中、メェナが回避した舌を伸ばしての攻撃が俺へ迫ってきたけど、セイリュウが飛びついて押し倒してくれたおかげで助かった。
その後で離れたセイリュウが、やたら照れてクネクネしながら役得役得とか呟いてた。
いったい、何が役得だったんだろうか。
「運営めー! 何考えてんだコラーッ!」
いくら嫌いなカエルがデカいモンスターになって現れたとはいえ、そう怒るなって。
ダルクのカエル嫌いが筋金入りなのは分かってるけど、もう少し冷静になってほしい。
「落ち着けよ。運営に文句言っても仕方ないだろ」
プレイヤーの誰が何を嫌いだなんて、そんなの向こうは知らないんだから。
「そうよ。怒ったって仕方ないわよ」
そうだそうだ、メェナも言ってやれ。
「だったらメェナは、メガリバーロブスターが出た時にどう思った?」
「……。運営のバカヤロー!」
普段は真面目で冷静かつ学級委員長なメェナの口から、らしからぬ発言が飛び出る。
急な大声にセイリュウの体がビクッと跳ねた。
そうだった、メェナのザリガニ嫌いもダルクのカエル嫌い同様に筋金入りだったな。
「この怒りはミヤギさんの頼み事で解消してやる!」
「そうね。どんなモンスターでもボッコボコに殴り倒して、物理的にミンチにしてやるわ」
物理的にミンチにするって、なにそれ怖い。
どれだけ激しい連打を浴びせたら、そんなことができるんだろう。
大嫌いなカエルを見て怒ってるダルク以上に、思い出し怒りしてるメェナが物騒だ。
というか、頼み事が戦闘とは限らないぞ。
いやでも職業が狩人だから、怪我をした自分の代わりにこれを狩ってこいって言われても不思議じゃない。
または自分じゃ狩れないモンスターを、代わりに狩ってくれとか。
……もしも肉を手に入れてこいって頼みなら、余分に入手して自分で使う用に持ち帰れるかな。
「はいはい、怒るのはそこまでよ。目的地が見えてきたわ」
カグラが指差した先には、割としっかりした小屋が建ってる。
掘立小屋みたいなのを想像してたけど、思ってた以上にちゃんとした小屋だ。
早速そこを訪ねると、山羊の角が生えた悪人っぽい顔つきの中年男性が弓矢を背負って現れた。
どうやらこの人がミヤギのようで、ここを訪ねた理由を伝えた。
「スコーピのおやっさんからの紹介なら、突っぱねるわけにはいかねぇな。おやっさんには世話になってるんだ、んなことしたら罰があたらぁ」
喋り方がちょっと江戸っ子っぽい。
「珍しい肉なら色々あるぜ。動物ならシカ、タヌキ、ハクビシン、イノシシ。モンスターならホーンゴートとガテンモールだな」
モンスターはともかく、祖父ちゃんからそういった動物の肉が食べられることを聞いてる俺はなんともないけど、タヌキとハクビシンの辺りでダルク達が表情を曇らせた。
「ね、ねえ、タヌキやハクビシンって食べられるの?」
「祖父ちゃんは食べられるって言ってたぞ。タヌキは食べてたもの次第では匂いがきついらしいけど、そうでもない肉は結構美味いって」
まあ俺も話を聞いただけで、食べたことは無いんだけど。
「ほう、分かってるじゃねぇか坊主。おめぇの言う通り、ハズレのタヌキの匂いはキツイぜ」
NPCのミヤギがそういう発言をするってことは、製作者側にそれを知ってる人がいるってことか。
もしも料理に詳しいのなら、一度話をしてみたい。
「うし、いいだろう。肉を譲ってやる。ただ、いくらスコーピのおやっさんの紹介とはいえタダじゃあやれねぇな」
やっぱりそういう展開か。
さあ、何を頼んでくるんだ。
まだ戦闘系と決まったわけじゃないから、剣の素振りとシャドーボクシングをしだしたダルクとメェナは落ち着け。
「つうわけで、ちょっくら森で木の枝を拾ってきてくれねぇか?」
「えっ? 木の枝を拾う?」
あまりに拍子抜けな頼み事に、つい聞き返してしまった。
おまけに戦闘じゃないと分かったダルクとメェナは動きが止まり、口を半開きにしてポカンとしてる。
「おう。俺は肉の解体と処理以外にも、加工をしてるんだ。特に燻製は評判が良いんだ」
なんでもここに住んでるのは狩りに行きやすいからだけでなく、燻製に使う木の枝を集めやすいのと、燻製を作る際の煙で近所迷惑になるのを避けるためらしい。
以前は町に住んででそこで加工してたそうだけど、煙や匂いが入ってくると苦情を言われたり、火事と勘違いされて通報されたりしたとか。
煙対策をしてないのか、そういった知識や技術が無い設定なのかな。
まあ、そんなのはどっちでもいいさ。
「でな、これから燻製を作るんだが必要なチップが少なくなってきたから、補充用に枝を拾ってきてくれねぇか?」
これが今回の頼み事ってわけか。
こらダルクとメェナ、戦闘じゃないからってガッカリしない。
「分かりました、拾ってきます」
「そりゃあ助かるぜ。森にはモンスターが出るから、気をつけろよ」
「「大丈夫です!」」
戦えるかもしれないと分かった途端、ダルクとメェナが復活。現金なやつらだ。
ちょっと呆れてたらセイリュウが背中をツンツンと突いてきた。
「ねぇ、他に何かないのかな?」
「他?」
「牛乳を使った料理でも子供達が飽きてないのとか、魚料理でも揚げ物がいいとか、そういうの」
ああ、そういうことか。
危うく次へ繋がるかもしれないポイントを逃すところだった。
セイリュウ、ナイスアシストだ。
感謝を込めてサムズアップしたら、照れながらサムズアップで返してくれた。
さて、燻製に使う木の枝で指摘する点となると……。
「何か種類の指定はありますか? それと、どれくらい拾ってくればいいですか?」
種類と量、この二つじゃないかな。
「おっ、やっぱり坊主は分かってるじゃねぇか」
機嫌が良くて笑ったんだろうけど、悪人っぽい顔つきのせいで悪い人が意味深に笑ったように見える。
「同じ肉でも使う木次第で、まったくの別物になっちまうからな」
ガハハと笑うミヤギの言う通り、一口に燻製と言っても使う木の種類で香りや色合いが変化する。
評判の良い燻製肉を作ってるミヤギが、使う木の種類に拘ってないはずがない。
だからこそ、種類の確認は重要だろう。
「クルミとナラとサン、それとネンの木の枝を30本ずつ拾ってきてくれ。どれもそこの森に生えてる木だから、探すのは難しくないぞ」
いやいや、全部合わせて120本あるんだけど?
種類はともかく、数を探すのが大変だから。
「30本ずつでいいんですか?」
「多い分には構わねぇと思うだろうが、置き場を考えればそれ以上はいらねぇよ。チップにすんのも手間だしな」
カグラの質問で数は30本ずつでいいと判明。
つまり今回やるべき事は、森の中でモンスターと戦うか逃げるかしながら4種類の木の枝を30本ずつ集めろってことか。
でも念のために確認しておこう。
「他に何か注意点はありますか?」
「いいや、無い。さっきも言ったが、モンスターに気を付けるくらいだな」
「よし! なら出発だよ!」
「えぇっ!」
戦う気満々のダルクとメェナが近くにある森へ向かいだしたから、ミヤギに失礼しますと言って後を追う。
あのさ、メインは枝拾いで戦闘じゃないからな。
「うふふ。二人ともやる気満々ね」
「あの調子ならモンスターが出ても二人で無双してくれそうだし、私達はしっかり枝を拾っておこう」
そうだな、その方が良さそうだ。
今の二人は誰にも、とまでは言わないけど俺達には止められそうもない。
戦闘は二人に任せて、メインの枝拾いは俺達がやろう。
「それとクルミとネンとサンの木があるということは、実もあるだろうからついでに採取しとく」
ナイスだセイリュウ、よく気づいてくれた。
モンスターの攻撃から救ってもらったことといい、今日はセイリュウに助けられてるな。
「任せた」
「任された」
木の実が手に入るということは、出てくるモンスター次第では肉も手に入るのかな。
そうと分かれば二人を応援しよう。
戦闘頑張れ、ダルクとメェナ。




