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初料理してみた


 さて、時間を潰すと言ってもどうするかな。

 適当にうろついて迷ったらダルク達に迷惑をかけるから、ひとまず案内されている時に見かけた公園にでも行こう。 

 そういうことで、作業館からさほど離れていない場所にある公園へ向かう。

 設置されているのはベンチだけで遊具は無く、公園というよりは広場のようだ。

 植えられている木の傍で、バレーボールのような遊びをしているNPCの子供達を見ながらベンチに座り、少しでも慣れるためにステータス画面を開いて色々と操作をしてみる。


「これがこうで、こうか?」


 マップを展開して拡大縮小、アイテムボックスの整理と並べ方の設定、自分の能力の表示と装備の切り替えと順番にやってみる。

 おっ、バンダナと前掛けを装備したまま非表示にできるのか。

 外でもこれを着けてるのはなんだし、非表示にしておこう。

 この操作でバンダナが消え、サラマンダー特有の赤い髪が晒されるけど気にする事じゃない。

 だってここはゲームの中、赤い髪をしてる奴なんてたくさんいるんだから。

 次はアイテムボックスに最初から入ってる、満腹度回復用の携帯食料と給水度回復用の水を味見してみよう。


「これが水と携帯食料か」


 水はペットボトルぐらいの水筒に入ってて、これが無味なのはまだ分かる。

 一方の携帯食料は、有名な某栄養補助食品みたいだ。

 で、肝心の味は……。うん、あいつらが必死になる理由が良く分かった。


「なんだこりゃ、酷過ぎる」


 思わず口に出てしまうほどいただけない。

 見た目が似ている某栄養補助食品を、よりいっそうボソボソのパサパサにして味をなくした感じ、とでも言おうか。

 味が無いのにボソボソ感とパサパサ感はあるから、なんとも言えない不味さになってる。

 土を口に含んだ感じっていうのは、こういうのを指すのかな。

 辛うじて食べられなくはないけど、好んで食べようなんて思わない。


「なーなー、サラマンダーの兄ちゃん。ちょっといいか?」


 水と携帯食料をアイテムボックスへ戻していたら、横から声を掛けられた。

 そっちを向くと、離れた場所で遊んでいた子供達が並び立っている。


「何か用か?」

「ボールが木に引っ掛かっちゃったんだよ。俺達じゃ届かないから、取ってくれよ」


 子供達の中では一番背が高い、帽子を前後逆にかぶった少年はそう言うと、自分達の後ろを指差す。

 ボール? ああ、あれか。

 さっきこの子達が遊んでいたボールが、木の枝に引っかかっている。


「分かった。ちょっと待ってな」


 ステータス画面を閉じて木へ近づいてみたけど、思ったより高いな。

 手を伸ばしたぐらいじゃ届かない。

 ジャンプしたら指先が触れるけど、枝に角度があって幹の方へ転がっていく。


「駄目か?」


 帽子の少年の一言に、他の子供達は残念そうに俯く。

 これはもっと背の高い人か、踏み台を持ってこないと取れないか?

 いや待てよ、そんなことしなくとも届く方法がある。


「なあ、お前はなんて名前なんだ?」

「俺か? 俺はマッシュってんだ」


 帽子の少年に名前を尋ねると、ジャガイモを潰しそうな名前を口にした。


「マッシュか。今からお前を抱き上げる。そうすれば届くんじゃないか?」

「おぉっ! 兄ちゃん頭いいな!」


 別にそこまでじゃない。でも子供相手とはいえ、褒められたのは気分がいい。

 両脇に手を入れて抱き上げたマッシュが手を伸ばすと、余裕でボールに手が届いた。

 そのまま枝が広がっている位置までボールを移動させると、無事にボールを取ることができた。


「やった! 兄ちゃんサンキュー!」

「どういたしまして」

「なんかお礼しないとな」


 ボールを手にしたマッシュが殊勝なことを言ってくれる。


「子供がそんなの気にしなくていいぞ」

「助けてもらったらちゃんとお礼をする! 祖父ちゃんからそう教わったんだ!」


 マッシュがボールを脇に抱え、胸を張ってそう告げる。

 NPCとはいえ、義理堅いのは好ましいな。


「そうだ、兄ちゃんは料理するか?」

「するぞ」


 むしろ、それをするのが目的でこのゲームをしている。


「だったら俺ん家に連れて行ってやるよ。俺ん家って店やっててさ、市場の近くで野菜売ってんだよ」

「そうなのか? ぜひ頼む」


 これは面白い展開だ。

 市場の近くの商店は案内されていなかったから、場所を知るだけでも行く価値はある。

 さっき料理ギルドで購入した食材で何を作るかは決めてあるけど、そこで入手できる食材次第では一品追加するか、料理内容を変えられるかもしれない。

 作る予定の物に具材を追加するだけに終わる可能性もあるけど、まずは見てみないと始まらない。


「分かった、ついて来な。皆、行こうぜ」


 子供達に囲まれて連れて行かれたのは、ダルク達に案内してもらった市場の目と鼻の先にある、小さな店舗が並んでいる場所。

 例えるなら、小規模の場外市場という感じかな。風景は西部劇風だけど。

 その中にある店舗の一つ、ベジタブルショップキッドがマッシュの家のようだ。

 ところが店舗には商品が無く、受付のカウンターに白髭を蓄えた禿げ頭の老人がいるだけだ。


「ただいま。祖父ちゃん、お客さん連れて来たぜ」

「客だと?」


 老人がマッシュの声に反応した。

 この人がマッシュの祖父ちゃんか。ゲームのキャラクターと分かっていても、迫力あるな。


「ああ。俺が木に引っ掛けたこのボールを取ってくれた、優しい兄ちゃんだぜ。料理するっていうから、何か売ってやってくれよ」

「そうか。おい若造、孫が世話になったな。うちは注文された野菜を店へ卸売するのが専門だが、礼に余り物で良ければ安値で売ってやるぜ」


 へえ、ここは普通の店じゃなくて卸売りの問屋ってことか。なら受付だけで、商品が置いてないのも頷ける。

 おおよそ、市場で仕入れて店へ注文された品を運ぶってところだろう。

 しかし孫の頼みをあっさり受け入れるなんて、この老人は随分と孫に甘いんだな。


「ありがとうございます。それで、何がありますか?」

「ほれ、ここにあるのなら売ってやるよ」


 受付に表示されたウィンドウに近づいて確認すると、料理ギルドで売っていた野菜ばかり。

 これは期待外れかと思いきや、下の方にギルドで売っていなかった豆類やキノコ類があった。

 豆類は小豆とそら豆、キノコ類はシイタケとエリンギとエノキか。品質は料理ギルドで買った野菜と同じくらいだな。

 余り物だから買える量は制限されているけど、安値な上にダルク達から貰った金で全部買うことができる。


「これをお願いします」

「おうよ」


 料理ギルドに無かった五品目を買えるだけ買って代金を支払うと、アイテムボックスに購入した品が加わった。


「まいどあり」

「良い物をありがとうございます」

「孫が世話になった礼だ、気にすんな。だが余り物が出ることは滅多にねえし、さっきも言ったが普段は店への卸売しかやってねぇから、頻繁に来るんじゃねぇぞ」

「分かりました」


 頻繁に来るなってことは、たまになら来てもいいんだな。

 市場で売っている物次第では、またここへ来てもいいかもしれない。


「では、失礼します」

「おうよ」

「またな、兄ちゃん!」


 マッシュを筆頭とした子供達とマッシュの祖父ちゃんに見送られて店を出る。

 どうせだから、このまま市場の中も見に行ってみるか。

 ところが、市場で買える物はギルドで売っていた品とそう変わりなかった。

 料理ギルドで教わった通り、品質が高いからそれに伴って値段も少し高いけど、ただそれだけだ。

 これもゲーム序盤だからかなと、期待外れでちょっとガッカリしながら市場を出たところで、ダルクから町へ帰るっていうメッセージが届いた。

 なら、作業館へ行って料理を開始しますか。

 やや早足で作業館へ向かい、西部劇の酒場にあるような両開きの扉を開けて中へ入ると、すぐ傍に若い女性NPCがいる受付があった。


「ファーストタウン作業館へようこそ。ご利用のお客様でしょうか?」

「ああ。でもその前に、確認がしたい」


 気になっていた設備について尋ねると、備え付けの道具や設備はオープンスペースだろうと個室だろうと同じとのことだった。

 なら個室を使うことはないから、オープンスペースを借りることにしよう。


「こちらがオープンスペースの利用状況です。お好きな場所を指定してください」


 なんか前に早紀に連れて行かれたネットカフェで見た、席の利用状況みたいなのが表示された。

 現在は一階の鍛冶場が一ヶ所、作業台は四ヶ所利用されているだけで、二階は誰も使っていない。

 一階の作業台が空いてるし、わざわざ二階に行くこともないし一階でいいか。

 空いている適当な作業台を指定して、そこの利用札を手渡される。これって完全にネットカフェ仕様じゃないか?


「備品は作業台の下の棚の中にありますので、どうぞご利用ください。では、ごゆっくり」


 頭を下げる女性NPCの前を通過して奥へ進み、一階の作業場へ入る。

 そこでは男プレイヤーが鍛冶場で鉄を熱していて、作業台では薬みたいなのを作っているプレイヤーが数人いた。


「借りた場所は……ここか」


 借りた場所を見つけて作業台を確認する。

 大きさは家庭科室や理科室の机と同じくらいで割と広い。

 だけど流しはあれど蛇口のようなものは無く、作業台の傍らには柄杓が置かれた大きな瓶がある。

 瓶には水が満タンになっていて、それをダルク達から教わった通りに選択すると瓶の情報が表示された。




 無限水瓶

 レア度:3 品質:4

 効果:溢れない程度にいくらでも清水が湧き出る瓶

 *持ち出し、破壊、共に不可




 いいなこの水瓶。スペースは取るけど、水道代節約になるから現実でも欲しい。

 しかも清水ってことは、そのまま飲むことも可能なんだろう。

 試しに柄杓で水を掬って調べてみる。




 清水

 レア度:1 品質:3 鮮度:89

 効果:給水度回復5%

 そのまま飲めるただの水。料理にも製薬にも幅広く使える




 おぉっ? 水瓶では見えなかった鮮度と説明が見えるぞ。

 ひょっとしてこれが、食材目利きの効果か?

 料理に使える水だから食材認定なんだとしたら、思ったより適応の範囲は広いのかもしれない。

 それとレア度と品質は十段階だって聞いていたけど、鮮度は数値が二桁で表示されているから百段階評価なんだろう。

 さて、次は備品の確認だな。

 作業台の下にある棚にある備品を確認するためしゃがむと、製薬用と書かれた横長の札が打ち付けられていた。

 どうやら料理用の備品は別の棚にあるようで、作業台の周辺を回って料理用とある札が打ち付けられた棚を見つけ、中にある調理器具を調べていく。


「包丁が二本、フライパンと小さい鍋が二つずつ、スープを作れそうな大鍋が一つ、大小のボウルや泡だて器もあるのか」


 他にもまな板やお玉やフライ返しやバット。トングにローラーと一通りの物は揃っているようだ。


「コンロは……うん?」


 コンロが見当たらず辺りを見渡していたら、何かを熱している女性プレイヤーを発見。

 それを見るに、どうやらコンロは作業台の中に設置されているようだ。


「なるほど、ここか」


 よく見ると台に線が入っていたから、そこを持ち上げて向こう側へ倒すと二口型のコンロが現れた。




 二口型魔力コンロ

 レア度:3 品質:3

 効果:魔力を注ぐと火が点く。ツマミを回して火力を調整可能

 *持ち出し、破壊、共に不可




 説明に従って魔力を注ぐと、円形に小さな火が点いた。

 火力は一番弱いのがとろ火ぐらいで、一番強いのは業務用コンロぐらいの火力が出せるようだ。

 てっきり家庭用程度かと思っていたけど、業務用くらいの火力が出せるとは。

 消費する魔力はたったの1で、しかも火を消さない限りは新たに魔力を注ぐ必要は無いみたいだ。


「それじゃ、やりますか」


 ステータス画面から前掛けとバンダナの非表示を解除する。

 やっぱり料理する時は、こうした方が気合いが入るな。

 今回使う食材は料理ギルドで購入した小麦粉と野菜数種類とタックルラビットの肉、それとマッシュの家で買ったキノコ類。調味料は油と塩と胡椒だ。

 この低品質の食材や調味料でどんな味になるのか、楽しみであると同時にちょっと怖い。

 試しに生のまま食べられるトマトを食べてみたけど、食感だけで味が無い。

 塩と胡椒も同様だ、味が全くなくて辛くもしょっぱくもない。


「これは調理しないと、味が分かりそうにないな」


 買っただけの品じゃ、調味料でも味がしないのはよく分かった。

 こうなればもう、料理を作ることでしか味を確かめられない。


「さて、ゲーム内での最初の料理開始だ」


 まずは大きめのボウルに小麦粉を入れ、小さいボウルに準備した塩水を加えながら混ぜていき、そぼろ状のものを集めて塊にしたらよく捏ねる。

 おおっ! 手に伝わってくる感覚が現実そっくりだ。

 やるな開発者、改めて技術の進歩を実感するぞ。

 だけど感心するのはほどほどにして、料理に集中だ。

 注意すべきは水加減と塩加減。塩加減を間違えればしょっぱくなるし、水加減を間違えれば固くなったり柔らかすぎたりするから注意だ。

 うどんで有名な香川出身で、手打ちうどん屋をしていた曾祖母ちゃんから教わったっていう祖母ちゃん直伝だから、やり方や注意点はよく知っている。


「踏まなくても大丈夫そうだな」


 このキャラクターを作る時、料理には腕力も必要だから腕力の数値を高めにしておいたお陰で、思ったよりも楽にこねる作業が進む。

 腕力が足りなければ踏んでこねればいいけど、生地を入れる袋が無いから腕だけでこねられて良かった。

 そうして体重をかけてこねていき、表面に艶と適度な弾力が出たらしばらく生地を寝かせる。

 この間に別の作業をしよう。


「ニンジンとシイタケとエリンギとエノキ、それからトマトでいいな」


 ここで手にするのは備え付けの包丁じゃなくて、装備品の包丁。

 見た目は安物っぽいけど、やっぱりマイ包丁って思うとテンションが少し上がる。

 そいつで野菜を切っていく。

 いざ包丁を握ると現実の感覚との違いがないか不安だったけど、案外いつもの感覚で包丁を使えているし、伝わってくる感触も現実と同じだからちょっとホッとした。

 そのまま野菜を切っていき、ニンジンは薄めの輪切り、トマトはくし切りにしたらさらに三等分に切り、シイタケとエリンギは薄切り、エノキは石突を落としたら手でほぐすように小さく分ける。

 おっと、トマトは中のゼリー状の部分を取り除くのを忘れずに。

 それが済んだら次はスキルの出番だ。


「乾燥」


 まな板の上に並べた野菜へ向けて、乾燥のスキルを使う。

 本当なら薬草や薬用の素材を乾燥させるためのスキルらしいけど、野菜に使えるかどうか分からないから、半分実験のつもりでやってみる。

 そしたらなんと大成功、見事に水分が抜けて乾燥野菜が出来た。




 乾燥ニンジン

 レア度:1 品質:2 鮮度:26

 効果:満腹度回復1% 給水度減少1%

 乾燥させて水分が抜けたことで旨味と栄養が増したニンジン

 煮て良し、出汁にして良し




 乾燥シイタケ

 レア度:1 品質:2 鮮度:34

 効果:満腹度回復1% 給水度減少1%

 乾燥させて水分が抜けたことで旨味と栄養が増したシイタケ

 煮て良し、出汁にして良し




 乾燥エリンギ

 レア度:1 品質:2 鮮度:31

 効果:満腹度回復1% 給水度減少1%

 乾燥させて水分が抜けたことで旨味と栄養が増したエリンギ

 煮て良し、出汁にして良し




 乾燥エノキダケ

 レア度:1 品質:2 鮮度:33

 効果:満腹度回復1% 給水度減少1%

 乾燥させて水分が抜けたことで旨味と栄養が増したエノキダケ

 煮て良し、出汁にして良し




 乾燥トマト

 レア度:1 品質:2 鮮度:27

 効果:満腹度回復1% 給水度減少1%

 乾燥させて水分が抜けたことで旨味と栄養が増したトマト

 煮て良し、出汁にして良し




 よし、これが上手くいったのなら一品増やせるぞ。

 水を張った鍋を火にかけて湯を沸かしたら、そこへ乾燥野菜を入れて火加減に注意しながら煮込んでいく。

 おっ、灰汁が浮いてくるのまで現実そっくりだ。ここまで再現するなんて、開発者は本当に拘ってるな。

 頷きながら時間を確認したら、調理開始から既に二時間を経過している。

 よし、ちょうどいいタイミングだ。

 沸騰しないよう火の調整をしたら、寝かせていた生地に取り掛かる。

 これを麺棒で――と言いたいところだけど、麺棒が無いからローラーで代用しよう。

 さらに打ち粉の代わりに小麦粉を撒く。

 撒きすぎたら生地に混ざって加えた水分とのバランスが崩れ、食感が悪くなるからほどほどに。

 その上で生地をローラーで伸ばしていき、十分な厚さになるまで伸ばせたら重ねるように折り畳んで、一旦鍋の方を確認。

 沸騰していないのを確認しつつ火加減の調整をしたら、包丁で折り畳んだ生地を切ったら生麺のうどんが完成だ。


「おい――」

「あんなに――」

「――本職――」


 ん? なんか周りが騒がしいな。

 顔を上げるといつの間にか人数が少し増えている上に、他の作業台を使っている人達や鍛冶場を使っている人が、全員こっちを見ている。

 何を言ってるかはよく聞き取れないけど、不人気職の料理人が珍しいのかな。

 まあいい、周りのことよりも料理だ料理。

 うどんは一旦バットのような容器へ移して、まな板を洗って備え付けの布巾で拭いたらもう一口のコンロへ水を張った大きい鍋を置いて強火にかけ、沸騰するまでの間に野菜を切っていく。

 ニンジンとピーマンとキャベツを細切りに、タックルラビットの肉は薄切りに。

 やばい、それぞれの食材を切る感触が現実とよく似ているから、段々とテンションが上がってきた。

 ログインする前は所詮ゲームだと侮っていたけど、まるで現実で料理してるようで気分が盛り上がって、自然と材料を切る速度が上がっていく。


「早――」

「――やっぱ」

「――手際――」


 周りは相変わらず騒がしいけど、気にしない気にしない。

 野菜を切り終えたら再度鍋をチェック。

 見た目はいい感じだけど、味の方はどうだろうか。お玉で少量を小皿へ移して味見する。


「うん……良し」


 乾燥野菜から出た出汁で良い味になっている。

 ここへ具材を追加だ。細切りにする前に切り取ったキャベツの芯とニンジンの根本を細かく切る。

 普段は捨てがちだけど、ここだって可食部だ。

 念のため目利きスキルで確認したけど、ちゃんと可食部と出ていたし、悪い状態になるとは出ていなかったから問題無く食べられるんだろう。

 切ったこれをスープに入れたら火加減の注意を継続しつつ、もう一口のコンロに掛けておいた大きめの鍋でお湯が沸いたからうどんを茹でる。

 ここでは下茹で程度だから、火を通しすぎないうちに麺をザルへ上げて湯をしっかりと切ったらトングで麺を持ち上げ、一玉ずつに分けながらバットの上へ移す。

 市販の麺を電子レンジで温める方法もあるけど、せっかくの手打ちだし電子レンジが無いから茹でさせてもらった。

 次いで大きい鍋をどかした側でフライパンを熱して油を敷く。




 サラダ油

 レア度:1 品質:2 鮮度:29

 効果:火属性攻撃強化【微・30分】

    火属性耐性低下【微・30分】

 植物から精製した食用油。火の近くでの扱いには注意




 できればゴマ油が良かったけど、これしか売っていなかったのが残念だ。

 だからといってゴマ油に拘って固執するのは、有る物でなんとかしろっていう祖父ちゃんの教えに背くから、サラダ油で作らせてもらう。

 油なんてと思ったら大間違いだ。油にもそれぞれ味や風味があって、その影響が料理にも出る。

 逆に同じ料理でも油を変えるだけで味や風味に変化が出るから、それを楽しむこともできる。無論、必ずしも良い変化をするとは限らないのは承知しておいてほしい。

 さて、油が温まったからまずはタックルラビットの薄切り肉を焼き、ある程度焼けたら一旦皿に移す。

 今度は野菜を火が通り難い順に加えて炒め、火が通ってきたら再度肉を加えて、最後に下茹でしたうどんを一玉加えて炒める。

 普段使いの中華鍋ならこうする必要は無いけど、普通のフライパンならやっぱりこの方法だな。

 炒めたら最後に味付けだ。実家の店なら自家製の調味液かソースか醤油だけど、ここには無いから塩と胡椒で味付けをする。

 早い段階で塩を加えると野菜から水気が出てベシャベシャになるから、味付けは最後にやるのが鉄則だ。


「よし、完成」


 フライパンから皿へ移して、焼きうどんの完成だ。




 塩焼きうどん 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:8 完成度:88

 効果:満腹度回復21%

    HP自然回復量+2%【2時間】 腕力+2【2時間】

 麺から手作りした塩味の焼きうどん

 鰹節が無いのが残念ながら、味は確か

 出来立て熱々のうちに召し上がれ




 料理になると鮮度じゃなくて完成度が表示されるのか。これも数値が二桁表示されているから、鮮度と同様に百段階評価なんだろう。

 さて、これは自分の分ということにして味見をしよう。

 ……うん、火加減も塩気も良い感じだ。

 味見が済んだらすぐにアイテムボックスへ入れておく。

 こうしておけばいつまでもアツアツのまま、出来立ての状態を保てるそうだから、それを利用して保温させてもらおう。


「――そう」

「あれ――だよね」

「――は――に」


 気づいたら周囲がざわめいていて、なんか視線が集まってるけど気にしている場合じゃない。

 今からダルク達の分も作らなきゃならないんだから。

 想像以上に現実との感覚が同じでテンションが上がっているから、店を手伝ってるつもりで一気にいくぜ。

 調理を進めるのに比例して周りの騒がしさが増していくけど一切気にせず、調理の手は緩めない。

 周りが騒がしい程度で集中力を切らしてたら、料理人はやっていられない。

 注文だの料理の指示だの調理音だの、店によってはお客の喧騒だの、飲食店や厨房っていうのは結構音がするんだから。

 途中で鍋の様子を確認することも忘れず、細かく切ったキャベツの芯とニンジンの根元に火が通ったのを確認したら、少量の塩と胡椒で味付けをして乾燥野菜出汁のスープが完成だ。




 乾燥野菜出汁の塩スープ 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:7 完成度:91

 効果:満腹度回復3% 給水度回復24%

    MP自然回復量+2%【2時間】 魔力+2【2時間】

 自家製乾燥野菜で出汁を取り、そのまま具材にしたスープ

 僅かに加えた胡椒が良いアクセント

 塩気控えめの優しい味わいにホッとしてください 




 これもダルク達が来るまでは鍋ごとアイテムボックスに――あれ? できない?

 ああそうか、コンロや水瓶と同じで鍋も持ち出し不可だからか。仕方ない、このままとろ火に掛けて冷めないようにしておこう。

 さて、残るは二人前だ。

 そういえばダルク達、連絡が来てからだいぶ経つけどまだ戻ってこないな。何やってんだ?


「お待たせ、トーマ!」


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― 新着の感想 ―
ゲームで「帰ろう」とメッセージを送ってから2時間以上掛かるってゲーム性としてダルくない?最初の町なのに。 バフ目的とかじゃなく必須行動の飲食が嫌悪感を抱かせるのと合わせてプレイヤーに優しくないゲームだ…
[気になる点] 秘伝をバラしたくない、秘密にしたいと言っていたのにオープンスペースを迷わず選択したのは何故なんだろ。設備一緒でお金に余裕があるのに
[気になる点] 最初のの長文とか改行してほしい。
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