調理の幅が広がった
オーク肉を使った回鍋肉と焼きうどんは好評のようで、日没前に帰ってきたダルク達は一言も発さずに夢中で食べている。
この焼きうどんも茹でたオーク肉を焼き、出てきた脂で手打ちうどんと野菜を炒めて作ったものだ。
オーク肉の焼うどん 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:7 完成度:87
効果:満腹度回復42%
HP最大量+30【2時間】 体力+3【2時間】
オーク肉の豊富な脂によって、麺と野菜が香ばしく炒められている
塩だけのシンプルな味付けだから、脂の旨味が際立つ
それでいてくどくなく、食べ応えのある一品
*オークのバラ肉を薄切りにして茹で、フライパンで焼く
*肉をバットへ移し、残った脂で刻んだキャベツとピーマンとニンジンを炒める
*下茹でしたうどんを加えて炒める
*最後にバットへ移した肉を加えて炒め、塩と胡椒で味付けして完成
似たような料理が二つ並んだけど、特に問題は無さそうだ。
バランスを考えて焼きうどんは肉の量を減らして、代わりに野菜を増やしたのが良かったかな。
小鉢に用意したサラダも口直しになってるみたいだし。
ハーブ入りサラダ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:1 品質:8 完成度:92
効果:満腹度回復9%
魔力+1【2時間】 知力+1【2時間】
ハーブが入った生野菜のサラダ
酸味の効いたドレッシングが口の中をサッパリさせる
*キャベツとトマトとニンジンとタマネギとハーブを切る
*油に塩、サンの実の果汁数滴を加えて混ぜてドレッシングを作る
*野菜とハーブを小さめの器に盛り、ドレッシングを回しかけて混ぜて完成
やっぱり炒めもの二つじゃ重いからな、小鉢ぐらいの量でもこういうのはあった方がいいだろう。
サンの実の果汁も数滴ならレモン汁のように扱えるから、こうした料理にピッタリだ。
「このドレッシング、いい。お肉とも合いそう」
ようやく発せられた一言は、サラダを食べたセイリュウからだった。
「油と塩とサンの実の果汁を混ぜただけの簡単なのだぞ」
本当は砂糖か胡椒も加えようとしたけど、酸味のさっぱり感を前面に出したくて単純な作り方にさせてもらった。
「だからこそ、この酸味が味わえるのよ」
「これなら脂が多いオークのお肉でも、食べやすくなるんじゃないかしら」
セイリュウに続いてカグラとメェナも意見を口にした。
確かにこの酸味なら、脂のしつこさが軽減して食べやすくなるかもしれない。
調理で脂を落とすんじゃなくて、そういう手段で脂の重さを軽減させるのは有りだ。
イメージとしては、前に作った蒸し肉と野菜の塩ダレ和えのような、冷しゃぶサラダかな。
野菜の上にしゃぶしゃぶして冷ましたオーク肉を乗せて、サンの実の果汁を使った酸味のあるドレッシングをかける。
……うん、いけるかもしれない。
脂対策にちょっと酸味を強めにしても、野菜と一緒に食べれば問題無いかな?
「それ採」
「トーマ! それ絶対に食べたいから、いつか作って!」
それを言おうとしたのにダルクに遮られ、先に言われた。
このやろう。
「分かったよ。いつかな」
「約束だよ!」
いつになるかは俺の自由だけどな。
そう思いつつ、オーク肉の茹で汁を利用した卵スープをすする。
オーク肉の茹で汁卵スープ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:81
効果:満腹度回復2% 給水度回復21%
腕力+2【2時間】
オーク肉を茹でた際に出た脂や旨味が詰まったスープ
豊富な野菜と卵が脂の強さを抑え、満足感のあるスープに
*ニンジンとタマネギとキャベツとネギとカブを一口大に切る
*火の通り難い順に加えて煮込む
*具が柔らかくなってきたら塩と胡椒で味を調える
*溶き卵を回し入れて軽くかき混ぜたら完成
うん、キャベツの芯やカブの葉の部分も入れたから、色んな食感がする。
勿論食感だけでなく、味も悪くない。
脂っぽそうな茹で汁だったからどうなるかと思ったけど、なんとかなって良かった。
「なにあのセットメニュー」
「回鍋肉に焼きうどんにサラダにスープって……」
「デザートがあればちょっとしたコース料理じゃない」
周りのざわめきが聞こえる。
あいにくデザートは無いけど、飲み物ならホットミルクがある。
「あっ、この牛乳も美味しい」
「なんで温めたの?」
「そのまま飲んでも味が無いから」
一応試したよ、温めずに飲むのを。
でもやっぱり味が無いから、ホットミルクにした。
なお、甘い物好きのカグラのは砂糖入りにしてある。
しかし本当に美味いな、この牛乳。
*****
「で、この後はまた外へ行くのか?」
食事を終え、食器を洗いながらダルク達へ尋ねる。
そのダルク達は買ってきた茶葉で淹れたお茶を飲みつつ、さっき渡しておいた水出しのポーションとマナポーションを整理してる。
水出しだと調理中に仕込んで放っておけばいいから、作りやすくて助かる。
「ううん、今日はここまで。続きはまた明日」
「だったら宿を取りに行くか?」
外はもう夜だろうし、宿を確保するなら早めがいい。
「その前に、トーマはこれからしたいことある?」
俺がしたいことか……。
「あるっちゃあるぞ」
せっかく酢のように使えるサンの実を手に入れたんだ、卵と油はあるからマヨネーズを作りたい。
そうすればメガリバーロブスターを使ったエビマヨ、それと海老を鶏肉にした鶏マヨ、ポテトサラダといった品ができる。
それと、すりおろしたネンの実がトロミを付けるのに使えるって教わったから、どの程度なのか確かめてみたい。
トロミ次第では、リバークラブと卵のかに玉にかける餡が作れるし、あんかけ焼きそばだって作れるし、サンの実の酸味も利用すれば酢豚だって可能かもしれない。
ついでにサンの実の皮を加熱した時の香りと味も確認したい。
「やりたいことはこれくらいかな」
洗い終えた食器をアイテムボックスへ入れながら伝えると、ダルクが勢いよく立ち上がった。
「いいよ! 今すぐやっていいよ!」
「是非やってちょうだい」
「いくらでも待つから、遠慮せずどうぞ」
「わくわく」
立ち上がったダルクが身を乗り出して実行を勧めてきて、メェナとカグラが冷静に勧めてきて、セイリュウは目を輝かせながら心境を口にした。
ああはい、分かった。やるから落ち着け。
ダルク達からの圧に若干腰が引けたけど、やるとなったからには圧には負けない。早速作業開始だ。
まずはサンの実の皮を剥き、この皮をオーブンで加熱。
その間に皮を剥いたサンの実を真っ二つに切り、思いっきり絞って果汁を鍋へ溜めたら沸騰させないよう弱火に掛ける。
次にかかろうとしたらオーブンでの加熱が終わって、開けてみたら爽やかな香りが漂って気分が落ち着く。
「いい香り」
「柑橘系の香りだね」
穏やかな表情になったダルク達をしり目に小さく切って食べてみると、爽やかな香りが鼻を抜け、口の中には微かな苦みがある。
これは香りづけだけでなく、苦みのアクセントを加えるのにも使えそうだ。
確認をしたらサンの実の皮はアイテムボックスへ入れ、代わってネンの実を出す。
鍋の様子を見ながら皮を剥き、ボウルの上でおろし金で実をすりおろす。
「わっ、とろろみたい」
「木の実なのに不思議ね」
ボウルへ溜まっていくすりおろしたネンの実は本当にとろろのようで、調理過程を見せずに黙って出せば、間違いなくとろろと勘違いそうだ。
ここでサンの実の果汁が沸騰しそうになったから手を止め、コンロの火を止める。
熱された果汁を冷ましてる間にネンの実をすりおろし、おろし終わったらスプーンで一口味見。
すりおろしたお陰か、そのまま食べた時の食感の悪さはなく、スルリと飲み込めてのど越しが良い。
それでいて弱い甘さはそのままだから、軽く甘みをつけたとろろを食べてる感じだ。
「トーマ、それはどう?」
「そのまま食べるより、断然いいぞ。ただ、見た目に反して米とは合わなさそうだ」
あくまでとろろのような見た目というだけで、とろろじゃないからな。
そもそも山芋じゃなくて木の実だし。
さて、肝心のトロミをつけるのはどうかな。
それを確かめるべく、別の鍋に水を張って熱する。
これが沸くまでの間に、冷めてきたサンの実の果汁をスプーンで一口味見。
うぉっ。酸っぱいけどそのまま食べた時ほどじゃないし、刺々しさの無い丸みのある酸味はまさに酢のようだ。
「これならマヨネーズいけるかも」
「本当!?」
「論より証拠だ。すぐに作って……と言いたいところだけど、その前にネンの実のトロミを試させてくれ」
「「「えー」」」
「文句言わないの。マヨネーズって作るの大変なのよ」
さすがはメェナ、分かってる。
マヨネーズ作りのコツは酢や油の量もあるけど、それ以上にかき混ぜ続けるのが大変なんだ。
ミキサーやフードプロセッサーの類が無い以上、手でかき混ぜるしかないマヨネーズ作りは確実に疲れるだろうから、後にした方が良い。
他の誰かに頼む手もあるけど、ダルク達は調理スキルどころか関係がありそうな調合スキルも無いから、正直任せるのが不安だ。失敗したら嘆きかねない。
マヨネーズを作れずに絶望するダルク達の姿を想像しながら、湯気を上げるお湯へ塩とすりおろしたネンの実を半分流し込み、火加減に注意しながら混ぜていく。
すると徐々にトロミがついてきて、まるで塩味だけのポタージュのようになった。
味見をしてみると確かにトロミがついていて、試飲させたダルク達からもこういうスープが飲みたいと言われた。
そんな意見を聞きながら、熱したフライパンに半分残したすりおろしたネンの実に水と塩を加えた物を流す。
「そんなことして、どうするの?」
「水溶き片栗粉みたいな感じで使ったらどうなるかと思ってな」
フライパンをのぞき込むカグラに返事をして、フライパンの中身を軽く混ぜる。
おっ、この方法でもトロミがつくのか。
徐々にトロミが出てくる様子に思わず表情がにやける。
「これならあんかけみたいなのも作れるな」
「「「「本当!?」」」」
本当だから落ち着け、飯を食ったばかりの腹減ったガールズ。
「つまり、かに玉が食べられる!?」
「あんかけ焼きそばも!?」
「お酢みたいのも使えば、肉団子の甘酢あんかけがっ!」
「ス・ブ・タ! ス・ブ・タ!」
落ち着けお前ら。特に酢豚と連呼して手を叩いてる幼馴染は特に。
とりあえず完成したあんを味見して、あっつっ!
この熱さでトロミだけでなく、熱が逃げにくいところもあんかけのようだと実感した。
無論、味は問題無くて塩味のあんのようだ。
さあ次はいよいよ、マヨネーズの時間だ。
用意するのは油、塩、卵黄、酢のようになったサンの実の果汁。
好みで卵白入りにしたり胡椒を加えたりしてもいいけど、今回はこれでいかせてもらう。
余った白身はフライパンで焼いて黄身の無い目玉焼きにして、さっきの塩あんをかけてダルク達へ出しておいたら、マヨネーズ作り開始。
それからしばらくして……。
「で、できた……」
スプーンで一口味見したこの味この食感、間違いなくマヨネーズだ。
ようやく完成したマヨネーズ入りのボウルを作業台に置き、椅子に座り込んで作業台へ伏せる。
いったいどれだけ混ぜ続けたのか気にする余裕すらない。
だけどその甲斐あってマヨネーズが完成し、同時にミキサーやフードプロセッサーのありがたさを実感した。
ゲームだから疲れや腕の痛みは無い。
でも、ただひたすらかき混ぜ続けたことで精神的に疲れた。
「お疲れさま」
「トーマ君のお陰でマヨネーズが食べられるんだから、感謝するわ」
「ありがとう、トーマ君」
水を差し出してくれたメェナと、感謝の言葉をくれたカグラとセイリュウの優しさが身に染みる。
それに対して……。
「イエーイッ! マーヨ、マーヨ!」
マヨネーズ入りのボウルを掲げてマヨマヨ言うだけで、一切のいたわりも感謝も無いこの幼馴染は一回しばいたろか。
「ねえ、ダルクもちょっとは感謝してあげたら?」
そうだ、もっと言ってやれカグラ。
「ああそうだね。トーマ、グッジョブ!」
ボウルを片腕で抱えてサムズアップするダルクに、なんだか怒る気が失せた。
「いいから、マヨネーズ返せ。アイテムボックスに保管するから」
「はいはい、どうぞどうぞ」
返してもらったマヨネーズは瓶へ移し、アイテムボックスへ。
どう使うかは明日考えることにして、今日はこれにて作業館から引き上げ、宿を取ったら就寝した。
*****
翌日、朝飯はストックしてある麺と昨日話題に出た冷しゃぶサラダを組み合わせて、サラダうどんのようなものを作ろうということになってダルク達と作業館へ。
作業台を借りて中へ入ると、一つの作業台に八人が集まって何かをしていた。
借りた作業台へ向かいながら擦れ違いざまに横目で見ると、小麦粉をこねた大きな塊のようなものから小さな塊を摘まみ取っては、指先でこねながら細長くして自分の前に置いてあるバットの上へ並べてる。
なんだあれ、何やってんだ?
「ねえ。あそこで作ってるのって、ちねり米じゃないかな?」
「ちねり米? あっ、本当だわ」
「あらら。テレビ以外で作ってるのを見るのは初めてだわ」
ダルクもメェナもカグラも、あれが何か分かるのか。
しかしちねり米? なんだそれ、そんな名前の米なんて聞いたことが無いぞ。
「トーマ君、分かってなさそうだから教えるけど、ちねり米っていうのはね」
セイリュウによるとちねり米とは、テレビの無人島企画に参加した芸人が米欲しさに作り出した、こねた小麦粉を米のようにちぎって指先で成形したものらしい。
要は小麦粉をこねて米の形に整えた米っぽい物だ。
作るのは難しくなく、必要なのはただひたすらちぎってこねる、つまりちねり続ける根気と根性とのこと。
「つまりあの人達は、そうまでしてUPOの中で米を食いたいと?」
「そういうことだと思う」
現実で食って満足しておけよ。
いやでも、世の中には糖質オフのダイエットをしてる人や、色々な理由で米すら食えない人もいるんだよな。
「あっ、見つけたわ。彼らは料理人プレイヤーの掲示板で集まった、ちねり米でいいからお米を食べたい人達の集まりね」
ステータス画面で掲示板を表示させたメェナがそれを見せてくれた。
凄いな、文面とはいえ米が欲しい声が溢れてる。
「その結果、ああいう集まりに発展したのね」
「この前の人達も誘われてるね。用事や時間の都合で、誰も参加してないみたいだけど」
確かにあの中に、あの時のメンバーは誰一人いない。
まあそれはいいとして、あの作業をどれだけの時間続ければ一人前になるんだ。
だけど米が無い以上、面倒でも手間暇掛かってもああするしかないのかな。
ちぎってこねてを一粒一粒、延々と続けていくのは大変だな。
「トーマならあれ、どれくらいで作れる?」
「そもそも作る気が起きない」
あれを作るくらいなら、パンか麺を……。
「どうかしたの、トーマ君」
「なあ、朝飯を変更していいか?」
「別に構わないけど、何を作るの?」
「まあ見てな」
まな板を用意して、アイテムボックスにストックしてる麺を取り出す。
使うのは細麺。これを伸ばした状態でまな板に並べ、包丁でみじん切りにする。
「なんで麺にそんなことを……って、これは」
「細麺をみじん切りにしたから、ちねり米っぽくなってる!?」
ダルクが大声を上げたからか、周囲がざわついた。
そう、わざわざ一粒一粒作らなくても、細麺を伸ばしてみじん切りにすればちねり米もどきが作れる。
使ってるのは同じ小麦粉と塩と水をこねた物だから、味も同じようなものだろうしな。
「その手が――」
「ちねることに囚われ――」
「今までの苦労は――」
向こうの作業台から嘆きの声が聞こえる。
なんかごめんなさい。でも今はみじん切りに集中させてくれ。
人数分のちねり米もどきができたらバットへ移し、オークのロース肉とネギを同じくみじん切り、そして溶き卵を作ったらみじん切りにしたオークのロース肉を少量炒める。
オーク肉は脂が多いから、少量でも徐々にフライパンに脂が出てきた。
ここへネギやちねり米もどきや溶き卵を加え、オーク肉の脂を利用して炒めていく。
チャーハンはパラパラかしっとりかっていう意見があるけど、中華桐谷はしっとり派だ。
炒め終わったら塩と胡椒で味付けし、ちねり米もどきのチャーハン風一丁上がり。
刻み麺のチャーハン仕立て 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:7 完成度:83
効果:満腹度回復26%
器用+3【2時間】
細麺を米粒ぐらいに刻んで米代わりに
チャーハン風に仕上げたがチャーハンとはどこか違う
一種の焼きそばとも捉えるかはあなた次第
味の方は……うん、米とは食感が違うから違和感はあるけどチャーハンっぽいな。
「ちょっとトーマ! 一人だけ食べてないで、早く作ってよ!」
作業台をバンバン叩きながらダルクに食事を要求された
カグラとセイリュウとメェナも、同意するようにコクコク頷いてるし。
ついでにカグラは、頷いたのに合わせて胸元がユサユサ揺れた。
「味見くらいさせろ。不味かったらどうするんだ」
「トーマを信じてるから大丈夫!」
ダルクの宣言に再びカグラとセイリュウとメェナがコクコク頷き、カグラの胸元は再びユサユサ揺れた。
眼福の方はともかく、お前達のその謎の信頼感はなんなの?
嫌じゃないし嬉しいから、張り切って皆の分もガンガン作るけど。
あっ、飯の後はログアウトするまでの間に麺のストックの補充と、どうせ欲しがるだろうからちねり米もどきもストックしておこう。
そうなると小麦粉を購入する必要もあるか。
うん、頑張ろう。




