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未知の食材に悩む


 料理ギルドへ到着したら、そこにはエクステリオと雷小僧だけでなくミミミもいた。

 どうやら二人はβ版の時からミミミと知り合いだったようで、ちょうどこの町にいたから呼んでおいたらしい。

 理由は連絡した熟成瓶の件が未知の情報だから、とのこと。

 なお、ミミミがこの町にいた理由が俺への情報料の支払いなのも、待ってる間にミミミから聞いたそうでどんな情報を売ったんだよと笑いながら言われた。


「さあ、話を聞かせてちょうだい!」


 目を爛々とさせて顔を近づけて迫るミミミは、笑顔なのにちょっと怖い。

 ひとまず落ち着かせ、先に依頼の完了報告を済ませて報酬を受け取ったら、談話スペースで牧場での出来事を説明して熟成瓶を見せる。

 勿論、情報が漏れないようボイチャを使ってだ。


「確かに熟成瓶ね」


 瓶を手にしたミミミは真剣な眼差しで見つめる。


「こんなのを貰えるなんて知らないぞ」

「この前の集まりに参加してそれをやった奴らも、牛乳以外は貰わなかったってよ」


 ということは、現状で俺しか入手していないかもしれなのか。


「雷小僧、その人達が作った料理を確認してくれる?」

「分かった」

「トーマは最初から最後まで、もっと詳しく説明してちょうだい」

「ああ」


 最初から最後までと言うから、依頼を受けた時点から再度説明していき、作る料理を決める時の考えまで含めて作った料理を教え、熟成瓶を貰った流れもできる限り細かく説明した。

 その間に雷小僧から、他はエクステリオと同じクリームスープを作ったと聞かされた。

 それらを聞いたミミミは腕を組み、目を閉じて考え込む。


「ねえ、ちょっと確認したいんだけど」


 目を開けたミミミが尋ねる。なんだろうか。


「子供達が普段食べてる牛乳を使った料理は、クリームスープとクリームシチューとグラタン。この三つなのよね」


 組んでいた腕を解いて順番に指を立てるミミミに頷く。


「で、子供達はそれに飽きたと不満を抱いてた」

「そうだ」


 仕様や設定とはいえ、母親へ逆らうくらいは不満を抱いてた。


「だから今回トーマは、チーズ入りの牛乳パンとトマトクリームスープを作ってあげた。間違いないわね」

「間違いない」


 どんなに美味い料理でも、不満のある料理を食べて楽しいはずがない。

 NPC相手でもそれは悪い気がしたから、その二品を作った。


「そして熟成瓶は夫婦からじゃなくて、子供達から貰ったのよね」

「母親の許可は取ったそうだけど、その通りだ」

「分かったわ、ありがとう」


 これで何が分かるんだ?


「これはあくまで推測なんだけど、牛乳入りの料理で子供達を喜ばせたからじゃないかしら」


 うん? どういうことだ?

 ミミミの推測はこうだ。

 牛乳を入手する条件は、台所にある食材だけで牛乳入りの料理を作ること。

 これをクリアするために、エクステリオや前に会った料理プレイヤー達はクリームスープを作り、両親を喜ばせて報酬とは別に牛乳が入手することができた。

 ところが、子供達の方は日頃から食べてるクリームスープとクリームシチューとグラタンには飽きてるから、それを食べても喜ばなかった。

 だけど今回俺が作ったのは、牛乳パンとトマトクリームスープ。

 食べ飽きてる三つの料理とは違う料理を作ったことで、子供達が喜ぶという、発見されてなかった条件を達成。

 子供達がお礼に熟成瓶を渡そうという流れが発生し、熟成瓶を渡されたんじゃないか、ということらしい。


「じゃあエクステリオが作ったクリームスープは、子供達を喜ばせられなかったってことか?」


 雷小僧の言葉にエクステリオが考え込む。


「言われてみれば、美味いとは言っていたがあまり喜んでなかったような……」

「俺の時はめっちゃ食いついてきたぞ」


 パンのおかわりが限られてることに、文句を言ってたくらいだ。


「検証の必要はあるけど、牛乳を貰うだけならエクステリオも知ってる通りのやり方でいいけど、熟成瓶を入手してそれを作った職人さんを紹介してもらうには、それに加えて子供達が飽きてない料理を作る必要があるのかもね」


 ミミミがまとめた推測に異論は無い。

 現状の情報では、その可能性が一番高いと思う。


「ということは、未発見の隠し条件があったってことか」

「くっ、不覚。子供達が文句を言ったのは、それに繋がるための布石だったのか」


 気づかなかったことにエクステリオが落ち込んでる。


「仕方ないわよ。NPC相手にそういう気遣い、普通はしないもの。そういうのを素でやっちゃう、トーマがおかしいのよ」


 酷っ!? おかしい扱いされた!?

 なんで食べてもらう相手を気遣って料理しただけなのに、おかしい扱いされなくちゃならないんだ。


「なんにしても検証が必要ね。知り合いの料理プレイヤーに協力を仰がないと」

「あっ、あの依頼って一人につき一回しか受けられないから、そこは調べておけよ」

「そうなのね。だったら人数が足りない可能性があるから、協力者を紹介してもらうかもしれないわね。その時はよろしく」

「任せておけ」


 検証作業も楽じゃないんだな。

 そう思いつつ、返してもらった熟成瓶をアイテムボックスへ入れてたら、使ったら結果を教えてほしいとミミミから迫られて頷く。

 さらに今回の件の情報料は検証結果にもよるけど、良い値段になるそうだ。

 また金が入ってくるのか。ダルク達のため、なんか美味い食材を買うのに使えないかな。


「どうしよう、前のをようやく支払い終えたばかりなのに、また出費が。でも料理人向けのチェーンクエストの可能性もあるから、調べておかないわけにはいかないし……」


 離れたミミミが急にどんよりした雰囲気を放ちながら、俯いてブツブツ言いだした。

 声が小さくて何言ってるのかよく分からないけど、どうか頑張ってほしい。


「じゃあ、そろそろ行っていいか?」

「ああ、大丈夫だ。貴重な情報に感謝する」

「いいって、同じ料理仲間だろ」

「じゃーなー」


 ボイチャを解除しながらエクステリオと言葉を交わし、雷小僧に手を振ってその場を離れる。

 さて、作業館でダルク達の飯の準備をするか。受け取った食材で分からない物を調べなくちゃならないし。



 *****



 作業館にて作業台を借り、ダルク達から渡された食材で初見かつ、よく分からない食材の情報と味を調べていく。

 対象はオーク肉、リバークラブの鋏と脚、メガリバーロブスターの殻付き身肉。

 それとセイリュウが採取した二種類の木の実とキノコだ。

 生で食べられる物はそのまま、火を通すときは茹でるか焼くかして試食を繰り返す。

 さすがにゲーム内特有の食材は、味を確かめないわけにはいかないからな。

 そうして調べた結果、美味いのもあったけど扱いが難しそうな食材や、中には試食すらためらう食材があった。

 扱いが難しそうなのは二種類の木の実。大きさはどちらも握り拳くらいの楕円形で、緑色をしているサンの実と真っ白なネンの実。




 サンの実

 レア度:1 品質:3 鮮度:76

 効果:満腹度回復2%

 皮ごと食べられる木の実だが甘みは無い

 噛むと酸っぱい汁が飛び出すので注意




 ネンの実

 レア度:1 品質:2 鮮度:74

 効果:満腹度回復2%

 皮ごと食べられる木の実だが甘みは弱い

 果汁に粘りがあって切ると糸を引く




 皮ごと食べられるとあるからサンの実をそのままで食べたけど、食感だけで味が無い。

 そこで生だと味が無かったのを思い出し、急遽受付でオーブンを借りてきて両方の実を温める程度に加熱。

 冷ましてから改めて食べてた。

 するとサンの実は噛んだ瞬間にレモン以上に酸っぱい汁が口の中へ広がって、思わず咽てしまった。

 だけど、使う量に気をつければレモン的な扱いはできそうだ。

 生で食べていなかったネンの実は、粘りがあるというから試しに切ってみると、茹でたオクラを切った時のように実と包丁が粘り気の糸で繋がった。

 それでいて中身は粉みたいになってるものの、食べてみたら味は悪くなかった。

 甘みはそれほどでもないけど、しつこくなくてサラっとした甘さをしている。

 でも粘りのせいで食感が悪い。

 粉のような中身は粘りのおかげで粉っぽくなく、むしろ粘りのお陰で一口目は山芋を食べた時のようにシャリッとした食感になってるけど、噛んでると粘りでぬちゃねちゃした食感に変化して全てが台無しになった。

 味は食べられなくはないけど、食感が問題だから使い道については保留した。

 そして試食すらためらってしまう食材はキノコだ。

 見た目は同じ傘の広い茶色いキノコだけど、食材目利きでこんなのが出た。




 ランダムキノコ【味】

 レア度:1 品質:5 鮮度:69

 効果:満腹度回復1%

 個体によって味が違う

 何味に当たるかはあなたの運しだい




 ランダムキノコ【能力変化】

 レア度:1 品質:4 鮮度:66

 効果:満腹度回復1%

    ??±?【20分】

 食べると能力のどれかが変化する

 強化か弱体か、どれだけ変化するかはあなたの運しだい




 ランダムキノコ【状態変化】

 レア度:1 品質:5 鮮度:68

 効果:満腹度回復1%

    ??状態付与【20分】

 食べると何かしらの状態変化が起きる

 グッドかバッドか、どんな変化をするかはあなたの運しだい




 味のやつはともかく、能力変化と状態変化は怖いわっ!

 というか、こんなのを使った料理を食ったダルク達が、弱体化と悪い状態を付与されたら目も当てられない。

 どんなに美味く調理しても、クレームが入ること間違いなしだろう。

 気は進まないけど、一応味のランダムキノコだけは一つ焼いて試食してみたけど、とんでもなく苦くて水をがぶ飲みした。

 だけど扱いに困る食材ばかりじゃない。

 残る三つ、リバークラブとメガリバーロブスターとオークは当たりだった。

 まずはリバークラブの鋏と脚。

 生食可能とあったから、どうせ味が無いんだろうと分かっていながらも、焼きと茹でに加えて一応殻を剥いた生でも試食した。

 するとやっぱり生だと味がなくてホロホロとした食感しかなく、こんなんだったら刺身はどうなるんだと疑問を抱いた。

 だけどそんな疑問を解決する手段がないから、試食を続行。

 生とは違い、焼きと茹ではどちらも美味くて味と食感が違う。

 焼いたらしっかりとした歯応えのある食感になって味が濃いのに対し、茹でたらしっとりとした柔らかい歯応えになってがサラリとした甘みが口の中に広がった。

 ただ、部位による味や食感の変化は無いようだ。

 次はメガリバーロブスター。

 こちらも生食可能だけど、やっぱり生だと味が無くてホロホロした食感があるだけ。

 対する焼きと茹では、焼きだとプリプリした食感で味に力強さがあって、茹でるとプツプツと歯切れのいい食感で濃い甘みが味わえる。

 これは焼きと茹で、どちらで食べようか迷う。

 そしてトリはオーク肉。

 サシがたっぷり入っていて肉質は柔らかく、部位はバラとヒレとロースの三種類。

 これを部位ごとに焼きと茹でで試食してみると、どれも美味いし部位によって食感や味わいに違いがある。

 だけど、脂が多い点は共通している。


「どこの部位も脂がたっぷりだもんな」


 ダルク達の話だとオークは肥満体だそうだし、その関係で脂が多いのかな。

 ゲームだから脂が多かろうと太らず、健康にも支障が無いのは分かってる。

 でもこれを食べ続けるのはちょっと難しいかな。

 牧場での依頼で子供達が牛乳に飽きたと言っていたように、この肉を食べて続けていたらすぐに飽きそうだ。

 となると、一度の食事で使う量を少なめにするか、それとも脂を落として食べやすくするか。


「どうすっかなぁ……」


 作業台に広げた調べた食材を前に、腕を組んで考え込む。


「おうトーマ、何やってんだ?」


 考え事をしていたら目の前に冷凍蜜柑がいた。

 ちょうどいい、相談に乗ってもらおう。


「実はな……」


 ゲーム特有の食材の扱いについて難儀していることを伝えたら、そういうことなら任せろと胸を叩き、いくつかの食材の扱いについて教えてくれた。

 サンの実の皮は加熱すると爽やかな香りを出すから香りづけに使える、果汁は沸騰しない程度に煮詰めると酸味が弱まる上に冷ませば酢のようになるからマヨネーズやピクルスを作れる。

 ネンの実は皮を剥いてすりおろすことでとろろのようになり、食感が気にならなくなる上にトロミを付けるのにも役立つ。

 そうした貴重な情報を惜しげもなく教えてくれた。

 お礼にボイチャで未検証情報という前置きで熟成瓶のことを伝えたら、さっき雷小僧から届いたメッセージはそういうことだったのかと驚かれた。


「良い情報をありがとな」

「いやいや、こっちだって貴重な情報を教えてもらったんだ。これでなんとか目途が立ちそうだ」

「いいってことよ。同じ料理プレイヤーとして、困った時は助けてやらないとな」


 ニカッと笑う姿は暑苦しさを感じるけど、同時に頼もしさも感じる。


「だが、ランダムキノコはどうしようもないな。本当に運次第だから、現状は運試しや度胸試しに使われるくらいだ」

「だろうな」


 運営はなんでこんな物を作ったんだろうか?


「オーク肉もなぁ。こうも脂が多いと、困るよな」

「同感だ」


 脂が多い、イコール美味いというわけじゃない。

 最初の方は溢れる脂の旨味で凄く美味く思えても、段々と脂の重さで食べられなくなっていく。


「茹でるか煮るかして、脂を落とすしかないかな」

「それならβ版で試したし、本サービスになってからも試したぞ」


 経験者の冷凍蜜柑によると、オーク肉は茹でるか煮るかしたら脂と一緒に旨味が抜けてパサパサになるそうだ。

 どうやらオーク肉は旨味が流れ出やすいようだ。

 ならばとしゃぶしゃぶみたいに薄切りにして、サッと茹でるのを試したそうだ。

 すると旨味は活性化して食感も落ちなかった反面、脂があまり落ちなかったらしい。

 鍋とザルでの即席蒸し器で蒸しても、結果は同じだったとのこと。


「時間を調整したり何かと一緒に茹でたりもしてみたけど、結果は芳しくなかったな」

「だったら、焼くか揚げるか炒めるかしかないか」

「あの脂だぜ? 下手にそんなことをしたら脂っぽい料理になるぞ」


 だよなぁ。思った以上に扱いが難しいようだな、オーク肉って。

 せっかく美味いのに、乗り過ぎた脂が残念だ。

 しかしこうなると、どう調理したものか。

 ほどよく脂を落とすほど茹でるか煮るかすれば、旨味が抜ける上にパサパサ。

 脂だけが抜けやすいのなら、揚げたり熱した油を掛けてたりして補えるけど、旨味が抜けて食感がパサつくのはどうしたものか。

 薄切りにしてサッと茹でれば味と食感はともかく、脂があまり落ちないのがネックだし……。

 いや、ちょっと待てよ。確かあの料理って。


「そうだ、これなら」

「うん? なにか思いついたのか?」


 頬杖をついていた冷凍蜜柑に頷き、思いついた料理を伝える。


「回鍋肉を試してみよう」

「回鍋肉? でもそれって、薄切りの肉をキャベツやピーマンとかと炒めるだけだろ? 脂っぽさはどうするんだよ」

「本場式のやり方なら、可能性がある」

「本場式?」


 首を傾げる冷凍蜜柑を前に、鍋の水を取り替えて火に掛けたら、オークのバラ肉を薄切りにしていく。


「回鍋肉の本場、四川では茹でた豚肉を焼いてから炒めるんだよ」

「そうなのか?」


 祖父ちゃんから教わった知識によると、同じ肉が何度も同じ鍋を出入りするのを回すって表現したから、回鍋肉って名付けられたらしい。

 この場合の鍋とは、言わずもがな中華鍋のことだ。

 茹でることも焼くことも炒めることも、これ一つでできるからこそ誕生したのかもしれない。

 調理の流れとしては、豚肉の塊を鍋で茹でて薄切りにして、お湯を捨てた鍋で焼き目が付くまで焼いたら一旦鍋から下ろし、鍋に残った肉から出た脂で野菜を炒め、頃合いを見計らって下ろしておいた肉を加えて味付けをする。

 茹でた肉を一度焼かずに最初から炒めて、脂が出てきたら野菜を加えて炒め続ける方法もあるそうだけど、どちらにしろ同じ鍋で同じ肉を複数回調理するのは変わらない。

 とにかく同じ鍋で同じ肉へ複数回火を通すからこそ、回鍋肉なんだとか。


「じゃあ、俺がさっき言った回鍋肉は?」

「日本人の口や食文化に合わせた、日本風の回鍋肉だって教わった」


 最後のニンニクを薄切りに、ネギを一口大に斜め切りにしながら質問に答える。

 本場では葉ニンニクを使うそうだけど、葉ニンニクどころかニンニクの芽も無いから今回は無しでやろう。

 ついでに言うと、本場では肉がバラじゃなくてモモを使うんだけど、オーク肉の中にモモが無いからバラで勘弁。


「薄切り肉をサッと茹でても脂が残るんだろ? だったら」

「みなまで言うな。俺も料理プレイヤーだから分かる。サッと茹でたのを焼けば、茹でと焼きの二段階で脂は外へ出るし、焼いたことで旨味は閉じ込められ香ばしくもなる。さらに外へ出た脂は、野菜を炒めるのに使うから野菜に脂の旨味を纏わせることもできる」


 正解。ドヤ顔を決めた冷凍蜜柑の言った通りだ。


「そういうこと。さすがだな」

「いやぁ、それほどでも」


 照れる冷凍蜜柑を横目に準備は完了。

 まずは沸いたお湯で、薄切りにしたオークのバラ肉を茹でる。

 本場式なら塊で茹でるところだけど、長時間茹でないから少しでも脂を抜けやすくするため、今回は薄切り状態で茹でる。

 茹でたオーク肉は油切り用の網を乗せたバットの上へ置いて、お湯を切ると同時に流れ出る余分な脂も落とす。

 茹で終わったらコンロに置いておいたフライパンを熱して、茹でたバラ肉を焼く。

 肉は外へ出た脂が覆ってるような感じだから油は敷かず、そのままで焼こう。


「良い匂いが――」

「脂っぽいオーク肉を――」

「どうだろうな?」


 肉の焼ける匂いで周りがざわつき出したけど、そっちよりも調理に集中だ。

 表面に焼き色が付いた肉は再び油切り用の網を乗せたバットへ移し、ここでまた余分な脂を落とす。

 そしてフライパンに残った脂へ、まずはニンニクを入れて香りを出し、続いてネギを入れて炒める。

 ニンニクとネギにも火が通ってきたら、ここで肉が三度目の登場。

 フライパンに加えて肉とネギとニンニクを馴染ませるため軽く炒め、最後に塩と胡椒で味付けをして完成。


甜麺醤てんめんじゃんが無いのが残念だな」

「回鍋肉は肉へ複数回火を通せば成立するから、味付けは甜麺醤でなくてもいいんだってさ。ぶっちゃけ、合うなら野菜もなんだっていいって話だ」

「へぇ、そうなのか」


 皿へ盛りながら祖父ちゃん仕込みの教えを伝える。

 さあ、現実で祖父ちゃんと父さんに教わって何度か作ったことがある本場風回鍋肉だけど、オーク肉ではどうだ?

 そして肝心のオーク肉の脂っぽさはどうなった?




 オーク肉の回鍋肉 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:3 品質:8 完成度:89

 効果:満腹度回復38%

    HP最大量+30【2時間】 腕力+3【2時間】

 茹でて焼いて炒めた本場流の回鍋肉

 茹でたのと調理の合間に脂を切ったためしつこさはありません

 熱されて甘く香ばしくなったオーク肉の脂が、肉と野菜の旨味を膨らませる




 情報にしつこさは無いってあるけど、実際に食べたらどうか。

 美味そうと言いたげな表情で口の端から涎を垂らす冷凍蜜柑をしり目に、一口味見。

 美味い。肉もネギも、そして脂も美味い。

 それでいて茹でて焼いて合間に脂を切ったから、しつこさは感じない。

 これだったらいくらでも、とまではいかないけど結構な量を食えそうだ。


「ど、どうなんだ?」

「美味い。しかもこれなら量も食えそうだ」


 仮に今の量の倍にしても、食いきれる自信がある。


「そりゃなによりだ。そうか、軽く茹でたのを焼くか炒めるかすればいいのか」

「この本場式の回鍋肉の作り方をベースにすれば、他の料理も作れるかもな」

「よし、すぐにやってみるぜ! まずは戦闘職の知り合いに連絡して、オーク肉を取ってきてもらわなくちゃな!」


 やってやるぜと駆けていく冷凍蜜柑を見送り、回鍋肉をアイテムボックスへ入れておく。

 さてと、ちょうどいいからダルク達の食事も回鍋肉にするか。

 それと米は無いけど、代わりに焼きうどんでも作っておこう。

 そうだ。ならいっそのこと、回鍋肉のように肉から出た脂で焼きうどんを作ろう。


「こんな時間なのに腹が――」

「くそっ、近所にはラーメン屋しか――」

「どこかに中華屋は――」


 なんか周りが騒がしいけど、気にせず回鍋肉と焼きうどんの調理に取り掛かる。

 それとダルク達が米が欲しいって煩いから、代わりに麺を出せるように切った状態でアイテムボックスへストックしておこう。

 ついでに熟成瓶へオークの肉を入れておくか。

 熟成してなくてあの味なら、熟成したらどんな味になるか楽しみだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この話見ちゃうと料理人の話題が主人公に偏ってる状況にちょっと違和感感じるかなぁ 多分スポット当たってる範囲の問題なんかな? 最初はたまたまゲームが求める水準の料理ができる奴が抽選に通…
[一言] 脂が多いならラードの代わりにできるかも それでとんかつを作るといいかも
[一言] そのお肉なら、東坡肉も良さげ。 個人的にはトンテキや、帯広の豚丼、しょうが焼きも良いなぁ。お腹空いてきた
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