具沢山
フォースタウンハーフムーンへの道のりも危なげなく進んでいく。
土地神のガーディアンバットと遭遇した洞窟を抜け、祈祷スキルで減った戦闘もダルク達とイクト達の活躍で難なく切り抜け、日が落ちる前にフォースタウンハーフムーンへ到着した。
「予定通りとーちゃーく!」
「「とーちゃーく!」」
「フォースタウンハーフムーンよ、私は再びやってきたぞ!」
到着に騒ぐマーウにつられ、イクトとネレアとダルクも声を上げた。
周りにいる人の迷惑になりかねないから、イクトとネレアに注意する。
ダルクへの注意? メェナに頼んだ。
「では、ここからはしばし観光ですね」
「どんな海産物があるか、楽しみっす!」
ソワソワするアルテミスとディーパクトが、今にも駆け出しそうだから、合流場所と時間を決めて解散。
ダルクとマーウとお目付け役のメェナ。
カグラとセイリュウとアルテミスとルナ。
俺とイクト達とディーパクトとむらさめ。
この三チームに分かれて行動する。
むらさめが俺に同行するのは、異性ばかりの中に男一人でいられないのと、単独行動は不安だと言うからだ。
「食材を扱う店を見て回るつもりだが、むらさめも気になる店があったら言ってくれ」
「うん、ありがとう」
友達なんだから、当たり前のことを言ったまでさ。
おっと、早速食材を扱う店を発見だ。
二人とイクト達と共にそこへ寄り、並んでいる海産物を説明する。
「この虹色の魚はなんっすか、先輩!?」
「レインボーサバだな。脂がのって美味いし、値段も安価だからオススメだ」
「トーマ君、この古代魚みたいな大きな鱗の魚は?」
「フルアーマーフィッシュだ。鱗を取るのが大変だけど、歯応えのある白身で煮ても焼いても揚げても美味いぞ」
砕いた氷の上に並ぶ数々の魚貝類。
それらに興味津々なディーパクトとむらさめは、情報を確認すれば分かることすら忘れ、これは何かと次々に尋ねてくる。
朝市ほどではないとはいえ、どれも鮮度は悪くない。
「まーたー、どのおさーなかう?」
魚貝類大好きなネレアが、目を輝かせている。
そうだな、晩飯用に買っていくか。
手持ちの野菜から作る料理を考え、それに合った食材を購入していく。
フルアーマーフィッシュ、ハイスピンホタテ、エルダーシュリンプ、コバンオイスター。
あとは初見のカンロシーバスと、今後のためにレインボーサバとストーンクラムも購入した。
カンロシーバス
レア度:4 品質:5 鮮度:71
効果:満腹度回復3%
白身の身肉にほんのりと甘味がある不思議なシーバス
生でも甘く感じるが、加熱した方が甘味をより感じる
嫌味な甘さではないのだが、何故甘いのかは不明
これはおそらく、甘露から取った名称なんだろう。
身肉自体に味が有るのなら、味付けはそれに合わせた方がいいな。
「それで先輩、これで何を作るんっすか?」
「海鮮鍋でもどうかと思っている。出汁は魚の骨とエルダーシュリンプの殻で取って、濾した後に乾燥させたハイスピンホタテとコバンオイスターで再度出汁を取りながら、具材を煮る」
具材は購入した魚や貝の他、ポッコロとゆーららんから受け取った変異野菜を使う。
マダラニンジン、ターゲットシイタケ、ピリピリネギ、スンヅマリモドキダイコン。
それと新しく入手した白菜の変異野菜、白い部分が黄色で緑や黄色の部分が赤という、炎のような色合いをしたメラメラハクサイがある。
この野菜の特徴は加熱に強いことで、煮込んだり炒めたりしてもシャキシャキした食感が残り、淡い甘味が特徴。
さらに熱い状態を長く保つ効果もあり、出来立てでなくともある程度の温かさを保ち、食べると体が温まってくる。
これを見た時は、冬の鍋に是非入れたいと思ったよ。
なお、締めはうどんを入れる予定だ。
「うん? なんで骨や殻と一緒に煮込まないんっすか?」
「煮込んで戻れば具材にもなるからだよ。だから一度濾してガラを取ってから、加えるんだ」
せっかく具材にもなるのに、他のガラと一緒に処分するのは勿体ないし、濾した後でガラの中から回収するのは大変だ。
それなら後から加えて改めて煮込んだ方が良い。
出汁を取って、それを使ってさらに出汁を取るやり方は昔からある。
それを応用した形だな。
「なるほど。そういうことっすか」
「追いガツオ、みたいな感じだね」
「近からずも遠からず、かな」
とりあえず会計を済ませ、改めて町を巡る。
ディーパクトと食材を見たり、むらさめが気になる素材を見たり、イクト達が屋台の料理に興味を示したり、後日海で遊ぶためにネレアとディーパクトとむらさめの水着を買ったりする。
うん? そのままの服装で海から出てきたネレアに水着はいるか?
まあ一人だけ仲間外れは悪いし、こういうのは空気を読んで買わなくちゃな。
ただな、ネレア。本当にスクール水着でいいのか?
「ますたぁ、またうみであそぶの?」
「今日じゃないけどな」
「別に構わないんだよ。その後はまた、バーベキューするんだよ?」
「ばーべきゅー、するの!?」
そういうところは覚えているんだな、ミコト。
しかもイクトが早くも乗り気だし。
とりあえず、これについては後で皆に相談しよう。
たぶんというかほぼ確実に、やることになるだろうがな。
「分かった、その時は魚貝類を豊富に使った海鮮バーベキューをしよう」
「それ、いー!」
魚貝類大好きなネレアが、海鮮バーベキューに強く反応した。
まあ俺も海でバーベキューをするなら、肉よりも魚貝類の方が良い。
せっかく海にいるのに、海の物を食わない手はないもんな。
「さて、そろそろ作業館へ行って晩飯の準備をするか」
「うっす!」
むらさめも了承してくれたから作業館へ向かう。
ダルク達と別れる前に決めた通り個室を借り、手元に残した素材で生産作業をするため作業場の作業台を借りたむらさめと一旦分かれる。
借りた個室で準備を整えたら、イクト達に見守られてディーパクトと共に調理に取り掛かる。
「ディーパクト、先にシロップを仕込んでもらっていいか?」
「何かデザートでも作るんっすか?」
「まあな」
予め言っておくと甘味の権化たるカグラが騒ぐから、秘密にしていたデザート作り。
皆にもその時まで秘密におくよう、強めに言っておく。
イクト達もディーパクトも了承してくれたが、くれぐれも気をつけてくれよ。
「作り方は砂糖を加えた水を加熱して、沸騰手前で火を消して冷ますんだ。混ぜるのを忘れるなよ」
「了解っす」
頷いたディーパクトに水と砂糖の分量を伝え、自前の大鍋でシロップ作りに取り掛かってもらう。
何故大鍋かって?
人数が多いし、甘味の権化がたくさん食べそうだからだよ。
さて、こっちも作業をしよう。
フルアーマーフィッシュとカンロシーバスを捌き、臭み取りのため頭と骨に塩を振り、エルダーシュリンプの殻を剥き、頭と骨に浮いた水分を洗って落とす。
水を張った大鍋へ頭と骨と殻を入れて火に掛け、出汁を取っている間にフルアーマーフィッシュとカンロシーバスの身を切り分け、エルダーシュリンプの身と共に塩を振っておく。
臭みの元の水分が出るまでの間に、ハイスピンホタテとコバンオイスターの殻を剥き、身を洗ってから乾燥スキルで干し貝柱と干しガキのようにする。
これらは一旦ボウルへ入れておいて、魚とエビに浮いた水分を洗い流す。
「先輩、シロップの仕込み済んだっすよ」
掛けられた声にそっちを見ると、ディーパクトが湯気の立つ鍋を作業台に敷いた布巾の上に載せていた。
あとは冷めるのを待てばいいから、次を頼もう。
「じゃあ野菜を切ろう。ディーパクトはピリピリネギとマダラニンジンを頼む」
「うっす」
切り方を伝え、俺はメラメラハクサイとターゲットシイタケとスンヅマリモドキに取り掛かる。
合間に鍋に浮いた灰汁を取りつつ、ターゲットシイタケの石突きを取って傘と茎を切り分け、スンヅマリモドキを厚めの半月切りに、メラメラハクサイの葉をざく切りに。
スンヅマリモドキの葉とメラメラハクサイの芯も、忘れずに切り分けておく。
「先輩、終わったっす」
「じゃあお湯を沸かして、この麺を軽く茹でてくれ」
一旦手を止めてアイテムボックスから麺を出し、バットの上に並べてディーパクトへ渡す。
「ということは、締めはうどんっすね」
「そういうことだ。軽く下茹でくらいでいいからな」
テボを渡して短めの茹で時間を伝え、湯切りしたらアイテムボックスへ入れるのを忘れないように言ったらあとは任せ、野菜の切り分けと灰汁取りを続行。
途中で粗熱が取れたシロップを冷却スキルで冷まし、鍋ごとアイテムボックスへ入れる。
「ますたぁ、そのあまいのはどうするの?」
「後でフルーツポンチを作るのに使う」
フルーツトレントから果物が手に入ったし、ポッコロとゆーららんが育てた果物も受け取ったからな。
「どんなのか楽しみなんだよ」
「それよりおさーな、はーくたーたい」
ネレアは甘い物よりも魚が優先なんだな。
これをカグラが聞いたら、どんな反応をすることか。
その様子を思い浮かべつつ、切り分けた野菜を別々にボウルやバットへ置き、鍋からお玉で小皿へ少量取って味を確認。
……うん、生臭さの無い良い味だ。
淡麗系のようなスッキリした味わいだけど、しっかり芯が通っていて軸がはっきりしている。
「先輩、麺の下茹でと湯切りが終わったっす」
「じゃあガラを取るのを手伝ってくれ」
「うっす」
同じ大きさの鍋に布を張って紐で固定し、そこへ出汁を注いでガラのみを取り除く。
ガラは紐を外した布で包むようにして回収したら処分し、空になった鍋はディーパクトに洗ってもらい、出汁入りの大鍋を火に掛けて乾燥させたハイスピンホタテとコバンオイスターを投入。
ここまでくれば、あとはゆっくりやれる。
「さて、フルーツポンチの仕込みも始めようか」
手が空いたうちに、アイテムボックスから果物と木の実を取り出す。
フルーツトレントから入手したのは、桃とミカンとブドウとイチゴとキウイ。
ポッコロとゆーららんから渡されたのは、コンの実とシュトウとシュウショウとブルットとサザンクロスオレンジとワイバーンチェリー。
これらのうち、やりやすい物の仕込みをディーパクトに頼み、ついでにコンの実の下ごしらえのため鍋でお湯を沸かしてもらう。
切り方を教えつつ、鍋に浮いた灰汁を取って干しハイスピンホタテと干しコバンオイスターが戻ってきたら、火が通り難い順に野菜を加えていく。
煮込んでいる合間に果物と木の実の仕込みを手伝い、コンの実やシュトウといったUPO独自の食材の仕込み方を教える。
「そのデカいトウモロコシの粒みたいなの、爆発するんっすか!?」
「だからこうして、加熱前に切れ込みを入れておくんだ。爆発の規模は不明だが、くれぐれも試すなよ」
少なくとも茹でている熱湯が周囲へ散って火傷しかねないし、下手をすれば鍋がどうなることやら。
「当然っすよ! それを聞いて試そうなんて思わないっす!」
ならば良し。
海鮮鍋の様子を確認しつつ、皮を剥いたり種を取り除いたり一口大に切り分けたりと、果物と木の実の処理を進めていく。
処理をした果物と木の実はシロップへ漬け込むため、熟成瓶の中へ偏りがないよう分散して入れていく。
人数が増えたことに対応するため、転送配達で買い足したから数はバッチリだ。
ちなみにディーパクトには熟成瓶の効果を伝えてあり、これがあれば移動しながら漬け込みが出来るんっすね、と興奮気味に反応していた。
なんでも亡くなった祖母が作る魚や肉を浸け込んだものが絶品で、すっかり好物になってしまったんだとか。
それを聞いた以上は、後日作ってやろうと思った。
「シュトウはこっちが果肉だ。他は渋皮だから、間違えるなよ」
「教わらなければ普通に間違えそうっすね」
俺も教わった時、そう思ったよ。
かつての気持ちを思い出しながら、シロップ入りの鍋を出し、そこへ下処理したコンの実を切り分けた際に出た果汁を少しずつ加え、味見しながら調整。
残った分は皮を剥いたサザンクロスオレンジと共に魔力ミキサーへ入れ、混ぜ合わせてジュースにする。
サザンクロスコンジュース 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:7 完成度:95
効果:給水度回復13%
MP最大量+40【2時間】 知力+4【2時間】
運+4【2時間】
コンの実の果汁にサザンクロスオレンジを加えたジュース
サザンクロスオレンジに足りない満足感をコンの実の果汁がカバー
適度な酸味が重さを軽減してベストマッチ
味見をしてみると、説明の通りに満足感がありつつも重すぎない甘さと酸味が良い。
これもフルーツポンチと一緒に、食後に出すとしよう。
「「じー」」
イクトとネレアから味見したいって眼差しで圧が掛かっているが、頑張ってスルーしよう。
「先輩、フルーツを熟成瓶へ入れ終えたっす」
「ならあとは、シロップを入れて漬け込むだけだな」
俺は鍋の方をやらなくちゃならないから、熟成瓶へシロップを注ぐのはディーパクトに任せた。
さすがに鍋を持ち上げて直接、というのは難しいからお玉で注いでもらう。
「まーたー、おさーなどー?」
「だいぶ出来てきたぞ。あとは味付けして、もう少し煮込めば完成だ」
灰汁を取り切った鍋から出汁の良い香りが漂い、豊富な具材が煮えている。
いかにも美味そうだけど、だからこそ味付けに失敗したら台無しだ。
それを決めるため、具材を煮込んだ出汁の味を確認しようと小皿に取って味見する。
へえ、こうなるのか。
コクが強くなって豊かな味わいがするのに、味が喧嘩することなく調和してまとまり、とても良い味わいになっている。
これを活かすなら主張の強い味噌じゃなくて、醤油か塩だな。
締めのうどんと合わせることを考慮し、醤油で味付けしよう。
醤油と少量の酒を加えて味を調整してさらに煮込む。
「先輩、こっち終わったっす」
「ありがとうな。あとは食後に提供するまで、アイテムボックスで漬け込もう」
食後での提供なら漬かった状態になるだろうし、フルーツポンチを仕込んだ熟成瓶をアイテムボックスへ入れ、醤油の風味を消さないよう火加減に注意しながら鍋を調理する。
その間、イクト達には飯に備えて全員分の椅子を用意してもらい、ディーパクトには片付けられるものを片付けてもらう。
それからしばし雑談しながら調理を続け、頃合いを見計らって味を確認。
……うん、汁は良い味をしている。
魚貝と野菜による豊かで柔らかな味を醤油が損なうことなく、その風味で出汁の風味を引き立てている。
さらにメラメラハクサイとカンロシーバスを味見。
ほんのり甘味があるカンロシーバスは、ほのかに感じる優しい甘味と出汁の味が合わさって美味い上に、身もホクホクする。
メラメラハクサイは加熱調理に強いようで、しっかり煮込んだのに食感はシャキシャキでジワーッとくる淡い甘味が、しっかり吸収されている出汁の味わいと合っている。
熱々海鮮鍋 調理者:プレイヤー・トーマ、ディーパクト
レア度:6 品質:6 完成度:79
効果:満腹度回復34% 給水度回復10%
火耐性付与【中・1時間】
しっかり煮込まれた海鮮の旨味が詰まった鍋
多種多様な変異野菜も出汁を吸って絶品
醤油の風味が具材や出汁の味を引き立てる
完成度がさほど下がらなかったのは、ディーパクトのやったことが野菜を切ることだけだからかな。
まあ味が良いから、そこら辺は深く考えなくていいか。
「よし、完成だ。あとは皆が集まるまで、ちょっとしたものを作っておこう」
「ちょっとしたものっすか?」
そう、ちょっとしたもの。
今すぐに使うわけじゃないが、いずれ使うことになるものだ。
鍋をアイテムボックスへ入れたらサンの実を出し、皮を剥く。
皮を剥いたサンの実をディーパクトに絞ってもらい、皮はアイテムボックスへ。
果汁で何をするのか説明して後を任せ、俺はブルットとワイバーンチェリーを仕込む。
両方を房から外し、ブルットは皮も種も魔力ミキサーにかけて刻み、ワイバーンチェリーは種を取り除いてから魔力ミキサーにかけ、別々の醸造樽に溜めてワインを作る。
「ますたぁ、すっぱいのできたみたい」
イクトに呼びかけられ、加熱が済んだサンの実の果汁を冷却スキルで少し冷やして味見。
ん、良い感じに酢みたいなのになったな。
「普通の酢と比べて爽やかな感じっすね。果汁だからっすか?」
「おそらくな」
次は卵と脂と塩、そして出来立ての酢のようになった果汁を使い、魔力ミキサーでマヨネーズ作り。
さっきディーパクトも言ったけど、普通の酢で作るよりサンの実の果汁による酢を使った方が、後口がさっぱりして爽やかな風味がするから、こっちで作らせてもらう。
「マヨネーズって、卵黄だけで作るんじゃないっすか?」
マヨネーズ作りの最中、ディーパクトからの質問が飛ぶ。
「全卵を使っても大丈夫だ。濃厚にしたいなら卵黄だけ、あっさりさせたいなら全卵だ」
今回はサンの実の果汁による酢を使うから、よりあっさり感を出したくて全卵にした。
「やっぱり使い方も変わるんっすか?」
「濃厚なのはサラダ向きで、あっさりなのは炒め物向けだ」
だからサラダよりも、マヨネーズ炒めやエビマヨといった料理を作ろうと考えている。
なるほどと頷くディーパクトを横目に、完成したマヨネーズを味見。
うん、今回も良い出来だ。
これを空き瓶へ移していると、メェナとセイリュウからそろそろ向かうとメッセージが届いた。
なら、こっちもすぐに飯に出来るよう、準備しないとな。
でもその前に、下で作業中のむらさめを呼んでおこう。




