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第二陣参入


 土曜日の朝を迎えた。

 いつもと同じ時間に起きて店の仕込みを手伝う。

 少しして母さんと祖母ちゃんが来て、カウンターとテーブルの拭き掃除と消毒をする。


「おはようございます」


 仕込みをしていると、店先の掃除をしに行った母さんと入れ代わりで、ヘッドディスプレイ入りの鞄を手にした静流が現れた。

 理由は午前のログイン終了後、すぐにバイトへ入れるようにするためだ。

 ログアウト後にバイトへ出勤だと、移動時間を考慮して早めに切り上げる必要があるが、こうすることでログイン時間を長めに確保して静流はバイトに遅れずに済むとのこと。

 考案者は勿論、こういうことには知恵も根回しも利く早紀だ。


「おはよう。早めの時間だけど、大丈夫か」

「普段の起きる時間とそう変わらないから、大丈夫だよ」


 カウンター越しに挨拶をすると、微笑んで返事をしてくれた。

 関係が変化したせいか、ただの微笑みがやたら眩しく見えるし、バイトに備えた飾り気の無い私服姿が下手に着飾った格好よりも良いと思える。

 そういえば静流と付き合うことになったと伝えた日、健と山本から恋人ができると恋愛フィルターが掛かって今までより良く見える、と言われたっけ。

 なるほど、これがそれなのか。


「じゃあ、もうすぐ約束の時間だから抜けるよ」

「おう。楽しんでこい」


 家族に見送られて静流と自室へ。

 緊張気味にソワソワする静流と準備を整えたら、ログイン中の体勢に入る。

 一人の時はベッドで横になっていたが、二人でそれはさすがに無理。

 前回もどうするか議論し、辿り着いた結論は二人で床に座ってベッドに寄りかかる。

 俺の部屋にソファーなんて上等な物は無く、置くにしてもスペース的に不可能。

 二人でベッドに寝転がるのも色々な意味で出来ないから、こういう形に落ち着いた。


「しっかり水分取っておけよ」

「勿論」


 座布団を敷くとはいえ、長時間座った体勢でいると血行に良くないから、ログイン前はしっかり水分補給。

 事前に用足しも済ませて準備は完了。

 二人で床に座ってヘッドディスプレイをかぶる。

 この前は付き合う前とあって少し距離を空けたが、今は付き合っているのだからと静流が主張し、並んで座ることに。

 そしていざログインしようとしたところで、空いている手を重ねられた。


「なっ」

「いいでしょ、これくらい」


 ヘッドディスプレイをかぶっているとはいえ、にっこり笑う静流を前に否定なんてできず頷く。

 静流も静流なりに勇気を出しての行動なのは分かるが、今後も主導権を握られて頭が上がらない気がする。

 まあうちの場合、祖父ちゃんと父さんも祖母ちゃんと母さんに頭が上がらないから、それもそれで悪くないか。


「じゃ、行くか」

「うん」


 互いにスイッチを押してUPOへログイン。

 意識が沈み込む感覚の後、視界が切り替わってファーストタウンの広場が映る。

 広場は多くの人でごった返しているが、誰が第二陣で誰がそうでないのか分からない。


「ますたぁ」

「まーたー」

「マスター」


 隣に立つセイリュウと周囲を見ていると、イクト達が登場。

 ジャンプして飛びついてきたイクトを受け止め、飛びつくように脚にしがみついてきたネレアの衝撃に耐え、一人引っ付いてくることなく歩み寄ってきたミコトが頭を向けてきたから、片腕でイクトを抱えて撫でてやると無表情ながら嬉しそうに「むふー」と鼻息を吹いた。


「なんだあいつ、子供連れで」

「姉弟姉妹でUPOやってんのか?」

「アホ、あの子達のマーカー見ろよ。プレイヤーじゃないだろ」

「あのマーカーはテイムモンスター? ああいう可愛い子達もいるのね」

「ということは、あいつは第一陣か。隣にいる第二陣のチビエルフを迎えに来たのか?」


 誰かの少々心もとない言葉にセイリュウの表情がムスッとする。


「言わせておけ。少し注意してみれば分かることも怠ったんだ、向こうが悪い」


 イクトを下ろすために屈みながら、小声でセイリュウへフォローを入れる。

 頭上にはマーカーの他、プレイヤーの名前とレベルが表示されている。

 その表示内容をしっかり見れば、今日からログインしている第二陣でないのはレベルから察することができるのに、それをやらずに見た目だけで判断したのが間違いだ。


「ありがとう」


 フォローの甲斐あって表情が戻り、お礼に頷いて返す。


「あっ、いた。おーいトーマ、セイリュウ、お待たせ」


 どこからかダルクの声が上がり、直後に人込みの中からカグラとメェナを伴って現れ、後ろからさらに三人が付いて来ている。


「別に待っていないから、気にするな」

「ところで後ろの三人が?」

「うん、そう。あの三人」


 個人情報に触れないよう、実際の名前を出さないよう気をつけたやり取りを聞きながら、後ろの三人へ目を向ける。

 服装や髪の色は変わっても、顔の造りや髪型は同じだから誰が誰なのかはすぐに判断できた。


「やっほー。今日からあーしもよろしく」


 明るい笑みで逆さのピース、いわゆるギャルピースを決めたのは山本。

 白めの金髪は細リボンでまとめられ、髪と同色の毛に覆われた犬系のタレ耳と尻尾からして、犬系の種族を選んだか。

 職業は服飾関係と聞いていたが、上下灰色のシンプルな半袖シャツと膝丈のスカートに白のエプロンをつけているだけで、聞いていなければ何の職業か分からなかったな。

 こっちでの名前はマーウね。


「バリバリ戦う」


 グッと握った拳でやる気をアピールした狭山は、変化の乏しい表情に少しだけ喜色を浮かべた。

 現実と同様に黒の髪と瞳をして、同じく黒の猫耳と尻尾があるから完全に黒猫だ。

 有言実行とばかりに盗賊を選んだようで、半袖の上着と動きやすそうなズボンにフード付きマントを羽織り、両手には手袋を付けるという如何にも盗賊風の装いをしている。

 しかし名前がルナとは、やっぱり自分の名前を気にしているのか?


「うぅ……人が多いなぁ……」


 腰を少し曲げて俯き気味の姿勢で、ソワソワと周囲を見回しているのは晋太郎。

 髪と瞳の色は薄茶色で、同色の毛に覆われた頭上の耳と尻尾は猿のもの。

 器用な種族を選びたいって言っていたから、それで猿人族を選んだんだろう。

 服装は出会った頃の玄十郎と同じツナギ姿だが、色は晋太郎らしく地味な薄い灰色で、頭には紺色のバンダナを巻いている。

 こっちでの名前は平仮名でむらさめ。


「よく来たな。今日からよろしく」

「う、うん。トーマ君」


 知り合いの俺から声を掛けられ、むらさめの表情に安堵感が浮かぶ。

 瑞穂さんによると、バイト先ではまだまだ人見知りをしているようだが、少しでも改善してくれることを願う。


「ますたぁ、このおにいちゃんだれ?」

「まーたーのおとーだち?」

「あっちのお姉さん達もお友達なんだよ?」


 初対面のイクト達が三人へ興味を示す。

 するとイクト達を見たマーウが、喜色満面の笑みになった。


「なにこのかーいー軍団! えっ、これがダルク達に聞いていた、トーマのテイムモンスター!? マジでかーいーしか勝たんな子達なんだけど!」


 一瞬でテンションがマックスに至ったマーウが、勢いそのままにイクト達へ近づいて目を輝かせる。

 その勢いにイクト達の方が気圧され、イクトとネレアは俺の背後に隠れ、ミコトは無表情で警戒を露にした。


「マーウ、驚いているから落ち着く」

「あははー、そうみたいだねー。ごめんね、君達。お姉ちゃん、怖くも悪くもないから安心して」


 ルナに宥められたのとイクト達の様子から、過剰に反応していたことに気づいたマーウから謝罪されたが、イクト達はまだ警戒している。


「大丈夫だぞ。三人とも俺達の友人で、悪い人達じゃないからな」

「ほーとー?」


 余った袖からそーっと鎖分銅を伸ばしかけていたネレアが、上を向いて尋ねてくる。

 なあ、まさかそれで攻撃しようとしていたのか?


「本当だ。だから安心しな」

「マスターがそう言うのなら、信じるんだよ」


 素直に応じてくれたミコトが、開いていた装備品の本を閉じた。

 お前も何か攻撃行動をしようとしていたのか?


「ますたぁのおともだちなら、だいじょうぶだね」


 大丈夫と分かった途端、イクトが俺の後ろから出てきた。

 一緒に隠れていたネレアも姿を見せ、ミコトは軽く会釈する。


「なにこの、かーいー軍団のトーマに対する信頼は」

「うふふ。トーマ君って面倒見がいいから、どの子も信頼しているのよ」

「あと、美味しいご飯で胃袋を掴んでいるのもある」


 マーウの疑問にカグラが井戸端会議の母親のようなことを言い、セイリュウが一番の理由と思われる推測を告げる。


「日頃からちゃんとお世話しているのが伺える」

「お世話というか、ほとんど子育てだね」


 感心した様子を見せるルナの発言はともかく、ダルクは何を言っているんだ。

 でもイクトとネレアに関しては、そう感じてしまうから否定できない。


「見た目もあって、トーマ君がお兄さんか保護者に見えるよ」

「でしょう? これから合流する仲間の子達もいると、完全にそうとしか見えないのよ」


 苦笑するむらさめはともかく、メェナのそれはどういう意味だ。


「あっ、いた」

「お兄さん、お姉さん達、お待たせしました」


 噂をすればなんとやら、ころころ丸を抱えたポッコロと手を振るゆーららんがやって来た。

 二人の後ろには、帽子をかぶったラーメン屋の店員みたいな恰好をした黒毛の馬の耳と尻尾が生えた活発そうな少年と、マントを羽織った狩人みたいな恰好をした白髪に兎耳が生えた落ち着いた様子の少女がいる。


「またちっこいのが増えたぞ、あそこの集団」

「ていうか女の割合多いじゃねぇか。羨ましいな、あの野郎ども」

「やめなさいよ。このゲーム、ハラスメントに厳しいんだから」


 人数が増えたから、さすがに周囲の注目が集まってきたな。


「あ、あの、あなたがポッコロとゆーららんから聞いた、赤の料理長さんっすか? 自分は――」

「待った。ここだと邪魔になるかもしれないし、全員揃ったから少し移動しよう。自己紹介はその後で頼む」

「えっ? あっ、はい」


 興奮気味に自己紹介しようとした馬の耳と尻尾が生えた少年を宥めると、周囲を見回して頷いてくれた。

 さりげなく頭上の名前を確認したら、ディーパクトとある。


「君もそれでいいかな?」

「ええ、構いませんよ」


 周囲の音を拾っているように兎の耳がピクピク動く少女、頭上に表示された名前はアルテミスの了承も得たため、全員で広場から移動する。

 当然のようにイクトとミコトに両手をそれぞれ繋がれ、残ったネレアは隣を歩くセイリュウと手を繋ぐから、親子とかファミリーって声が聞こえた。

 そんな少し恥ずかしい思いをして移動した先は、公式イベントへ参加する際に開始まで待機していた小さな公園。

 他にプレイヤーはいないものの、一応端の方にあるベンチ近くで自己紹介をすることにした。

 まずは俺達の側から行い、当然ながらイクト達ところころ丸も紹介。

 名前と種族と職業、あと戦闘職の面々は自分の戦い方も伝える。


「えー、以上がギルマスのトーマに美味しいご飯を作ってもらうために頑張るギルド、紅蓮厨師食事隊の現有メンバーだよ」

「あははっ。なにそのふわっとしていそうで食欲に塗れたギルド、マジウケるだけど」

「付き添いで始めたはずのトーマ君が、いつの間にか中心になっているんだね」


 ダルクによって締められた直後、マーウが笑ってむらさめがツッコミを入れる。

 その通りだよ。飯を作るだけのおまけだったはずが、いつの間にかこんなことになっていたよ。


「ということは、私達もそれに所属するんだね」

「その通り!」


 小さく挙手をしてたルナの問いかけにダルクが素早く返事をする。

 勘違いしないよう別に強制じゃないと付け加えるが、新たな仲間となる五人は特に嫌がる様子も無くその場でメンバー入りを表明。

 なんでも、ある程度の話は現実の方で聞いており、UPOを楽しめるのなら問題無いとのことだ。

 というわけで、新たに五人のメンバーがギルド入りし、その自己紹介が始まる。

 あと、仲間内での共有目的でステータスも見せてもらうことになった。


「あーしはマーウ。見てのとーり犬人族で、職業は服飾師だから布や革の装備を作るから、よろしくねー」



 *****



 名前:マーウ

 種族:犬人族

 職業:服飾師


 レベル:1

 HP:11/11

 MP:10/10

 体力:7

 魔力:4

 腕力:5

 俊敏:8

 器用:11

 知力:6

 運:5


 職業スキル

 魔仮針まかしん

 スキル

 裁縫LV1 裁断LV1 縫製LV1

 鞣しLV1 型取りLV1


 装備品

 頭:布の細リボン

 上:布の半袖シャツ

 下:布のハーフスカート

 足:革の靴

 他:布のエプロン

 武器:鉄の縫い針



 *****



 職業スキルの【魔仮針】は、魔力を消費して仮止めの針を生み出すものらしい。

 消費する魔力は僅かだが仮止めにしか使えないため、その針で布や革を縫うことはできないとか。


「だけどさ、お金が無い時は仮止め用の針を買う必要が無いのと、お金に余裕が出て来て買っても足りなくなった時は使えるから、割と便利そうだよ」


 裁縫は家庭科の授業でしかやったことはないが、仮止めの重要性はなんとなくイメージできる。

 余分に針を使うことを考えれば、マーウの言う通り悪いスキルじゃない。


「裁縫と縫製ってどう違うの?」

「ん-と、裁縫が手縫いで縫製がミシンとか使うの。事前に調べたら、魔力ミシンっていうのがあるみたいだから取っておいた」


 魔力で動くコンロやミキサーや炊飯器があるんだから、当然ミシンもあるよな。

 で、型取りが形状を決めるやつで、裁断が切ること、鞣しは革を柔らかくすることか。

 これらを利用して、衣服だけでなく靴も作ってみたいそうだ。


「次は私。名前はルナで職業は盗賊、種族は猫人族。よろしく」



 *****



 名前:ルナ

 種族:猫人族

 職業:盗賊


 レベル:1

 HP:10/10

 MP:7/7

 体力:9

 魔力:5

 腕力:5

 俊敏:13

 器用:12

 知力:5

 運:8


 職業スキル

 仕込み武器

 スキル

 短剣術LV1 奇襲LV1 気配察知LV1

 暗視LV1  投擲LV1


 装備品

 頭:フード付きマント

 上:布の半袖シャツ

 下:布のロングパンツ

 足:革のサンダル

 他:革の手袋

 武器:鉄の短剣



 *****



 名称だけ見れば、なんとまあ物騒なスキル構成だこと。

 職業スキルの【仕込み武器】は、状態異常を誘発する武器の効果が出やすくなるもの。

 奇襲は攻撃時、こっちに気づいていない相手に気づかれにくくするスキル。

 基本的に相手を待ち受けて戦うことが多いから、先制攻撃は頼りにしているとダルク達が言う。

 他には地面に落ちている石でも攻撃に使える投擲、メイン武器の短剣を扱うための短剣術。

 この二つが俺にとっては初見のスキルだが、名前から効果は推測できる。


「いずれは短剣かナイフを投擲して、額か首に突き刺すのが目標」


 嫌な目標を掲げなくてよろしい。


「僕はむらさめ、です。人見知りなところがあるので、お手柔らかにお願いします」



 *****



 名前:むらさめ

 種族:猿人族

 職業:細工師


 レベル:1

 HP:9/9

 MP:9/9

 体力:4

 魔力:10

 腕力:3

 俊敏:3

 器用:15

 知力:8

 運:6


 職業スキル

 装飾

 スキル

 彫刻LV1 石工LV1 木工LV1

 鍛冶LV1 研磨LV1 錬金LV1


 装備品

 頭:布のバンダナ

 上:布のツナギ【上】

 下:布のツナギ【下】

 足:革の靴

 他:革の道具入れ

 武器:鉄の彫刻刀



 *****



 こっちは完全に物作りに振っている。

 職業スキルの【装飾】は金属製か木製か石製の装備品に装飾を施す際、耐久値を低下させずに装飾を施せるようになるそうだ。

 彫刻は模様や柄を刻むスキルで、研磨は表面を磨いて整えるスキル。

 名前のまんまで分かりやすい。


「なあ、どうして石工や木工や鍛冶、それに錬金も取ったんだ?」

「石や木でも細工物は作れるし、鍛冶と錬金があれば自分で鉱石から素材を準備できるからだよ。そ、それに石工があれば、宝石を使う時も役立つらしいから」


 俺が問いかけると皆の注目が集まったからか、少しオドオドしながら答えた。

 なるほど、広い範囲の素材で物を作るためには、これだけのスキルが必要だってことか。

 見た目を整えるという意味では、服飾師のマーウと通ずるものがある。


「おっす! 自分、馬人族の料理人でディーパクトっす! 赤の料理長さん、よろしくお願いします!」



 *****



 名前:ディーパクト

 種族:馬人族

 職業:料理人


 レベル:1

 HP:12/12

 MP:7/7

 体力:9

 魔力:3

 腕力:8

 俊敏:7

 器用:10

 知力:5

 運:5


 職業スキル

 食材目利き

 スキル

 調理LV1 発酵LV1 醸造LV1

 調合LV1 乾燥LV1


 装備品

 頭:布の帽子

 上:布のロングシャツ

 下:布のロングズボン

 足:革の靴

 他:布の前掛け

 武器:鉄の包丁



 *****



 元気よく自己紹介したディーパクトのスキル構成が、初期の俺と全く同じだ。

 なんでもポッコロとゆーららんから話を聞いて、俺と同じにしたらしい。


「これで自分も、料理長さんと同じ調理工程ができるっす!」

「落ち着け。あと、料理長って呼ぶのはやめてほしい」


 やる気が漲りすぎて興奮気味のディーパクトを宥め、呼び方の変更を求める。


「では師匠で!」

「師弟じゃなくて料理仲間なんだから、師匠はやめよう」

「えー、じゃあ先生とかも駄目っすね」


 うん、駄目。

 というかそういう呼び方しないで、普通に名前で呼んでくれればいいのに。


「なら先輩でどうっすか!」

「……まあそれなら」

「じゃあ改めて。よろしくお願いするっす、先輩!」


 やたら熱いな、この子。

 チラリとポッコロとゆーららんを見ると、二人とも苦笑しているからこういう子なんだろう。


「最後は私ですね。兎人族の弓使い、アルテミスと申します。お姉さん方には戦闘で、トーマお兄さんには食事でお世話になります。最初のうちはご迷惑を掛けるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」



 *****



 名前:アルテミス

 種族:兎人族

 職業:弓使い


 レベル:1

 HP:10/10

 MP:7/7

 体力:7

 魔力:4

 腕力:7

 俊敏:8

 器用:9

 知力:3

 運:4


 職業スキル

 速射

 スキル

 弓術LV1  隠形LV1   気配察知LV1

 木登りLV1 立体機動LV1 採取LV1


 装備品

 頭:木のカチューシャ

 上:布のロングシャツ

 下:布のロングズボン

 足:革の靴

 他:布のマント

 武器:木の弓矢



 *****



 落ち着いた口調で固い挨拶を述べたアルテミスは、弓使いだったのか。

 職業スキルの【速射】は戦闘時、アイテムボックス内の矢を自動で手元に出すスキルで、矢筒を背負ったり矢を複数出しておかずとも済むスキル。

 その弓を使うための弓術と、身を隠して相手に気づかれにくくする隠形。

 あとのスキルはなんとなく分かるけど、なんで木登りと立体機動なんだ?


「私の考える戦い方は狩人をイメージしてください。直接対峙して矢を射るのではなく、茂みの中や木の上に身を潜めて獲物を射る感じです」


 落ち着いた表情と口調で説明された戦い方をイメージ。

 物陰に潜んで獲物を射抜く、スナイパーみたいな戦闘スタイルか。


「だから木登り?」

「はい。あとは木々を飛び移って獲物を追尾できるよう立体機動と、木に登れるのなら食材を取れるかもと思い採取を選びました」


 なんだその森林での戦闘に特化したスタイルは。

 草原とか岩場とか浜辺ではどうするつもりだ。


「木や茂みが無い時はどうするの?」

「その時は不本意ながら、普通に遠距離から弓矢で射ります」

「普通に射る方が不本意なの?」

「だって気づかれないよう、隠れて狙い撃ってこそ狩りじゃないですか」


 残念そうな表情と口調でメェナと話すが、狩りだからといって必ずしも隠れて射る必要はないと思うぞ。


「ところで二人は、最初の頃にポッコロとゆーららんが装備していた、私立小学校の制服みたいな装備は選ばなかったの?」


 セイリュウが尋ねたのは、十三歳未満限定で選べるあの装備のことか。

 この質問に対する二人の解答は、「あれは料理向きじゃないっす」「狩りに向いていませんから」と、選ばなかった理由を述べる。

 ゲーム開始時はあの恰好で農業をしていたポッコロとゆーららんを見ると、黙ってそっぽを向いた。

 職業に向いているかいないかより、限定品ってことで選んじゃったのかな。

 ともあれこれで全員の自己紹介が終了。

 副ギルマスの一人だから、という主張をするダルクが主導で担当が振り分けられ、戦闘職のルナとアルテミスが狩猟担当に、料理人のディーパクトが調理担当に、マーウとむらさめは新たに考えたというサポート担当に就任した。


「サポート担当って、何すればいーの?」

「今は無理でも、将来的にテーブルクロスとか食器とか、食べる時に使う物を作ってくれればいいよ」


 少々無理矢理な感じだが、要するに飯を食う時に使う物を作ってくれということか。

 ちなみに採取スキルがあるアルテミスは、セイリュウと共に採取も担当する。

 これで新メンバーの役割は決まり、最後に今回の予定を確認。

 今日の午前中は、戦闘職は冒険者ギルドでルナとアルテミスの登録をしたら町の外で実戦を経験し、生産職はそれぞれのギルドに登録して作業館で実際に作業をする。


「というわけでトーマ、生産職の引率よろしく」

「分かった」


 各ギルドの位置はマップで分かるし、作業館は何度も利用しているからマップを見なくとも行ける。

 そういうわけで、マーウとむらさめとディーパクトを伴い、まずは各々が登録するギルドへ向けて出発した。


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― 新着の感想 ―
最初のアレ、要るかな?って…どういう時代背景なのか知りませんけど。少なくとも、この作品には一切関係が無いかと…(主人公の親世代が~と言うなら微レ存?)
2025/12/02 23:01 一般通過ねこ
ふと、思ったんですが・・・投擲武器として、小さな袋(破裂)する様な小袋に、デバフが発生する粉が入った物を投げるとか良さそうねぇ。風があると周囲にも影響が有るけど...ものによっては対人戦でも役立ちそう…
何だ感だで知り合い達で集まってギルド規模になったか(◡ω◡) 賑やかになったな(´-﹏-`;) この大人数の飯作るのは大変だな〜(ʘᗩʘ’) でも慣れてるんだろ?(゜o゜;
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