お屋敷訪問
宿での就寝を済ませ、今回のログイン二日目の朝を迎えた。
早めに寝たこともあってまだ薄暗い外を歩いて作業館へ行き、いつものように作業台を借りて作業場へ入る。
時間が時間だから、他のプレイヤーはまばら。
その中で借りた作業台で準備を整え、イクト達が正面に陣取って見学の態勢を整えたら、今日の朝飯と昼飯作りの開始だ。
朝飯は雑炊と決まっていて、出汁は昨日仕込んだ物を使うから後に作る。
先に作るべきは、昼飯。
どちらにしても米は使うつもりだから、米を仕込んで魔力炊飯で炊く。
続いてボウルに水を張り、昼飯に使う豆鼓ことトーチーを水に浸しておく。
「まーたー、それなに?」
「トーチーっていう食材だ。塩辛くてこのまま料理の味付けにも使えるんだが、乾燥させていて固いから軽く水に浸して戻した方がいいんだよ」
正面からイクトとミコトと共に見学するネレアの質問に答え、他の食材を仕込む。
ボウソウバのロース肉、ギッチリピーマン、マダラニンジン、辛い縦縞のシマシマタマネギを細切り、パワフルニラをざく切りに。
深い広東中華鍋に油を溜めて火に掛け、水から上げたトーチーを乾燥スキルで表面の水気だけ乾かして細かく刻む。
油が温まってきたら北京中華鍋を火に掛け油をしき、使う分の野菜をジャーレンに乗せて広東中華鍋で油通し。
サッと油に通したら、北京中華鍋で炒める。
「わあ、油通しした炒め物だ」
「これを見ていると、本格っぽい感じがするわね」
セイリュウとメェナの感想を聞きつつ、鍋を振るう。
俺もようやくこれがやれるようになって嬉しいよ。
火が通り難い順に食材を油通ししては炒めている中へ加え、最後に味付けを兼ねて刻んだトーチーを加える。
炒め終わったら皿へ移して全体へ軽く胡椒を掛けて、肉と野菜のトーチー炒めの完成。
肉と野菜のトーチー炒め 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:6 品質:9 完成度:98
効果:満腹度回復14%
HP最大量60%上昇【4時間】 知力60%上昇【4時間】
器用60%上昇【4時間】
塩気の強いトーチーで味付けされた炒め物
トーチーの熟成された塩味により、炒められた食材は一風違う味わいに
油通しをしてあるので、歯応えもしっかりしています
味見の結果は情報の通り。
油通しをしたから歯応えが良く、トーチーの熟成された丸い塩味で肉と野菜の美味さが引き立っており、ただ塩で味付けしたのとは風味が違う。
軽く振った胡椒の辛さが全体をピリッと引き締め、食欲をかき立てる。
使った野菜が全て変異野菜ということもあって、なおさら美味い。
ボウソウバのロース肉もそれに負けておらず、かといって突出して目立っているわけでもなく、上手いこと双方が引き立てあっている。
これができているのも、トーチーの熟成された味わいがあってこそだな。
「トーマ、それがお昼なの?」
「ああ。味見では結構美味かったから、期待していてくれ」
「そう言われたら、お昼じゃなくて今すぐ食べたくなっちゃうじゃん!」
我慢しろダルク。
今食ったら、昼飯が抜きになるぞ。
味見したのは自分の昼用にアイテムボックスへ入れて、全員分のを仕込んでいく。
「ダルクちゃんじゃないけど、美味しそうで食べたくなっちゃうわね」
カグラの呟きに皆がうんうんと頷く。
美味そうに見えるのなら、味がそれを裏切らないように頑張らないと。
集中は切らさず、一つ一つの工程をしっかりかつ手際よくやって全員分の肉と野菜のトーチー炒めを作り上げ、アイテムボックスへの収納も完了。
使った調理器具を洗って油を片付けたら、昼用の飲み物と朝飯の雑炊作りに取り掛かる。
鍋に水を張って火に掛け、その隣で昨夜に仕込んだボーンホースの出汁を土鍋へ移して火に掛け、雑炊に使う野菜を細かく刻む。
マダラニンジン、シャドースピニッチ、甘い横縞のシマシマタマネギ、パワフルニラ、ピリピリネギ、先日の披露会にて交換で入手した鬼の顔の形状をしたオニカブと、普通の大根の半分くらいの長さで倍に太いスンヅマリモドキダイコンと、傘の部分が射撃の的みたいに円状の白と黒の線で彩られているターゲットシイタケ。
オニカブとスンヅマリモドキダイコンは当然、実だけでなく葉の部分も使う。
これらを火が通り難い順に細かく刻み、温まってきた出汁の中へ火が通り難いものだけを加えていく。
「随分と具沢山の雑炊にするんだね」
「出汁が強いから、野菜を多めにして食べやすくするんだ」
雑炊は美味い出汁があってこそだが、出汁が強かったら具材やごはんや卵の存在が薄まる。
かといって安易に水で薄めたら、出汁の味わいが弱まってしまう。
だから野菜を多めに入れることで、その野菜から出る水分や味で出汁の強さを中和して食べやすくする。
豚骨スープのように強い味でも、多くの野菜を一緒に煮こむことで食べやすくできるからな。
そうこうしているうちに、米が炊けて飲み物用に準備していた鍋のお湯が沸いた。
雑炊の方の灰汁を取って火加減を調整し、鍋の火を止め、魔力炊飯器の中のごはんをかき混ぜて雑炊用の分をボウルへ出しておく。
でもって、お湯の中に陳皮ならぬチーピを入れ、蓋をしてしばし放っておく。
「お兄さん、それはなんですか?」
「陳皮茶、ならぬチーピ茶を作るんだ」
「陳皮ってミカンの皮を干した物よね。それでお茶が作れるの?」
「あまりメジャーではないけど、ちゃんと存在するぞ」
火が通りやすい野菜を出汁へ加え、ボウルへ移したごはんを冷却スキルで少し冷ましながら、ポッコロとメェナの質問に答える。
作り方は急須に陳皮とお湯を入れて蒸らすか、鍋で煮出すか。
鍋で煮出しても良かったけど、その作り方だと濃くなる。
皆、初めて飲むだろうからいきなり濃いのはどうかと思い、急須の代わりに蓋をした鍋で抽出することにした。
「ますたぁ、そのおちゃどんなあじなの?」
「ちょっとだけ苦くて渋いが、柑橘系の風味がしてほのかに甘いぞ」
「あまーのはいーけど、にがーのとしぶーのはやー」
文句を言われても、そういう味なんだから仕方ない。
陳皮の熟成具合によって味が変化するらしいし、空いている熟成瓶へ次回用に入れてみるかな。
そうしたことを考えながら卵をボウルへ割り入れて溶き、土鍋に浮いた灰汁を取って雑炊づくりの準備が完了。
冷ましたごはんをザルへ移して洗い、水気を切ったら鍋へ入れて溶き卵を全体へ回し掛け、火加減を調整して蓋をする。
その間にチーピ茶を小皿に取って味見。
良い感じなのを確認したら、全員の水筒を受け取ってそっち移して完成。
チーピ茶 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:7 完成度:95
効果:給水度回復20%
魔力+4【2時間】 器用+4【2時間】
運+4【2時間】
チーピをお湯に浸して作ったスッキリした味わいのお茶
柑橘系の香りが爽やかで、ほのかに感じる柔らかな甘味で気持ちが和む
微かな苦味や渋味はありますが、そのお陰で甘味が引き立ちます
まさしく情報にあるとおり、苦味と渋味で柔らかな甘味が引き立って、爽やかな柑橘系の香りが心地良い。
陳皮じゃなくてチーピだからか、前に父さんが作ってくれたものより風味が少し強いかな。
だけど十分にお茶って感じがするから、問題は無い。
「ほらよ。昼飯用だから、うっかり飲むなよ」
「大丈夫、大丈夫」
そう言っているお前が一番不安なんだよ、ダルク。
しっかり者のメェナへ目配せをして、うっかり飲まないかをアイコンタクトで頼むと、向こうも分かったようで頷いてくれた。
「次は炒め物な。一人分を多めに作ったから、一皿でも足りるだろう」
「ありがとう。冷めないうちにアイテムボックスへ入れておくわね」
できたて状態の肉と野菜のトーチー炒めを各々へ手渡す。
イクト達の分は、俺がこのまま保管しておこう。
次は雑炊に使わなかったごはんを人数分の丼によそい、手渡していく。
「なんで丼なの?」
「たっぷり食うかなと思って」
「ゲームで食べている量が量だから、否定できない」
ごはんを丼によそう理由を告げられ、尋ねたセイリュウは落ち込んで、イクト達ところころ丸とダルク以外は苦笑いを浮かべた。
一部を除き、自覚をしているのならよろしい。
さて、あとは雑炊だけだな。
「うおぉっ、作業しに来たらもう料理長がいた件」
「なにこの良い匂い、って料理長いるし!」
「作業する前で良かったわ。少なくとも失敗することは無いし、変なタイミングで中断する必要も無いもの」
徐々に人で賑わってきた中、土鍋の状態を見て音を聞いて頃合いを見計らい、火を止めて蓋を開ける。
ぶわっと立ち昇る蒸気と共に良い香りが広がり、腹ペコ軍団の表情が蕩けたものに変わった。
さて、肝心の鍋の中身はどうかな。
見た目は少し濃い色合いのスープに色とりどりの野菜、ごはん、少し固まった溶き卵が悪くない。
鼻どころか肺まで魅了されそうな良い香りがするし、あとは味見だけ。
小皿に雑炊を取り、スプーンで掬った分に息を吹きかけ冷まして食べる。
……美味い。野菜をたっぷり使ったから甘味や苦味が加わったけど、煮込んだことで出汁と馴染んで調和している。
ごちゃまぜで濁った味にもなっておらず、出汁を吸った野菜やごはんや卵も美味い。
力強くも柔らかな味わいをしていて、いかにも朝飯って感じだ。
おっとそうだ、情報の確認を忘れていた。
ボーンホース雑炊 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:7 品質:8 完成度:96
効果:満腹度回復18% 給水度回復10%
状態異常耐性付与【高・2時間】 体力+7【2時間】
俊敏+7【2時間】
ボーンホースの骨で取った出汁を、野菜たっぷりの雑炊に仕立てた
豊富な野菜のお陰で出汁の旨味はそのままに、食べやすくて柔らかな味わいに
冷めないうちに召し上がれ
情報も問題無し。
そうと分かれば早く食べたいと表情で訴えてくる腹ペコ軍団のため、人数分のお椀とスプーンを用意し、おたまでよそっていく。
すると目の前にいたイクト達も素早く椅子に着席し、早く早くと目をキラキラさせる。
そんな腹ペコ軍団の前に雑炊入りのお椀とスプーンを置き、熱さ対策にコップへ水を注いで並べた。
「準備できたね、できたね! じゃあ、いただきます!」
矢も楯もたまらずといった様子でダルクが音頭を取り、全員が「いただきます」をして食事開始。
「あっつー!」
息を吹きかけて冷ますこともせず、スプーンで取って食べたダルクが悲鳴を上げ、水を一気に飲んだ。
他の皆は……早く食べたいからかやや激しめとはいえ、ちゃんと息を吹きかけて冷ましながら食べているな。
まったく、息を吹きかけるイクト達やころころ丸の方が、しっかりしているぞ。
「あふっ、はふっ! おーしー! まーたー、これおーしー!」
「ほふっ、ほふっ。やさいとかごはんとか、いろいろはいっていておいしー!」
「色々な野菜とごはんと卵が入っているのに、味が濁っていないのがポイントなんだよ。どんなに美味しい出汁や野菜やごはんや卵も、濁らせたら味が台無しになるんだよ。全体を調和させるために煮こんで、それでいて濁らせていないからこの雑炊は美味しいんだよ。ふー、ふー」
口から熱気を逃がしながら満面の笑みで食べるイクトとネレアに続き、無表情でミコトの食レポが炸裂。
だけど食べる手は止めないから、美味いようで安心だ。
「はー。雑炊ってこんなに美味しいんだね」
「うちで鍋の締めといえばうどんだけど、これからは雑炊にしてもらおうかしら」
満面の笑みを浮かべたポッコロが水を飲んで一息入れ、味わって食べているゆーららんが悩ましい表情を浮かべた。
雑炊にするかうどんにするかは、ご両親とも相談してくれ。
ころころ丸も、モルモルと喜びながら食べているようで良かった。
「こんなに美味しい雑炊なら、毎日でも食べたいよ」
関係が変化したからか、隣の席でそういう風に言って笑みを浮かべてくれているセイリュウの感想が一番嬉しい。
そんなに食べたいなら毎日作ってやる、なんて気取った台詞はとても言えない。
ヘタレと言いたければ言え、だって恥ずかしいんだもの。
「朝飯が雑炊とか、なんかいいわね」
「粥とかお茶漬けもいいが、雑炊の方が栄養ありそうだもんな」
「作るのは少し手間だけどね」
「いや、市販の雑炊の素を使えばいいだろ」
「それはそれで少し悲しいぞ」
周囲の声を聞きながら雑炊を味わう。
実を言うと雑炊は割と現実でも作っているんだよな。
特に定休日の水曜日の朝は、前日の営業終了後に祖父ちゃんと父さんが酒をたっぷり飲んで調子が悪いことが多く、毎回のように作っている。
前日の残りのスープに、同じく残り物の野菜を刻んで入れて煮込み、これまた残り物のごはんを洗って入れて、これも残り物の卵を溶いたものを加えた中華風雑炊をな。
さっきミコトが濁っていない点を挙げていたが、そういう理由で作り慣れているからだ。
あと、時間が無い朝に作りやすくて栄養があるからっていうのもある。
「トーマ、おかわり!」
「いくとも!」
「ねーあも!」
「僕もお願いします」
熱がりながらも一番に完食したダルクがおかわりを要求したのに続き、皆も続々とおかわりを要求してきた。
はいよ、土鍋いっぱいに作ったからしっかり食ってくれ。
皆の要求に応えておかわりを提供しつつ、自分もしっかり食って朝飯は終了。
後片付けをしながら冒険者ギルドへ向かうダルク達を見送り、片付けが済んだら俺達も料理ギルドへ出発。
両手はイクトとミコトに繋がれ、セイリュウが不在のためあぶれたネレアはゆーららんと手を繋ぎ、ポッコロはころころ丸を抱えて歩く。
「なにあのお散歩集団」
「料理長がたまに保父さんになる件」
「楽しそうなイクト君が可愛くて困るわ」
大人数の兄弟姉妹みたいな集団を形成しているからか、周囲から温かい目が向けられている気がする。
だけどUPO内では常にイクト達を連れていることもあり、そういった視線にも慣れてきた。
悪い感じの視線は向けられていないようだし、気にしないようにしよう。
そうして到着した料理ギルドで、まずは依頼が貼ってある掲示板からオリジナルレシピを提供する依頼を受け、未提出のスタミナ肉みそ、ボーンホースの出汁スープ、ボーンホース雑炊を提出。
最終段階っぽい【クッキング・オリジン】の称号を得たから、これ以上の称号は無いんだろうが、そのために料理をしている訳じゃないからオリジナルレシピの提供は続けるつもりだ。
それを済ませて報酬を受け取り、依頼が貼ってある掲示板へ戻って依頼を確認する。
「何か面白そうな依頼があったら、教えてくれ」
「「「はーい」」」
「ポッコロ、お兄さんが変な依頼を受けたら止めるわよ」
「分かった」
元気に返事をしたイクト達はともかく、ポッコロとゆーららんは俺を何だと思っているんだ。
いくつかの依頼で色々起きているのは否定しないが、結果的にそうなっているだけで狙っているわけじゃない。
そもそも、狙ってできるはずがないじゃないか。
「マスター、これはどうなんだよ?」
ミコトが指差したのは、大手商会の炊事場を手伝ってほしいというもの。
昼飯作りの人手が足りないから、至急来てほしいとある。
「うん、いいんじゃ――」
「これは駄目ですよ、お兄さん」
「大手商会からの依頼なんて、いかにも何かありそうじゃないですか」
賛成しようとしたらポッコロとゆーららんに止められた。
イクト達ところころ丸が、「なんで?」と首を傾げているのに俺も同意だ。
俺が何かやらかさないか見張るって、そういうことか?
「だったらどういうのならいいんだ?」
止めた以上は基準となるものを示してもらわないと、判断が付かない。
「そうですね……」
「ゆーららん、これなんかどうかな?」
「どれよ。……うん、これなら大丈夫そうね」
ころころ丸を抱えたポッコロが見つけた依頼をゆーららんが確認して許可を出した。
その依頼はカンコーとカンペーという兄弟からのもので、忙しい父のために美味しいご飯を作ってあげたいから手伝ってほしいとある。
文字からして、兄弟は子供のようで報酬も安い。
「子供からの依頼なら、何もないよね」
「そうね。内容にも変なところはないし、大丈夫でしょう」
判断基準はそこか。
まあ別にいいけどさ。
報酬が安くとも気にならないし、飯を作るのを手伝うくらいならいいだろう。
「じゃあ、これにしよう」
拒否する理由が無いから依頼を手に取り、受付にて受理の手続きをして依頼主の下へ。
地図が示す位置を目指し、イクト達とポッコロとゆーららんところころ丸を伴って歩いていく。
ところが辿り着いた場所は、想像していたのとは大違いな所だった。
「……お兄さん、本当に目的地はここなんですか?」
「ああ。マップに出ている依頼主の位置を示す場所は、間違いなくここだ」
てっきり普通の家かと思っていたが、辿り着いた依頼主の兄弟がいる場所は大きな屋敷。
昔の中国風の造りで、如何にも偉い人か金持ちが住んでいそうだ。
「わー、おっきー」
「ますたぁ、おおきいおうちだね」
「イクト、ここはお屋敷っていうんだよ」
「どうしよう、ゆーららん! まさか依頼主って、良いところの子供だったの!?」
「こんなの想定していなかったわ。くっ、読みが甘かったわね……」
イクト達はともかく、ポッコロとゆーららんの反応が釈然としない。
だけど依頼を受けた以上は、今になってやめるわけにはいかない。
屋敷の戸を叩き、出てきた女官らしきNPCへ要件を伝えると中へ案内された。
立派な屋敷の中を移動して通されたのは、依頼主の兄弟がいるという部屋。
そこには小六くらいの少年と小四くらいの少年、それと母親らしき女性だった。
勿論、全員NPCだ。
「あら、どちら様かしら?」
「奥様、この方々は――」
依頼主と思われる兄弟と、奥様という呼び方からして彼らの母親らしき女性へ、案内してくれた女官が説明をしてくれた。
すると兄弟は「来てくれたんだ!」と喜ぶ一方で、母親は苦笑を浮かべる。
「申し訳ありません。うちの子達が」
「いいんですよ。父親のために何かしたいなんて、良いお子さん達じゃないですか」
「なので、勝手にそんな依頼を出したことを怒れないのよね」
母親にも内緒で出していたのか?
兄弟を見ると、スッと目を逸らされた。
こら、ちゃんとこっちを見なさい。
「だって同じことをお願いしたら、母上も厨房の人達も危ないから駄目って言うんだもん」
兄の言い訳に弟がうんうんと頷いて同意する。
だから勝手に動いて、現状に至るってことか。
どうなるのかと思っていたら、母親が苦笑したまま溜め息を吐いた。
「はぁ。こうなっちゃったら仕方ないわね。いいわ、旦那様のために何か作ってあげなさい」
「いいのっ⁉」
「ありがとう、母上!」
さすがはゲーム、当たり前のように許可する流れになった。
「じゃあ厨房へ案内するわ。ついていらっしゃい」
厨房で働く人達への説明もするからと、母親によって厨房へと案内される。
どうにか依頼はできそうだけど、今回は何を作ろうかな。




