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目覚める鬼


 今回ログイン最初の飯の時間。

 日本酒造りのために仕込んだ米を入れた醸造樽をアイテムボックスへ入れ、その後で納豆作りのために大豆を水に浸けているところで、皆が戻ってきた。

 椅子を用意して座る皆の前へ飯を並べると、それはそれは美味そうに食ってくれる。

 尤も、ダルクだけは不機嫌な表情をしている。


「うぐぅぅぅ……」


 恨みがましい目で睨み、威嚇する犬みたいに唸っている理由は飯の内容。

 俺達の前に置かれているのは、ごはん、ワタリワイバーンの出汁スープ、そしてワタリワイバーンのメンチカツに千切りキャベツを添えたもの。




 ワタリワイバーンの出汁スープ 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:7 品質:7 完成度:96

 効果:満腹度回復2% 給水度回復17%

    風属性耐性付与【高・2時間】 俊敏+7【2時間】

    運+7【2時間】


 骨を切ったことにより、短時間で旨味が抽出された出汁を使ったスープ

 一口飲むと出汁の旨味が口の中を突き抜ける

 余計な具材や過度な味付けをしていないので、出汁の強い旨味がよく分かる



 *ワタリワイバーンの骨を切り、野菜と共に寸胴鍋で煮込む。

 *丁寧に灰汁を取りつつ、中身を混ぜる。

 *醤油とみりんと油を混ぜ、即席醤油ダレを作る。

 *スープに浮かせるネギを輪切りに。

 *お椀に醤油ダレを入れて出汁を注ぎ、ネギを浮かせて完成。




 ワタリワイバーンのメンチカツ 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:7 品質:8 完成度:97

 効果:満腹度回復16%

    風属性攻撃時与ダメージ上昇【特・3時間】

    満腹度減少速度低下【特・3時間】

    体力70%上昇【3時間】


 噛むと衣の中からワタリワイバーンの肉汁が溢れ出る

 タネに味を付けたので、ソースの類は不要

 味付けも最小限のため、肉の旨味がダイレクトに伝わってきます



 *ストックのパンを乾燥スキルで乾かし、すりおろしてパン粉にする。

 *縦縞と横縞のシマシマタマネギをみじん切り。

 *骨から切り取った肉を魔力ミキサーでミンチに。

 *ミンチ肉へタマネギと小麦粉少量を加え、よく混ぜる。

 *味付けとして醤油、胡椒、砂糖少々を加えて混ぜてタネの完成。

 *揚げ油としてラードを用意し、衣用に卵を割って溶く。

 *小判型に形成したタネへ小麦粉、卵、パン粉を纏わせて揚げる。

 *しっかり揚がったら油を切る。

 *新鮮なる包丁で千切りにしたキャベツを添えて完成。




 ワタリワイバーンは肉も出汁も旨味が強く、下手に味付けするとその魅力を損なう恐れがあった。

 だから味付けは最小限に抑え、肉や出汁の旨味を芯に据えた感じで作った。

 味については、ダルク以外の反応で美味いことが分かる。


「あー、美味しい。衣はサクサクで、肉の旨味が濃厚で最高ね」


 揚げ物を食べるところを見せびらかそうと提案したメェナが、わざとサクサクと音を立てながら食べる。

 普段から振り回されて苦労させられている分、ここぞとばかりに仕返ししているな。

 だけど俺もメェナ同様に振り回されている側だから、そうしたい気持ちは分かる。


「味を付けてあるから、ソース無しでも美味しいわ」


 俺とメェナほど振り回されていないカグラが、メンチカツを噛みしめて笑みを浮かべる。

 それすらも今のダルクには効くようで、恨みがましい視線を向けられた。


「タマネギに甘さと辛さもあるから味が単調になっていないし、間にキャベツを挟めば飽きがこないね。本当に美味しい」


 大人しいセイリュウも、さすがに今回の件は黙っていられないようで、メェナのようにサクサクと音を立てて食べている。

 ただし笑みはダルクでなく、俺へ向けるから照れるしドキッとした。

 揚げ物とはいえ音を立てて食べるのは、本来なら行儀が良いとは言い切れないけど、今回だけは目をつぶろう。

 そういうわけで、俺からもダメ押しさせてもらうぞ。


「どうだ、お前達。美味いか?」

「うん、おいしい!」

「さくさくでおーしーの!」

「衣に封じられた肉汁や肉自体の旨味を主軸に据えるため、お肉への味付けを最低限に留めて引き立て役にしているのが、この美味しさの肝なんだよ。さらに味付けを最低限に留めたことで、二種類のシマシマタマネギが出す甘さと辛さも感じられるからこそ、よりお肉の旨味が引き立てられているんだよ」


 俺の質問に対し、イクトが満面の笑みで答え、ネレアが夢中で食べながら答え、左隣に座るミコトが食レポ全開。

 このダメ押しが利いたダルクは、苦々しい表情でこっちを見ている。

 さすがはイクト達、期待通りの仕事をしてくれたぜ。

 ただ、イクトとネレアは口の周りに小さい衣の欠片がいくつも付いているから、後で口を拭かせないと。


「メェナお姉さんの提案を、本当にやるとは思わなかったよ」

「いいんじゃない、ダルクお姉さんの自業自得だし。それに美味しいんだから、気にしない方がいいわよ」


 苦笑いを浮かべながらも、食べる手は止めないポッコロ。

 同じく食べる手を止めないゆーららんの言う通りだから、気にせず食べてくれ。

 勿論、モルモルと鳴きながら美味そうに食べている、ころころ丸もな。


「うぐぅ。本当にやるなんて、どういうつもりなのさ。僕の気持ちも考えてよ」

「だったらお前はこっちの気持ちを考えろ。いいから黙って、それ食ってろ」


 不満を口にするダルクの前には、ワタリワイバーンの肉とシマシマタマネギとキャベツの炒め物が置かれている。

 揚げ物を食わさないというだけで、飯を食わせないと言ったわけじゃないからな、ちゃんと用意してやったぞ。




 ワタリワイバーンの肉野菜炒め 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:7 品質:7 完成度:98

 効果:満腹度回復13%

    風属性耐性付与【特・3時間】 HP最大量70%上昇【3時間】

    腕力70%上昇【3時間】


 ワタリワイバーンの肉、二種類のシマシマタマネギ、キャベツを炒めたもの

 味付けは塩と胡椒による最低限で仕上げてあり、肉の旨味がよく分かる

 肉の脂が絡んだシマシマタマネギとキャベツも絶品


 *ワタリワイバーンの肉を薄切りに。

 *二種類のシマシマタマネギを細切り、キャベツをざく切りに。

 *油を敷いて熱したフライパンで肉を炒め、シマシマタマネギ、キャベツの順で加えていく。

 *火が通ったら塩胡椒を振って完成。




 こっちを睨んだまま、ダルクが肉野菜炒めを口にする。


「美味しいことは美味しいよ。でも目の前に、揚げ物があるっていうのに……」


 恨むなら余計なことをした自分を恨め。

 バイト時はセイリュウと同じ部屋からログインすることと、バイトから上がった後は俺が送ることになったのには、お前が関わっているってことはなんとなく分かっているんだからな。

 母さんや祖母ちゃんが急にあんなことを言うのは変だし、妙に手回しが良いのも気になった。

 そこへダルクがセイリュウのヘッドディスプレイを持ってきたから、すぐにお前が関わっているって分かったぞ。

 幼馴染、舐めるんじゃない。

 たった一人の不満が出る中での飯は、ごはんとスープのおかわりも綺麗に無くなって終了。

 後片付けをして、水に浸しておいた大豆を納豆藁に入れる。

 ゲームだから日本酒と一緒に作っても大丈夫だろうけど、念のため仕込むタイミングはずらしておいた。

 ……アイテムボックスの中なら、影響は無いよな?


「トーマは午後、どうするの? 私達はまた外に出てレベル上げと素材集めをするけど」


 全ての納豆藁へ大豆を入れてアイテムボックスへしまい、大豆を水へ浸すために使っていたボウルを片付けていると、メェナから質問が飛んだ。


「明日の披露会に出そうと考えている料理を試作して、その後は晩飯の仕込みだな。晩飯の頃には納豆が出来ていると思うから、和風っぽく照り焼きでも作ろうと思う」


 あっ、どうせなら日本酒のことを伝えるついでに、納豆のこともミミミへ伝えておけばよかったな。

 日本酒造りで上に行ってから降りてきた様子はまだ無いし、連絡を取って伝えて――。


『全てのプレイヤーへお報せします』


 おっと、ワールドアナウンスだ。

 これはまさか、あれか?

 どこかでタウンクエストが発生したのか?


『シクスタウンジャパン・キョウトにてタウンクエストの条件が満たされました』


 えっ、この町で!?


『ただいまよりゲーム内で二時間後、タウンクエスト【荒ぶる巨鬼きょき】がシクスタウンジャパン・キョウトにて行われます。詳細は全てのプレイヤーへメッセージにてお送りしますので、参加希望者はご確認の上でご参加ください』


 ワールドアナウンスが終わった瞬間、周囲にいるプレイヤー達がざわつきだし、中にはどこかへ駆けていく人達もいる。


「よぉしっ! 久々のタウンクエストへの参加、思いっきり暴れてやる!」


 揚げ物を食えない憂さ晴らしをするつもりか、やたらダルクが張り切っている。


「暴れるのは構わないけど、味方を巻き添えにしないでよ」

「今回はどんなクエストなのかしら」

「解放される隠しスキルや隠し職業は何かな?」


 ダルクへ注意を促すメェナの隣で、カグラとセイリュウはクエストの詳細が届くのを待っている。


「名称からして戦闘系っぽいわね」

「だとしたら、僕達のできることは少なそうだね」


 ポッコロとゆーららんはタウンクエストの内容を戦闘系と読んだか。

 名称に「荒ぶる」ってあるから、その可能性は高いだろう。

 これまでのタウンクエストで戦闘系じゃなかったのは、悪魔を摑まえるのと狙撃手から要人を守るっていう二つ。

 他はゴーレムや死霊の軍団と戦闘だったんだよな。

 おっ、詳細が届いたか。どれどれ……。




 ************************


 ≪タウンクエスト・荒ぶる巨鬼きょきについての詳細≫


 シクスタウンジャパン・キョウト郊外にある古墳迷宮が攻略された。

 しかし、最下層にいた二体の鬼を倒した際に灯篭が崩壊。

 これにより、古墳に掛けられていた結界が解けてしまった。

 それにより、結界に封じられていた巨大な鬼、大嶽丸が目を覚ます。

 だが結界は完全に解けておらず、シクスタウンジャパン・キョウトからあまり離れられない。

 完全に結界を解くには、町の中にあるもう一つの結界用の灯篭を破壊する必要がある。

 大嶽丸は灯篭を破壊するため、結界から復活しながら分身を用意して町を襲おうとしている。

 プレイヤーは自警団や兵士達と協力し、大嶽丸を撃退して完全復活を阻止せよ。



 開始時刻:ゲーム内時間で1時間56分後

 場所:シクスタウンジャパン・キョウト

 クエスト成功時:隠しスキル【神通力】と隠し種族【聖人】解放

         参加時間とクエストへの貢献度に応じた賞金を授与

 クエスト失敗時:シクスタウンジャパン・キョウト崩壊

         ゲーム内で三年間、ギルドや商店といった町の機能が低下

         完全復活した大嶽丸は倒されるまで町や村を襲う


 *途中参加可能

 *タウンクエストは一つの町につき一度きりです

 *町の崩壊による影響は全てのプレイヤーへ適用されます



 ************************




 今回の成功時に解放されるのは、職業じゃなくて種族なのか。

 でも、スキルも種族も料理には無関係だな、これは。


「あら、今回のは私と関係ありそうなスキルと種族ね」


 少し嬉しそうに告げるカグラの職業は戦巫女だから、無関係ではないだろう。


「ネットで調べてみたら、この「神通力」は大嶽丸が関わっているからね。こいつ、分身したり神通力を使ったりするみたい」


 素早く大嶽丸について調べたメェナが、解放されるスキルが「神通力」の理由を口にする。

 分身を用意しているのは、そういう能力を持っているからなのか。


「とにかく早く広場へ行こう!」

「そうだね。今回は戦闘系みたいだから、ある程度は統率を取って備えないとね」


 広場へ行こうと訴えるダルクにセイリュウが同意して、他のプレイヤー達の流れに乗って俺達も移動を開始。

 ちなみに広場へ向かう理由を近くにいたカグラへ尋ねたところ、タウンクエストが始まったら広場に集まって情報共有、というのがプレイヤー間では暗黙の了解のようになっているんだとか。

 それに頷きながら作業館を出たところで、上の階へ行っていたミミミとセツナと冷凍蜜柑とエータと合流し、一緒に広場へ向かう。


「今回は戦闘系だから、アタシらの出番は飯作りだけっぽいな」

「何もできないよりマシだって」


 見た目は喧嘩が強そうなセツナでも、実際は純粋な料理プレイヤーだから戦闘ができない。

 だけど飯は作れるから、ある程度は貢献度を稼いで金を貰うことはできる。


「そうそう。で、ミミミさん。今回のタウンクエストをどう読む?」


 エータからの質問に、眼鏡の位置を直したミミミが答える。


「過去の戦闘系、死霊とゴーレムは町に到達されたら負けだったわ。でも今回はおそらく、町に到達されても負けじゃないわ」

「その心は?」

「詳細には大嶽丸を撃退して完全復活を阻止せよ、とあったわ。つまり今回は結界用の灯篭が破壊されて、大嶽丸が完全復活すると負けなのよ」


 さすがはミミミ、説明に筋が通っている。

 そうなると、その灯篭がどこにあるかが問題だな。


「場合によっては町中を捜索して、その灯篭を探す必要があるわね。その場合は戦闘系では貢献度を稼ぎにくい、生産職の人達にやってもらいましょう」


 肝心の灯篭がる場所が不明だと、最終的にどこを守ればいいのか分からないからその考えは分かるし、生産職の人達が捜索する理由も納得できる。


「問題はその灯篭についてね、町中にある灯篭がそれ一つだけならいいけど、複数あったらどれが結界に関係しているかを調べる必要があるわ」

「そこはNPCに聞くしかないんじゃないか?」


 気になる点を口にしたミミミへ、冷凍蜜柑が至極普通の答えを示す。


「……それしかないわね。なんにしても、広場で情報共有よ。情報が無くちゃ、どれだけ推測を並べても無駄よ」


 ごもっとも。

 そうして到着した広場には既に多くのプレイヤーが集まっていて、情報の共有をしているのかガヤガヤと少し煩い。

 だけど俺達も情報を入手しないといけないから、手近なプレイヤーへ声を掛けようとしていたら、運よく知り合いを見つけた。


「おーい、ギョギョ丸!」

「うん? うえぁっ、料――トーマ!?」


 前に公式イベントで知り合ったギョギョ丸へ声を掛けると、少し驚かれた。

 しかも今なんか、料理長って言いそうになったか?

 まあいい、今はそれよりも情報だ。

 皆を引き連れてギョギョ丸の下へ向かうと、他にも知り合いが二人いた。

 一人は何度か会ったことがある赤巻布青巻布黄巻布、もう一人は死霊魔法使いのタウンクエストで知り合った掘りゴン。

 他にも仲間っぽい人が三人いるけど、そっちとは初対面だ。


「ふぉっ!? ミ、ミコトちゃん!?」

「イクトきゅんが目の前に……」

「本物のネレアちゃんザマス。感激ザマス」


 鎧姿の男性プレイヤーと、音楽隊みたいな服装をした熊人族の女性プレイヤーはともかく、なんだあの貴婦人みたいな女性プレイヤーは。

 派手な赤い服と帽子に閉じた状態の傘まで持って、一体どういう人なんだ。


「料――じゃくなてトーマ。奇遇だな」

「そうだな。知り合いが三人もいてくれて、心強い」

「そ、そうか。そう言ってくれてなによりだ」


 赤巻布青巻布黄巻布と掘りゴンとも言葉を交わし、他の仲間三人の紹介を受ける。

 鎧の男性プレイヤーが、剣士から転職した剣闘士の助介輔。

 音楽隊みたいな服装の女性プレイヤーが、奏者から転職したパフォーマーのマーチ。

 そして貴婦人みたいな女性プレイヤーが、商人から転職した豪商のレディーママ。

 やたら緊張気味に挨拶をするから首を傾げていると、彼らはイクト達のファンなのだとギョギョ丸に耳打ちされた。

 なるほどそれで――。


「いくとです!」

「ミコトなんだよ」

「ねーあなの」

「「「ごふぁっ!?」」」


 イクト達から挨拶をされて、吐血したみたいな動きで蹲ったのか。

 ちなみにマーチがイクト、助介輔がミコト、レディーママがネレアのファンなのだとか。


「はいはい、自己紹介はそこまでよ。ねえあなた達、タウンクエストについてプレイヤー間で共有する情報を持っていたら、教えてくれない?」

「勿論だ。えっとな――」


 ミミミにより軌道修正され、情報の共有が始まる。

 まずタウンクエスト発生の切っ掛けとなった古墳は、町の西側にあること。

 これにより大嶽丸とその分身は、西側から攻めてくると考えられている。

 次に結界について。

 町の中にある灯篭の場所は不明だけど、古墳にあった灯篭の形状は分かっているとのこと。

 タウンクエストを発生させたプレイヤー達によると、見た目は普通の石灯籠で、柱のような箇所に「封」の文字が大きく刻まれているらしい。

 なお、灯篭は二体の鬼を倒した後で勝手に壊れたそうで、そういうギミックだったと推測されている。

 つまり古墳迷宮にいた鬼達を倒すと自動で灯篭が壊れ、このタウンクエストが発動するのか。


「見分けがつく要素があるのは助かるわね。そうなると町中にあるのは同じものか、それとも「封」と合わせて「封印」になる「印」の文字が刻まれたものか」


 たった一つの要素から、ミミミが新たな可能性を見出した。

 さすがは情報屋、伊達に新情報でヘドバンしないな。

 他に分かっていることは一つだけ、封印が解けた時に右手だけが現れたそうだが、五、六人くらいを掴めそうなほど巨大だったという。


「そんなに大きいんですかっ!?」

「さっき調べた大嶽丸の情報によると、大嶽丸の全長は三十メートルくらいあるそうよ」


 驚くゆーららんに、苦い表情をしたメェナが答える。

 ちょっと待て、三十メートルってマジか。

 公式イベントで登場したスタッグガードナーでさえ、十メートルくらいだったのに、その三倍だと。


「まさか分身っていうのも、それぐらい大きいんでしょうか?」

「題名に巨鬼きょきってあるくらいだし、可能性はあるわね」


 不安そうにころころ丸を抱えるポッコロに、カグラが否定できないと返す。


「共有することになっている情報は、今のところそれくらいだ」

「ありがとう。で、戦闘の指揮は誰が執るの?」

「そっちはまだ決まっていない。というか誰も執りたがらなくて、戦闘職のプレイヤー間で押し付け合いになっているみたいなんだ」


 苦笑する赤巻布青巻布黄巻布が広場の中央の方を見て、つられて俺達もそっちを見る。

 そこでは何人ものプレイヤーが、お前が指揮を執れと言い合いをしていた。


「どうして押し付け合いをしているの?」

「失敗した時に、お前の指揮が悪いせいだって言われるのが嫌みたいなのよ」


 状況に対する疑問を口にしたセイリュウへ、溜め息交じりにマーチが答える。

 最悪の展開を予想するのは悪い事じゃない。

 だからといって、その時に責任を取りたくないと逃げるのはどうだろう。

 ここで一喝するのは簡単だ。

 でも戦闘に関しては何もしない俺が一喝しても意味が無い。


「仕方ないわね。こうなったら私が――」

「静まれぃっ!」


 致し方ない感じでミミミが進み出ようとしたところで、聞き覚えのある大声が広場一帯へ響き渡った。

 この声はあの人に違いない。

 そうだよ、俺達はあの頼もしい男達にこの町へ連れて来てもらったんじゃないか。

 彼らが、この状況で現れないはずがない。

 そんな期待に応えるように、引き締まった表情をした頼もしい雰囲気の男達を率いて、UPOにおける最も頼もしい男が紺色の羽織を纏った和装姿で参上した。


「わしが野郎塾塾長、江乃島平太郎である!」


 待ってました、塾長!


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― 新着の感想 ―
やっぱ塾長しか勝たんわwww
相手が鬼なら豆が必要かも
2025/08/22 11:49 がちサイダー
ヘドバンとアルコールが絡まなければちゃんと有能なミミミさん。 指揮できる人もいて良かった。
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