酒造り
訳あって今日はセイリュウと共にUPOへログイン。
前回ログアウトした、シクスタウンジャパン・キョウトの広場へ降り立つ。
そこで俺達を待っていたのは、いつものように寄ってくるイクト達、「こんにちは」と挨拶してくるポッコロとゆーららんところころ丸。
そしてがっくりと肩を落とすダルクと、肩に手を置いてダルクを慰めるカグラと、呆れた表情で溜め息を吐くメェナの姿だった。
「二人も来たわね。大体のことはそこで落ち込んでいる、揚げ物好きの暴走剣士から聞いたわ」
あのメェナがダルクのことをそう言うなんて、よほど呆れているんだな。
今回は俺も当事者だし、同じダルクに振り回されているのに対処する者同士、気持ちはよく分かるぞ。
「ああ。だからこのログイン中、揚げ物を作ってもダルクには食べさせないことにしてある」
「それも聞いたわ。今回はさすがにやりすぎだから、むしろ揚げ物をガンガン作ってちょうだい。そして食べるところを見せびらかしましょう」
やるじゃないかメェナ、俺はそこまで考えなかったぞ。
「任せておけ」
「トーマもメェナも鬼だよ!」
「「うるさい」」
顔を上げたダルクの文句をメェナと共に一蹴。
今度は膝から崩れ落ち、四つん這いの体勢になって落ち込んだ。
「ところで、現実のトーマ君とセイリュウちゃんは今、どういう状態なの?」
目を輝かせてワクワクした様子のカグラが、如何にも興味津々とばかりに尋ねてきた。
「えっと、私がトーマ君のベッドで横になって、トーマ君は床に寝転がっているの」
落ち込んでいる揚げ物狂いが余計なお世話を焼いてくれたお陰で、明日からの予行演習という名目の下、能瀬は俺の部屋からログインしている。
その際にどうしようか話し合い、そういう形に落ち着いた。
いやだって、一人用のベッドに二人寝転がるにはスペース的な問題で密着して寄り添う形になるから、それはこう色々と不味いからな。
同じ部屋からのログインや家へ送る件に関して、やけに強くお願いしてきた能瀬も、さすがにそこまでは強気にならなくて助かった。
「あら、そうなの。うふふふふ」
なんだその含み笑いは。
実はお前も一枚かんでいるんじゃないだろうな、カグラ。
しかしなんだ、この外堀を埋められてアスファルトでガッチガチに固められ、脇道へ逸れることが許されないような道が作られていく流れは。
「ますたぁ、だるくおねえちゃんどうしたの?」
四つん這いの視線で落ち込むダルクを指差すイクトが、俺を現実へ引き戻してくれた。
「やらなくてもいい余計なことをして、怒られたんだよ」
「だーくねーね、おこらーてばっかー」
「ぐっほぁっ!?」
容赦のないネレアの一言で完全に崩れ落ちた。
ミコトところころ丸がツンツンとしても、動く様子は無い。
「幼い子って、良くも悪くも平気でああいうこと言いますよね」
ポツリとこぼれたゆーららんの一言に、落ち込むダルクとイクト達ところころ丸以外の面々が揃って頷く。
さて、ダルクは放置して予定を確認しよう。
今回はここ、シクスタウンジャパン・キョウトにて料理プレイヤー達との、ごはんのお供披露会がある。
日時的には明日の午前中だから、今日は自由行動だ。
「僕とゆーららんは、畑の世話をしてきますね」
「私達は周辺で食材探しをしながら、レベルを上げてくるわね」
メインがレベル上げじゃなくて食材探しなのが、こいつららしい。
「俺は料理ギルドで依頼でも受けながら、飯の準備をしておくよ」
要するにいつも通りってことだ。
そういうわけで一旦分かれ、俺はイクト達を連れて料理ギルドへ向かう。
道中はイクト達がローテンションで俺と手を繋ぎ、歌が微妙なイクトと「ボエ~」なネレアによる合唱を聞かされる。
「酷いセッションなんだよ」
まったくだな、ミコト。
周りにいる人達がプレイヤーもNPCも問わず、穏やかな表情を向けつつ静かに距離を取っている。
可愛いし和む光景でも下手なものは下手、ということなんだろう。
そんなセッションを間近で聞かされながら料理ギルドへ到着。
さすがにここからは静かにしてもらい、まずはオリジナルレシピを提供する依頼を受け、未提出のオリジナルレシピを提供。
今回はアイランドスムージーと、ワイルドボアのワイバーンチェリーワイン蒸しの二つ。
これで合計四十八、五十の大台が見えてきたな。
報酬を受け取ったら再度掲示板へ向かって依頼を探す。
「うえのほー、みえない」
「いくとはとべばみえる!」
「二人とも、マスターが静かにするよう言っていたんだよ」
掲示板の上の方を見ようとして騒ぐイクトとネレアを、ミコトが注意する。
うんうん、良いお姉ちゃんやっているじゃないか。
さてと、何か面白そうな依頼はないかな。
飯作りの時間に妥協せず、報酬は気にせず、興味を引かれる内容の依頼は――おっ、あれにしよう。
労働依頼
内容:神酒の仕込み手伝い
報酬:500G+神酒
労働時間:3時間
場所:朱宮神社
神社にて神酒を仕込む仕事なんて、いかにも日本っぽい。
時間からして一から十まで全部やるわけじゃなく、全体の一部を手伝うだけなんだろう。
日本酒造りの工程は大体しか覚えていないけど、何の工程を手伝うのかな。
それに、これまでUPOでワインを作ったことはあっても、日本酒は作ったことが無い。
報酬として神酒が貰えるし、ひょっとしたら日本酒造りの方法が分かるかもしれないから、行ってみても損は無いと思う。
「よし、決めた。行くぞ、お前達」
「「「はーい」」」
返事をするイクト達を引きつれ、受付でおばさん職員に手続きをしてもらい、地図が示す朱宮神社を目指す。
辿り着いたそこは、皆でこの町を観光していた時に立ち寄って参拝した神社だった。
掃き掃除をしている狐の耳と尻尾がある巫女さんと、鬼の角がある巫女さんへ声を掛け、依頼主の下へ案内してもらう。
その途中、この神社では祀っている神への感謝と誠意を表すため、自分達で神酒を作っているのだと教えてもらった。
これだけ大きくてしっかりした設備があるのは、参拝客へ振る舞う分や販売する分も作るためだそうな。
「数百年を生きる宮司様によると、この神社が祀っている二体の神は、どちらもお酒好きなんだとか」
「それとたまに宮司様、二体の神を模した像の前でお酒を飲んでいるんです。神社の主として、神と酒を飲み交わしているんだとか。あまり飲めないから、少しだけですけどね」
ひょっとするとそれ、酒を飲みたい方便かもな。
ちなみに依頼主はその宮司で、今は神酒を仕込んでいる場所へ行っているそうだ。
そうして通されたのは、社の裏にある朱色の屋根が特徴的な大きい蔵。
中へ入ると昔の酒蔵のようになっており、何人もの鬼族や狐人族のNPCが神酒を仕込んでいる。
その様子にイクト達が足を止めて見入るたびに注意を促し、奥の方へ通されると宮司の姿をした鬼族の老人がおり、巫女達が彼へ俺達を紹介すると会釈をして歩み寄ってきた。
「よく来てくれましたね。私はここの宮司のドージと申します、では早速ですがこちらへ」
案内役がドージに代わり、案内された先で行われていたのは米の仕込み。
俺がやるのはここで米を洗って水に浸けるのと、既に十分水に浸けた米を蒸す工程だと、ドージから説明を受ける。
イクト達が手伝うと言うと、米を運ぶ仕事を与えられた。
「では、よろしくお願いします」
そう言い残して引き上げるドージを見送り、米の仕込みをしているNPC達からの指示で作業に加わる。
前掛けとバンダナを表示させ、爪の間までしっかり手を洗い、まずは精米から。
運ばれてきた米を何度もしっかり洗い、水を切ったら別の場所へ運んで水に浸ける。
これを何度か繰り返していると、蒸しの作業を手伝ってくれと言われ、そっちへ移動。
水に浸した米を運んで蒸篭で蒸し、蒸し上がった米は醸造を担当しているNPC達の下へ運ぶ。
ここから先は今回の仕事で関われないようだから、戻って米の仕込みを続ける。
「坊主、お前が連れて来た子達、凄いな」
正面で米を洗っている男性NPCに声を掛けられ、彼の視線の先を見る。
そこには米入りの麻袋を両肩に一つずつ担いで運ぶイクトと、両手で米入りの麻袋を持って少し危なっかしい足取りで運ぶミコト、そして三段重ねの米入り麻袋を両肩に担いで軽やかな足取りで運ぶネレアの姿があった。
俺もあの袋を持ったけど、一袋の重さは十キロぐらい。
それを三段重ねにして、両肩にそれぞれ担いでいるから合計六十キロ。
さすがは見た目幼女でも、鎖分銅を振り回して戦うパワー系だな。
イクトも前衛で戦うだけあって、意外と力が強いし。
「ネレア、力持ちなんだよ」
「すごいね」
「ちかーにはじしんあーの!」
米を運び終えたイクト達のやり取りに、NPC達の表情がほころぶ。
なんというか、酒蔵では働いている人達の子供達が手伝いをしているような雰囲気なんだよな。
お陰で主人である俺も和んで、表情がほころんでしまう。
「よっしゃっ、やるぞ」
「「「「おーっ!」」」」
図らずもイクト達のお陰でやる気を出したNPC達。
本人達は、なんで急に声が上がったのか分からず首を傾げている。
いいんだよ、お前達はそのままスクスクと育ってくれればな。
って、なんで親目線になっているんだ、俺は。
頭を振って気を取り直して仕事へ集中。
しばらくして無事に仕事は終了し、ドージから依頼完了のサインををもらい、引き上げる前に日本酒造りの方法を教えてもらえないか尋ねる。
すると、特別な道具は使っていないから参考になるか分かりませんよ、と言われた。
魔道具の類を使わずに醸造しているのなら、参考にはならないか。
そうだ、醸造といえば―ー。
「これで作れますかね」
アイテムボックスから醸造樽を出して尋ねると、真剣な表情をしたドージがじっくり観察する。
「可能ですね。洗って水に浸して蒸した米をこれへ入れ、一日一回全体をかき混ぜれば七日ほどで完成するでしょう」
実際はもっと時間と手間が掛かることを考えれば、米を仕込んで一日一回かき混ぜればいいだけなんて、十分にゲーム的なご都合主義だ。
米について確認すると、普通の食用の米でも作れるけど味が今一つだというので、酒に適した米を売っている店を教えてもらえた。
やっぱり酒に適した米があったか。
昨今は食用の米で酒造りをしているところもあるけど、酒用の米を使うのが一般的だからな。
というわけで神社を後にして、途中にある料理ギルドで依頼達成の受付をして報酬の金と神酒を受け取って、教わった米屋へ。
目立たない場所を店構えのそこで、店主の初老の女性NPCからサカゴメという米を購入した。
「そのおこめ、おいしいの?」
「ほっほっほっ。そのお米はお酒用で、食べても美味しくないわよ」
「なぁんだ」
「じゃーいー」
美味くないと分かると興味を失ったイクトとネレアに、俺とNPCの女性が苦笑する。
食レポが上手になっていくミコトも含めて、すっかり行動理念が食欲に染まりつつあるね、お前達。
これが胃袋を掴むってことなら、それが出来ていることを誇って自信にしよう。
ただし、驕らず調子には乗らずにな。
「さあ行くぞ、飯の準備だ」
「「はーい」」
「分かったんだよ」
飯を作ると分かり、イクトとネレアの機嫌回復。
表情には出ていなくともミコトの声も嬉しそうだし、何を作ろうかね。
そうだ、ギガントワイルドフロッグの肉と交換で、エクステリオと雷小僧からワタリワイバーンの骨付き肉をもらったからあれを使おう。
ついでに飲む用じゃなく、料理用として日本酒を仕込もう。
そう思いつつ作業館を目指して歩いていると、前の方から知り合いがやって来た。
「おう、トーマじゃねぇか」
以前とは違う色合いの革ジャンを羽織り、左手はポケットへ突っ込んだまま右手を軽く挙げて声を掛けてきたのは、吸血鬼の姐さんことセツナ。
その後ろにはエータと冷凍蜜柑の姿もある。
「もう来ていたのか」
「まあな。本当は今日到着する予定だったんだが、前倒しで移動できたよ」
冷凍蜜柑と言葉を交わして拳同士を合わせ、その隣ではエータがイクトと両手でタッチを交わす。
「そういやトーマ、知っているか? お前のネレアちゃんで判明した、亜種の特殊進化を知ったテイマー達が躍起になって亜種を探しているんだぜ」
まったく知らなかったよ、そんなこと。
教えてくれたエータによると、亜種は遭遇率が低い上にテイムの成功率も低いということもあり、亜種のテイムモンスターはネレア以外確認されていないそうだ。
「で、その子が噂のネレアちゃんか。どうしてトーマは、人型の可愛らしいのばっかりテイムしているのさ」
「狙ってテイムしたわけじゃない」
イクト達は全員、公式イベントやタウンクエストや海賊イベントで仲間にした。
どれも狙ってそうしたわけじゃないから、意図的にこういうのをテイムしたわけじゃなく、結果的にそうなっただけだ。
「こーひとたち、だれ?」
「ますたぁのおともだち!」
「初めて会ったんだから、ちゃんと挨拶するんだよ」
「はーい。ねーあです、よーしく」
両腕を上げて余った袖を揺らしながら拙い口調で挨拶をするネレアに、冷凍蜜柑とエータは和やかな表情を浮かべ、「よろしくな」と返したセツナは頭をガシガシとやや乱暴に撫でる。
だけどネレアに嫌がっている様子は無く、楽しそうにキャッキャッ言っているから放っておく。
「ところでトーマは今、何をやっているんだ?」
「依頼を終えて、これから飯を作りに行くところだ。ついでに酒も仕込もうと思っている」
「酒? 何かの果物でワインでも作るのか?」
「いいや、日本酒を作るんだよ」
そう告げた瞬間、セツナと冷凍蜜柑がクワッと目を見開いた。
「なあトーマ。今、日本酒って言ったかい?」
「あ、ああ」
「頼む、作り方を教えてくれ! お礼は金でも食材でも、なんでも出すぞ!」
よほど日本酒が好きなのか、二人からの圧が凄い。
お礼を貰えるのなら教えようかなと思っていたら、背中側からガシッと肩を掴まれた。
「ねえトーマ? 日本酒を作るって聞こえたんだけど、詳しく教えてくれない?」
振り向くと背後にはニッコリ笑うミミミがいた。
そういえばこいつ、酒好きだったな。
というか、お前もこの町にいたのか。
「これのねえちゃん、こんにちはー」
「こーにちはー」
そしてミミミが現れたことで、恒例のイクトとネレアによるヘドバンタイム。
なんのことかよく分かっていない冷凍蜜柑とエータは首を傾げ、事情を知っているセツナは笑いを堪えている。
「普段なら気にするところだけど、今はそれどころじゃないわ。さあ教えなさい、どうやって日本酒を作るの?」
マジな目を向けてくるミミミも圧が凄い。
前門のセツナと冷凍蜜柑、後門のミミミとあっては逃げられないから、端に寄って経緯と作り方を含めて情報提供。
日本酒欲しさに同じ依頼を受けていた冷凍蜜柑とセツナは、報酬の神酒に気を取られて作れるかを聞き忘れていたと嘆き、ミミミは代金を弾むから完成したら飲ませてほしいと言いだす。
どれだけ飲みたいのさ、お前ら。
「エータお兄さんはいいんだよ?」
「俺、酒はビール党だから日本酒にはそこまで興味ないんだ。料理のために使うから、欲しいっちゃ欲しいけどな」
ミコトからの質問に答えたエータが詰め寄って来なかったのは、そういう理由か。
「ミミミ、酒ならアタシが作って飲ませてやる。それよりも早く、酒用の米を売っている店へ行くよ!」
「ありがとう、セツナ! じゃあトーマ、これ今回の情報料ね!」
「いくぜ! こっちならアル中も肝臓も糖尿も気にしなくていいから、バカみたいな量を作って浴びるほど飲んでやる!」
嵐の如く猛烈な勢いで走り去る三人と、それを一応追っていくエータを見送る。
今日はこれやらなかったねとヘドバンするイクトとネレアに、それだけ酒が欲しかったんだろうなと返して手を引いて歩く。
そうして作業館へ到着し、手続きを済ませて作業場へ入って作業台で調理の準備をする。
「料理長が来たぞ!」
「調理テロ警報だ、作業の手を止めろ」
「噓でしょ、今は手が離せないのに。どうかこの作業が終わるまでは、良い香りをさせないで」
周囲が騒がしい中で準備を済ませ、イクト達が見学のため正面へ陣取ったのを確認して調理開始。
先に日本酒を仕込むため、米を洗って水に浸しておく。
試作みたいなものだから醸造樽一つ分だけ仕込み、それと共に飯用の米も仕込んでおく。
それが済んだら寸胴鍋へ水を張って火に掛け、エクステリオと雷小僧から入手したワタリワイバーンの骨付き肉を出し、骨から肉を切り取っていく。
「ますたぁ、それどうするの?」
「骨は出汁を取るのに使って、肉はメンチカツにする」
今日の飯はワタリワイバーンの肉を使ったメンチカツ。
切り取る肉の大きさがバラバラだからミンチ状にして、ストックのパンを乾燥させて衣にする。
なにより、メェナの提案通りわざと揚げ物を作ってダルクの前で食うために。
あいつにはここらで、精神的に少し痛い目に遭ってもらわないと気が済まない。
さて骨に残った肉も取れたから、少しだけイクト達に手伝ってもらう。
「イクト、この骨を切れるか? ネレアが折ってもいいぞ」
「やってみる!」
「かして」
二人へ骨を渡すと、イクトは左手をサソリの鋏に変えて骨を切り、ネレアは両手で骨を持って「ふん」と言いながらへし折る。
どっちもできるようだから、そのまま骨の処理を頼む。
「マスター、骨を切ったり折ったりして、どうするんだよ?」
「ちょっと時間が無いから、短時間で出汁を取るための手段だよ」
出汁を取る時に使う骨を切ったり砕いたりすれば、そのまま煮込むより短時間でしっかりとした出汁が取れる。
破片が浮いたりするけど、そこは濾せば問題無い。
骨の処理をしてもらっているうちに、一緒に煮込む野菜を準備。
ネギ、タマネギ、付け合わせに使うキャベツの芯、ニンジン、こんなところかな。
「ますたぁ、できた!」
「でーたよ」
タマネギの皮を剥いてキャベツの芯を切り抜いているうちに、骨の処理が完了。
よくやったぞと二人を褒め、嬉しそうに体をくねらせる二人を横目に骨を寸胴鍋へ入れて強火で煮込み、野菜の処理へ戻る。
するとどこからか、「うおぉぉぉっ!」という雄叫びが聞こえてきた。
何事かと辺りを見回していると、出入口の前をミミミとセツナと冷凍蜜柑がものすごい勢いで駆け抜けていき、少し遅れてやってきたエータがお騒がせしましたと謝罪して三人の後を追う。
「まーたー、いまのなに?」
「たぶん、酒を作りに行ったのかな」
二階の作業場か三階以上の個室かは分からない。
でもあの三人が脇目も振らずに走って行ったということは、日本酒の仕込みに違いない。
本当、どれだけ飲みたいんだよ。
付き合っているエータよ、どうか三人が暴走しないよう頑張ってくれ。
さあて、飯作りを続けようか。




