洋風なご機嫌
食材や道具を購入するため、豪雨が降り注ぐカイゴー島からシクスタウンジャパンへ転移。
こっちは小雨程度で、幾分かダルクのテンションは戻ったものの、普段に比べれば少し低い。
「うぅ~。晴ればっかりだったから、天気の確認をするのを忘れていたよ……」
買い物へ行くために料理ギルドへ向かう道中、俯くダルクがそう近くにいるカグラへ尋ねたら公式サイトで確認できると言われた。
「天候次第でモンスターの出現率が変化するから、ガチ勢の戦闘職なら絶対に確認しているでしょうね」
続けてメェナが、天候次第で変わる点を教えてくれた。
今言ったモンスターの出現率だけでなく、特定の天気の日にしか出現しないモンスターがいたり、流通や交通や作物の生育に影響が出たりするそうだ。
「じゃあ、農業プレイヤーにも影響するのか?」
「雨の場合は降水量次第で、生育に影響がでちゃうみたい。それほどでもなければ、水やりの手間が省けるくらいだけどね。ただ、強風や嵐の日は大変なんだって」
問いかけに対するセイリュウの返事は、現実の農家と同じようなものだった。
今日は少し遅れてログインする予定のポッコロとゆーららんが来たら、詳しく聞いてみよう。
あの二人が育てている食材に悪影響が出たら、飯にも波及するからな。
「他には雨だと水属性の与ダメージが増えて、火属性だと逆に減ることがあるわね」
「種族進化したとはいえ、サラマンダー系統のトーマ君も野外だと少なからず影響を受けるわよ」
続けてメェナとカグラから雨の影響を教わり、すぐにステータスを確認すると雨を受けているため減少中っていう表示が出て、数値が少し低下していた。
前に水に浸かった時のような違和感は無いのに、多少なりとも変化はあるんだな。
ちなみにこれは野外で雨を受けている間のものということだから、屋内に入れば元に戻るらしい。
戦わない俺にはあまり関係無いけど、戦闘職だったら影響は大きいな。
「とう!」
「とー」
うわっ、イクトとネレアが大きな水たまりに飛び込んだ。
周囲へ水が散ったけど、近くに人がいなくて助かった。
「こら、二人とも。水たまりに飛び込んじゃ駄目なんだよ」
「ミコトの言う通りだぞ。近くに人がいたら、迷惑を掛けていたぞ」
「あうっ、ごめんなさい」
「ごめーなさい」
素直に謝るのなら良し。
でもなんで飛び込んだんだ?
楽しそうだったから?
だからって駄目だぞ、周りに迷惑が掛かるかもしれないからな。
「なんで子供って、水たまりに飛び込むんだろうねー」
テンションが低いダルクはそう言うが、幼い頃に水たまりを見つける度に制止を振り切って飛び込み、その度におばさんから注意されていたのはどこの誰だ。
しかも何度言っても聞かないから、しまいにはおばさんが凄い形相をしていたじゃないか。
思えばダルクが学習しないのは、あの時から始まっていたのかもしれない。
それからも水たまりを見かける度にウズウズしながらも、我慢するイクトとネレアを見守りながら料理ギルドへ到着。
食材や調味料、転送配達システムを利用して追加の熟成瓶を始めとした、道具や食材を購入していく。
その最中に冷凍蜜柑からメッセージが届き、開いてみると例の披露会の日時が決まったようで、開催場所と日時とテーマが書いてあった。
日取りは現実の明後日、場所はシクスタウンジャパン所属の町、シクスタウンジャパン・キョウト。
町はシクスタウンジャパンから、西へ数時間ほど移動した場所にあるようだ。
開始時間も特に問題は無く、テーマは前にエクステリオと雷小僧から聞いた、ごはんのお供。
使う食材や調味料は問わないが、小鉢に入るくらいの品というのが条件だそうな。
「ねえ、それって僕達も参加できる!?」
美味そうな物が食えると思ったのか、テンションが復活したダルクに問われる。
どうかなと思いつつ確認のメッセージを送ると、ほどなくして問題無しとの返事が届いた。
なんでも冷凍蜜柑がギルドマスターの「クッキングファーム」が主催のため、ギルド所属の農業プレイヤー達も参加するから全員が料理を用意する必要が無いのと、色々な人に食べてもらって意見を聞きたいそうだ。
そのため作る側には小鉢に入るぐらいの品を、大皿に盛って用意してほしいとのこと。
これは結構な量を用意する必要があるかもしれないと思いつつ、了解の返事を送る。
「うふふ、当日が楽しみだわ。移動はどうする?」
「掲示板で位置関係を確認するね」
「開催日が現実での明後日なら、明日のログイン後にでも移動しましょう」
「ポッコロとゆーららんと合流したら、二人にも相談しようよ」
早くも予定を立てているダルク達にそっちは任せて、俺は作る物の候補でも考えよう。
そぼろ風に調理した肉みそ、漬物系、賄いで作ったことがあるみじん切りにした野菜の切れ端を味付けして炒めたふりかけ風。
大勢で食べられるように大皿へ盛るとはいえ、小鉢に載せるぐらいの品っていう縛りがあるから、そういった物になるかな。
小鉢に載せるものじゃないけど、食べるラー油みたいなのはどうかな?
「よーし、やる気出てきた! 雨だけど、テンション上げていこう!」
「「おー!」」
雨なのにテンションが復活したダルク。
でも反応したのはイクトとミコトだけで、他は苦笑するか呆れているか。
とりあえず、いつまでもここにいても仕方ないから作業館へ移動し、飯の仕込みをすることにした。
ダルク達は冒険者ギルドへ寄るのと、装備の点検をすると言うので一旦分かれてイクト達と作業館へ入る。
「おい、料理長だ」
「最近は見かけなかったが、どこで料理していたんだ?」
「総員、作業の手を止めろ。香りテロにやられて手元が狂い、制作が失敗するぞ!」
ここのところは拠点で飯を作ってばかりだったから、ここへ来るのも久々だな。
「マスター。私は水出しポーションを仕込むんだよ」
おっ、やってくれるのかミコト。
なら頼もうかな。
薬草を出して道具を出してやり、乾燥だけは俺がスキルでやって後はミコトに任せ、踏み台に乗って正面に陣取るイクトとネレアの見学付きで調理開始。
まずはエクステリオと雷小僧から貰った、ピチーの実とマゴンの実を並べ、二人から貰った調理情報を基に皮を剥いて果肉を切り、別々のボウルへ入れて必要な量の砂糖を加えてそっと混ぜ、しばらく寝かせておく。
その間に夜に作る唐揚げの下ごしらえ。
ジンジャーをすりろし、醤油、ワイバーンチェリーワイン、塩少々と合わせて肉を浸け込む調味液を調合。
肝心の肉はボアオークのロースとモモを使う。
ボアオークの肉【ロース】
レア度:7 品質:6 鮮度:93
脂がたっぷりあって肉汁も豊富な肉
肉汁の旨味を引き立てる脂は甘く、それでいてサラリとして食べやすい
揚げても脂のクドさは一切感じられず、むしろ脂と肉汁の美味さが引き立ちます
ボアオークの肉【モモ】
レア度:7 品質:6 鮮度:91
適度に脂があるしっかりした歯応えの肉
火を通しても不思議と固くならず、少々厚くても柔らかく食べやすい
シンプルに焼いても美味しいですが、揚げても煮ても美味しいですよ
これらをあの揚げ物狂いが気に入るよう、少し大きめに切り分けて別々の熟成瓶へ入れ、調味液で浸して漬け込む。
料理ギルドへ寄った際、転送配達サービスで追加の熟成瓶を二つ買って合計四つになったから、部位につき二つずつ使う。
「肉を浸け込むのか」
「ということは、あれは今すぐ食べないんだな」
周囲の声を聞きながら肉の仕込みを済ませたら手と道具を洗い、水出しポーションの仕込みが終わったというミコトの頭を撫でて褒め、砂糖を加えて寝かせているピチーの実とマゴンの実を確認。
ボウルの中を見ると両方とも果肉から水分が出ているから、別々の鍋へ移して魔力コンロで火に掛ける。
焦げないように混ぜながら煮込み、灰汁が出てきたら丁寧に取り除く。
「ますたぁ! それあまいの!? あまいのつくってるの!?」
漂う甘い香りにイクトが目を輝かせ、触角とレッサーパンダ耳がバタバタ揺れる。
「におーだけで、もーあまーておーしそー!」
匂いだけで、もう甘くて美味しそう、か。
ここにカグラがいたら、間違いなく一緒に騒いでいただろうな。
「それは前にも作ったジャムなんだよ。さっきの二つの実がどんなジャムになるのか、楽しみなんだよ」
水出しポーションの仕込みが終わったミコトが、二人の隣に並んで鍋の様子をじっと見ている。
その視線を浴びながらも鍋の中に集中し、果実の風味が飛ばないよう火加減を調整しながら煮込み続け、灰汁が出なくなったら二種類のジャムが完成。
ピチージャム 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:6 完成度:79
効果:満腹度回復4%
MP最大量+3【1時間】
瑞々しいピチーの実を使った、スッキリした甘さのジャム
やや水分が多いため粘度が低く、塗るというより掛けて食べる
嫌味の無いサラリとした風味なので、パンだけでなくヨーグルトにも合います
マゴンジャム 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:5 完成度:77
効果:満腹度回復4%
知力+3【1時間】
熟成したマゴンの実を使った、雑味の無いしっかりした甘味が特徴のジャム
マゴンの実の風味が残っており、適度に残った食感も心地良い
トロリとした食感と共に芯の通った甘い香りと味を堪能してください
二つのジャムを冷却スキルで適度に冷まし、双方を味見する。
ピチージャムはスープのようにサラサラな液と、柔らかいピチーの果肉によるサラリとした潔い甘さで美味い。
対するマゴンジャムはトロリとして、しっかりとした濃厚な甘さをしている。
カレーに例えるのなら、ピチージャムはスープカレーで、マゴンジャムは日本風のトロミが強いカレーだな。
両方ともパンに添えようと思ったけど、パンに添えるのは粘度のあるマゴンジャムだけにして、サラサラしているピチージャムは転送配達でシープン一家の牧場から取り寄せたヨーグルトに添えよう。
「ますたぁ、それあさごはん?」
「はーくたーたい!」
「落ち着くんだよ、二人とも。焦らずとも後で食べられるんだよ」
今すぐ食べたそうなイクトとネレアを宥めるミコトは、すっかりお姉ちゃんだな。
自分から水出しポーションも仕込んでくれたし、頼もしく成長してくれていて嬉しいよ。
それはそれとして、周囲でイクト達が可愛いと悶えているプレイヤー達は、少し静かにしてくれ。
さて、ジャムはアイテムボックスへ入れて、ダルク達が来る前に他も用意しよう。
辛みのある縦縞のシマシマタマネギをすりおろし、醤油、酢、油と砂糖を少々、香りづけにサンの実の果汁を数滴を加えて混ぜて水で濃さを調整し、おろしタマネギを加えて混ぜ、即席の和風おろしタマネギドレッシング完成。
味も……良し。おろしたシマシマタマネギの辛さが、即席とはいえ和風のドレッシングに合っている。
次は新鮮なる包丁でキャベツをざく切り、キュウリをスライス、トマトを薄めのくし切り、甘い横縞のシマシマタマネギをスライス。
これを人数分の皿へ盛り、和風おろしタマネギドレッシングを掛けてサラダの完成。
サラダ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:8 完成度:91
効果:満腹度回復8%
魔力+8【2時間】 器用+8【2時間】
新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダ
おろしシマシマタマネギの辛さが利いた和風ドレッシングが掛けてある
新鮮な歯ごたえと瑞々しさと美味しさをご堪能あれ
うん? どうしてバフ効果の数字が……あっ、新鮮なる包丁の効果でバフ効果が強化されたのか。
生食時限定とはいえ、これは戦闘職には大きいだろうな。
「おろしオニオンドレッシングか」
「私、あれ好き」
「料理長の手作りドレッシングがあれば、苦手な野菜も食べられる気がする」
自分の分を味見して問題無いのを確認したらアイテムボックスへ入れ、先日入手したミループの実を新鮮なる包丁で刻む。
「お兄さん、お待たせしました」
「お姉さん達は別行動中ですか?」
おっと、ダルク達より先にポッコロとゆーららんが来たか。
ころころ丸もイクト達と合流して、モルモル鳴きながらタッチを交わしている。
「ダルク達ならもうすぐ来ると思うから、少し待っていくれ」
「分かりました」
「ちなみにそれは朝ご飯ですか?」
見学者が増えた中、ゆーららんの問いかけに頷きながらミループの実を刻み、続いて冷却スキルで冷やしたパイプルを刻む。
魔力ミキサーへミループの実とパイプルを入れて混ぜ合わせ、スムージー状にしたらコップへ注いで冷却スキルで冷やして完成。
アイランドスムージー 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:6 品質:7 完成度:83
効果:満腹度回復2% 給水度回復10%
俊敏+11【2時間】 運+11【2時間】
カイゴー島で採れた食材だけを使ったスムージー
ミループの実の酸味と冷やしたことで甘くなったパイプルによる、シンプルな組み立て
爽やかで甘酸っぱい味わいで気分爽快
ほう、確かにこれは爽やかで気分が晴れるような甘酸っぱさだ。
割合は半々にしてみたけど、パイプルの甘さが思ったほど強くないから、ミループをもう少し減らしてパイプルを増やした方が良かったかな。
でも甘いジャムが二種類ある今日の朝飯には、酸味強めのこれがちょうどいいかもしれない。
「お待たせ。朝ご飯できてる?」
ここでダルク達も来たようだ。
雨でテンション低めのダルクじゃなくてセイリュウに声を掛けられ、少し待ってくれと告げて人数分のスムージーを作る。
その間に皆は椅子を用意し、水出しポーション類を仕込んでいるボウルを端に寄せていく。
着席した皆の前へ、ストックのパン、二種類のジャム、砂糖をちょっとだけ加えたヨーグルト入りの小鉢、スムージー、サラダを並べてフォークとスプーンを添える。
「あら、今日は洋風なのね」
「こっちへ来てから米主体だったから、たまにはな」
並んだ飯を見て呟いたメェナへそう返したけど、実際のところはエクステリオと雷小僧から貰った中にジャムがあったから作ってみようと思ったのと、このままだとストックしたまま長期放置しかねないパンを片付けたかったから。
なにせ甘味の権化がいるんだ、ジャムを作ればストックのパンを大量に消費してくれる。
「ジャムが! しかも二つも!」
その甘味の権化たるカグラがピチージャムとマゴンジャムを前に、歓喜の表情で両手を頬に添えて震えている。
この調子ならストックのパン大量消費計画は上手くいきそうだ。
ポッコロ、震えのせいで少し揺れている胸元を見ていると……ほらみろ、隣のゆーららんに足を踏まれた。
向かいに座るセイリュウよ、俺はそこに注目していないから不満そうな顔でジッと見ていなくとも大丈夫だぞ。
「よーし。準備できたね。じゃあ、いただきます」
音頭はいつものようにダルクが取り、食事開始。
「ん~。このマゴンジャム、自然で濃厚な甘さが最高ね」
パンへたっぷりマゴンジャムを塗ったカグラが、幸せそうにパンを頬張って口の傍に付いたジャムを舐め取る。
早くもストックのパンを出す準備をしておいた方が良さそうだ。
「こっちのピチージャムはスッキリした甘さだね」
「粘度が低くてサラサラだけど、ヨーグルトへ掛けるにはいい感じだよ」
セイリュウとダルクはピチージャムを掛けたヨーグルトを食べている。
パンに浸けているころころ丸も、美味そうにモルッって鳴いて食べているから、パンにも合うようだ。
「あら、このサラダ美味しいじゃない」
「私達が育てた野菜、そのままでもこんなに美味しいのね」
「お兄さん、このおろしたタマネギ入りのドレッシングも美味しいです」
器を持ってサラダを食べたメェナに続き、ゆーららんが自作の野菜の味に感心し、ポッコロはドレッシングを褒めてくれる。
「ぷはー! ますたぁ、こののみもの、あまくてすっぱくておいしい!」
「おかーりほしーの!」
はいはい、そうなるだろうと思っておかわり分もあるよ。
「それだけじゃないんだよ。一口に甘酸っぱいと言ってもこのスムージーは甘味よりも酸味の方が強くて、しかもそれが爽やかだから他の料理との味のバランスが取れているんだよ。これで甘味が強いと、二種類のジャムもあるから全体的に甘い食事になってしまうんだよ」
スムージーを飲んで食レポをするミコトに、周囲から「ほう」とか「なるほど」って感嘆の声が漏れる。
今度の披露会にミコトを参加させたら、どんな食レポをしてくれるんだろうか。
「私は甘味が強くても構わないわ!」
スプーンでパンにマゴンジャムをベタベタと塗りたくるカグラがドヤ顔で言うけど、それで甘い食卓になっても構わないのは甘味の権化たるお前ぐらいだ。
いや、甘いのが好きなイクトもそうか?
「?」
夢中でピチージャムを掛けたヨーグルトを食べ、口の周りをジャムとヨーグルトだらけにしたイクトが、俺の視線に気づいて「なぁに?」と言いたげに首を傾げた。
なんでもないから、存分に食ってくれ。
それと後で、同じように口の周りがジャムとヨーグルトだらけのネレアと一緒に、ちゃんと口を拭くんだぞ。
「久々に見た料理長の飯、やっぱり美味そう」
「あんな朝食を毎日食べたいわ」
「洋食版、ご機嫌な朝食だな」
最近はカイゴー島の拠点で食べてばかりで、こうして周囲の反応を聞くのは久々だな。
いや、この前レベル上げでセーフティーゾーンへ寄った時に聞いたから、そうでもないか。
「おぉっ、少年ではないか! 久しぶりなのである!」
こ、この喋り方と、どこまでも響き渡りそうな声は……。
「元気そうでなにより! そして米のあるこの地への到達、実に大義である!」
振り返った先には、何人かの男性プレイヤーを従えた大柄で筋肉質な坊主頭の男性プレイヤー、野郎塾塾長こと江乃島平太郎がいた。
「あっ、じゅくちょーさん!」
「うむ。わしが野郎塾塾長、江乃島平太郎なのである!」
ぐおぉぉっ! 久々に聞いた塾長の大声自己紹介が、以前より大きく力強くなっている!
平然としているのは塾長と一緒に現れた男性プレイヤー達だけで、周囲のプレイヤー達は耳を塞ぎ、うちの腹ペコ軍団ですら食べる手を止めて耳を塞いで――あぁっ、塾長と初対面のネレアが今の大声自己紹介にやられてフラフラだ。
しっかりしろ、ネレア。
「あうー。まーたー、あたまくーくるすーの」
頭がクルクルって、ひょっとして頭の中で鳥が円状に飛んでいるのか?
まあ今はそんなことよりも、念のため状態を確認しよう。
見た感じはフラフラ揺れているだけで問題無さそうだけど、ステータスは……よし、状態異常にはなっていないな。
「じゅくちょーさん、おこえおっきーね」
「ぬははははっ! こちらでも毎食米を食えるようになったお陰で、常に元気満タンなのである!」
むしろ、元気満タンじゃない時があるのか?
「少年よ、米を見つけてくれたお礼をしたいのである。何かわしらに出来ることはあれば、遠慮せずに言うといいのである!」
いきなりそう言われても、塾長達に頼みたいことが思い浮かばない。
だからといって断るのは悪いし、ここは一旦保留にして後日何かあったら頼るって形にしようかな。
「あっ、だったら一ついいですか?」
悩んでいると左耳を押さえたままダルクが右手を挙げ、塾長に促されて頼みを告げる。
その内容は、例の披露会をやる予定地であるシクスタウンジャパン・キョウトへの同行。
彼らに移動中の戦闘を手伝ってもらうことで、俺とポッコロとゆーららんところころ丸という非戦闘員がいても安全マージンを確保し、現実の明日にする予定だった移動の前倒しが可能になる。
勿論、塾長達だけに戦わせるようなことはせず、ダルク達やイクト達も戦うようだ。
これについてカグラ達は揃って賛成し、シクスタウンジャパン・キョウトへ向かう理由を知ったポッコロとゆーららんも賛成。
俺も文句は無いから構わないと返す。
「どうでしょうか、塾長さん」
「ぬっはっはっ! 構わないのである! 戦闘ならばわしらの得意分野で少なからずレベル上げにもつながるゆえ、文句は無いのである!」
高笑いした塾長がそう告げると、後ろに控える男性プレイヤー達も「押忍! 文句はありません!」と返事する。
ははは、こりゃあまた、心強い護衛ができたものだ。




