未知へ踏み出す
進化できるようになったネレアの進化先がよく分からず、カグラとセイリュウとメェナに情報を共有。
五種類あるのは他のモンスターの進化でも確認されているから、それ自体は問題無いそうだ。
問題なのは亜種限定特殊進化と、スキル構成が違うという理由で通常種なら選べる進化先が一部無いこと。
「確かネレアのお姉さんの話だと、通常なら水魔法で戦うのよね」
「あとは歌と糸紡ぎが上手いって話もしていたわ」
「表示されていないのは、それ関係の進化かも」
腕を組んだメェナと指を立てたカグラが通常種について述べ、そこからの考察をセイリュウが口にする。
「ということは、亜種限定なのはネレアのスキルによるものなのか?」
「その可能性が高いわ。このクラフトネレイスなんて、明らかに木工とか石工とか鍛冶が絡んでいそうじゃない」
そういうことか。
なら、アンノウンとヒールはどういうことなんだ?
アンノウンは亜種だからとしても、回復に使えそうなスキルも魔法も無いのにどうしてヒールなんだ?
「なんにしても、確認してみるしかないよ」
セイリュウの指摘通り、進化先のステータス変化と進化後の姿を見られるから、確認した方が早いよな。
というわけで、上から順番に確認。
まずはプリンセスネレイス。
ステータス変化はバランス型で、外見は服装が名前通りの姫風になっているだけ。
続いてネレイススイマー。
ステータス変化は俊敏だけがずば抜けて伸びやすいのはともかく、なんで服装が競泳水着に水泳帽にゴーグルなんだ。
スイマーだからか、スイマーだから競泳水着が基本装備なのか?
「これを考案した人は何を考えているのかしら?」
「スクール水着だと趣味全開だから、ちょっとズラしたんじゃないかしら。うふふふふ」
頭が痛そうな表情を浮かべるメェナに続いて、含み笑いを浮かべたカグラが考察を述べる。
なんにしても、水着で町中を歩かせるのはネレアへの教育の観点から許せない。
装備はそのまま外見だけ変えられるとしても、主として許可できない。
「次からいよいよ、特殊進化先か」
どんな進化をするのか、不安と期待が入り混じりながらクラフトネレイスについてのデータを表示させた。
ステータスは器用と運が高くなりやすく、外見は袖が余った作業着姿になっただけで、腰には玄十郎が付けているような道具入れがある。
それとこれに進化したら生産に特化するようになるのか、戦闘系スキルが消えるようだ。
続いてヒールネレイスを選択。
名前からして回復系だから、MPと魔力が高くなりやすくて看護師みたいな服装になるんじゃないかと思っていたら、全く違った。
「なんだ、これ……」
表示させた外見に、思わずそう呟く。
メェナとセイリュウは表情をこわばらせ、カグラは口元に手をやって「あらまぁ」と呟く。
イクト達ですら、ポカンと口を半開きにして固まっているほどだ。
そんな反応をするのも無理はない。
だってヒールネレイスの外見は癒し要素なんて皆無の、悪役レスラーみたいなものだったんだから。
水色の髪は金と黒で染め上げられ、タレ気味の目はつり上がって、黒を基調とした某世紀末のマンガみたいな肩に棘がある服装をしている。
鎖分銅は両腕の肘から手首にかけてグルグル巻きにされており、少し余した分を両手にそれぞれ持っている。
なんで? なんでヒールなのに、こんな外見になるんだ?
「あっ、ひょっとしてヒールってプロレスの悪役のこと?」
ハッとしたメェナの呟きでようやく理解した。
ヒールとは回復とか癒しを指すんじゃなくて、悪役レスラーを指しているのだと。
鎖分銅か? 鎖分銅を振り回してぶつける姿がそれっぽいから、こういう進化先があるのか?
正確には鞭術に当たるけど、それぐらいしか理由としか思い浮かばない。
ステータスはHPと腕力が高くなるパワー系の前衛で、種族スキルが凶暴化っていうのに変わるようだ。
うん、こんな姿で大暴れするネレアは見たくない。
「これは無いな」
「そうね」
「さすがにこれはちょっと、ねえ?」
「却下」
「いくともこんなねれあはいや」
「無いんだよ」
「ねーあ、これやー!」
皆からも不評で本人も嫌と言うのなら、これは選ばなくていいな。
そしてラストはアンノウンネレイス。
ステータスは体力と知力が高くなりやすく、他も僅かに高くなりやすくなっており、種族スキルが開眼に変わっている。
外見は……今とさほど変わらない。
背丈が少しだけ伸びて、紫色のドレスが丈の短さや袖の長さはそのまま、フリルが付いて若干豪華になっているぐらい。
いや、それだけじゃない。
前髪で隠れていない右目の上辺りの額に、赤い星の模様が浮かんでいる。
「アンノウンっていうから禍々しくなるのも覚悟していたけど、案外普通ね」
「これのどこがアンノウンなんだろう?」
首を傾げるカグラとセイリュウの言いたいことは分かる。
どうしてこれがアンノウンなのか、俺にも分からない。
あとは種族スキルの開眼も分からない。
ネレアの目は開いているし、額に現れたのは第三の目的なものでなく赤い星の模様だ。
「ひょっとして、このゲームの名前から取っているのかしら?」
「どういうことだ?」
考える仕草をしたメェナに尋ねると、あくまで推測だけど、と前置きして説明を始める。
このゲーム、UPOの名称におけるアンノウンが指すのは未知。
もしもアンノウンネレイスがそれと同じだとしたら、未知なるネレイスということになるんじゃないか、とのことだ。
「ネレアは通常のネレイスとは違うスキルを持っている。それはつまり、ネレイスにとって未知の力を持っているってことじゃないかしら?」
「つまりアンノウンネレイスは、その未知の力が強調されたものだと?」
俺の問いかけにメェナが頷く。
推測の域は出ないものの、一応の筋は通っている。
つまりアンノウンネレイスは、未知の力を得たネレイスってことか。
「なんにしても、選ぶのはトーマ君よ。どれにするの?」
カグラにそう言われ、改めて進化先を見る。
悪役なヒールと水着姿なスイマーは教育的観点から無しとして、残るはプリンセスとクラフトとアンノウン。
生産は特化させなくてもできるし、戦力が低下して皆に負担を掛けると悪いからクラフトは無し。
そうなるとバランス型のプリンセスか、未知なるアンノウンか。
「……ネレア、この二つどっちがいい?」
決められないから本人に決めてもらおう。
「ねーあ、きめーいーの?」
「ああ、いいぞ」
「わーた!」
一瞬きょとんしたネレアの確認に許可を出すと、余った袖を揺らしながら両腕を上げて応える。
後ろでカグラ達がいいのかなとか言っているけど、本人の意見も重要だろう。
嬉しそうに体を小さく左右に揺らすネレアへ、両方のステータスと進化後の姿を再度見せた。
ステータスが分かるかはなんとも言えないから、おそらくは外見で決めるんじゃないかな。
「こーち! こーちがいー!」
余った袖を揺らしながら右腕で示したのは、アンノウンネレイス。
「どうしてこっちなんだ?」
「なーかぴーんてきて、きょーみひかーた」
興味惹かれたのはともかく、なんかピーンってきたってなんだ。
子供だしなんか特有の感覚でもあるのかと思いつつ、本人の意見を尊重してアンノウンネレイスを選択して進化させる。
直後にネレアは光に包まれて、数秒後に光が消えると表示されていた通りの姿になっていた。
右目の上の赤い星以外、背はちょっとしか伸びていないし、服装もフリルが付いて若干豪華になっただけだから見た目はさほど変わらないけどな。
「こーでねーあもいーととみーととおなーじ!」
しかも口調は進化前のままか。
おめでとうと祝福するイクトとミコトを横目に、カグラ達に促されネレアのステータスを表示させる。
*****
名前:ネレア
種族:アンノウンネレイス
職業:なし
性別:女
レベル:30
HP:84/84
MP:41/41
体力:77
魔力:40
腕力:83
俊敏:36
器用:79
知力:35
運:42
種族スキル
開眼
スキル
水泳LV34 鞭術LV29 採取LV16
石工LV13 鍛冶LV10 木工LV8
拘束LV1
装備品
頭:なし
上:称海のドレス
下:海麗のスパッツ
足:海快のローファー
他:なし
武器:豪海なる鎖分銅×2
*テイムモンスター
主:プレイヤー・トーマ
友好度:43
満腹度:71% 給水度:83%
*****
亜種限定特殊進化によるものなのか、種族のところから亜種の表記が消えた。
スキルは新たに拘束っていうのを習得していて、調べてみると相手を縛って動きを封じるスキルのようだ。
これってやっぱり、鎖分銅で縛るんだろうな。
服装が変化したから装備も変わったのは当然として、問題は種族スキルの「開眼」だな。
どういうスキルなのかを調べるために情報を表示させる。
開眼:新たな力による未知の可能性を示す
一定時間、主人又は味方プレイヤーの中から一人の能力を向上
未収得のスキルから習得可能なものをランダムに一つ与える
*効果終了後、能力は戻り与えたスキルは消えます
*対象はパーティー、又はチーム内からランダムに選ばれます
*一度使ったらインターバルが必要です。ご注意ください
へえ、強化を促すスキルなのか。
確かに今まで習得していなかったスキルを使ったことで、今まで気づかなかった新しい道に気づくかも。
「アンノウンはやっぱり未知って意味で使われていたのね」
「対象がランダムでインターバルもあるのは仕方ないけど、これはいいんじゃないかな」
「うふふ。せっかくだし、次の戦闘で試しましょうよ」
というわけで岩場を移動し、次に遭遇した動く枯れ木、オールドトレント三体との戦闘で早速使用する。
「ネレア、やってくれ」
「わーた!」
返事をしたネレアが「むん」と言うと額の赤い星が光を放ち、メェナが赤いオーラみたいなのに包まれた。
あの赤い星は「開眼」を使う時に反応するもので、対象に選ばれたプレイヤーはああなるのか。
「なにこれ、「打術」っていうスキルを一時的に習得したわ」
打術? どういうものか想像できずに首をひねる中、早速メェナがそれを披露してくれた。
「うりゃあぁぁぁっ!」
雄叫びと共に嬉々とした表情のメェナが掌底、いや張り手を浴びせてオールドトレントを一体吹っ飛ばした。
一体とはいえ距離が取れたことで戦況が有利になり、吹っ飛ばされた個体も動きが鈍くてこっちへ来るのが遅い。
「張り手は吹き飛ばし効果があるのね! 他はどうかしら!」
どこか楽しそうなメェナは張り手に続いて掌底や手刀、さらには貫手っていう伸ばした指で突く技をオールドトレントへ繰り出していく。
「見た感じだと、拳以外の打撃技が使えるスキルなのね」
「今までは拳で殴ることしかできなかったもんね。他はせいぜい、裏拳くらいだったし」
俺の前に立つカグラとセイリュウの会話から、「打術」ってスキルの想像がついた。
打撃のレパートリーが増えたくらいでって思うけど、張り手の吹き飛ばし効果の他に、貫手は枝による防御を貫いて攻撃を当てているし、掌底は相手を空中へ浮かせて隙だらけにしているし、今使っている手刀は枝を素手で切り落としている。
おっ、今度は跳躍して拳を振り下ろして小指側の面で相手を殴って転倒させた。
嬉しそうな声を上げるメェナによると、今のは鉄槌っていうものらしい。
「あっはっはっ! なにこれ楽しー! いいじゃない、この「打術」って!」
「きにーてくーてあーがと」
目を輝かせるメェナの様子に、「拘束」スキルを使って鎖分銅をオールドトレントへ巻き付け、動きを封じたネレアがお礼を言う。
しかし、あんなに生き生きとしているメェナは現実も含めて初めて見たよ。
やっぱりストレスをため込んでいるのか?
豆板醤の熟成も済んだし、明日はシクスタウンジャパンで活動予定だから、その時に豆腐を買って麻婆豆腐を作ってやるかな。
勿論、メェナのは豆板醤だけでなく唐辛子とビリン粉をたっぷり使って。
そう思っているうちに戦闘は終了。
テンションが上がったメェナはイクト達とタッチを交わし、清々しい表情で戻ってきた。
「開眼」の効果が切れると少し寂しそうになったが、溜まっていたポイントですぐに「打術」を習得。
早くもネレアにより、未知の可能性を切り開いたか。
なお、「開眼」のインターバルはゲーム内で六時間必要なようだ。
「ランダムとはいえ、スキルを一つ与えるならインターバルが長くても不思議じゃないよね」
「能力の向上も結構なものだったわ。効果が切れる前に確認したけど、五割増しよ」
「まあ、それは凄いわ」
移動しながら「開眼」について話すカグラ達の声が聞こえたのか、俺の左手を握るネレアが「むふー」と上機嫌に鼻息を吹く。
「ところでこの情報、ミミミに伝えたらどうなるかな?」
「「「間違いなくヘドバン」」」
だよなぁ。容易にその光景が浮かぶよ。
なにはともあれ、しばらくは「開眼」が使えないから普通に戦闘を重ね、途中のセーフティーゾーンでの昼飯にする。
「変異種の野菜がたっぷりで美味しい」
「うふふ。こういう、野菜多めの焼きそばもいいわね」
「野菜が多いのに水っぽくないのがいいわ」
勢いよく食べる麺好きのセイリュウを筆頭に、カグラとメェナも気に入ってくれたようだ。
「おにくもやさいもおいしー!」
「しーわーむ、おーしーんだね。ねーねたち、きみわーいてりょーりしなーたから、たべらーなかった」
外見で言えばミミズだから、気味が悪いって思うのも無理はない。
でもだからといって食べなかったとは、ネレアの姉達にはもう少し食への冒険心を持ってほしいものだ。
「変異種の野菜とシーワームの肉にばかり注目しているけど、これが焼きそばとして成立しているのは麺の存在感が負けていないからなんだよ。太めの麺を使っているし具材とのバランスをちゃんと考えているから、麺がただの付け足しにならず存在感を出して、これを焼きそばとして成立させているんだよ」
いったいミコトの食レポはどこまで進化するんだろうか。
スープやカクテキへの反応も良く、昼飯は全員ご満悦の様子で終了。
その後も戦闘を続ける中、あまり戦いすぎるとカグラ達とダルクとの間でレベル差が開くんじゃないかと思い、確認すると――。
「頑張っていればログインできるのに、頑張らなかったから仕方ないわ」
「うふふふふ。勉強をサボったツケよ」
「自業自得だから気にしないで」
……それもそうか。
カグラ達の言い分に納得し、レベル上げを継続。
岩場を歩き回ってモンスターとの戦闘を重ね、頃合いを見計らって拠点への帰路に着く。
その途中でまたギガントワイルドフロッグと遭遇。
インターバルが終わったこともあり、ネレアの「開眼」を使ったんだけど……。
「俺に火耐性が付いてもなぁ」
「こうなる可能性があるのは分かっていたから、気にしないで」
今回の「開眼」の対象に選ばれたのは俺で、与えられたスキルは「火耐性」。
これがテイマー系の職業なら戦闘職だからいいけど、俺は料理人だしそもそも一切戦わない。
そういう意味では、今回の「開眼」は無駄撃ちになったと言えるだろう。
「でも、全く収穫が無かったわけじゃないぞ」
というのも、今の戦闘終了後に確認したドロップアイテムの中に、ギガントワイルドフロッグの肉があったからだ。
しかも俺だけでなく、カグラも入手していた。
「あのカエル、お肉をドロップするんだね。これまでに落とさなかったのは、確率が低いからかな」
「ダルクが知ったら、肉は欲しいけどカエルと戦わなくちゃいけないから葛藤しそうね」
確実に頭を抱えて悩むだろうな。
「ねえトーマ君、カエルのお肉って食べられるのよね?」
「ああ、食えるぞ。主に揚げ物とか炒め物に使う」
肉を受け取りながら質問に答える。
修業時代に食べたことがある祖父ちゃんによると、淡白な味わいだって話だ。
これはゲーム内特有の肉だから味見をしてみる必要はあるけど、問題無ければ晩飯に使ってみよう。
「きょーのばーごはんそれつかーの?」
「味見をしてから決める」
なにせゲーム内特有の未知の肉なんだ、味見をせずに使うのは怖い。
「ところで、今夜は何を作る予定なの?」
「この肉が使えるなら、ナスと一緒に辛味噌炒めにする」
カグラから受け取った肉を確認しながら、セイリュウからの質問に答える。
味噌ダレに熟成豆板醤を少し加える予定だけど、メェナの分には濃くなりすぎない程度に熟成豆板醤を使って、念のため唐辛子も加えておこう。
「ちなみに明日はシクスタウンジャパンで豆腐を買って、麻婆豆腐を作るからな」
「きたあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
麻婆豆腐を食べられると分かり、メェナが興奮してはしゃぎだす。
うん、そんな反応をすると思っていたよ。
「そうと分かれば、早く帰りましょう!」
いや、早く帰ったからってすぐ明日にはならないからな。
急かすメェナを宥めて移動を再開し、一回戦闘を挟んで無事に拠点へ到着。
最終的に俺はレベル四十六、イクトはレベル四十二、ミコトはレベル四十一、ネレアはレベル三十六になった。
ポッコロとゆーららんはまだ拠点に戻っておらず、メッセージだけ送って厨房で飯の準備をしておくことにした。
まずやるべきは、ギガントワイルドフロッグの肉の味見。
元々が大きいから、肉自体も両手で持たなくちゃならないほど大きい。
脂身が少ないピンク色で、触れてみると固くはないものの強めの弾力がある。
湿地帯にいるから香りが心配だったけど、泥臭さは無くて無臭だ。
ギガントワイルドフロッグの肉【モモ】
レア度:7 品質:7 鮮度:86
脂身はほとんど無いが、ワイルドな旨味と歯応えのある食感が特徴
厚みがあると固さが気になるので、細かくするか薄切りがオススメ
焼くか揚げれば野性味の強い旨味が際立ち、蒸すか茹でるかすれば旨味を残しつつ大人しい味わいになる
肉についての情報を確認したら前掛けとバンダナを表示させ、味見に使う分を切り取り、スマホぐらいの大きさと厚みがある四切れの肉にした。
四つの魔力コンロに水を放った鍋を二つ、油を張った鍋を一つ、それとフライパンを用意して火に掛ける。
先に準備が出来たフライパンに油を敷いて肉を焼き、次いでお湯が沸いた鍋の中へ肉を入れ、もう一つの鍋には蒸篭を重ねて肉を蒸し、温まった油で肉を素揚げにする。
それぞれが完成したら塩を振り、順番に味見していく。
……うん、説明にある通りだ。
焼いたのと揚げたのは野性的な旨味が強く、蒸したのと茹でたのは野性味こそ弱まったけど旨味の強さは変わらない。
ただ、これも説明にあるように少し食感が気になる。
スマホぐらいの厚さがあるこれは噛み切れるけど、ステーキとか厚めのカツにしたら噛み切りにくいかも。
もしもそういう料理にするなら、何かに漬けこんで柔らかくするなり、噛み切れるように隠し包丁を入れるなり、薄切り肉を重ねて厚みを出すなり、一工夫する必要があるな。
「どう、ますたぁ?」
食べたそうな表情のイクトがカウンター越しに尋ねてきた。
「味はどれも良い。歯応えが強いのは気になるけど、そこは薄切りかミンチにすれば大丈夫だ」
つまり、これから作るナスと肉の辛味噌炒めにはなんら影響が無い。
そうと分かれば米を仕込んで魔力炊飯器で炊き、鍋に水を溜めて火に掛けて、残っているアツペラワカメを切り分けて鍋へ入れて出汁を取る。
さて、ここからは辛味噌炒めの準備だ。
ドクモドキナスを縦に切り分けてから一口大に切り、ギガントワイルドフロッグの肉は薄切りに。
さらにジンジャーをすりおろし、ネギを刻む。
続いてボウルを三つ用意して、味噌、豆板醤、砂糖をそれぞれのボウルに出して酒と味醂を加えて伸ばして味噌ダレを作る。
ただし三つ用意するのは、それぞれで辛さを変えるからだ。
俺とセイリュウとカグラのに使う分は豆板醤を少し加えた中辛程度、イクト達とポッコロとゆーららんところころ丸のに使う分は豆板醤をちょっとだけにしたピリ辛程度、そしてメェナのは豆板醤を主体にして味噌は風味付けに少しだけ。
さらにメェナ用として、刻んだ唐辛子もたっぷり用意しておく。
「さすがトーマ、分かっているわね!」
これだけの激辛仕様に嬉々とした表情と声色で言われても、正直複雑だ。
下準備が出来たら一度アツペラワカメを煮ている鍋を確認し、灰汁を取って火加減を調整。
さて、まずは味見用に自分のを作ろう。
深皿フライパンを火に掛けて油を敷いて熱し、刻んだネギとおろしジンジャーを入れて炒める。
香りが立ってきたら肉を炒め、頃合いを見計らってナスを加える。
肉とナスに火が通ってきたら辛味噌ダレを加え、全体へ絡めながら軽く炒めて完成。
ナスと肉の辛味噌炒め 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:7 品質:8 完成度:92
効果:満腹度回復17%
腕力70%上昇【3時間】 物理攻撃時与ダメージ増【特・3時間】
トロリとしたドクモドキナスと、野性的なギガントワイルドフロッグの炒めもの
主張の強い二つを辛口に調整された味噌ダレが繋ぎ、見事に調和
その味わいに、ごはんのおかわり必須
味見をしてみると説明の通り、ごはんのおかわり必須だ。
微かな甘味があってトロリとしたドクモドキナス、薄切りだから硬さは気にならず野性的な旨味に溢れるギガントワイルドフロッグの肉。
この二つの味を味噌が繋いで調和させ、喧嘩せずにしっかり組み合っている。
タレの量には気をつけたから味噌で味が支配されておらず、ネギとジンジャーの香りも利いていて美味い。
「ますたぁ、おいしそう! はやくつくって!」
「はーくたーたい! はーくつーて!」
分かったから、イクトもネレアもカウンターをバンバン叩くんじゃない。
味見したのをアイテムボックスへ入れ、二人へ注意を促してから皆の分を作る。
一人前ずつ作っては冷めないうちにアイテムボックスへ入れ、途中で炊けたご飯をかき混ぜ、アツペラワカメで取った出汁へ味噌を溶く。
そして最後の一人前、メェナの分を作る時が来た。
「皆、メェナの分を作るから一旦外へ出るか、窓を開けて鼻と口を塞いで離れておけ。唐辛子をたっぷり入れるから、鼻と喉をやられるぞ」
調理前にそう告げてると、調理時の刺激も含めて辛さの魅力だというメェナ以外は全員、バタバタと窓を開けながら食堂の端まで避難して口と鼻を手で隠した。
それを確認したらマスク代わりの布で口と鼻を塞ぎ、調理開始。
油を熱したフライパンへ、刻みネギとおろしジンジャーと共にたっぷりの輪切り唐辛子を入れる。
ぐっ、布をしていても結構くるな。
「戻りました。お兄さん、晩御飯は――ぎゃあぁぁっ!?」
「どうしたのポッーーああっぁぁぁっ! 喉が、鼻がー!」
タイミングが悪いな、ポッコロとゆーららん!
助けたいけど調理中で手が離せない。
おいメェナ、嬉々とした表情で咽ながら見ていないで、二人を助けてやれ!
あと、ポッコロの足元でモルモル鳴きながら悶えている、ころころ丸も!




