島の探索へ向けて
今回のログインで最初の飯となる晩飯の時間。
設置してある明かりを灯す魔道具が古いこともあり、食堂内は少し暗いけどさほど問題は無い。
それ以上に問題が無いのは、目の前でガツガツ食べている皆の食欲だ。
「まーたー、このおさーなすごーおーしー! ごはんたーない!」
大根入りレインボーサバの味噌煮の煮汁とごはん粒で、口の周りが凄いことになっているネレアは余った袖と浮いている足をバタバタ揺すり、フォークでサバを刺して口に含んでごはんを掻っ込み、前髪で隠れていない右目を閉じて嬉しそうにバタバタする。
「美味いのは分かった。でも行儀が悪いから、バタバタするな」
「むい!」
いや、無理と言われても困るんだけど。
「ネレアが騒ぐのも無理はないんだよ。お味噌とサバが互いを相乗効果で高めあい、それによって作り上げられた煮汁だけでも十分にごはんが進むし、その煮汁を吸った大根はほどよく味を緩和させて食べやすくしているんだよ。でもなによりも美味しいのは、圧力鍋で調理したことで骨ごと食べられるようになったレインボーサバなんだよ。絶対に美味しいとは思っていたけど、こんなに美味しいとは思わなかったんだよ」
いつものように無表情なミコトも、味噌煮とごはんを忙しなく食べている。
忙しなく食べている様子と、ツラツラ述べている食レポからして今日も美味いと思ってくれているようだ。
「時短用に圧力鍋を使ったけど、それ以外は暮本さんから教わった作り方の通りなんだ。といっても、味は全く及んでいないがな」
「うふふ。それは比べる相手が悪いわよ」
妖艶な笑みを浮かべたカグラがそう告げて味噌煮を口へ含み、続けてごはんを口にする。
分かってはいるさ、そんなことは。
未熟ながらも皆から美味いって言ってもらえるのは嬉しい。
だけどそれで調子に乗って自惚れないよう、力の差がありすぎる相手であろうとも比較して、未熟さを自覚しておきたいんだ。
主な比べる対象を祖父ちゃんや父さんや暮本さんにしているのは、そのためだ。
「もー、トーマってば真面目バカなんだから。もう少し気楽に生きたらどうなのさ。僕みたいに!」
マダラニンジンとギッチリピーマンと甘口と辛口のシマシマタマネギの細切りとニラを炒め、レインボーサバの出汁で煮て、醤油や酒で味付けし、米粉でとろみをつけた中華餡を掛けた揚げスラッシュサンマを食べるダルクが、呆れた表情で口調で告げる。
それでお前みたいな風になるのも、それはそれで駄目だろう。
「ダルクみたいな気楽さはどうかと思うけど、もう少し肩の力を抜いても良いのは同感ね」
うん、揚げサンマを飲み込んだメェナに言われれば、まだ説得力はある。
ダルクが「なんでさ!?」って言いながら、軽くショックを受けているのは気にせず俺も同じ物を食べる。
揚げスラッシュサンマの野菜あんかけ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:5 品質:8 完成度:89
効果:満腹度回復10%
MP最大量50%上昇【3時間】 俊敏50%上昇【3時間】
変異野菜を加えて作った餡を、揚げたスラッシュサンマへ掛けました
サクッとした揚げスラッシュサンマ、とろっとした野菜の餡で、味も食感も香りも抜群
餡をしっかりしみ込ませても美味しいですよ
揚げてサクッとした食感、餡のとろっとした食感、少し時間を置いたことで餡が染みた食感。
双方の香ばしさも感じられるし、味も喧嘩せずまとまっている。
ただ、前に父さんが作ったのはもっと香ばしかったよな。
これは調味料の加減か、火加減か、それとも火の通し具合か。
「トーマ君、これ以上を目指したいのは分かるよ。でも今は、美味しいご飯を満喫しよう?」
向かいに座るセイリュウが、レインボーサバの出汁をベースに作ったスープを飲んでそう告げた。
はい、おおせのままに。
「お母さんには悪いけど、お兄さんの作るおみそ汁の方がずっと美味しいです」
「お兄さんの作るおみそ汁を毎日飲みたいです」
レインボーサバの出汁で細切りの大根と刻んだ大根の葉を煮て、味噌を溶いて作ったみそ汁を飲み、安らいだ表情を浮かべるポッコロとゆーららん。
ただゆーららんよ、お前達の母親がどんなみそ汁を出しているのか分からないけど、聞いたら怒るか泣くだろうから絶対に母親の前では言うなよ。
セイリュウも、ポッコロがみそ汁を毎日飲みたいって言ったのはそういう意味じゃないから、ムッと反応するな。
ころころ丸は……モルモルッと上機嫌に鳴きながら、みそ汁を飲んでいるか。
「ますたぁ、おみそしるおいしい!」
そうかそうか、良かったなイクト。
レインボーサバ出汁の大根のみそ汁 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:7 完成度:81
効果:満腹度回復3% 給水度回復19%
運+4【1時間】
レインボーサバの出汁と味噌の香りが漂うみそ汁
出汁を取る時はジンジャーを加えたので、臭みは感じられない
具材の大根の実と葉も違った食感と味と香りがみそ汁とマッチしています
前回も今回も頭や骨で取った出汁を使ってみそ汁を作ったけど、もっと町を探索すれば昆布とか鰹節も見つかるかな。
いや、アツペラワカメを取り寄せる手もあるか。
あれを使えばそのままワカメのみそ汁を作れるから、明日島の探索が済んだら町へ行って作ってみよう。
「まーたー、おかーり! ごはんとみそしるおかーり!」
「あっ、いくともおかわり!」
「僕もおかわり!」
はいはい、おかわりはあるからネレアもイクトもダルクもたっぷり食ってくれ。
勿論、他の皆もな。
こうして今回もおかわり含めて綺麗に食べてくしてくれて、皆が余韻に浸っている間に後片付けをする。
それが済んだら、この宿舎に泊まるのなら時間はあるということで、色々と仕込みをしておく。
水出しポーション類は勿論、潰したワイバーンチェリーを入れていた醸造樽から、ボトル四本分のワイバーンチェリーワインを抽出する。
ワイバーンチェリーワイン 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:5 品質:5 完成度:76
効果:給水度回復12%
魔力+5【1時間】
*飲んだ量によって、ほろ酔い状態、酩酊状態、泥酔状態を付与
ワイバーンチェリーで仕込んだ甘味の強い薄桃色のワイン
渋味と酸味は弱いので、甘口が好きな方にはオススメ
若いので、少し熟成させた方が甘味がまろやかになりもっと美味しくなります
*未成年プレイヤーは飲めません
*料理に使ってアルコールを飛ばせば、未成年プレイヤーも食べられます
熟成させれば、ということは熟成瓶に入れればいいのかな。
でも熟成瓶は別の物に使いたいから、今回は熟成させられない。
そら豆を使って豆板醬っぽいものを仕込んで熟成瓶へ入れ、もう一つの熟成瓶には切り分けた大根と一緒に唐辛子やジンジャーなんかの調味料を加え、発酵スキルを使ってカクテキっぽくしたものを漬け込む。
「ねえトーマ、作ってもらっておいてなんだけど、人数増えたから大変じゃない?」
「別にそうでもないさ。これも良い修行だ」
心配から声を掛けてくれたメェナにそう返すと、トーマらしいわと言われた。
だってそうだろ。人数が増えれば一度の飯の支度で多くの経験が積めるし、辛い料理は好みがあるから別として、同じ味を作り続ける練習にもなる。
あとは俺自身が調子に乗ったり、悪癖が付いたりしなければ大丈夫じゃないかな。
「だけどトーマ君の負担が増えているのは確かだから、もう一人くらい料理ができる人がいた方がいいかしら?」
頬に手を添えたカグラの言うことは、現実だったら気にすべき点だろう。
結果的に何事も無かったとはいえ、祖父ちゃんも一人で厨房を切り盛りしていた時は大変だったはず。
それと当時はワンオペとか多少負担が大きくても問題無かったけど、今の時代は働き方について色々ある。
でもここはゲーム内だから体力的な疲れは無いし、俺がやっていないだけでシステム的なもので作業を簡略することもできる。
だからそれほど気にする必要は無いんじゃないと思う。
しいて人を増やす理由を挙げるなら、調理に掛ける時間を短縮するためかな。
まあそれは、全て手作業でやっている俺だからこその理由か。
「別にいいって。ゲーム内なら疲労しないから、良い修行になるよ」
「確かに材料を揃えて設備を使えれば、気疲れするまではいくらでも作れるもんね」
その通りだよ、セイリュウ。
材料を用意して設備を使うことができれば、いくらでも料理できるんだ。
おまけに人数が増えた分、全員分の料理をほぼ同じ味に仕上げる練習になるし、合間に別の料理を作りながらもほぼ同じ味に仕上げる練習にもなる。
たくさん食べてくれるからたくさん作る必要もあって、本当に良い修行になっていると思う。
「本人がこう言っているから気にすることないんじゃない?」
ダルクは俺のことよりも、自分の普段の言動を気にするべきだな。
「とはいえ、無理はしないでくださいね」
「気持ちは嬉しいですが、お兄さんに何かあったら困りますから」
優しく声を掛けてくれたポッコロとゆーららんは、ありがとう。
さてと、仕込んでおきたい物は仕込めたから、そろそろ上がっておくか。
明日の朝飯はアシュラエビを使ったスープとエビチャーハン、それと一晩しか熟成させていないけど仕込んだカクテキを少し出そうかな。
後片付けをしながらそんなことを考えていると、食堂の扉が開いて皆の視線がそっちへ向いた。
「おっ? 誰かいると思ったら、お前達か」
「あらあら。早速そんな恰好をして、和を満喫しているのね」
扉の向こうから現れたのは玄十郎とミミミ。
おそらくミミミは、この島に設置した旧式転移板の設定が甘くて一人につき一人だけ連れて来られる、っていう効果を利用して来たんだろう。
「あっ、これのおねえちゃんだ!」
ミミミを見るやイクトがヘドバンする。
「だからイクト君、その覚え方やめてーっ!」
叫ぶように拒絶してもイクトは「どうして?」って感じで首を傾げるだけ。
よほどヘドバンが気に入ったんだろうな。
「いーと、いまのなに?」
「あのうさぎのおねえちゃんのとくぎ」
「イクト君の中で私の特技がヘドバンだって認識されているっ!?」
ネレアの質問に対するイクトの答えに、ミミミだけがショックを受けた。
これにダルクが爆笑、ポッコロとゆーららんとセイリュウは震えながら笑いを堪え、カグラとメェナと玄十郎は苦笑し、ネレアところころ丸はほうほうと頷き、ミコトはミミミへ憐みの目を向ける。
俺? 米の仕込みをしていなければ、ミコトと同じく憐みの視線を向けていただろうな。
「あのさ、主人として従魔を教育してくれない!?」
「教育ならしているぞ。ちゃんと挨拶させて、悪いことをしたら注意して謝らせて、食事中に行儀の悪さへの注意もな」
幼馴染として何度注意しても直そうとしない、某揚げ物狂いもいるがな。
「そういう教育じゃない! いや、必要なんでしょうけど、私に対するあれとかさ!」
「あれがイクトの個性だから、主人としてはそれを尊重したい」
「個性を重んじる教育方針!?」
個性が無い人間なんてつまらないからな。
よほど酷い個性なら矯正させるけど、イクトの個性は矯正するほどでもないだろう。
むしろ、矯正する必要なんて無いと思っている。
そういう意味では、ミコトもネレアも個性を尊重しているつもりだ。
「うぐぅ……まあいいわ。それで、あなた達もこの島の探索に来たの?」
「ううん、僕達はこの建物に泊まりに来たの」
「ついさっき、明日は島の探索に向かうことに決まったけどね」
ミミミからの問いかけにダルクとメェナが答える。
「だったらちょうどいい。俺達と協力して探索しないか?」
玄十郎からの提案に顔を見合わせたダルク達は頷きあい、協力についての具体的な話が始まる。
ここまでの検証によると、この島へ来れるプレイヤーによるピストン輸送で、大勢の人を連れてくるのは無理らしい。
連れてきた人を島に置いて別の町へ転移できず、置いて転移しようとしたら警告が出て一緒に転移してくださいと表示されるとのこと。
ただ、連れて来た人だけで転移する分には問題無いそうだ。
「というわけで、島へ協力者を連れて来るのに手を貸してくれ」
「転移の代金はこっちで持つし、協力への見返りもするわよ」
つまりは島を探索する仲間を連れて来てほしいってことか。
転移の代金を出してくれるのなら、それくらいは協力していいかな。
「それくらいなら別にいいわ。で、肝心の見返りは何?」
「俺が調べた範囲での、シクスタウンジャパン及びその周辺に関する情報でどうだ」
メェナの質問に玄十郎が答えると、ダルク達だけでなくポッコロとゆーららんもピクリと反応した。
「お前達が既に持っている分の情報は除いて提供する。どうだ?」
「乗った!」
質問をしたメェナじゃなくて何故かダルクが返事をしたけど、誰も反対する様子は無い。
当然ながら、初心者の俺が反対することなんて無い。
この手のことはダルク達任せで、俺はたまに薬を仕込んで主に飯を作るだけっと。
「じゃあまずは、お前達が持っている情報を教えてくれ」
「当たり前だけど、こっちが把握していない情報だったらちゃんと買うわ」
だったらしっかり伝えておこうか。
どこで何を買ったのか、調理用の魔道具を売っている店、そこへ至った経緯と新鮮なる包丁を入手した経緯を。
すると、他の情報では得意気な表情で既に知っていると言っていたミミミが、新鮮なる包丁に関する情報を聞くと席を立って騒ぎ出した。
「みーかーくーにーんーでーたーっ!」
そっちも出たな、ヘドバンが。
そしてイクトが笑いながら真似しだして、ネレアも余った袖をバタバタ振りながら一緒に真似するものだから、ダルクが腹を抱えて大爆笑。
俺もそうだけど、他の皆も笑いを堪えている。
「けーんーしょーうーふーえーたー!」
それに関してはお疲れ様。
頑張って検証してくれ。
「……おほん。新情報の提供に感謝する」
なんとか笑いを堪え切った玄十郎が咳払いをして、冷静に対処してくれた。
それからミミミが落ち着いた後にダルク達が話した既知の情報によると、シクスタウンジャパンは一つの町だけでなく、周辺に所属する町や村が点在する広い領地のようなものらしい。
どうやらそれはシクスタウン以降は全部同じということは、既に掲示板にも上がっていたそうだ。
俺は知らなかったが、ダルク達は既に調べて知っていた。
「それって、所属する町や村へ転移する時はどうするんだ?」
「一応、それぞれの町や村にも名前があるんだよ。シクスタウンチャイナ・ペキンとかシクスタウンジャパン・エドって感じでな」
質問に答えてくれた玄十郎によると、名称の傾向は主にその国の地名が使われているそうだ。
ただ、時代背景はバラバラで、今は無い地名が使われていることもあるらしい。
ダルク達が知っていたのはここまでで、それから先は玄十郎からの新情報を教わる。
シクスタウンジャパンと他のシクスタウンの間には、大きくて深い河川があって渡れなかった陸の孤島状態だったのが、俺達が到達したからか渡し舟が通るようになるようだ。
「じゃあ、渡し舟を使えば別のシクスタウンやセブンタウンへ行けるんだね」
「そういうことだ。まだ現地は確認していないが、NPCからの情報だと今は船着き場を建設している最中で、明日の昼には完成すると言っていたぞ」
できれば現場を確認したいものの、戦力不足で断念したと玄十郎は言う。
この島には一人だけ連れて来られるけど、シクスタウンジャパンには到着した俺達とコン丸とくみみしか行けないから、戦力不足と判断するのも仕方ない。
「周辺のモンスターについても情報があるぞ。NPCから得たものと、戦闘は苦手だから逃げ隠れしながら俺が収集したものだけだが、いるか?」
「「「「お願いします」」」」
ダルク達がモンスターに関する情報を聞く中、俺は戦闘をしないから半ば聞き流す。
それでも妖怪のようなモンスターや、ゴブリンやオーガがこっちでは鬼として扱われているという話は耳に入った。
なお、食材をドロップするモンスターについてはまだ不明ということで、ダルク達のみならず、イクト達とポッコロとゆーららんもがっくり肩を落とす。
さっき飯を食ったばかりなのに、さすがは腹ペコ軍団。
「町中の店についての情報もいるか? 食材に関する店はほとんど知っているようだが」
「ほとんど、ということはまだあるんだな。是非頼む」
食材に関する話なら別だ、真剣に聞かせてもらう。
それによると、乾物を扱っている店があったそうだ。
昆布や鰹節は勿論、ゲーム特有の食材を使った乾物も置いているらしい。
何があるのかはあえて聞かず、今からそこへ行くのが楽しみだ。
「今提供できる情報はこんなところだな。代金の方だが――」
玄十郎の計算では、俺達が提供した新情報と明日の協力に対する見返りを考慮すると、こっちが少し金を受け取れるようだ。
それは今回の俺への報酬に充てる用で俺が受け取り、ついでだからとダルク達とポッコロとゆーららんからも、今回分の飯を作ったことへの報酬を受け取った。
「ところでトーマ、米はもう食ったのか?」
「当然だ。土鍋と魔力炊飯器、どっちで炊いても味はバッチリだった」
今後は魔力炊飯器で米を炊いて、土鍋は少人数で飯を食う時や鍋物を作る時に使おうと思っている。
「くぅー、羨ましいわね。私も美味しくたけた白米を食べたいわ」
「知り合いの料理プレイヤーにでも頼んでくれ」
明日の早朝にフィフスアイランドノースパシフィックから船が出るんだし、それに乗れば明日には米が食えるはずだ。
「既に手配済みよ。今夜ここで寝て明日の早朝にはフィフスアイランドノースパシフィックへ行って、シクスタウンジャパン行の船で一緒に来る予定よ」
さすが情報屋、手回しのいいことで。
「ついでに日本酒も買い漁るわ。前回のアップデートで、満腹度や給水度は回復しないけど味がするようになったものね、たっぷり飲むわよ」
そういえばミミミは酒が好きだったな。
あっ、そうだ酒といえば――。
「悪い、一つ伝え忘れていた。ワイバーンチェリーを使ったワインが完成したから、その情報を――」
「お願いします、情報だけでなく現物もください。崇め称えて奉りながら土下座してもいいから、是非ください!」
酒好きのミミミが超反応とも言うべき速さで起立し、頭を下げてきた。
確かに前回ブルットワインを作った時は、日頃世話になっているからそのお礼も兼ねて渡した。
でも今回はそうはいかない。
なにしろ、あの時とは事情が違うから。
「駄目だ」
「どうして!? 前にブルットワインはくれたじゃない!」
一刀両断されたミミミが顔を上げ、驚愕の表情を浮かべる。
「あの時とは人数が違うからな。皆の飯を作るのに使わせてもらう」
「そんなっ! 一本、一本だけでいいからちょうだい!」
身を乗り出して縋るようにワインを求めるミミミ。
だけど、駄目なものは駄目だ。
「悪いが優先事項は仲間達の飯を作ることだ。人数が増えた以上は使う量も増えるから、一本とて渡すことはできない」
「そんなあぁぁぁぁぁぁっ!」
はっきり断るとミミミは崩れ落ち、揚げ物禁止を言い渡されたダルクのように嘆いた。
どんなに嘆いても、駄目なものは駄目だ。
未熟な腕であろうとも、仲間達の飯を作るのが俺の役目である以上、飯のために使うこを優先にするのは絶対に譲れない。
その後もミミミからしつこくねだられたが、決して首を縦には振らずに断り続けること一時間でようやく諦めて引き下がり、ワイバーンチェリーワインの情報を買い取ると明日のために寝ると言い残して食堂から出て行った。
ダルク達は玄十郎ともう少し明日の打ち合わせをするというから、俺だけ寝るのもなんだから明日の朝飯の仕込みすることにした。
といっても、アシュラエビの殻を剥いて出汁を取り、明日用の米を炊いてチャーハン用に少し冷ましておくぐらいだけど。
あっ、それとせっかく醤油を入手したんだから醤油ダレも仕込もう。
鍋に醤油と日本酒とみりん、それとジンジャーと唐辛子と殻の一部を加えて火に掛けるっと。
本当なら昆布とか他にも色々と使いたいけど、手元に無いしなんでもかんでも加えればいい訳じゃないから、今回はこれくらいにしておこう。
「ねえ、真剣な話の最中に美味しそうな香りをさせないでくれる!?」
出汁を取っていると、話し合いから抜けたダルクから文句が出た。
「だったらダルクは、明日の朝飯抜きでいいか?」
「ごめんなさい、我慢しますから食べさせてください」
分かればよろしい。
さて、仕込みが済んだらアイテムボックスへ入れて、さっさと寝るか。




