買い歩き
騒がしい朝食を終えて後片付けをしたら、改めて町中を隅々まで見て回る。
武器屋には火縄銃のような銃や、和弓のような弓矢、刀のような剣もあるし刀自体もある。
刀を見たダルクによると、これまでの剣は体力と腕力を求められているのに対し、刀は体力と器用を求められているそうだ。
あれこれ騒ぎながら見ているダルクに対し、ポッコロとゆーららんは農具を見ながら意見交換して、メェナは真剣な表情をして武器をチェックし、セイリュウも杖を前に考え込む仕草をして、イクト達ところころ丸は見た目がやたら凝っている武器を見て回っている。
「まあ! この扇、とても良いわ。是非買わないと!」
どうやらカグラは良い物を見つけたようで、早速購入している。
購入後、良い物があって良かったなと声を掛けると、どういう物なのかを一方的に語りだす。
これまでの町で見た物よりずっと品質と耐久値が良く、打撃だけでなく魔法を補助する効果もあるというその扇は、軸の部分をギョクコウっていう素材をベースに作られており、値段は少し高めだけど良い物だからと予備を含めて購入したそうだ。
「ギョクコウ……あっ、玉鋼?」
すぐ傍で話を聞いていたセイリュウが呟く。
なるほど、セイリュウが自分の名前の読み方を変えたように、玉鋼の読み方を変えた素材なのか。
刀の素材に使っているっていうこともあって、包丁にも使われているんだよな。
それを知ったら俺も気になってきたから、店主の男性NPCに頼んで包丁を見せてもらう。
「おすすめはこいつだね。ギョクコウで作ったから切れ味が良いよ」
見せられたのは万能包丁と同じ形状をした、白みが強めの灰色をした包丁。
情報を表示させて強化されるステータスの個所は無視して説明文だけを読むと、骨ごと断ち切れるとある。
あいにく骨ごと断ち切るのが必要な料理なんてそうそう無いけど、確かに切れ味は良さそうだ。
幸い金はあるから予備を含めて購入し、ついでに手持ちの包丁でまだ使える物の耐久値を回復してもらうため、包丁一式を渡す。
もう耐久値が回復しそうにないものは下取りしてもらえるそうだから、引き取ってもらう。
「ほう、こいつは……」
回復してもらう包丁を確認する店主の男性NPCが、生鮮なる包丁を見て表情を変えた。
「生の食材を味わうための包丁か。見たところ異国の技法で作ったようだが、異国にもこういう包丁を作る奴がいるんだな」
この人、生鮮なる包丁の効果を見抜いたのか?
しかも海の向こうで作られたことも見抜いている。
NPCだからかもしれないけど、これも職人だからかな。
「うちで手入れをできなくもないが、どうせならもっとしっかり手入れができる奴を紹介してやるよ」
店主曰く、そこは調理用の魔道具を作っている店だからそこへ持って行った方がいいとのこと。
そういえば生鮮なる包丁を入手したフィシーは、調理用の魔道具職人だったな。
確かにその方が良いのかもしれない。
「じゃあ、そうします」
「なら、他の物をチャチャッと直したら場所を教えてやるよ」
そう言って腕まくりをした店主が預けた包丁を手入れしている間、ダルクとセイリュウとメェナは新しい武器を、ポッコロとゆーららんもは鍬と鎌をそれぞれ購入。
手入れが終わって耐久値を回復してもらった包丁を受け取り、代金を払って調理用の魔道具店を教わってそっちへ移動。
道中はネレアとイクトに手を引かれ、ダルク達から生暖かい視線を向けられたのは気にせず、目的地へ到着。
店内には迫力のある職人風の男性NPCと、にこやかな笑みを浮かべる女性NPCがいて、話しかけると男性が職人で女性が店主らしい。
ちなみに、夫婦とのこと。
「ほう、なるほど。異国の技法で作ってあるが、なかなか良い出来だ。異国でこんなのを作っているんじゃ、俺もうかうかしていられないな」
職人として思うところがあるのかニヤリと笑ったけど、それにすら迫力がある。
だけど技術は見た目を裏切らず、とても手際よく包丁を研いで耐久値を回復してくれた。
「ところで坊主よ、うちにも同じような物がある。欲しいなら売ってやるが、いるか?」
「お願いします!」
生鮮なる包丁は予備が無いから、売ってもらえるのなら手持ち金を全部出してでも欲しい。
お願いすると店主は一旦奥へ行き、一本の包丁を持ってきた。
新鮮なる包丁 製作者:NPC・ジンベエ
レア度:7 品質:9 耐久値:470
腕力+10 器用+65
装備条件:職業が料理人
調理使用時:バフ効果の補正がプラスの場合5上昇、パーセントの場合5%上昇【生食時に限る】
命への心からの感謝と敬意が込められた包丁
これで切った食材は味付けや加熱といったことをせずとも味を感じられる
ただし生食可能な食材に限る
生鮮なる包丁の上位互換じゃないか。
しかも生食限定とはいえバフ効果の強化までするなんて。
「こいつだ。少々値は張るが、どうだ?」
「買います!」
提示された金額は確かに高めだけど、現実じゃなくてゲームのここなら金はある!
複数本あるからと言うから、予備を含めて新鮮なる包丁を購入。
今後は生食の料理を作る時はこいつをメインで使って、生鮮なる包丁は予備として使おう。
ついでだから炊飯器が欲しい旨を伝えると、今度は店主の女性NPCが対応してくれて、一般家庭用ぐらいの大きさの魔力炊飯器を見せてくれた。
だけどこれじゃ足りない。
なにせうちは、腹ペコガールズ改め腹ペコ軍団がいるんだから。
「最低でも十人分の米を炊ける物はありますか? 無ければこれを複数買います」
「そんなのを買ってどうする――いや、その人数なら納得だね」
最初は驚いていた店主も、後ろにいる仲間達を見ると納得した。
「あるにはあるけど、大きくて持ってくるのが大変だから直接見に行こうか。あんた、構わないだろう?」
「ああ……」
承諾を得て奥へ通してもらうと、そこには本当に大きな魔力炊飯器があった。
店主によると飯屋や宿、大人数を雇っている店や屋敷のような、たくさんの飯を用意する必要がある場所向けの物らしい。
最大サイズは百人分を仕込めるほど大きく、もはや給食室か給食センターにある炊飯器クラスだ。
ダルクやイクトやネレアが欲しそうにしていたけどさすがに大きすぎるから、皆と相談して金を出し合い、四升から五升まで炊ける業務用クラスの物を購入。
こんな大きさでいいのかと思うだろうけど、うちのメンバーの食欲を考えれば、これくらい必要になると思う。
特に丼物を作るとなると相応の量の米が必要だし、おかわりするのを考慮すれば業務用でもおかしくない。
まあ、さすがに毎回四升も五升も炊かないだろうけど、後々晋太郎達が第二陣で参加することになった場合や、何かしらの集まりで料理を振る舞うことになった場合を考慮すれば問題無い。
「こんなに大きいの買って、ちゃんと使えるの?」
「安心しろ、うちの店で使っているのとそう変わりないから」
不安そうなメェナにそう返すと、それもそうかと納得してくれた。
中華屋には定食物やご飯物が何品もあって結構な量の米を炊く。
土日祝日とかで学校が休みの時は俺が米の仕込みをしているから、業務用レベルなら問題なく扱えるし良い練習になる。
「だとしたら、お米いっぱい買っておかないとね!」
早くも米を大量消費する気満々のダルクに、皆も同意するように頷く。
あのさ、ゲーム内ならいくらでも食えるとはいえ、限度は弁えてくれよ限度は。
でないと食材と食費が食欲に追いつかなくなるぞ。
その点に付いての注意を促すると、ダルク達は新調した武器を手にしっかり稼いで食材も狩ってくると言い、ポッコロとゆーららんは野菜を育てて食材と食費を確保して薬草で水出しポーションも仕込むと言い、イクト達は俺を守ると張り切る。
飯が関わると凄い結束力だな、お前達。
とりあえず欲しい物は買えたから店を出て、町中の散策を再開。
その道中、ポッコロとゆーららんが日本酒と味醂を見つけた店に寄って仕入れたばかりだという酢を、大豆と小豆を見つけた店にも寄って拳大の大きさをしたコブシマメを、ゴボウと山芋を買った八百屋で大根を購入。
さらに魚屋を見つけ、大きくて獰猛なジャンキーガニ、長い胴と六本の腕が特徴的なアシュラエビを購入。
最後に料理ギルドへ立ち寄り、転送配達で卵を取り寄せてもらい小麦粉や油と一緒に購入した。
「ポッコロ、ゆーららん。コブシマメと大根は任せたぞ」
「分かりました!」
「大豆と小豆と一緒に育てておきます!」
頼んだぞ。
「あっ、防具屋があったよ! あそこにも寄ってみよう!」
ダルクが見つけた防具屋へ入ると、さすがは日本と言うべきか鎧兜が多く置いてある。
布製だと着物、着流し、紋付袴、法被、甚平といったものが並ぶ。
「うーん、さすがに鎧兜はなぁ……」
「見た目なんて気にせず、強化項目が優れているなら買うでしょうけど、私達はちょっとね」
鎧兜を前にダルクとメェナが困惑気味の表情を浮かべている。
見た目も気にする辺りは、やっぱり現役女子高生ってことか。
結局二人は鎧兜には劣るものの、今の装備よりは少し良い金属製の防具を購入した。
対するカグラは元々が和装だから嬉々として新しい巫女服を選び、セイリュウも和風ファンタジーな感じの物を購入する。
どうせなら俺もと思い店内を見ていると、ある物が目に映った。
「こ、これは」
例えるならそれは、和太鼓でのパフォーマンスをする人達が着るような衣装。
しかも袴っぽいパンツ、長袖インナーと帯とのセットになっている袖なし法被、足袋型のシューズと一通り揃っている。
前にたまたま和太鼓パフォーマンスの動画を見た時から、こういうのを一度着てみたいと思っていたんだよ。
「お兄さん、それが欲しいんですか?」
「意外ですね、料理人用の着物を欲しがると思いました」
既に新しい装備の購入を済ませたポッコロとゆーららんから、意外そうな目で見られた。
料理人用の服もいいけど、ここに並ぶ料理人用の着物だと和食の料理人みたいで、中華の料理人を目指す身としては少し気が引けるんだよ。
こういうのは暮本さんみたいな人が似合うと思う。
「うふふ。欲しいのなら買っちゃえば? ゲームなんだし、気にすることはないわよ」
「そうだよ。それにトーマ君に似合うと思うよ!」
鼻息の荒いセイリュウから似合うと主張されたら、買いたくなっちゃうじゃないか。
ああもう、想いに気づいてからどうもセイリュウに対して弱くなった気がするよ。
ええい、カグラの言う通りゲームなんだから、気にせず買っちゃおう。
下は黒一色の細い袴みたいなので、足袋は紺色、上のインナーと帯と袖なし着物セットのはどれにしようか。
……よし、長袖インナーと帯は黒にして、着物は襟と裾口が金、左側が赤で右側が白の左右色違いになっている物にしよう。
ついでに新しく白のバンダナと薄茶色の前掛けも購入し、早速皆で新しい装備にしてみる。
*****
トーマ
装備品
頭:無我のバンダナ
上:金龍影入り片身代わり仕立ての袖なし着物風セット
下:袴風ロングブラックパンツ
足:重心の足袋型シューズ
他:繊細なる前掛け
武器:ギョクコウ包丁
*****
「へえ、そういうのもあるんだ。和太鼓のパフォーマーみたい」
「うふふ。確かにそう見えるわね」
そういう感じの作りだから、ダルクとカグラにそう言われるのも仕方ない。
「背中に金の龍の顔があるわよ。トーマがそういうのを選ぶのは珍しいわね」
えっ、そうなのか?
メェナに指摘されて背中のスクショを見せてもらうと、口を開けた龍の頭部を象った金色のシルエットがあった。
前側しか見ていないから、てっきり柄は無いと思っていたよ。
道理で装備名に金龍影入りってあるわけだ。
「大丈夫だよトーマ君、似合っているから!」
「そうです、似合っていますよお兄さん!」
セイリュウとポッコロはありがとう。
イクト達も、かっこいいって言ってくれてありがとうな。
ゆーららん、そのニヤニヤ顔はどういう意味だ?
*****
ダルク
装備品
頭:クレセントヘッドガード
上:プロテクトインナー
下:ゴウリキロングパンツ
足:不倒シューズ
他:盤石の鎧
武器:断鉄剣 不貫の盾
*****
ダルクは兜ではないものの、額に三日月型の飾りがある防具を頭に付け、鎧と剣と盾は以前より重厚感が増した。
その分、俊敏は少し低下するけどタンクだから防御重視でいくそうだ。
「だるくおねえちゃん、そのけんとたてってどっちがつよいの?」
「へ?」
「鉄をも斬れる剣と決して貫けない盾がぶつかると、どうなるのか気になるんだよ」
「ねーあもきーなる」
イクト達が矛盾を指摘するようなことを言いだした。
元になったのは、なんでも貫けるという槍と決して貫けるものは無いという盾だったな。
答えを迫られて困ったダルクが、助けてって目を向けてくるけど顔を逸らす。
皆も同様に顔を逸らし、どうなると再度イクト達に問われたダルクが出した答えは。
「け、剣が勝つんじゃないかなー。盾は貫けないだけで、斬れないわけじゃないからさー」
というものだった。
まあ落としどころはそんなところかな。
*****
カグラ
装備品
頭:天満の月冠
上:闘争の巫女服
下:戦袴
足:霊樹の下駄
他:光礼の足袋
武器:ギョクコウの鉄扇×2
*****
カグラの冠は遂に満月に至ったか。
巫女服も戦闘向けになって肩や関節部分が動きやすくなっている。
「うふふ、この音いいわね」
満足そうな笑みで新しい鉄扇同士を軽くぶつけ、音を確認している。
あのさ、メインは魔法による遠距離攻撃で、鉄扇での接近戦は非常時用じゃなかったか?
確認作業は必要だろうけど、なんだかそっちがメインに見えるぞ。
*****
セイリュウ
装備品
頭:祝魔のサークレット
上:守纏のシャツ
下:氷海のスカート
足:招雷のローファー
他:衝減のポンチョ
武器:充魔の杖
*****
セイリュウは今回、マントやローブじゃなくてポンチョを選んだのか。
背丈のこともあって雨具を着た子供に見えかねない。
「ねえトーマ、どう? セイリュウ似合っているよね?」
明らかに似合っていると言わせたそうなニヤニヤ顔のダルクが、少しばかりムカつく。
とはいえ似合っているのは本当だから、セイリュウの気持ち的にも否定するのは悪いか。
「ああ、似合っているな」
普段通りの素振りで褒めると、ポンチョに顔を隠すようにして照れだした。
本当になんで以前はこれを、褒められたから照れると思っていたのか。
激ニブな自分が少し嫌になるぜ。
*****
メェナ
装備品
頭:先撃の額当て
上:倒破のオフショルダーシャツ
下:ブーストホットパンツ
足:クラッシャーグリーブ
他:ギョクコウの胸当て
武器:バーストガントレット
*****
やっぱりメェナは露出を減らす気ゼロか。
動きやすそうだし、実際に動きやすさをアピールするように拳を蹴りを見せているけど、相変わらず目のやり場に困る。
腹も脚もほぼ丸出しで、ゲーム内でなかったら変な男達から声を掛けられかねないぞ。
「ちょっとポッコロ、なにメェナお姉さんをジロジロ見ているのよ」
「み、見てないよ!」
ポッコロ、ここは素直に認めて謝っておけ。
でないと後で面倒なことになると思うからさ。
*****
ポッコロ
装備品
頭:豊穣の帽子
上:セイテンインナー
下:キヌハーフパンツ
足:豊農シューズ
他:ネイチャーツナギ
武器:ギョクコウのクワ
*****
ゆーららん
装備品
頭:豊作の麦わら帽子
上:緑栄のシャツ
下:ファームオーバーオール
足:メグミシューズ
他:ドリュウカチューシャ
武器:ギョクコウのクワ
*****
そんなポッコロとゆーららんは、完全に農家スタイルか。
帽子にツナギのポッコロ、麦わら帽子にオーバーオールのゆーららん。
さすがに江戸時代とかの農民スタイルではないものの、どこからどう見ても農家だ。
いや、背丈や年齢を考慮すれば農業体験中の小学生だな。
「ますたぁ、いくともなにかほしい」
えっ?
「私も欲しいんだよ」
「ねーあもほしー!」
脚へしがみついてきておねだりするイクトとネレアに、じーっとこっちを見ているミコト。
いやいや、欲しいと言われてもな。
特にイクトは今の装備を外して部分変態を使うと、破れて使い物にならなくなるぞ。
「あらあら。そんなイクト君の要望に応えられる、戦闘用じゃなくて完全にファッション用の着物類があっちにあるわよ」
情報ありがとうカグラ。
すぐにそっちへ行ってみると、ファッション目的のためステータス強化は無くて着物自体に強化を施すこともできない代わりに、値段が安くて見た目を重視した着物類が並んでいる。
これなら町中で着る分には問題無いと判断し、町の外へ出る時は今の装備へ戻すことを条件に、一着だけ購入することをイクト達へ伝えた。
「はーい!」
「いーよ」
「ありがとうなんだよ」
イクト達も承諾してくれたから、好きなように選ばせる。
じっと見て選ぶミコトに対し、イクトとネレアは直感的に選んですぐに持ってきた。
イクトは木目調の茶色の甚平で、ネレアは白地に高く上がった波が描かれた袖の余った着物。
どうしてネレアは、そうも袖を余したいんだ?
何かの拘りかと思っていると、ミコトも選び終えたようで着物を持ってきた。
……どうして薄紫の生地に白くて小さいドクロがいくつも描かれた、そんな着物を選択した。
そもそも、なんでそんな着物があるんだ。
「見た瞬間にキュピーンと来たんだよ」
今は外しているレッサーパンダグローブを気に入っていた点といい、ミコトのファッションセンスは少し独特だな。
約束した手前、購入はしてやるけどさ。
あ、あとはこれに合わせてファッション用のサンダルも買っておこう。
するとここで、ダルクが提案と言う名の思いつきを口にする。
「こんなに安いならさ、シクスタウンジャパンへ来た記念に僕達も一着買おうよ」
「「「「「賛成!」」」」」
俺以外から賛成の声が上がったら、俺だけ賛成しないわけにはいかない。
結構買い物したけど食費以外に使える金はまだあるし、自分用の一着くらいなら平気だろう。
どれにしようかな。




