お待ちかねの
日曜日の昼営業。
嬉しいことに今日もお客が来てくれて満席かつ、テイクアウトの注文もいくつか来ている。
「斗真、もやしナムル用にもやし茹でられるか?」
「もうすぐで焼売が蒸し上がるから、その後でいい?」
「構わん、頼む」
だったら残った蒸し上がるまでの時間で、もやしの用意ぐらいはしておこう。
こんな調子で昼のピークを乗り越え、客が少なくなってきた頃に厨房を出させてもらい、父さんが作った賄いを食べる。
今回は飯にチャーシューと目玉焼きを載せてタレを掛けた、愛媛県今治市の名物目玉焼きチャーシュー丼。
シンプルだからこそ、ご飯に対するチャーシューの厚みやタレの量、目玉焼きの焼き加減が大事だ。
さすがは父さん、タレで濃いことは無くチャーシューが勝ちすぎることなく、目玉焼きもちょうど良くて美味い。
感心しつつもしっかり観察し、厚みや焼き加減やおおよそのタレの量を学ぶことを忘れない。
自分が作る賄いだけでなく、父さんや爺ちゃんが作る賄いを食べるのもまた勉強だ。
ただ漠然と食べているんじゃ、何にもならないからな。
「ところで斗真、今夜はゲームをしないのね?」
「ああ。この後で二時間ほどやったら今日はそれで終わり」
祖母ちゃんの確認を肯定してスープをすする。
理由は明日小テストがあって、早めに切り上げて勉強をするためだ。
予定を決めた際に勉強嫌いの早紀は反対していたけど、成績次第ではUPOを禁止される件をちらつかせ、渋々ながら了承していた。
だからといって、あいつが勉強するとは限らないけどな。
「というわけで、俺も明日に備えて早めに厨房を上がるから」
「はいよ。あの人には言ってあるのかい?」
「祖父ちゃんには朝に伝えてある」
「ならいいさ。はぁ、昔の好文も斗真と同じくらい真面目だったら良かったのにねぇ」
溜め息を吐いた祖母ちゃんが昔の父さんについてブツブツ独り言を喋り出す。
それを聞いていると、今の寡黙で職人気質な感じの父さんからは想像ができないくらい、昔は不真面目だったのが窺える。
説教されてゲーセン通いを改めさせた話は知っているけど、一体どんな説教を受けたのさ、父さん。
知りたいような、知りたくないような、そんな気分で賄いを食い終えて後片付けをしたら部屋へ戻ってUPOへログインする。
午前中に到着したシクスタウンジャパンの港に降り立つと、イクトとミコトと新加入のネレアも現れた。
「ますたぁ!」
「まーたー」
飛びついて来たイクトを受け止め、それに続いて脚へくっ付いて来たネレアはそのままにして、無表情で冷静を装って隣に並ぶミコトの頭を撫でてやる。
そのことに一瞬驚いたミコトだけど、その後はいつもの無表情が若干緩んだ。
なんだかネレアが加わってから、ミコトが少しお姉さんらしくなろうとしている節がある。
悪いことじゃないけど、無理はしなくていいからな。
「ちょっとそこの親子さん? なんでほのぼのとした和やかな光景を演出しているのかしら?」
あっ、メェナ。来ていたのか。
「しょうがないだろ。受け止めないとイクトが危ないし、ネレアはまだ幼いし、ミコトは二人に譲って我慢しているっぽいし」
「……そんなことないんだよ」
とか言ってそっぽを向く割に、ミコトの表情はちょっとだけ緩んだままだ。
素直じゃない年頃ってところかな。
「つくづく思いますが、トーマ君は年下に甘いですね」
「ポッコロ君とゆーららんちゃんにも、なんだかんだ甘いしね」
おっと、カグラとセイリュウも来ていたのか。
「そう言われてもな。一人っ子だからか?」
「まーたー、ねーあもだっこ」
自分なりにそう分析しつつイクトを左腕だけで抱き、余った袖を揺らして抱っこをねだるネレアを右腕で抱き上げる。
現実ではちょっと難しいことも、ゲームでならそう難しくない。
「言った傍からまた……」
「トーマ君は親になったら子煩悩になりそうね、セイリュウちゃん」
「なんで私に言うの!?」
頭が痛そうにするメェナはいいとして、カグラはそうやってセイリュウに振るのをやめてやれ。
気持ちに気づいたこっちとしても、なんだか気まずいからさ。
「おっ待たせー! さー、お待ちかねの白いご飯を食べるぞー!」
登場早々に食欲全開発言をかましてくれたダルク。
普段なら呆れるところだけど、空気をぶち壊してくれたから今だけは感謝しておこう。
「で、いきなり飯でいいのか?」
「「「「お願いします!」」」」
イクトとネレアを下ろしながら尋ねると、UPOへ誘われたあの日のように揃って頭を下げられた。
分かったよ、前回は晩飯を食わずにログアウトしたから満腹度も減っているだろうし、すぐに作るよ。
あっ、そういえばポッコロとゆーららんは……ログインしているか。
「誰かポッコロとゆーららんにも連絡してやってくれ。きっと食いたがるだろうから」
「分かったわ」
承諾してくれたメェナが連絡を取ると、すぐに畑仕事が終わったら急いで行くという返事が届いた。
よほど楽しみなんだなと思いながら、焦らず来いと返事を送ってもらい、作業館へ向かいながら町並みを見る。
午前中は食材集めを優先していたからゆっくり見ていなかったけど、建物の雰囲気は江戸時代くらいか。
NPC達は着物姿で履物は草履や下駄、だけど髪型はちょんまげっていうわけじゃない。
髪が長い人は何かしらでまとめたり束ねたりして、女性NPCの中には簪を指している人もいる。
「うふふ。いかにも昔の日本って感じね」
そうだな。お陰でカグラの巫女姿が浮かんでなくて、逆に俺達の方が少し浮いているよ。
「ねえねえ、どうせなら僕達も和風の装備に変える?」
「そうね。強化も兼ねてそれもいいかもね」
「どういうのがあるのかな」
ダルクの提案にメェナとセイリュウも乗り気だけど、それって俺もやるのか?
中華の料理人を目指す身としては、和装はあまり乗り気がしないとはいえ、絶対に嫌だという訳でもない。
何か料理人向けで良さそうなのがあれば、装備してみてもいいかな。
そうこうしているうちに作業館へ到着。
受付にいる女性NPCは、着物姿で簪を指していること以外は他の町と同じで、作業台を借りるシステムや設備も他の町と同じだった。
ひとまず適当に作業台を借り、一階の作業場に入ったけど誰もいない。
「あらら。航路はできたけど、まだ他のプレイヤーは来ていないのかしら?」
そういえば町中にも俺達以外のプレイヤーがいなかったな。
「うんとね、掲示板によると明日の早朝にシクスタウンジャパン行の船が、フィフスアイランドノースパシフィックから出るみたい。到着は明日のお昼過ぎぐらいかな?」
周囲を見回したカグラの感想に、ステータス画面を開いたセイリュウが掲示板の情報を伝えた。
ということは、それまでは海賊イベントをクリアした十人しかこの町へ来られないっていうことか。
今のゲーム内時間は昼少し前だから、それまでの大体丸一日は、俺達でシクスタウンジャパンを独占状態だな。
「そんなことよりも、早くお米炊いてご飯作って!」
急かしたところですぐにはできないんだから、落ち着けってダルクは。
それと米だけじゃ味気ないし、他にも何か作ろう。
ひとまず大きめの鍋を用意して、そこへ海賊イベント中の飯に使ったヘッドバットカツオの頭と中骨、輪切りのジンジャーを臭み消しに加えて煮込む。
次はお待ちかねの米をボウルに出して水を注ぎ、力を入れすぎて米を割らないよう、力加減に注意しながら米を研ぐ。
何度か水を入れ替えて研ぎ、最後にザルに上げて水をよく切り、ボウルに戻して水に浸したらしばらく置いておく。
踏み台に乗ったイクトとネレア、それとミコトが正面に陣取り興味深そうな視線を米へ向ける様子を見ながら、鍋に浮いた灰汁を取っているとポッコロとゆーららんがころころ丸を連れて合流した。
「お待たせしました!」
「お米はまだ準備中ですね! 間に合いました!」
駆け込んできて作業台の上の様子を見て安堵すると、二人から食材を提供された。
今までに育ててきた野菜類と、俺達とギルドを作ったことで増えた野菜類に加え、ここへ来る途中で見つけて購入したというそれは――。
「豆類を扱っているお店にあった、大豆です。小豆もありました」
「酒屋で見つけた、日本酒みたいなお酒と味醂です」
差し出された物を見た瞬間、俺一人でも二人を胴上げしてやりたくなった。
でもそんなことはできないから、二人の肩に手を置いて感謝を伝える。
「よくやってくれた! ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして」
「近道しようと思って裏道へ入ったら道に迷って、たまたま見つけただけですよ」
偶然にしろ見つければこっちのものだ。
後で店の場所を教えてもらえるよう二人に頼んで物を受け取り、調理を続行。
ゴボウをよく洗って細切りにして、水を張ったボウルに浸してあく抜きをしている間にニンジンを細切り、唐辛子を輪切りにする。
鍋の灰汁を取ったらゴボウをザルに上げ、よく水を切って乾燥スキルで水気だけを乾かす。
フライパンに油を敷いて唐辛子を加えて熱し、とニンジンを炒めて醤油と味醂で味付けして、最後にゴマを振って皿へ載せてきんぴらごぼうの完成。
きんぴらごぼう 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:7 完成度:92
効果:満腹度回復7%
MP最大量30%上昇【3時間】 知力30%上昇【3時間】
細切りのゴボウとニンジンを炒めた、正統派のきんぴらごぼう
醤油と味醂とゴマの風味が、いかにも日本人向け
食感の良いゴボウとニンジンが纏う甘めの味を唐辛子がピリッと味を引き締める
本当はささがきにすべきなんだろうけど、今の俺では厚みや大きさにバラツキがあるから、細切りで作らせてもらった。
他には味醂じゃなくて砂糖や日本酒っていう人や店もあるが、そこは作り手によりけりだ。
で、味は……良いね。
ゴボウの香りを立てるためにあえて皮付きで作ったから、ゴボウの風味が強い。
料理名にゴボウと入っている以上は、やっぱりゴボウを主軸に据えないとな。
それに食感も味も良いし、醤油と味醂の香りも良い。
魚醤も決して悪くは無いけど、やっぱり大豆から醤油の方が良いな。
「ますたぁ、そのちゃいろいのきのねっこ?」
「まーたー、きのねっこたべてる?」
「違うよ。あれはゴボウっていってね」
ゴボウを木の根と勘違いしているイクトとネレアへ、ポッコロが説明をしている。
日本独特の野菜だから、見慣れていないと勘違いしちゃうよな。
そう思いつつ、出来立てのきんぴらゴボウをアイテムボックスへ入れ、追加分も作っていく。
それが終わったら鍋を確認。
灰汁を取ると良い感じの色と香りの出汁になっていて、味見をして問題無いのを確認してから布を張った別の鍋へ出汁を流し、布ごとだしがらを処理して出汁を火に掛ける。
そしてネギを薄めの輪切り、豆腐を賽の目切りにして出汁へ入れ、これまた昨日入手した念願の味噌をお玉に取って、出汁の中で箸で溶く。
「「「「「「みそ汁!?」」」」」」
ダルク達とポッコロとゆーららんが声を上げると、イクト達ところころ丸がビクリと驚いた。
そりゃあな、せっかくの白米なのにみそ汁が無いのはな。
味噌を溶かしたら火加減を調整し、軽く煮ている間に米の浸水具合を確認。
良い感じになっているから、土鍋を二つ出して水ごと米を入れる。
注意すべき点は、米と水の量は土鍋の総容量の六~七割までにしておくこと。
炊きあがった時には体積が増えるのと、吹きこぼれを防ぐため、これくらいが限度だ。
「随分と大きな土鍋ね」
「大人数用を作れるよう、十号を選んだからな」
土鍋は大きさによって何号とされていて、十号は五~六人分ぐらいとされている。
この場にいる人数はイクト達ところころ丸を入れて合計十人と一匹。
今回用意した米は約十合で、茶碗でいうとおよそ二十二杯分。
全員二杯ずつ食べられる計算だから、おかわり対策はバッチリだ。
尤も、一人一回だけだが。
さてとみそ汁は……うん、良い香りだ。
味は……良し。
ネギと豆腐のみそ汁 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:6 完成度:88
効果:満腹度回復2% 給水度回復14%
知力+3【1時間】 運+3【1時間】
味噌と共にヘッドバットカツオの出汁が香るみそ汁
強烈なインパクトはありませんが、気持ちがホッと安らぐ優しい味わい
具材のネギと豆腐も出汁と味噌で美味
冷めないうちにアイテムボックスへ入れ、次は土鍋で米を調理する。
蓋をした土鍋を魔力コンロに置いて火に掛け、沸騰したら火力を調整して、水が無くなるまで炊き続ける。
その間に別のおかずを用意すべく、キャベツを小さめのざく切りにしてボウルへ入れ塩を振り、次はキュウリを薄めの輪切りにしてボウルへ入れて塩を振る。
少し片づけをしていると土鍋が沸騰してきたから火力を弱め、先に塩を振ったキャベツを揉みこんでから握って水気を取って皿へ盛り、キュウリも同じく揉みこんでから握って水気を取って皿へ盛ったら、キャベツとキュウリの塩もみの完成。
塩もみ野菜 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:93
効果:満腹度回復3%
俊敏+2【2時間】 器用+2【2時間】
キャベツとキュウリを塩もみにしたもの
浅漬けとはまた違った塩気の利いた野菜
適度に歯応えがあり、野菜の新鮮さがよく分かる
できれば漬物を用意してやりたかったけど、時間が無いから代わりにこれで勘弁してもらおう。
味と食感が問題無いのを確認したらアイテムボックスへ入れ、土鍋の蓋を少し開けて中の状態を確認。
水気が少し残っているから、もう少し火に掛けておこう。
再度蓋をしてボウルを洗ったらおかずのメインを作るべく、山芋を出してよく洗ってひげ根を取る。
「お兄さん、皮を剥かないんですか?」
「ああ。山芋の皮はさほど厚くないし、クセも無いから皮ごと食べても美味いんだぞ」
ポッコロの質問に答え、ひげ根を取った山芋をまな板に置いて土鍋の蓋を少し開けて確認。
……よし。
炊きあがったけど、蓋を開けたことで鍋の中の温度が下がったから、蓋を戻して十数秒だけ火力を上げて熱する。
それからすぐに火を止めて布巾を二枚敷き、その上に土鍋をそれぞれ置いて蒸らす。
「マスター、できたんだよ?」
「いや、このまま少し蒸らすんだ。絶対に蓋は開けるなよ」
芯までふっくらと炊き上げるには、この蒸らしが大事なんだ。
蓋を開けないよう注意を促したら途中だった山芋の調理へ戻る。
大体一~二センチぐらいの輪切りにして、ボウルへジャンジャーをすりおろしてそこへ醤油と少しだけ日本酒を混ぜて調味液を作ったら下準備完了。
魔力コンロへフライパンを一つずつ置いて油を敷いて熱し、山芋を焼く。
両面に焼き色が付くまで焼いたら調味液を加え、焼き絡めたら山芋の生姜醤油焼きの完成。
焼き山芋のジンジャー醤油風味 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:7 完成度:89
効果:満腹度回復16%
土属性被ダメージ減【小・2時間】 土属性攻撃時与ダメージ増【小・2時間】
皮付きの山芋をジンジャーと醤油主体の調味液で焼きました
食べ応えのある山芋にジンジャーの刺激と醤油の塩味、隠し味の日本酒の風味が利いている
野菜ですが立派なおかずのメインにできる一品でしょう
香りも味も問題無し。
味見をしたら待ちきれない様子の皆のために二つのフライパンで山芋を焼き、それを全て皿へ盛ったらいよいよ土鍋の蓋を開ける。
「「「「おぉぉぉぉっ!」」」」
「「わぁっ!」」
ふっくら炊き上がった米を見たダルク達が歓声を上げ、ポッコロとゆーららんが感動の声を漏らす。
しゃもじでしっかり混ぜながら、まずは情報を確認。
ごはん 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:6 完成度:84
効果:満腹度回復12%
体力+4【1時間】
土鍋でふっくら炊き上げた日本人の心
味はほのかにしかありませんが、大体の物に合う主食の一角
米が美味しいとおかずがいらないという声もあります
情報の確認が済んだら、しゃもじに付着していた一粒を取って味の確認。
……うん、絶妙の炊き加減とまではいかないけど、硬くもなく柔らかすぎることもない。
変な味や匂いもせず、現実で食べているのと変わりない感じだ。
以前に暮本さんから土鍋での米の炊き方を教わっていて良かったよ。
とはいえこの人数分を毎回仕込むのは大変だから、食後に炊飯器を探してみようかな。
「トーマ! 早く、早く!」
分かったから作業台をバンバン叩くな、ダルク。
ごはんを混ぜ終えたら作業台の上を片付け、アイテムボックスへ入れておいたおかず類とみそ汁を出す。
みそ汁はお椀へ、ごはんは茶碗へよそって皆の前へ並べ、食器はイクトとミコトとネレアところころ丸がフォークで、他は箸を添える。
「ごはんにみそ汁にきんぴら、塩もみ野菜に山芋の生姜醤油焼きかぁ」
目を輝かせるダルクが料理を見回す。
「うふふ。完璧に日本人の食卓ね」
巫女服姿のカグラが言うと説得力があるよ。
「UPOでこの光景を見るのを、どれだけ待っていたか」
拳を握り締めて力説するほどか、メェナよ。
「一回だけとはいえおかわりがあるのも嬉しい」
……どうもセイリュウの気持ちに気づいてから、満面の笑みを見ているとドキリとするな。
落ち着け、あれは飯に向けているだけだ。
「お兄さんとギルドを組んでいて正解でした。でなかったら、これを食べるのはもっと先だったと思います」
ポッコロは泣きそうな顔になるほど嬉しいか。
「やっぱりお兄さんと仲良くしておいて損はありませんでしたね。むしろ、得ばかりですよ」
そういう商売人根性を隠さないところ、嫌いじゃないぞゆーららん。
「このしろいのがおこめ?」
「やわらかそうなんだよ」
「おーしーのかな?」
米に対して懐疑的なイクト達と、それに同意するようにモルッと鳴いたころころ丸。
全ては食べてみてから判断してくれ。
「もういいよね! じゃあ、いただきます!」
『いただきます!』
「いたーきます」
いつものようにダルクの音頭でいただきますをしたら、食事開始。
そこからはもう凄いものだった。
部活後に飯を貪る運動部員かってくらいの勢いで、米を掻っ込みみそ汁をすすりおかずを食べる。
ダルクはともかく、カグラは忙しなく箸を動かすし、メェナは塩もみ野菜だけでごはん一杯食べ終わりそうだし、セイリュウは山芋を噛んでいる最中にごはんを口に含むし、ポッコロは本当のリスのようにきんぴらを噛んではご飯を食べ、ゆーららんはごはんを口に含んだままみそ汁を飲んでいる。
そうやって夢中で食べてくれるのは嬉しいけど、もっと落ち着いて食っていいんだぞ。
ところでイクト達は……。
「ますたぁ! このおこめって、すごいね!」
右隣に座るイクト、口の周りに米粒をいくつも付けて山芋とごはんを食べて満面の笑み。
「侮っていたんだよ、マスター。お米自体の味は薄いけど、このほのかな甘さが一食じゃなくて一生レベルで飽きを感じさせない上に、どのおかずとも合っているからどれと食べてもお米を美味しく感じるんだよ。しかもこれから察するに、お肉やお魚ともきっと合うんだよ。むしろ合わないおかずは何かと聞きたいんだよ」
左隣に座るミコト、絶好調に食レポしながら無表情ながら真剣にごはんを味わっている。
「まーたー! おかーり! ごはん、おーしーから、おかーり!」
イクトの右隣に座るネレア、イクト以上に口の周りに米粒を付けてまだ茶碗に米粒が残っているのに目をくわっと見開き、余った袖越しに茶碗を持ちおかわりを要求。
世が世なら、しっかり全部食べてからおかわりしなさいと怒られるぞ。
「あっ、ネレアちゃんずるい! 僕もおかわり!」
これをきっかけに皆からおかわりの要求が続出。
はいはい、順番に対応するから待ってくれ。
みそ汁もおかわり? はいよ。
できれば俺もゆっくり味わって食べていたいけど、皆がこんなに美味そうに食べているのならいっか。
はい、おかわりお待たせ。




