到着と発見
宝探しを終えた俺達を乗せた海賊船が海を行く。
乗船している人数は行きから二人増えている。
一人目はこれを機に島の外へ出るため、キャプテンユージン率いる群青海賊団に入ったクロン。
もう一人は新たに俺のテイムモンスターとなった、幼女ネレイス改めネレア。
ネレイスの亜種からもじって名付けたネレアは現在、余った袖をブラブラ揺らしてポテポテ走りながらくみみのテイムモンスター達とイクトと共に、甲板で追いかけっこをしている。
俺とダルク達は、潮風を感じながらその様子を見守る。
「うふふ。ネレアちゃん、早くも馴染んでいるわね」
「それにしても幼いとはいえ神の娘をテイムするなんて、トーマのリアルラックってどうなっているのよ?」
暖かい眼差しで追いかけっこを眺めるカグラはともかく、メェナは呆れた目を向けないでくれ。
別に俺、特別な事なんて何もしていないだろう?
やったことと言えば飯を作っただけ、大事なことだからもう一度、飯を作っただけだぞ!
他はせいぜい、サハギン達のゲームで勝ったくらいか。
なのに、あんな表示がされたんだもんな。
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≪海賊イベント隠し要素・幼き女神との友誼クリア≫
海を越える案内をしてくれた幼き海の女神。
多くの姉達から疎ましく思われていた彼女と、友好を築くことに成功しました。
プレイヤー・トーマはネレイスをテイムすることが可能です
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追いかけっこをしているイクト達を眺めつつ、表示されたメッセージを思い出す。
「切っ掛けはむしろイクトにあるだろ。懐いた相手はイクトなんだから」
「それはそうだけど、トーマの料理に美味しいって反応していたのも事実でしょ?」
はい、その通りです。
付いて行くと主張していた時も、イクトと一緒に俺の料理を食べるんだって言っていたし。
「まあまあ。お陰でネレアちゃんが仲間になって、トーマ君の戦力が強化されたんだからいいんじゃない」
宥めるカグラの言う通り、戦力の強化って意味では確かに悪くない。
納得しながらステータス画面を表示させ、ネレアのステータスを表示させる。
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名前:ネレア
種族:ネレイス【亜種】
職業:なし
性別:女
レベル:23
HP:62/62
MP:21/21
体力:52
魔力:19
腕力:54
俊敏:17
器用:58
知力:18
運:27
種族スキル
潜水
スキル
水泳LV33 鞭術LV16 採取LV14
石工LV11 鍛冶LV8 木工LV5
装備品
頭:なし
上:崇海のドレス
下:海祈のスパッツ
足:海歩のローファー
他:なし
武器:耐蝕の鎖分銅×2
*テイムモンスター
主:プレイヤー・トーマ
友好度:21
満腹度:68% 給水度:64%
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普通より強い亜種というだけあって、レベルの割にステータスの数値が高めだと皆が言っていた。
確かに進化した時のイクトとミコトに迫る数値だ。
ただし、高めなのはHPと体力と腕力と器用だけで、他はやや低めとのこと。
戦い方からして鎖分銅を振り回しての殴打だから、そういう傾向なのも頷ける。
あと、あの鎖分銅は耐蝕、つまりは錆びにくいんだな。
なお、俺達のギルド「紅蓮厨師食事隊」での役割は、イクトとミコトと同じ俺の護衛兼狩猟担当となった。
ちなみに種族スキルの「潜水」は、水中にずっと潜っていられるスキルらしい。
「もー、トーマってばまた子供増やして。家族計画はちゃんと立てないと駄目だよ、セイリュウ」
「なんでそこで私に振るの!? なんでそこで私に振るの!?」
セイリュウからの気持ちに気づいた今なら、どうしてそういう風にセイリュウへ振るのか分かる。
だからといって変なアクションを気まずいし、努めて冷静に普段通りの対応をしよう。
「ダルク、次に辛い料理を作る機会があった時、お前の分はメェナが喜ぶくらいの辛さにしておくぞ」
「ぎゃーっ!? やめてー! そんなことしたらHPは尽きずとも僕の魂が力尽きる!」
ふむ、揚げ物禁止だけじゃ芸が無いから新しいパターンを出してみたけど、なかなか使えそうだな。
「次の機会とは言わずに、次のご飯で作って!」
副次効果でメェナが激しく反応するのは想定内っと。
「だったら水煮魚っていう、辛みの利いたスープで魚を煮込んで唐辛子と花椒をかけて仕上げる料理があるんだが、それでどうだ?」
唐辛子とビリン粉はあるし、魚はダルク達が釣ったのがある。
スープも魚の骨で出汁を取ればいいから、次の飯で作ることができる。
「食べてみたいわ!」
「やめて!」
強い興味を示す辛い物好きなメェナと、強い拒絶を示す辛い物が駄目なダルク。
ダルクの軽口に対する新たな罰を辛い物にすると、こうまで二人の間に温度差が生じるのか。
揚げ物禁止だとダルクが騒ぐだけだから、なんか新鮮な感じがする。
だとすれば、ここにもう一要素加えたらどうなる?
「他には愛知の台湾ラーメンとか、宮崎の辛麺みたいな料理はどうだ? 無論、ダルクはメェナと同じくらいの辛さで」
「唐辛子とビリン粉たっぷりでお願い!」
「辛さと痺れ控えめで大盛りをお願い!」
「どっちも美味しそうなのに、辛いのは嫌だぁぁぁぁっ!」
やっぱり麺好きのセイリュウが加わって、大盛りを要求したか。
想定していたとはいえ、なんだか少し面白くなってきた。
「お姉さん達、すっかりお兄さんに胃袋を掴まれているんですね」
「ポッコロ、私達もそうなるんだから覚悟しましょう」
「そうだね」
今のやり取りを聞いていたポッコロとゆーららんが、胃袋を掴まれるのが決定事項のような会話をしている。
別にそういうつもりでいるんじゃないんだけどな。
カグラ、ニコニコ笑いながらもう手遅れじゃないの、とか言うんじゃない。
「おっと、遊ぶのはここまでにしましょう。モンスターの気配がするわ、戦闘準備!」
スキルでモンスターを察知したメェナの呼びかけで、非戦闘員は後方へ退避して戦闘が始まる。
現れたのは玄十郎曰く、麻痺や毒といった状態異常を与える触手が何十本もある、ポイズンジェリーフィッシュっていう巨大クラゲ。
触手を船に絡ませてよじ登ってきたそいつを、海賊達やダルク達やくみみのテイムモンスター達、さらにイクトとミコトとネレアが迎え撃つ。
非戦闘員の俺、ポッコロとゆーららんところころ丸、玄十郎、くみみは後方へ下がり、ミコトが死霊魔法で召喚したスケルトンガードナーっていう、攻撃力皆無で防御特化の盾を持ったスケルトン二体に守られる。
あれ? 前は三体召喚していたような……ああ、ネレアが加わって一つ枠が減ったからか。
「すらっしゅも~どと、しざーも~ど!」
両手を鋏と鎌に変えたイクトが、迫る触手をスパスパと切っていく。
「触手が邪魔なんだよ。ダークスラッシュ」
浮遊して空中から魔法で攻撃しているミコトは、触手の多さをうっとおしく思いながら闇の刃を飛ばす。
触手はそれで切断できているものの、触手に阻まれて胴体には届かない。
「とやー、てーい」
新加入のネレアは両手の鎖分銅を振り回し、迫る触手を弾くので精一杯か。
戦える中では一番レベルが低いから、それも仕方ない。
ちょっと危ない場面もあるけど、ハードハリネズミのおじじとクラフトビーバーのかりりがフォローしてくれた。
「あーがと」
ネレアのお礼に対し、おじじとかりりは気にするな、とでも言うように小さな手を軽く上げてフッと笑った。
なんだあの、小動物なのにイケオジな感じは。
「今日もー、おじじとかりりはー、性格イケメンですねー」
二体の主のくみみが、よきかなよきかなと満足している。
そうこうしているうちに戦闘は終わり、ポイズンジェリーフィッシュは消滅。
消える間際にクラゲ好きのゆーららんが、「クラゲさーん!」と叫んで手を伸ばしていた。
あれって毒あるけどいいのか? クラゲなら全部可愛いから構わない? ああそう。
「ますたぁ、かったよ!」
「ねーあ、がーばったよ」
「おう、よくやったな」
勝利報告をするとイクトと、自分の名前も上手く言えないネレアが駆け寄ってきたからしっかり受け止め、頭を撫でて褒めてやる。
その後で空中から降りてきて、無表情で自分も頑張ったと目で訴えてくるミコトも褒めてやると、満足そうにむふーと鼻息を吹いた。
「あーっ、クラゲだったけど食材は手に入らなかった!」
「あら。触手や傘は手に入ったけど、食材じゃないみたいね」
「食べられないクラゲだったとは残念」
「クラゲ入りの中華サラダは食べられないのね」
腹ペコガールズよ、そんなことを言うからゆーららんが海に向かって叫んでいるぞ。
「クラゲさーん! 来ないでー! 特に食べられるクラゲさんは!」
「あはは……。ゆーららんがごめんなさい」
気にしないでいいぞ、ポッコロ。
あれは食欲優先の腹ペコガールズが原因だから。
とかなんとかやっていると、くみみが騒ぎだした。
どうやらおじじと、ダイビングカワウソのニキキがレベルアップして進化できるようになったようだ。
複数の選択肢があるようで、何に進化させようかしばし悩んだくみみは、意を決した様子でこれにしますーと言いながら二体を進化させた。
「わー。どっちもかわいいー」
ハードハリネズミだったおじじが進化したのは、エクストラファインハリネズミ。
エクストラファインは極細って意味で、体が一回り大きくなったのに対し、背中の針が髪の毛ぐらい細くなって、その分針の数が明らかに増えている。
通常はサラサラヘアーのような感じで触り心地も良いけど、戦う時はこれが全て硬化するとのこと。
ダイビングカワウソだったにききが進化したのは、ディープカワウソ。
外見や体の大きさはそのまま、体毛に青みが出て尻尾が少し長くなったぐらいの変化しかない。
だけど能力的には結構良くなった上に、種族スキルが深海へ潜って採取が出来るものに変化したそうだ。
カワウソなのに深海ってどうなんだ?
まあゲームだし、深くは考えない方がいいか。
そんな感じで時折戦闘をしつつ航海を続け、太陽が水平線に触れるか触れないかというところまで沈んだ頃、待望の時がやってきた。
「シクスタウンジャパン、到着!」
到着した陸地へ先陣を切って降り立ったダルクが、大きくガッツポーズをして叫ぶ。
周囲にいるNPC達からクスクス笑われながらも叫んだ通り、俺達は遂にシクスタウンジャパンへ到着した。
さすがは日本だけあって、NPC達の服装は和装ばかりで、今までは唯一和装だったカグラに変わって俺達が少々浮いている服装に見える。
「おいテメェら、世話になったな。お陰で良い宝が手に入ったぜ」
全員が下船したタイミングで、仲間達とクロンを伴ったキャプテンユージンから声を掛けられた。
「またどっかの海で会おうぜ。なにせ俺達は、海賊だからな」
そう告げたキャプテンユージン達が立ち去った直後、目の前へ海賊イベントをクリアした旨が表示された。
さらにプレイヤーが未踏だったシクスタウンジャパンへ到着したことで、シクスタウンジャパンとの航路ができましたという、ワールドアナウンスが流れた。
これにより新たな地を開拓した報酬として、全員が一万Gとポイント三点を獲得。
称号の類が手に入らなかったのをダルクやコン丸は悔しがっていたけど、あの島の拠点を獲得できた上に別途報酬を手に入れたんだから、上出来だろう。
「よし、すぐに調査だ。一人では限界があるが、調べられるだけ調べておこう」
新たな地ということもあり、イベントが終わったと分かるや否や玄十郎が町へと駆け出す。
くみみは一旦自分の牧場に戻るようで、お世話になりましたと言い残して転移屋を探しに行った。
もう時間だからというコン丸はその場でログアウトし、ポッコロとゆーららんは一度畑に戻ると言ってころころ丸を伴い、くみみと同じく転移屋探しへ。
「僕たちはどうする?」
「どうするも何も、もうすぐログアウトの時間だからのんびり町を見て回る時間も無いわよ」
そうだな。メェナの言うように、もうそろそろログアウトしないと。
だけどその前に……。
「手分けして料理ギルドと作業館、それと食材を売っている店を探そう。最低でも米は見つけたい」
俺がそう告げるとダルク達は揃って賛成してくれた。
だって一刻も早く確保したいから、特に米は。
でもログアウトの時間は設けないといけないから、収穫がなくてもゲーム内の二時間後にここへ戻ってこようと決め、手分けして食材探しへ。
和風な町並みを堪能する時間を惜しみ、イクトとミコトとネレアを伴い早足で町を巡る。
運良く料理ギルドは見つけたものの、そこに米は無かった。
だけどおばちゃん職員から米屋の場所を教わってそこへ向かうと、ちょうどそこを見つけて連絡しようとしていたカグラと遭遇。
店員に米を見せてもらうと、海外の長粒米じゃなくてれっきとした短粒米だった。
しかも白米だけでなく、玄米ももち米も雑穀も売っている。
「やった。遂に、遂に米を見つけたぞ!」
「もち米があるっていうことは、大福が作れるのね!」
さすがはカグラ、白米よりもそっちなんだな。
米を食べたことが無いイクトとミコトとネレアが、米類を見て本当に美味しいのかと首を傾げているのを横目に白米ともち米を購入。
ここでも料理ギルド認定証が通用したから、少し割引した値段で入手して店を出ると、メェナが味噌屋、セイリュウが醤油屋、ダルクが豆腐屋を、それぞれ見つけたというメッセージが届いた。
よっしゃっ、全部買ってやる!
そうして町中を回り、米ともち米に続き、醬油と味噌と豆腐類、八百屋で見つけた山芋とゴボウ、調理道具や食器を売っている店で見つけた土鍋としゃもじと茶碗とお椀、といった物を購入していった。
なかなか満足できる成果を最後に挙げ、次回の飯作りを楽しみにしてログアウトする。
さてと、気を引き締めて昼営業の手伝いを頑張るか。




