相談にのった
食事前に仕込みを一つを挟み、自分の分として取っておいた料理を食べ、満腹度と給水度を回復させたら調理再開だ。
スープは食事をしている間に完成して、後から加えたジャガイモとカブにもしっかり味が染みている。
干し肉と野菜のスープ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:6 完成度:84
効果:満腹度回復19% 給水度回復31%
体力+2【1時間】
干し肉と乾燥野菜で出汁を取ったスープ
味付けは干し肉の塩気のみで出汁の旨味重視
スープを吸った野菜類も絶品
情報を確認したら、冷める前にアイテムボックスへ入れておく。
本当、こういう時に自前の鍋があると便利だな。鍋ごとアイテムボックスへ入れておけば、冷めずに保管できるんだから。
そんじゃ、次は鶏と卵を使おうか。
でもその前に、食事前にしておいた仕込みの様子を確認しよう。
「おっ、いい香りだ」
火に掛けておいた鍋を開けると、和風の出汁の良い香りがふんわりと漂う。
鍋の中には出汁ができていて、薄切りにしたシイタケの傘と軸が浮いてる。
食事前にしたもう一つの仕込みは、大きすぎて規格外品として売られてたシイタケから石突きを取って、傘も軸も薄切りにしてから乾燥スキルで乾燥シイタケにして出汁を取ることだ。
味の方は……よし、いい感じだ。
火を止めて鍋をコンロから作業台の上へ移し、代わりにフライパンを置く。
装備品の包丁で鳥のモモ肉を一口大に切ってフライパンに並べたら、肉が浸るくらいシイタケ出汁を注いで戻ったシイタケも加えて点火。
残ったシイタケ出汁は一旦端へ置き、ボウルへ卵をいくつか割り入れ、泡立て器で溶き卵にして塩を少し加える。
フライパンの出汁が軽く煮立ってきたから火を弱め、鶏モモ肉に火が通るまで煮る。
この間にまな板と包丁を手早く洗ったら、新たに購入できるようになったニラをざく切りにして、ザルには同じく購入できるようになったもやしを準備する。
ちょっと洗っただけで汚れが落ちるから、作業がスムーズにできて本当に助かるよ。
さて、鶏モモ肉に火が通ったみたいだから、ここへ溶き卵を半分ほど回し入れる。
「親子――」
「米が――」
「どこに――」
卵は複数回に分けて入れる方法もあるけど、うちは一回だけ。
その卵が固まるまで煮込んだら、フライパンから皿へ移して鶏肉の卵とじが完成だ。
シイタケ入り鶏肉卵とじ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:1 品質:7 完成度:91
効果:満腹度回復24%
体力+1【2時間】 腕力+1【2時間】
シイタケ出汁で鶏肉を煮込んで卵でとじた一品
鶏肉も卵もいいですが、味を含んだシイタケも良い味してます
白いご飯があれば完璧!
説明文の通り、白米があれば親子丼だから完璧だよ。
ただ、この西部劇な世界観に米は存在するんだろうか。存在するとしたら、どこにあるんだろうか。
日本人かつ中華料理を主体に作る身としては、一刻も早く米が発見されてほしい。
さてと。無い物ねだりはここまでにして、次を作ろう。
といってもフライパンを洗って汚れを落としたら、準備しておいたニラともやしを油で炒め、半分残しておいた溶き卵を加えるだけ。
ただし溶き卵にはフライパンへ注ぐ前に、残っている乾燥シイタケの出汁を少しと砂糖を一つまみ加えてある。
あとは卵がふわふわ状態になったら、塩を振って皿へ移して出来上がり。
もやし入りふわふわニラ玉 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:1 品質:8 完成度:94
効果:満腹度回復21%
HP自然回復量+1%【2時間】 器用+1【2時間】
シャキシャキのもやしとニラ、ふわふわの卵による食感の二重奏
卵に加えられた乾燥シイタケの出汁が隠し味
一見簡単そうだけど、だからこそ炒める技術が問われる一品
これが中華桐谷のニラ玉だ。
ニラ玉って炒めたニラを卵とじにしたり、ニラ入り卵焼きのようにしたり、炒めたニラの上にオムレツのような形状の卵を乗せたりと、店によって結構色々な形あるんだよな。
極めて個人的な意見だけど、ニラと卵が料理の主役になっていれば大体ニラ玉だと言える。
「もう無理――」
「俺も――」
「ログアウトして――」
「わー!」
さっきから作業をしているプレイヤーが、駆け足で出て行くけど何か用事でも思いだしたのか?
ニラ玉をアイテムボックスへ入れながら減っていく周りのプレイヤー達を眺める。
さてと、調理が一段落したからそろそろ声を掛けさせてもらおう。
「なにしてんだ、ゆーららん」
目の前には前回同様、かぶりつきでガン見してるゆーららんが口の端から涎を垂らしている。
「はっ!? ごめんなさい、お兄さん! 美味しそうだったからつい!」
ハッとした様子のゆーららんは、慌てた様子で涎を袖で拭き取りながら後退して頭を下げた。
ニラ玉を作り始めた辺りから、前回同様にかぶりつきで見ていたけど、調理中だったから今まで放っておいた。
「いや、別に見るのは構わないんだけど、なんでそう毎回かぶりつきで見るんだ?」
「かぶりつき?」
おっと、この言い方じゃ分からないか?
「分かりやすく言えば、とても近くで見ることだ」
「美味しそうなので、つい!」
さっきと同じことを迷いなくそう言ってくれるのは、作ってる身としてはちょっと嬉しい。
なんか周りもうんうん頷いてるけど、そっちは気にしないでおこう。
「もしも私が作ってもらえるのなら、砂糖を入れた甘い卵焼きがいいです。お母さんに頼んで作ってもらうんですけど、いつも焦がしちゃうの」
「あー。砂糖入れると焦げやすくなるからな」
それを知らずに砂糖入りを作ろうとして焦がしそうになって、慌てて調理したから卵焼きが焦げの目立つスクランブルエッグになったのは、小学生の頃の苦い記憶だ。
勿論、それは自分の責任だからちゃんと自分で食ったぞ。
甘さとほろ苦さが合わさって、なんとも悔しい味だったっけ。
「そうなんですか?」
「ああ。だから火加減に注意して手早くやらないと、すぐに焦げちまうぞ」
「分かりました! ログアウトしたら、お母さんに伝えておきます!」
頑張れ、顔も名前も知らないゆーららんとポッコロのお母さん。
「そういえば、ポッコロはどうしたんだ?」
「あいつはニチアサを見てからログインするので、まだ来てません」
ニチアサ? ああ、日曜の朝にやってる変身少女とか特撮とかのやつか。
「で、私は先にログインして、いずれ売り物にする薬を作る練習をしに来たの」
「そして俺の料理を見たくてかぶりつきで見ていたと」
「だって美味しそうなんだもん! ログイン前に朝ご飯は食べたけど、美味しそうなんだもん!」
めっちゃ力説してる。そして周りは同意するようにうんうん頷いてる。
だからってやらないけどね。これはダルク達の飯だ。
「それで、薬作りはいいのか?」
「はっ、そうでした! ではお互い、頑張りましょう!」
ビッと手を上げたゆーららんは隣の作業台で道具の準備を始めた。
ならこっちも調理を続けよう。
一旦道具を洗って片付けたら、次はいよいよダルクが釣ってきた川魚の出番だ。
どうしようか悩んでネットで調べ、閉店後の晩飯の席で祖父ちゃんと父さんにも意見を聞いて、どう調理するかは決めてきた。
まずは全ての川魚の鱗と内臓とエラを取って頭を落とし、身を三枚におろしたら、頭と身が残った中骨をバットへ移して塩を振って置いておく。
この間に鍋に水を張ってお湯を沸かし、皮を切り取った身を切っていく。
やっぱり身には小骨が目立って、切りにくいし食べにくそうだ。
おかげで切り身がだいぶ見苦しい形になったけど、気にする必要は無い。
だってこれを、右手の自前の包丁と左手の備え付けの包丁の二刀流で、徹底的に叩いてミンチ状にするんだから。
「うわっ、また――」
「ていうか魚――」
「今度は何を――」
小骨が気になるなら、徹底的に刻んで気にならないくらい細かくすればいい。それが父さんからの助言だ。
ゲームの都合で小骨が少ないか無いなら塩焼きにしたけど、小骨が目立つから助言通りにさせてもらう。
ミンチ状にして新たに購入したすり鉢へ移したら、ここで一旦塩を振っておいた頭と中骨の処理へ戻る。
別のボウルへ水を張ったら、水分が浮いてる頭と中骨を沸かしておいた熱湯にくぐらせて、軽く火を通したらトングで取り出してボウルの水の中へ入れ、冷ましながらぬめりや残った鱗を取る。
祖父ちゃん曰く、魚のアラで出汁を取る時の下処理はこうするらしい。
熱湯をかけ回すだの先に塩を洗い流すだの、やり方は他にも色々あるらしいけど、要は塩を振って臭みの原因の水分を外へ出して、それを水とお湯で洗い流せばいいそうだ。
「あとはこいつを……」
シイタケ出汁が残ってる鍋をコンロへ戻し、下処理した頭と中骨を入れて水を追加で注いで点火。
熱してるうちに身の仕込みを進める。
すり鉢へ入れたミンチ状の魚の身へ、乾燥スキルで処理した乾燥ハーブを手でパラパラに解しながら加え、さらにすり鉢と同じく貢献度の上昇で購入できたおろし金で、ニンニクを一片だけおろして加える。
さらにつなぎで小麦粉と塩を加えたら、すり鉢とセットで購入したすりこぎで潰しながら練る。
小骨を細かくするという父さんの助言に、どうせならその後ですり潰せばどうだと祖父ちゃんが乗っかってきたから、その通りにさせてもらう。
正直、作ったことがないし作れる自信も無い、鯉の丸揚げ甘酢あんかけを参考にしたらどうかという助言より数倍役に立ったよ。
「すり身――」
「かまぼこ――」
「いや、蒸し器が無――」
徹底的にすり潰せたら、香りを確認。
うん、ハーブとニンニクで臭みは感じないし、双方の香りが喧嘩をしている感じもしない。
ひょっとしてこれ、調合スキルのお陰かな。香りの強いハーブとニンニクが喧嘩することなく上手く調和して、川魚の臭みを消している。
まあ理由はいいや。こっちができたから鍋を確認して、浮いてた灰汁を取って火加減を調整して煮込み続ける。
そしてすり身にした魚を手に取り、丸めてつみれにしたらバットへ並べていく。
小麦粉と塩をつなぎとして加えたから、適度な粘りがあって上手く丸まってくれる。
こうしてつみれを作りつつ鍋の灰汁を取るのを繰り返し、つみれを作り終えたら干し肉と野菜のスープの具にしたカブの葉の部分を刻む。
そっちも終わったら、灰汁が浮いてこなくなった出汁をお玉で小皿に取って味見。
おおっ? なかなかいいじゃないか。
下処理の甲斐あって生臭みは無く、シイタケ出汁といい感じに調和して旨味が増してる。
「いい香――」
「やばっ、薬が――」
「あー! 雑巾がボロ布――」
味の確認をしたら自前の鍋を取り出し、濾すための布を張って紐で固定。
そこへ出汁を流し込んでアラや汚れを布に受け止めさせ、紐を外してアラを包むようにして布を外すと、自前の鍋には良い色合いの出汁だけが残る。
ここへつみれと刻んだカブの葉を投入して、つみれが崩れないように火加減を調整して煮込む。
また灰汁が浮いてくるからそれを取っていき、火が通ったら完成だ。
川魚のつみれ汁 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:6 完成度:81
効果:満腹度回復11% 給水度回復28%
器用+2【1時間】
様々な川魚をすり身にして作り上げた一品
しっかり下処理をしたので、臭みはほとんど感じない
シイタケ出汁やつみれに加えたニンニクやハーブが、隠れた引き立て役
うん、なんとかなったようで良かった。
味見をしてみると、汁もつみれもなかなかいい味をしてる。
特別美味いわけじゃないけど、臭みは感じないから十分だろう。
「つみれか――」
「腹減――」
「これが飯テロ――」
「さすが赤の――」
祖父ちゃんや父さんの助言、それとネットや本で調べた情報によると、川魚の匂いについては育った環境によるものが大きいらしい。
でもって主な匂いの原因はアラや皮だから、身はあまり臭くない場合が多いとか。
まあそれも環境とか餌とかによるんだろうけど、アラはしっかり下処理して皮は除去し、身の方は幸いにもほんの僅かしか臭みのような匂いがしなかったから、ハーブと少量のニンニクでなんとかなった。
「とりあえず、ここまでにしておくか」
昼飯は持たせたし、晩飯はペペロンチーノ風焼きそばと干し肉と野菜のスープと卵とじ、明日の朝飯はニラ玉と川魚のつみれ汁でいいだろう。
自前の鍋で作った川魚のつみれ汁はアイテムボックスへ、他は作業台の棚へ片付けたりゴミ箱へ捨てたりしておく。勿論、装備品の包丁もしっかり洗っておいた。
さて、晩飯まで時間はたっぷりあるから、料理ギルドで依頼でも受けてこようかな。
おっ? いつの間にかレベルが上がってる。
そっか、オリジナルレシピを提供したり依頼を達成したりしたから、経験値が入ってレベルが。
「お兄さん!」
ステータス画面を見ていたら、ふくれっ面のゆーららんが歩み寄ってきた。
「どうしてくれるんですか! お兄さんの料理が良い匂いすぎて、薬の調合に失敗しまくちゃったじゃないですか! どうしてくれるんですかっ!」
知らんがな。というか俺のせいなのか?
「責任取って、甘い卵焼きを作ってください!」
なんでそうなる。
「できれば口いっぱいに頬張れるぐらい、分厚いのを!」
さりげなく要求を上乗せしてきた。
というか、作らないぞ。
「自分の集中力不足なんだから、自業自得だろ」
「分かってますよ! でも良い匂いなのは確かなんですから、八つ当たりぐらいさせてください!」
世はそれを理不尽と言う。
「うぅぅ……。せっかく集めた薬草が、ポーションじゃなくてポーションっぽい水に……」
ゆーららんが使っている作業台の上には、深緑色の液体が詰められた牛乳瓶と同じ形状の瓶がいくつも転がっている。
どれ? どういうものなんだ?
ポーションっぽい水 調合者:プレイヤー・ゆーららん
レア度:0 品質:0 完成度:0
効果:給水度回復5%
ポーションの調合に失敗した水
見た目はポーションっぽいが、飲んでも回復しない
むしろ圧倒的不味さで精神的にダメージを受ける
いや、ポーションっぽい水ってこれの名称だったんかい。
そして圧倒的不味さって、どんな不味さなんだ。
「くぅ……ただでさえポーションは不味いのに、圧倒的不味さになったら捨てるしかないじゃないですか」
実に悔しそうだけど、確かに捨てるしかなさそうだな。
こうしてポーションっぽい水は流しへ処分され、それが済んだらゆーららんは憂鬱そうに作業台に伏せた。
「あ~も~。どうすれば美味しいポーションが作れるんだろ」
「ポーションって、そんなに不味いのか?」
ダルク達からも不味いと聞いていたけど、実際飲んでないからどれだけ不味いか知らないんだよな。
「お兄さん、飲んだこと無いんですか?」
「戦闘は一切してないからな」
伏せた状態から顔を上げたゆーららんにそう返すと、緑色の液体が詰まった瓶を取り出した。
「よければどうぞ。その代わり、美味しいポーション作りに協力してください」
ちゃっかりしてるな。
まっ、協力するぐらいならいいか。
「分かった。もらおう」
瓶を受け取り、まずは情報を確認する。
ポーション 調合者:プレイヤー・ゆーららん
レア度:1 品質:5 完成度:76
効果:HP回復10% HP継続回復【小・30分】
HPを回復させる薬
味は不味いがこれがないと戦えない
不味い! もう一杯!
説明文にも不味いってある味って、どんな味なんだか。
蓋を取って一口飲むと、なんとも言えない苦みと渋みが口の中へ広がって不味い。
回復のためとはいえ、こんなのを飲まなきゃならないのは辛いだろう。
「どうして運営はこの味で良しとした」
良薬は口に苦しと言うけど、これは無いだろう。
「同感です! というわけでお兄さん、なにか解決案はありませんか!」
「そう言われてもな……。まずは作り方と、今までに試した改善方法を教えてくれ」
作り方も知らずに、案を出せるはずがない。
「えっとですね」
ポーションの作り方はそう難しいものじゃなかった。
二種類の薬草を乾燥させたものをすり潰し、鍋で煮出したら濾して瓶詰する。ただそれだけ。
すり潰しや煮出しに過不足があったり、すり潰しの最中に手を止めたりしなければ、さっきのようなポーションが完成するらしい。
「なのに、あれだけ失敗したのか」
「お兄さんの料理の香りが良すぎて、すり潰しの最中に手を止めちゃったり、料理を凝視して煮込み過ぎたりしたからですよ!」
そんなこと言われても、こっちは普通に飯を作っていただけだぞ。
「で、改善方法は?」
「乾燥させたハーブを加えたり、砂糖を加えたり、あとは使う薬草の量を調整したりしたくらいですね。掲示板でもそんなものです」
そういった方法でポーション自体はできても、味の改善は全くできていないそうだ。
ハーブだと香りは良くなっても味は不味いまま、薬草の配分や量を調整しても効果に影響が出るだけで味の改善には繋がらず、砂糖をぶち込んだというプレイヤーは甘不味かったと証言しているとか。
「一か八か二種類じゃなくて、一種類の薬草で作ってみましたけど、ポーションっぽい水になるだけでした」
「なるほどね」
今はこういうのによくある、果物を加えて改善だという意見が出て果物捜索隊が組まれているとか。
果物で改善できるかな、この不味さが。
「どうでしょう? 何か改善案はありませんか?」
「そうだなぁ……」
薬作りに関しては素人だからさほど良い案が出るとは思えないけど、協力すると言った手前何か言わなくちゃ。
でもどうすればいいんだ?
煮出すという工程は料理にも通ずるとはいえ、臭みじゃなくて苦みや渋みを消す方法は分からない。
苦みや渋みなら、むしろお茶やコーヒーを参考にした方が……。
うん? そういえばお茶とかコーヒーって確かああすれば、飲みやすいんだよな。
「なあ。水出しにしてみたらどうだ」




