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野外調理


 お宝が眠っていると思われる、伝説の獣鬼海賊団の船。

 陸に打ち上げられているから乗り込むのは困難かと思ったけど、そうでもなかった。


「キャプテン、こっちに入れそうな穴があるわよ」

「うし、よくやった!」


 カッコイイ系女性海賊セシリーが見つけたのは、船の側面の低い位置に空いている大きな穴。

 船が座礁した時に出来たと思われるそこから、一人ずつ中へ入っていく。

 なお、いざという時は飛行できるイクトかころろ、浮遊できるミコトに上へ行ってもらい、縄をどこかへ固定してそれを上るつもりだったそうだ。

 船体を壊して穴を開けないのかとダルクが尋ねた際は、海賊がテメェの命を預ける船をよほどの理由も無く壊すなんざ、たとえ他人の船であってもしちゃならねえ!

 と烈火のごとく怒鳴った。

 これも本格の海賊の流儀ってわけか。


「よっしゃっ、手分けしてお宝探しの開始だ!」

『おーっ!』


 キャプテンユージンの号令で全員が散って船内を探索する。

 俺は護衛だというセイリュウとメェナ、それとコン丸と一緒に船内を歩き、ドアノブすら無い扉をメェナが蹴破って船室や何かしらの部屋に入って中を見て回り、時折コン丸が隠された何かを見つけやすくする冒険家の職業スキル、直感を使って周辺を探す。

 だけど何も見つからず、成果無しで集合場所の甲板へ向かうことになった。

 ところが他の皆も成果無しで、お宝どころかアンティーク品になりそうな物も無かったそうだ。


「どうなってんだよこりゃ」

「ていうか、物が無さすぎだぜキャプテン」

「それは、俺も感じた……。空の木箱や樽すら、見当たらない……」

「船の損傷が酷いから、別の場所に拠点を築いて、お宝や生活に必要な物はそこへ移したのかしら?」

「あと、こういう船によくいるのもいない」


 海賊達が話す内容を聞きながら、こういう船によくいるのについて、近くにいた玄十郎へ尋ねる。

 その玄十郎によると、ゲームでこういう展開だとアンデッド化した海賊達が出るのが定番で、おそらくはその事を言っているのだろうとのこと。


「言われてみれば、ゴーストもスケルトンも出なかったね」

「出なくていいですー! そういうのー、苦手なんですー!」


 納得するセイリュウの呟きに、その手のものが苦手なくみみがころろを抱き締めて強い拒絶勘を示す。

 それについては人それぞれだからいいけどさ、抱き締めているころろが苦しそうに腕を叩いているから、早く解放してやってくれ。


「昼間だから出ないんじゃないですか?」

「いや、それだとしても骨は散らばっているはずだから、それが無いのも妙だ」


 ゆーららんが口にした疑問は、キャプテンユージンによって一刀両断された。


「足元に骨が散らばっているのは、下手な墓地よりも不気味ね」

「トーマ、仮に落ちていてもそれを料理には――」

「使うか!」


 カグラの発言の直後にダルクが不謹慎なことを言おうとしたから、強く口調で拒否する。

 魚か動物かモンスターの骨ならともかく、ゲームとはいえ人骨で出汁を取るなんてことができるか!

 それと、「だよねー」って言っているダルクは、そんな発想をすることに引いている皆の視線に気づけ。


「しょうがねぇな。一旦外に出て、飯食いながらこれからの動きを決めるぞ!」


 やれやれ、仕切り直しか。

 ていうかさりげなく飯を要求されたぞ。

 まあそれが俺の役目だから、作れと言われれば全力で作る。

 調理法も思いついたし、外へ出たら準備しよう。

 というわけで入った穴から皆で外へ出て、早速飯を作るためにいくつか確認をする。


「ダルク、コン丸。釣った魚を見せてくれ」

「はーい!」

「おうよ!」


 見せてくれと言ったのに、何故かアイテムボックスを通じて送られてきた魚を確認し、考えている料理に合いそうな魚を選ぶ。


「そうだトーマ兄ちゃん、これ使ってくれよ」


 そう言ってコン丸が出したのは、木製だけどキャンプとかで使うような折りたたみ式の作業台。

 なんでも暮本さんが野外でも調理しやすいよう、知り合いになった木工職人のプレイヤーに作ってもらったそうだ。

 しかも調理しやすいように結構大きいから、ありがたく使わせてもらおう。

 さらに予備の物をテーブル代わりに出してくれた。


「トーマ兄ちゃん、良ければあっちの予備をあげよっか? 俺はまた頼めばいいし」

「本当か? 頼む」


 これで移動中に飯を作ることもできるな。


「うしっ! 兄ちゃんとの縁だし、安くしておくぜ!」


 金を取る辺りは、ちゃっかりしているな。

 あっ、そうだ。


「コン丸、火は熾せるか?」

「あー、さすがにそれは無理だな。無限水瓶は俺が預かっているけど、魔力コンロは祖父ちゃんが持っているし」

「それなら、俺に任せろ……」


 名乗り出たのは冷たい目つきの青年海賊リョジン。

 彼は火打石のような物を持っていて、それで火を用意すると言ってくれた。

 お礼を言うと飯のためだから気にするなと言い、カッコイイ系女性海賊セシリーと褐色肌の少女海賊フォルテと共に火の準備に取り掛かった。

 これならある料理も作れると判断し、ダルク達にあるものを採ってくるように頼む。

 何でそれが必要なのかダルク達は分かっていないようだったけど、疑問を覚えつつも承諾してくれて、念のためにキャプテンユージンと小柄な少年海賊ロゥフも同行してもらい採取をしに行ってくれた。

 さて、こっちは調理の準備をするか。

 

「コン丸、材料や道具を洗う為に無限水瓶を貸してもらえるか? 金は払う」

「オッケー、いいぜ。トーマ兄ちゃんなら、祖父ちゃんも許してくれるだろうしな」


 承諾を得て無限水瓶を出してもらい、金については後で話し合うことにして、手持ちの調理道具を準備したら調理開始だ。

 真正面にはいつものようにイクトとミコト、それとポッコロとゆーららんが……幼女ネレイスが増えている。

 姉ネレイスに支えてもらい、目をしっかり開いてじーっとこっちを見ている。

 まあいいか、それよりも飯を作ろう。

 使う魚は数が多かったヘッドバットカツオ。

 まずは下準備としてネギをみじん切りにして、タマネギとジンジャーとニンニクをすりおろす。

 次いでヘッドバットカツオを捌き、内臓はある個所を除いて処分し、頭と中骨と血合いのようなアラは取っておいて、身を生鮮なる包丁で切り分け、さらに徹底的に細かく刻む。

 これをボウルに移し、おろしジンジャーとおろしタマネギ、それとみじん切りのネギを加え、魚醤を掛け回して混ぜればカツオのなめろう風の完成。




 ヘッドバットカツオのなめろう風 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:5 品質:6 完成度:86

 効果:満腹度回復7%

    MP最大量+50【1時間】 器用+5【1時間】

 徹底的に刻んだヘッドバットカツオに薬味を加えた一品

 サッパリとした味わいのヘッドバットカツオに合わせ、薬味は控えめ

 それでも生臭みは感じませんが、大葉が無いのは残念




 大葉については俺も同意だけど、だからといってハーブだと香りが強いから代わりになり難い。

 だからこそ無しにせざるを得なかった。

 だけど味見すると味は良いし、大葉の有無は気にならない。


「おいトーマ! 米が無いのに、どうしてそういうのを作るんだ!」

「同意はするが、文句があるなら食わなければいいだろう」

「それとは話が別だ!」


 テーブル代わりの作業台にいる玄十郎に対応した後、ボウルいっぱいに作ったなめろうは一旦アイテムボックスへ。

 次は身と血合いを薄切りにして、薄く油を敷いた魔力ホットプレートで焼く。


「あらー? 血合いも焼くんですかー?」

「これだって食べられるからな。鮮度がいいから、それほど生臭くはないぞ」


 それについては以前に暮本さんから教わり、実際に食べさせてもらったから分かる。

 前にフォースタウンハーフムーンの海水浴場でバーベキューをした時、普通の切り身と一緒に血合いも焼いていたから、食べられるのは確認済みだ。

 身と血合いの両面をしっかり焼いて皿へ載せ、酢のようになったサンの実の果汁と魚醤を混ぜて刻みタマネギに和えたものをかけ、刻みネギを散らして完成。




 焼きヘッドバットカツオの刻みタマネギソース 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:5 品質:6 完成度:92

 効果:満腹度回復8%

    魔力+5【1時間】 運+5【1時間】

 両面をしっかり焼いたヘッドバットカツオにタマネギソースを掛けました

 サッパリ味の身、新鮮だからこそ食べられる濃厚な味の血合いの二種類あります

 酢醤油のような調味液で味付けした刻みタマネギソースがどちらにも合います




 味も……よし。

 バーベキューの時も作ったけど、酢醤油と刻みタマネギのソースが焼いたヘッドバットカツオとよく合っている。

 血合いも鮮度が良いから濃厚な味がして臭みはほとんど無く、酢醤油とタマネギのソースのお陰で食べやすい。

 さて、ダルク達が戻ってくるまでになめろうと焼きを大量に作っておかないとな。

 そうしてヘッドバットカツオを調理して、マッドアリゲーターの肉を切り分けている最中に、ダルク達が戻ってきた。


「お待たせ! 言われた通り採ってきたよ!」


 先陣を切って帰って来たダルクがステータス画面を開き、アイテムボックスから頼んだものを地面へ出した。

 後から来たカグラとセイリュウとメェナも同じ物を地面へ出し、その場に泥の山ができた。

 そう、この泥が採取を頼んだ物だ。


「こんなもの、どうするのよ」

「料理に使うんだよ。ああそれと、マッドアリゲーターの皮を何枚かくれないか?」

「別にいいけど、どう料理に使うの?」

「まあ見ていなって。皮は黒焦げになるかもだけど、勘弁してくれよ」


 泥の採取中に遭遇したマッドアリゲーターから、追加で入手したから構わないと言って差し出された皮を受け取り、念のため海水で洗って乾燥スキルで乾かす。

 採掘スキルがあるコン丸に穴を掘ってもらい、冷たい目つきの青年海賊リョジンに火は大丈夫かと確認。

 問題無いと返事が来たから、塩と胡椒とおろしニンニクを刷り込んだマッドアリゲーターの肉を二枚の皮で包み、それをさらに泥で包む。


「ちょっ、何やっているんですかお兄さん!?」

「どうして肉を泥で包むんだよ、トーマ兄ちゃん!?」


 声を上げたポッコロと穴を掘り終えたコン丸だけでなく、ゆーららんとダルクと海賊達とテイムモンスター達も俺の行動に驚いている。

 でも言い換えると、驚いていない人は何を作ろうとしているのか分かっているってことだ。


「そうか、そういうことか」

「あー、なるほどー、そう料理するんですねー」

「皮を蓮の葉の代わりにするのね」

「あらあら、まさかそれをここで食べられるなんて」

「楽しみ」


 納得した様子で頷く玄十郎を皮切りに、くみみとメェナとカグラとセイリュウも理解を示した。

 どういうことかと首を傾げる面々を気にせず、泥で包んだ肉をコン丸が掘った穴へ入れ、土をかぶせてたき火をその上に移動させる。


「おいテメェ、せっかくの肉をどうするつもりだ」


 不機嫌そうに詰め寄るキャプテンユージン。

 他にも分かっていない人のため、説明をする。


「大丈夫。これは叫化鶏きょうかどりっていう料理を作る手法だ」


 叫化鶏、正式名称はヂャオホアヂィで、別名は乞食鶏。

 所説あるけど、鶏を手に入れた乞食が泥で包んで土中に埋め、その上で火を焚いて蒸し焼きにしたっていう話が有名かな。

 本当は肉を蓮の葉で包み、その上から土の匂いを付けないようにシートで包んでから泥で包むんだけど、どちらも無いからマッドアリゲーターの皮を二枚使った。

 洗った後で一応匂いは確認したけど泥臭くも血生臭くもないし、たぶん大丈夫だろう。

 調理法を考えていた時にちょうど湿地帯にいたから、この調理法を思い出したんだ。


「ワニの肉は癖が少なくて淡白な味だけど固いって聞くけど、蒸し焼きにすれば柔らかくすることもできるから、この調理法が合うはずだ」


 尤も、肉の数が無くてぶっつけ本番になるから、失敗しても勘弁してほしい。


「そういうことなら文句はねぇよ。仮に失敗しても気にすんな、肉だったら文句はねえ。俺が一片も残らず食い尽くしてやるよ」

「待ってよキャプテン! 肉だったら僕だって失敗作でも食べるよ!」


 分かったよ、キャプテンユージンにダルク。

 じゃあ失敗した時は、二人で残飯処理をよろしく頼む。

 それじゃあ、完成するまでの間はなめろうと焼いたのを食べていてくれ。

 アイテムボックスに入れていた二品と食器を出してテーブルへ並べ、椅子が無いから立った状態で食事が始まった。


「あーもー! なんでこう、ご飯が欲しくなる料理を作るのかなー、トーマは!」


 うるさいダルク。調理法が限られているんだから、仕方ないだろう。


「うふふ。この焼いてタマネギソースを掛けたのはフォースタウンハーフムーンでも食べたけど、やっぱり美味しいわね」

「身のサッパリ味も、血合いの濃い味も美味しい」


 身の方が好みのカグラに対し、セイリュウは身も血合いも均等に食べている。

 ちなみに俺としては、血合いの方が好みかな。

 鮮度の良い血合いなんて、そうそう手に入るものじゃないからな。


「このなめろう、ゴマを加えてもいいかもね」


 メェナの意見、採用。

 米を入手出来たらゴマ入りのなめろうを作ろう、そうしよう。


「いやー、どっちも美味しいですねー」

「……ん」


 じっくり味わうくみみの隣で、口数少なく反応するころろだけど食べる勢いは凄い。

 焼いたのを身も血合いも関係無く食べていく。

 他のテイムモンスター達もバクバク食べていて、特におじじとかりりはなめろうが気に入ったのか、皿を舐めるほど美味いっていう料理名の由来通りに皿を舐めている。


「血合いも鮮度が良いなら美味しいのよね」

「タマネギソースが合うね」


 そうなんだよ。ゆーららんの言う通り鮮度の良い血合いなら美味いし、ポッコロの言うようにタマネギソースが合うんだよ。


「祖父ちゃんのほどじゃないけど、トーマ兄ちゃんのなめろうも美味いな」


 コン丸、さすがに暮本さんとは比べないでくれ。


「焼いたのは酒に合いそうだな。日本酒か焼酎か、どっちがいいか。いや、ワインはどうだ?」


 合いそうな酒を考えている玄十郎だけど、しっかり情報はスクショに記録してある。

 あのさ、撮影前に許可は取ってくれないか?

 別に隠すものじゃないから、許可はするけどさ。


「このなめろう、主役は魚でも脇役の薬味があるからこそ美味しさが引き立っているんだよ。おろしたジンジャーとタマネギと刻みネギが生臭さを消すだけでなく、魚の美味しさの中でも目立たない程度に味を底上げして、さらに適度な刺激を与えてくれるからより魚の美味しさが伝わってくるんだよ」


 なめろうを食べる手が止まらないミコトは、食レポも止まらないか。


「どう! ますたぁのごはんおいしいでしょ!」

「おーしー! まーたーさん、おさーなおーしーの!」

「本当に美味しいわね。魚に手を加えるだけでなく、野菜と合わせるとこんなに美味しいのね」


 驚きの様子で味わう姉ネレイスの横で、イクトと幼女ネレイスは大騒ぎだ。

 お気に召したようで何よりだ。

 海賊達も奪う合うように食べているし……ん?

 今なんか、海の方から音がしなかったか?


「どうかしたか、トーマ?」

「いや、今海の方で何か―ー」


 海の方を見た俺に声を掛けてきた玄十郎に音のことを伝えようとした直後、海から水柱が何本も上がった。

 皆も何事かとそっちを見る中、水柱の中から半魚人みたいなのが何体も現れて陸へ降り立ち、こっちへ歩み寄ってくる。


「ちょっと何さ! 食事中にやめてよ!」


 とか言いながら食い続けるんじゃない、ダルク。


「なんだテメェら! こっちは飯食ってんだ、邪魔すんな!」


 キャプテンユージンもうんうん頷く仲間の海賊達も、食うのを一旦止めてくれ。

 なんか非常事態っぽいんだからさ。


「どういうこと? スキルで察知できなかったわ!」

「駄目よ、メェナちゃん。食べるのに集中していて気づかなかったなんて」

「そんなわけないじゃない!」


 驚くメェナにカグラが注意すると、それをメェナが強く否定した。

 それでも飯は食い続けるんだな。

 イクトもミコトも幼女ネレイスも姉ネレイスもポッコロもゆーららんもコン丸もくみみも、さらにはくみみのテイムモンスター達も、半魚人の方は見ているけど飯を食い続けているし。


「あれは確かサハギンだ。俺が知っているのとは体色が薄くて槍を持っていないが、外見はサハギンに違いない。それと、これはおそらくイベントだ。だから察知できなかったんだ」


 周囲へ半魚人の正体と察知できなかった理由を冷静に伝える玄十郎は、さすがに食うのをやめて警戒している。

 しかしここで現れるとは、一体何が起きるんだ?


「お前ら、ここで何をしている」


 おっ、喋るのか。


「通常のサハギンは喋らない。間違いなく、イベント用の喋る個体だ」


 つまり、ここで何かが起きるってわけか。

 さあ、何が起きるんだ?


「さっきも言ったし見たら分かるだろ! 飯食ってんだよ!」


 キャプテンユージン、そっちじゃなくて宝探しの方を言ってくれよ。


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― 新着の感想 ―
ここはサハギンも混ざるパターン
「飯の邪魔するな!」断固たる意志!
キャプテン!合ってるけど、違う!
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