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規格外っていいな


 学生にとって土日の朝は、普段より寝坊できる貴重な機会だ。

 でも俺は普段通りに起きて、店の仕込みを手伝う。

 うちの定休日は水曜日。日曜日だからって寝坊は出来ない。

 いつも通りの時間に起きたら厨房へ行き、父さんと祖父ちゃんと一緒に仕込み作業を開始。


「そういや斗真、今日もゲームするんだろ。いつ頃だ?」

「八時半から二時間ぐらい」


 米を洗った水を流しながら答える。日曜日は飲みに来る客よりも飯を食いに来る客の方が多いから、米はしっかり炊いておく必要がある。

 時間については、昨日早紀が店で飯を食った後の帰り際にそう言っていた。

 桐生達にはその時点で既に連絡をしていたようで、その時間に一緒にログインすることになっている。

 早紀曰く、メッセージを送ろうとしたけど店へ食いに行きたくなったから、直接伝えたとか。


「別にもっと遊んでてもいいんだぞ」

「そうだぞ。お前が生まれる前は、俺と親父でやってたんだからな」

「今の祖父ちゃんの年を考えなって」


 急にぶっ倒れることは無さそうなほど元気とはいえ、もういい年だからいつどうなるか分からないし、体力は確実に落ちているだろう。


「それもそうだな」

「この野郎! 俺はまだまだ現役だ!」


 気持ちはそうでも、体の方はそうはいかないのが現実だって。


「それに昼は忙しいんだから、一人でも手は多い方がいいだろ」


 平日の昼間は学校で手伝えない分、土日祝日の昼はしっかり手伝わないとな。

 それに、平日は一人や二人の客が次々に来る流れだけど、土日は家族連れが多く来るから一度にたくさんの注文が入ることが多い。

 次々に注文がくるのに対応するのは大変だけど、複数の注文が一度にくるのに対応するのも大変だ。

 祖父ちゃんはこの店の創業時、一人でそれに対応していたんだから、本気でリスペクトするよ。


「それで、ゲーム自体は楽しんでるのか?」

「思ったよりも楽しめてるよ」


 所詮はゲームだと思っていた当初の考えは、良い意味で裏切られた。

 食材を切る感触は現実とほぼ同じ、煮込めば灰汁が浮くし香りもするし湯気も立つし音もするし色合いや触感の変化もあるし、何よりしっかりと味がする!

 まさかあれほど再現されているとは思っていなかったから、運営には頭が下がる。


「それならいいんだ。お前はもっと遊べ」


 手伝えって言われるよりはいいんだろうけど、店を継ぐためにもっと手伝いたい身からすれば、そう言われるのは結構複雑だ。


「俺の時は手伝えって、毎日毎日うるさかったくせに」

「テメェは遊んでばかりいたからだろ! ちっとは斗真を見習え!」


 今から見習うのは無理だって、祖父ちゃん。

 そう思いつつ、洗った米に水を張って炊飯器にセットして米の仕込みは終了。次は野菜を切らないと。



 *****



 仕込みを手伝って朝飯を食べたら部屋へ戻り、早紀達と連絡を取ってゲームの準備を整えてヘッドディスプレイをかぶったらベッドで横になってログインする。

 視界が暗転して意識が沈み込んでいく感覚の後、昨日ログアウトした広場へ出た。


「おっ? なんか露店が出てるな」


 広場には昨日までは無かった露店がある。

 考えてみれば、現実では昨日の出来事でもゲーム内では十日以上が経過してるんだよな。

 変化があって当然か。


「やっほー! お待たせ!」

「おはよう」


 おっと、ダルクとセイリュウが来たか。

 突然目の前に現れるから、ビクッて驚いたぞ。


「あっ、来たのね」

「今日もよろしくね」


 既に来ていたカグラとメェナが、人込みの向こうからやって来た。

 ログイン前の連絡の時にはちゃんと返事があったから、あの直後にログインしたのかな。


「それで、今回はどうするんだ?」

「えっとね、次の町を目指すための準備かな」

「具体的には真剣にレベル上げして、装備の強化と回復アイテムを調達するための資金稼ぎね」


 真剣にって……前回は真剣にレベル上げしてなかったのか?


「前回は食料調達に走っちゃったものね」

「でもその甲斐あって、豚肉も鶏肉も卵もたくさんゲット」


 ああなるほど、前回はそっち方面を主体にして遊んでたのね。

 で、今回は装備を整えるためにしっかりやると。

 なら俺にできるのは……。


「だったら、いちいち町へ戻って飯を食うのは効率が悪いから、作ったやつを渡しておくな」

「「「「お願いします!」」」」


 足を揃えて背筋を伸ばして深々と頭を下げられた。

 やめろ、衆人環視の中だから視線が痛い。

 それから受け渡しの手順を教わりつつ、前回作った料理の残りをメェナへ渡す。

 味付け餃子、豚ヒレ肉のトマトソース煮込み、豚ロースの唐揚げ、乾燥野菜の塩スープ、ザワークラウトを一瓶、半分残しておいた揚げ饅頭、それから食べる時に使う食器類も。

 これらを全部渡したら、俺の食事用に少し取っておけと言われたから、餃子とトマトソース煮込みとザワークラウトとスープを自分用に皿へ移しておく。

 唐揚げも取ろうとしたけど、ダルクが餌を取り上げられた犬のように、持って行っちゃうのって顔したからやめておいた。


「じゃ、行ってきます!」

「夜には帰るわね」

「その時はメッセージ飛ばすから」

「うふふ、夕食も期待してるわね」


 そう言い残して意気揚々と出発する姿を見送る。

 ……なんだろう。この仕事へ向かう妻を見送る主夫感。

 あいつらは妻じゃないし、俺も主夫じゃないのに。


「まあいっか。行こう」


 深く気にせず向かうのは、マッシュがいるベジタブルショップキッド。

 前回ログアウト前に尋ねた時、友達の家が店をやってるとこへ連れて行ってくれると、マッシュが言っていたからな。どこへ連れて行ってくれるのか楽しみだ。

 時間も午前だから問題無いだろう。


「よう、兄ちゃん! 待ってたぜ!」


 ベジタブルショップキッドへ着いたら、マッシュに出迎えられた。

 出会った時と同じく、帽子を前後逆にかぶっている。


「この前約束した店へ、連れて行ってくれないか?」

「勿論いいぜ。祖父ちゃん、ちょっと行ってくる!」

「おう。遅くなるなよ」


 NPCの客に対応するお祖父さんが返事したのを聞き届けたら、マッシュに手を引かれて店を出る。

 そのまま、こっちだぜと手を引かれて連れて行かれたのは、裏通りにある小さな店。

 絵柄の看板には傷が付いたナスや形の悪いトマトの絵があり、文字の看板にはフリーショップとある。

 これはどういう店なんだ?


「おっす! フライド、いるか?」


 店内に入ると、木編みの籠が置かれた木製の棚がいくつも置いてあり、籠の中には形の悪い野菜ばかり入ってる。

 それを見ていると、奥の方から前掛けを付けた小柄なNPCの少年がやってきた。


「ようマッシュ。悪いが今日は遊べねぇぜ。店番してねぇと、後で父ちゃんに叱られる」


 遊べないからか苦々しい表情を浮かべる、揚げ物でもしてそうな名前のフライド。

 ポッコロと同じリスの尻尾と耳があるから、彼も栗鼠人族なんだろう。


「ちげぇよ。この前のサラマンダーの兄ちゃんを連れてきてやったんだ」

「うん? ああ兄ちゃん、この前はありがとな。俺はフライドっていうんだ」

「トーマだ、よろしくな」


 ニカッと笑って小さく手を上げる姿に、こっちも小さく手を上げて応える。


「おう、よろしくな。んで? 何しにきたんだ?」

「この兄ちゃん、料理人だって言ってただろ。なんか興味あるもんがあればと思ってな」

「そっか。兄ちゃん、うちは形が悪かったり割れたりしてるような、見た目が悪くて店では出せない物を扱ってんだ。でも見た目が悪いだけで、中身は確かだぜ。しかも見た目が悪い分、安いしな」


 へえ、規格外の訳有り品を扱う店か。

 だから絵柄の看板には、傷が付いたナスと形の悪いトマトが描かれていたのか。

 こういう店はいいぞ。見た目が悪いだけで味と品質が確かなら、調理して使う分には問題無い。

 うちの店もそういう品を利用して、できるだけ値段を抑えているからな。


「物を見せてもらっていいか?」

「おう、いいぜ」


 どれどれ? 股割れしていたり亀裂が入っていたりしてるニンジン、形が歪だったり実焼けしていたりしてるピーマンやトマト。

 おっ、待て待て待て、唐辛子とニンニクがあるじゃないか!




 赤唐辛子【辛】

 レア度:1 品質:5 鮮度:71

 効果:満腹度回復1% 火耐性付与【微・5分】

 赤く完熟した唐辛子

 辛さとしては普通の品種

 それでも辛いのは間違いなし、苦手な方は控えめに

 収穫遅れで傷みかけの規格外品



 ニンニク

 レア度:1 品質:4 鮮度:77

 効果:満腹度回復1% 体力+1【10分】

 生でも焼いても揚げてもよし

 なんとでも使える隠れた万能食材

 食べたら口臭にご注意を

 育ちすぎて大きくなりすぎた規格外品




 レア度はともかく、品質と鮮度は料理ギルドで買える食材以上だ。

 傷みかけだろうと大きくなりすぎだろうと、品質と鮮度が確かな物が規格外って理由で安く買えるなんて、お得でしかないじゃないか。

 とりあえず、この二つはさほど量もないからあるだけ買って、ついでに大きくなりすぎたシイタケもあるだけ買って、形の悪いトマトとニンジンもいくつか購入しておいた。

 にも関わらず訳有り品で安いから、出費はさほど大きくない。


「まいどあり。たっぷり買ってくれてサンキュー」

「見た目はともかく、物は確かだからな。また来るよ」

「いいぜ、いつでも来いよ。でも、次来る時にも同じ物があるとは限らねぇぞ」


 何が売り出されるかは仕入れ次第ってことか。

 必ずしも規格外品があるとは限らないから、そこは仕方ないか。

 なんにしても、唐辛子とニンニクが入手できたのは大きい。


「よし兄ちゃん、次行こうぜ」

「ああ」


 幸先いいスタートだから期待したけど、この後で立ち寄った店はそうでもなかった。

 裏通りの店なのはともかく、木工品店だったり鍛冶屋だったり雑貨屋だったり薬屋だったりと、食材とは無関係な店ばかりだったからだ。

 思い返せばマッシュは、友達んちで店やってるとこに連れてってやるよ、と言っていた。

 店とは言ったけど、食材を売ってる店とは一言も言ってない。

 結果、最初の店以降はマッシュが友人宅を訪ねて回るようになってしまった。

 まあ、雑貨店で干し肉を少しばかり買っておいたけど。


「どうだった、兄ちゃん」

「悪くなかったな」


 何軒も回って、収穫は唐辛子とニンニクとシイタケとニンジンと干し肉。

 収穫が何も無いよりは良しとして、そう評価するしかなかった。


「そっか。また来てくれよな」

「ああ、機会があれば……うん?」


 なんかメッセージが届いた。

 送り主はミミミで、先日伝えた情報について確認したいことがあるから会いたいとのこと。

 この後は作業館で調理の予定だから、了解して作業館の前で会おうと返しておいた。

 すると、分かりましたという返事がすぐに届いた。速いな、返信。


「んじゃ、兄ちゃん。またな」

「ああ、ありがとな」


 さて、作業館へ行くか。それにしても確認したいことってなんだろう?

 情報はこの前、全部伝えたのに。

 首を傾げつつ作業館の前へ行くと……。


「待ってたわよ、トーマさん! どういうことなの! 大事なことだからもう一度言うわよ、どういうことなの!」


 既に来ていたミミミが、すがりつくように迫ってきた。

 いや、そっちこそどういうことだ。


「落ち着けミミミ。あまり迫るとハラスメントになるぞ」

「はうあっ!?」


 迫るミミミを作業着姿のエルフの青年が引き剥がしてくれた。

 誰だか知らないけど、ありがとう。


「連れが申し訳ない。俺は細工師の玄十郎、ミミミとは情報屋仲間だ」

「トーマだ。それで用件は何だ?」

「何だもなにもないわ! この前教えてくれた情報! あれ、どういうことなのっ!」


 どういうことと言われても、何のことを言われてるのか分からない。

 飛び跳ねて折れ曲がった耳を揺らしながら両手を上げるミミミに、どう反応すればいいのかも分からない。


「落ち着け。それじゃあ、分からないだろ。トーマ、先日の情報の件で確認したいことがあるんだ。ボイチャで話したい」


 玄十郎が落ち着いた人で助かった。


「分かった」


 通行の邪魔にならないよう道の端に寄り、ボイチャでミミミと玄十郎にしか話が聞こえないようにして話を聞くと、情報の検証のため二人でベジタブルショップキッドで行ったらしい。

 ところが店にいたというマッシュのお祖父さんは、うちは卸売店だから品物を売ってほしければ、商人ギルドと料理ギルドで発行される飲食店の出店証明書を持って来い、と言われたそうだ。

 卸売店なのは知ってるけど、そんなことは言われなかったぞ?

 これはミミミがどういうことなのかと叫ぶのも分かる。


「キノコ類や豆類を購入したのは、その店で間違いないのか?」

「ああ、間違いない。でも出店証明書なんて、求められなかったぞ」

「そうなの? ということは誤情報じゃなくて、私達に何かが足りないということかしら」


 さっきのオーバーリアクションから急に冷静になったな、ミミミ。


「トーマさんは出店証明書を持ってないのよね?」

「持ってないな」


 そもそも、店を出すつもりすら無い。


「だったらその店に行く前に、何かなかったか? 店の人を助けるとか、大事な届け物を渡したとか」


 何かと言われても、そういったことは……いや、あったな。


「孫のマッシュって子が困ってたから、助けてやったな」

「それだ」

「それだわ! その時のことを詳しく!」


 そういえば、あの店で買ったことしか教えてなかったから、この事は伝えてなかったな。

 というわけで、友人達と遊んでいたマッシュが困ってたのを助けて、そこから店へ案内されたのを説明したら、二人は納得した様子で頷いた。


「なるほど、お孫さんを助けることで個人購入できるのね」

「孫に甘い祖父さんって設定なんだろう。だから孫からの頼みに応えて、売ってもらえたのか」

「余り物ってことだから、毎日は買えないみたいだったけどな」


 また何かがあったら悪いから、量が買えなかったことと、昨日のログアウト前に立ち寄ったら何も買えなかったことを伝えた。


「よし、これで検証が進められるぞ」

「そうね。早くしないと待ってもらってる支払いができないし、それ以上にトーマさんのご飯が……」


 金よりも飯の方が大事なのか? 情報提供者としては、そっちよりも支払いを早くしてもらいたい。


「でもさっき公園の前を通ったが、遊んでいる子達はいなかった。ひょっとして時間帯か曜日によって発生するのかもな」


 へえ、そういうのもあるのか。

 このゲームには曜日も設定されていて、現実と同じ七日で一週間になっている。

 だったら追加で、サービス開始初日で起きたことと午前中だったこと、ついでにマッシュの案内で店を回ってきたことも伝えておこう。

 これによって曜日と時間帯が判明したから、検証がしやすくなったと玄十郎からは感謝され、支払いが遅れる上に追加情報で支払い額が上乗せだとミミミが呟いて落ち込んだ。

 ミミミ、お前どんだけ俺の作る飯が食いたいんだ?

 あくまで機会を得られるっていうだけで、絶対に食べられるってわけじゃないのに。


「そうそう、称号と料理のバフ効果についての情報だけど、当面は販売しないから安心してくれ」


 落ち込むミミミを気にせず、玄十郎が話を切り出す。

 なんでも、料理をしているプレイヤーは俺以外にもいるけど、その人達は腕が足りないからすぐに俺と判明してしまう恐れがあるそうだ。

 そんなことになったら迷惑を掛けるから、販売は見送るらしい。


「まあそもそも、現状ではトーマ以外にバフ効果付きの料理を作れるプレイヤーはいないから、検証が遅れるだろうな。ユニークタイプの称号なんて、検証しようがないしな」


 称号はスクショで撮影した画像を譲ってもらって、それの情報を売るしかないとか。

 情報屋っていうのも、大変なんだな。


「んじゃ、邪魔したな。ほら行くぞ、さっさと帰って他の奴らと検証の打ち合わせだ」

「うぅぅ……。ご飯が遠のく……」


 泣きそうな顔で去っていくミミミよ、飯のことを気にしてる暇があったらしっかり情報屋の仕事をしてくれ。

 今頃はダルク達も、しっかりレベル上げしてるはずだから。

 さてと、用は済んだし作業館で料理しますか。

 これまで通りに作業場へ入って借りた作業台で準備を整え、バンダナと前掛けを表示させ、やたら集まる周囲の視線は気にせず調理開始。

 まずは前にうどんを作った時と同様、薄い塩水を加えながら小麦粉をこねて塊にする。

 それを寝かせている間に、新たに購入できるようになったジャガイモとカブを取り出し、ジャガイモは皮を剥いて芽を取ったら小さめに切り、カブも同じく小さめに切ったら一旦バットへ移しておく。

 次に取り出すのは、今回手に入れた唐辛子とニンニク。

 皮を剥いたニンニクは薄切りに、唐辛子は輪切りにしたら小さなボウルへ移して軽く振って混ぜる。

 続いて水を張った自前の鍋を火に掛けて沸かしている間に、形が悪いトマトとニンジンを切って乾燥スキルで乾燥トマトと乾燥ニンジンを作り、雑貨店で購入した干し肉を切ったら、これらを鍋へ入れて火加減を調整しながら出汁を取る。

 そうしている間に生地の寝かしができたから、もう一口のコンロでも水を張った鍋を火に掛け、まな板に打ち粉として小麦粉を薄く敷いてローラーで生地を伸ばし、ちょうどいい厚みになったら折り重ねて中太くらいで切っていく。


「あれが噂の――」

「うどんにしては――」

「出汁取ってるし、まさか――」


 一度干し肉と乾燥野菜を煮込む鍋へ行って灰汁を取ったら、麺を鍋で下茹でしてザルに上げてお湯を切り、トングで一人分ずつバットへ移しておく。

 下茹でに使った鍋をどかしてフライパンを火に掛け、ちょっと多めに油を敷いて温めている間に鍋の灰汁を取ったら、熱した油へ切っておいた唐辛子とニンニクをボウルから少量取って投入。

 ちょっと多めの油に浸かった唐辛子とニンニクは、素揚げのような感じになっていく。


「香りが――」

「ニンニク――」

「刺激臭――」


 唐辛子とニンニクの香りが立ってきたら、下茹でした麺を一人分フライパンへ入れて炒める。

 そうして火を通しつつ、唐辛子とニンニクの風味を纏わせていき、最後に味付けとして塩を振って全体に馴染ませたら、ペペロンチーノ風の焼きそばが完成だ。




 ペペロンチーノ風焼きそば 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:8 完成度:90

 効果:満腹度回復19%

    HP最大量+20【2時間】 体力+2【2時間】

 麺から作ったペペロンチーノ風の焼きそば

 下茹でした麺はツルツル、唐辛子とニンニクが良い刺激

 ほど良い辛さと食欲をそそる風味を堪能しつつ、口臭には注意




 唐辛子もニンニクも油も、中華料理店には必ずと言っていいぐらいある。

 それを中華麺に使ってペペロンチーノっぽく仕上げるのが、お客の要望で賄いからメニュー入りしたこの料理だ。

 パスタじゃないと言えるか疑問なんだけど、焼きそばと表示されてるからパスタじゃないんだろう。

 使う粉が違うとかがあるそうだから、それが反映されてるのかな。

 まあいいか、細かい事は気にせず調理を続けよう。

 焼きそばをアイテムボックスへ入れたら鍋に浮いた灰汁を取り、人数分の焼きそばを作っていく。


「ラーメンじゃ――」

「パスタ――」

「いや、焼き――」


 作った焼きそばを順次アイテムボックスへ入れていき、人数分を作り終えたら鍋の出汁を味見。

 お玉で掬った出汁を小皿へ移して一口。うん、いい味だ。

 精肉店からの依頼で干し肉を作るのを手伝った時に思ったけど、やっぱり干し肉は良い出汁になるし、塩もたっぷり使ってるから塩気が染み出て味付けの必要が無い。

 水気を吸った肉と野菜はそのまま具になるから、このままでもスープになるだろうけど、今回はここへ切っておいたジャガイモとカブを加える。

 小さめに切っておいたから、火は通りやすいし味も染み込みやすいだろう。

 あとは火を通し過ぎて煮崩れないよう、火加減に注意しながら煮込むだけだ。

 さて、次は鶏肉と卵で――っと、その前に食事して満腹度と給水度を回復しなくちゃ。

 でもその前に、もう一つ仕込みをしておこう。


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― 新着の感想 ―
ログイン1分ズレたらゲーム内で24分待たせるのか···5分で2時間かちょっとしたホラーだな
[一言] 中太麺って焼きそばなイメージがなかった。細く切って揉んで熟成させてちぢれ麺にしても良かったかも? ここらでパティシェや調理師の専門学校に通ってる人とか出して良いかもね。 あとはオーナーレベ…
[一言] > 現実では昨日の出来事でもゲーム内では十日以上が経過してるんだよな。 この場合、現実時間数分がゲーム内時間数十分になるんですよね。 時間にルーズな人は嫌われそう…?
感想一覧
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