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フィフスアイランド着


 シーワームとのレイドバトルは、ダルク達や戦闘職のプレイヤー達のお陰で無事に勝利。

 生理的に無理なミミズが巨大な姿で現れたとあって、カグラだけは終始混乱状態で宥めるのが大変だったけど、戦闘が終わってやっと大人しくなってくれた。


「ザリガニやカエルならともかく、どうしてミミズが海に出るのよ。地面が無いから、完全に油断していたわ」


 戦闘終了時にそう語ったカグラだけど、巨大な嫌いなものを見て混乱していたとはいえ、ハラスメント警告を出してくれた点については軽く説教しておく。

 良い思いしたんですから、ほどほどにしてもいいんじゃないですかって言ったニヤニヤ顔のゆーららん、お前とも少し話し合う必要があるかもしれない。

 それとセイリュウ、いつになったら俺へ向けるジト目を解いてくれるんだ。


「あー、シーワームは肉をドロップしないのか」

「牙とかエラとか皮、あとはヒレくらいね」


 シーワームを倒して入手した物を確認して、少し残念そうにしているダルクとメェナの声が聞こえた。

 ゲーム内とはいえ、巨大ミミズの肉を欲しがるとはたくましい。

 ミミズの栄養は証明されているし、漢方では地竜って名前で解熱剤に使われていたのは知っているから、食べられるのなら調理しても構わない。

 だけど食べる側がどう受け取るか次第なんだよな、そういう食材って。

 食べられるから食材として存在していても、先入観や思い込みや嫌悪感で食べたくないっていう反応をされたら、食べろって強制することはできないししたくない。

 作る側だけでなく、食べる側が気持ちよく食べるのも料理には重要な要素だからな。


「あら、そうなの? 直接見るのは嫌だけど、食材になったのなら食べてもいいと思っていたのに」

「残念」


 さっきまで正座をして説教を受けていたカグラと、ようやくジト目を辞めてくれたセイリュウまでそう言うのか。

 他はえーって表情をしているのに、うちの腹ペコガールズはたくましいものだ。

 もしもシーワームの肉が存在していて入手できたなら、遠慮なく振る舞ってやろう。


「まっ、無いものはしょうがないか。トーマ、代わりにウシエビで何かお願いね」

「了解」


 ウシエビか。

 見た目はブロック肉くらいの大きさをした牛肉だけど、味はエビっていう食材だったな。

 見た目は牛肉でも味がエビなら、エビ料理を作るべきだろう。

 エビチリ、エビフライ、茹でるか蒸したのをマヨネーズや中華ダレみたいので和えてサラダに載せる。

 他にはすり身にするならエビカツとかエビ団子、スープの具材にしたり野菜との炒め物にしたりするのも有りか。

 いや、その前に今夜の飯に作る予定のあれに加えてみるか。


「味がエビなら、はんぺんを自作してえびしんじょうを作ってもいいな」

「アボカドと合わせられませんかね? ああ、そもそもアボカドがありませんか」

「エビっつったらガーリック炒めか、アヒージョだろ!」


 暮本さんとエリザべリーチェとセツナも、それぞれの意見を口にした。

 残念ながらアボカドは無いけど、有ったらそれでのサラダを試してもいいかも。


『全てのプレイヤーへお報せします』


 おっ、ワールドアナウンスだ。

 ということは、さっきのタウンクエストが終わったのか?


『フォースタウンニュームーンにて行われていたタウンクエスト、【暗躍の狙撃手】をクリアしました。隠しスキル【魔銃】と隠し職業【銃使い】、魔法銃の製造方法が解放されました。参加者には貢献度に応じ、賞金が与えられます。なお、クリアに伴い魔法銃を扱うNPCが現れるようになりました』


 クリアしたというアナウンスにプレイヤー達はざわつきだし、ステータス画面を表示させて何かを調べだす。

 ダルク達も同じで、顔を合わせてなにやら話し込んでいる。


「解放された魔法銃って、どういうのでしょうね」

「属性とかあるんじゃない?」

「ハンドガンとかスナイパーライフルとか、色々な形状があるのかも」


 ステータス画面を開いて調べていないものの、ポッコロとゆーららんとコン丸も興味があるのか推測を話している。

 なお、特に興味が無いイクトとミコトところころ丸は、揃って海を眺めながら何かを指差していた。

 こんな感じで進む船旅は時折戦闘を挟みつつも、順調に進んでいく。

 途中に寄った島ではNPCが降りたり、何かしらの物資が運ばれたりしている。


「おーい」


 船を降りたNPC達へイクトところころ丸が手を振ると、NPC達が振り返してくれるという微笑ましい光景に、それを見ていたプレイヤー達の表情が緩む。

 勿論、俺もそんな弟可愛い姿につい微笑んでしまう。

 そうしておよそ航路の半分を過ぎた辺りで、誰もが飽きだした。

 料理談義が尽きない俺達は別として、多くのプレイヤー達が眠そうに欠伸をしたり、ボーッと海を眺めたりしている。


「退屈だー、モンスター出ろー」

「そうね。強いのが出てくれないかしら」


 ベンチに座って足をブラブラさせるダルクの発言に、メェナが同意した。

 やめろ、本当に出たらどうするんだ。


「出ても構わないけど、シーワーム以外でね」

「強いのよりも、食材をドロップするのが出てほしい」

「いくともー!」

「私もなんだよ」


 ミミズ嫌いのカグラの意見はともかく、セイリュウとイクトとミコトは食欲に忠実だな。


「何か遊び道具みたいなのがあればいいんですけどね」

「そうね。誰かトランプみたいなのを作って売っていないかしら」


 眠ったころころ丸を膝の上で抱えたポッコロとゆーららんの言う通り、何かしら娯楽品が欲しいな。

 そう思っていたら、モンスターが集団で甲板に現れ、戦闘職のプレイヤー達が暇をつぶせると動き出す。

 ところが、そのモンスターが巨大なヒトデみたいなモンスターだと分かるとダルク達は不機嫌になった。


「食えるかー!」

「せめてクラゲ辺りが来なさいよ!」


 怒りの籠った叫びと共に、自分達が対処したヒトデモンスターを瞬殺。

 直後にゆーららんが海に向かって、クラゲさん来ないでーって叫んでいた。

 クラゲが可愛いから、海月人族を選んだもんな、モンスターでも倒されたくないんだろう。

 さらにレイドバトルで戦う巨大なイソギンチャクが出現すると、一部の男プレイヤー達が何故か嬉しそうに大騒ぎ。

 しかし彼らの望んだ展開にはならなかったようで、倒されると凄く悔しそうに触手と叫ぶと女性プレイヤー達から睨まれていた。

 ちなみにダルク達は、食えるモンスターが出ろとわめていたのは言うまでもない。

 そんな船旅も終盤に入り、もうすぐ目的地のフィフスアイランド・ノースパシフィックに到着する。


「いやー、なんだかんだ時間が掛かったな」

「昔の旅はこんなものだよ。私が若い頃は今ほど鉄道も船も速くなくてね」

「暮本さんぐらいの年齢の方がおっしゃると、説得力がありますわね」


 あー、それ祖父ちゃんもたまに言ってる。

 新しい鉄道が開通したってニュースを見た時とか、昔は何時間も掛かったのになって言って、祖母ちゃんと昔を懐かしんでいるよ。


「それにしても、色々とお話が聞けて有意義な時間でしたわ」

「こちらこそ、食材の交換に応じてくれて嬉しいよ」


 料理談義の最中に、俺達四人の間でいくつかの食材を交換した。

 俺はイクトとミコトが戦闘に参加したお陰で入手した、ブロック肉大の牛エビの肉を三つに切り分け、それぞれと交換。

 暮本さんからは、以前に俺も入手したけどそれ以降は入手できていない小豆。

 セツナからは、フォースタウンハーフムーンの朝市で偶然入手したっていうアクジキザメの身肉。

 そしてエリザべリーチェからは、料理談義にも出てきたトロリンカボチャ。

 初見の食材が二つあるし、小豆はポッコロとゆーららんに育ててもらえばまた使えるから楽しみだ。

 尤も、それで甘い物を作ってとカグラにねだられたから小豆は手元に少し残しておく。


「また機会があれば、この四人で料理したいな。いっそ、二品ずつくらい分担してコース料理作るか?」


 そういうのも面白そうだな。

 四人が作れば計八品だから、コース料理の品数としては問題無い。


「もしもそれをやるとすれば、入念に打ち合わせをしなくてはな」

「一つ一つが美味くても、コース料理となれば流れが大事ですからね」

「ですが、一度やってみたいのも確かですわ」

「やるなら絶対に食べたい!」


 俺達の話を聞いていたのか、さっきまで退屈だってだらけていたダルクが挙手して食べる宣言。

 それに続けとばかりに、イクトとミコトもカグラ達もポッコロとゆーららんもころころ丸も、果てはコン丸まで食べたいと言い出す始末。

 周りにいるプレイヤー達もそれに続こうとして、辛うじて手を下ろした。

 仮に手を上げて食べたいって言われても、仲間でも知り合いでもないから駄目って断ったけどな。

 とまあ、そんな感じの船旅も終了。

 水平線に太陽が触れかけたぐらいに、フィフスアイランド・ノースパシフィックへ到着して下船した。


「あー! やっと着いた!」

「ながかったねー」


 港に降りたダルクが数時間ぶりの地面を何度も踏みしめ、少し疲れ気味のイクトが体を伸ばす。


「では、私達はこれで失礼するよ」

「じゃあな、トーマ兄ちゃん。また会おうぜ」

「アタシもこれで失礼するぜ」

「皆さん、ごきげんよう」


 この後に現実で用事があるっていう、暮本さんとコン丸とセツナがログアウトするのを見送り、知り合いと合流する予定のエリザべリーチェと別れる。

 そして俺達は……。


「トーマ君、晩ご飯よろしくね」

「何作るの? ウシエビは使うの?」

「わくわくなんだよ」


 ああそうだな、他の何を差し置いても飯だな。

 というわけで作業館へ移動し、いつも通り作業台を借りて飯の準備をする。


「おい、あれ」

「遂にここまで来たか、料理長」

「作業を中断しなくちゃいけないほどの飯テロって噂、本当かしら」


 周囲がざわつく中で準備を整え、バンダナと前掛けを表示。

 正面には見学する気満々のイクトとミコトとポッコロとゆーららん、それところころ丸。

 ダルク達は椅子を用意して、邪魔にならないところでこっちを見ている。

 よし、うちのいつも通りの配置だな。


「それでお兄さん、今回は何を作るんですか?」

「海鮮あんかけラーメンだ。ちょっと時間が掛かるけど、勘弁してくれよ」

「やった!」


 ポッコロの質問に答えると麺好きのセイリュウが喜んだ。

 さて、まずは出汁作りから。

 使うのは船内で竜田揚げを作った時、出汁に使えるよう下処理しておいたレインボーサバの頭と骨、アツペラワカメ、そしてハイスピンホタテ。

 水を半分ぐらいまで入れた二つの鍋を火に掛け、お湯を沸かしている間にハイスピンホタテを殻から取り出す。

 そして軽く洗ったら乾燥スキルを使って干し貝柱にする。


「へえ、今回は貝柱で出汁を取るのね」


 魚貝系の出汁っていうと鰹節とかサバ節、あとはエビとか干した魚が浮かぶ。

 だけど貝柱だって、立派な魚貝出汁の材料だ。

 お湯が沸いたのを確認したら、片方でレインボーサバの頭と骨と臭み消し用に皮を剥いたシュウショウを、もう片方でアツペラワカメとハイスピンホタテの貝柱を煮込む。


「あの、お兄さん。どうして別々に煮込むんですか?」

「アツペラワカメとハイスピンホタテは、後で具材にも使うからだ」


 その時にレインボーサバの頭と骨から出た灰汁や汚れが付いていたら、それを取るための一手間掛かる。

 同じ手間が掛かるなら、後から合わせて煮込む手間の方が、他の調理時間中にできるからやりやすい。

 さて、煮込んでいる間に具材を準備しよう。

 ノコギリイカを捌いて内臓を処理し、洗って汚れを流したら一旦鍋を確認。

 レインボーサバの頭と骨を煮込んでいる方に灰汁が浮いているから、これを取ってノコギリイカに戻り、エンペラと胴体とゲソをそれぞれ一口大に切っていく。

 それが済んだら鮮度が落ちないようアイテムボックスへ入れ、今度は作業館への道中にダルク達から渡されたウシエビを取り出す。




 ウシエビ

 レア度:3 品質:5 鮮度:96

 効果:満腹度回復7%

 見た目は牛のブロック肉のようですが、味はれっきとしたエビ

 茹でても蒸しても焼いても揚げても炒めても美味しい万能食材

 勿論、生でも美味しいです




 初見の食材だし生でも美味いならと、生鮮なる包丁でちょっとだけ切り取って味見。

 へえ、見た目は牛の赤身みたいなのに、味は本当にエビだ。

 しかも生臭さなんて一切無い、甘い味わいがする。

 食感は最初がプチリと歯応えが良く、続けてとろりとした感じがして美味い。


「「あー」」


 自分達にも試食をさせろと言わんばかりに、イクトとミコトが口を開けて待機している。

 いや、イクトとミコトだけじゃない。

 その隣にいるころころ丸、さらにはポッコロとゆーららん、そしていつの間にか並んでいるダルクまで。


「お前ら、親鳥に餌をねだる雛か!」


 思わずツッコミを入れた俺は悪くない。

 さすがにこれだけの人数での試食は許容できないから、これを機にイクトとミコトの味見も禁止。

 二人は軽くショックを受けていたけど、今までが特別扱いだったんだからな。

 あと、こっそり取ろうとしている行儀の悪いダルクの手はしっかり叩いておいた。


「なにやっているのよ、まったく……」


 ダルクの愚行に溜め息を吐くメェナに心の中で同意しつつ、レインボーサバの頭と骨を煮込んでいる鍋の灰汁を取ってから、ウシエビを一口大に切り分けていく。

 これを加熱するとどんな味と食感になるか楽しみだ。

 それが済んだらノコギリイカ同様、鮮度が落ちないようアイテムボックスへ入れて鍋を確認。

 出汁が出たアツペラワカメはだいぶ薄くなっていて、ハイスピンホタテの貝柱も水分を吸って戻ってきている。

 肝心の味はどうかと、お玉で小皿に取って味見。

 おぉっ、いいじゃないか。

 味はハイスピンホタテの貝柱の方が強い。

 でもアツペラワカメの出汁がそれを支えて、奥深さを出している。

 一方のレインボーサバの頭と骨の方は、一緒に煮込んだシュウショウのお陰で生臭さは無く、サバ特有の力強い味わいの出汁だ。

 試しにこれを小皿で合わせると、悪くは無いんだけどもう一つまとまりが無い。

 だけど、一緒に煮込んでいない以上は想定内。

 一旦火を止め、アツペラワカメと戻ったハイスピンホタテの貝柱を取り出す。

 そしてこっちの鍋に布を張って紐で固定し、レインボーサバの頭と骨とシュウショウを煮込んだ出汁を流し入れる。

 こうするのを前提としていたから、どちらの鍋にも水は半分にしていたし、煮込んで水が減ったから溢れることは無い。


「合わせるのを考慮して、水の量を調整していたのか」

「少ないと思ったけどこういうことなのね」

「どうでもいいけど、本当に美味そうな香りだぜ」


 周囲がざわつく中、布を外してレインボーサバの頭と骨とシュウショウを処理し、二つの出汁を調和させるために弱火で煮込む。

 空いた鍋を洗って作業台の下にある棚へ戻したら、別の鍋に水を張って空いた魔力コンロで火に掛ける。

 それが沸くまでの間に唐辛子を刻み、ジンジャーをすりおろす。

 小さい鍋を用意して、これに魚醤と刻んだ唐辛子とおろしジンジャー、それと水と少しだけ残しておいたハイスピンホタテの干し貝柱、そして砂糖と少量の油を加えてよく混ぜる。


「トーマ君、それはタレ?」

「ああ、そうだ」


 本当は酒やみりんを加えたいところだけど、無いから砂糖で代用する。

 祖父ちゃん曰く、昔は料理にコクを出すために砂糖をよく使っていたとか。

 暮本さんからも煮物にコクを出すため、砂糖を使っているって聞いたことがある。

 これを調合している間にお湯が沸いたから、てぼにストックの太麺を入れて茹でる。

 茹で上がった麺は湯切りをしたら、茹でている間に用意した手持ちの網をセットしたバットに一人分ずつ出し、冷めないうちにアイテムボックスへ。

 人数分の麺が準備出来たら鍋を片付け、空いた魔力コンロでタレを煮る。

 さて、スープの方はどうかな。

 蓋を開けるとサバを中心とした良い香りがふわっと辺りに広がる。


「いいにおい!」


 身を乗り出すイクトに、ころころ丸が同意するようにモルッと鳴いて頷いた。

 味の方は……よし。

 小皿に取って飲んでみると、さっきはかみ合っていなかった双方の味がかみ合っていた。

 ハイスピンホタテの干し貝柱とレインボーサバの頭と骨の出汁が両輪となって強さを出し、アツペラワカメの味がそれに奥深さを加えている。

 問題はこれとタレが合うかだな。

 良い香りが出てきたタレに浮いた灰汁を取り、双方の鍋の火加減を調整。

 もう少し煮ている間に、取り出したアツペラワカメと戻ったハイスピンホタテの貝柱を切り分ける。


「なるほど、これは作業を中断しなきゃ駄目ね」

「噂通りってわけか。集中を切らして錬金に失敗しちまったよ」

「スープとタレの香りが鼻の中で一体になって、すげぇ腹が減る」


 アツペラワカメとハイスピンホタテを切り終えたら、別々のボウルへ移してタレの味を確認。

 ん、いいね。

 ハイスピンホタテの干し貝柱から出た出汁と砂糖がコクが、ジンジャーと唐辛子で複雑さが、そして煮たことで魚醤の尖った塩気が弱まっている。

 では早速、このタレをお椀に少量注ぎ、スープを注いで合わせて飲む。

 ふう……美味い。

 スープに使ったハイスピンホタテの貝柱をタレにも使ったお陰か、スープとタレが喧嘩していない。

 尖った塩気が弱まったから嫌な感じもしないし、美味いスープになっている。

 これに麺を入れて海鮮あんを乗せるなら、もう少しタレは多い方がいいかな。


「どうなんですか、お兄さん」

「バッチリだ。仕上げに移るぞ」


 タレを火から下ろし、あんかけを作るためネンの実の皮を剥いてすりおろす。

 深さのあるフライパンを火に掛けて油を敷き、熱されるまでの間にウシエビとノコギリイカをアイテムボックスから出す。

 軽く湯気が立ってきたら、タレを作る時に用意したすりおろしジンジャーを入れ、香りが出てきたらお玉を手にウシエビとノコギリイカを炒める。

 火が通ってきたらアツペラワカメとハイスピンホタテも加え、さらに隣で弱火にかけたままのスープを注ぐと 良い音と湯気が立って香りが広がる。


「マジでいい香りだ」

「これが飯テロか」

「もう無理、今すぐログアウトしてご飯食べたい」


 具材がスープに浸った状態で少し煮込み、ここへ魚醤少々とすりおろしたネンの実を加える。

 徐々にとろみが出てきた頃合いを見計らって、丼を一つ用意してここへ火から落としたタレを入れてスープを注ぎ、茹でたて状態の麺をアイテムボックスから出してスープへ入れ、フライパンから海鮮あんをかけて完成。




 海鮮あんかけラーメン 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:6 品質:8 完成度:89

 効果:満腹度回復27% 給水度回復7%

    火耐性付与【中・2時間】 水耐性付与【中・2時間】

 海の旨味が詰められている魚醤ベースのあんかけラーメン

 太麺にあんがからみ、あんのお陰で具材もスープも冷めにくい

 熱々なので、注意してくださいね




 海鮮かつ熱々だから、火耐性と水耐性なのか?

 まあそんなことはどうでもいいや。

 味は……あっつ、けど美味い。

 スープとあんがしっかり調和して、それが絡んだ麺すすると海の旨味が溢れている。

 太麺を選んだお陰で麺の存在感があるし、ちょっと濃いめのスープにも合う。

 具材の方も、ノコギリイカはあっさりしつつも部位ごとに違う食感で味わいに変化が出て、出汁が出た後のアツペラワカメとハイスピンホタテの貝柱も良い味をしている。

 そしてウシエビがプチプチと歯切れ良い食感で、噛むと甘い旨味が溢れ出る。

 これから口の中で一つになると、正しく旨味の波が押し寄せてくる感じだ。


『じー』


 分かっているよ、いつまでも味見していないでお前達の分も作るよ。

 だから、わざわざ視線の擬音を口に出してまで、早く作れって主張するな。


「すぐに作るから、もう少し待ってくれ」


 試食したのは自分の分としてアイテムボックスへ入れ、皆の分を作る。

 海鮮あんは複数人分を同時に作り、加える魚醤の量はそれを考慮してしっかり調整。

 後は最初と同じく、丼にタレを入れてスープを注ぎ、アイテムボックスから出した茹でたて麺を入れ、お玉で海鮮あんをかけて一旦アイテムボックスへ。

 これを人数分ができるまで繰り返し、全員分が完成したら先に作った分を出し、全員の前に箸やフォークと一緒に並べる。


「待たせたな。熱いから気をつけて食ってくれ」

「はいはーい! じゃあ皆、いただきます!」

『いただきます!』


 はいよ、召し上がれ。

 さて、改めてじっくり味わって――。


『あっつ!』


 だから、熱いから気をつけろって言っただろう!


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― 新着の感想 ―
海ってニョロニョロウニウニ系の生き物って結構いるんだよね、ユムシの類だったら肉も美味しく食べられたのに残念
作品のコンセプトだからそうなのでしょうけど、 他人が行う行動(料理)で自分の行動を中断せざるを得ないゲームって 果たしてどうなのですかね? 別の部屋があるのにわざわざ共同の場所を使って他人の不利益にな…
味見は本来調理者の特権だから…ね!
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