格の違い
和やかな雰囲気で始まった食事は数秒で一変した。
いただきますをして箸をつけ、僅かな時間しか経っていないのに暮本さん以外は夢中で食べている。
「このキャベツメンチ凄いよ! バチバチキャベツの弾け具合のお陰で、熟成したオーク肉の旨味が物理的に口の中で連鎖爆発しているよ! 竜田揚げも味が染みていて凄く美味しい!」
揚げ物狂いのダルクは箸を一本ずつ両手に持ち、片方で俺の竜田揚げを刺し、もう片方でセツナのキャベツメンチを刺して交互に食べるという、行儀悪さの極みとも言える食べ方でがっついている。
美味いのは俺も同意するが、その食べ方はやめろ。
イクトとミコトが真似したらどうしてくれるんだ。
だけど確かにそれは美味い。
熟成オーク肉から溢れる肉汁と脂が、バチバチキャベツによって口の中いっぱいに広がる。
それをバチバチキャベツ自身と、刻んだだけでなく炒めた縦縞のシマシマタマネギの甘さが適度に和らげるから、口の中が旨味に疲れて一つ食べれば十分って気にさせていない。
贅沢と驚きだけでなく、食べやすさも考えられた良いキャベツメンチだ。
「ふあぁぁぁっ。とろけりゅ、このカボチャプリン、しゅごく滑らかでとろけりゅのぉぉぉぉ」
いやなんでカグラはもうデザートに手を付けているんだよ。
でもって口の中のカボチャプリンだけじゃなくて、お前の表情もこれ以上ないほど蕩けているぞ。
どれくらいとろけるのか気になるけど、やっぱりデザートは最後に食べよう。
「トーマ兄ちゃん、この竜田揚げ美味いな!」
「コン丸君、キャベツとマヨネーズと一緒にパンに挟んでバーガーにしても美味しいよ!」
竜田揚げを貪るコン丸に、バーガーにして食べているポッコロがバーガーを勧めた。
どうでもいいけど二人とも、口の所にマヨネーズが付いているぞ。
「ますたぁ! このちゃんぽんっていうの、すごくおいしいよ!」
お椀を口に付け、フォークで流し込むように暮本さんのちゃんぽんを食べ切ったイクトが、目をキラキラさせて触覚とレッサーパンダ耳をギュインギュイン動かしながら絶賛した。
ただ、夢中で食べたから口の周りが汁だらけでテカテカだし、口の所にはニンジンが付着している。
「マジかよ、このちゃんぽんの美味さ」
「どうやればこれだけの美味しさが……」
同じちゃんぽんを食べたセツナとエリザべリーチェは、その味に驚愕している。
俺も食べたから気持ちは分かる。
料理の情報を見た時、乾燥野菜で出汁を取ったとあった。
そのやり方は俺もやっているし、他に出汁が取れる食材を入手するまでは何度も乾燥野菜の出汁を取った。
だけど暮本さんがスープのベースにしているこの出汁とは、美味さのレベルが大違いだ。
そしてスープだけじゃなく、昔ながらの卵入りで仕上げた中太麺と具の野菜も凄い。
野菜はくたっとすることなく適度な歯ごたえと味わいがあるし、麺は卵入りだからこその風味に加えて心地よい食感がある。
しかもこれらが別々に主張することなく、麺とスープと具が味も香りもガッチリ調和しているから、ちゃんぽんっていう一つの料理になっている。
さすがは暮本さん。
前に祖父ちゃんがタレもスープも一人で仕込んで調理も一人でやったラーメンにはやや劣るけど、そこは修業した分野の違いによるものだろう。
「はぁ、はあ、トーマ君のワカメスープが気持ち的にもいい口直しだわ」
「同感です。お兄さんのスープを飲んで落ち着かないと、美味しさに騒ぎっぱなしになりそうです」
さっきまで竜田揚げやちゃんぽんを食べて騒いでいたメェナとゆーららんが、アツペラワカメスープを飲んでようやく落ち着きを取り戻した。
確かに、美味さの激流の如きこの料理の前では良い口直しになって気分が落ち着く。
「こっちのトロリンカボチャの皮チップスも、良い口直しなんだよ。香ばしい香りが気持ちを静めて、少し塩気のある甘苦い味とサクサク食感が口の中を休ませてくれて、良い感じにリセットできるんだよ」
さっきまで食レポしまくっていたからか、少し疲れた様子のミコトがエリザべリーチェ作のトロリンカボチャの皮チップスをサクサク食べている。
同じく美味さに騒いで何度も小躍りしていたころころ丸も、疲れながらもチップスをサクサク食べている。
「トーマ君。スープと竜田揚げだが、味も香りも食感もなかなか良い出来だ。久々に君の料理を食べさせてもらったが、確実に腕を上げているね」
「ありがとうございます!」
よし、暮本さんに褒めてもらえた。
だからといって調子に乗るな、落ち着け、落ち着くんだ。
なかなか良い出来であって、絶賛されたわけじゃないんだから。
「どれもすげぇ美味そう……」
「ああだめ、絶対に現実の私のお腹は減っているわ」
「まだ満腹度は余裕があるのに、腹が減った気になるぜ」
「落ち着け、俺はただ腹が減っているだけなんだ」
「料理長のギルドに入れば、食べさせてもらえるのかな?」
「入れてもらいたいけど、友人同士で遊ぶためのギルドっぽいから無理でしょうね」
周りがざわつきながらこっちを見ているのが分かる。
だけど、これは俺達の飯だから絶対にやらない。
「トーマ君! 見た目は普通のちゃんぽんが、なんでこんなに美味しいの!?」
正面の席にいるセイリュウが、夢中でちゃんぽんを食べ切った後に身を乗り出して尋ねてきた。
落ち着け、それと口回りがイクト並みにスープでテカテカだから拭け。
「たぶん、基礎の部分のレベルが違うんだよ」
「基礎の部分って?」
「前に祖父ちゃんから教わったことなんだけどな――」
同じ食材と調味料で同じ調理工程を経て完成した料理の見た目は同じでも、調理工程によって味や香りや食感に違いが出る。
食材の切り方、火加減や火の通り具合の見極め、味の加減。
そういった基礎的な部分のレベルが高いほど、見た目は同じ料理でも味と香りと食感には天と地ほどの差が生じる。
前に仕込みから調理まで全てを祖父ちゃんが一人でやったラーメンを食べさせられたのは、それを俺に教えるためだった。
あの時は本当に衝撃を受けたし、基礎の大事さを思い知らされたよ。
おまけに追加で餃子や唐揚げや野菜炒めまで食べさせられて、余計に思い知らされたし。
「なるほどな。一見普通の食材で作ったありきたりな料理でも、一つ一つの工程のレベルが高ければ極上の美味になるってことか」
「剣道をやっている祖父の言葉を思い出しましたわ。奥義とは基本を極めた先にあると」
悔しそうなセツナに続いてエリザべリーチェが言った通りだ。
切る、火を扱う、熱を通す、味を調える。
そんな基本的なことが全て高いレベルで出来ているから、暮本さんや祖父ちゃんの料理はありきたりな材料で作ったありきたりな料理でも美味いんだ。
「おそらく俺が同じ材料で同じ手順で作ったとしても、これとは雲泥の差だろうな」
同じ料理を作れっていうのならともかく、同じ味の料理を作れと言われても無理だ。
「アタシも同感だ。同じ条件でこの味を出せって言われたら、即座に無理って返すぜ」
「私もですわ。とても敵う気がしません」
俺だけでなく、セツナとエリザべリーチェも白旗を上げた。
正直、完成度が百段階だから百と出ただけで、実際に食べると二百や三百にも匹敵する百だと思う。
「マジかよ、すげぇ」
「姐さんと料理長とお嬢が降参宣言したわ」
「これが大将の実力ってことか」
ざわつくプレイヤー達の中で誰かが言った通り、暮本さんの実力を改めて思い知らされたよ。
このゲームにログインしている間は料理をしていたとはいえ、それまでは三年のブランクがあったなんて信じられない。
「そう悲観しなさるな。同じことでも惰性的にならず真剣に繰り返して、例え一ミリずつでも腕を上達させようと料理に取り組み続けていれば、いずれは作れるようになる。私がこのゲームをするようになって、三年ぶりにそういう気持ちを思い出して今も取り組み続けているようにな」
暮本さん、まだ腕を上げる気持ちが衰えていないのか。
手の痺れもあって一度は奪われたからこそ、また料理ができるようになってその気持ちが強くなったのかもしれない。
そういえば基礎の大切さを思い知らされた時に、悔しがる俺を前に祖父ちゃんも言っていたっけ。
俺だってもっと腕を磨いて上手くなって、そこのラーメンとかだけでなく他の料理をもっと美味くするって。
くそっ、負けていられるか。
今は無理でも、いずれは俺も祖父ちゃんや暮本さんの領域へ辿り着いてみせる。
「見てよ、トーマが燃えているよ」
「うふふふっ。これは余計に推しちゃいそう」
「あんなトーマだけど、しっかり支えてあげるのよセイリュウ」
「どどど、どういう意味で言っているの!?」
顔を寄せ合うダルク達が、小声でなにやらこそこそ喋っている。
よく聞き取れないけど、何を言っているんだ?
「おー。お兄さん、すごいやる気だしていますね」
「私達も応援しますよ、お兄さん」
「いくともおーえんする」
「頑張るんだよ、マスター」
「しっかりな、トーマ兄ちゃん」
ポッコロとゆーららん、イクトとミコト、そしてコン丸に続いてころころ丸も応援しているとばかりにモルッと鳴いた。
ありがとうな、お前達。
それはそれとして、イクトとポッコロとコン丸は口の周りを拭け。
イクトはちゃんぽんのスープでテカテカでニンジンが付いたままだし、ポッコロとコン丸はマヨネーズが付いているぞ。
「アタシも負けてらんねぇな。もっと腕を磨かなきゃな」
「年を重ねても衰えることの無い暮本さんの向上心、本職を目指してなくとも人生の在り方として見習わせてもらいますわ」
やる気を出して燃えているセツナ。
本職は目指していなくとも姿勢を見習うというエリザべリーチェ。
さすがは暮本さん、頭が下がるばかりです。
そうした基礎の大切さを改めて思い知らされた食事は進み、見事に全部完食。
後片付けを始めた頃には、野次馬をしていたプレイヤー達は全員引き上げていた。
俺達も後片付けが終わったら再び甲板へ移動する。
「まてー」
「ほら、こっちだぜ!」
「モルッ」
コン丸はイクトところころ丸の遊び相手になって追いかけっこを開始。
「よーし、デカいのをたっぷり釣るぞ!」
ダルクは釣竿を取り出して釣りを始め、ポッコロとゆーららんはそれを近くで見物。
カグラとセイリュウはそれぞれ歌唱と演奏の練習を始め、メェナとミコトは設置されているベンチに座ってその様子を眺めている。
そして俺は同じくベンチに並んで座り、暮本さん達と料理談義をする。
その中で二つ分かったことがあった。
一つは三人とも料理ギルド認定証を持っていて、ランクは暮本さんが俺の一つ上の銅で、セツナとエリザべリーチェは同じ鉄。
もう一つは三人の転職先で、暮本さんは板前、エリザべリーチェはパティシエ、そしてセツナは女将とのこと。
「料理人から女将ってことは、小料理屋をやっている女性を指すのかな?」
「そんな感じだな。アタシの見た目からは想像できないだろうが、女性プレイヤー限定ってことでこれにしたぜ」
確かにセツナの外見からすれば、小料理屋の女将って感じはしないな。
しかし、俺は公式イベントで入手した転職時全開放チケットを使ったのに、暮本さん達は特別な物を使っていないのにそういった転職をしたのか。
ひょっとすると俺も、チケットを使わずとも厨師へ転職できていたのかもしれない。
もしもそうだとしたら、ちょっと勿体なかったかな。
まっ、今となってはもう後の祭りだ、気にしないでおこう。
「それで、板前とか女将とかパティシエだと、どうなるんだ?」
「対象が煮物と焼き物という点以外は、トーマ君の厨師と同じだね。今回のちゃんぽんはスープで具を煮たのと茹でただけの麺を合わせたから、煮物判定をされたんだと思う」
二つの煮たものを合わせた、ということか。
別々に食材を煮込んで、最後に合わせるっていうやり方があるし、暮本さんの推測は概ね正しいかも。
「女将は炒め物と焼き物で上昇がパーセントになるぜ。これだと小料理屋っつうより定食屋の女将みたいだけど、アタシにはその方が似合ってるか」
口には出さないけど同感だ。
セツナみたいな人が定食屋をやっていても、威勢の良い女将にしか見えない。
仮に今のセツナの姿が現実と同じでも、町の飯屋なら金髪スカジャンだろうが気にしないだろうし。
「パティシエは菓子類の上昇がパーセントになりますの。調理法ではないのでどんな調理をしても大丈夫なのですが、菓子類は満腹度の回復量が少ないので、たくさん作らなくちゃならないんです」
言われてみれば、サイズが大きいスコップケーキ以外は満腹度の回復量が十パーセント前後だったな。
調理法に影響されない分、別の何かしらでバランスを取っているってことか。
「しかし、たくさん食べればバフ効果というものが何度も掛かるのではないかね?」
「そうはいかないのですわ、暮本さん。違う料理を食べるのならいくつもバフが付きますが、一度効果が掛かるとそれが切れるまでは同じ料理を食べ続けても重ね掛けにはならないのです」
へえ、そうなのか。
ダルク達は俺が後片付けしている間にいつもステータスを確認しているけど、俺はしていないから気づかなかった。
「まあいいんじゃないか? 飯っていうのは美味いことと、腹いっぱい食えることが大事なんだ。バフ効果なんてのはおまけだろ、おまけ」
「そうだな。トーマの言う通りだぜ」
「うむ。そちらへ気を取られ、肝心の味を疎かにしては元も子もないからな」
俺の意見にセツナと暮本さんが同意すると、エリザべリーチェもそうですわねと返した。
ここから話題は調理法や食材についてのものに変わり、あの食材はどうだのそれをこう調理したらこんな味と食感になったと情報を共有。
さらにエリザべリーチェから、今回のカボチャプリンに使った食材、トロリンカボチャについて相談を受ける。
「というわけで、トロリンカボチャは加熱すると果肉の部分がトロトロになってしまうので、よくある甘辛く煮たものが作れないんですの」
「ふむ。ならばどれくらいの温度で果肉がそうなるのか、調べてみればどうかな。果肉が形を保つ温度を見つければ、その温度でじっくり火を通しながら味を含められるのではないかな?」
「それですわ、暮本さん! ああでも、どうやって温度を調べましょう。UPOに温度計はあるのでしょうか?」
UPOでは熱い冷たい暑い寒いは感じるけど、さすがに温度計は無いんじゃないかな。
「最悪、つきっきりで鍋の前にいればいいだろ」
「味を含ませるのは、煮卵を作る要領で茹でたカボチャを調味液に漬け込む方法もあるしな」
「そうですわね、温度計が無ければそうしましょう」
セツナと俺の意見に、エリザべリーチェは一応の納得をした。
続いて溶けた果肉の使い道について話が移ると、これは結構盛り上がった。
濾す必要も無いほど溶けやすいならスープに使えばどうか、肉料理や魚料理にかけるソースに使えないか、クリームと混ぜてコロッケにできないか、生地に混ぜ込んでカボチャ味の麺やパンを作れないか、生の状態で餃子や小籠包のように皮で包んで加熱して皮の中で溶けるようにしてはどうか。
あまりの盛り上がり具合に、トロリンカボチャはまだあるからこの後で作ってみないかという話になった時だった。
「どうりゃあぁぁぁっ!」
釣りをしていたダルクが大きくしなった竿を振り抜いた。
気合いの籠った声にそっちを見ると、海から飛び出した何かが甲板に降り立つ。
「わっ、なんですかあれ!?」
「牛? 海老?」
それを見たポッコロとゆーららんが困惑するのも分かる。
だってそいつは、大きさと脚と体色が牛みたいな海老なんだから。
なんだりゃって気分で見ている中、鳴き声を上げたそいつにウシエビだって言いながらダルクが武器を持って飛び掛かり、それを見ていたカグラとセイリュウとメェナ、さらにイクトとミコトも参戦。
続けて数体同じのが現れると、甲板にいたプレイヤー達がそいつらと戦闘を始めた。
「ウシエビっつうとあれか,、牛のデカいブロック肉みたいな見た目で、スゲェ美味いエビの味がする肉をドロップするやつか」
「思った以上に不気味な見た目ですわね」
「あれって海の中を泳ぐのか? それとも歩くのか?」
「そういえばブラックタイガーの正式名称は、牛エビだったな。それを参考にしたのだろうかね?」
戦闘する様子を見ながら暮本さん達とそんなことを話しつつ、戦闘に巻き込まれないように避難してきたポッコロとゆーららん、ころころ丸、コン丸を迎える。
やがて全ての戦闘が終了すると、さっきセツナが言った肉を入手したダルク達が、それを掲げて大喜びした。
ところがそれも束の間、警鐘のようなものが鳴り響く。
『搭乗者の皆様へ御報せします。大型の魔物が接近しています。戦える方は、ご対応願います』
今度はなんだ?
「これって大型の魔物とのレイドバトルをする時の放送じゃん。何が出てくるんだろ」
コン丸は事情を知っているようで尋ねると、この後で大型の魔物が出てレイドバトルが始まるとのこと。
これまでに出てきた相手は、クラーケンとかシーサーペントとか豹のような足と尻尾がある大型のアザラシだったとか。
なんでアザラシに豹のような足と尻尾が、って思ったけど漢字で書けば海豹だから間違いではないか。
そんなことを考えているうちに戦えるプレイヤーが甲板に集まって来て、戦闘準備を整えていく。
勿論、ダルク達もその中にいて、飛行したイクトと浮遊したミコトが上空から様子を伺っている。
「くるよ!」
「結構大きいんだよ!」
一体何が出てくるんだ。
警戒しながら様子を伺っている中、海中から水柱が上がってそれが姿を現した。
「ひいっ!?」
「ほう、これはこれは」
「うわっ。なんつうか、ヒレがあるデカいミミズ?」
姿を現したのは表情を引きつらせたセツナの言う通り、数十メートルはある長さと巨木くらいの太さをしたヒレがあるミミズだった。
さすがにこれは気味が悪くて、思わずエリザべリーチェが悲鳴を上げたのも分かる。
ただ暮本さんは、どうしてそう冷静に頷いているんだろう。
「うわー、気持ち悪」
「コン丸君、あれは何?」
「ありゃあシーワームだな。海に住むデカいミミズだと思ってくれ」
怯えているころころ丸を抱いて引いているポッコロとゆーららんに、気持ち悪そうな表情のコン丸が答える。
いくらゲームだからって、こんなのありか。
うん? ちょっと待てよ、ミミズということは……。
「――!?」
案の定、ミミズが生理的に無理なカグラは声にならない悲鳴を上げて、逃げるようにこっちへ駆けてきた。
まさかこんな所にミミズが出るとは思わなかったから、とんだ不意打ちだな。
やれやれと思っていると、カグラが抱きついてきた。
「いやあぁぁっ! トーマ君、ミ、ミズ、あんなに大きなミミズが、いやー!」
「だあぁぁっ、落ち着け!」
なんかこういうの久々だな、かなり柔らかいのが押し当てられているな、なんていう考えを脇にぽいっと捨てて混乱するカグラを宥める。
あっ、ハラスメント警告出てる。
はいはい、こういう事情だからノーを押しておくよ。
ただしカグラは後で軽く説教な。
それとセイリュウ、そんな恨みがましい目をこっちへ向けていないで戦闘に集中してくれ。




