回復マシ
晩飯に作ったスピアスクイッド入りのチヂミと、貝たっぷりのチゲ。
新装備の使い心地を試し、調子に乗って少し帰りが遅くなったダルク達がこれらを食べた反応は上々だ。
「ぷはーっ! この辛さなら、僕でも食べられるよ。貝がたっぷりで美味しい!」
「うん、おいしーね」
「パチパチ程度になったキャベツの刺激、いいわね」
「チヂミに入ったスピアスクイッドが甘くて、ちょっと辛めのタレと合うね。食感も色々あって楽しい」
「味見でも思ったけど、様々な食感がより美味しさを引き立てているのに加えて、飽きを感じにくくさせているんだよ。だからいくらでも食べられそうなんだよ」
辛いのが苦手のダルクも普通に食べているし、一安心だな。
だけど一番喜んでいるのは他でもない、メェナだ。
「あーっ! 辛くて美味しい! チゲはビリン粉を後乗せにしてあるから痺れる感覚がしっかりするし、チヂミのタレも辛くてイカの甘さとよく合うわ!」
作った料理を食って喜んでくれるのは嬉しい。
でも辛さに関しては、メェナの感覚が分からないから微妙な気分だ。
「しっかし本当に回復量が増えているんだね。お陰であっという間に満腹度と給水度が回復していくよ」
「だからといって、実際にお腹が膨れるわけじゃないのよね。ゲームだから」
ダルクとカグラの言う通り、回復量は増えているけど実際に満腹になるわけじゃないから、今まで通りに食える。
もしも食べられる量が減ったら、たくさん食べられなくなるって文句が出ただろうな。
特にダルクはしつこく言い続けるだろうなと思いつつ、食事を続けた。
やがて食べ終えて後片付けを済ませたら、話はポーションの件に移る。
「それでトーマ君、ポーションの方はどう?」
「そっちもバッチリだったぞ」
セイリュウの質問に応え、晩飯の調理を終えた後で昼に食った魚の頭と骨の下処理やストックの追加、その他の下準備と一緒に仕込んだ水出しポーション類を出して見せる。
水出しポーション 調合者:トーマ、ミコト【従魔】
レア度:1 品質:7 完成度:88
効果:HP回復13% HP継続回復【中・50分】
HPを回復させる薬
水出しにしたため苦みや渋みがほとんど無くて飲みやすい
ほのかな甘みがあり、旨味も引き出されています
水出しマナポーション 調合者:トーマ、ミコト【従魔】
レア度:1 品質:6 完成度:82
効果:MP回復12% MP継続回復【小・50分】
MPを回復させる薬
水出しにしたため苦みや渋みがほとんど無くて飲みやすい
ほのかな甘みがあり、旨味も引き出されています
まず見せたのは、快癒の前掛けを装備せずに作ったいつものやつ。
続けて快癒の前掛けを装備して作った物を見せる。
水出しポーション 調合者:トーマ、ミコト【従魔】
レア度:1 品質:6 完成度:83
効果:HP回復27% HP継続回復【小・50分】
HPを回復させる薬
水出しにしたため苦みや渋みがほとんど無くて飲みやすい
ほのかな甘みがあり、旨味も引き出されています
水出しマナポーション 調合者:トーマ、ミコト【従魔】
レア度:1 品質:6 完成度:85
効果:MP回復26% MP継続回復【小・50分】
MPを回復させる薬
水出しにしたため苦みや渋みがほとんど無くて飲みやすい
ほのかな甘みがあり、旨味も引き出されています
品質や完成度はその時の調合や乾燥加減による誤差の範囲内として、回復量が倍になっている。
といっても、元々の回復量が十パーセントちょっとだからな。
仮に快癒の前掛けを装備して増えた回復量が十パーセント少しだとしても、倍っていうことになるのは当然だ。
「おぉっ、なにこの回復量」
「こんなに増えたの?」
「まあな。ちなみにこれ、参考までにミドルポーション」
驚くダルクとセイリュウに返事をして、最後に快癒の前掛けを装備して仕込んだ、水出しのミドルポーションとミドルマナポーションを出す。
水出しミドルポーション 調合者:トーマ、ミコト【従魔】
レア度:3 品質:5 完成度:77
効果:HP回復41% HP継続回復【小・40分】
HPを多めに回復させる薬
水出しにしたため苦みや渋みがほとんど無くて飲みやすい
ほのかな甘みがあり、旨味も引き出されています
水出しミドルマナポーション 調合者:トーマ、ミコト【従魔】
レア度:3 品質:5 完成度:79
効果:MP回復43% MP継続回復【小・40分】
MPを多めに回復させる薬
水出しにしたため苦みや渋みがほとんど無くて飲みやすい
ほのかな甘みがあり、旨味も引き出されています
これを初めて見た時、回復量が四十パーセントあるから、ひょっとしたら快癒の前掛けを装備したら回復量が倍になるんじゃないかと思った。
ところが調べてみたら、ミドルポーションによるHPとミドルマナポーションによるMPの回復量は、どちらも三十パーセント台。
それが四十パーセント台になったってことは、快癒の前掛けを装備した時に増える回復量は十パーセントぐらいってことだ。
「こっちもいいわね」
「ええ。トーマがミドルポーションを作れたお陰で、回復量が格段に増えたわね」
「だからって無茶はするなよ」
「わ、分かってるわよ」
感心するカグラはともかく、回復量が増えたと分かったらニヤリと笑うメェナには釘を刺しておく。
でないと多少の無茶、というよりもモンスターを攻撃することに集中して、手痛い一撃を受けかねないからな。
ただし、見たら回れ右して逃げるほど嫌いなザリガニ系は除く。
「とりあえず、これに関しては了解。んじゃ、他に何か情報共有することがなければ、いつも通り広場でログアウトしようか」
今回のログインは二日。
確かに予定通りログアウトする頃合いだ。
「昼のログインは予定通りの時間で大丈夫?」
「問題無いわ。でも事前に伝えた通り、夜はログインできないからね」
「私とメェナちゃんは、塾があるもんね」
ダルクの確認にカグラとメェナが答える。
「私も今夜はちょっと無理かも」
おっと、セイリュウも無理になったのか。
ちなみに理由は何?
伯父さん一家が遊びに来るから、幼い従妹二人の相手をしなくちゃならない?
なら仕方ないな。
「じゃあ、今夜は僕とトーマだけ?」
「三人もログインしないなら、俺もログインせずに店を手伝うことにする」
前にセイリュウと二人でログインした時みたいに、やっておきたいことも無いからな。
「えーっ!? そんなーっ!」
だよな、お前は抗議するよなダルク。
「トーマ、二人でログインしようよ! 今なら同じベッドで寝てあげるから!」
「だめ! ますたぁといっしょにねるのはいくととみことおねえちゃんなの!」
「マスターの従魔として、そこは譲れないんだよ」
左右からイクトとミコトが引っ付いて、駄目宣言。
なにこの兄に懐く可愛い弟妹感。
微笑ましいから頭を撫でてやると、イクトは満面の笑みで触覚とレッサーパンダ耳がピコピコ動き、ミコトは無表情ながら満足気に鼻息を吐いた。
「うぐうぅ、まさかイクト君とミコトちゃんに阻止されるとは……」
悔しそうにするダルクが二人を見るけど、だからといって現状は変わらないぞ。
「鼻息むふーのミコトたんが尊い」
「あぁ、しょんな、料理長とイクト君があんなにべったりと」
「ロリショタにサンドイッチされた料理長、いいわね」
うん、周りのなんか変な発言は聞こえない、聞こえない、聞こえなかったことにする。
「というかダルク、休み明けに提出する課題は大丈夫なのか?」
「……」
無言で目を逸らした、その反応が答えと受け取っていいな。
「ちょっと、ダルク。あれ結構量があるから、早めにやらないと大変よ」
「そうだよ。内容はそう難しくないけど、量があるから時間掛かるよ」
呆れているメェナと心配しているセイリュウの言う通り、休み前に出された課題は内容こそさほど難しくないものの、結構な量があった。
俺も昨日の夜に半分くらいはやったけど、それなりに時間が掛かった。
「ただでさえダルクちゃんは勉強が苦手で手が遅いのに、やらずに放置して間に合わなかったら、休み明けはどうなるのかしら」
「むむむ……」
恨めしそうな目で唸っても、事態は解決しないぞ。
「ねえ、手伝うのは……」
「だから私とカグラは塾があるの。今日だけでなく、明日の日中もね」
「そっちをやりながらダルクちゃんの課題を手伝う時間的余裕は無いわ」
「私も明日の日中は伯父さん一家との予定があるから無理」
「土日は忙しいんだ、来ない奴が多いなら店の手伝いをさせてもらう」
「そんなー!」
協力してもらえないと分かったダルクが、悲鳴のような声を上げた。
周りに迷惑だから、そんな大声を出すんじゃない。
イクトとミコトもびっくりしているぞ。
「塾や予定がある皆はともかく、トーマは大丈夫でしょ!」
「だから店の手伝いがあるんだって」
悪いけどゲームか店の手伝いかを天秤に掛けたら、あっさり店の手伝いへ傾く。
将来店を継ぐために、そこは譲れない。
「うぅぅぅ。薄情だよぉ、用事がある皆はともかくトーマは薄情者だよぉ……」
「よし、じゃあ薄情な俺は次回からダルクには茹でもやしだけを出そう」
「ごめんなさい、前言撤回します、全身全霊全力全開で謝罪するのでお許しください、神様仏様裁判長様お代官様赤の料理長様トーマ様」
深々と頭を下げたのはいいとして、謝罪が無駄に長い。
どうして裁判長とお代官を入れた上に、さりげなく赤の料理長まで入れているんだ。
「なら今回の食費と報酬の支払いを、メェナとセイリュウとカグラより多く負担。それと次回のログインで揚げ物を作るけど、ダルクは食っちゃ駄目。それで許す」
「おっ……ぬぐぐぐぐっ!」
ダルクの性格からして、鬼って言いそうになったな。
だけど文句を言ったら余計に揚げ物を禁止されかねないから、寸前で耐えたか。
「くそぅ、揚げ物質を取られたら僕は無力だ……」
揚げ物質って、人質の揚げ物版ってことか?
そんなの、俺にここでの飯を頼んで了承した時点で握られているようなものだろう。
「私も辛味質を取られないようにしないと」
「甘味質を取られたら、逆らえないわ」
「麺質を取られたらどうしよう」
メェナもカグラもセイリュウも、ダルクが言った逆恨みのごとき文句や、それに準ずるようなことを言わなければそんなことはしないから安心しろ。
「あげものじち、からみじち、かんみじち、めんじちってなぁに?」
「よく分からないけど、マスターを怒らせたら好きな物を作ってくれないってことなんだと思うんだよ」
ミコト、大正解。
その点、イクトとミコトは安心していいぞ。
お前達はそういうこと言わないもんな。
「ちなみに、次のログインで何の揚げ物を作るつもりなの?」
「白身のフルアーマーフィッシュを揚げてフィッシュバーガー、エルダーシュリンプのフライをカツ煮のように卵とじにしたもの。今考えているのはこの二つだな」
「あーっ! どっちも食べたいー!」
恨めしそうに作る物を尋ねるダルクへ予定している料理を伝えたら、頭を抱えて騒ぎだした。
何度目か分からないけど、自業自得だ。
自分の発言には責任を持て、思ったことは口にする前に言っていいのか考えろ、軽口は災いの原因だぞ。
「トーマ、辛い物を作る予定はある?」
「甘い物を作る予定は?」
「あまいの、たべたい!」
「どうせ揚げ物を作るなら、久しぶりに固焼きそば食べたい」
次々と要望が出てきたな。
だけどメェナ、辛いのはさっき食べたばかりだろう。
しかもかなりの激辛を。
そしてさりげなく、目をキラキラさせたイクトまで加わっているし。
「マスター、私は美味しい物ならなんでもいいんだよ」
ありがとうミコト、俺にできる限りの美味い物を作ってやるからな。
あと、麺類くらいなら主食として出してやろう。
揚げ物同士だと味がくどくなりそうだから、固焼きそばじゃなくて海鮮出汁と魚醤のラーメンとか。
カニがあれば、天津飯みたいなのを作ってもいい。
刻み麺にカニを加えたカニチャーハン的なのに、かに玉を載せて、さらにカニ入り餡を掛けるカニ尽くしで。
そういったやり取りをしているうちに時間になり、次回用の食費と今回の報酬を受け取り、作業館から退館して広場でログアウト。
現実へ戻り、昼の営業を手伝う。
土曜日だから家族客が多く、昼から飲みに来ている酔っぱらい連中もいるけど、席を離して案内しているから大丈夫だ。
バイトに入っている瑞穂さんに、忙しそうにしながらも愛想よく接客している。
「斗真。もやしラーメンやるから、もやしやってくれ」
「分かった」
焼き終えた餃子を母さんに渡し、もやしラーメン用にもやしを炒める。
ごま油を敷いて熱した中華鍋でもやしを炒め、味付けは単品なら醤油とか酒を混ぜたものだけど、もやしラーメンの時はラーメンのタレを使って一体感を出す。
「もやし、そろそろいけるよ」
「おう、持ってこい」
祖父ちゃんが仕上げたラーメンの上に炒めもやしを載せて、祖父ちゃんが黒コショウを軽く振る。
これで中華桐谷のもやしラーメン完成。
祖父ちゃん曰く、もやしの水分で味が薄まらないようにラーメンのタレとスープのバランスを調整しているらしいけど、うちでそれができるのは祖父ちゃんと父さんだけ。
俺にはそんなこと、まだまだできない。
完成したもやしラーメンはすぐに祖母ちゃんが運び、俺は父さんの指示で春雨を戻すために茹でる。
これをニラと卵と炒めるのか、はたまた肉と炒め煮にするのか、それとも麻婆春雨か。
「トーマー!」
茹でて戻った春雨の湯切りをして父さんへ渡したら、揚げ物狂いが襲来した。
勢いよく入店して、慣れた様子の祖母ちゃんがすぐにカウンター席へ案内して、俺の前へ着席した。
「何か用か?」
「ゲームで揚げ物食べちゃダメって言われたから、現実で食べに来た!」
さすがは揚げ物狂いの幼馴染、そうきたか。
「あら、そうなの? でもそれって、早紀ちゃんが斗真君を怒らせたからじゃないの?」
「瑞穂さん、的確に図星を射抜かないで!」
早紀と瑞穂さんのやりとりに、常連達が笑う。
「とにかくトーマ、揚げ物たくさんちょうだい!」
注文はしっかり品名を言え。
うちに揚げ物が何品あると思っているんだ。
「具体的には?」
「唐揚げ様と揚げ餃子様と春巻き様とゲソ揚げ様と」
様付けしなくていいから。
あと、そんなに注文するのか?
「そんなに食えるのか?」
「ああ、ゲームの中の感覚でつい。テヘペロ」
そういうのはいいから。
「ついでに言うと、財布の中身は大丈夫?」
瑞穂さんの問いかけに早紀は一瞬フリーズして、すぐに財布を確認。
続いてスマホをチェック。
うちはキャッシュレスに対応しているから、電子マネー可だぞ。
「ぐっ、うっ、ぐすっ」
財布とスマホを確認して、うずくまって泣き真似をする早紀の様子からして、金が無いことを察した。
「言っておくけど、うちは常連だろうとお得意様だろうとツケもローンも出世払いも駄目だぞ」
「トーマのケチー!」
「俺に言われても困る。祖父ちゃんが決めたことだから、祖父ちゃんに言ってくれ」
「無理、言えない。言ったらお玉片手に雷落とされる」
その光景が容易に想像できるよ。
「大将、早紀ちゃんが――」
「やめて瑞穂さん! それよりトーマ、揚げ餃子ちょうだい。揚げ餃子だけ、ちょうだい!」
祖父ちゃんへ告げ口しようとする瑞穂さんを止めながら注文をする早紀に、常連達だけでなく家族連れの客達も笑う。
それと、揚げ餃子を頼む金はあったんだな。
「了解。他の注文もあるから、少し待ってな」
「早めにね!」
はいよ、分かっているって。




