土地神からの贈り物
ひょんなことから土地神のガーディアンバットと遭遇し、その眷属達と遊ぶことになってしまった。
丸っぽくて可愛らしい外見と顔つきとはいえ、コウモリとどう遊べばいいのか。
見当もつかずに悩んでいたんだけど……。
「まてー!」
「皆、こっちへ逃げるんだよ」
『レエェェェイッ!』
『レッサーァッ、パンダアァァァァッ!』
浮遊したミコトがグローブを鳴らしながら眷属達を誘導し、フライモードになって追いかけるイクトから逃げる。
あれはまさしく空中追いかけっこだ。
そしてグローブからの鳴き声に、眷属達は楽しそうにキーキー鳴いている。
「こんのっ、待てー!」
捕まえられるものなら捕まえてごらん。
そんな感じで飛ぶ眷属達を捕まえようと、ダルクが走って追いかけてジャンプしては、高度を上げられて逃げられている。
あれは遊んでいるというより、遊ばれているんじゃないだろうか。
さらに少し離れた所では、セイリュウが演奏スキルで吹く横笛に合わせてカグラがゆったりした雰囲気の歌を歌い、周囲に座っている眷属達がそれに聞き入っている。
「普通のコウモリなら躊躇するけど、この外見なら可愛いから触れるわね」
一緒に休息するのも遊びに含まれるということで、メェナは眷属達と敷物の上で寛いでいる。
膝の上に座った眷属達は順番に撫でられ、気持ちよさそうだ。
「案外なんとかなるもんだな」
皆の様子に考えすぎていたと気づかされた俺も、メェナ同様に敷物の上に座ると残っていた眷属達がやってきた。
「おーい、なんか適当に飯をやってもいいか?」
一緒に飲食をするのも何故か遊びに含まれているから、それをするためにダルク達へ許可を求める。
「いいよー!」
「問題無い範囲でよろしくね」
「うふふ、私達のご飯に影響が出ないようにね」
「このクエストをクリアするためなら、構わないわ」
許可が出たからストックのパンと、朝に作ったジャムの残りを少しだけ使って眷属達へ振る舞う。
少しだけなのは、あまり使い過ぎるとカグラが何をしでかすか分からないからだ。
千切ったパンにブルットジャムを付けたものを口にした眷属達は、嬉しそうにキーキー鳴いてむしゃむしゃ食べていく。
あっ、イクトの傍にいた幼い眷属もいる。
こいつが一番嬉しそうに食べていて、なんか嬉しい。
『ほう、何やら甘い香りがするな。こんな場所で暮らしていては甘い物など食べられぬから、皆嬉しそうではないか』
洞窟で甘いものを食べるなんて、どうすればいいのか見当もつかないな。
そうと知ったらたくさん分けてあげたいけど、ストックが無くなったら困るし、ジャムを消費したらカグラがなんて言うか。
とはいえ、この特殊クエストをクリアするためなら理解してくれるかもしれない。
「カグラ、こいつらに食べさせるためジャムを使い切ってもいいか?」
「えぇっ!?」
「ひっ!?」
歌い終えて眷属達からキーキーと鳴き声で称賛されていたカグラが、俺の問いかけを聞いて驚愕の表情を向ける。
それを見て称賛していた眷属達は驚いて小さく跳ね、演奏していたセイリュウも小さく声を上げた。
「そそそ、そうね。このクエストをクリアするためには必要よね、ああでも甘い物が、甘い物が減るのは」
「落ち着いて。落ち着いて冷静に考えて」
プルプル震えながらすごく葛藤する姿に、横笛を握ったセイリュウが近寄って宥める。
ただ、眷属達はカグラが葛藤する様子がおもしろいのか、なんか楽しそうにキーキー鳴いて会話していて可愛い。
まったく、仕方ないな。
「心配しなくても、手持ちにシュトウがあるからそれでジャムを作ってやるよ」
契約の件でガニーニの工房へ寄った時、ついでに買っておいた。
でもシュトウジャムは以前も作ったから、ブルットジャムを作ったんだ。
前にバーテンダーからいずれ入手できると教わった、ピチーの実とマゴンの実とパプンの実はまだ買えなかったけど、今後も購入を続けてくれれば売ってやるとガニーニから言われたから、いずれ手に入るだろう。
「それならいいわ! でもちょっとは残しておいてね、シュトウとブルット! ハーフアンドハーフで食べたいから!」
葛藤から復活したカグラ許可が出た。
でもジャムのハーフアンドハーフ?
食パンに半分ずつ違うジャムを塗る感じだろうか。
なんにしても、許可が出たならもう少しブルットジャムを出そう。
再度ジャムとパンを出すと、眷属達がキーキー鳴きながら押し寄せて来た。
はいはい、順番渡すから一斉に押しかけないでちゃんと並べ。
『ふふふっ。皆、ちゃんと礼を言うのだぞ』
ガーディアンバットが微笑みながらそう言うと、ジャム付きのパンを受け取った眷属達が一斉にキーって鳴いた。
どういたしまして。
「よーし、こっちも負けじと遊ぶぞー! 皆、集まって! ミコトちゃんもちょっと手伝って!」
「何か用なんだよ?」
大きく声を響かせたダルクは、自分の周りにいる眷属達とミコトを呼び寄せ、アイテムボックスから長い蔦のようなものを取り出す。
そして一方の端を自分で、もう一方の端をミコトに持たせて距離を取って自分だけしゃがむと、蔦を大縄跳びの要領で大きく回しだした。
「さあ皆、この中に入ってこれを踏まないように跳び続けて!」
いやさすがにコウモリにそれは無理じゃないか?
と思ったら数匹がタイミングを見計らって中へ入り、回る蔦をピョンピョンと跳びだした。
縄跳びできるんかい。
しかもそれを見て面白そうと思ったのか、他の眷属達も加わっていく。
「あー、いくとも! いくともやる!」
「イクト君は大きさ的に無理!」
一匹でも多くの眷属が参加できるよう、わざわざしゃがんで低く長くしてやっているもんな、眷属達はともかくイクトの背丈じゃ一緒に跳ぶのは無理だ。
「ちがうの、まわすほう!」
あっ、そっち?
回す方をやりたかったのか。
それを聞いて一旦大縄跳びを止め、ミコトが交代してくれて再開。
ペースが速いけど、ダルクはすぐに対応して眷属達も難なく跳び続けている。
「なるほど、遊びに使えそうな素材を使うのも有りね」
敷物の上で一緒にくつろぐ眷属達を撫でるメェナが呟く。
本当にダルクは、ああいうことはよく思いつくもんだ。
ちなみに縄の代わりにしている蔦のような物は、植物系モンスターのドロップ品なんだとか。
「じゃあこっちは、皆で踊りましょうか。セイリュウちゃん、適当に音楽お願い」
「分かった」
適当でいいのか。
そう思いつつ見守る中、セイリュウが横笛で吹く曲に合わせてカグラが手拍子し、軽快にステップしだした。
「はい、皆も一緒にやりましょう」
カグラに促されて眷属達が混ざりだし、なんだか保育園のお遊戯みたいな感じになった。
ていうかカグラ、あまり大きくステップしないでくれ。
何が、なのかは言えないけど揺れているから。
うん? カグラの視線がたまにこっちへ……ああ大丈夫だぞ、ちゃんとジャムは残しておくぞ。
とまあこんな感じでしばらく遊んでいると、温かい眼差しと表情で見守っていたガーディアンバットが、そろそろお開きにしようと言いだした。
時間を確認すると、一時間はとっくに経過している。
すると眷属達が抗議するようにキーキー鳴きだした。
『お前達から楽しみを奪うのは心苦しいが、その者達にも用があろう。これ以上、ここへ留まらせるのは申し訳ないではないか』
そう言われた眷属達は、寂しそうに俯いて黙った。
『眷属達が世話になったな。お前達との時間がどれだけ楽しかったのかは、この反応を見れば分かる』
名残惜しそうにこっちを見る眷属達。
外見が可愛らしくなっているから、ついもう少し遊んでやりたくなりそうだ。
『これはその礼だ。受け取るがよい』
ガーディアンバットが右側の羽を広げる。
するとメロンぐらいの光の玉が五つ現れ、俺達の前へ飛んできて目の前に止まった。
イクトとミコトの前には無いから、プレイヤー限定なのか?
「あの、これは?」
『触れてみよ』
言われるがまま光の玉に触れると、皮のような物が現れた。
手に取って広げたら、大きさは一メートル四方ぐらいある。
「トーマは皮? 僕達はこれだよ」
そう言って見せてきたのは、ダルクとメェナが牙のような物で、カグラとセイリュウは爪のような物。
これらは一体何なのか調べるため、情報を確認する。
守護コウモリの皮
レア度:7
効果:これで作った装備品を身に付けて作った料理と薬は、回復効果が上昇
へえ、回復効果を強化する装備品になる皮ね。
ということは料理だと満腹度や給水度、薬だと回復量が増えるのか?
あっ、ポーションまぜそばみたいなのを作れば、それの回復効果も強化されるかも。
問題はどんな装備品を作ってもらうかだけど、皮なら前掛けやバンダナよりも靴かな。
どこに注文すればいいのかは、ダルク達に相談しよう。
「嘘っ!? レア度七⁉ HP吸収効果のある装備品を作れる牙!?」
「与えたダメージの三パーセント程度とはいえ、前衛には垂涎の素材じゃない!」
「こっちの爪は、MP吸収魔法を使える装備を作れるみたい」
「これで作った装備を身に付ければ、MPを吸収する特殊な魔法を使えるのね」
どうやら、それぞれの職業に合った素材をくれたようだ。
そういえば、スタッグガードナーからの褒美もそんな感じだったな。
吸収系や回復強化系なのは、コウモリの吸血からイメージしたのかな。
『お前達にとっては貴重な物だろうが、我にとっては大した物ではないゆえ、遠慮せずに受け取れ』
「「「「ありがとうございます!」」」」
「ありがとうございます」
ダルク達が揃って頭を下げながらお礼を言ったのに続いて、俺もお礼を伝えた。
すると、目の前に何かが表示される。
************************
≪特殊クエスト・土地神ガーディアンバットからの頼み をクリアしました≫
参加した全プレイヤーへ、以下の報酬が与えられます
・それぞれの職業に合った素材を一つ
・ポイント1点
・賞金5000G
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ああ、やっぱりそれぞれに合った素材だったのか。
それからポイントと賞金も獲得したようだ。
ダルク達も喜んでいて、貰った素材でどんな装備を作ってもらおうかと話し合っている。
『ついでにこれもやろう』
うん? まだ何かくれるのか?
はしゃいでいたダルク達も静かになって、ガーディアンバットの方を見る。
すると今度は両方の羽を広げ、淡く輝く粒子が放たれて俺達へ降り注ぐ。
イクトとミコトには降り注いでいないから、これもプレイヤー限定なんだろう。
やがてそれが終わって体を見るけど、誰の体にも特に変化は無い。
『特殊クエスト・ガーディアンバットの頼みをクリアした、五名のプレイヤーへお報せします』
あっ、アナウンスだ。
特殊クエストをクリアした五名のプレイヤーって、俺達へ向けてのアナウンスか?
『皆様が【守護クワガタの祝福】を所持していることを確認しました。これにより特殊条件、他の土地神による称号の所持を達成しましたので、【守護コウモリの祝福】の称号が与えられます』
えっ、称号?
「「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
「あらまあ」
思わずといった様子でダルクとメェナが叫び、ワンテンポ遅れてセイリュウも叫び、カグラは両手を口元にやって驚いている。
【守護クワガタの祝福】ってあれか、公式イベントでスタッグガードナーの試練をクリアした時に貰った称号か。
『あの堅物クワガタが祝福したのに、私が祝福を与えないのは悔しいのでな。これも受け取っておけ』
その言い方、ひょっとしてガーディアンバットとスタッグガードナーって仲が良くないのか?
人によって合う合わないがあるように、土地神にもそういうのがあるのかな。
「いいいいい、いいんですかっ!?」
『大したものではないから、気にするな』
そっちにとってはそうでも、こっちにとって称号は大したものなんだよ。
急な称号獲得に、ダルク達に落ち着きが無くなっている。
「とと、とにかくどんな称号なのか確認しましょう」
「そうだね、そうしよう」
「これ、絶対に情報屋案件ね」
手を震わせながらダルク達が確認しだしたから、俺も確認しておこう。
称号【守護コウモリの祝福】
解放条件
他の土地神の祝福による称号を所持し、ガーディアンバットの頼みをクリアする
報酬:ポイント1点 賞金2000G
効果:洞窟内と夜間にステータスが5%増
*小数点以下は切り捨て
*夜間に洞窟へ入っても、重ね掛けは発生しません
洞窟内と夜間に強くなるなんて、いかにもコウモリの祝福っぽいな。
とはいえ五パーセントで小数点以下は切り捨てだから、ステータスの数値が最低でも二十ないと強化されないか。
まあ、戦闘しない俺にはあまり関係ないか。
「おぉぅ。夜間と洞窟内での限定とはいえ、強化系の称号だよ」
「あらあら、これは欲しがる人が多そうね」
「情報屋に売ったら、絶対高値が付くやつだね」
「これをミミミに見せたら、絶対に大騒ぎするわ」
だろうな。年頃の女性がしちゃいけない表情で叫びながら勢いよくヘドバンをして、面白がったイクトが隣で真似をする光景が目に浮かぶよ。
『では、我々はこれで失礼する。お前達の今後に幸有らんことを願う』
そう言い残してガーディアンバットは羽を広げて飛び上がり、眷属達もそれに続く。
「ばいばーい」
「またね、なんだよ」
イクトとミコトに手を振られて天井の方へ飛んでいくと、幻術を使ったのか姿が見えなくなった。
「はぁ……。まさかこんなことになるなんて」
騒動が終わったかのように溜め息を吐いたメェナが、俯き気味になって額に手を当てる。
「そういえば【守護クワガタの祝福】の効果に、他の土地神と出会った際に役立つってあったわね」
「出会った時の流れだけじゃなくて、こういうことにも役立つって意味なのかな」
カグラの呟きにセイリュウが続く。
こういう役立ち方をするなんて、誰も想像できないだろう。
「ということはさ、塾長達がサードタウンジュピターの北にある湖で出会った土地神にも、こういうのがあったのかな」
さすがは塾長、既に別の土地神と出会っていたのか。
ただし内容については、進行方向とは違うから仕入れておらず、ダルク達も知らなかった。
「さあて、そろそろ行こうか。予定より遅れちゃったし、急がないとね」
だな。ここへ来る前は少し早めだったのが、遊んで飯食って特殊クエストをやっていたから、すっかり遅くなっちゃったな。
というわけでやや急ぎめで洞窟を抜け、その後もカグラの祈祷スキルでモンスターとのエンカウント率を下げ、できるだけ戦闘を避けて先へ進む。
完全に戦闘を避けられるわけじゃないから、途中で数回戦闘があったもののダルク達とイクトとミコトの奮闘のお陰で切り抜け、日が落ちた頃にフォースタウンハーフムーンに到着した。
「つーいーたーぞー!」
「ぞー!」
両腕を掲げて声を上げるダルクの真似をして、イクトも両腕を掲げて声を上げる。
やめてくれ、この場に居合わせたプレイヤーがクスクス笑っているぞ。
当人達は気にしていなくとも、一緒にいる俺達は恥ずかしい。
ほらみろ、無表情で呆れた目をしているミコトと困った子達ねって感じでクスクス笑うカグラはともかく、メェナは頭が痛そうな表情で溜め息を吐いていて、セイリュウは恥ずかしそうに俯いているじゃないか。
かくいう俺も、駄目だこりゃとばかりに首を横に振っている。
「さあ皆、到着したけど時間が遅くなっちゃから、早くログアウトしましょう」
そうだな、カグラの言う通りだな。
予定通りフォースタウンハーフムーンに到着したことだし、さっさとログアウトしようか。
せめて町中を見て回ろうよとごねるダルクの意見を却下して、全員で広場へ移動してログアウトした。




