変異種野菜できました
久々に会ったポッコロとゆーららんが駆け寄って来る。
だけど視線は二人よりも、その後ろに続く見たことのないモグラのモンスターに向かってしまう。
つぶらな瞳に白い毛、爪は長めで大きさは三頭身ぐらいの丸っぽい輪郭。
二足歩行しているけど後足が短くて歩みは遅く、ポテポテという足音を立てそうな走り方で、一生懸命に二人の後を追っている。
うん、こんな激カワアニマル動画があったら、絶対に毎日見るね。
「こんにちは!」
「えへへー、会えて嬉しいです」
挨拶をするゆーららんはともかく、ポッコロがどれだけ嬉しいんだ。
笑顔なのは当然いいとして、リスの尻尾がブンブンと激しく揺れているぞ。
「ショ、ショタリス君が!」
「料理長とショタリス君が向き合う光景が尊すぎて眩しい」
「はあ、はあ。ショタ狐君、ショタ狐君も来なさいよ」
なんか周りが騒がしいのと、ゲーム内なのに妙な寒気を感じる。
「ああ、こんにちは。ところでそいつはなんだ?」
ようやく追いついたモグラが、ふーっといった様子で額を拭う。
モグラって汗掻いたっけ?
ゲームだから細かいことは気にしなくていいか。
「この子は僕のテイムモンスターで、ファームモールっていうモンスターなんです」
ファームモール、そのまま訳せば農場モグラか?
右手をビッと上げてモルッ、と鳴いたファームモールに早速イクトが近づき、触覚とレッサーパンダ耳をピクピク動かしながら興味深そうに眺めている。
「へー、ポッコロ君テイムスキル取ったんだ」
「はい! この子、農業スキルがあるので農作業を手伝ってくれるんです」
そりゃあ、名前にファームってあるのに農業できなかったら、それは名称詐欺だからな。
「ぽっころおにいちゃん、このこのおなまえは?」
「ころころ丸だよ、イクト君」
微妙な名前だ。
全体の輪郭が丸いし三頭身だから、ころころ転がっていそうだけど微妙だ。
「よろしくー、ころころまるくん」
イクトに名前を呼ばれ、嬉しそうにモルッと返したから本人は満足しているんだろう。
「この子のお陰で農作業が効率的に進むようになって、畑が充実していますよ。おかげでこの通りです」
そう言ってゆーららんはステータス画面を操作し、作業台の空いているスペースに野菜を大量に置いた。
というかこの野菜って。
「変異種のやつか!」
「はい。ようやく、ある程度の量が確保できました」
腕で額の汗を拭う仕草を見せたゆーららんが出したのは、どれも前に見せてくれた変異種の野菜ばかり。
しかも品質も前と同じぐらいの数値が出ている。
「それから、これも収穫できました」
次はポッコロがステータス画面を操作し、空いている場所へ落花生を置いた。
そうだそうだ、これも預けていたんだったな。
これだけの食材を前にしたら、思わず食事の手を止めて一つ一つ確認しちゃうじゃないか。
「変異種って、これが!? 掲示板に書いてあったけど、実物を見るのは初めてだよ」
そういえばダルク達は見たことが無かったな。
前に二人が見せてくれた時は、俺とイクトとミコトだけだったし。
「えっ、このナス大丈夫? 毒じゃない?」
「だいじょうぶだよ、どくじゃないよ」
イクトめ。初めて見た時は、今のセイリュウと同じようなことを言っていたくせに。
「このピーマンもタマネギもトマトも美味しそうね」
美味しそうじゃない、美味いんだよカグラ。
「バチバチと弾ける食感のキャベツってなに。炭酸風のキャベツ?」
それは本当に衝撃的な刺激だったよ。
キャベツなのに食べたら口の中でバチバチ弾けて、炭酸を一気に口へ含んだみたいだった。
「ふっふっふっ、どうですかお兄さん」
「僕達、頑張りました!」
「よくやってくれた。ありがとな」
自慢気に胸を張るゆーららんと、小さくガッツポーズをするポッコロへお礼を告げ、改めて野菜をしっかり確認する。
どれも鮮度が高いから、獲れたてをアイテムボックスへ入れたのかな。
「ていうか、人前に出しちゃって大丈夫?」
「他のファーマー達の間でも作られて、そこそこ流通が始まってますから大丈夫ですよ」
あれ? だとするとミミミにワインを渡したのは……。
済んだことは気にしないことにしよう。
そもそも、アルコールを前にした時のミミミの勢いをどうにかできたとは思えない。
自分にそう言い聞かせ、変異種の野菜五種と落花生の確認を終えた。
「どれも良い物だな、是非買わせてくれ」
「まいどありー。お値段は各種、こうなっています」
ステータス画面を表示させ、わざわざメッセージで値段を伝えてきたゆーららんが揉み手をする。
落花生の値段はこんなものだろうって感じなのに対し、変異種の野菜は普通のに比べてずっと高い。
だけど変異種なのと、量を確保するまで栽培するのが大変なことを考慮すれば、これくらいしても不思議じゃないか。
「分かった、この値段で買わせてもらおう」
本当に適正価格なのかを調べることもできたけど、二人とは何かと付き合いがあるし、渡した野菜を栽培してもらっている恩もある。
ここは二人を信じて、この値段で買おう。
「はーい、ありがとうございまーす」
取り引きは無事に済み、変異種の野菜を入手。
明日の朝食にはこれを使おうと思いつつ、食事を再開する。
だけどポッコロもゆーららんも、俺達の下を離れようとせず、何故か椅子を持ってきて座った。
「まだ何か用があるの?」
セイリュウからの問いかけに二人は首を横に振った。
「いえ、この後は宿を取って寝るだけなので、良ければご一緒させてもらおうと思いまして」
「久しぶりに会ったので、お兄さんともっとお話ししたいです」
膝の上にころころ丸を乗せて抱くポッコロの姿が、年齢より幼く見える。
そのせいかイクトに負けず劣らず、弟可愛いと思っちゃったじゃないか。
「「ごっふぉっ」」
「どうしたお前達、何があった!?」
「しっかりしろ、意識はあるぞ!」
「料理長とお話ししたいショタリス君……」
「そこから広がる妄想に、脳の処理能力がパンクを……」
「「ご腐人ー!」」
周りが騒がしいな。
「それとも、この後は何か用事がありますか?」
断られるかもしれないと思ったのか、若干不安そうにゆーららんがそう言うけれど、この後は二人と同じで宿を取って寝るだけ。
せいぜい、ストックの麺を用意しておくぐらいだ。
「だったらこの後、皆で遊楽通りへ遊びに行かない?」
このダルクの提案に皆が賛成したため、俺もストック作りが済んだらという条件付きで賛成をした。
そういえば最初に行ったっきりだったな、あそこは。
ログイン初日のことを思い出しながら食事を進め、食べ終わったら後片付けをして、皆が雑談している間に麺のストックを作る。
生地を寝かせる時間は必要だったものの、パスタマシンのお陰でストックはあっという間に完成。
全員で作業館を退館して、久々の遊楽通りへと遊びに行った。
*****
一瞬だけの睡眠が終わって目を覚ます。
十人くらいでも泊まれる大部屋を見渡すと、違うベッドで寝ていたダルク達も起きだした。
同じベッドで寝たイクトとミコトも体を起こし、同室で泊まることになったポッコロとゆーららんところころ丸も目を覚ます。
だけどダルク達とポッコロとゆーららんの表情は冴えないし、俺もあまり気分が良くない。
「……トーマ、昨日の気疲れは取れた?」
「全然」
「だよね……」
気だるそうなメェナの問い掛けに返事をして、それにセイリュウが同意した。
ゲーム内だから体は疲れていない。
だけど気持ちの面は別だ。
「もう。ダルクちゃんが早く止めないからよ」
「負け続けていたのに、止められるわけがないじゃないか!」
カグラに反論したダルクだけど、俺達の気疲れの主原因はお前にあるからな。
あのポッコロとゆーららんでさえ、ジト目を向けているくらいだぞ。
「ただでさえ巨大迷路で苦労したのに、負け続けているのに粘らないでほしかったわ」
そう呟いて深い溜め息を吐いたメェナの言う通り、昨日俺達は遊楽通りで巨大迷路に挑戦した。
テイムモンスターを含めて十人まで挑戦できるっていうから、人数的にもちょうどいいと思い軽い気持ちでやったんだけど、これが想像以上に大変だった。
壁伝いに行く法則は通用せず、壁にまぎれた隠し扉はやたら見つけにくく、難しめのクイズを解かなきゃ開かない扉まであった。
飛行や浮遊対策がされていたからイクトとミコトが上空からルートを調べることもできず、当然ながらころころ丸が地面を掘って進むなんてこともできず、皆で協力して必死に出口を探した。
その甲斐あって途中でリタイアすることなく、なんとか迷路をクリア。
ちなみにクリア報酬は、同じ施設の地下にあるという、より難しい迷路への挑戦権。
正直いらないと、誰もが思った。
だけど問題は、その後で入ったカードで遊ぶ施設。
金を賭けない全年齢向けブースで遊んでいたんだけど、負け続けて何のアイテムも入手できずにいたダルクがやたら粘ったため、外へ連れ出して宿へ行くのに苦労した。
ポッコロとゆーららんもそれに巻き込んでしまったため、お詫びに宿代はこっち持ちで同じ部屋に泊まった。
「だって、皆は何かしらアイテムを入手したのに、僕だけ何も入手できないなんて悔しいじゃないか!」
そうは言うけど、入手したのは売却するしかない携帯食料とか大したことのない装備品とか、あとは飲み水とかちょっとした素材くらいだぞ。
なにせここはファーストタウン、そんなに凄いものは入手できないって。
「ダルクお姉さん、現実でギャンブルにのめり込まないよう気を付けてくださいね」
「ここはゲームですけど、現実ではお金の問題が発生するんですからね」
「うぐぅ……」
年下二人に言われちゃ、世話ないな。
「ますたぁ、おなかすいた」
「朝ご飯にするんだよ」
「あいよ。じゃあ皆で作業館へ行くか」
気疲れしていても腹は減る。
空腹を訴えるイクトとミコトに皆も同意みたいで、宿を出て作業館へ向かう。
ポッコロとゆーららんも、昨日はダルクを止めて宿へ連れて行くのに協力してくれたから、そのお詫びに朝食をご馳走することにした。
「「いいんですかっ!?」」
「気にするな。昨日、うちの揚げ物狂いの暴走で迷惑を掛けたお詫びだ」
「誰が揚げ物狂いだって!」
お前だお前。
自覚の無さに心の中で文句を呟きつつ、ダルク達からも構わないと言われたポッコロとゆーららんは嬉しそうにスキップし、それにつられてイクトもスキップする。
一生懸命にポテポテ歩くころころ丸が遅れないよう、時折注意しながら歩いて作業館へ到着。
人数も多いからとメェナから強く言われ、有料の個室と一緒にオーブンを借りて移動し、バンダナと前掛けを表示させて朝飯作りに取り掛かる。
「それでお兄さん、何を作るんですか?」
イクトとミコトと一緒になって、正面に陣取ったポッコロがワクワクしながら尋ねてきた。
あっ、いや、ゆーららんも一緒になっているか。
て、ころころ丸も?
まあ邪魔しないならいいけど。
「フルーツのジュースとパンと目玉焼きと茹でたソーセージ、それとカルパッチョだ」
パンはストックから出してオーブンで温める。
目玉焼きは昨日お詫びに貰った食材にあった卵で作って、ジュースは残っているフルーツで作る。
ソーセージは前に肉屋でハムやベーコンと一緒に購入したもの。
でもって今朝のメインのカルパッチョに使うのは、フィッシュフライを作った時に残しておいて、あることを施しておいたソフトサーモンだ。
「えっ、それってソフトサーモンだよね?」
「生で大丈夫だったかしら?」
「こいつは生で食べられるぞ。ただ、柔らかくて食感が弱いから生食はオススメできないそうだ」
「なのに生で使ってカルパッチョにするの?」
そう思うだろうが違う。
というのもこれ、生のようで生じゃない。
「冷凍スキルで冷凍してあるから、食感の点は心配無いぞ」
「冷凍、ということはルイベね!」
「「「「ルイベ?」」」」
ルイベを知らないポッコロとゆーららん、イクトとミコトが首を傾げ、ころころ丸がそれを真似してモルッと鳴いた。
「一言で言えば、鮭を凍らせたものだ」
こうすれば食感の弱さをカバーできると踏んだけど、肝心の味はどうかな。
皮を取り、生鮮なる包丁で小さく切り取って試食。
凍らせたことでシャリッとした食感があって、柔らかすぎることが欠点のソフトサーモンに、心地よい食感が生まれている。
しかも口の中で溶けることで、徐々に食感が柔らかく変化していくのが楽しい。
それでいてソフトサーモンの味はしっかり感じられるから、ルイベにして正解だったな。
さて、もう二切れ小さく切り取ってと。
「ほらよ。イクト、ミコト」
「あーん。冷たい!」
「シャリッとした食感がいいんだよ。しかも口の温度で溶けるから、食感が徐々に柔らかく変化するんだよ」
いつも通り試食したそうにしていた二人へ試食させ、いいなっていうダルク達とポッコロとゆーららんの視線を浴びつつ、調理に取り掛かる。
ルイベは溶けないよう、一旦アイテムボックスへ戻し、まずは目玉焼き作り。
二つのコンロにフライパンを置いて点火して、油をしいて温めたらお椀へ卵を割り入れ、中身に問題が無いのを確認したらフライパンへそっと落として焼く。
「ポッコロとゆーららんは、焼き加減はどれくらいがいい?」
「僕は固焼きでお願いします」
「私は半熟で」
ポッコロが固焼きでゆーららんが半熟な。
俺達は俺とカグラとセイリュウが半熟、メェナは固焼きでダルクは生に近いぐらいの半熟っと。
イクトとミコトところころ丸は不明だから、とりあえず固焼きにしておこう。
卵を焼きつつ、カルパッチョに使う野菜を仕込む。
使うのは甘味が強い横縞のシマシマタマネギ、ギッチリピーマン、バチバチキャベツ、エバーグリーントマトの四つ。
目玉焼きを作りつつ、シマシマタマネギとエバーグリーントマトはスライス、ギッチリピーマンとバチバチキャベツは細切りにする。
焼き上がった目玉焼きは皿へ乗せ、冷めないうちにアイテムボックスへ。
入れ替わりでルイベとソーセージを出し、ソーセージを茹でるためお湯を準備し、ルイベは厚みを出して切り分ける。
人数が増えたから一人当たりの枚数が減ったけど、そこは勘弁してもらおう。
「味付けはどうするの?」
「昨日のまぜそばに使ったタレを残しておいたから、それを使う」
あの酸味の効いたタレなら、カルパッチョに向いている。
だから昨日タレを仕込む時に多めに作って、今日のカルパッチョに備えておいた。
切り分けたソフトサーモンのルイベは溶け難いよう、冷却スキルで冷やした皿へ並べ、その上に野菜を乗せてタレをかけ回し、最後に胡椒を少々振って完成。
ソフトサーモンのルイベのカルパッチョ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:6 完成度:87
効果:満腹度回復11%
魔力+4【1時間】 俊敏+4【1時間】
柔らかいソフトサーモンをルイベにすることで食感を強化
四種の変異種野菜が織りなす味と食感と刺激が口の中で唸りを上げる
そのまま食べてもよし、パンに挟んでもよし
でもって肝心の味はどうだ?
野菜は全部変異種だし、タレとの相性が悪ければそこから作り直しも……おぉっ!?
ルイベのシャリッとした食感と旨味、横縞のシマシマタマネギの甘味、ギッチリピーマンのしっかりとした歯応え、エバーグリーントマトの爽やかな酸味、そしてバチバチキャベツの弾ける感覚。
個性的なこれらが不思議と喧嘩せず、酸味のあるタレと一体となって美味いし、バチバチキャベツのバチバチ感で口の中に酸味と旨味が刺激的に広がっていく。
というかエバーグリーントマトの酸味がタレの酸味と合わさって、夏バテしていても大量に食べられそうだぞ、これ。
二種の酸味が喧嘩さずにいるのは、どっちも元から持っているものだからか?
元からある酸味と発酵による酸味が喧嘩するのとは違って、どっちも元からあるものだから喧嘩しないのか?
でも考えてみればトマトのマリネがあるし、酸味のあるタレでトマト入りのサラダを食べるから、組み合わせ次第では喧嘩せずに。
「トーマー! 考察に耽っていないで、早く出してよー!」
おっと、つい思考モードに入っていた。
声を張り上げたダルクだけでなく、皆がカルパッチョと俺をじっと見て早く出してと目で訴えている。
しかも正面に陣取る試食待ちのイクトとミコトは、口をずっと開けていたのか涎が垂れそうだ。
ひとまず涎を拭き取り、二人の口へ自分用のを試食させたら皆の分を作りつつ、沸いたお湯にソーセージを投入。
「おいひい!」
「色んな食感や味があるのに、不思議と喧嘩していないから美味しいんだよ」
二人からも好評、いただきました。
というわけで全員分のカルパッチョを安心して仕上げ、茹で上がったソーセージのお湯を切って、最後に切れ目を入れたパンをオーブンで温めつつ各々が希望するフルーツを魔力ミキサーにかけ、ジュースを作って朝食完成。
ちなみにジュースは俺とダルクとミコトが梨、セイリュウとポッコロがリンゴ、カグラとゆーららんはバナナの牛乳割り、イクトはブドウで、メェナところころ丸はパイナップルだ。
「はいよ、お待たせ。悪いけど醤油もソースも無いから、目玉焼きは塩で勘弁してくれ」
一皿目、好みの固さの目玉焼きに茹でたソーセージを添えて。
二皿目、ソフトサーモンのルイベのカルパッチョ。
三皿目、ソーセージやカルパッチョを挟めるよう、切れ目を入れたパンをオーブンで温めたもの。
これに好みのフルーツジュースを添えたのが、今日の朝食だ。
「待ってました! いただきます!」
『いただきます!』
「モルッ」
ダルクを筆頭に全員で挨拶をして朝食が始まった。
美味い美味いと感想を口にしながら食べる様子を嬉しく思いつつ、おかわりのパンとソーセージを乗せた大皿をそれぞれ置いておく。
だけど、それすらもあっという間に消えていく。
さすがに人数二桁は違う。
「美味しいね、ころころ丸」
フォークを持てないころころ丸に食べさせているポッコロに、モルモルッと鳴いて頷くころころ丸。
一瞬、モグラに食べさせて平気なのかと思ったけど、大丈夫そうだからいっか。
そう判断して食事をしていたら全員の前に何かが表示され、揃って一瞬ビクッと跳ねた。
「えっ、なに?」
「あらら、運営からのお知らせね」
運営から?
なんだろうと思いつつ食べかけのパンを置き、内容に目を通す。
あー、なるほど、バグの修正とアップデートのお知らせね。
修正箇所とアップデートの内容も書いてあるな。
ほうほう、調味料や果物や野菜といった何もせずに食べられる食材は、調理せずとも味がするようになるのか。
ただしバフ効果は一切無しで、満腹度も給水度も回復しなくなると。
今まで一応は回復していたのがしなくなるとはいえ、味の確認がしやすくなるのは助かる。
調理せずってことは、生鮮なる包丁を使った時は今まで通りかな?
質問はこちらっていうのがあるから、調理せずに食べられる食材に生鮮なる包丁を使った場合は変化があるのかを書き、メッセージを飛ばしておく。
他に料理や食材、料理人関係の修正やアップデートは……無しか。
それとイクトとミコトに関わるテイム関係は……テイムの成功率の調整があるだけか。
「よし! 作業時間は明日の日中だから、遅くとも夜にはログインできるようになっているはず!」
小さくガッツポーズをしたダルクが指摘した作業時間は、明日の昼から夕方頃までを予定している。
作業の進捗具合によって前後するとはあるけど、いつも俺達がログインする頃には終わっていると踏んだか。
こういう作業がどんなものかは分からない。
でもダルクの言う通り、そんな時間までずれ込むことはないんじゃないかな。
よほどのことが起きない限りはね。
……今のでフラグ踏んだか?
うん、踏んでいない。
そのはずだ、たぶん、おそらくは。
「ダルクがそう言うと、何かが起きて深夜ぐらいまでずれ込みそうね」
「同感」
「ごめんなさいね、ダルクちゃん。否定できないわ」
「どういう意味さ、それーっ!」
カグラ達はダルクの発言が、何かのフラグと踏んだか。
さっき思ったこと、口にしなくて良かった。
もしも口にして本当に何かが起きたら、ダルクだけじゃなくて俺のせいにもされるところだった。
「農家にはこれといって、修正点は無いわね」
「テイム関係は成功率の調整か。でもころころ丸はテイム済みだから、関係無いね」
「モルッ?」
なぁにと言いたげに首を傾げるしぐさに微笑みつつ、食べかけのパンを手に取って食事再開。
あっ、さっきのメッセージの返事がもう返ってきた。
ふんふん、そのまま食べられる食材に生鮮なる包丁を使った場合は、今まで通り満腹度や給水度が回復してバフ効果もあるのか。
名前も知らぬ運営の方、お返事ありがとうございます。
「さあ皆、読んだら早く食べろ。冷めるぞ」
『はーい』
さてと、昼はどうするかね。
オーク肉でハンバーグを作ってみるかな。
焼いた後の脂が残ったフライパンに、ブルットワインとエバーグリーントマトのケチャップを加えたのをソースにして。
いや、どうせ肉を使うなら下処理済みのすね肉をブルットワインで煮込むのもありか。




