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113/201

甘い共同制作


 まさか助っ人っていうのがこの二人だとはな。

 心強いことこの上ない。


「それにしても、どうして二人が?」

「天海さんとは公式イベントで共に料理をした仲ですの。連絡を取った際に今回の件を聞き、参加させてもらえないか頼んだのです」


 エリザべリーチェと天海には、そういう繋がりがあったのか。


「アタシはこの町の養鶏所へ卵を買いに来て、何か作ろうと作業館に来たらお嬢と出くわしてな。話を聞いたら面白そうだから、参加させてもらえないか聞いてみた」


 セツナは完全に偶然か。

 にしても面白そうって。

 ……らしいと言えばらしいか。


「おねえちゃんたち、ひさしぶりー」

「おー、イクト。元気にしてたか?」

「うん!」


 近所の仲の良いお姉さん達に声を掛けるノリで、イクトが二人へ声を掛け、セツナにガシガシと頭を撫でられた。

 だけど嫌そうな様子は無く、嬉しそうに触覚とレッサーパンダ耳を動かしている。


「エリザべリーチェお姉さん、久しぶりなんだよ」

「ええ、お久し振りですわね。ミコトさん、ご機嫌麗――」

『レッサーァッ、パンダアァァァァッ!』


 突如鳴り響いたレッサーパンダグローブの鳴き声に、頭を下げて挨拶をしようとしていたエリザべリーチェは驚きながら顔を上げ、両手でイクトとタッチしていたセツナは目を見開いてこっちを向き、周囲にいるプレイヤー達も一斉にこっちを向いた。

 不意にそれをやられると、何度聞いても驚くよな。

 いつも一緒にいる俺はもう慣れたけど、ダルク達は今でも不意打ちでやられると反応する。


「は、はは……。面白いの持ってんね、その子」

「一瞬何かと思いましたわ……」


 あのセツナが苦笑いを浮かべ、エリザべリーチェは困惑したまま。

 だけど気持ちは分かる。

 俺も初めて聞いた時は、なんだそれって思って一瞬体も思考も固まったから。


「おい、変な鳴き声につられて見たけどあれって……」

「姐さんに料理長にお嬢? 高名な料理プレイヤーが三人も揃い踏みじゃないか」

「何が起きようとしているのよ」


 なんか周囲が騒がしい。

 そんなにミコトが出したグローブの鳴き声に驚いたんだろうか。


「あの、そろそろ中へ入りませんか?」


 おっとそうだな。

 まーふぃんに促されて皆で中へ入り、何故か割り勘で個室を借りることになった。


「なんで個室なんだ?」

「トーマさんはいい加減、ご自身の注目度を自覚してください」

「加えてアタシらまでいるんだ。周りがかなりうるさいことになるぜ」


 注目度どうこうはともかく、周りがかなりうるさいのはごめんだ。

 とりあえずの納得をして金を払い、天海からの指示でオーブンを一人一台借りて個室へ移動し、一旦打ち合わせのため人数分の椅子を用意して着席した。


「それで天海、作る物は何にするんだ?」

「はい! あれだけたくさんの果物があるのなら、多種多様な物を作ってもいいと思いましたが、それだと仕込みが大変だと思ったのでスコップケーキを作ろうと思います!」


 元気よく述べてくれた天海には悪いけど、スコップケーキってなんだ。


「なるほど、悪くないですわね」

「確かに。生地やクリームや使う果物の組み合わせを変えるだけで色んな味になるもんな」


 エリザべリーチェとセツナは知っているんだな。


「そういうことです。他にはパイを作ろうかと」


 パイくらいは俺も知っている。

 だけど繰り返しになるけど、スコップケーキってなんだ。


「悪い。スコップケーキがどういうものか、教えてくれ」

「……甘味は専門外という話は、本当でしたのね」


 こんなことで嘘ついてどうするんだっての。


「えっとですね、スコップケーキっていうのはですね……」


 ふんふん。簡単に言えば広くて深さがある容器に土台となる生地を敷いて、その上にクリームを塗ってフルーツを乗せるケーキね。

 へえ、生地はケーキに使うスポンジじゃなくて、カステラを使ってもいいのか。

 それなら市販のカステラを買って敷き詰めて、クリームを塗ってフルーツを乗せるだけでいいもんな。

 だけどなんでスコップ?

 スプーンで掘り出して食べるのを、スコップに例えている? なるほどね。


「いいじゃないか。大人数向けで、うちにピッタリだ」


 なにせ今や七人の大所帯。

 おまけに甘いものに目がないカグラもいるから、そういった大人数向けなのは願ってもないことだ。


「おいしそー!」

「味見は任せるんだよ」


 味見以外は手伝う気が無さそうなイクトとミコトだけど、弟妹可愛いから許す。


「スコップケーキを作るのは賛成ですが、容器はあるんですの?」

「ありますよ。抜かりはありません」


 自信満々に胸を張った天海は、大人数分のグラタンを一度に作れそうなほど、大きくて白い皿をアイテムボックスから出した。

 本当は透明な方が断面が見えて見栄えが良いそうだけど、そういったのは無かったらしい。

 ちなみにこの皿は、職業が陶芸家の知り合いに作ってもらったそうだ。


「パイはどうするんだ?」

「パン屋とかコンビニで売っているような、片手で持って食べられるやつにしようと思います」


 ああいうタイプか。

 手軽に食べられそうでいいじゃないか。


「うし! そうと決まれば、詳細を詰めようぜ」


 掌に拳を叩きつけたセツナを発端に、詳細な打ち合わせを開始。

 調理工程や使う材料、それぞれの役割分担の他、作った物を配分する話が出た。


「「私達も材料を出すので、分けて下さい」」

わたくしも出しますので、お願いしますわ」

「アタシも頼むぜ」


 こっちは協力してもらう側だから、別に構わないと返事したらさっきの皿が追加で三枚出てきた。

 いくつ持ってるんだ、その皿。

 気になるけど気にしないようにして、配分について相談。

 その結果、スコップケーキは一皿が皆での試食用、一皿はセツナ、一皿はまーふぃんと天海、そして最後の一皿を俺が貰うことになった。

 エリザべリーチェはスコップケーキを受け取らない分、パイを多めに配分することで話は決まった。

 勿論、皿の代金と皆で出しあう材料の代金についても話し合っておく。


「じゃあ、そろそろ作りましょうか。材料を出してください」

「ええ」

「おうよ」


 急な参加とはいえ、さすがにそこはセツナとエリザべリーチェ。

 砂糖や小麦粉や卵やバターがアイテムボックスから出てきた。

 天海とまーふぃんも出したから、俺も購入しておいた砂糖やら小麦粉やらに加えて、ダルク達が入手して渡されたフルーツ類を全て並べる。


「おーおー、こりゃあまた種類も量も随分とあるじゃねえの」

「腕が鳴りますわね。他には何かありませんの?」

「そうだな……あっ」


 これ、そろそろ完成したんじゃないかな。

 確認のためアイテムボックスから熟成瓶を出し、蓋を開けて中身に食材目利きを使う。




 塩サンの実 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:6 完成度:82

 効果:満腹度回復3%

    MP自然回復速度上昇【微・1時間】

 長期間塩に漬け込まれたサンの実

 塩味も酸味もまろやかになり、微かな苦味も感じられます

 そのまま食べるより、何かに加えた方が真価を発揮できる万能調味料




 よし、いける。


「これも使えないか?」


 蓋を開けた状態で中を見せると、エリザべリーチェとまーふぃんと天海は興味深そうに頷き、セツナは獰猛な笑みを浮かべた。


「そいつは前に話してたやつだな。アタシも仕込んでるから出すぜ!」


 そう言ってセツナも熟成瓶を出し、中身を確認してから見せてくれた。




 塩サンの実 調理者:プレイヤー・セツナ

 レア度:2 品質:7 完成度:84

 効果:満腹度回復3%

    MP最大量+20【2時間】

 長期間塩に漬け込まれたサンの実

 塩味も酸味もまろやかになり、微かな苦味も感じられます

 そのまま食べるより、何かに加えた方が真価を発揮できる万能調味料




 おぉっ、俺よりも品質と完成度が高い。

 何かしら差が出るとすれば、サンの実の厚みか塩加減か?

 他にあるとすれば、向こうの方がサンの実の質が高いかだな。

 いや、漬け込み期間っていうこともあるぞ。


「おーいトーマ、真剣な顔してなんか考えてるところを悪いが、今は料理しようぜ」


 セツナに頭をポンと叩かれ、我に返る。

 そうだな、今は料理優先だ。

 そのためにも俺とセツナの塩サンの実を皆で味見する。


「ん~? すっぱくてちょっとしょっぱくてにがいのに、おいしい?」

「丸みのある酸味と塩味と微かな苦味が目立つけど、よくよく味わうとその中にある甘味も感じるんだよ」

「うん。トーマのもよくできてるじゃねぇか」

「いやいや、セツナの方がより味がこなれていて美味いよ」


 実際に食べてみると分かる。

 味のこなれ具合からしてセツナの方が作ってからの期間が経っているし、サンの実の厚みが僅かに違うから噛んだ時の味わいにも差が出ている。

 期間の違いはログイン時間によるから仕方ない点があるとしても、厚みはもう少しあっても良かったか。

 ほんの僅かな違いでも味に差が出るっていうのは、こういうことだな、


「で、これは使えそうか?」

「十分使えます!」

「甘味を引き立てるための隠し味にいいと思います」

「パイを作るのでしたら、パイ生地に加えてみるのも面白くありませんこと?」


 まーふぃんと天海とエリザべリーチェの反応も悪くは無いし、使えると言ってくれた以上は大丈夫なんだろう。

 そう判断して味見を終えたら、それぞれの役割ごとに調理開始。

 俺の役割はまーふぃんとフルーツ類の下ごしらえ。

 セツナと天海は土台になるスポンジとカステラを焼きつつクリームを準備し、エリザべリーチェはパイ作りを担当する。

 イクトとミコトは……ああうん、いつも通り俺の正面に陣取って見学するのね。

 大人しくしているんだぞ。


「俺が梨をやるから、まーふぃんはリンゴを頼む」

「分かりました」


 まずはエリザべリーチェがパイを作るために必要なリンゴと梨と柿を仕込む。

 梨は皮を剥いて四分の一に切り分け、ヘタと芯を取って薄切りにする。

 リンゴの方は今回皮付きのまま使うようで、切り分けてヘタと芯を取って薄切りにしている。


「梨、準備できたぞ」

「エリザべリーチェさん、リンゴの準備ができました」

「ありがとうございます。そこに置いてください」


 切り分けたリンゴと梨と柿は、パイ生地を仕込んでいるエリザべリーチェが調理することになっている。

 生地を休ませている間に、砂糖とバターで煮込むそうだ。

 無論、スコップケーキにも使うから全部じゃなくて一部だけ。

 言われた通り、リンゴと梨を入れたボウルを傍に置いたら柿に取り掛かる。

 これも四分の一に切り分け、ヘタの部分と種と皮を取って薄切りに。

 その間にまーふぃんは、サクランボの種取りとブドウの皮取りに掛かっている。


「はいよ、柿できたぞ」

「ありがとうございます」


 次はパイナップル。

 頭と尻を切り落として円柱状にしたら、立たせて縦に皮を切り落とす。

 全面の皮を切り落としたら、八分の一にカットして芯を切り取ってから薄切りに。


「ますたぁ、いいにおい!」

「甘い香りがするんだよ」


 確かにさっきからずっと、セツナと天海が仕込んでいるスポンジやカステラが焼かれて、甘い香りが漂っている。

 ここにいるプレイヤー全員が借りたオーブン、合計五台がフル稼働で生地が焼かれていく。

 さらにエリザべリーチェがコンロでリンゴとナシの仕込みを始めたから、そっちからも甘い香りが漂ってくる。

 だけどそっちに気を取られず、フルーツの仕込みを続ける。


「トーマさん、バナナの仕込みも完了です」

「塩サンの実の仕込みも終わった。ここからは分かれるぞ」

「はい!」


 フルーツの仕込みを済ませたら、まーふぃんはエリザべリーチェの、俺はセツナと天海の手伝いに入る。


「入ります」

「おうよ。生地は上がってるから、冷めたのから切り分けて容器に敷き詰めてくれ」


 冷却スキルを持っているというセツナが、ホイップクリームを仕込みながら指示をくれた。

 天海は最後のカステラをオーブンから出し、エリザべリーチェが仕込んでまーふぃんが卵黄を塗ったパイを焼こうとしている。


「分かった」


 冷めたスポンジとカステラを確認し、天海が出した皿に敷き詰めていく。

 当初は皿が四枚あるから、スポンジとカステラを土台にしたものをそれぞれ二つずつ作るつもりだったのが、まーふぃんの案である工夫を施すことになった。


「こっちはスポンジのみ、こっちはカステラのみ、こっちはハーフアンドハーフ、こっちはクォーターっと」


 まーふぃんが出した案っていうのは、どうせ土台を二種類作るのなら宅配ピザのようにしないかというもの。

 これなら一枚の皿でスポンジとカステラ、両方の土台を味わうことができる。

 さらに上に塗るクリームも二種類用意するから、似たようなことをする予定だ。


「クリームはいつでもいいぞ。トーマ、できたかい?」

「オッケーだ」

「じゃあ、塗りましょう」


 今度はパイが焼ける香りを嗅ぎつつ、土台の上にクリームが塗られていく。

 スポンジ土台にはカスタードクリームが、カステラ土台にはホイップクリームが塗られ、その上に切り分けたフルーツ類や、時折刻んだ塩サンの実を乗せる。


「で、この上にこれを乗せればいいんだな」

「はい。お願いします」


 フルーツを乗せた上に、皿へ収めるために切り落としたスポンジやカステラを寝かせて並べる。

 その上にまたクリームを塗り、見栄えが良くなるようフルーツを並べていく。


「俺は芸術的センスが無いらしいから、表面に並べるのは任せた」


 間に挟むのはともかく、表面は見栄えも重視したいそうだから俺には不向きだ。

 なにせ中学時代の美術の授業じゃ、担当教師の頭を何度も抱えさせたんだからな。


「そうなのか? トーマにも苦手なものがあるんだな」


 そりゃあ、俺だって人間だもの。

 苦手なことの一つや二つはあるって。

 というわけでここからは、次の皿へクリームを塗って間に挟むフルーツを並べるのに専念。

 ふんふん、ハーフアンドハーフの方は土台を半分ずつ横並びで敷いたから、クリームは縦方向に半分ずつ塗ると。

 じゃあこっち側がホイップクリーム、こっち側がカスタードクリームか。

 なるほど、これで両方の土台で両方のクリームとの組み合わせを食べられるんだな。


「クォーターの方はどうするんだ?」

「こちらも同じく半々ですが、クリームを上下で逆にしてください」


 つまり下の段はホイップクリームを塗った方は、上の段にカスタードクリームを。

 下の段はカスタードクリームを塗った方には、上の段にホイップクリームを塗ればいいんだな。

 間違えないよう、気を付けて塗らないと。


「まーふぃんさん、柿のパイいけますわよ」

「ちょっと待ってください。今、梨のパイを出すところなので」


 向こうも順調のようだ。

 ならこっちも、このまま仕上げますか。

 そうして完成した、スコップケーキ四皿と大量の三種のパイ。

 それを前にしたイクトは目を輝かせながら満面の笑みで身を乗り出し、ミコトも無表情だけど身を乗り出してガン見している。




 スコップケーキ 調理者:多数〈選択で全員表示〉

 レア度:4 品質:7 完成度:87

 効果:満腹度回復30%

    全状態異常耐性【小・2時間】 魔力自然回復量+4%【2時間】

 スプーンで掘り出して食べる大人数向けのケーキ

 何を掘り出したかは食べてみてからのお楽しみ

 多種多様なフルーツを口いっぱいに頬張ってください




 アップルパイ 調理者:エリザべリーチェ、まーふぃん

 レア度:3 品質:8 完成度:91

 効果:満腹度回復9%

    MP最大量+30【2時間】 魔力+3【2時間】

 リンゴをパイ生地で包んで焼きました

 甘く調理されたリンゴは柔らかく、サクサクのパイと相性抜群

 皮付きと皮無し、どっちがいいですか?




 梨のパイ 調理者:トーマ、エリザべリーチェ、まーふぃん

 レア度:3 品質:8 完成度:87

 効果:満腹度回復9%

    知力+3【2時間】 俊敏+3【2時間】

 梨をパイ生地で包んで焼きました

 甘く調理された梨は柔らかく、サクサクのパイと相性抜群

 リンゴとはまた違った味わいを楽しんでください




 柿のパイ 調理者:トーマ、エリザべリーチェ、まーふぃん

 レア度:3 品質:8 完成度:90

 効果:満腹度回復9%

    MP回復速度上昇【小・2時間】 器用+3【2時間】

 柿をパイ生地で包んで焼きました

 甘く調理された柿は柔らかく、サクサクのパイと相性抜群

 柔らかく熟していれば、生でもいいかも?




 全員で後片付けをすませたら、作業台に広げられた大量の甘い物を眺める。

 これをカグラが見たら、間違いなく興奮して喜んで以前の注意も忘れて抱きついてきて、ハラスメント警告を鳴らしてくれるだろう。


「それじゃあ、先に配分しちゃいましょう」


 了解。味見をするスコップケーキはクォーターだから、残り三つのうちのどれかか。

 セツナとまーふぃんと天海と話し合いをした結果、俺が受け取るのは土台がハーフアンドハーフのものになった。

 そしてパイの方も、仲間達と食べる点が考慮されてやや多めに分配され、残った分は約束通り、エリザべリーチェが多めに受け取った。


「さあお待ちかね。調理者の特権、試食タイムです!」


 右手を掲げる天海の宣言に皆で拍手をして、それぞれ分け合う。

 パイはイクトとミコトの分も含めて全種類を一個ずつ、スコップケーキも三皿受け取ってイクトとミコトの前に置く。


「ふわっ! ますたぁ、これ、すごい!」

「見た目だけでもう美味しそうなんだよ」


 フォークを手に待ちきれない様子の二人に笑みを浮かべつつ、三種類のパイを三等分に切って一切れずつ皿へ乗せる。

 これで三種類を全部食べられるだろう。


「んじゃ、食うか」

「いただきますわ」

「いただきまーす!」


 各々でフォークを取り、パイなりケーキなりを食べる。

 俺はまずケーキから。

 うん……美味い。この部分はカステラが土台でクリームは上がホイップで下がカスタードか。

 フルーツは上がパイナップルとサクランボで、下の段にはバナナと柿が挟まれている。

 ごちゃ混ぜにならないかと思ったけど、結構いけるな。


「おいふぃ、まふたぁ、おいふぃ!」


 ああもう、食べながら喋るんじゃない。

 それにケーキへ顔を近づけてバクバク食べるから、早くも口の周りがクリームだらけで、鼻の頭にまで付いているじゃないか。

 ほら、皆もクスクス笑ってるぞ。


「土台のスポンジ、上下で違うクリーム、リンゴや梨なんかが合わさって美味しいんだよ。しかも塩サンの実がそれを引き立てて、さらに美味しくしているんだよ」


 おっと、無表情ながらバクバク食べているミコトは、塩サンの実を加えた所が当たったのか。

 そうやって間に何があるかを楽しむのも、スコップケーキの醍醐味らしい。


「いやー、美味いねぇ。やっぱこういうのは、大人数で食うに限るな」

「ここに紅茶があれば最高ですわね」

「パイもよくできてるね」

「うん。リンゴも梨も柿も、どれも美味しい」


 まーふぃんと天海の言う通り、三種のパイはどれも美味い。

 個人的には梨が一番好みかな。


「今度ミュウリン達にも作ってやるかな」

「パイも美味しいんだよ。柿がトロトロなんだよ」

「ますたぁ、けーきおかわり!」

「はいよ」

「なんだかフルーツが欲しくなっちゃった。依頼出そうかな?」

「スコップケーキには、個人的に取り組んでみたいですわね。天海さん、容器を購入したいので後で陶芸家の方を紹介していただけませんか?」

「いいですよ」


 こうしてワイワイしながら試食していると、なんだかお茶会みたいだ。

 というか女性プレイヤーばかりの中、同席して甘い物を食う俺って第三者から見るとどんな風に思われるんだろう。


「ますたぁ、はやくおかわり!」

「ああ、悪い。ほらよ」

「わーい!」


 スプーンで取ったおかわりをイクトへ渡し、無邪気な笑みにこっちも表情が緩む。

 うん、そんなの気にしても仕方ないか。

 だってここには第三者はいないし、そもそも一緒に作った物の試食だからな。

 気にせずスコップケーキを堪能しよう。

 えっ、ミコトもおかわり?

 はいはい、すぐに取ってやるよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 甘味と言えばタルトタタンでは? まあ、食べた事ないしもう食べられない体になってしまったけど… 死ぬ前には食してみたい一品ではあるね
[一言] 大量の甘味! 美味しそう!
[良い点] 更新お疲れ様です。 自分も「スコップケーキって何じゃらほい?」と思って調べてみましたが…クリスマスとかに洋菓子店で見かけた記憶が。スコップケーキって名前だったんですなぁ。 [一言] >芸…
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