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107/201

転職


 晩飯を終え、獲ってきた食材や食費を受け取って水出しポーションを渡したら作業館を出て宿を取り、全員で泊まれる大部屋で翌日の予定を話し合ったら就寝。

 左右からイクトとミコトに引っ付かれて寝るのは、体感上は一瞬だけど時間は六時間経っている。

 未だに慣れないこの睡眠の感覚に違和感を覚えつつ、ステータス画面からアイテムボックスを表示させてメニューを考える。

 今日は移動中にセーフティーゾーンで昼飯を摂る予定だから、朝飯だけでなく昼飯のメニューも考えておく。

 そうこうしているうちに後から寝たダルク達やイクトとミコトも起きだし、全員が起きたら宿を後にして作業館へ移動。

 いつも通り無料の作業場の作業台を借りたら、朝飯と昼飯を作る準備をする。


「トーマ、朝は何作るの?」

「サンドイッチ二種類とイチゴミルクだ」


 まずはサンドイッチのための仕込み。

 用意したキャベツを洗って千切りにする。


「今日の料理長も手際がいいわね」

「あれをどうするんだろうか」


 千切りにしたら二つのボウルへ半分ずつ入れ、次にカチカチホースラディッシュをおろす。

 一方の千切りキャベツ入りボウルにマヨネーズを入れ、おろしたカチカチホースラディッシュを加えて和える。

 ホースラディッシュソースっていう、ホースラディッシュとマヨネーズを使ったソースがあるから、きっと合うはずだ。


「あれが昨日言っていた、カチカチホースラディッシュね」

「それを使ったコールスロー?」

「わさびマヨのコールスローか。考えてみれば、見たことないや」


 セイリュウとダルクの予想通りにしてもいいけど、今回はそうじゃない。

 次はハムとベーコンを取り出し、ハムは薄切りでベーコンはやや厚めに切る。

 フライパンを熱してベーコンを焼き、その間にトマトをスライスしておく。

 焼き上がったベーコンは網をセットしたバットに置き、余分な油を切っている間に追加のベーコンを焼く。

 用意したベーコンを焼き終えたらストックのパンを取り出し、半分には切れ目を入れて、もう半分は側面から切って二つに切り分ける。

 でもって切れ目を入れた方にハムを折り畳むようにして二枚入れ、その間にわさびマヨで和えたキャベツを入れる。


「まあ、そうするの」

「ハムとわさびマヨのコールスローのサンドイッチね」

「正確にはわさびマヨ風味の久留米ドッグだな」


 福岡出身の祖父ちゃん直伝だ。

 店の余り物で作る時は、ハムが薄切りのチャーシューになる。




 ハム入りわさびマヨ風味のコールスローサンド 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:8 完成度:91

 効果:満腹度回復10%

    魔力消費軽減【微・2時間】 俊敏+2【2時間】

 ハムとコールスローで作ったサンドイッチ

 マヨネーズにはカチカチホースラディッシュが加えられ、わさびマヨ風味に

 洋風っぽいが、わさび風味でどことなく和風な感じもする

 確か久留米発祥のこういうパンがあったはず




 本当はからしマヨか、マヨネーズそのままらしいけど、せっかくホースラディッシュがあるからわさびマヨ風味にしてみた。

 これを三つに切り分け、食べたそうなダルクはスルーして、試食担当と化しているイクトとミコトと三人で試食。

 ピリッとして微かにツンとくるわさびマヨ、シャキシャキ食感のキャベツ、薄切りとはいえ二枚入れたハムの塩気と肉の味わい。

 それがパンで一つにまとまって美味い。


「ちょっとおはながつんとするけど、おいしい!」

「このツンとした辛さが、全体的にまろやかな味の良いアクセントになっているんだよ」


 二人からも好評だし、腹ペコガールズがとても食べたそうだ。

 でも、もう一つのサンドイッチと飲み物ができるまでもう少し待ってくれ。

 次は二つに切り分けたパンの内側にバターを塗り、ちょっと胡椒を振って焼いたベーコンと刻みキャベツとスライストマトを挟む。

 これでBLTのレタスを刻みキャベツに変えた、いわばBCTサンドの完成。




 ベーコントマトサンド 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:7 完成度:88

 効果:満腹度回復14%

    腕力+2【2時間】 知力+2【2時間】

 厚めに切って焼いたベーコンが魅力のサンドイッチ

 トマトの酸味とキャベツの食感と胡椒の辛味が脂を中和

 レタスだったらBLTサンドでしたね




 最後の一文に、そう思うならレタスはどこにあるのか教えてくれと思いつつ、三つに切り分けてイクトとミコトと試食。

 厚めに切ったからカリカリベーコンのような食感は無い。

 でも厚いからこその噛み応えと味わいが口に広がって、トマトとキャベツと胡椒で強い脂が中和されている。

 バターを塗ったパンもそれをしっかり受け止めているから、サンドイッチとして成立している。

 パンが負けていたら、なんのためにサンドイッチにしたか分からないからな。


「おいしー! とくにおにく!」

「トマトの酸味とキャベツのお陰で強さが中和されているから、単体では強い厚めのベーコンが食べやすいんだよ。さらにピリッとする胡椒がいいアクセントになっているから、いくらでも食べられそうなんだよ」


 嬉しそうに触覚とレッサーパンダ耳を動かすイクト。

 食べながらのコメントが板についてきたミコト。

 どちらからも好評なら大丈夫だな。

 さて、腹ペコガールズからの圧が強くなってきたから、早く飲み物を作ろう。

 使うのは牛乳と昨日セイリュウが採取した木の実、コウヨウベリー。



 コウヨウベリー

 レア度:2 品質:5 鮮度:74

 効果:満腹度回復1%

 赤みがある黄色をした小さいイチゴのような木の実

 甘みが強くて酸味は弱め

 これで甘いのを作るなら、砂糖は不要かも




 見た目は野イチゴのモミジイチゴみたいだ。

 念のため生鮮なる包丁を装備して、洗ったコウヨウベリーを切って試食。

 甘味は強いけど酸味はほとんど感じず、よくよく味わうと微かに感じる程度。

 特に変な感じも情報も無いし、洗って切り分けたコウヨウベリーを魔力ミキサーへ入れ、牛乳を注いで起動。

 音を立てて中身が細かく刻まれながら混ぜられ、白い牛乳が微かに黄色っぽくなってきた。


「イチゴ牛乳みたいだな」

「砂糖は入れないのか?」

「さっき試食した黄色い身が、砂糖がいらないくらい甘いんじゃない?」


 朝から生産活動に勤しむ周囲がざわつく中、コウヨウベリー牛乳が完成。

 これを三つのコップに少しだけ注ぎ、うち二つをイクトとミコトに手渡す。




 コウヨウベリー牛乳 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:8 完成度:90

 効果:満腹度回復1% 給水度回復12%

    MP自然回復速度上昇【微・2時間】 器用+2【2時間】

 細かく刻まれたコウヨウベリーが混ざった牛乳

 飲めばコウヨウベリーの甘さが口いっぱいに広がる

 砂糖は入っていませんが、十分に甘いです




 飲んでみると確かに甘い。

 でも牛乳のお陰か、そこまで過剰な甘さになっていない。

 細かく刻まれたコウヨウベリーの食感と喉越しも良くて、果肉入りジュースを飲んでいるみたいだ。


「あまい! おいしい!」

「砂糖が入っていないのに、しっかり甘いんだよ」


 二人からそんな感想が出たものだから、甘いもの好きなカグラが身を乗り出してきた。

 ダルクとセイリュウとメェナからの食べたいって圧も強くなってるし、ここから量産体制に入ろう。

 気合いを入れ直してサンドイッチ二種とコウヨウベリー牛乳を作り、サンドイッチはそれぞれ大皿に乗せ、コウヨウベリー牛乳をコップへ注いで皆の前へ置く。

 念のためおかわりも準備したら、朝飯の開始だ。


『いただきます!』

「めしあがれ」


 餌を前にした状態での待てを解かれた犬のように、誰もが猛烈な勢いで食べだした。

 甘いもの好きなカグラは真っ先にコウヨウベリー牛乳を飲み、満足したのかとても幸せそうな笑みを浮かべる。

 セイリュウはBCTサンドを、メェナは久留米ドッグをそれぞれ食べて笑顔で頷き合う。

 ダルクは二種類のサンドイッチを両手にそれぞれ持ち、交互に食べるという行儀の悪さを披露。

 やめろ、イクトとミコトが真似したらどうするんだ。

 そのイクトとミコトは、夢中で久留米ドッグを食べながらコウヨウベリー牛乳を飲んでいる。

 ああもうイクト、口の周りが牛乳とマヨネーズだらけだぞ。


「今日も美味しそうね」

「こ、これが飯テロってやつか」


 BCTサンドを食べながら、美味そうに食べる皆の様子を眺めていると、イクトがメェナに話しかけた。


「めぇなおねえちゃん。このつんとするのも、もっとたくさんあったほうがいいの?」

「いいえ。私、辛いのは好きだけどわさびのツンとするのは苦手だからこれくらいでいいの」


 そうだぞイクト、メェナはわさびのツンとするのが苦手だからこれぐらいでいいんだ。

 なにせ中学時代のゴールデンウイーク中、俺の部屋で健や晋太郎なんかも一緒に課題をしていた時、それを聞いたダルクが悪戯心を発揮して、メェナの飯にわさびを仕込んだらマジ泣きしたからな。

 当然メェナは激怒してダルクは平謝りしていた。

 ついでにわさびを仕込んだのは俺が作った飯だったから、俺も人の作った飯に何やってんだって怒ったけど。


「あっ、これ食ったら移動に備えて昼飯も作るから、出発はその後な」

『はーい!』


 なんだこの親子みたいなやり取りは。

 まあいい。とにかくさっさと食べて、仕込みを開始しよう。

 やや早めのペースで食べたら、おかわりを出しておいて昼飯の仕込みに入る。


「まだ何か作るのか?」

「中断、作業中断!」

「駄目よ、今は手を止められないの!」

「早く、早く仕上げるんだ!」


 アイテムボックスからレギオンマッドザリガニの出汁入り鍋を出して火に掛け、別の鍋に水を張ってこれも火に掛ける。

 次にニンジンとタマネギとジャガイモとカブを出し、それぞれ切り分ける。

 ニンジンと皮を剥いたタマネギは厚みのある半月切り、ジャガイモは皮を剥いて大きめのさいの目切り、カブは葉と身を分けて葉は刻んで身は半月切り。

 出汁が温まったらカブの葉以外の野菜を入れて煮込み、スープとして調理する。

 その間にニンニクをスライスして、昨日セイリュウが採ってきたキノコ、シャクシャキノコを切る。




 シャクシャキノコ

 レア度:2 品質:6 鮮度:71

 効果:満腹度回復1%

 縦に切ればシャクシャク食感、横に切ればシャキシャキ食感がするキノコ

 どちらの食感もいいですし、両方を一緒に調理して同時に味わうのも良し

 ただし煮込むとどちらの食感も損なわれるので、ご注意を




 これを縦切りと横切りで同量ずつ用意したら、スープに浮いた灰汁を取ってストックの中太麺をてぼに入れ、沸いたお湯で茹でる。

 下茹でだから茹で時間は短め、しっかりお湯を切ったら網をセットしたバットに一玉ずつ置いておく。

 麺を茹で終えたら鍋を片付けてフライパンを出し、バターを落として熱する。

 バターが溶けてきたらスライスしたニンニクを入れて香りを出し、シャクシャキノコを縦切りと横切りを両方とも加えて炒め、さらに麺を一玉加えて炒める。


「バターとニンニクの香りが……」

「ちょっとトーマ、朝ご飯食べ終わったばかりなのに美味しそうな匂いさせないでよ」

「これが昼飯なんだから、無茶言うな」


 ダルクからの理不尽な文句に反論しつつ、仕上げに胡椒を加えて全体に馴染ませて完成。




 ガリバタペッパーキノコ焼きそば 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:3 品質:6 完成度:81

 効果:満腹度回復11%

    魔力+3【1時間】

 一見キノコパスタのようですが、麺がパスタではないので焼きそば

 シャクシャキノコの縦切りと横切りの食感が同時に楽しめる

 美味しいので洋風か中華なのか、この際気にしなくていいでしょう




 完成したこれを少量ずつ三皿に分け、朝飯を食べたはずなのにまだ食べたそうなイクトとミコトにも試食してもらう。


「なんでその二人だけ!」


 いやだって、この二人からキラキラした目で食べたいって訴えられて断われるはずがないだろ。

 ともあれ試食してみると、パスタとも焼きそばとも言える変わった味わいだ。

 具材がキノコでバターとニンニクと胡椒の風味があるからパスタ寄りなんだけど、麺が焼きそばっぽいからどっちとも言える。

 オリーブオイルにすべきだったか? それとも中華寄りにするためラード?

 まあ区別がつきにくいってだけで、美味いからいいか。


「おーいしー!」

「バターとニンニクと胡椒の風味が麺とキノコに合っているんだよ。しかもキノコは二種類の食感がして、噛むだけでも楽しめるんだよ」


 二人からも評価も上々のようだ。

 なら大丈夫と判断して、スープに浮いていた灰汁を取ったら、昼飯用にガリバタペッパーキノコ焼きそばを人数分仕込む。

 途中でスープの確認をしてカブの葉も加え、出来上がった焼きそばは冷めないように順次アイテムボックスへ。


「良い匂いさせてやがる……」

「ちょっとログアウトして、近所のコンビニかスーパーでパスタ買ってくる」

「あのファミレス、なんのパスタがあったっけ」


 なんか周りが騒がしくなってきたけど、気にせず調理に集中。

 全員分の焼きそばができたら、朝飯に使った食器類や昼飯作りに使った調理道具類を洗って片付け、具の固さを確認。

 ちょうどいい頃合いだから小皿にスープと具材をいくつか取って味見し、塩と胡椒で調整したら完成。




 レギオンマッドザリガニの根菜スープ 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:3 品質:6 完成度:83

 効果:満腹度回復3% 給水度回復13%

    HP最大量+30【1時間】

 レギオンマッドザリガニの出汁で根菜を煮込んだスープ

 野菜はどれも柔らかく煮込まれ、出汁も染み込んでいる

 レギオンマッドザリガニの出汁と、それに負けない根菜の味をご堪能あれ




 うん、出汁が染みた具材も美味い。

 煮崩れもせず食感が残っているから、スープだけでなく野菜自体の味わいも感じられる。


「はふぅ。おいしい!」

「強い出汁の味を野菜が支える感じで、とてもまとまっている美味しさなんだよ」

『レエェェェイッ!』


 小皿を渡したイクトとミコトからの評価も上々か。

 グローブの鳴き声は余計だけど、気にしないでおこう。

 スープ入りの鍋には蓋をしてアイテムボックスへ入れ、後片付けをしてバンダナと前掛けを非表示にしたら、作業は全て完了だ。


「よし、いつでも出発していいぞ」

「う~。美味しそうなご飯を見せられて、良い匂いを嗅がされたのに食べられないのはモヤモヤするけど、行くよ皆!」

『おー!』


 俺以外が揃って声を上げた後、作業館を後にして町を出てサードタウンウラヌスへ向かう。

 道中の戦闘はダルク達とイクトとミコトに任せ、俺はいつも通り最後尾で様子を見守るだけ。

 出てくるのは食材をドロップしない、ゴブリンの上位種とかバカでかいトカゲとか鷹みたいなモンスターが主体。

 それらを見事な連携で倒していきながら草原を進み、途中から森に入る。

 そこでとあるモンスターに遭遇したら、ダルク達のやる気が一気に上がった。


「出たわ! フルーツトレントよ!」

「よっしゃぁっ! なんでもいいから、さっさとフルーツ落としやがれぇ!」

「うふふふふふ。甘いものの糧になりなさい」

「何のフルーツでもいいから、さっさと倒してドロップさせる」

「イクト、あれを倒すと甘い果物が手に入るかもしれないんだよ」

「あまいの!? ほしい!」


 おーおー、食材が取れると分かったら大はりきりで戦いだしたよ。

 フルーツトレントは一つだけ巨大な実がついた樹木で、腕が生えていて根っこで歩いている。

 その巨大な実に顔があって、牙をむき出しにしてこっちへガウガウ吠えていたけど、ダルク達とイクトとミコトが猛烈な勢いで攻めだすとキャインキャイン鳴きだした。

 ていうか、なんで樹木なのに犬系の鳴き声なんだ。運営の遊び心か?

 そもそもトレントって、実じゃなくて幹の方に顔が無かったか?

 これは鳴き声も顔の位置も、普通のトレントじゃなくてフルーツトレントだからなのだろうか。


「うっしゃー! リンゴゲット!」

「次、行くんだよ」

「あまい? それあまい?」

「あっちにモンスターの気配があるわ!」

「フルーツトレントなら、即戦闘開始」

「あらまあ、皆やる気満々ね」


 そういうカグラだってやる気満々じゃないか。

 盾を構えたダルクが飛来する木の葉や木の枝を防ぎ、腕での攻撃を弾きながら突進して切りつけ、背後に回ったメェナが殴り、ダルクを盾にしながら近づいたイクトがカマキリの鎌で切りつける。

 後方からはカグラが戦舞で援護しつつ光魔法を浴びせ、セイリュウは水魔法を放ち、ミコトは闇魔法を撃ち込む。

 容赦の無い攻撃の嵐にフルーツトレントの鳴き声は、秒でガウガウからキャンキャンに変わり、あっという間に粒子と化した。


「しゃらあぁぁぁっ! バナナゲットー! しかも房!」


 バナナの房を掲げるダルクが何故か拍手喝采を受けている。


「次は梨希望」

「パイナップルもよくない?」

「うふふ。スターフルーツやドラゴンフルーツはないのかしら」

「あまい? それってみんなあまい?」

「ガンガン倒すんだよ」


 やる気になっている皆を止めるのは悪いし、戦闘は丸投げだから黙って見守ろう。

 そう決めたはいいものの、思った以上にフルーツトレントを倒し続けるものだから、途中で声を掛けて大慌てで移動を再開。

 途中のセーフティーゾーンで昼飯を食べ、その後もやや急ぎ足で移動と戦闘をしていると、戦闘終了後に転職可能レベルに達したっていう表示が出た。


「待ってくれ、ちょっとこれを見てくれないか?」

「どうかしたの?」


 急いで進もうとするダルク達を止め、表示内容を見せる。


「おっ、遂にトーマも転職か!」


 転職というとあれか、レベル三十になったらできるやつ。

 そうか、イクトとミコトのお陰で遂にレベルが三十になったのか。


「現状分かっている料理人の転職先は、調理師と栄養士だよ」

「そういえばトーマ君には、あのチケットがあるのよね」


 チケット? ああ、公式イベントで入手した転職時全開放チケットか。

 表示内容にもそのチケットを使うかどうかって出ている。


「使ってみたら? 何か面白い転職先が出るかもしれないわよ」


 メェナもそう言うのなら使ってみようと思い、イエスを押すとチケットが消費されて転職先らしき職業が一気に表示された。

 分かっている調理師と栄養士の他は、板前、コック、厨師、パティシエ、他にも結構な数がある。

 だけどこれを見て俺が選ぶのは一つしかない。

 どれにするのと尋ねるダルク達に返事をする前に、迷わず厨師を選択して確認の表示にもイエスを押すと体が淡い光に包まれ、収まった後にステータスを表示させる。




 *****



 名前:トーマ

 種族:サラマンダー

 職業:厨師


 レベル:30

 HP:65/65

 MP:32/32

 体力:49

 魔力:30

 腕力:58

 俊敏:40

 器用:62

 知力:34

 運:26


 職業スキル

 食材目利き

 スキル

 調理LV43 発酵LV18 醸造LV11

 調合LV24 乾燥LV37 テイムLV5


 装備品

 頭:集中のバンダナ

 上:吸水のロングシャツ

 下:大地のロングパンツ

 足:晴天のサンダル

 他:紅蓮の前掛け

 武器:鋼の包丁



 *****




 うん、ちゃんと厨師になっているな。

 職業スキルが変わらず食材目利きなのは問題無し。

 しかしレベルを上げずに生産活動ばかりしていたから、スキルのレベルがだいぶ上がっているな。

 特に気にしていなかったけど、調理はもう四十を越えている。

 よく使う乾燥とか、タレや水出しポーション作りに使う調合も高い方だ。


「ちょっ、トーマ君? あっさり選んだけど、確認はした?」

「確認?」

「その職業がどういう補正効果なのかとか、そういう確認よ」

「……できたのか?」


 転職先を見て、中華の料理人を目指す身として厨師しか選ぶつもりが無かったから、特に気にしなかった。


「もおぉぉっ、トーマってば!」

「落ち着きなさい。初心者のトーマ君を止めなかった私達にも非があるわ」

「えっと、悪い」


 だって厨師の二文字を見て、選ばない中華の料理人がいるか?

 正確には中華の料理人志望だけど、どう考えてもこれ一択だろ。


「トーマ君、やり方教えるから確認しようか」

「頼む」


 セイリュウにやり方を教わり、厨師の効果を確認する。

 ふむふむ、揚げ物と炒め物を作った時にバフ効果を強化か。

 強化対象は補正効果と継続時間の二つ。

 補正効果はただプラスするんじゃなくてレア度の十倍パーセント上昇、継続時間は一時間延長ね。

 つまり今後、揚げ物と炒め物はレア度が三ならプラス三じゃなくて三十パーセント上昇ってわけか。

 ちなみに強化の数値は小数点以下切り捨てのようだ。


「ほ、補正効果がレア度の十倍パーセント上昇……」

「ということは、レア度が一でも強化対象の数値が二十以上なら、プラス補正より強化されるわけね」


 驚くセイリュウに対してメェナが冷静に分析する。

 確かに計算上、そうなるな。


「えっ、ちょっと待って。レア度が一なら十倍パーセントで十パーセント強化だから……」


 おいダルク、こんな簡単な計算くらいパパっとやれ。


「小数点以下は切り捨てだから、レア度一で強化対象が十九なら強化される数値は一、でも二十なら二になるわ」

「おぉっ、なるほど!」


 カグラの説明にダルクが納得しているけど、この程度くらい自分で計算しろ。


「うん? どういうこと?」

「つまりマスターの作った料理を食べれば、もっと強くなるってことだよ」

「ほんと!? ますたぁすごい!」


 首を傾げるイクトへミコトが簡潔に説明したら、触覚とレッサーパンダ耳をギュンギュン動かして喜びだした。

 こんなの、弟可愛くて頭を撫でてしまうじゃないか。


「揚げ物と炒め物限定とはいえ、これは秘密だね」

「でも、高く売れそうな情報だわ」

「うさぎのおねえちゃんにおしえたら、またこれやるかな」


 うんうん、ミミミに教えたらまたヘドバンするだろうな。


「これは次の料理が楽しみだね」


 そう言われても、今回はサードタウンウラヌスに着いたらログアウトするんだろう?

 次の料理は次回のログインまでお預けだ。


「ねえトーマ、試しに」

「作らないぞ」

「いいじゃん、ちょっとくらい!」


 駄目なものは駄目。

 次回のログインで確認すればいいんだから、そう慌てなくてもいいだろう。

 拒否されたダルクが頬を膨らませてブツブツ文句を言うけど、気にせず移動を再開し、どうにか夕方にはサードタウンウラヌスへ到着。

 その頃にはダルクの機嫌も直り、清々しい表情をしていた。


「いやぁ。思ったより時間使っちゃったね」

「お陰でフルーツがたくさん取れた」


 だろうよ。時間も忘れて倒しまくって、途中からフルーツトレントが哀れに思えてきたほどだ。


「うふふ、どんな甘いものになるのか楽しみね」

「あっ、まいの! あっ、まいの!」

「私も楽しみなんだよ」


 はいはい、フルーツを使った甘いものを作れってことだな。

 クリームがまだ残っていたし、フルーツサンドでいこう。

 クレープも考えたけど卵が無い。


「ごめんなさいね、つい夢中になっちゃって」

「いいって。戦闘は任せているんだ、文句はないよ」


 メェナの場合はフルーツの確保だけでなく、戦闘する方でも夢中になっていたよな。

 今言った通り、戦闘は丸投げしているからどっちの意味でにしろ、気にすることは無い。


「さっ、そろそろログアウトしましょうか」

「じゃあ、また明日」

「ダルクちゃん、課題忘れないようにね」

「言わないでー!」


 はいそこ現実逃避しない。


「じゃあな。イクト、ミコト」

「またね、ますたぁ」

「楽しみにしているんだよ」


 脚へしがみつくイクトとミコトに分かったと返し、ログアウト。

 視界が消えて浮き上がる感覚がして、現実へ戻ってきた。


「さて、残りの課題を片付けるか」


 起き上がって体を軽く解してヘッドディスプレイを片付け、ログイン前に途中までやっていた課題の続きに取り掛かる。

 店は定休日だし、これをやったらさっさと寝よう。

 勿論、寝る前の激カワアニマル動画を見て癒されるのは欠かさないぞ。


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― 新着の感想 ―
[一言] トーマ君が揚げ物の特化の職になるとかダルクのメンタルにもバフが掛かってそう
[良い点] 更新お疲れ様です。 やっぱりどんなゲームでも転職はワクワクしますね!チケットも使ったし、ゲーム内だと厨師第一号になるのかな? そういえば小さい時は漫画だけの設定かと思ってましたが、リアル…
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