表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/201

明日のために


 ハード系のパンの作り方を調べている最中に帰ってきたダルク達へ晩飯を提供するため、一旦調理を止めて作業台に料理を並べる。

 それを見たダルク達の第一声はこうだ。


「「「「なにこの一般家庭なご飯!?」」」」


 丼によそった米代わりの茹で刻み麺、お椀に注いだ川魚のすまし汁、一人分ずつ別々の皿に乗せた肉団子の塩あんかけと揚げナスのそぼろあんかけ。

 うん、どう見ても普通の食卓の飯だな。

 さあ座った座った。とっくに席に着いているイクトとミコトの目が、早く早くって訴えながらお前達に向けられているぞ。

 それに気づき、ハッとしたダルク達が向かいの席に着いたら食事開始。

 茹でた刻み麺入りの丼と箸を手に、おかずを食っては刻み麺を食う。

 たまにすまし汁をすすって、また刻み麺を食う。

 うん、自分で作っておいてなんだけど、滅茶苦茶普通の食卓だ。

 そしてダルク達の食う勢いが凄い。

 米の代用品とはいえ、茹でた刻み麺をバクバク食べている。

 ダルクは周囲の目も気にせず掻っ込み、一見普通に食べているように見えるメェナは一口の量が多く、セイリュウは一口こそ少なめだけど三口くらい口に入れてから咀嚼してるし、カグラは一口の量こそ普通だけど食べるペースが早い。

 しかもそれに対抗心を燃やした両隣に座るイクトとミコトが、丼を持ち上げて口に付けてバクバク食べている。

 ちょっと行儀が悪いけど、美味そうに食べてくれているからいいか。

 ああほらイクト、口の周りに刻み麺が付いているぞ。


「今日も美味しそうね」

「そしてあの子達も、美味そうに食ってるな」

「ていうかあのラインナップで手作りって、絶対にご飯が欲しいやつだろ」

「……今度の休み、実家に帰って母さんに手料理でも作ってもらおうかな」


 周囲がなんかざわめいているけど、やっぱり行儀悪く食ってるのが気になるのかな?


「トーマ! 刻み麺のおかわりはある!?」

「一人一杯だけなら」

「だったらおかわり!」

「「「私達も!」」」

「いくともー!」

「おかわりなんだよ」


 はいはい、順番によそうから待ってな。

 念のためたくさん仕込んでおいて良かったよ。

 アイテムボックスに入れておいた残りを取り出し、順番に丼へよそってやる。


「それにしてもさ、いい加減お米が欲しいよね」

「本当ね。どこにあるのかしら」

「刻み麺も悪くないけど、やっぱり本物のお米がいいわ」


 否定はしない。でも無い物ねだりをされても困る。

 そもそも、西部劇風なUPOの世界のどこに米があるというんだ。


「ところで明日なんだけどさー」


 食べながら喋るな、せめて飲み込んでから喋れ。


「ミコトちゃんの歓迎会終わったら、セカンドタウンウエストを目指さない?」

「なにかあるのか?」

「だいぶ前に言ってそれっきりだった、フレッシュビーからハチミツを貰いに行くんだよ。最近の情報だと、セカンドタウンウエスト寄りの方で大量発生しているみたい」


 そういえばそんな話があったのを、すっかり忘れていた。

 でもハチということは……。


「む、虫……」


 虫嫌いのセイリュウが早くも小刻みに震えている。

 嫌いなものが大量発生している場に行くなんて、死活問題だよな。


「あら、だったらセイリュウちゃんは町でトーマ君とお留守番ね」


 苦手なのがいると分かっている場所へ無理に行くことはないし、カグラの言う通りにすべきかな。

 虫を回避できると分かってか、セイリュウの表情が明るくなった。

 直後にカグラから耳打ちされて真っ赤になり、恥ずかしそうに俯いた。

 何を言ったんだ、何を。

 じゃあ俺も一つ報告しておくか。

 うっかり個人情報を口にするかもしれないから、念のためボイチャにしてもらった上でラードとオリーブオイルを入手したこと、それと暮本さんがリアルでの知り合いだったことを報告する。

 ついでに別の作業台で実際に調理しつつ、勉強会のようなことをしている暮本さん達のことも伝えた。


「またトーマは……。どうして目を放す度に、何かしらやっているのよ」


 溜め息を吐くメェナから、元気すぎて目を放せない子供への愚痴のように言われた。

 どうしてそんな風に言われなくちゃならないんだ。


「あれが暮本さん。リアルで知り合いだったなんて、凄い偶然だね」


 冷凍蜜柑達と調理をしながら何かを教えている暮本さんを見たセイリュウが、目を見開いている。

 本当、凄い偶然だよな。


「あー、トーマのお祖父ちゃんの友達だっていうあのお爺ちゃんね」


 ダルクは店で会ったことが何度かあったっけ。

 というかお前こそ気づかなかったのか?

 いや、ダルクじゃ気づきそうにないな。


「うふふ、優しいお孫さんなのね」


 少しばかり元気すぎるところはあるけど、カグラの言う通り優しい奴だよ。

 そんな感じで会話しながら晩飯を終え、イクトの口の周りを拭いてやったら後片付けを挟み、一度赤巻さん達へ連絡。

 前回のログインで伝えていた、ミコトの歓迎会と緊急クエストに協力してくれたお礼の会を明日の何時頃にするか確認すると、予定があるから午前中にとの返事があった。

 これについてダルク達は了承して、どうせなら朝食でそれをやろうということになって、向こうもそれを了承してくれた。

 開催場所はこの作業館の個室。時間も決めたら連絡を終え、明日に備えての仕込みを再開する。


「ねえねえ、何作るの?」

「ハード系のパンともやしのナムルだ」


 ダルクの質問に返事をしたら一度受付へ行き、オーブンを借りてくる。

 食後の後片付けを済ませた作業台に調理道具と材料を用意し、ハード系のパン作りに取り掛かる。

 材料は小麦粉と水と塩、これだけ。

 あまりこねないとの情報の通り、あまりこねずに仕上げた生地を発酵スキルで発酵させたら、魔力オーブンを起動させて中を温めておく。

 その間に発酵させた生地へ粉を振り、クープっていう切れ目を包丁で入れる。

 焼く時はスチームで焼くってあったけど、魔力オーブンにそんな機能は無い。

 だから代用方法として、水を指先に付けてパン生地へ撒く。

 できれば霧吹きがいいんだけど、それすらも無いからこうさせてもらう。

 後は内部を温めておいたオーブンで生地を焼けば完成だ。

 オーブンへ入れて焼いている間に、鍋に水を張って火に掛ける。

 次に昨日のログインで作った発酵唐辛子ペーストと油と塩とニンニク、それと普通の唐辛子と粉ビリンを準備。


「それ、どうするの!?」


 瓶詰めの発酵唐辛子ペーストと唐辛子と粉ビリンを見て、辛い物大好きなメェナは椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がった。

 どうするのかと聞かれても、お湯が沸いたらもやしを茹でて、水気をよく切ったらこれらと和えてもやしのナムルにするだけだ。

 ナムルは茹でた野菜に味付けして和えた物だから、野菜はなんでもいいし味付けも作り手の好きにしていい。

 そういう意味では野菜の冷製和えもナムルと言えなくもないけど、細かいことは気にしない。

 あっ、これに風味付けですりごまを加えてもいいかな。

 ニンニクをすりおろし、唐辛子を刻んだ後でそう思いすり鉢と黒ゴマを出そうとしたら、オーブンのパンが焼けたから先にそっちを取り出す。




 バゲット 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:1 品質:6 完成度:83

 効果:満腹度回復7%

    知力+1【1時間】

 内側はもっちり柔らかいが外側は固いハード系のパン

 歯応えがあって食べ応え十分

 カリカリに焼くも良し、ソースやスープを付けるも良し




 焼きたてで熱いのを堪えながら、味見のため人数分に切り分けていく。

 はいはい、あげるからそんなに身を乗り出してちょうだいって目で訴えるな、ダルクにイクトにミコト。


「ほらイクト、ミコト、ダルク。味見してくれ」

「「わーい!」」

「ありがとなんだよ」


 姉弟のように喜ぶイクトとダルクに続き、お礼を言いながらミコトが取った。

 焼きたてで熱いから、息を吹きかけている。


「セイリュウとメェナとカグラも、ほら」

「あら、いいの?」

「ありがとう」

「せっかく勧められたのなら、もらいましょうか」


 セイリュウ達が取ったら、残り一切れは俺が食べる。

 焼きたての温かさと香ばしさを感じながら噛むと、外側は歯ごたえがあって内側は柔らかい。

 だけど、知っているバゲットに比べると外側が固めだ。

 そういえば、前に祖母ちゃんが言っていたっけ。

 今は固いパンも昔に比べて柔らかくなって、少し物足りない感じがするって。

 俺はその固さを知らないけど、これくらいの固さだったのかな?


「かたいけどおいしー!」

「噛み応えがあって美味しいんだよ」

「トーマ! これを細かくすればパン粉になるよね! それでなんでもいいからカツ作ってよ!」


 少し落ち着こうか、そこの揚げ物狂いの幼馴染さん。

 でもその意見には同意しよう。

 となるとこのまま細かく切るか、もっと水気を無くしてカラカラになったのをすりおろすかだな。


「私、これにバターを塗ってカリカリに焼いたのが食べたいわ」

「いいわね。私としてはチーズも乗せて焼きたいわ」

「ハムかベーコンを乗せても美味しそう」


 これはパン粉の件もあるし、もう少しバゲットを焼いた方が良さそうだ。

 そう思いつつバゲットをアイテムボックスへ入れ、お湯が沸いた鍋へもやしを投入。

 茹で上がるまでの間に、残りの生地をオーブンへ入れて焼き、すり鉢とすりこぎで黒ゴマをすりおろす。

 頃合いを見計らってもやしをザルに上げ、お湯をよく切って乾燥スキルで適度に水気を取ったら、ボウルを二つ用意して九対一くらいに分けてもやしを入れる。

 これに発酵唐辛子ペーストと油とおろしニンニク、すりごまを加えてよく和える。

 もやしが多い方は万人向けに辛さを抑えるため、発酵唐辛子ペーストは少なめで塩で味を補強。

 もやしが少ない方はメェナ用に発酵唐辛子ペースト多め、さらに粉ビリンと刻んだ唐辛子を多めに加えた。



 ピリ辛もやしナムル 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:1 品質:7 完成度:95

 効果:満腹度回復9%

    火耐性付与【微・2時間】 俊敏+1【2時間】 運+1【2時間】

 茹でもやしに好みの味付けをしたお手軽な一品

 発酵唐辛子を使った柔らかいピリ辛風味が食欲を誘う

 別に辛くなくてもいいので、辛くないのでもオッケーです




 激辛もやしナムル 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:1 品質:7 完成度:94

 効果:満腹度回復9%

    火耐性付与【微・1時間】 運+1【2時間】

 唐辛子とビリンたっぷりの超シビ辛のナムル

 これで旨味を感じられる人は、よほど辛さに強いのでしょう

 作った方には、何故こんなに辛くしたのかを問いたいです




 問いたいですと言われても、これくらい辛くしないと満足しない人がいるからです、としか言いようがない。


「なにあの真っ赤なもやし、怖い」

「激辛専門店にしかなさそうな色合いしてるぞ」

「無理無理無理無理。現実であんなの食ったら、確実に腹が痛くなって尻が大変なことになる」


 周囲も辛い方の見た目にざわついている中、ピリ辛の方を味見。

 発酵させたことで柔らかくなった唐辛子の辛味、おろしニンニクとすりごまの風味、そして油の適度な重さ。

 これらのお陰で茹でもやしが、ちゃんとした一品に仕上がっている。

 激辛の方は味見する気すら無いから、メェナに味見してもらう。


「くっはーっ! キターッ! 良い辛さと痺れよ、さすがトーマ君!」


 自分で味見できないぐらい辛くした自覚があるから、褒められても素直に喜べない。

 明らかに咽そうなほど真っ赤なのに、どうしてそんなに喜べるんだろうか。

 いつもなら味見をねだるイクトとミコトでさえ、あまりの真っ赤さに味見を求めるのを忘れるくらい引いているっていうのに。


「ますたぁ、あのあかいのおいしいの?」

「メェナにとっては美味いけど、イクトにとっては凄く辛いから食べるんじゃないぞ」


 味見の要求も忘れるぐらい不安気なイクトに釘を刺し、ナムルはアイテムボックスへ。

 これでアヒージョと冷製和えとバゲットと合わせて四品か。

 後はキュウリとトマトとキャベツとニンジンを生鮮なる包丁で切ってマヨネーズを添えた生野菜セットと、飲み物にドライフルーツ牛乳とトマトジュースでも作るかな。

 あっ、それとバゲットの追加も。

 そういう訳でボウルへ牛乳を注いでドライフルーツを入れ、追加の生地を仕込みオーブンで焼いている間に、生鮮なる包丁で生野菜を切っていく。

 キャベツはつまみキャベツくらいの大きさで、トマトはくし切り、ニンジンとキュウリはスティック状に切り分けたら皿に盛る。


「えっ? トーマ君、この野菜は切っただけ?」

「明日には別の小皿にマヨネーズを出すから、それで食ってくれ」

「野菜スティックにディップを添える感じで提供するんだね」

「あら、いいわね。ところでトーマ君、甘い物を作る予定はあるの?」


 野菜をアイテムボックスへ入れ、焼けたバゲットをオーブンから出していたらカグラから質問が飛んだ。

 うん、質問だよな?

 なのにどうしてこう、否定したら何かされそうな気がする妙な圧を感じるんだろう。


「……プリンに生クリームとか果物とか木の実をトッピングする感じでいいか?」


 瑞穂さんにプリン作りを手伝わされたから、一応作り方は知っている。


「よろしくね♪」


 許しを貰えたから、追加の一品を作るとしよう。


「プリン……ですって?」

「しかも生クリームトッピング?」

「果物や木の実もトッピングって、ほぼプリンアラモードじゃないの」


 ん? なんか一瞬周囲がザワッてなった気がする。

 まあいい、それよりもカラメルソースを作ろう。

 鍋を二つ用意し、一方ではお湯を沸かしてもう一方では砂糖と水を入れて火に掛け、赤茶色になるまで待っている間にプリン用の食材と容器として使うカップを準備。

 ソースが赤茶色になってきたから火から下ろし、もう一つの鍋で沸かしたお湯を加えて混ぜたらカラメルソースの完成。

 これをカップへ均等に流し入れ、冷却スキルで冷ましてソースを固める。

 次は空いた鍋を洗って拭いたら牛乳を注ぎ、空いたコンロで火に掛ける。

 ボウルに卵と砂糖を入れてよく混ぜ、途中で温まった牛乳を加えて混ぜたら目の細かいザルで濾し、先にカラメルソースを入れておいたカップへ注ぐ。

 そしてお湯を沸かしていた方の鍋に蒸篭を設置し、カップを並べて火加減を調整したら蓋をしたら、蒸しあがるまで待つ。


「プリン♪ プリン♪」


 ウキウキしているカグラが笑顔で体を揺らしている。

 他にも揺れている箇所があるけど、そこは気にせずドライフルーツ類を浸けておいた牛乳をミキサーに掛け、前にも作ったドライフルーツ牛乳が完成。

 ついでにヘタを取って六等分に切り分けたトマトと塩をミキサーに掛け、布で濾して水分を絞り出せばトマトジュースの完成だ。

 コップはドライフルーツ牛乳で、カップはプリンで使ったから空いている瓶に入れておこう。



 トマトジュース 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:1 品質:6 完成度:94

 効果:満腹度回復1% 給水度回復14%

    魔力+1【1時間】 体力+1【1時間】

 トマトの水分を絞り出したジュース

 塩以外は入れていないので、トマトの旨味がしっかり味わえます

 ゲーム内なので関係ありませんが、健康に良いので是非飲んでください




 表示内容よ、自分からゲームだから関係無いとか表記するなよ。

 まあいい、情報は問題ないみたいだから味見のためお椀に少し注いで飲むと、トマトの旨味がしっかりする。

 イクトとミコトからの評価も上々で、美味しいの言葉を貰った。

 瓶をアイテムボックスへ入れ、プリンをトッピングするための準備へ移る。

 前回のログインの調理で残していたサンの実の皮を刻み、オーブンへ入れて加熱。

 乾燥させずに残しておいたシュトウとブルットを生鮮なる包丁で切ったら、シープン一家のところで買った生クリームとボウル、それと焼けたサンの実の皮を冷却スキルで冷やす。


「あら? 確か生クリームを立てる時って、氷水を使うんじゃなかった?」

「現実ではそうだけど、今回は冷却スキルで冷やしながら作るんだよ」


 生クリームをボウルに出し、砂糖と焼いたサンの実の皮を加えながらメェナの質問に答える。

 前に瑞穂さんから教わった時は、別のボウルに氷水を用意して冷やしながらやっていた。

 確かクリームの温度が高くなると、上手く気泡が含まれないから口当たりが良くならないんだったな。

 そういう訳で、冷却スキルでこまめに冷やしながら、泡だて器で空気を含むように立てる。

 立てすぎても口当たりが悪くなるから注意して、ある程度の固さが出れば準備完了。

 さて、プリンの方は……うん、良い感じだな。

 手に布巾を巻いて蒸しているうちの半分を取り出し、冷却スキルで冷ます。

 小皿が足りないから大皿を用意して、カップからプリンを出しては並べていき、最後にサンの実の皮入りのクリームとブルットとシュトウをそれっぽくトッピングすればプリンアラモードの完成。

 続いて残り半分も取り出し、同じ手順で仕上げて固めのプリンによるプリンアラモードの完成。




 プリンアラモード 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:3 品質:5 完成度:81

 効果:満腹度回復11%

    器用+3【1時間】

 生クリームと木の実とフルーツでプリンをトッピング

 クリームに混ぜたサンの実の皮の香りと微かな苦みと渋みが甘さを引き立てる

 柔らかく滑らかな仕上がりも、昔風の固めの仕上がりも美味




 好みを把握しているダルク達はともかく、イクトとミコトと赤巻さん達は柔らかめと固めのどっちが好みか分からないから、両方用意してみた。

 ちなみに俺達の場合は、俺とセイリュウとメェナは固めが好みで、ダルクとカグラは柔らかめが好みだ。


「美味そう……」

「なんか子供の頃を思い出すな」

「近所にああいうの出す店、あったっけ?」


 さて、肝心の味はどうかな。

 味見のために柔らかめの方を一つ小皿に取り、スプーンで半分に割る。


「トーマ君♪」


 おおう、すっごい笑顔なのにカグラから強い圧を感じる。

 味見させないと、何かが起きそうだ。


「ますたぁ♪」

「マスター」


 あー、はいはい。二人も味見ね。

 でもまずは自分で味見するため、切った半分を口にする。

 うんうん、スが立ってなくて食感は滑らかで、クリームの固さもちょうどいいし、サンの実の皮の香りと味も効いている。

 一方ずつだけでなく両方の甘さも申し分ないし、まあまあの出来じゃないかな。

 さて、カグラが早く味見させてと目で訴えてきているから、別のスプーンを添えて残り半分を渡そう。

 それと固めの方も一つ取って半分に割って、イクトとミコトへ渡して味見を頼む。


「はぁ……最高。柔らかくて滑らかな舌触りとのどごし、クリームの甘さとふんわり感、そしてサンの実の皮の爽やかな香りと微かな苦みと渋みで引き立つ甘さ。トーマ君、ありがとう!」


 こちらこそ、最高の笑顔とサムズアップありがとう。


「あまくておいしー!」

「ちょっと固めだけど、それが柔らかいクリームと対照的で良い食感なんだよ」


 うん、二人もありがとな。

 だけど夢中で食べているせいで、イクトは口の周りがクリームでベタベタ、ミコトも頬と鼻の頭にクリームが付いているぞ。

 ダルクとセイリュウとメェナからも、味見したいって視線が注がれているけど、明日のためにこれ以上は駄目だ。

 アイテムボックスへ入れると三人だけでなく、何故か周囲からもため息が聞こえる。

 周囲のプレイヤーの皆さん。食べたくとも、あなた方には味見してもらう義理すらないから我慢してくれ。


「ふむふむ、腕を上げたねトーマ君」


 おぉっ、暮本さん。いつの間に。


「手つきを見れば分かるよ。三年前より腕を上げたね」

「そうですか、ありがとうございます」


 三年も経ったのに腕が上がらなかったら、それはそれで不味いだろう。


「さっきのナムルの辛さといい、そのプリンの固さといい。同じものでも違う辛さや固さを用意することで、食べる相手への配慮もできているね」


 ナムルの時から見ていたのか。

 というかどこから見ていたんだろう。


「暮本さんの教えのお陰です」


 どんなに自分が美味いと感じても、食べる相手への配慮を欠けば独りよがりな味になりかねない。

 一人一人の好みに合わせるのは無理でも、出来る限りの配慮はするように。

 店のカウンターで客と対面で接することが多かった、暮本さんだからこその教えだ。

 うちの店にもカウンター席はあるけど、テーブル席の方が多いからな。


「そう言って貰えると嬉しいね」

「暮本さん、できました! 確認お願いします」

「ああ、すぐに行くよ。ではな、邪魔したね」


 エータに呼ばれて作業台へ戻る暮本さんを見送り、味見を終えたイクトとミコトに付いたクリームを拭き取ったら後片付けをする。

 何しに来たのかなってダルク達が首を傾げているけど、俺としては一声掛けてもらえて嬉しい。

 さて、片付けが済んだら宿を探して明日に備えて寝ようか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハラミ肉丼に軽く酸味のあるもやしナムル ラーメンにゴマと唐辛子の効いたからもやし で食べるのが好きです
2024/02/17 12:51 がちサイダー
[一言] トーマ君の料理にはいつも食べる人への気遣いが溢れていますね
[良い点] 更新お疲れ様です。 斗真にとってお爺さんやお父さんが『師匠』なら、暮本さんは『先生』って印象ですね。似て非なる二つの立場から教えを受けられる斗真の将来が楽しみですな。 [一言] ギャラリ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ