ユナイトストーリー 外伝4 愛と絆の女神
あまり本編では描けなかったキャラであるアフロディーテの深堀になります。本編では書けていない歴史の補完も兼ねています。こちらも謎が多いエキドナも出てきますよ。
愛と性の女神アフロディーテ。彼女は神話と同じようにこの世界に産まれ落ちた。ニアアースはヘラがブラフマーに依頼して創造された世界である。そんな中最初に産まれたのが大地の女神ガイア。大地やその他の生命を産み出した彼女は次に天空の神、ウーラノスを産み出した。そして彼女は息子を夫とし、様々な巨人を産み出したのだが、その巨人達が醜い姿をしていたために徐々に対立していくことになる。そしてガイアとウーラノスの息子、クロノスが報復としてウーラノスの男根を切り落とした。そしてこれが海に落ちた時に産まれたのが彼女、アフロディーテである。彼女はヴィーナス誕生にも描かれている通り全裸の状態であった。ちなみに本編ではウーラノスを巨大なドラゴンとして描いているが、これは彼が戦いに破れたことで強さを求めたため、強い姿であるドラゴンになったためだ。まぁ息子のクロノスもまた彼の息子ゼウスに破れたためにこの世界で強くなろうとし、時間の神クロノスとも合わさって最強のドラゴンとなっているのだが、それはまた別のお話。かなり話が脱線したが、彼女がたどり着いたのは後に天使族の大陸と呼ばれる場所の沿岸だった。「ここは、どこなんですかね」全裸のまま彼女は徘徊すると、ダンジョンの入り口らしき場所にたどり着いた。「全裸の女が誰かと思ったら女神なのか」ハヤブサの顔を持つ青年がそこには立っていた。「あら、私の正体がわかるのですね」「同じ神だからな」その男の正体はエジプトの太陽神ラーだった。彼女の身体は砂だらけだったので自分のエリアに案内した。「ありがとうございます」ラーの魔法できれいになった彼女だったが、あることに気がついた。「それはそうですよね」「まぁ神とは言え俺も男だ。絶世の美女が裸でいたら抱きたくないわけがない」ラーもまた服を脱ぎ捨てて準備をしていたのだ。一通りやることをやった二人。ラーから服を渡されたアフロディーテは一夜を共にした後、あっさりと彼の元を去ってしまう。「彼も悪くないけれど、もっと素敵な男性がいるかもしれない」そう彼女は感じたようだ。基本的にアフロディーテは愛と性を司ることもあり、自由奔放であり、浮気性なのだ。そんな彼女は旅をする途中で妊娠して数日で出産した。それで産まれたのがエロスであり、天使族の祖となった。「神同士なら産まれるのも早いのですね」そんな彼女は道中あるもの以外は一切食べずに旅をしていた。あるものとは神の不老不死を支えるアイテム、黄金のリンゴである。これを食べることでしばらくは不老不死を維持できるためとても重要アイテムである。このアイテムは天使族の大陸の妖精の森になり、この世界の神様達が共有していた。「母さん、どうしたんですか?」「エロス、なんでもないよ」数日前はただの赤ん坊だった彼もあっという間に成人の男の身体に成長してしまい、戸惑っていた。そんな彼女は彼を引き連れて定着できる場所を探し求めていた。男性は前述の通りすぐに飽きてしまう彼女だが、さすがに不老不死と言っても食べ物や着る物が欲しいのは人間の身体をしている以上、必然である。そのために定住をして安定をできる場所を探していたのだ。そんな中森を二人でさ迷っていると、「厄介ですね」「母さん、離れて」狼の魔物達が二人を取り囲んでいた。しかし服すらろくに持っていない状態の二人が武器などあるはずがない。木の枝を折って振り回すことでなんとか追い払おうとするが、獲物として認識した以上、簡単には彼らは諦めない。二人は四方から襲われ、噛みつかれた。「まずい、なんとかしないと」アフロディーテは必死に考えた。このままでは噛み殺されてしまう。不老不死と言っても肉体がなくなれば厳しいことは間違いない。「あれがあった」「何か思い付いたんですか!?」「これでどうですか!」アフロディーテがやったのは冷気を召喚することだった。黄金のリンゴを取り寄せて食べることが絶対にできるわけだから、リンゴ以外も引き寄せられると考えたのだ。その予想は当たっていた。土壇場で呼び寄せられた冷気は二人に噛みついていた魔物達を凍死させ、残りの魔物は逃げていった。「なんとかなりましたね」「でもこのままじゃ僕達も……」薄着しか持っていない状態なので寒さが厳しい。だが、「こうすればいいのです」ラーのダンジョン周辺の大気を召喚した。砂漠地帯の空気は暑いのでそこそこの温度に落ち着いた。しかし様々な所を噛まれて二人とも傷だらけである。「一旦どこかで休める場所を探していくしかありません」「ずっと僕達が探しているけどそんな所あるの?」とエロスが不満を漏らしたとき、森の奥に洞窟を発見した。「ここを拠点にしましょう。さっきの魔物の死体を持ってきてご飯にしましょう」「それは賛成」何往復かしてすべての魔物の死体を運ぶと、リンゴ以外のご飯にありつくことができた。塩や調味料もないただの魔物肉である。臭みは強いし味も不味い。「でも食べないよりはずっとマシだね」「それはそうですね」食べない分は洞窟を利用して保管することにした。一夜をそこで過ごした二人は生活環境の改善を図ることになった。まずは怪我の回復だが、これはあっさり解決した。不死身を支えるアイテムである黄金のリンゴには高い治癒能力があるからだ。次に食糧の確保。魔物の肉はあるが味が不味いので塩やその他の調味料が欲しい。最後は衣服だ。ラーから貰った服は襲撃もあってすでにボロボロなので、新しく作る必要がある。「やることが沢山ありますね」「僕も手伝うよ」彼らは一つずつ問題を解決していった。洞窟のすぐ近くに海岸があったので塩を乾燥させたりして得たり、魚を釣ろうとして木の枝と服から取った糸で作った即席の釣竿で釣ってみたりとかなり原始的な生活をしていた。そんな中、彼らの元に一人の男が現れた。「あら、どういうご用件でここに来ましたか?」「いや、美人な女性と若い男性が村の近くの洞窟に住み着いたって噂を聞いたもんでな、確かめに来たんだ」「近くに村があるんですね!場所を教えてもらっていいですか?」「ああ、付いてきてくれ」二人はその男性についていくと、森の中に木の建物が見えた。どうやらここが彼らの生活拠点らしい。「ところでお前さん達、塩を作っていたみたいだが、食べ物はあるのか?」「あっ、はい。魔物の肉が洞窟に保管してあります」「ほぅ、なら頼みがある。周辺の魔物を狩ってくれないか?ここは夜に襲われて子供なんかが狙われて犠牲になってる。だからお前さん達に狩る技術があるなら助けてもらいたい」「分かりました。それなら条件があります」「なんだ?できることしか受け付けられないが」「まともに魔物肉以外を食べていないので、他の食べ物があれば少し分けて下さい」「それならお安い御用だ。ちょっと待ってろ」男性は倉庫らしき建物に向かった。「これでどうだ?」「おお、いいですね」男性が提示したのはキノコを始めとした山菜類だった。それを二人はありがたく頂くと、依頼をこなすことにした。早速魔物がいそうな場所に向かうと、ご丁寧に魔物達が現れた。「別に冷気じゃなくても、というよりもですね」「?」男性には理解できない単語を口にした彼女は槍を出した。「!」それを彼女は持つのではなく、魔物達の真上から出して次々と串刺しにした。「こんな物、一体どこから!?」「申し遅れましたね。私は女神アフロディーテです」「女神様がどうしてこんなところに!?」「それは私が聞きたいですよ。それよりもこれはとある場所から拝借した物なんですけど、要りますか?」「いるよ!それがあれば俺達でも魔物や動物を倒せる」ちなみにここでの魔物と動物の違いは一般的な動物からかけ離れた部位があるかどうかで判断される。二人が倒した狼の魔物ならしっぽが二本あったので魔物として判定される。「ええ、ひとまずは借りましょう。ただ、このままだと使いにくいので洗ってからですね」「それはわかっている」魔物達を倒して血でベタベタになった槍を川の水で洗う。残った魔物の死体は倉庫に入らなさそうなので洞窟で保管することになった。「それにしても、あんた」「どうかされました?」「いや、恋人がいるんだもんな」「あれは息子ですよ」「へ!?」「神同士の子供なので子供の成長が速いんです。まぁ、人間との子供はわかりませんが……」「……」「私に興味を持ちましたか?」「まぁ、そうだな」「いいですよ。ただ飽き性なのですぐに飽きちゃうと思うのですが……」「それでもいい。美人が誘っているのにやらないのは恥だ」エロスは空気を読んで村に滞在し、二人は洞窟で一夜を過ごした。「それにしてもやるだけならともかく、こんな硬い地面で寝るのは痛いだろ、なんとかしたほうがいいんじゃないか?」「そうですね、力を貸してくれますか?」「もちろんだ」その後三人で洞窟の生活環境を整えていった。
「面白いお話ですね。女神様がそんなご苦労をされていたなんて」「まぁ長く生きてきましたからね。この洞窟も懐かしくて結局ここに住んじゃってます」ここは現在の時間でアフロディーテと喋っているのはフィスという絆の一族の女性。フィスがアフロディーテに昔話をして欲しい、と頼んだので上記の説明をしたというわけだ。トーイ達が限界突破を行ったこの洞窟は実は彼女が元々住み着いた場所だったのである。「それで、その男性とはどうなったんですか?」「その男性はカイルという男性で……」
飽き性と語ったアフロディーテも近くに住んでいるとなると会う機会は増える。生活環境を整えていく中で自然と彼との接触も多くなった。背中から羽根が生えたことで人間として生きていくのが難しいと判断したエロスは、この集落を離れることになった。目指したのは父であるラーの近くに存在するという黄金のリンゴが生える木のある森。そこに住んでいた人達と交わることがきっかけで天使族が誕生することになる。さて、話を戻してカイルとの間には五人の子供が産まれた。その間に原始的な生活はだいぶなくなり、人間らしい食事や生活をすることができるようになった。具体的には漁師が誕生して船で漁に出掛けられるようになった他、山羊や羊を飼育することで衣服や食肉に困ることがなくなった。そして地球と異なる点が弱い魔法ではあるものの人々が使えるようになったことである。これにより保管が氷魔法、調理に炎魔法、お風呂に水魔法と炎魔法の組み合わせ、という形で使えるようになった。実は漁に出掛けた漁師がとある人物を連れてきたのがきっかけだった。「あら、あなたは」「アフロディーテか。私以外にもこの世界に神はいたのだな」海神ポセイドンだった。泳いでいたら漁師の網に引っ掛かったらしく、漁師にこう尋ねたらしい。「漁師とは珍しいな。集落があるのか?」「ええ、ありますよ」というわけで案内した結果のようだ。泳いでいた理由を聞くと、「広い海を泳ぐことでこの世界が何なのかを解明したい」ということらしい。「そうだ。ポセイドンさんなら水の魔法は使えますよね?」「ああ、簡単だ。みんなにも教えてやろう」というわけで村人全員水魔法が使えるようになり、その応用で炎や氷、雷の魔法も使えるようになった。そのお礼としてポセイドンは彼女に子供をせがみ、産まれたのがトリトンだった。こうして魔法を使える人々が作った王国こそ、ミガク王国だったのである。「それでミガク王国が生まれたんですね。我々絆の一族は女神様の血を引いているかどうかで判断されるのでしょうか」フィスがそう聞いた。「それは違うと思いますよ。そんなこと言ったらほぼ全ての人が私の血族になると思いますから」「どういうことですか!?」「私はカイルさんに限らず、集落の男性達と大体交わってきました。その子供達はここに留まらず旅に出た人達も沢山いたので今現在まで言えば……」「ほぼ女神様の子孫になっちゃうわけですね」「そういうことです」「じゃあどこに違いが……」「それはユナイトという概念が登場してからでしょう。それ以前は特にこの国の人々が分けられていた記憶がないですから」「そうですね」ユナイト。ユナイトストーリーという物語において最も重要な要素である。「その話の前に聞きたいんですけど、その男性達とは死別したんですよね?」「ええ、私は永遠に生きようと思えば生きられますから」「彼らの死にどう思ったのですか?」「それはですね……」アフロディーテはその長命故に交わった多くの男性達と死別してきた。特にカイルは人間で初めて身体を許した男性であり、彼が年老いていくのを見るのは辛かった。彼が病気で最期のときを迎えたとき、彼女はすぐ側で彼の子供や孫達と一緒にいた。「あんたには世話になったな」「そんなことありません……私のほうが世話をしてもらいました」「最期にあんたみたい美人に出会えてよかったぜ……」という言葉と共に彼は息を引き取った。アフロディーテはこの時初めて人の死に対して泣いた。しかし彼女が生きている限り、人間の子供達にも等しく死が訪れることになる。彼の死にも泣いたが、子供が死ぬと彼女は三日間寝込むほど悲しみに暮れた。浮気性な彼女だが、実の子供達には真の愛情を持って接してきただけにその悲しみも大きかったのだ。その話を聞いたフィスは思わず泣いてしまった。「辛かったのですね。幾度となく子供達が亡くなっていくなんて聞いているだけで胸が張り裂けそうになります」「これに関してはいつ誰が亡くなっても慣れないですね」「まぁ、それで言えばあの戦争で多くの人が亡くなったのは大変堪えましたね」「あの戦争?百年前の大戦争ですか?」「いいえ、それではありません。人間と魔物達が死闘を繰り広げた戦争があったのです。私はそれを人魔物間戦争と呼んでいます」
その戦争のきっかけは前述したガイアとウーラノスによるものだった。ガイアは次々とウーラノスとの間に子供を作っていったのだが、それを追い出したウーラノスを恨みクロノスに頼んでウーラノスを攻撃したことは前に書いた通りである。この物語にはその続きがあったのだ。アフロディーテが生まれた後、クロノスがこの世界の神として君臨した。しかし彼女が頼んだのは産んだ巨人達の解放だったのだ。それを一切することのなかったクロノスにガイアはとうとう堪忍袋の尾が切れた。この間百年であり、いかに神と人間とで時間の感覚が異なるかが分かるだろう。ガイアは魔物達を味方につけてクロノスに反乱を起こしたのだ。これが人魔物間戦争の始まりであった。しかしクロノスは神になったにも関わらず一切これに関与しようとしなかった。できなかったのである。実はこの時神の都ギリシアでは息子ゼウスがクロノスに対して反抗しており、クロノスはこの戦いに敗北したのである。そして神の称号を得たゼウスは反乱を鎮めようと各自に戦力を配備した。ハデスやポセイドンなどの彼の兄弟達も協力してガイアが放った魔物に対抗したのだが、ハデスが魔物達に懐柔されて突如裏切ったことで形勢は完全に逆転する。ハデスの支援を受けた強力な魔物達が各地に散らばり、人間達は為す術もなく殺されていく。ゼウスがハデスを善良な心を持った本来のハデスの人格と、冥神として生命の破壊に執着する邪神で分断して邪神をクロノスに頼んで封印してもらったのだ。これがハデスがこの世界において2つに別れている理由である。邪神を封印し、ハデスが本来の状態に戻ったことで形勢は再び人間側の神が有利になり、戦争はガイアやキュクロプス、テュポーンといった魔物側の主要な面々をバラバラにして封印することで終結したのである。ガイアはダンジョンの奥地で封印されていたがエキドナや魔王ハデス、トーイ達の活躍で封印が解かれている。テュポーンはトーイ達の魔神の剣として活躍し、キュクロプスも救出されたので封印はほぼ全て解かれている状態だ。さて、戦争を終結させたゼウスは、地球の主神として忙しいためさっさと帰還してしまった。この世界の実質的な創造主である妻のヘラの頼みで参戦したのが実情だったのだ。この戦争においてアフロディーテも奮戦したのだが、多くの子供や孫達を戦争で失ったのである。ハデスの支援を受けた魔物はちょっとやそっとでは倒れなかったために多くの犠牲を出すことになった。「その戦争でのハデスってひどいですね。いきなり敵に寝返るなんて」「仕方ないのです。彼が率いていたのは冥府の軍団でした。その見た目は魔物達と大差なかったので、味方から疑惑を持たれていたんです」「それでも裏切るのは……」「でも考えてみて下さい。味方から常に攻撃されるんじゃないかと疑われている状態というのは想像以上にしんどいはずです」「確かに言われてみればその通りですね……」「ハデスは分けられた後、地球からの転生者と本来のハデスを組み合わせることで今の魔王ハデスが生まれました。これはこれ以上人間と敵対させないようにするためにヘラさんが画策したようです」「ハデスは裏切ったとは言え、散々な目に遭わされているような……」「そうですね。神の意向に振り回されている可哀想な神ですね」「それで、その戦争の後はどうなったんですか?」「そうですね……」
アフロディーテは魔物達によって滅茶苦茶に破壊された集落をなんとかして復興させようとしていた。まずは戦死者の埋葬、壊れた建物を建て直したりするところから始めた。「皆さん、生きていればなんとかなります。これからの将来をより良いものにしましょう」年長者が死んでしまったため、子供達の教育をしっかりしないと復興した時のことを考えるとあまり良くない。そのためアフロディーテは建物を建て直しつつ、教育ができる場所、学校を作ることにした。これが魔法学園の礎となった。さらに魔法技術を洗練させるため、魔法研究機関の前身も作られることになった。ちなみに森が戦争によって大きく面積を減らしたため、広大な土地を生かして大規模な畑を作っており、食糧に問題がないようにしていた。「今のミガク王国の発展は女神様の活躍が大きかったのですね」「私はとりあえずアイデアを出しただけです。さて、そろそろ本題に入りましょうかね」「ユナイトの誕生でしたね」彼女達は次の話題に移っていった。
「さて、どこから話しましょうかね」「ユナイトの誕生経緯については知っていますが、私達絆の一族とどう関係しているのかが知りたいです」ユナイトが生まれたきっかけは外部環境の変化がきっかけだった。「魔物達はあの戦争に破れた後、人間の町からは距離を置くようになり、ダンジョンという領域を形成してそこに引きこもるようになりました。魔物にとってダンジョンは魔力が溢れている場所というだけでなく、自らが復活することができる場所であり、魔力のおかげで食事の必要もないので人間を襲う理由もなくなりました」「あれ?ユナイトはどこに行ったんです?」「ちょっと待って下さい。しかし一部の人間達はこのダンジョンの魔物を倒すことで貴重な素材が入手できることを知るようになりました。しかしダンジョンの魔物は簡単には倒すことができません。その過程で生まれたのが」「ユナイトというわけですね」「そういうことです。肉体や魔法の修練だけではどうしても犠牲が多かったのですが、とある冒険者がある発見をしたことでユナイトが生まれたのです」「その発見とは?」「その冒険者は魔物が倒しても時間経過で復活する、という説を持っていました。それは撤退したときにいないはずの魔物達の数が明らかに多かったという経験からだと言われています。そこで彼は危険を犯し、ダンジョンのその周辺の魔物を冒険者達で殲滅させて、隠れて様子を伺うことにしたのです」「それでどうなったのです?」「その冒険者の読み通り、魔物は時間経過することで周囲の魔力を吸収し、復活するということを突き止めたのです。それを聞いた当時の国王は、自らの皇子で試してみることにしたのです」「随分危険な賭けですな」「ええ、トーイくん達みたいに元々素質を持っていたり、ユナイトに関する知識がなければ失敗し、ユナイトした二人とも死んでしまうリスクがあります。そうやって死んだ例を何回も見てきましたからね」「それで、結果はどうなったのです?」「王様はその方法を発見した冒険者、ナイトと皇子を魔力融合という現象を試してみようとしたのです。彼は自身を魔力化する方法を数ヶ月研究し、実践となったのです。結果的にユナイトは大成功。そのユナイト現象によって圧倒的な身体能力に超強力な魔法を扱えるようになったのです」「それでその皇子がミガク王国の始まりと言われているわけですね」「そうです。王自体はその前からいたのですが、ユナイト現象によって作成できる魔道具の性能も大幅に上がりました。そのため魔法という意味のミガク王国と改めて名乗ったわけです」「じゃあその時に色々便利な魔道具が作られたわけですね」「そうです。ワープストーンも現在では複製こそできますがオリジナルを1から作ることができないとされてますしね。ユナイトも皇子だけではなく様々な人ができる時代でした。しかしナイトがユナイトの事故で亡くなると問題が発生していきました」「どんな事故だったんですか?」「事故というより、早死にですね。皇子は王様から王位を継承したわけなのですが、数々の冒険を継承する前にユナイトをすることでやっていきました。ワイバーン部隊ができたのも彼がラウスト山を攻略したからですしね」「待って下さい。その時代ってスチームボックスはあったんですか?」「この時代にできたのです。そもそも仕組みとして魔物の出す魔力の煙を吸収することで使役できるようになるわけですから、仕組みが知られてい時代ではできるはずがありません」「なるほど、ユナイトをすることで皇子は数々の冒険をしてきたわけですから、そのユナイトが早死にの原因なのですね」「その通りです。魔力融合をする度にナイトは徐々にやつれていきました。理由は簡単で魔力を変換する際に必ずロスが生じていたからです。ユナイトという現象はあなたも知っての通り長時間、1日ずっとユナイト状態ということはできません」「確か、セーブがかかって勝手に解除になるんでしたっけ?」「そうです。そのままだとユナイト側は魔力過剰となって死にますし、魔力融合側は完全に戻ることができずにほぼ死んでしまいます」「そのロスはそのまま彼の肉体の魔力の減少、体力の減退として現れていきました。わずか数年で彼はほぼ寝たきり状態になり、そのまま亡くなりました」「え!それじゃ、今の勇者様達も同じことになるんじゃ……」「彼らは大丈夫です。最初の状態こそユナイトでそうなるリスクはあったでしょうが、前回の限界突破の試練や完全ユナイト習得の時にリスクはほぼ無くなってますから」「そうなんですね。でその後はどうなったのです?」「皇子から王様になったわけですが、彼はその数年後に亡くなりました。公式には病死とされていますがユナイトの使い過ぎが原因だと思っています。それで父親である王様は他の皇子達にもユナイトをさせようとしました。単純に国の力の誇示というのがしたかったのでしょうが、いずれもうまく行かず、次々と息子達を亡くす結果となりました。そこで王も病気になり亡くなった後、次の王様となった末っ子の皇子がユナイトの禁止命令を出しました。しかしこの命令でユナイト前提で作っていた魔道具の作成、修理などができなくなったので魔法技術が失われていきました。それだけではありません。ユナイトをしないことで冒険者が死ぬことも増えました。それによって冒険者を目指す者が減っていくことになり、魔法の実践使用者がどんどん減っていくことになりました。やはり実践をしなければ魔法をどれだけ磨いたところで実際に使えるかどうかは二の次になりますから、実践向きではない派手な魔法ばかりが優先されることになったのです」「しかし我々はそれに従わなかった、と」「そうです。我々絆の一族はユナイトを研究することを諦めませんでした。その結果、とあることが分かったのです」「それはなんですか?」「我々はユナイトがほぼリスクなく行うことができる。そしてそれは私の存在が密接に関わっているというわけです」「確かに女神様を中心に我々は活動をしていますが、それがユナイトとどう関係してくるのですか?」「関係大有りなのです。私の血が濃ければ濃いほどリスクが低くなっていく、ということが研究で明らかになったのです」「じゃあ、絆の一族というのは……」「そう、私の子供か孫以外はほぼいません。貴女も勿論例外ではありません。私の周りの男性はたとえ子供でも抱きましたからね。そもそも子供の数が多すぎて私は把握し切れません」「アフロディーテ様……自身の子供でも性的対象になるんですか?」フィスはドン引きしていた。「私は性と愛の女神。男性なら問題ありません。そもそもきちんと愛しているからこそ、子供達の感情も受け止めるのです」「そう言えば女神様って数ヶ月前も妊娠して出産していましたよね。まさか今も……」「そうです。またお腹にいますよ」「思いきり近親相姦じゃないですか。私達はなぜ普通に生きているのですか?これだけ近親相姦をしていれば奇形児や障害を持った人が産まれてもおかしくないですよね?」「それは私が腐っても神だからです。劣勢遺伝といったリスクも私が産むぶんにはまず問題ありません」「あ……じゃあ絆の一族の女性が基本的に外部に嫁がされる理由って、そういうことなんですか?」「そうです。血が近すぎますからね。記憶の封印もユナイト禁止の法令が現在は解除されたので今はないですが、ユナイト禁止の間は記憶を封印して看破魔法によるユナイトの制限に引っ掛からないようにしているわけだったのです」看破魔法は記憶から関連する記憶を持っていた場合、それが分かってしまう魔法だった。結婚する際には確定でそれが行われるので絆の一族はそれを回避するために封印することで対抗したのだ。結婚した後、母親がやってきて封印を解除することで記憶を継承するというわけだ。ちなみに絆の一族は危険なユナイトを研究し続ける人達というわけで国から監視の対象になっていたというわけだ。ただアフロディーテや後述するある者達が全力で彼らを守っていたため逮捕できず、監視するのみであったが。「話がすごくずれましたが、どうして女神様の血がユナイトに関係あるのでしょうか?」「私の血は魔力変換しやすく、ロスも少ないんですよ。ほら、こんな感じで」アフロディーテは一瞬で煙になってみせた。「女神様!?大丈夫ですか?」「はい、この通り元通りになるのは簡単です」すぐに女神はその姿を現した。「本当に魔物みたいな芸当ができるんですね」「まぁ、ユナイトをする上でこれは必須ですからね」「つまりユナイトを効率よく使えるのが我々で、そのために女神様は犠牲になってきたと……」「いいえ。私は先ほども言った通り男性なら誰でも受け入れます。そもそも私の性欲はかなり強いですから、受け止めても欲しいのです」「じゃあ女神様の行いがたまたまユナイトと関係していただけと?」「そうです」「……」フィスは黙ってしまった。「ユナイトの研究を進める中で生まれたのが限界突破という概念です。通常の人間では魔力の拡張には限界がありました。そこでユナイトしていないときでもある程度の力を引き出すために考え出されたのが限界突破です」「それはドラゴンの鱗が媒体なんですよね。どうしてその結論にたどり着いたんですか?」「それを語るには私と竜の隠れ里についての関係に触れなければなりませんね」「では是非教えてください」「分かりました」
「私がこの地に根付いた話はしましたよね?」「ええ、自分の子供でも関係なく男性達と関係を持ったという話は聞きました」「でも私にだって旅をしていた時期があったのです。そうですね、あの大きな戦争の後でしたね」「あの時復興がどうとか言っていませんでした?」「ええ。それが一段落した時、息子のエロスが様子を見に来たのです」「最初に出てきた天使の息子さんですね」「エロスはこの戦争の影響を確認しに来ていました。建物が破壊されているのを見て、エロスは私にある提案をしてきました」「それが旅だった、というわけですね」「そうです。その理由ですが、ドラゴンの里との繋がりを持っておくといいと言われたからです」「どうしてそこでその話が出てくるのです?突然過ぎませんか?」「エロスはどうやら天使族の集落を形成しつつ、ドラゴン達と接触を図っていたようです。ただ、一つ懸念点がクリアできないようでした」「それはなんですか?」「エロスは単純に集落に入れなかったのです。結界があって入ることができていなかったので、私の力を借りようとしていたわけです」「エロスさんって天使ですよね。飛んで向かったのですか?」「そうですよ。ただ直接は飛べなかったので迂回して飛ぶことになりましたが」「それで、その結界はどう解除したのです?」「その結界は結界アリという蟻が生成したものでした。それを氷魔法でまるごと氷漬けにして蟻を倒し、結界を解除しました。当然ドラゴン達は警戒体勢に入りました。そこでエロスは族長に会いたいと言ったのです」「でもそれって」「そうです。ドラゴン達は当然拒否しました。しかし私がとある提案をしたことで態度が一変します」「まさか」「族長に会わせてくれるなら私があなた達の子を産みます、とね」「ですよね……」「当時の集落というのは数名のドラゴンしかいませんでしたから、そういう問題は切実だったでしょう」「でもそこまでして会ったりするメリットってなんだったのですか?」「竜の素材を手に入れるためです。あなたもドラゴンの素材が貴重なことは知っているでしょう?」「ええ。でもわざわざそこまでして手に入れるべき物だったのですか?」「ドラゴンの素材は爪、牙、鱗などがありますが、彼らにとっては身体の一部でなおかつ生え変わる物です。彼らにとっては食糧にならないのでゴミ同然ですが、我々からすれば売ってよし、魔道具として使ってよし、武器として使うもよしという3つ以上の用途がある物なんですよ」「じゃあ食糧と引き換えにその素材を交換するということで契約が成立したんですか?」「おや?先読みがすごいですね」「ああ言っていましたからそうだろうと推測したんです」「そうですね。子供を残せるということが彼らにとって非常に重要だったようで、食糧はそこそこに私がドラゴン達の子を産むことで素材を国に流してもらうことになったのです。ドラゴン達が時折素材を運んでもらうことになったついでに食糧を持っていってもらうのです」「それでどうやってその集落から脱出したんですか?」「脱出も何も、数年後にその素材を運ぶついでに帰国することができました。勿論、子供を産むという責務は果たしましたよ」「そうやって素材を確保した結果、どうなったのです?」「ユナイトをしてから色々と試行錯誤をしました。失敗も当然ありましたから、犠牲になった人々には大変申し訳ないと思っています」「そうですよね……失敗はほぼ死亡と同義ですもんね」「それでもこのユナイトという現象を研究することを我々は諦めませんでした。あっさり諦めた国に対して我々が諦めたらこの高い技術が失われてしまいますから」「そこまでしてもユナイトという現象を諦めない理由とはなんだったのですか?」「それは、とある人達の誕生にありました。研究初期に偶然誕生し、研究の結果選択的に作ることができるようになった人達がいたのです」「それは一体なんですか?」「獣人です。ユナイトの研究をし続けた最大の理由が彼らを調べるためでもあったのですよ」「!!我々が彼らを生んでいたとは知りませんでした」「その誕生のきっかけは単純な物でした。ユナイトをしたときに動物の毛が混じったときに身体に影響を与えることが分かりました。だから動物とユナイトをするということが実験的に行われたのです」「でもユナイトなら解除でなんとかなるのでは?」「これは予想外というか、我々の失敗でもあったのですが、身体などが合体前とあまりにも違う場合は元に戻れなくなるようです」「それで、生まれた彼らはどうなったのです?」「せっかく誕生した命ですから、普通の人間との比較実験を色々と行いました。ただ、ユナイトし続ける状態なので、前の話と同様にオリジナルの獣人達は数年で亡くなりました」「じゃあ今ナーチという国にいる獣人達は……」「オリジナルが絆の一族の女性達との間に遺した子供達の子孫達です。彼らも我々が生んでしまった物なので、責任を取って色々と調べることになりました。しかし彼らの大部分は閉鎖的な生活を嫌いミガク王国の我々の手の届かないところに行ってしまいました」「つまりその結果、国で奴隷になったのですか?」
「そうです。そして百年前の戦争のどさくさに紛れ、彼らは脱出して別の国を目指したようです」「それがあの国なんですね」「待って下さい。大部分と言いましたよね。もしかして」「そうです。一部は我々の元に残って生活しています」「でも我々絆の一族でもそんなことは知りませんでしたよ?」「それもそうでしょう。彼らはこの洞窟に住んでもらってますから」「もしかして女神様のお世話ということですか?」「それもありますが、とんでもない能力を秘めた我々の切り札です」「じゃあ、出てきて下さい」「え!?」そこにいたのは猫の獣人だった。と言っても驚いたのはそこではない。「これって……」「そうです。トーイさん達の切り札、化け猫フォルムです。これを完全に再現した獣人さんなんですよ。尤も全力を出すまでは普通の獣人さんと同じですので早期で死んでしまう可能性は低いです」「どうやって再現したんですか?まさか非人道的な実験か何かで……」「違いますから話を聞いて下さい。彼はエキドナのブレスレットに記録された生体情報を元に再現された獣人さんなのです」「あの勇者様のブレスレット、そんな機能もあったんですね」「むしろエキドナにとってはこちらの情報がメインです。その情報を元に獣人の母親に頼んでその生体情報が入った受精卵を着床させて妊娠させて産まれたのがこの子です」「なんか倫理的には危ない気がしますが」「それで驚くのはまだ早いですよ?」「え!?」奥から現れた二人の獣人。やはりどこかで見たことがあるような出で立ちだ。「これってまさか……」「そうです。強化ユナイトの姿、影の女王と魔法剣士のフォルムになります。さすがに獣人ではないので魔竜女王は再現はできませんでしたが、これは非常時に必ず真価を発揮してくれるでしょう」「待って下さい!勇者様が強化ユナイトの試練を受けたのって1ヶ月程度前の話ですよね!?それでこんな成長なんて普通はあり得ません!」確かに受精卵から妊娠出産、そして成長と考えればまず間違いなく時間が足りない。「ああ、少し説明がずれましたね。最初のあれは化け猫フォルムが顕現してからすでに準備をしていました。そして我々絆の一族は魔法が使えますから、成長速度を変えることは造作もありません」「それってでも明らかに問題じゃないですか!いくら魔法でもやっていいことと悪いこと位ありますよね!?」「仕方ないのです」「何が仕方ないのですか!?」「彼らに全て任せた結果彼らが復活もできずに強大な敵に倒されたとき、我々はどうすればいいのですか?」「そ、それは……」確かにクローンの問題はあるが現実問題として上記の問題があったとしたらそれをすることを止められるだろうか?「そもそも、これ見た目だけの再現なんじゃないですか?これで彼らと同等なんていくらなんでも……」「これを見てもまだその言葉を言っていられますか?」アフロディーテは異空間から何かを取り出した。「これは一体何ですか?」「これは魔力鋼という魔力を帯びた鉄で、普通の武器では傷一つつけることはできません」それは魔力鋼という鉄の塊だった。「では、お願いします」剣を持つ二人の獣人が時間差で斜めに交差するように斬りつけた。その塊には見事に交差するバツのマークがくっきりと残った。「今のって、まさか本当に勇者様の武器なんですか?」「いいえ。さすがに勇者達のほうが性能は上です。しかし、ドラゴンの素材をこの魔力鋼と合わせることで圧倒的な切れ味を出すことができます」「なるほど……しかし本当にここまで用意する必要はあったのですか?勇者様は平和の脅威となり得る兵器を破壊したのですよね!?」「いいえ。まだ終わっていません。真の黒幕は邪神ハデスです。今はまだ封印されていますが近いうちに必ず復活します」「それも勇者様が倒せば……」「そうも言っていられないでしょう。分身ができる彼らですが分身の戦闘力はあくまでも雑魚の戦闘ができる程度。邪神の手下達は暗黒卿の影の化物達よりおそらく強いでしょうから、我々も対抗できる戦力は必要です」「確かにそれほどの敵なら彼らは役に立ちますね……ところで彼らに名前はないんですか?」「いえ。ちゃんとありますよ。化け猫フォルムの男性はキャラント。魔法剣士の男性はソーミ、影の女王フォルムの女性はドーサです。もちろん模倣は剣技だけじゃありませんよ」ドーサが影に潜み、ソーミが魔法を発動する。「すごいですね。ここまで近くできるなんて」「ユナイトで話をしてきましたが聖剣についてお話をしましょうか」「次期女王様が持っている剣のことですね」「そうです。あの剣も我々の一族の職人が作ったんです。ドラゴンの素材を入れ、ユナイトをすることを前提とした剣になっています」「それはどういうことですか!?」「あの剣を持った状態で別の剣を持った人とユナイトをした場合、この剣は別の剣とユナイトしてさらに威力が上がるのです」「そういう仕様なんですか!?どうやってそんな剣を作ったのですか?」「それを今からお話していきましょう」アフロディーテはフィスに聖剣の歴史を語り始めた。
「聖剣を作るきっかけですが、既存の武器の限界が訪れたからです」「一体どういうことですか!?」「当時は勇者達のようにモンスター武器という概念がない時代でした。ただ鉄で作った剣や槍では使っていれば破損しますし、一部の魔物に対して全く効果がない、というのが大問題でした」「金属でできた魔物、電気を帯びた魔物だったり影の魔物達ですね!?」「そうです。そういう敵が近くにいなければ考える必要もないのですが、周辺のダンジョンに現れるようになったために考慮する必要が出てきたのです」「王国近くの雷の森ですね……」雷の森は本編でも登場したミガク王国の近くにある森なのだが、当然雷の魔物が大量に登場する。そこの魔物が町に攻め込めば、ミガク王国が崩壊する恐れもある。「そうです。そこで対抗するために雷の対策を考えました。普通に作ってもたとえドラゴンの素材を使ったとしても感電は防げません。だから付与効果のある武器を作る必要がありました。勇者達、例えばトーイくんなら切れ味が増加する付与効果が剣についてますし、ピレンクくんなら槍には様々な付与効果がついています」「つまり雷を通さない絶縁武器が必要なんですね」「そうです。素材が鉄である以上、武器の付与効果で基本的に防ぐ必要があります。そこで我々が研究を重ねて色々作って試行錯誤した結果、生まれたのが聖剣です」「そうなんですね。シエム様のエピソードは私も聞いてますけど、魔法で封印された彼女のお父上の家にありましたよね。どうしてですか?」「彼女の父、リンキはかつての勇者パーティーの一員だったからです。だからこそ私が彼に託したのです」「そう言えばどうしてシエム様が次期女王になったのですか?もしかしてお父様が関係しているのですか?」「そうです。彼は勇者の一員として国民に人気がありましたが、実は王位継承権を持つ第二皇子でした。ジーマ皇子が優先された理由は我々の一族と関係しています」「リンキ様が絆の一族の出身だったというわけですね」「正確には彼の母が妾として王様と秘密裏に産んだ子供ですね。我々の元で彼は育ちましたが、王族ということを彼は殆ど意識せずに行動していました」「それであの悲惨な事件のせいで……」「そうです。私が気付いた時には城は手遅れの状態でした。シーム皇子は勇者達に助けられたものの左手と左足を失う大怪我を負い、一時期彼らに匿われていました。彼はその状態ゆえにあっさりと王位継承権を破棄したのでシエムさんが女王となることになったわけです」「他にも皇子や皇女もいましたが、助かったのは彼だけだったんですね……」「そうです。魔法があり軍事力も優れた我々が出てくるのを恐れたのか、フーダス王国の忘却魔法が切れたときにすぐに出れるようにしていたのかは未だにわかりませんね」「影の魔物達は我々に復讐がしたかったのですかね!?」「勇者達のフーダス帝国の解放さえ、暗黒卿の想定の範囲内だったのかもしれません」「かなり話が逸れましたけど、聖剣って雷の絶縁以外にどんな効果があるんです?」「当時からフーダス王国という存在と影の魔物、シャドーコープスという存在も我々絆の一族は知っていました。それに対抗できるように時空を斬る力を持っていて、影を普通に斬ってダメージがしっかり入るようにしているのです」「確かにそれなら聖剣と言えそうですね。まだ気になる部分があるのですが」「なんですか?」「ミガク王国民と我々、女神様との血縁関係の近さ以外の違いはあるのですか?」「ええ、ちゃんとありますよ。次はそこをお話しましょうか」
「女神様、聞いている限りのイメージが聞く前と全然違うのですがどちらも同じ女神様なんですよね!?」フィスが本題に入る前にこう聞いた。「そもそもどんなイメージを持っていたのですか?」「いや、ほら慈愛に溢れ我々に様々な施しを与えてくれる女神様で、我々は生きていても近寄り難いというか……」「そんなことはないですよ。不老不死で普通の人間とは違いますが、普通に恋愛もしますし交尾もしますししっかり喜怒哀楽もあります」「なんか生々しいものが入っていましたが今更気になりませんよ……さて、絆の一族と言われるようになった理由が知りたいですね」「禁止されているユナイトを主に研究し、獣人などの改良なども行ってきました。だいぶ国のほうから危険視されているのは分かっていました。ユナイトを絆と呼び変え、血縁故に一族と名乗るようになったわけですね」「名乗ったとして別の呼び名で呼ばれていたんじゃないんですか?蔑称とは言い難いですよね?」「そうですが、少なくとも我々以外もそう呼んでいる人達はいましたからね。そのおかげでこの呼び名は定着しました」「その人達って誰です?」「武器、魔道具職人達ですよ」「なるほど」「……すいません。なるほど、急用ができました」「お供します」「護衛ですもんね。よろしくお願いします」フィスの仕事は女神アフロディーテの護衛だった。彼女が勇者達の旅にふらふら護衛も付けずに出ていったので、慌てて一族は彼女の護衛をつけた。今までの話は彼女達が護衛としての仕事を全うしながらの雑談でもあったのだ。彼女の装備は白く薄い鎧だった。軽いながらも魔法攻撃のダメージを軽減し、半端な武器の攻撃を弾く堅さを持ち合わせるという一族の技術が詰め込まれた防具だった。それでいて彼女の剣術の腕も高く、魔法技術も高いので一対一、一対多の戦闘でも対応できる力があり、護衛としての能力がしっかりある。「さて、やはりここですか」「どういうことですか?」「この国は以前から人間と獣人の間で問題を抱えていました。そこで定期的に私が監視してトラブルがないかを見ているわけです」「なるほど。で今このトラブルというわけですね」二人が見つめる先で、武器を持った獣人達が人間が暮らす集落に押し掛け今にも戦闘になろうとしている。「ではこうしましょう」「何してるんですか!?」アフロディーテは突然魔法で服を脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿になった。性と愛の女神である彼女は美人なのはもちろん、男を惹き付ける身体を持っている。獣人達は全員男なので、一気に彼女に目線が集まり、集結してきた。護衛であるフィスは当然女神を守ろうとするが、集まってきた獣人達の様子がおかしい。「え!?」武器も防具も捨て、獣人達もまた裸になっていく。フィスが一人ずつ拘束魔法で取り押さえる余裕がある位、敵は隙だらけである。「一体何をしたのですか?女神様」「これは私の能力です。裸の時この能力の最大効率なので服を脱ぐ必要があるんですけどね」「と、とりあえず服を着てくださいー!」「分かりましたよ」魔法で一瞬で服を着るアフロディーテ。「女神様だったのですね、助かりました」人間の男性達が声をかけてきた。「いいですよ。私はただ後始末をしに来ただけです」「しかし、あなたの裸を見た男どもが集まってきているのですが」「そうですか、では」何か彼女が魔法をかけると一瞬で蜘蛛の子を散らすように彼らは去っていく。「さっきから思ってましたけど、何をしたのですか?」「これは私の能力、相手の性欲を自在に操る力です。仮にも女神なのでこの程度の力はありますよ」「すごいですね。さてこの人達はどうします?」拘束して地面に転んだ裸の獣人達を見る一行。「そうですね……事情を聞かせてもらいましょうか、強制的に」アフロディーテが魔法を使うとあっさりと口を開く獣人達。どうやら人間と獣人と融和の流れが気に入らないらしく、人間達を殺そうとしていたようだ。「我々の国は獣人だけの国である必要があるのだ。この国に人間など邪魔でしかない」「全く……これは考えの矯正が必要ですね」アフロディーテは再び魔法を彼らにかけた。「何をしたのですか?」「私に逆らえないようにしました。全員私に惚れている状態に強制的にしましたから、私の言うことは基本的に何でも聞きます」「女神様、敵対する相手には容赦ないですね……」彼らは武器と防具を改めて着けた後、襲う側から人間達を獣人から守る兵士にジョブチェンジすることになった。「ありがとうございます女神様。これでしばらくは安心できます」「定期的に見守らせてもらいますね」「大変助かります。よろしくお願いします」こうしてアフロディーテとフィスは無事仕事を終え転移していった。
翌日。「今日も出掛けます。ついて来て下さい」アフロディーテが突然こう切り出してきた。「護衛ですから当然行きますが……彼らも行くんですね」そこにいたのは先ほど紹介した能力の高い獣人達3名。「そうですね。彼らの力を見たいと言っている人がいますからね」「なるほど」「それでは行きますよ」アフロディーテは転移した。その着いた場所は……「お、君達だね。会いたかったよ」魔王城だった。待ち構えていたのはエキドナである。彼女は本編でも何度も主人公である勇者達をサポートしてきた半人半蛇の重要人物である。「相変わらず隠していたのにどこから情報を掴んでくるのやら……」「私を舐めないで欲しいね。大体どこにでも部隊を投下して情報収集をしているんだ。昨日のやり取りもバッチリ聞いていたから、いても経ってもいられなくてね」「そういうところはいつも強かですね、あなたは」「そんなあんたこそ、ただでここまで来たわけではなさそうじゃないか。どっちがとんだ食わせ者なんだか……」「あ、あの!この方は誰なんですか!」話の流れについて来れないフィスが慌てて質問をする。ちなみに獣人達は無言を貫いている。「自己紹介が遅れたね。私はエキドナだよ。見ての通りラミアだ」「私はフィスです。アフロディーテ様の護衛をさせてもらってます」「あら、そうなんだ。で、さっきから無口な君達の紹介が聞きたいんだけども」「キャラントと言います」「ソーミです」「ドーサです」「コミュニケーションは苦手そうだね」「生まれてまだ1ヶ月で、教育がまだ十分ではないんです」「そりゃきついね。とりあえず君達の戦闘技術を見せてもらおう。どう見てもそういう目的で産み出された子達みたいだしね」「そうです」「ここでは狭いから移動するよ」エキドナは自室から闘技場に全員を転移させた。そこには3体の魔物が待機していた。「あの魔物達ってこっちを襲ってこないんですか?」フィスが疑問に思ったことを口にした。「あれはエキドナさんが準備した魔物ですから、まずこっちを襲うことはないですよ」「そうなんですね」「じゃあ、早速始めちゃおうか。キャラントくんだけ戦闘エリアに入って」キャラントがエリアに入ると、それに応じて一体の魔物が入ってきた。「そのフォルムは物理攻撃一辺倒だったはず。それを使ってこの魔物をどう倒すか見せてもらおう」エキドナがそう紹介した魔物はサンダーモウ。雷の森のボスであり、本編ではトーイ達のせいであっさり出番もなくモンスター防具になっちゃった可哀想なボスである。雷の魔物故、体表面は電気が放電されており、近距離の攻撃では雷の反撃を受けてしまう。「どうしましょう!?あれだと簡単に負けちゃいませんか?」「どんな相手でも戦えるように調整しています。見ていてください」「戦闘開始」エキドナのその掛け声を受けて早速サンダーモウは突進を始めた。その突進をあっさりとかわし、背後をとって爪で切り裂いた。敵の身体から血が出ているものの、突進を止める気配もない上、キャラントは「ほらやっぱり痺れているじゃないですか……」痺れて動けなくなってしまい、もろに突進を食らってしまう。「見てられないですよ、止めないと!」フィスが戦闘を続行させるエキドナを止めようとするが、アフロディーテが止める。「この程度で戦闘不能になるほど彼は柔じゃないです」突進と反撃の電撃を受けながらもキャラントは立ち上がった。ちなみに戦闘エリアは結界で区切られており、観戦している二人がいる結界の外には攻撃の影響は出ないようになっている。その結界にぶつかったサンダーモウにさっきできた傷にさらに追撃を入れて勝利した。「やるねぇ」「すぐ治しますね」アフロディーテはボロボロになったキャラントに治癒魔法をかけた。戦闘を終えて一旦片付けた後、次の戦いに移った。「ソーミくん、次頼むよ」「君も魔法は使えるみたいだけど、この相手にはどうやって対処するのかな。入ってきて」その言葉に反応し、待機していた魔物の一体が戦闘エリアに入場する。その魔物は炎に覆われた鳥、ファイアーフェニックスである。「またやばい敵が相手ですが、勝てるんですかね?」「そうですね……ここは任せるしかありません」こちらも火山でトーイ達と戦ったボスである。「戦闘開始」その合図と共にフェニックスは炎魔法を飛ばす。ソーミはしっかりとかわし、懐に飛び込もうとする。しかし接近させないように熱風を送り、そのためソーミは接近できない。「さすがに接近は無理ですね……でも」ソーミは氷や水魔法を発動させるのだが、すべて蒸発させて攻撃を無効にする。「そんな!どうやって攻撃を当てるんですか!?」「ですから、あの剣は「元の剣をできる限り再現している」ので問題ありませんよ」「どういうことです!?あんな身体斬ったら熱が直に伝わって大火傷間違いなしですよ!?」「まぁ、見ててください」そうアフロディーテが返したその時、熱風をものともせず、飛んでいるファイアーフェニックスに向かってジャンプし、斬りつけようとする。「でもあれじゃ届かないのでは?」「魔法剣士はそれくらい解決できますよ」ソーミは水魔法を地面に向かって噴射。勢いをつけてさらに上に飛ぶ。口を開けて炎魔法で迎撃しようとするファイアーフェニックスと一撃で勝負を決めたいソーミの勝負はこうなると一瞬だった。「勝ったんですね」「ええ、あの剣には再生阻害の効果がついていますから、お得意の再生もすぐにはできませんからね。これで勝負ありです」炎を吐く前にソーミが素早く切り裂き、敵は地面に伏すことになった。「それにしても、斬った彼があまり火傷していないんですが、それが剣の効果なんですか?」「そうです。もともとの剣はクラーケン由来の剣で水の剣と呼ばれるもので使用者に熱を伝えない仕様になっています。さらに色々効果がついているのですがここでは割愛しますね」「だからソーミくんは切り込みに行けたんですね」「さすがだねぇ。ここまで再現されていたらお手上げだ。でも、次はどうかな?」ドーサがエリアに入場し、それに合わせて敵の魔物も入場する。「あれは……ユニコーン?」「そうです。我々の住む近くの霧の森にいる、ミストユニコーンです」「説明ありがとう。さて、霧を使う相手をどうやって突破するのか見せてもらおう」戦闘が開始するとユニコーンは早速霧を発生させ、突進を繰り返す作戦に出た。「あんなのどこから攻撃が来るかわからないじゃないですか!?」「エキドナもあえて分かってこの順番で出しているんです。だから突破方法もちゃんとありますし、ドーサさんも分かっていると思います」「どういうことです!?」「これはこっちの性能を試すための戦闘です。だから勝つことが前提なんですよ。その上で強い魔物で限界を引き出すことが狙いでしょう」「よくわかったね」「あなたの性格はよく知ってますから」「さて、お話はこれまでだ。動きがあったみたいだよ」ドーサは能力を使い、影に潜む。ユニコーンが動きを止め、ドーサを探すが影に潜んだ敵は発見できない。そして止まった敵に攻撃をしっかり当てる。「これなら勝てますね」「いいえ、ここまで甘く勝てる相手じゃありません」ユニコーンが咆哮を上げると、光がエリアを包む。この光でドーサが強制的に影から退出させられた。「本当だ。確かにこれだと苦戦することは確実ですね」「そうでもありません」「え?」影から引き釣り出したことでユニコーンは再び突進を開始する。相変わらず霧が発生しているため、観客席からは普通は見えない。それでもちゃんと戦況が見えているのは魔法で霧なしの状態で見えるようにエキドナが細工しているのである。さて、戦闘はドーサが突進をかわしつつ、何とか攻撃を当てようとしていた。ドーサは光のせいで全く影が展開できない状態だが、勝機を見いだしていた。「!?」「これは行けます」なんとユニコーンに飛び乗ったのである。突進しているユニコーンに飛び乗るなど相当な身体能力がないと不可能だが、獣人でありユナイト状態を再現しているだけあり、1人1人のポテンシャルは規格外であるため、このような芸当も可能だったのだ。「いや、これはもうドーサさんの勝ちだよ、戦意喪失している」エキドナが戦闘終了を宣言した。背中に乗ってしまえば攻撃し放題なので仕方ないところはあるのだが。「さて、これで君達の力は全部見せてもらったね。予想以上だったよ」エキドナがこう言った。「じゃあ、私の言うことを聞いてくれるんですね」「……どういうことです?」「この勝負に勝ったら彼らの装備を作ってもらう約束をしていたんです」「全く……でも彼らに頼るだけなんてこっちもごめんだからいいんだけど」「ところで」「なんだい?」「手下を使って聞いていたってことは昔話を聞いていたんですね?」「そうだけど?」「あれあんまり話したくなかったのに聞かれていたなんて……こうなったらあなたにも話してもらいますよ」「分かったよ。聞いている中で自分もどうやって生まれたのかとか色々考えたからね。とりあえずここは話には向かないから一旦転移するよ」エキドナとアフロディーテは自室に転移するが、戦闘した3人は別室に転移したらしい。「治療ついでに魔族達に装備を見繕ってもらうから、それまで過去話で時間を繋ぐよ」「了解しました」こうしてエキドナは過去を語りだした。
エキドナは本編でも少し語ったが、メデューサの遺伝子を取り出して創られた存在として誕生した。ヘラの思惑によって転生者と合体させられ生まれた魔王ハデスは、魔物や魔族の軍団を魔力によって作っていった。その途中で生まれたのが本編で戦った魔王の息子と呼ばれた劣化コピーである。しかし、ただ魔王の魔力で作った魔物や魔族には共通した欠点があった。それは短命なことだった。純粋な魔力だけでは身体がすぐに崩壊して魔力が外に漏れ出てしまい、魔王の元に戻ってしまう。その状態を何とかするため、産み出された存在。それがエキドナだった。「私は生まれた時、こう言われたんだ。自分を維持するための軍団を作って欲しいと」そして生み出したばかりのエキドナと魔王は交わった。「当時は愛情も何もなかったよ。とりあえず機械のようにやってたね」「魔力で生まれてきた魔物達とあなたが生んだ魔物達って全然違うんですか?」「ああ。少なくとも生物として生まれてくるだけで全然違う。前者は数日持てばいいほうだけど後者は魔力があれば人間以上の寿命がある」「確かに全然違いますね」「それで沢山産んできたけど、徐々に遺伝子を組み込んで魔力を使って産み出す方法を編み出したんだ。これならお腹を痛めずに沢山作れるようになる。尤も、色々な動物の遺伝子が必要だったから魔王から色々もらってようやくできるようになったけど」「その方法ってちゃんと産んだ子供達と何かが変わるんですか?」「もちろん寿命はほぼ同じなんだけど、強さは当然普通に産んだ魔物や魔族達のほうが強いよ。うちの幹部達は私の実子達で固められているんだ」「もしかしてですけど」「なんだい?」「魔王の息子達による反乱はそれが原因なんじゃないでしょうか?」アフロディーテがこう質問した。「それはあるだろうね。戦うまでもなく実力が上で実力主義と言いつつ実態は血統主義だからそれに反発した可能性は高いね」「だから改造人間や魔族が彼らには多かったんですね」「自分達がそのままでは弱いのは分かっていたからだろうね。そうなれば実力主義のこの国で勝ち抜くには別の方法を使うしかない」「よく分からないんですけど、魔王の息子って一体なんのことを話しているのですか?」フィスが話についていけず質問した。「あら、あの記者会見は見ていないのですか?」「??」「トーイさん達勇者が任命されたのはこの魔王の息子の討伐が最初のきっかけでした。簡単に言うと魔王が人間達の侵攻に備えたとき、魔王が作り出したのが彼でした。しかし魔王の持つ人間を攻めることができない、という感情が抜け落ちた状態で産まれたため、勝手に軍勢を作って人間達に負け、最後に復活したものの、止めを刺したのが勇者達です」「つまり!?」「魔王は人間に対して攻めたりしません。一番の実力者だから言うことを聞かざるを得ませんが、そういうのが無くなれば」「なるほど、勝手に攻めると言った理由がわかりました」「まぁ、初めてなら難しい話だよね。で話に戻るけど、私はそういうことはしていたけど、愛情なんてものは全くなかった」「なるほど、あの人がきっかけなんですね」「そうだよ。ペルネと言う女が突然この魔王城にやって来たんだ。そして魔王に子供が欲しいとせがんだ。わけが分からないから当初は魔王も断ってたけど……」「もしかして、嫉妬がきっかけなんですか?」フィスがここで割り込んできた。「そうだよ。あいつが妊娠したのを見てこのままポジションを取られてしまうのではないか、と危惧したからね。ま、結局は杞憂だったんだけど」「それでちゃんと愛情を持って今ではラブラブなんですね」「まぁね。あんまり恥ずかしいけどこんな話だ」「お、そろそろ終わったんですか?」「みたいだよ」そして転移してきた三人はそれぞれ装備を新調していた。「キャラントくんの装備は雷を防ぐサンダーモウの素材を使った籠手と鎧だよ。外部からの温度変化を防ぐ効果もつけてあるから炎や氷の敵に対しても強く出れる」「完璧ですね」「次だ。ソーミくんの装備はファイアーフェニックスの素材を使った鎧だ。温度変化を防ぐのはもちろんだけど、炎魔法を発動した時に更に高威力になる仕様になってるよ」「戦った相手が素材になってますね」「最後にドーサちゃんの装備だけど、ミストユニコーンの素材で作ったペンダントだよ。これがあれば霧をいつでも発動できるから影と合わせて確実に相手を困惑させることができるよ」「面白いですね」「手下達に色々見張らせているけど、邪神の復活はもうすぐだ。こっちも戦力を集めるから、そっちも頑張って欲しい」「そうですね。頑張ります」こうして目的を終えた五人は魔王城から帰還した。
「今聞いた通り、邪神の復活はもうすぐです。皆さんの力が必要なんです。協力お願いします」「「「分かりました」」」無口な三人が口を揃えてこう返事した。「女神様、私も戦う準備はできています」「ありがとうございます、フィスさん。しかしこのあとの事態は全く予想ができません。あなたにもこれを用意しました」アフロディーテが渡したのは剣だった。「これは?」「魔法剣です。エレメントを装備できるようにした剣なので魔法を通常より高威力で放て、更に剣としてもしっかり使用できます」「ありがとうございます」「さて、明日にでも戦闘になるかもしれないので早く帰ったほうがいいですよ」「女神様。もう少しお話がしたいです」「仕方ないですね」アフロディーテは残りの500年について話していった。獣人達の誕生と聖剣が創られた経緯は前話したので割愛するが、アフロディーテはこの間に軍隊とも呼べる私設の部隊を形成していった。この部隊はミガク王国に危険人物とみなされてから作ったもので、500年の間にかなり洗練されていくこととなった。フィスはその中でもエリートクラスの実力者であった。「なるほど、私はそうやって選ばれたんですね」「そうです。学問や研究も進めて行きましたが、結局は魔物や対魔族を考えていく必要がありました。エキドナに出会ったのは魔王の息子が勝手に魔族達を人間達に向けて侵攻した時です」「ああ、魔王城が攻めている主体だと当然考えますもんね」「そうです。我々の部隊や軍隊で魔王軍は敗れました。その処理をするため、私は魔王城に乗り込みました」「そのときエキドナさんはどんな反応をしたんです?」「向こうは不機嫌でしたよ。あくまでも無関係ということを貫いてました。そこで色々話した結果、他に原因がいることが分かって、その原因を勇者レフが倒したことで誤解が解けたので仲良くなれました」「あそこまで知り合っているってことはそれなりにやり取りしているのですか?」「ええ。勇者達が魔王の息子を倒してから頻繁にやり取りするようになりましたね。とりあえずもう夜ですし、明日に備えてください」「では、また明日」そして予想通り翌日、邪神の手下達が全面的に攻めてくるのだが、それはまた別のお話。(終)
前回同様打ち切りっぽくなりましたが、前回とは異なるのは現実世界では数日間のみを描いているので深堀というか延長も難しいので仕方ない部分はあります。だらだらと続けても文字数稼ぎにしかならないので難しいところではあります。