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7.「抜け駆け」

「誰か一緒に街巡りしましょー!」


 扉を開けるとお姉さまと純真が掴み合ってる。


「また喧嘩ですか。今日は何があったんです?」


 雫を見ると顔を逸らされた。なんで?


「私は悪くないぞ! いつでも牛乳が飲みたいから牛の睾丸でも食ってこいと言ったらこいつが突然切れてな!」

「お姉さまが悪いですかね」

「なんだ! 少年も飲みたいだろ!」


 ちょっとレベル高くない? 純真がぎぎぎとこちらを向く。


「……飲み……たい、の?」

「……俺はダメだと思うよ」

「お前今一瞬考えただろ」


 小休止。


「誰か一緒に街行きませんかー? 一人でもいいですけど」


 お姉さまがおずおずと言う。


「……私は君の背に乗るのか」

「自分で歩かないなら、まぁ」

「じゃあ……行かない」


 頬が少し赤い。靴といい下着といい、密着する事に恥じらいでも覚えたのかな。惜しい。ぐぬぬ。雫もその様子に首を傾げる。


「おねーさん、ふーくんと何かあったの?」

「少年が……私に手を出したのだ」


 ばっ!


「違いますよ人聞きが悪い! ちょっと本能が理性に負けてお尻掴んだだけじゃないですか!」

「事実じゃん! しばらく純真に近づくの禁止だからね!」


 雫が詰め寄って来る。


「いや、それは大丈夫だろうしずく。そこの少女の体はいたく貧相なので少年は襲う気など起きないだろうからな」

「その駄肉全部もぎとってやる」

「すまんがこれは分けてやれんのだいたたたこら、取れないと言っている!」


 おいおい勝手な事を言うな。


「起きますよ」

「起きますよじゃないんだよこの変態! けだもの! 出てけ!」



 支度を整えていると、純真が部屋に来た。


「どしたの?」


 答えが返るまで、じっと待つ。


「私も行く」

「え……いいの?」


 えへへ。


「しずくと一緒に回った時は、動物のものが食べられなかったから」


 俺目的じゃなかった。


「……動物の特定の部位だけを、これから食べて回るの?」

「生で丸ごと食べる」


 どこにあるか分からないから、丸ごと食べるって言ってたっけ。でもそんな事出来るほど、


「お金無いよ」

「先日の一件で報奨金をもらった。あなたにも渡すわ」

「……いや、いいよ。悪いし」

「受け取って欲しい」


 ……雫のお金で宿を取り、純真のお金で街へ繰り出す。ヒモだこれ。早くしないと俺の体裁がヤバい。


「……行かないの?」


 まぁ今日は遊ぶか。



「何食べたいの?」

「どらごん」

「無理だと思うよ」

「前のは外れだった……」


 もうお姉さまは食べちゃダメだよ。


「ドラゴンがいいの? カッコいいよね」

「空が飛びたい。機動力が足りないの」


 堅実な理由だった。


「他の、鳥とかじゃダメなの?」


 純真が手のひらから羽を出す。


「こんな軽い羽じゃ、私の体は持ち上がらないから」


 じゃあ普通の鳥類はほぼ全滅かな。


「複数生やしてみるとか、腕や足を羽に代えてみるとか」

「人間の体の部分は変えられないの、そこに生やすだけ。今の私は、人間がベースだから」

「へぇー……」


 “今の私は人間がベース”。彼女の後ろの揺れる尻尾を眺める、尻尾の先には、生々しい桃色の蕾。


「それが本体なんだっけ」

「……いえ、今はほぼ人間。尻尾を切られたとして、再生するのは、尻尾じゃなくて身体の方から」

「どういう経緯で人間になったの?」

「とある少女に剣をもらったの。それからずっと、この体」


 手のひらを掲げて見つめている。剣……擬人化武器? 何それ楽しそう。


「人間の体はいかがです? 可愛いお嬢さん」

「そうね……便利かしら。あなたのような、頭の弱い人に取り入るのには」


 彼女がすっと目を細めた。


「もっと俺に媚びるといいよ、いくらでも優しくしてあげよう」

「馴れ馴れしくしないでくれる? 私は安い女じゃ無いの」


 えへへ。……。


「……どこでそう言うセリフ覚えたの?」

「昨日聞いたの。噴水の所の……吟遊詩人?って人の話に、出てきた」

「あれ、覚えたての言葉を使うなんて、意外と幼い」

「人間の世界は知らない事ばかりだもの。何か、変だった?」

「いやいや可愛かったよ? 精一杯背伸びしてるみたいで」

「……バカにしてるわ」

「否定はしない」


 げし、と脛を蹴られる、振る舞いは可愛いけど的確に急所だね。


「お腹が空いた。何かお腹に入れたい」

「どっちの方で?」


 彼女が振り向き、


「私はどちらでも構わないわ、素敵なお兄さん」

「ぐふっ!」


 要らんこと覚えてきてる……。



「串焼きくださーい、二つでー」

「あいよー、あれ、昨日の嬢ちゃんじゃないか。そっちの少年は彼氏かい?」


 おっちゃんの軽口に純真が黙り込む。


「いえいえー、本命は、昨日一緒に居た、もう一人の女の子の方で」


 屋台のおじさんが顔をしかめる。


「……隣の女の子差し置いて本命宣言とは、感心しねーな兄ちゃん」

「あぁいえ、そうではなくて。昨日のもう一人の少女の本命がこの隣の少女で」

「あぁ、そうなってるんだ。もう一人の白いねーちゃんは?」

「お姉さまの従者が俺ですね。今日は他の二人に抜け駆けしてデートです」

「はぁ……複雑だなぁ……」


 純真がくいくいと引っ張って来る。


「何適当なこと言ってるの」

「なに、気に留めちゃいないよ」


 去って行こうとすると、


「あ、そうだ、気を付けなよ兄ちゃんたち、丁度あんたらみたいなのだろう」

「……何がでしょう?」

「……知らないのか? 今この街で流れてる、“風の街”の噂を」


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