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11.「襲撃者」

 島に襲撃者が現れたらしい。

 報せを受けて、その現場にと駆け付けてみれば。

 襲撃者に、強靭な前足を押し付けるテス、背中を踏みつけ首に剣を向けるヨウ先生、後ろで包丁を構えているカレン。そして、地面に組み伏せられた一人の人間が居て。

 その襲撃者とやらと、目が合った。

 

「……」

「……何してんの? 純真」


 少女は涙目で地面に横たわる。


「知り合いですか?」

「あぁすみません、多分なんか誤解があると思うんで一回離してもらっていいですか?」


 テスが前脚をどけ、ヨウ先生が足をどけ剣をしまい、後ろに下がった。彼女はよろよろと立ち上がる、砂だらけだ。


「で、何しに来たの?」

「……はやてさんは聞かない方がいいですよ」


 と、ヨウ先生が口を挟んだ。え、なんで?


「……純真、君何したの?」

 

 彼女は口を噤んで顔を逸らす。


「答えろ」

「……魔人の遺伝子の……回収……」

「……遺伝子?」


 ……純真は確か、色んな種の種子を集める仕事をしているとか言ってたな。つまり……ここで言う彼女の言う遺伝子の回収とは……、


「……きらりから?」

「金髪の、娘からって……」

「なるほど」


 ヨウ先生から直剣を借りた。


「じゃあ再開しようか」

「ま、待って!」



 この子の面倒は俺が見るからと、三人は退散。彼女は地べたに正座させている。


「人にされて嫌な事はしちゃダメだよね?」

「ごめんなさい……」

「……今回の指令も、上から?」

「えぇ……珍しく“これは救世の任務だからくれぐれもよろしく”って念押しされて……それで……」

「断れなかったの?」

「……うん」


 バカがよ。


「嫌なら嫌って言わないと」

「でも……面倒見てもらってるし……」

「恩を返すために、相手の言いなりになるのは双方にとって良くない事だよ。恩を返すなら君の方法で返しなさい。嫌な事はちゃんと断りなさい」

「……でも」

「……ま、君がそれでいいならいいけど」

「ま、待って! ちゃんと言う、から……」


 彼女は萎れた様子で俯く。


「きらりに、何かした?」

「まだ、何も……島に入った途端、あの人たちに捕まったから」


 優秀な警備員だな。


「ほら、立って。皆の所に謝りに行くよ」

「分かった……」


 手を取り、彼女は素直に従う。

 まったく、島に現れた不穏な影の噂ってお前の事かよ、紛らわしい。


「君が居るって事は、純白のお姉様も来てるの?」

「島までは一緒に来たよ」



「おぉ、しょーねん! 久しぶりだな!」

「お姉さま! お久しぶりです!」


 屋敷に戻ると来客の気配があって、応接間を覗くとそこに居た。彼女はぱたぱたと駆け寄り、その小さな体を抱き上げる。くるくると回る。


「面倒そうだからって純真捨ててここまで逃げてきたよなお前な」

「そんな事より何でここに居るんだ?」

「お姉さまはどうしてここに?」

「それの付き添い」


 最近は、純真と純白は一緒に旅をしているらしい。かつてを想うと、彼女の元気そうな姿が沁みてくる。


「付き添いなら、道を外れたなら止めてくれません?」

「そいつは私の言う事に対しては天邪鬼でな」


 まったく……。


「……はやて、その御方と知り合いか?」


 と、机の対面に座っていたアルトさんが声を掛けてくる。“その御方”? 仰々しい呼び方だな。


「アルトさんこそ、お姉さまとはどういう関係で?」

「いや……今日初めて会ったが……」

「見た目普通の少女に、する待遇ではないように見えますが」


 テーブルには一際豪華そうな品々が並ぶ。万が一貴賓が来た場合の備えとか言ってた奴、つまりお姉さまは貴賓なのだ。


「……それがただの少女ってお前」

「私の溢れ出る気品を感じ取ったのだぞ」


 抱き上げた少女を見下ろす。ふわふわの白い髪が肌をくすぐる。……あぁそうか、竜視持ちは見えるんだっけ。


「俺は仲間、ですね」

「仲間だぞ」

「仲間らしいです」

「……それで? そっちの見慣れない黒髪は?」

「こっちはきらりを襲いに来た下手人です」

「……」

「まぁこっちも仲間です。解決はしたのでお気になさらず」


 白い少女の髪には、結びつけられた編み紐が揺れている。それは、俺や雫、その黒髪の少女が身に着けているのと同じものだ。


「……そうか……妙な気配だがまぁ……お前の仲間というなら、手出しはしないが……」

「それはありがたいですね」

「……なんだ、その……その子たちも、うちで面倒を見た方がいいか? その、部屋が足りないんだが……」


 純真の方を向く。


「お金はある?」

「いっぱい」

「大丈夫らしいです。後で宿屋の方に連れて行きますよ」

「そうか……」

「私は少年と同じ部屋でもいいぞ」

「んー……ちょっと定員オーバーかなぁ……」


 今はあっちに意識を向けたいし。


「……なぁ、一つ聞いていいか?」


 アルトさんがおずおずと聞いてくる。


「……? 俺ですか?」

「あぁ……その、聞いたら失礼かもしれんが……」


 彼はゆっくりと順番に、純白と純真の顔を見る。


「……お前の仲間は女しか居ないのか?」

「他意はないですよ」



「……純真! おねーさんも! いつの間に来てたの!?」

「あぁ、ついさっきな!」

「しずく……! 久しぶり……!」


 雫きらりと合流すると、雫が駆け寄り、わーと彼女らが抱き合う。それを傍から眺めながら、


「きらり、紹介するよ。あっちの黒いドレスの方が純真、髪も肌も真っ白な方が純白。俺らの仲間だね」

「純真……純白……」

「響きは珍しいかもだけど、名前だよ」

「知ってる。しずくから聞いてたから。この人たちが……」


 はしゃぐ三人を見つめていると、心の中が暖かくなる。心なしかきらりも新顔二人には警戒が少ないようだが、あらかじめ雫から聞いていたからだろうか。

あらかた騒ぎ終わった後、彼女らの目がきらりに向いた。


「そいつは誰だ? 新しい仲間か?」

「えっと……きらり、です……」

「そうなの! 一緒に旅に出る事になってね、今みんなで一緒に修業してるの!」

「そうか。よろしくな、きらり」


 純白はきらりに平然と接っする。後ろめたい事がある方は、もじもじと気まずげだ。


「あぁ、こっちのは気にするな。こいつは孤高がカッコいいと思ってる残念な奴なんだ」

「……いつまで経っても柔らかい態度という物が覚えられない人は言う事が違うわね」

「私の溢れ出る品位がそうさせてしまうから仕方が無いな。まぁ態度の代わりに体の色んな所が柔らかい分釣り合いは取れてるからいいだろう」

「釣り合い? 傾いているじゃない、悪い方に。私はちゃんと自覚できているからいいの、自分が人と接する事が苦手だって。あなたと違って」

「私のこの緩さは人を惹きつける為にあるのだ、貴様には無いがな。そして私の尊大な態度は接し方の一つであって欠点ではない。長所もあれば短所もある。自覚できているなどと宣っておいて欠点をいつまでも改善できない無能とは違うのだ」

「随分萎んでしまったけれどね」

「萎んでない縮んだけだ、そもそも今の時点でお前より大きいが」

「そんな訳無いでしょ? 張る胸が無くなったから代わりに見栄を張ってるの?」

「ぶっ殺してやる」

「純真さんー? 先にきらりに言う事無いー? 」


 がきっと、純真の動きが止まる。


「言う事?」


 純真は、とても居心地が悪そうにきらりに向いた。


「私は……その……あなたを、襲いに来たの」

「へぇ」


 雫ちゃんの眼光が鋭く光る。とてもこわい。


「あっ、ちっ違くて! もう襲う気は無い……のだけど……その……ごめんなさい」

「う、うん。いいよ」


 きらりは軽く答える。きらりは何も知らない間に終わったしな。詳細は知らせなくてもいいと思います。僕もそう思います。


「私から、こんな事を言うのは調子が良いかもしれないけれど……仲良くしてくれると、嬉しい」

「うん。オレも、純真さんと話してみたかった」

「……本当? 嬉しい。私の事は、純真でいいから」

「じゃあオレもきらりでいいぜ」


 仲直りの握手。こいつ初対面の人間にはとりあえず殴りかかってんのかな。


「きらりが目的で来たって言ったけど、用事が無くなったら、すぐに帰るの?」


 純真が俺の方に振り返る。


「ううん、しばらくは気まずいからバックレる」


 お前そう言うとこやぞ。


「ねぇ純真。きらりんを襲いに来た話についてゆっくり聞きたいんだけど」

「それじゃあ私らはその辺で遊んでくるな!」

「お姉さまも見て見ぬふりをしてたよ」

「おねーさんも残ってね」

「じゃあ俺ときらりはその辺で遊んでくるね! ゆっくり旧交を温めておいで!」


 退散!

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